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知識は得られるが、"ア本"(アキレタ本)指定されても仕方がない面も。
『男が学ぶ「女脳」の医学 (ちくま新書)』〔'03年〕
斎藤美奈子氏によれば、「ちくま新書」は"ア本"(アキレタ本)の宝庫だそうで、特にそれは男女問題を扱ったものに多く見られるとのこと(大学教授で、準強制わいせつ罪で逮捕された岩月謙司氏の『女は男のどこを見ているか』('02年)などもそう)。もちろん分野ごとに良書も多くあって結構よく手にするのですが、本書は『誤読日記』('05年/朝日新聞社)の中でしっかり"ア本指定"されていました。
本書は、扁桃体などの役割やドーパミンなど主要脳内物資の名前と機能を知るうえでは、わかりやすい良い本であるかのようにも思えました(多くの読者はそうした目的では読まないのかもしれませんが)。
しかし読んでいるうちにだんだん不快になるとともに、釈然としない部分が多くなります。振り返ると、著者による脳内物資の働きと日常の行動との関係の説明などには、かなりの恣意的な部分や拡大解釈が見受けられます。タイトルに「医学」とありながら、さほどの根拠も示さず「これは医学的にも証明されている」で片づけていたりするような傾向が見られ、似非科学、トンデモ本の世界に踏み込んでしまっているかも知れません。
作家でもありながら(作家でもあるからか?)、人間の性格や行動に対する乱暴な二分法を展開している点も問題があるように感じます。「脳科学」と言うより、著者なりの「女性論」とみるべきでしょうか。「科学」と呼ぶにはあまりに「オーバー・ゼネラリゼーション(過度の一般化)」がなされているように思います。その決めつけぶりに加え、文章にあまり品位が無いこともあり、読んでいて自分と同じようにだんだん不快になってくる人もいるのではとも思われるのですが、すべての人がそう感じるとも限らないものなのかも。結構売れたところを見ると、飲み会の話のネタのレベルで一部には受けるのかもしれません。