【372】 ○ 新井 康允 『ここまでわかった!女の脳・男の脳―性差をめぐる最新報告』 (1994/02 講談社ブルーバックス) ★★★☆

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あくまで一般科学書。フェニミズム論争で引き合いにされるのは不幸。

ここまでわかった!女の脳・男の脳_1.jpgここまでわかった!女の脳・男の脳.jpg 『ここまでわかった!女の脳・男の脳―性差をめぐる最新報告 (ブルーバックス)』〔94年〕

 本書は、男性の脳と女性の脳が医学的に異なることを、アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)の作用から考察したものです。著者はこの分野の研究では日本における先駆とも言える人です。 

 ネズミなどの動物実験においても空間認知能力では性差があった(雄ネズミの方が雌より空間認知能力が高い。ただし、アンドロゲンを注入された雌ネズミは、雄に近い方向感覚を持つようになる)という報告や、妊娠中のアカゲザルにアンドロゲンを注射すると、生まれてきたメスザルの遊びの行動パターンがオス型になったとの報告は興味深いものでした。 

 男性の空間認知力は狩猟時代における方向感覚の必要性からきたのではなどの考察から、男らしさ、女らしさや性役割ができあがっていくのにも、生物学的なものが何かかかわっていないのだろうかと問いかけています。

話を聞かない男、地図が読めない女.jpg フェニミズムやジェンダー論争の中で、「ジェンダーフリー教育」などを男女の生得的資質の違いを無視したものだとする保守派論客(例えば林道義・日本ユング研究会会長)らのフェニミズム批判において、本書と『話を聞かない男、地図が読めない女-男脳・女脳が「謎」を解く』('00年/主婦の友社)がよく引き合いに出されます。 

 しかし、『話を聞かない...』は脳科学の専門家の手によるものではなく、フェニミズム批判の意図を込めて書かれた一種の啓蒙書であり、一方本書は、専門家による一般科学書で、ジェンダーについての考察をしているだけで、フェニミズムを直接批判しているわけではありません。
 一緒にフェニミズム批判本として引き合いにされるのは、本書にとっての不幸というか、いい迷惑ではないかと思うのですが。

《読書MEMO》
●男性の空間認知力...狩猟時代における方向感覚の必要性(14p)、ネズミにも同様の性差(ただし、アンドロゲン(男性ホルモン)を注入された雌ネズミは、雄に近い方向感覚を持つようになる(23p)(生後1週間以内での話(59p))
●一卵性双生児の性的志向は似る(同性愛では67%)(104p)
●扁桃体の働きは、前頭連合野に影響する(知性の表現にも男女差)(121p)
●アンドロゲン(男性ホルモン)過剰は、左半球の発達を遅らせ、相対的に右半球が発達することがある

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