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着眼点そのものはユニークだが、根拠は今ひとつ不明確。
『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)』 〔'92年〕 『絵ときゾウの時間とネズミの時間 (たくさんのふしぎ傑作集)』 〔'94年〕
第76刷新カバー['17年]
1993(平成5)年・第9回「講談社出版文化賞」(科学出版賞)受賞作。
生き物のサイズと時間について考えたことがある人は案外多いのではないでしょうか。本書によれば、哺乳類はどんな動物でも、一生の間に打つ心臓の鼓動は約20億回、一生の間にする呼吸は約5億回ということだそうです。
ネズミはゾウよりもずっと短命ですがこういう結果になるのは、拍動や呼吸のピッチが全然違うためだということ。こうした時間を計り、体重との関係を考えてみると、動物は体重が重くなるにつれ、その時間はだいたいその4分の1乗に比例して長くなるとのこと。
スッキリした「答え」の示し方が、本書がベストセラーになった要因の1つではないでしょうか。科学的好奇心を満たすだけでなく、同じ1秒でもネズミの1秒とゾウの1秒ではその意味が違うのだという感慨のようなものがあります。数式など用いて部分においては専門的なことに触れながらも、全体を通してこなれた文章で読者の関心を掴んで離さず、中高生向けの科学推薦図書として挙げられることが多いばかりでなく、しばしば国語の入試問題などの出典元にもなったようです。
ただし、その後に繰り広げられる著者の論説は、エネルギー消費量は体重の4分の1乗に反比例するというといった点まではわかるものの、「大きいということは、それだけ環境に左右されにくく、自立性を保っていられるという利点がある。この安定性があだとなり、新しいものを生み出しにくい。ひとたび克服出来ないような大きな環境の変化に出会うと、新しい変異種を生み出すことも出来ずに絶滅してしまう」といった動物進化に対する考え方は、1つの仮説に過ぎないという気もします。いったんそうした目で本書を見ると、本書はすべてが著者の仮説・推論で構成されているような気がしてくるのです。着眼点そのものはユニークなのですが、根拠は今ひとつ明確に示されていないのではないかと...。
それと少し気になるのは、最近著者は一生の間に打つ心臓の鼓動を「20億回」から「15億回」と修正していることです。そうすると、人間の寿命は長すぎるということに...(計算上は26.3年に)。そこで最近は、「縄文人の寿命は31歳ぐらいだった」とし、「生物学的寿命とは別の"おまけの人生"を我々は送っているのだ」ということを言っているけれども、なんだか人生論みたいになっていきます。