【362】 ○ 立花 隆 『サル学の現在 (1991/08 平凡社) ★★★★

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興味深い話が満載。「子殺し」の話はショックであり謎である。

立花 隆 『サル学の現在』.jpgサル学の現在.jpg サル学の現在 上.jpg サル学の現在下.jpg  立花 隆 2.jpg 立花 隆 氏
サル学の現在』 単行本 〔'91年〕/文春文庫 (上・下)

 ジャーナリストである著者が、内外のサルに関する研究者に対するインタービューをまとめたもの。「サル学」に関心を持っている人がどれだけいるかという気もしましたが、著者のネームバリューもあってか、結構売れたようです。

 現在の日本の「サル学」研究は、世界のトップクラスであるとのこと。「現在」といっても'91年の出版で、内容は多少古くなってるかもしれませんが、扱っているサルの種類が広汎で(チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなど類人猿から、ニホンザル、ヒヒ、ハヌマンラングール、その他)、視点も、社会学的考察から、遺伝子工学による分子生物学的分類まで幅広いものです。

 しかも、ニホンザルにボスザルはいないとか(動物園で見られるサル山は人工的に作られた社会とのこと)、ゴリラには同性愛があるとか、ピグミーチンパンジーは挨拶代わりに性行為をするとか、読者の興味を引く話が満載です。

ハヌマンラングール.jpg 結果として、体系的な知識が得られるという本にはなっていない気もしますが、サル学者になるわけではないから、まあいいか。

 むしろこれだけブ厚い本を楽しく最後まで読ませ、振り返って人間とは何かを否応無く考えさせる力量は、やはり著者ならでのものでしょう。

「子殺し」をするハヌマンラングール

 一番印象に残った話は、やはりサルの「子殺し」でしょうか。

 ハヌマンラングール(南アジア に棲息する中型のオナガザルの1種)の新しく群れのリーダーになったオスが、前のボスの子である生まれたばかりの赤ちゃんザルを殺すということを発見したのは日本人です。

 '62年、京大の大学院生だった杉山幸丸氏(現・京都大名誉教授)が、インド・デカン高原西部のダルワール近郊で、ハヌマンラングールの群れを追っていた際に、ドンタロウと名づけたオスが率いる「ドンカラ群」を7匹のオスグループが襲い、ドンタロウは群れを追われ、襲撃派のなかのエルノスケが群れを乗っ取るという"事件"が起こります。

 しかし、杉山氏にとって本当に衝撃的な"事件"は、その後2ヵ月の間に起こり、それは、エルノスケがその間に、大人のメスが連れていた赤ちゃんザル5匹と1歳の子どものメス1匹を次々に殺しく光景に出くわしたというもので、杉山氏ら京都大の霊長類研究グループは、ニホンザル研究で培った個体識別と長期観察の手法で「子殺し」の詳細を明らかにしていった結果、「群れの中でメスと交尾できるのは大人のオスだけで、外のオスが群れを乗っ取り、交尾を望んでも、子育て中のメスは発情しないため、子どもをいなくして発情させようとした」のだという結論に達します。

 別の群れで大人のオスを除去したら、近くの群れからきたオスが子殺しをしたことが観察され、研究グループは、これは特殊な出来事ではないとの確信を深めますが、国際シンポジウムでこの「子殺し」を発表した際の世界中の学者たちの反応は冷たく、単なる「異常行動」とされて議論にもならなかったそうです。

 しかし、その後、ゴリラやチンパンジーなどの霊長類のほか、ライオンでも子殺しが見つかり、70年代になると、欧米の研究者らもハヌマンラングールの子殺しを相次いで報告し、杉山氏らの研究は追認され、世界に受け入れられていきます(日本はサル学先進国なのだ!)。

 子育て中のメスザルは発情しないが、子が死ねばまた発情する―というのがポイントだと思いますが、こうした子殺しが、チンパンジーやゴリラでも行われていて、しかも彼らは、殺した子ザルの肉を食うというのにはビックリ。

 ゴリラの場合はハーレムを形成するけれど、チンパンジーは乱交なので、自分の子を食べている可能性もあるわけです。しかも生きたままで...。
 何だか、ショックと謎がいっぺんに来たような感じがしました。

 【1996年文庫化[中公文庫(上・下)]】

  



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