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「●化学」の インデックッスへ ○日本人ノーベル賞受賞者(サイエンス系)の著書(田中 耕一)
タイトルだけ見ると運良く成功したみたいだが、やはり違った。中村修二氏と比べると...。
『生涯最高の失敗 (朝日選書)』〔'03年〕 田中耕一氏[写真:共同通信]
'02年10月に、先ず東大名誉教授・小柴昌俊氏のノーベル物理学賞受賞の報道があり、その翌日に島津製作所の田中耕一氏の化学賞受賞が伝えられましたが、一般社会に与えたニュースとしての影響の大きさは、圧倒的に田中氏受賞の方が上だったのではないでしょうか。
本書は、その科学者・田中氏の半自叙伝風の文章に、本人による研究内容の解説(化学専攻の人には面白く読めるかもしれないが、一般向けとしてはかなり難しい)を加えたもので、タイトルだけ見ると運良く成功したみたいですが、読んでみるとやはり違った―。元来の気質的なものもあるのでしょうけれども、並ではない粘り強さを感じました。
田中氏の個人史的な話もあり、淡々と綴られたものながら、それだけに氏らしさが感じられて面白く読めました。
それほど詳しくは述べられていないけれども、自分が養子だと知ったときは、ショックだったんだろうなあと。
この本のどこにもその名は出てこないのですが、青色発光ダイオードの開発者・中村修二氏と比較したくなりました(この人もノーベル賞の有力候補→2014年にノーベル物理学賞受賞)。
勝手に注目した「共通点は」―、
◆共に技術者であり、博士号は持っていなかった点(田中氏は大学卒業後、院に行かず就職しているので修士号さえ持っていない)、
◆自分が開発した商品の営業を自分もやった点(田中氏のノーベル賞ものの機械は、国内では1台しか売れなかった)、
◆ユニークな技術に加えて「海外論文」と「特許登録」が成功または評価の決め手となった点、などです。
一方「相違点」は―、
◆海外志向であるか、特にそうしたこだわりはないかということ(アメリカで活躍する中村氏は、日本は"社会主義"だと言っている)、
◆自分がいる(いた)会社に対する思いや会社との関係(田中氏は島津製作所のフェロー待遇となりましたが、中村氏は日亜化学と発明報酬をめぐる裁判を繰り広げる関係になってしまいました)、といったところでしょうか。