【322】 △ 信田 さよ子/イラ姫 『マンガ 子ども虐待出口あり (2001/12 講談社) ★★☆

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個々の指摘は重いが、虐待をイデオロギー問題化するのはどうか。

マンガ%20子ども虐待出口あり.jpg 『マンガ 子ども虐待出口あり』 (2001/12 講談社)

 臨床心理士でAC(アダルトチルドレン)研究で知られる著者と、著者にクライエンとして接し、自らACと自覚したイラストレーター「イラ姫」の対談で(マンガではない)、幼児期に虐待を受け社会的不調和に悩む人や、今現在育児に悩む人の立場で書かれています。
 この手の本に従来なかったストレート・トークで、内容も「イラ姫」によるイラストもユーモアいっぱい(?)。
 一方で、1週間で20ケースぐらい死んでいる(表面化せず突然死で処理されている)(29p)との著者の指摘は重く、「虐待」は親が、支配欲を満足させるなど、自分のためにやっている(だから英語でチャイルド・アビューズ(乱用)という)(32p)という話には頷かされます。ただし―。

 ACとは元々米国で、Adult Children of Alcoholics (アル中の親に育てられた大人)という意味だったのが、Adult Children Of Dysfunctional family (「機能不全家族」の下で育った大人)となり、それが日本のメンタルケア現場では、著者の『アダルト・チルドレン完全理解』('96年/三五館)などの著作により、幼少時代から親から正当な愛情を受けられず、身体的・精神的虐待を受け続けて成人し、社会生活に対する違和感や子ども時代の心的ダメージに悩み、苦しみを持つ人々全般とされるようになりました。
 しかしこれは、日本だけの「拡大解釈」です。

 本書では「機能不全家族」という言葉に対して、「まるで機能十全家族があるような錯覚を与える」と批判していますが、これはある意味、著者の「拡大解釈」の補強にもなっています。
 つまり信田理論だと、カウンセリングなどの支援が必要だと本人が自覚すれば、その多くはACになってしまう...。
 そのことを受容することで悩みから脱するという効果を実践現場で痛感し、その代表選手として「イラ姫」が対談相手としている、ということなのかも知れませんが。

 著者の師匠である精神科医の斎藤学(さとる)氏の著作には、『家族依存症-仕事中毒から過食まで』('89年/誠信書房、'99年/新潮文庫)など、現代の家族関係についての多くの示唆に富むものがあります。
 しかし本書では、著者が子どもへの虐待を、「資本家-労働者」「男-女」と並ぶ「親-子」の支配構造の結果と捉えていることでフェニミズム色が濃くなっていて、また、子どもへの虐待を今ことさらイデオロギー問題化する必要がどこにあるのかという気もしました。

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