【317】 ○ 後藤 昌次郎 『冤罪 (1979/04 岩波新書) ★★★★

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冤罪事件が起きる原因を検証。ヒッチコック映画か小説のような話も。

後藤昌次郎著『冤罪』 .jpg  『冤罪 (1979年)』 岩波新書  誤まった裁判  ―八つの刑事事件―.gif 上田誠吉/後藤昌次郎 『誤まった裁判―八つの刑事事件 (1960年) (岩波新書)

 本書では、清水事件、青梅事件、弘前事件という3つの冤罪事件をとりあげ、冤罪事件がどのようにして起きるかを検証しています。

 何れも昭和20年代に起きた古い事件ですが、〈青梅(列車妨害)事件〉は自然事故が政治犯罪に仕立て上げられた事件として、また〈弘前(大学教授夫人殺人)事件〉は、後で真犯人が名乗り出た事件として有名で、真犯人が名乗り出る経緯などはちょっとドラマチックでした。

「間違えられた男」.jpg この2事件に比べると、冒頭に取り上げられている〈清水(郵便局)事件〉というのは、郵便局員が書留から小切手を抜き取った容疑で起訴されたという、あまり知られていない "小粒の"事件ですが、ある局員が犯人であると誤認される発端が、たった1人の人間のカン違い証言にあり、まるでヒッチコックの 「間違えられた男」のような話。

 結局、被告人自身が「警察も検察も裁判所も頼りにせず」、弁護士と協力して真犯人を突き止めるのですが、まるで推理小説のような話ですけれど、実際にあったことなのです。
 この事件で、真犯人の方が冤罪だった局員の当初の刑より量刑が軽かったというのも、考えさせられます。
 冤罪を訴え続けた人は、改悛の情が無いと見られ、刑がより重くなったということでしょう。

 著者の前著(上田誠吉氏との共著)『誤まった裁判-八つの刑事事件』('60年/岩波新書)が1冊で三鷹事件、松川事件、八海事件など8つの冤罪事件を扱っていたのに対し、本書は事件そのものは3つに絞って、事件ごとの公判記録などを丹念に追っていて、それだけに、偏見捜査、証拠の捏造、官憲の証拠隠滅と偽証、裁判官の予断と偏見などの要因が複合されて冤罪事件の原因となるということがよくわかります。

 事件が風化しつつあり、関係者の多くが亡くなっているとは言え、前著ともども絶版になってるのが残念。

後藤 昌次郎.jpg 後藤 昌次郎

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後藤 昌次郎(ごとう・しょうじろう=弁護士)2011年2月10日、慢性心不全・腎不全で死去、87歳。

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