【316】 ○ 大澤 真幸 『文明の内なる衝突―テロ後の世界を考える』 (2002/06 NHKブックス) ★★★★ (△ ローランド・エメリッヒ 「インデペンデンス・デイ」 (96年/米) (1996/12 20世紀フォックス) ★★☆)

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イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の共通項を指摘。

文明の内なる衝突.bmp                      サミュエル・ハンチントン 文明の衝突.jpg
文明の内なる衝突―テロ後の世界を考える (NHKブックス)』['02年] /サミュエル・ハンチントン『文明の衝突

9-11_Statue_of_Liberty_and_WTC_fire.jpg 社会学者である著者が、「イスラーム原理主義者」による9・11テロ後に、テロを前にしたときの社会哲学の無力を悟り、またこれが社会哲学の試金石となるであろうという思いで書き下ろした本で、テロとそれに対するアメリカの反攻に内在する思想的な問題を、「文明の衝突」というサミュエル・ハンチントンの概念を援用して読み説くとともに(ハンチントンは冷戦時代にこの概念を提唱したのだが)、テロがもたらした社会環境の閉塞状況に対しての「解決」の道(可能性)を著者なりに考察したもの。
September 11, 2001 attacks

 イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の対立を、その背後にある共通項で捉えているのが大きな特徴ですが、9・11テロ後のアメリカのナショナリズムの高揚を見ると、それほど突飛な着眼点とは思えず、むしろ受け入れられやすいのでは。世界貿易センタービルで亡くなった消防士でも国家のために「殉死」した英雄ということになっているけれど、彼らはまさか直後にビルごと倒壊するとは思ってなくて救出活動に向かったわけです。

 '04年に亡くなったスーザン・ソンタグの、「アメリカ人は臆病である。テロリストは身体ごとビルにぶつかっていったのに、アメリカ軍は遠くからミサイルを撃つだけだ」というコメントが多くのアメリカ人の怒りを買った背景に、アメリカ人のテロリストに対する憧憬とコンプレックスがあるというのはなかなか穿った見方のように思えました。

 映画「インデペンデンス・デイ」が引き合いに出されていますが、「アルマゲドン」などもそうかもしれません(それぞれ'96年と'98年の作品で、共に9・11テロ以前に作られたものだが)。「インデペンデンス・デイ」「アルマゲドン」共に優れたSF映画に与えられる「サターンSF賞」を受賞していますが、SFXにはお金がかかっていっという感じでした。

インデペンデンス・デイ1.jpg 「インデペンデンス・デイ」('96年/米)は、本国では独立記念日の週に公開されたそうですが、昔の(ベトナム戦争時の)飛行機乗りが最新鋭のジェット戦闘機を操縦できるものかなあと疑念を抱かざるを得ず、大統領(湾岸戦争の戦闘パイロットだったという設定)が飛行編隊の先頭を切って巨大UFOに戦いを臨むと言う絶対にあり得ない設定でした(9・11の時は、ブッシュ大統領は緊急避難して、暫く居所を明らかにしていなかったではないか)。

アルマゲドン1.jpg 一方、「アルマゲドン」('98年/米)で石油掘削員が立向かう相手は巨大UFOではなく巨大隕石(小惑星)ですが、新型スペースシャトルの名前が「インディペンデンス号 」と「フリーダム号」で、この映画も独立記念日の週に公開されています(個人的には、ブルース・ウィリス演じる"部下想いのリーダー"が、出立する前に政府にいろいろ要求を突きつけるシーンが、やたら臭いこともあって好きになれなかった。実際、ブルース・ウィリスはこの作品で、「ゴールデンラズベリー賞」の"最低男優賞"と「スティンカーズ最悪映画賞」の"最悪の主演男優賞"をダブル受賞している)。

 2作とも独立記念日の週に公開されている点に、やはり何らかの意図を感じざるを得ないなあと。

1dollar_C.jpg 著者は、イスラームやキリスト教の中にある資本主義原理を指摘する一方、「資本主義は徹底的に宗教的な現象である」と見ており、そう捉えると、確かにいろいろなものが見えてくるという気がしました(確かに1ドル札の裏にピラミッドの絵がある なあ、と改めてビックリ)。
 
 "赦し"を前提とした「無償の贈与」という著者の「解決」案は甘っちょろいととられるかも知れませんが、レヴィ=ストロースの贈与論などに準拠しての考察であり、最後にある「羞恥」というものついての考察も(著者はこれを「無償の贈与」の前提条件として定位しようとしているようだが)、イランの映画監督マフマルバフの、「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない。恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」という言葉の意味がこのことでわかり、個人的には興味深いものでした。

「インデペンデンス・デイ」2.jpgインデペンデンス・デイ.jpg「インデペンデンス・デイ」●原題:INDEPENDENCE DAY●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●脚本:ディーン・デヴリン/ローランド・エメリッヒ●撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ●音楽:デヴィッド・アーノルド●時間:145分●出演者:ジェフ・ゴールドブラム/ビル・プルマン/ウィル・スミス/ランディ・クエイド/メアリー・マクドネル/ジャド・ハーシュ/ロバート・ロジア●日本公開:1996/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(96-12-27)(評価:★★☆)

アルマゲドン09.jpgアルマゲドン.jpg「アルマゲドン」●原題:ARMAGEDDON●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・ベイ●製作:ジェリー・ブラッカイマー/ゲイル・アン・ハード/マイケル・ベイ●脚本:ジョナサン・ヘンズリー/J・J・エイブラムス●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:トレヴァー・ラビン●時間:150分●出演:ブルース・ウィリス/ベン・アフレック/リヴ・タイラー/ビリー・ボブ・ソーントン/ウィル・パットン/ピーター・ストーメア●日本公開:1998/12●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★)


【2011年文庫化[河出文庫]】

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