【294】 ◎ 大塚 久雄 『社会科学における人間 (1977/06 岩波新書) ★★★★☆

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ロビンソン人間論を軸としたマルクス、ヴェーバー論。噛んで含めたようなわかりやすさ。

社会科学における人間.jpg       

      大塚久雄(1907-1996).jpg 大塚久雄(1907-1996/享年89)
社会科学における人間』 岩波新書 〔'77年〕

 資本主義の歴史研究を通して「近代」の問題を独自に考察した社会学者・大塚久雄(1907‐1996)は、マルクス経済学とヴェーバー社会学から独自の人間類型論を展開したことでも知られていますが、本書は'76(昭和51)年に放映されたNHK教育テレビでの25回にわたる連続講演を纏めたもので、人間類型論を軸としたマルクス、ヴェーバー論という感じの内容です。

ロビンソン漂流記.jpg 本書でまず取り上げられているのは『ロビンソン漂流記』のロビンソン・クルーソウで、著者は、初期経済学の理論形成の前提となった人間類型、つまり経済合理性に基づいて考え行動する「経済人」としてロビンソンを捉えており、マルクスの『資本論』の中の「ロビンソン物語」についての言及などから、マルクスもまた「ロビンソン的人間類型」を(資本主義経済の範囲内での)人間論的認識モデルとしていたと。そして、ヴェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中で前提としているのも「ロビンソン的人間」であるとしています。
『ロビンソン漂流記』 講談社青い鳥文庫

 プロテスタンティズムのエートス(世俗内禁欲)が「資本主義の精神」として伝えられ、資本主義の発展を支えたというヴェーバーの説がわかりやすく解説されていて、この「隣人愛」が"結果として"利潤を生じるという目的・価値合理性が最もフィットしたのは主に中産的生産者(ドイツよりむしろ英国の)だったとしており、資本家においては両者の乖離が既に始まっていたと―この点は今日的な問題だと思いました。

 著者の考えは必ずしも全面的に世に受け入れられているわけでは無いのですが(ロビンソンを植民地主義者の原型と見なす人も多い)、自分としては、大学の一般教養で英文学の授業を受けた際に、最初の取り上げた『ロビンソン漂流記』の解題が本書とほぼ同じものだった記憶があり、「ロビンソン的人間類型」論に何となく親しみもあったりもします。

 '70年代の著作でありながらすでに「南北問題」などへの言及もあり、大学ではほとんど講義ノートを見ないで講義していたとか言う逸話もある人物ですが、本人曰く「教室で一番アタマ悪そうな学生に向けていつも話をした」そうで、本書も、マルクスの「疎外論」やヴェーバーの「世界宗教の経済倫理」などの難解な理論にも触れていますが、その噛んで含めたようなわかりやすさが有り難いです。

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