【293】 ○ 岩田 規久男 『日本経済を学ぶ (2005/01 ちくま新書) ★★★★

「●経済一般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【934】 大竹 文雄 『経済学的思考のセンス
「●ちくま新書」の インデックッスへ

平易かつ理路整然とした内容。「インフレ目標政策」入門としても好著。

日本経済を学ぶ.jpg  『日本経済を学ぶ (ちくま新書)』 〔'05年〕

2569619896.jpg 「インフレ・ターゲット論」の代表的論客である著者による日本経済の入門書。

 まず第1・2章でなぜ高度経済成長が実現し、バブル景気や「失われた10年」の本質は何であったのかをわかりやすく説明、さらに第3・4章で日本的経営と企業統治を扱い、第5・6章で産業政策や構造改革を、最終章で日本経済の課題と長期経済停滞から脱却するための経済政策(インフレ目標政策=1〜3%の物価上昇率を目標にし、景気回復およびマクロ経済の安定を図る策)を提言しています。

 全体を通して、著者自身が「大学での講義スタイルを取り入れた」言わば「大学外での公開講義」と言っているとおり、数式などを用いず、小泉構造改革や郵政民営化、年金改革など具体的な問題をとり上げ、平易かつ理路整然とした内容の「入門書」だと思いました。

 本書は同時に、それに賛同するかどうかは別として、「インフレ・ターゲット論」を理解するための本でもあるかと思います(個人的には著者の論には説得力を感じていますが、"高インフレを招く危険な考え"とするエコノミストも一部にあります)。

 見方によっては、全体がその論のために構成されているともとれ、競争原理の意義や景気に及ぼすファンダメンタルズ以外の心理的要因の大きさ、(政府による産業政策や構造改革より)日銀がデフレ予想を払拭する金融政策に転換することの必要を説くことで、「インフレ目標政策」の背景にある基本的考えを示すとともに、「量的緩和政策」との関係などを解説しいている点に、「インフレ・ターゲット論」を正しく理解してほしいという著者の意図が感じられます。

岩田規久男氏
岩田規久男氏.jpg(●2018年追記:著者は2013年に日銀副総裁に就任。この日銀副総裁人事案は事前に野党が反対したが、参院本会議で自由民主党、公明党、みんなの党など各党の賛成多数で可決した。しかし、日本におけるインフレターゲットは、結局、企業が内部留保に回って賃上げ率が抑制され、うまくいかなかったように思う。リフレ派の経済学者たちは著者を英雄視したが、麻生太郎財務大臣は著者が副総裁就任前に物価安定目標2%について「2年で達成できる」と述べたことについて「20年続いた一般人の気持ち(デフレ麻生太郎財務大臣.jpg期待)がいきなりインフレに変わるのは、そんなに簡単にはいかない」という認識を示した上で「私自身は『やっぱり学者というのはこんなものか、実体経済がわかっていない人はこういう発言をするんだな』と正直思った」と述べている。2018年に5年間の任期を終えて日銀副総裁を退任したが、その直後に、ニッポン放送のラジオ番組に出演し、「インフレ率2%の達成には財政政策との協調が不可欠だ」と述べ、暗に政府の財政政策を批判した。だったら初めからそう言うべきだった。後で言うのは責任転嫁である(当事者であるのに評論家みたいな口をきく麻生氏も同じく無責任なのだが)。本書と前著『経済学を学ぶ』の評価を★★★★としたが(両著ともきっちり再読はしていないので、評価はそのままにしておくが)やや買いかぶりすぎだったと、今は思う。)

《読書MEMO》
●(04年現在)小泉首相は「構造改革なくして、成長なし」といっていますが、それは本当でしょうか。(213p)/小泉内閣が口で言うほどの構造改革を進めなかったことが、大不況を免れた大きな要因です。(中略)小泉内閣の看板通りに、本格的に不良債権処理や財政構造改革などの構造改革を進めたならば、大不況を招き、物価下落率と失業率が一割を超すような事態になった可能性があります。(230-231p)

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年8月26日 19:59.

【292】 △ 田中 秀臣 『経済論戦の読み方』 (2004/12 講談社現代新書) ★★★ was the previous entry in this blog.

【294】 ◎ 大塚 久雄 『社会科学における人間』 (1977/06 岩波新書) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1