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エコノミスト批判の本と割り切って読めば、示唆に富むものだった。
『判断力 (岩波新書 新赤版 (887))』 〔'04年〕 奥村 宏 氏(経済評論家)
著者は、新聞記者としてスタートし、その後証券会社に転じ、研究員としての長年の勤務を経て大学教授になり、退官後は経済評論家として活躍している人。
本書で、情報に振り回されて判断を誤るのはなぜかを考察し、また理論のための学問でない「実学」の大切さを説いているのも、こうした経歴によるところが大きいのでしょう。
経済にまつわる様々な「陰謀説」についての著者の分析は、大いに参考になりました。
外国に判断を任せる政治家や、責任感欠如で判断しない経営者、外国理論を輸入するだけの経済学者を批判していますが、その矛先は企業の従業員やジャーナリスムにも向けられていて、組織に判断を任せる「会社人間」を生んだ構造の背景にあったのは、「法人資本主義」つまり会社本位の経済成長第一主義であるとし、新聞社も組織の肥大化で同じ罠に陥っており、新聞記者は全て独立してフリーになった方がいい記事が書けるのではとまで言っています。
最も辛辣な批判はエコノミストに向けてのもので、議論が盛んなインフレターゲット論と財政投資有効論の対立も、政府や日銀の政策をめぐっての議論であり、日本経済の構造分析の上に立った主張ではない「御用学者」たちの間でのやりとりでしかなく、「経済論戦」などもてはやすのはおかしいと、手厳しいです。
主張には骨があるように思えましたが、テーマである「判断力」ということについて、方法論的には「新聞の切り抜き」みたいなレベルで終っているのが残念でした。
ただし、エコノミスト批判の本と割り切って読めば、多分に示唆に富む内容のものでした。