【287】 ○ 佐和 隆光 『平成不況の政治経済学―成熟化社会への条件』 (1994/01 中公新書) ★★★☆

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政治経済を軸に平成不況を多角的分析。ただし将来予測は外れている部分が多い。

平成不況の政治経済学―成熟化社会への条件 佐和隆光.png平成不況の政治経済学―成熟化社会への条件』 中公新書 〔'94年〕 佐和隆光.jpg 佐和隆光 氏

 本書は、'93(平成5)年末、つまりバブル崩壊後3年目で、ちょうど細川政権が誕生した頃に書かれたものですが、「政治経済」という視点を軸に平成不況を分析し、以後の経済政策のあり方を提示していています。
 また一方で、著者の多角的な観点のおかげで、経済というものをより幅広い視野で捉える眼を養ううえでの参考書としても読めます。
 ただしこの本を"参考書"として読む場合は、経済学には派閥があり、保守派とリベラル派に分けるならば、著者は「リベラル派」であることを踏まえておくことが必要でしょう。

 著者は平成不況の一因に日本が'90年代に成熟化社会に入ったことを挙げ、この閉塞状況の処方箋を書くには、従来の経済学の枠組みではなく、保守とリベラルという概念で状況を読み解く必要があるとしています。
 そしてリベラルな立場から"保守派"エコノミストの描く"ケインズ主義"的な財政金融政策に警鐘を鳴らし(著者の「保守/リベラル」観には「人間性」的なものがかなり入っているように思える)、生活の質を重視した社会の仕組づくりを提唱しています。

 到達地点の趣旨自体は賛同できますが、市場主義の流れは止まらないだろうし、インフレもその後10年以上生じておらず、むしろ超デフレが続きました。
 それに、著者が描いた政治構造の将来予測、つまり保守主義とリベラリズムの対立構造というものが、まず政党のパワーバランス予測が外れ、さらに政策区分さえかなり曖昧になってしまいました。

 政治と経済政策の関係を〈保守とリベラル〉という観点で読み解く参考書としては良書だと思いますが、経済予測だけでも難しいのに、それに政治が絡むと将来予測はさらに難しくなることを痛感させられる本でもありました。

《読書MEMO》
● 保守主義とは何か
「いまここに、一人の貧者がいたとする。もしもあなたが保守主義者ならば、次のようにいわれるであろう。彼または彼女が貧しくなったのは自助努力が足りなかったからである。もし政府が福祉政策によって彼または彼女を救済したりすれば、彼または彼女にとってはありがたいことかもしれないが、図らずも他の人々の自助努力をも阻害することになり、一国経済の生産性を低下させかねない。したがって過度の福祉政策は慎むべきである、と。」(13-14p)

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