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自分にあまり縁がなさそうな本の批評でも、読み始めると楽しく読めた。
『読んだ、飲んだ、論じた―鼎談書評二十三夜』 (2005/12 飛鳥新社)
'03年から2年にわたり雑誌「文藝春秋」に連載された鼎談書評ですが、仏文学者の鹿島茂氏、文芸評論家の福田和也氏、経済学者の松原隆一郎氏の3氏が、それぞれが推薦した本(当時における新刊本)を読みあって講評するスタイルで、3冊×23回=69冊の本が紹介されていています。
一応、鹿島氏が歴史・風俗、福田氏が文学・政治、松原氏が経済・社会という推薦本のジャンル担当になっていたようですが、そのバランスが良く、また時に鹿島氏が『カルロス・ゴーン経営を語る』といったビジネス書を取り上げたりするなど、専門分野に固執していないのもいいです。
いずれにしろ、鹿島氏の書誌学的博識や福田氏の歴史やサブカルチャーなどにも及ぶ該博ぶりは分野を飛び越えていて、松原氏にしても、鼎談の良き調整役となっているだけでなく、マルチジャンルの2人によく拮抗して意見を述べているなあと感心。
『上司は思いつきでものを言う』のような比較的馴染みのある新書本から、専門書に近い本や大部な本(『肩をすくめるアトラス』は2段組1,270ページ、6,300円也!)、通好みの本(『「清明上河図」をよむ』などはその類、思わずネットで鑑賞した)まで紹介されていますが、3人の知識が衒学をひけらかすためではなく、本のバックグラウンドの理解や読み解きのために吐露されているので、自分にとってあまり縁がなさそうな本の批評でも、読み始めるとそれぞれに楽しく読めました。
鹿島氏('49年生まれ)が50代中盤、松原氏('56年生まれ)が40代後半、福田氏('60年生まれ)が40代中盤という微妙な年代の違いも、鼎談を面白いものにしていると思いますが、福田氏というのは昔のこともよく知ってるなという感じ。
この人の特定の作家への過剰な思い入れはともかく、「本で読んだ知識」にしても、「知っている」ということは大きいなあと思いました。だから、同じ土俵で他の2人と話が出来るんだ...とまた感心。
しかし、小説や社会学系の本を扱って、さほど"論争"にならないのがやや不思議な気もしました。もっと意見が割れるような気もする3人だけど...。
《読書MEMO》
●取り上げている本(一部)
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』J・D・サリンジャー(村上春樹訳)
『グローバル・オープン・ソサエティ』ジョージ・ソロス
『移民と現代フランス』ミュリエル・ジョリヴェ
『帝国以後』エマニュエル・トッド
『日本の童貞』渋谷知美
『シェフ、板長を斬る悪口雑言集』友里征耶
『グロテスク』桐野夏生
『創るモノは夜空にきらめく星の数ほど無限にある』宮脇修
『知られざるスターリン』ジョレス・メドヴェージェフ・&ロイ・メドヴェージェフ
『成長経済の終焉』佐伯啓思
『ナンシー関大全』ナンシー関
『エコノミストは信用できるか』東谷暁
『虚妄の成果主義』高橋伸夫
『日本はなぜ敗れるのか』山本七平
『六世笑福亭松鶴はなし』戸田学
『教育の世紀』苅谷剛彦