【259】 ○ 坂崎 乙郎 『ロマン派芸術の世界 (1976/09 講談社現代新書) ★★★★

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自死した先駆的美術評論家によるロマン派絵画の独自の分析。

ロマン.jpg 『ロマン派芸術の世界』 講談社現代新書  坂崎乙郎.jpg 坂崎 乙郎 (1927-1985/享年57)

幻想芸術の世界-シュールレアリスムを中心に.jpg夜の画家たち.jpg 美術評論家・坂崎乙郎(1927‐1985)の〈講談社現代新書〉における3冊の著書の1つで、あと2冊は『幻想芸術の世界-シュールレアリスムを中心に』('69年)、『夜の画家たち-表現主義の芸術』('78年)ですが、3冊とも絶版になってしまいました。
 このうち実際には最も初期に書かれ、表現主義を日本の美術ファンに紹介したかたちとなった『夜の画家たち』だけ、〈平凡社ライブラリー〉に移植されています。

1ロマン派芸術の世界.png ロマン主義の画家にどのような人がいたかと調べてみれば、ブレーク、フリードリヒ、ターナー、ジェリコー、そして大御所ドラクロアなどが代表的画家であるようですが、著者はロマン主義の画家に見られる特質を分析し、背景としての「夜」の使われ方や、モチーフとしての「夢」の役割、分裂病質とも言える「狂気」の表れ、デフォルメなどの背後にある「美の計算」などを独自に解き明かしています。
 例えばロマン主義絵画において「馬」は死の象徴として多用されているといった指摘は、紹介されている絵画とともに興味深いものでした(しかしそれにしても、ドラクロアのデッサン力が突出しているのは驚き)。

 ロマン主義絵画とは、著者によれば、上昇する意志と下降する欲望という相反するものを内包していて、例えばゴヤの幻視世界を描いた絵もロマン主義の萌芽と見ることが出来、後の写実主義や印象派絵画にもロマン主義的な要素が引き継がれていることを示しています。
 もともと個人的にはこの画家は何々派という見方をする方ではないのですが(それほど詳しくないから)、絵画の潮流というものが、ある時期ぱっと変わるものではないことがわかります。
 
 日本におけるロマン主義の芸術家として、'70年に自決した三島由紀夫をとりあげているのも興味深く、本書を読んでロマン主義というのが「死」への恐れと「死」への欲求の相克と隣り合わせにあることがわかります(パラパラとめくって図版を見るだけでも陰鬱なムードが伝わってくる)。

 著者は早大教授職にあった'85年に亡くなっていますが、後で自死であったことを知り、著者自身がそうしたものに憑かれていたのかとも思わないわけにはいかず、一方で、『幻想芸術の世界』の冒頭だったと思いますが、著者が家族と遊園地にいった話で始まっていたのをなんとなく思い出しました。

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