【235】 ◎ 中村 政則 『戦後史 (2005/07 岩波新書) ★★★★☆

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50年史に10年分足したものが60年史になるのではないのだと認識させられる。

中村 政則 『戦後史』.jpg戦後史.jpg  『戦後史 (岩波新書 新赤版 (955))』  〔'05年〕

 戦後60年の日本の歴史が、政治・外交・経済から、思想・社会・文化・風俗に至るまでの幅広い視点でコンパクトに書かれて、「戦後」を俯瞰するのに"手頃な"著作となっています。また、終戦時10歳だったという著者の時代ごとの個人的記憶も盛り込まれていて、著者の年齢だからこそ語れるリアリティがありました。

 戦後50年に「戦後」とは何かがいろいろ論じられたのに、敢えてここで戦後60年史を書くことについて著者は、この10年間の地殻変動のような国際的環境の変化を挙げていますが、それはイタリアの歴史家の「すべての歴史は現代史である」という言葉とも符合します。

 つまり、50年史に10年分足したものが60年史になるのではなく、新たな事態や事実に直面した場合に、今までの歴史認識の再検証を迫られることがままあるということでしょう。それらは本文通史の中で度あるごとに具体例として示されています。

 そして著者は、日本においては「終った戦争」と「終らない戦争」の二重構造があり、戦後民主主義(国際ジャーナリストの松本重治は「負け取った民主主義」と呼んだ)を否定的に捉える論調が強まるなかで、"戦後"をどういうかたちで終らせるか、我々は岐路に立っているとしていて、この指摘は"重い"と思いました。

 個人的には、司馬遼太郎の愛読者でありながら"司馬史観"というものを批判しているという著者に関心があって本書を手にしましたが、本文中に示された多くの参考文献(比較的新しいものが中心)は、著者の旺盛な研究意欲とバランス感覚を表すとともに、それらの巻末索引が読者への親切な手引きともなっています。

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