【233】 ○ 田中 伸尚 『靖国の戦後史 (2002/06 岩波新書) ★★★★

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「靖国」に纏わる戦後史を時系列で追いつつ、国家が死者を追悼することの意味を問う。

1靖国の戦後史.png 靖国の戦後史.jpg靖国の戦後史 (岩波新書 新赤版 (788))』〔'02年〕

Yasukuni Shrine.jpg '05年に入り、『靖国問題』(高橋哲哉/ちくま新書)、『靖国神社』(赤澤史朗/岩波書店)、『国家戦略からみた靖国問題』(岡崎久彦/PHP新書)、『首相が靖国参拝してどこが悪い!!』(新田均/PHP研究所)、『靖国問題の原点』(三土修平/日本評論社)など「靖国」関連本の刊行が相次ぎ、'06年に入っても『戦争を知らない人のための靖国問題』(上坂冬子/文春新書)などの、この問題の関連本の出版は続きました。
 これら書籍は過去のものも含め、その多くが首相の靖国参拝などについて賛成派と反対派に明確に分かれ、本書もその例外ではありません。

 ただし本書の特徴として、「靖国」に纏わる戦後史を時系列で追っていて、基本的な知識を得るうえで参考になります。そうした歴史を通して、著者は、国家が死者を追悼することの意味を批判的視点から問うているのですが、こうして見ると、「靖国問題」の不思議な歴史的側面も見えてきました。

 戦後、GHQの国家神道廃止方針により靖国神社は一宗教法人となりますが、'52年の安保条約発効前後に、民間宗教法人となって初の首相参拝(吉田茂)や天皇の参拝が行われている。また、'58年の前後数年にほとんどの軍属戦没者が合祀されている(その膨大な情報を神社側はどうやって入手したのかというのも本書が指摘する問題点の1つ)。'78年のA級戦犯合祀は秘密裏に行われましたが、翌年に判明。しかしその時々においては、何れも今日ほど大きな議論にはなっていない。う〜ん。仮に外圧(中国・韓国からの批判)がなければ、「靖国問題」がここまでクローズアップされたかどうか。

 「靖国問題」が注目されるようになったのは、'85年の中曽根首相の10回目の参拝で(所謂「公式参拝」とした問題、この時も中国・韓国からの批判が問題化の契機になった)、以来11年間首相参拝は途絶えましたが、'96年に橋本首相が1度だけ参拝し、問題が再燃。首相参拝は以後、小泉首相までありませんでした。結局のところ、首相参拝を合法であるとする根拠説明が出来ないということでしょうが(靖国神社を特別宗教法人にしようという動きなどもそこから派生しているのだろう)、にも関わらず小泉首相は'01年から6年連続して「靖国参拝」を敢行したわけです。
 う〜ん。「公的とか私的とか私はこだわりません。総理大臣である小泉純一郎が心をこめて参拝した」という話では、中国・韓国が納得しないでしょうね。

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月21日 12:14.

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