【230】 ◎ 神坂 次郎 『元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世』 (1984/09 中公新書) ★★★★☆

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私的な日記のつもりが、300年後「元禄版ブログ」の如く多くに読まれているという感慨。
元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世.jpg 元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世.png  元禄御畳奉行の日記 上.jpg 元禄御畳奉行の日記 下.jpg 元禄御畳奉行の日記   .jpg
元禄御畳奉行の日記』中公新書『元禄御畳奉行の日記 上 (アイランドコミックスPRIMO)』 『元禄御畳奉行の日記 下 (アイランドコミックスPRIMO)』 横山光輝版 〔嶋中書店〕
元禄御畳奉行の日記 (中公文庫)』改版版['08年]
「元禄御畳奉行の日記」.jpg元禄御畳奉行の日記(げんろくおたたみぶぎょうのにっき).jpg 元禄(1688-1703年)の時代に生きた平凡な尾張藩士、朝日文左衛門が、18歳のときから書き始め、死の前年1717(享保2)年まで26年間にわたり綴った日記『鸚鵡籠中記(おうむろうちゅうき)』を通して、その時代の生活や風俗、社会を読み解いていくものですが、とにかく面白かった。横山光輝などはこれをマンガ化しているぐらいです。

『元禄御畳奉行の日記(げんろくおたたみぶぎょうのにっき) 中公文庫 コミック版(全3巻) 横山 光輝 

 この文左衛門という人、武道はいろいろ志すもからきしダメ。特に仕事熱心なわけでもなく、家庭ではヒステリーの妻に悩まされ、そのぶん彼は趣味に没頭し、芝居好きで文学かぶれ、博打と酒が大好きという何となく愛すべき人柄です。そして、食事のおかずから、小屋で見た芝居の感想、三面記事的事件まで何でも書き記す"記録魔"なのです。

 刀を失くした武士が逐電したり、生類憐みの令で蚊を叩いた人が島流しになったりという話や、 "ワイドショーねた"的な情痴事件、当時流行った心中事件などの記録から、当時の社会的風潮や風俗が生き生きと伝わってきます。零落した仲間の武士が乞食までする様や、貧困のすえ自殺した農民の話など、爛熟した元禄時代の影の部分も窺えます。

 文左衛門自身はというと、さほど出世欲は無いけれど、まあ堅実なポジションを得るサラリーマンみたい(月に3日の宮仕えというのは随分と楽チンだが)。あるいは、業者の接待を気儘に受ける小役人というところか(出張してもほとんど仕事していない!)。女遊びもするが、酒好きの度がスゴイ。遂に体を壊して45歳で亡くなってしまいますが、極私的なものであるはずの日記が、300年後にこうして「元禄版ブログ」みたいな感じで我々の眼に触れているという事実は、彼の生きた証であり感慨深いものがあります。書いている間に本人はそういう意識が多少はあったのでしょうか。

 【1987年文庫化・2008年改版[中公文庫]】

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神坂次郎さん(こうさか・じろう=作家、本名中西久夫〈なかにし・ひさお〉)2022年96日、老衰で死去、95歳。

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月21日 11:39.

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【231】 ○ 三谷 一馬 『江戸商売図絵』 (1995/01 中公文庫) 《(1963/05 青蛙房)》 ★★★★ is the next entry in this blog.

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