【226】 ○ 樋口 雅一 『マンガ 聖書物語 (旧約篇) (1998/07 講談社+α文庫) ★★★★ (○ セシル・B・デミル 「十戒」 (57年/米) (1958/03 パラマウント) ★★★☆)

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ストーリー部分をうまく整理。結構ドラマチックな話も含まれているものだと...。

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マンガ聖書物語 (旧約篇)』 講談社+α文庫 〔'98年〕  「十戒 [DVD]

 自分も含め一般に日本人は、聖書の内容をそれほど詳しく知っているわけではなく、旧約聖書に至ってはほとんど言っていいくらい知らないのではないかと思います。映画「十戒」などのイメージは多少あるものの、原典をパラパラめくる限りそれほど面白そうにも思えず、特に旧約聖書の場合は、原典からストーリーを抽出しにくいということが、馴染めない最大の理由かも知れません。
 本書は、そうした旧約聖書のストーリー部分をうまく整理してマンガにしていて、内容を理解するうえでの良い助けになるものであると思います。

 こうして見ると、結構泣かせるようなドラマチックな話もあるのだと...。兄たちに諮られて異国(エジプト)に売られ、その後エジプト王になったヨセフの話などは、なかなかのストーリー展開で、最後にヨセフが兄たちを許す場面は感動的です。
 今まで知らなかったことも多く知ることができ、例えばオリーブの枝を咥えた鳩が平和のシンボルとされているのは、ノアの箱舟に洪水が引き安心して暮らせることを知らせに来た鳥がそうだったからだとか(知っている人からすればごく初歩的な知識だが)、今までそんなことも知らずホント無知でした(そうすると国連のマークも旧約聖書の影響を受けているということか)。

『マンガ 聖書物語 (旧約篇)』.JPG 旧約聖書は、"人類の歴史"というものが意識されて書かれた最も古い部類の物語だと思われますが、今の聖書は後に何百年にもわたって再編集されたものらしく、聖書学者によると創世記なども後の方で書かれたものだということで、つまり終末論がまずあって、そこから遡って編纂されているようです。
 このことは、個人としての人間が自分の死を意識し、そこから遡って自らの出自を問う考え方の指向と似ていますが、山本七平などは、そうした個人の有限の人生と"完結するものであるべき"歴史といった相似的な捉え方の中に、ユダヤ教やキリスト教の歴史観の特徴を見出していたように思えます。
 日本人の場合は、「行く川の流れは絶えずして...」と言う感じで、川べりで歴史を傍観していて、どこかに始まりと終末があるわけでもなく、一方、自分の人生の始まりと終わりは意識しているが、それが歴史の始まりと終わりのどのパートにあたるかという意識は無いのではないかと。
 こうした日本人の考え方では、「救世主」とか「最後の審判」という発想は出てこないのだろうなあと思ったりもしました。

 マンガのタッチは今ひとつかな、という感じで、また、マンガにすることで宗教的な意味合いや重みが脱落してしまっている部分も大いにあるかもしれませんが、西洋キリスト教圏文化などの背景にある重要な物語のストーリーを少し知っておくのもいいのではないかと思います。

『十戒』(1956).jpg十戒.bmp 冒頭に挙げた映画「十戒」('57年/米)は、セシル・B・デミル監督が自らが手がけたサイレント大作「十誡」('23年/米)を、10年の製作期間と1350万ドル(当時)を投じて自らリメイクしたもので、製作費の10倍もの興行収入を上げ、パラマウント映画としてのそれまでの最高記録を更新しました(2020年現在、インフレーション調整版で全米全作品の歴代6位)。「出エジプト記」の話を、モーセとラメセスの「兄弟げんか話」に置き換えてしまったきらいはありますが、分かり易いと言えば分かり易い「旧約聖書入門」映画であり、聖書をベースした作品としてはやはり欠かせない1本です。

Yul Brynner in The Ten Commandments.jpg 紅海が真っ二つに割れるシーンなどのスペクタルもさることながら(滝の落下を逆さまに映している?)、モーセが杖を蛇に変えるシーンなどの細かい特殊撮影も当時にしてはなかなかのもの(CGの無い時代に頑張っている)。

十戒5.jpg モーセを演じたチャールトン・ヘストン(1924-2008/享年84)の演技は大味ですが、それがスペクタクル映画にはむしろ合っている感じで、一方、もう1人の主役ラメセスを演じたユル・ブリンナー(1920-1985/享年65)は、父親がスイス系モンゴル人で母親はルーマニア系ジプシーであるという、ファラオ(エジプト王)を演じるに相応しい(?)ユニヴァーサルな血統(「王様と私」('56年/米)ではシャム王を演じている)。更に、癖のあるキャラクターを演じるのが巧みなエドワード・G・ロビンソン(1893-1973/享年79)、「イヴの総て」('50年)のアン・バクスター(1923-1985/享年62)などの名優が脇を固めていました。何れにせよ、もう1度観るにしても、劇場などの大スクリーンで観たい作品です。

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奴隷頭デイサン(エドワート・G・ロビンソン)/王女ネフレテリ(アン・バクスター)
奴隷頭デイサン(エドワート・G・ロビンソン).jpg王女ネフレテリ(アン・バクスター).jpg

  
 
 
  
「十戒」●原題:THE TEN COMMANDMENTS●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督・製作:セシル・B・デ十戒3.jpgミル●脚本:イーニアス・マッケンジー/ジェシー・L・ラスキー・Jr/ジャック・ガリス/フレドリック・M・フランク●撮影:ロイヤル・グリッグス●音楽:エルマー・バーンスタイン●時間:222分●出演:チャールトン・ヘストン/ユル・ブリンナー/アン・バクスター/エドワード・G・ロビンソン/ジョ渋谷東急.jpgン・デレク/イヴォンヌ・デ・カーロ/デブラ・パジェット●日本公開:1958/03●配給:パラマウント●最初に観た場所:渋谷東急 (77-12-08)(評価:★★★☆)

渋谷東急 (東急文化会館5F、1956年12月1日オープン) 2003(平成15)年6月30日閉館 (2003年7月12日「渋谷クロスタワー」(旧・東邦生命ビル)2階にオープンした劇場が「渋谷東急」の名を引き継ぐが、こちらも2013年5月23日閉館)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月21日 10:46.

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