【217】 ◎ 森 三樹三郎 『老子・荘子 (1988/05 講談社学術文庫) 《 人類の知的遺産5 老子・荘子 (1978/07 講談社)》 ★★★★★

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正確な理解のために。すべての現代人のために。

森 三樹三郎 『老子・荘子』.jpg森 三樹三郎 『老子・荘子』 .jpg森 三樹三郎.jpg 森 三樹三郎2.jpg 森 三樹三郎(1909-1986、略歴下記)
人類の知的遺産〈5〉老子・荘子 (1978年)
老子・荘子』講談社学術文庫〔'88年〕

 この本で、荘子のいうところの「万物斉同」 が、運命肯定的で人格神を持たない中国民族の人生観のベースとなっていることを知りました。「無為自然」「和光同塵」といった老子の考え方に共鳴する人も多いのではと思います。「無」としての道、無からの万物の生成論は、思想というよりは形而上学(哲学)の世界、量子物理学を想起させる部分さえあります。

 思想の概要、周辺の時代背景、伝記(老子は存在そのものが不確かだが)を説明したうえで、上記のようなテクニカルタームの解釈に入るのでわかりやすいです。道教イコール老子・荘子の思想ではなく、神仙思想や享楽主義は後に付加されたなど、正確な理解の助けとなるのもこの本の大きな特長です。後世への影響も詳しい。禅宗は老荘的だけど、相違点もあると。文学や書画も、儒教より老荘思想によって育てられたのか。

 老荘の哲学は、理想を超えた大きな何かという感じです(荘子は理想への努力さえ否定しているから)。そうしたものがぼんやりとでも見えれば、人生違ってくるのかな...と。

 「神を失った現代人にとっては、神の無い宗教を待望するしかない。それに応えるものの一つとして、老荘の哲学がある」という著者の結語にうなずかされます。
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森 三樹三郎(もり みきさぶろう、1909-1986)
中国思想史の研究者。京都府生まれ。旧制・大阪府立高津中学校卒、京都大学文学部哲学科卒業。大阪大学を退官後、同大学名誉教授。その後、仏教大学教授。 専攻は中国哲学史。文学博士。

《読書MEMO》
●【老子の集発点=自然主義】 「無為自然」知識の否定(22p)/道徳の否定-仁義忠孝が強調されるのは社会が不道徳な状態にあること、仁義忠孝の強調は新たな災いを招く、捨て去るべし/「和光同塵」(光を和らげて塵に同ず)(26p)
●【老子の人生哲学】 柔弱の徳-赤子に帰れ/女性原理-柔は剛に勝つ/水の哲学/不争の哲学/保身処世の道-功成りて身退くは天の道なり(38p)
●【老子の万物生成論】 無からの万物の生成-「天下の万物は有から生じ、有は無より生ず」「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず」一は、陰陽に二分する以前の気(ガス状の粒子)をさす(60p)→量子物理学との類似
●【荘子の思想】(67p-)「万物斉同」=無限者による絶対的無差別の世界、死生を斉しくす、無限者である運命の肯定(ただし運命の主宰者はいない)荘子の言う造物者とは「自然」→儒家や道家を超えて、中国民族の人生観に(90p)
●【荘子の理想への努力の否定】 高尚で世間に同調しない「山谷の士」、仁義を語る学者、大功を語る「朝廷の士」、山林に住む隠遁者、養生する「導引の士」の何れも、意識的努力している。意識しなくても行い高く、身修まり、国治まり、心のどかで、長生きするのが、天地自然の道(聖人の道)(224p)
●【荘子の言葉】 「邯鄲の歩を学ぶ」「井の中の蛙」(229p)/生死は一気の集散であり、同類のものである(244p)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月21日 01:14.

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【218】 ○ 蔡 志忠 (和田武司:訳/野末陳平:監修) 『マンガ老荘の思想』 (1994/09 講談社+α文庫) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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