【127】 △ ケネス・ブランチャード/スペンサー・ジョンソン (小林 薫:訳) 『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』 (1983/01 ダイヤモンド社) ★★★

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寓話風ビジネス書のはしり。"他ジャンル"系ではない続編へ読み進むことをお勧め。

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ケネス・ブランチャード/スペンサー・ジョンソン『1分間マネジャー―何を示し、どう褒め、どう叱るか!』〔'83年〕 スペンサー・ジョンソン 『チーズはどこへ消えた?』('00年/扶桑社)

 '80年代にアメリカで出版され始めた行動科学的なマネジメント書は、日本にも多く翻訳輸入されましたが、'83年に邦訳出版された本書『1分間マネジャー』(原題:"The One Minute Manager",1981)は、そうした日本での翻訳本ブームの端緒ベイシック・マネジャー31.JPGとなったものです。同じ頃に刊行された、同じく小林薫氏の翻訳によるカリガン、ディーキンズ、ヤング著ベイシック・マネジャー』('84年/ダイヤモンド社)などもよく売れたようです(何れもそう厚くないながらもハードカバーで、これが良かったのか。いつの間にか、同じ本を2冊買ってしまった。でもこれ、名著である)。

人を動かす.jpg それまでもデール・カーネギー『人を動かす』('58年/創元社)などのロングセラーはあり、要点が極めて端的に纏められているとう点では本書も同じですが(共に3項目に纏めてある)、本書『1分間マネジャー』は「1分間」というキャッチや145ページという薄さ、内容が寓話風になっているところなどが目新しかったのではないでしょうか。翻訳はドイツ語、フランス語をはじめ主要ヨーロッパ言語ばかりでなく、ブルガリア語、アイスランド語、アラビア語、ヘブライ語、トルコ語、タイ語など25ヵ国語を超えているそうです。

仕事は楽しいかね?.jpg かつてあるところに青年がいて、優れたマネジャーを探していた―といった設定は、その後も多くの本に模倣されたようです(デイル・ドーテン著『仕事は楽しいかね?』('01年/きこ書房)などもその類)。但し、こうしたスタイルで書かれた本って、個人的な相性はイマイチのものが多いのはどうしてなのかなあ。基本的には、自己啓発本なので、やはり読む人によって相性はかなり違うのかも。

 本書 『1分間マネジャー』で著者らが言っていることを要約すれば、部下マネジメントにおいて大切なのは、
 1.目標設定
 2.褒めること
 3.叱ること

 であり、まず一番に「目標設定」を掲げている点は評価されてよいと思います。企業レベルで見た場合、目標管理を入れていないところもまだ多く、そうした企業では、マネジャーやスタッフの責任が曖昧になりはしないか懸念されるところです(入れてみたが上手くいかなかったというのも、目標管理の考え方そのものがその企業に馴染まないと言うよりは運用上の問題だろう)。企業として目標管理をしていなくとも、マネジャーはやはり部下の目標設定を自らの仕事であると心掛けるべきでしょう。

 また、二番目、三番目の褒めたり叱ったりするというのは、"人格"に対してではなく、相手の"行動"に対して行うべきだということではないかと思いますが、これが結構日本人の苦手とするところであり、痛いところをついている分、その点が逆に日本人にも受ける結果となったのではないかと思います。

 本書を「座右の書」とする人も多いようですが、少し皮肉っぽく考えると、自分が本書に書かれていることを守れないかも知れないという不安が常にどこかにあるから、「座右の書」となりうるのではないかと思ったりもします。ただ、そういう意味では、D・カーネギーの「人を動かす3原則」の方が、まだ「座右の銘」としてピンと来るものがあると言うか、個人的にはしっくりきました。

 本書の著者のケネス・ブランチャード(Kenneth H. Blanchard、心理学者)とスペンサー・ジョンソン(Spencer Johnson、精神医学者)はその後も「1分間シリーズ」を続々と出し続け(「1分間ファザー」「1分間マザー」というのもあった)、スペンサー・ジョンソン著『チーズはどこへ消えた?』('00年/扶桑社)に至っては動物まで登場させて、物語の寓意を検討するディスカッションまで入れた手とり足とりの解説ぶりですが、アメリカ人ってだんだん子どもみたいになってきているのではと思いきや、日本でもこの「チーズ」本は結構売れました。

1分間マネジャー〈実践法〉.jpg 一方で、「1分間ファザー」「1分間マザー」など他ジャンルに拡がっていったタイプの続編ではなく、同じように"寓話スタイル"でありながらもマネジャー対象の分野に止まり、より進化(深化)させたタイプの続編である『1分間マネジャー〈実践法〉―人を活かし成果を上げる現場学』(Putting the One Minute Manager to Work)('84年/ダイヤモンド社)では、マネジメントの「ABC」、「効果的叱責法」、そして「PRICE」システムについて重点的に述べられています。

1分間マネジャー〈実践法〉―人を活かし成果を上げる現場学

 更には、1分間リーダーシップ―能力とヤル気に即した4つの実践指導法』(Leadership and the One Minute Manager)('85年/ダイヤモンド社)では、リーダーシップには唯一無二の完璧な手法はないが、事実上、指示型、委任型、コーチ型、援助型という4つのスタイルがあり、マネジメントの状況に応じていずれかのスタイルが取られるとする、かの有名な「状況対応型リーダーシップ」論が提唱されています(本書では訳者あとがきで解説されている)。"ビジネスの名著"としては、オリジナルである本書『1分間マネジャー』が取り上げられることが殆どですが、これら2冊の方が本書より実践的であり、本書を読まれた後はそちらに読み進むことをお勧めします。

(●追記:『1分間マネジャー』の評価を△としたが、その後『新・1分間マネジャー』('15年/ダイヤモンド社)が刊行され、内容が大幅に改定されて、より時代に即したものになっている。
1分間マネジメントの3つの秘訣は、
 第1の秘訣「1分間目標」
 第2の秘訣「1分間称賛」
 第3の秘訣「1分間修正」
に改定されており、とりわけ3つ目の「叱ること」が「修正する」ことに置き換わった点が目立つ違いとなっている。)


【2202】 ○ ダイヤモンド社 『世界で最も重要なビジネス書 (世界標準の知識 ザ・ビジネス)』 (2005/03 ダイヤモンド社)

《読書MEMO》
『1分間マネジャー〈実践法〉―人を活かし成果を上げる現場学』より
●マネジメントの「ABC」
(a) 活性化策(Activators)・部下に対して一定の目標達成や行動を期待する前の段階でマネジャーが打つべき方策。目標設定(報告責任範囲を決め、注意事項を指示し、実践行動基準を定める、など)。
(b) 実践行動(Behaviour)・目標達成のために言ったりしたりするすべてのこと。ファイリング、書類記入、販売、発注、購入など。
(c) 事後方策(Consequence)・実践行動の後でマネジャーが行なうこと。結果に対する喜怒哀楽の共有、称賛、叱責、支援など。
●「PRICE」システム
(1) 明確化(Pinpointing):主要な達成目標を測定可能な具体的な表現で明確化することで、1分間目標設定の一部である。
(2) 記録(Recording):実践行動や実績を測定し進捗度を調べるためにデータを収集し、グラフに示す。
(3) 参画(Involving):実践行動目標を話し合って決め、教育指導や評価の方法についても、前もって合意しておく。
(4) 指導(Coaching):実践行動を観察して、建設的なフィードバックをかける。
(5) 評価(Evaluating):実践行動の進み具合を調べ、今後打つべき手だてを決める。叱責や称賛の一部でもある。

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