【126】 ○ 森生 明 『会社の値段 (2006/02 ちくま新書) ★★★★

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「敵対的M&A」=「悪いM&A」ということにはならないと。

会社の値段.jpg 『会社の値段』 ちくま新書 〔'06年〕 森生 明.jpg 森生 明 氏 (株)M・R・O代表取締役

 著者は、ハーバード・ロースクールで学び、外資系投資銀行などでM&A業務経験を持つM&Aアドバイザーで、企業価値評価の理論と実践について書いた『MBAバリュエーション』('01年/日経BP社)という著書もある人。

 本書でも企業価値の具体的な算定方法に触れていて、前著に至る入門書ともとれますが、特徴的なのは、なぜ「会社に値段をつけるのか」という根源的問いを発し、「米国流」の〈株主至上主義〉の考え方の背景や本質を解説している点です。
 一方で、日本で使われている「企業価値」という言葉に該当する英語は無いとして、その曖昧さを指摘しており、ライブドアのニッポン放送株事件を実例に引いたこの辺りの説明はわかりやすいものでした。

 要するに日本では、誰にとっての「企業価値」なのかが曖昧であり、「すべてのステークホルダーにとっての企業価値」という日本的な表現を、著者は心情的には理解しながらも何も言っていないのと同じとし、ストレートに「株主価値」基準で「会社の値段」をきちんと算定すべきだというのがその主張で、そのことが社会・経済の混乱を防ぐことに繋がるのだと。

 「敵対的M&A」に対する日本企業や日本人の抵抗感は強いけれども、ハゲタカファンドが暗躍する背後には、市場原理がうまく機能していないという国家や銀行に責を帰すべき問題もあり、また、ライブドア事件などを見てもわかる通り、株式市場における適正な情報開示や投資家の成熟ということも大事であり、ファンドばかりが悪者ではないということでしょうか。

 著者の立場(企業買収のファシリテーター?)からすれば当然の論旨とも思え、また敵対的買収に対する防衛策を説いた他の本とは考え方も前提となる視座も異なるところですが、健全なM&Aとは本来は支配権の売買であって、経営者としての力量を競い合うのがM&Aの本質であり、「シナジー効果」など新たな価値を生むM&Aであれば、「敵対的M&A」だから悪いということにはならないということが、よくわかる本でした。

《読書MEMO》
●株式公開もM&Aも、会社を売るという意味では本質的に違いはない(15p)
●「企業価値を創造するのは、その企業活動に参加するすべての人である」という優等生的回答は何も解決しない(86p)→企業価値創造の担い手は経営者であり、その経営者の評価は株主や投資家が行う(90p)
●経営者は会社の値段を適正に反映した株価が市場でちゃんとつくように情報発信し、説明する努力を惜しむな(177p)

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