「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【093】 橘木 俊詔 『脱フリーター社会』
ニートの背後にある職業観の"一端"を知る上で参考に。
『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』('04年/幻冬舎)
『仕事の中の曖昧な不安』('01年/中央公論新社)の著者である労働経済学者・玄田有史氏が、今度はニート(NEET=Not in Education, Employment, or Training)に注目し書いた本。
本書によればニートとは、副題にもあるようにフリーターや失業者のように働ける人ではなく「働くことができない人」を指し、所謂「ひきこもり」を包含するが、「かなりの数の少数派」として急速に拡大しているとのことです。
著者はニートの背後にあるのが本人の甘えだけではなく、誰でもニートになる可能性があり、ニートの増加をくい止める"方法"はあると言っています。
共著者である曲沼美恵氏が、14歳で全員が就労体験をする兵庫県の「トライやる・ウィーク」と富山県の「14歳の挑戦」を経験した若者をインタビュー取材していますが、本書はこのカリキュラムがその"方法"だと言い切っているわけではありません。
しかし、インタビューを読んで、この両県の試みには多くの示唆を含まれているように思えました。
こうしたカリキュラムに対する評価の低い若者や、中学卒業後にドロップアウトした若者まで取材している姿勢には好感が持てました。
一方、ヤングジョブスポットなどの公共施設で"もとひきこもり"の若者などを取材していますが、ニートと呼ばれる人の就労意識のようなものも見えてきます。
しかし、この人たちは求職活動をして(または訓練を受けて)いるのだから今はニートではない。
それを踏まえたうえでのタイトルなのかも知れませんが、そう考えると、ニートの定義というのは存外に難しいのではないかとも思われます。
『仕事の中の曖昧な不安』('01年/中央公論新社)での「若者の失業は中高年の雇用を維持する代償」という著者の言説は賛否両論を呼びましたが、本書はそうした労働経済学の視点とは別に、ニートという社会現象の背後にある若者の職業観の"一端"を知る上で参考になるのではないかと思いました。
本書に対しては、具体的な解決策が何も提示されていないという批判もありましたが、最後は若者に対して呼びかける精神論みたいになってしまっているのも事実。
でも、この本1冊にそこまで求めるのはどうかとも思います。
【2006年文庫化[幻冬舎文庫]】