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真摯なルポルタージュだが、少し偏りもあるように感じた。
『ルポ解雇―この国でいま起きていること』 岩波新書 〔'03年〕
解雇ルールをめぐる労働基準法改正(平成15年改正)の道程と、現社会で不当な解雇に対し労働者の権利主張がいかに困難かを同時に追ったルポです。
本書によると、改正労基法の当初条文案の「使用者は(中略)解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる」という部分は野党の反対により削除されたわけですが、その理由は、要は"解雇できる"という言葉が一人歩きするからということです。
それは確かに著者が強調する通りの(一般マスコミ・ジャーナリズムのレベルでの)論点だったわけですが、逆に著者の立場に立つならば、「わざわざ謳わなくても、もともと解雇権はあるのだ」という"譲歩"の裏にある経営者側の論理をもっと押さえるべきではないだろうかとも思ったりしました。
関連してですが―、合理的理由を欠く解雇について、法律論上、立証責任は労働者側にありますが、著者も指摘の通り、裁判の現場においては使用者側が合理性の立証責任を負っています。
著者は "解雇できる"という言葉が一人歩きした場合、裁判所が労働者側に立証責任を負わせることが多くなることを危惧していますが、そんなに裁判官は偏向しているのでしょうか(そうだと言う人もいるかもしれませんが)。
全体としては、真摯なルポルタージュであることに違いなく、特にこうした国会等での審議過程の追跡は、今回以降の法改正にも影響してくることなのでその意義は大きいと思いますが、部分的に少し偏りもあるように感じました。