【090】 ◎ 熊沢 誠 『リストラとワークシェアリング (2003/04 岩波新書) ★★★★★

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生活者多数のニーズを凝視し、〈一律型〉のワークシェアを提唱。

リストラとワークシェアリング.jpg  『リストラとワークシェアリング』 岩波新書 〔'03年〕 .jpg 熊沢 誠 ・甲南大名誉教授

 著者はまず「労働をめぐる4つの現実」(深刻な失業・人べらしリストラ・長時間労働・パートタイマーの処遇差別)を実証的に指摘し、「ワークシェアリング」を「この現実の暗い労働世界に灯された希望の思想」とし、具体的解決策として〈一律型〉のワークシェアを提唱(これが本書の最大の特徴ですが)しています。

 一般にワークシェアには、◆緊急避難型、◆中高年対策型、◆雇用創出型、◆多様就業促進型の4タイプがあるとされていますが、緊急避難型や雇用創出型といった〈一律型〉のものは暫定措置であり、本来的には、多様就業促進型(オランダのモデルが有名)、つまり〈個人選択型〉を目指すべきであるというのが一般の論調(脇坂明『日本型ワークシェアリング』など)です。

 これに対し本書では、〈一律型〉ワークシェアさえなかなか普及していないのは企業の消極性に原因があるとし、その背後にある 経営者の、「精鋭」は黙っていてもサービス残業をしてくれるのに、わざわざ「精鋭」と「そこそこの人」の労働時間を一律削減して「そこそこの人」の雇用を確保することはないという論理を浮き彫りにし、成果主義の浸透は一般労働者にも「ワークシェアして使えない人物を残してもお荷物になる」というような意識を醸成していることを指摘ししています。
 しかし著者はそれでもなお、冒頭の「4つの現実」に照らし、生活者多数のニーズを凝視した場合、〈一律型〉ワークシェアを推進する必要があると説きます。

女性労働と企業社会.jpg 日本のワークシェアが難しいと認識しながらも、「同一職種同一賃金」による〈一律型〉ワークシェア(時短)のイメージのもと、男性正社員・女性正社員・女性パートの賃金格差を縮めることを実現可能な範囲で具体的に提示するなど、問題解決に向けた真摯な姿勢が窺えます
 女性のペイエクイティを高めることで、女性の場合、労働時間が減っても一定の収入が確保できる考えは、前著『女性労働と企業社会』('00年/岩波新書)の内容とも関連しているかと思います。

 著者は〈個人選択型〉を全否定しているわけではなく〈一律型〉と併せて進めるべきとしていますが、確かに、〈個人選択型〉ワークシェアが実態として「ワーキングマザー」に限定されたものにしか成り得ないならば、全体効果は限られたものとなるでしょう。
 その前に解決すべきは、こうしたサービス残業の放置や賃金格差の問題であり、これを克服しなければ、〈一律型〉だけでなく〈個人選択型〉も充分に浸透しないだろうということを、本書は的確に予見しているように思えました。

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月14日 07:39.

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