【080】 ◎ 菅野 和夫 『新・雇用社会の法 (2004/04 有斐閣) ★★★★★

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人事・労務の実務寄り。判例の読み方が光る1冊!

雇用社会.jpg新・雇用社会の法』 〔'04年〕 実践・変化する雇用社会と法.jpg実践・変化する雇用社会と法』 〔'06年〕

 菅野教授の著書では『労働法』(弘文堂・法律学講座双書)が知られていますが、人事・労務実務担当者が勉強のために読む労働法の本としては、こちらの方がわかりやすいのではないでしょうか。

 本書は04年版で、'02年版の『新・雇用社会の法』の改訂版ですが(『雇用社会の法』は'96年刊行)、その間に改正のあった労基法への対応ほか、派遣問題や労使紛争解決システムなど近年のテーマも扱い、全般的なわが国の雇用問題、長期雇用システム信仰の揺らぎにも言及しています。

 Q&A形式ですが、「人事権とは何か?」「労働契約の期間は当事者間で自由に定めることができるか?」といったものから「○○社は......」といった判例を扱ったものまでとりあげ方が多様で、すぐに回答を示すよりも考え方のプロセスを示すことに重点が置かれているのが特徴です。
 また、中にはあえて回答を特定していないものもあり、現行法への問題提起にもなっています。
 
 司法修習を経て大学教授になった著者らしく、実務寄りで、判例の読み方が光る1冊ですが、'06年3月には、企業内で起きる雇用に関する問題についての対応に主眼を置いた『実践・変化する雇用社会と法』(共著/有斐閣)が刊行されています。 
 それぞれの価格は3千円以上しますが(『新・雇用社会の法』 3,780円、『実践・変化する雇用社会と法』 3,045円)、古書市場狙いならば本書の方がコストパフォーマンスがいいかも。
 
《読書MEMO》
●秋北バス事件...不利益変更を一方的に課すことは原則許されないが、【労働条件の統一的決定要請】からすれば、就業規則に合理性があれば、反対労働者も適用を拒むことはできない
●みちのく銀行事件...55歳以降の基本給および賞与の大幅引き下げ→年収の40%から50%)には、合理性がない
●スカンジナビア航空事件...裁判所は、希望退職に応じない社員に対する年俸契約への切り替えのための解雇を「変更解約告知」(労働条件変更のための解約)とし、合理性が不利益を上回っているとし、新契約拒否社員の解雇を認めた
●賞与を払わない...就業規則の内容を下回る労働条件は、労働者の個別同意があっても違法(59p)
●就業規則の効力...【法規範説】(労働者・使用者を拘束する法規範。使用者が一方的に定めることができるのは a..営権に基づく説 b..企業内慣習法説 【契約説】→判例は秋北バス事件で、法規範説(入社した時には、その内容を受け入れることになっているということは、就業規則=労働条件という慣習が成立しているから、労働者は就業規則の存在・内容を知らなくても適用を受ける)(60p)
●職種転換...日産東村山工場で車両部門一筋の機械工を全員を組立ラインに配転→会社勝訴(141p)
●転勤...東亜ペイント事件で、母病気、妻保母という状況でも神戸から名古屋への転勤は甘受すべき〈会社勝訴〉(142p)...配転・転勤に関する会社の裁量権は比較的大きい
●「擬似パート」(実質フルタイムで正社員と同じ仕事をしている)に、時給換算で正社員の8割までの額との差額請求権を認めた(丸子警報器事件)(274p)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月13日 19:25.

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