【069】 ○ 小杉 正太郎/川上 真史 『仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』 (2004/07 日本経済新聞社) ★★★☆

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「社内うつ」とは本当のうつ病ではなく、職場ストレスが引き起こす「適応障害」だという考え。

仕事中だけ「うつ」になる人たち.jpg仕事中だけ「うつ」になる人たち―ストレス社会で生き残る働き方とは』 ('04年/日本経済新聞社)

 心理学者の小杉正太郎氏とワトソン・ワイアットの川上真史氏が、最近増えていると言われる「社内うつ」の問題について、その発生原因やそれを取り除く方法を対談形式で語っています。

070101.jpg 小杉氏は本書で、本当のうつ病(内因性うつ病)は人口の0.3%に過ぎず、今ビジネスの世界で起きているのは「心因性うつ状態」と「適応障害」であるとし、「心因性うつ状態」は死別体験や社会的立場の危機などで生じるが、「適応障害」は特定の人物や状況に遭遇した時だけ生じると言っています。
 そして、「職場ストレスが引き起こす適応障害」を「社内うつ」と呼んでいます。

 個人の体質からくる「うつ病」は完治が難しいが、「社内うつ」は、例えば人間関係のトラブルが原因の場合、その原因となっている相手とのコミュニケーションを改善するなどしてトラブル原因をとり除けば、解決されるであろうと...。

 ストレス問題の解決法として氏は「積極的コーピング」という考え方を示していますが、それは、感情に直接焦点を当てるのではなく、原因となっている問題に焦点を当て解決することに主眼をおいた対処方法のことです。
 むしろ外部の専門家より内部の管理職が意識すべきことかも知れません。
 そのためには、氏の指摘のように「ストレス耐性」などと言って耐えることが美徳とされている企業風土を変えていく必要も感じました。

 一方、川上氏は、企業側から見たマネジメント問題としての提案をしていますが、"ハイパフォーマーを守るための制度"的な考え方が窺えるのが少し気になりました。
 氏のコンピテンシー論も興味深かったのですが、もともと達成動機論(達成動機の高い社員を多くする)だったものを、自分が日本流に行動論にアレンジし、つまり、真似していると同じ気持ちになってくるという方法論として導入したということらしいです。
 興味深い話ですが、そうした「自分がやった」という氏の自負は一体どこから来るのだろうか、やや疑問を感じました。

小杉正太郎.jpg 小杉正太郎 氏 (心理学者/略歴下記)  kawakami.jpg 川上 真史 氏 (ワトソン・ワイアット)

《読書MEMO》
●最近の医学では、「DSM-Ⅳ」というマニュアルが多く採用され、症状の程度と持続期間によって「大うつ病」と「軽症のうつ病(気分変調障害)」に分けている(本書でも「軽症うつ病」という言葉を併せて使用)。

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小杉正太郎 (早稲田大学文学部教授)
1939年生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了。1966年から携わった海底居住の心理学的研究を契機として、環境・ストレス・行動などをキーワードとする心理学的研究に従事。多数の企業にカウンセリングルームを開設し、従業員を対象とした心理ストレス調査と職場適応の援助を実施している。心理ストレス研究の第一人者として執筆活動・講演活動も活発に行う。主な著書に『社内うつ』(講談社)、『ストレス心理学』(川島書店)、『仕事中だけ「うつ」になる人たち』(川上真史氏との共著、日本経済新聞社)などがある。

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