「●リストラクチャリング」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【065】 林 明文 『人事リストラクチャリングの実務』
解雇される者の怒りをいかに最小にとどめるかの指南書。
『上手なクビの切り方』 ['85年/徳間書店]
"Dear Valued Worker, You're Fired" by Lisa Belkin
原題は"How to fire an employee (社員の解雇の仕方)"で、社員側から見れば「冗談じゃないよ」というタイトルですが、前説で経営評論家の青野豊作氏も、この「いかにもアメリカ的な奇書」と言い方をしています。
氏は、本書は「解雇される者の怒りをいかに最小にとどめ、同時の残る従業員の理解を最大にして解雇を効果的に行うか」(214p)という観点から書かれてはいるものの、「解雇通知は、月、火、水のいずれかの曜日の早朝に行う方が良く、金曜日は絶対に避けること」(256p)などのアドバイスには"胡散臭さ"を感じるとし、ただし社員側としてどうしたら首切り攻勢に負けないかを探るうえでの効用がある本と述べています。
著者は大統領の特別人事補佐官だった人ですが、本書には、部下に解雇を言い渡す方法とか、先任権(これはアメリア独特ですが)、職務遂行能力、人事考課の考え方や、解雇に踏み切る前に検討すべき次善策とか、止むを得ず解雇をした場合の不服申立てに対する対応などが、事例をあげてこと細かく書かれていて、アメリカは社'80年代不況で、こうした行動心理学的アプローチでの解雇ノウハウの研究が盛んに行われたことを示しています。
本初邦訳の出版は'85年で、この年のプラザ合意以降、日本はいったん不況に陥りますが、その後持ち直しバブルの頂点へと向かう...。
本書の中で1章を割いている「アウトプレースメント(再就職支援)会社」についても、当時の日本ではほとんど馴染みが無かったでしょう。
日米で企業風土や労働法規の違いこそあれ、書かれていることは行動心理学に根ざしているため、大方はオーソドックスに思われ、本書が「奇書」と見られたのは、当時の日本の状況では、まだリストラに対する実感が一般に湧かなかったのだと思います。
翻訳者の近藤純夫氏はあとがきで、「あらゆる意味で日本をリードするアメリカの現象は、必ずや日本の常識となるといがくる」と述べていますが、その予測は'90年代に的中し、外資系のアウトプレースメント会社にすでに蓄えられていたこの本にあるようなノウハウを、日本の大企業がコンサルティング料を払って教えてもらったりしたわけです。