【050】 ◎ 五十嵐 英憲 『新版 目標管理の本質―個人の充足感と組織の成果を高める』 (2003/04 ダイヤモンド社) ★★★★☆

「●目標管理・人事考課」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【051】 松田 憲二 『社員の業績評価を正しく行なう手順

目標管理の本質を理論的に解説。制度導入の際の心構えの書としても読める。

目標管理2.jpg 『新版 目標管理の本質―個人の充足感と組織の成果を高める』 (2003/04 ダイヤモンド社)

ビジネスシーン 10.jpg 目標管理について書かれた実務書といえば、まず目標管理とは何かという話が序章にあって、導入方法やシートの作成方法などが述べられていたりするのですが、本書は、その「目標管理とは何か」ということにほぼ丸々1冊費やしており、そうした意味では、タイトルに沿った理論書です。内容の堅さはありますが、成果主義に対する批判のなかで目標管理こそ元凶ではないかという声もある中、今一度その本質を理解しておくことは意味があるのではないかと思われます。

 本書で言う目標管理は、ドラッカーの提唱したMBO(Management By Objectives And Self-Control)の考え方に準拠していて、著者は彼の経営思想に沿って企業の目的や社会的責任とは何かということから説き起こし、企業は「共生の価値観」に基づく人間集団であって、マネジメントとは「人と仕事を結びつけること」であると。ならば、MBOとは「チャレンジ目標」を手がかりとしたマネジメントであり、そのことを前提に、By Objectives の意味は何か、And Self-Control をどう解釈するかなどを述べています。

 本書の中核は、「チャレンジ目標」と「セルフ・コントロール」こそ「MBOの基本原理」であることを述べた第6章ではないかと思いますが、そこで著者は、「チャレンジ目標」を設定することの意義を説き、それがノルマ管理と同じにならないようにするには「セルフ・コントロール」されていることが条件であると。「セルフ・コントロール」には内発的動機づけが必要であるとし、そのためのアプローチとして、自己実現欲求の喚起、責任感の醸成、チャレンジ目標の納得設定をあげています。

 著者はそのためのコミュニケーション・コストの増大は覚悟せよ!と言っていますが、個人的にも、このあたり(とりわけ目標設置の「納得性」)がMBOの成否を決めるのではないかと思われ、最終的には著者の言うように、人間関係を円滑化するコミュニケーションがベースになければならず、「聴く姿勢」を持つことなどを通しコミュニケーション・ギャップを解消していくことで、問題解決型コミュニケーションが促進されていくということだと思いました。システムだけ作って「はい、終わり」ではダメで、結局は個々の人間同士の関係性の問題に行き着くのだなあと改めて思いました。

 目標管理というものの基本を押さえるほかに、導入する際の心構えとしても読め、巻末近くでは、MBOと経営戦略の結合、人事評価との関連についても述べられていて、経営・人事戦略におけるMBOの位置づけを再認識するうえでも参考になります。

《読書MEMO》
●「By Objectives」...目標による管理→「チャレンジ目標」を手がかりとしたマネジメント(24p)
●他律統制マネジメント、「人間関係論」の限界→MBO「And Self-Control」
●専門知識活用型マネジメントの押さえどころ→セルフ・コントロールによる「専門能力の開発」、「アメとムチ」に代わる「内なる力」による動機づけ(43p)
●「自己実現欲求の喚起」によるセルフ・コントロール(83p)...ドラッカーはの「Ⅹ理論・Y理論」批判(「Y理論」は楽観的過ぎるとドラッカーは批判)。著者「Y理論の弱点を克服し、Y理論によるマネジメントを機能させることは可能」(93p)
●「チャレンジ目標の納得設定」によるセルフ・コントロール(104p)...目標の「意味づけ」と「見通しづけ」による納得、「上位計画の共感的理解」による納得、「目標達成の見通しづけ」による納得

About this Entry

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1