【019】 ○ 太田 肇 『「外向きサラリーマン」のすすめ―ポスト成果主義の時代をどう生きるか』 (2006/02 朝日新聞社) ★★★☆

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"内向き・外向き"を軸に、サラリーマンの働き方や人事システムに言及。

外向きサラリーマン」のすすめ―ポスト成果主義の時代をどう生きるか.jpg 『「外向きサラリーマン」のすすめ』 〔'06年〕 囲い込み症候群.jpg 『囲い込み症候群―会社・学校・地域の組織病理』 ['01年] 

 本書の狙いは、〈内向き〉〈外向き〉をキーワードに、サラリーマンの働き方と人事システムを掘り下げて考えてみようというもので、前半で〈内向きサラリーマン〉の生む組織の病理を、後半で〈外向きサラリーマン〉の仕事や働きぶり、そしてそれらを生かす人事システムを述べています。

 著者は『囲い込み症候群』('01年/ちくま新書)の中で、そもそも個人では出来ないことを実現するためにつくられた組織が、いつの間に目的から外れ、組織が個人を縛る「囲い込み」症候群に陥るということを指摘していましたが、〈内向き〉という表現は、企業の「囲い込み」姿勢であると同時に、「囲い込まれた側」のとりがちな姿勢として捉えられるかと思います(冒頭の就職学生の急変ぶりは、著者の実感がこもっている)。

 要するに、会社側は「成果主義」を導入したが「囲い込み」は放棄しようとはしなかったわけで、そのために、社員が一体化して顧客や市場から評価を得ようとする「社外競争」よりも、社員間の壁を厚くし社内での限られたパイを奪い合う「社内競争」に拍車がかかり、その結果として成果主義の歪みと言われている現象が起きているが、これは成果主義が良いか悪いかという次元の問題よりも、こうした〈内向き〉の姿勢やシステムを排除しない限りは、これからの時代に生きる企業や人の姿は見えてこないというのが著者の考えです。

 〈外向き〉の人事政策をとった企業の事例は、全社員を個人事業主とするなどといった、一部の先行企業において、それもまだ緒についたばかりのものが多いという感じですが、いつまでも正社員・非正社員といった雇用形態の違いによって処遇の格差づけをしている日本の企業の人事施策に対する著者の批判には、考えさせられるものがあります。
 
 興味深かったのは、米国の人事管理においても組織の論理で個人を統制しているというのは同じであるとし(コンピテンシーなどを持ち出して知的労働まで標準化することに著者は批判的である)、むしろ参考にすべきは、年齢や性別による処遇格差が小さく、残業時間よりも成果を求める〈外向き〉の中国の人事システムや人々の働き方ではないかとしている点でした。
 
 組織論が専門で、「個人を生かす組織・社会、働き方」を研究テーマとしている著者らしい内容で、サラリーマン向けのビジネス書、生き方の本であると同時に、「人事部はいらない?」という章もあり、今ある人事システムの今後の方向性を探るという意味では、企業の人事担当者が読んでも得るものはあるかも知れません。
 photo_ota.jpg 太田 肇 氏 (略歴下記)
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太田 肇
1954年生まれ。同志社大学 政策学部 教授、経済学博士、日本労務学会常任理事。主な研究分野は組織論(「個人を生かす組織・社会、働き方」について)。
主著...お金より名誉のモチベーション論』東洋経済新報社 2007年、『「外向きサラリーマン」のすすめ』朝日新聞社 2006年、『認められたい!』日本経済新聞社 2005年、『ホンネで動かす組織論』ちくま新書 2004年、『選別主義を超えて』 中公新書 2003年、『囲い込み症候群』ちくま新書 2001年、『ベンチャー企業の「仕事」』中公新書 2001年 (中小企業研究奨励賞本賞受賞)、『「個力」を活かせる組織』日本経済新聞社 2000年、『仕事人(しごとじん)と組織』有斐閣 1999年(経営科学文献賞受賞)。

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