「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2264】 マイケル・ビアー 『ハーバードで教える人材戦略』
人事管理のあり方の大きなトレンドに慧眼。「クラスター専門職」育成を説く。
『人事革命―組織・人が生き返る"クラスター戦略"』 〔'87年〕
'05年に79歳で亡くなった津田眞澂・一橋大名誉教授は、日本的経営論や人事管理論、労使関係論の権威でしたが、日本的人事管理に関する多くの著作を残されました(下段参照)。
本書は、'87(昭和62)年の刊行とやや旧いものの、企業に対し産業構造の転換や高齢化社会の到来に備えるための人事制度改革の必要をわかりやすく説いています(ちょうどバブル期前の円高不況期で、この頃は企業側にもそれなりの危機感があったかと思われます)。
また企業にだけでなくビジネスパーソンに向けても、そうした「人事革命」の際に求められる人材とはどういったものかが書かれた一般書で、著者の警告や予言の多くが今日的なものになっていることがわかり、人事マネジメントの大きなトレンドを見据えた慧眼が窺えます。
著者は、情報化社会の到来で、重厚長大産業が育成してきたような 専門職能を持たない従来型のゼネラリストは不要になるとし、当時、伊勢丹や西武などの流通業で導入が始まった「全員専門職」制度を評価しつつ、そこからいかにゼネラルなものを引き出し、広域的な視野を持つマネジャーを育成するかが課題であるとしています。
著者が提案しているのは「クラスター専門職」制度で、"クラスター"には「ブドウの房」という意味もあるように、複数の職業能力を持つ専門職の育成を説いており、これは最近のキャリア開発論にある「T型人材からπ(パイ)型人材へ」という主張に重なるものです。
具体的に人事ローテーションなどの計画的人材育成の段階的手法も示していますが、多くの日本企業が、好景気のときはあまりこうしたことを考えず、不況になるとローテーションするだけの人材ストックが無いという状況を呈したことは皮肉なことだと思います。
《読書MEMO》
●「これからは会社に行っても、社会的欲求を満たすことができない。社会的欲求を満たすだけのストックと能力を、自分のなかに持っていないと、生きていけない時代になったのである」(55p)
●親会社はあくまでも基地として機能し、対等の立場で子会社が機能する"本社・分社制度"が多くなる(80p)
●"何でも屋"でも"その道一筋"の人間でもだめなのである(92p)
●これからのサラリーマンは自立できる準備が必要(100p)