2009年03月20日

【1127】 △ 東 陽一 「サード (1978/03 ATG) ★★★ (○ 藤田 敏八 「帰らざる日々 (1978/08 日活) ★★★☆/× 羽仁 進 「初恋・地獄篇 (1968/05 ATG) ★★)

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寺山修司の色が薄まった「サード」、寺山と羽仁進とのコラボがイマイチの「初恋・地獄変」。

 「サード」('78年3月/ATG)は、少年院にいる“サード”という少年の、大人達から浮ついた励ましの言葉をかけられたところで決して満たされることのない鬱々とした日々を描いた作品。彼は元々、「大きな町へ行く」ことを夢見る高校生男女の4人組の1人で、資金稼ぎに始めた売春がもとで事件を起こし少年院へ送られてきたのだった―。

 寺山修司の脚本で(原作は軒上泊の「九月の町」)ATG映画の中でも評価の高い作品ですが、その脚本をまた撮影段階で大幅に変更したとのことで、寺山修司自身が監督した作品と比べれば当然ですが、この作品単体で見ても寺山の色をあまり感じませんでした。
 ただ、“オシ”という無口な少年をはじめ、“トベチン”、“アキラ”、“漢字”、脱走を試みる“ⅡB”といった少年達は皆、自閉的ながらもユニークで、こういうキャラは寺山の半自伝的作品にもあったかも(そう言えば“短歌”と呼ばれている少年もいた)。

 野球少年だったサードはひたすらホームベースの見えないグランドをぐるぐる走り続ける―ちょっとアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』を想い出しますが、少年院の大人達に対するサード達の抵抗は、教育会で講師が語っているときにオナラをしたり、褒め言葉に対して暴言で返したりする程度で、ボランティアで慰問に訪れた女の子を暴行するのは、彼らの夢想の世界でのことでしかなく、今観れば、ああ、ここにも70年代の“閉塞感”があるなあと…。

 永島敏行(1956年生まれ、この作品が映画初出演)の演技はそれほど悪くないけれども良くもないと言うか、あまり陰が感じられず、同年に主演した藤田敏八(1932‐1997/享年65)監督の「帰らざる日々」('78年8月/日活)でのキャバレーのボーイをしながら作家を志している青年役の方が、まだ演技らしい演技だったかも。

 「サード」における女友達役の森下愛子(1958年生まれ、この作品が映画初出演)の陰のある演技や、「帰らざる日々」で主人公の青年が高校時代に結ばれた相手役の竹田かほり(1958年生まれ、同年の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年4月/日活)が映画初主演)の演技の方が良かったように思います(「桃尻娘」は思春期の女の子をヴィヴィッドに描いて単純に面白かった)。

 寺山修司は「サード」以前にも、羽仁進監督の「初恋・地獄変」('68年/ATG)の脚本を羽仁進と共同で書いていて、これは、救護院にいた少年が彫金師に引き取られて成長する様を、少年の過去と現在を交互に織り交ぜ、そこにインタビューや隠し撮りなどのドキュメンタリーの手法も入れて描いたものですが、こちらは「サード」と違って、寺山の色が薄いと言うより、どの部分が寺山修司でどの部分が(多分ゴダールの影響を受けたらしい)羽仁進の部分かということが、観ていて何となく分かってしまう―その点では、必ずしも成功したコラボだったようには思えませんでした。

「サード」●制作年:1978年●監督:東(ひがし)陽一●製作:前田勝弘●脚本:寺山修司●撮影:川上皓市●音楽:田中未知●原作:軒上泊「九月の町」●時間:103分●出演:永島敏行/吉田次昭/森下愛子/志方亜紀子/片桐夕子/峰岸徹●公開:1978/03●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★)●併映:「祭りの準備」(黒木和雄)

「帰らざる日々」●制作年:1978年●監督:藤田敏八●製作:岡田裕●脚本:藤田敏八/中岡京平●撮影:前田米造●音楽:アリス●原作:中岡京平●時間:99分●出演:江藤潤/永島敏行/朝丘雪路/根岸とし江(根岸季衣)/浅野真弓/竹田かほり ●公開:1978/08●配給:日活●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★☆)●併映:「八月の濡れた砂」/「赤い鳥逃げた?」(藤田敏八)

「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」●制作年:1978年●監督:小原宏裕(おはらこうゆう)●製作:岡田裕●脚本:金子成人●撮影:森勝●音楽:長戸大幸●原作:橋本治「桃尻娘」●時間:87分●出演:竹田かほり/亜湖/高橋淳/野上祐二/桑崎晃男/森川麻美/清水国雄/佐々木梨里/片桐夕子/内田裕也●公開:1978/04●配給:にっかつ●最初に観た場所:池袋文芸座(79-06-03)(評価:★★★☆)●併映:「ふりむけば愛」(大林宣彦)

「初恋・地獄篇」●制作年:1968年●監督:羽仁進●脚本:寺山修司/羽仁進●撮影:奥村祐治●時間:107分●出演: 高橋章夫/石井くに子/満井幸治/ 福田知子/宮戸美佐子●公開:1968/05●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-17)(評価:★★)●併映:「書を捨てよ町へ出よう」(寺山修司)

投稿者 wadamy : 00:16

【1126】 ○ 黒木 和雄 「祭りの準備 (1975/11 ATG) ★★★★ (○ 岡本 喜八 「肉弾 (1968/10 ATG) ★★★☆)

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振り切ってきた過去へのノスタルジーに満ちた「祭りの準備」。ヌード繋がりで見ると…。

祭りの準備.jpg 「祭りの準備 [DVD]」  肉弾.jpg 「肉弾 [DVD]」 (監督:岡本喜八)
黒木和雄.jpg中島丈博.jpg
 「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄
です。
 「青春映画」とは言え青春の真只中でこの作品を観ると、あまりにどろどろしていて結構キツいのではないかという気もしましたが、このどろどろ感が中島丈博の脚本の特色とも言えます。
                                                 中島丈博/黒木和雄
                                                          (1930‐2006/享年75)
 父親(ハナ肇)は女狂い、祖父(浜村純)はボケ老人、母親(馬渕晴子)は主人公の青年を溺愛し、彼は二十歳にしてそこから逃れられないでいて、心の恋人(竹下景子)も片思いの対象でしかなく、結局、男達の性欲の捌け口となっている狂った女(桂木梨江)と寝てしてしまうが、その女が妊娠したらしいことがわかる―。

祭りの準備1.jpg 青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの“心の恋人”に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。

祭りの準備3.jpg こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ちを駅のホームで万歳して見送るのが、泥棒一家の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身であるの男で(原田芳雄、いい味出している)、創作の要素はあるとは言え、この映画には原作者が過去に振り切ってきた諸々に対するノスタルジーが詰まっている感じがします。

 竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目で、この作品はそのヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型だった)、この後清純派(?)で売り出し、“お嫁さんにしたい女性No.1”などと言われたために付加価値が出たのでしょうか。

 デビュー時乃至デビュー間もない頃のヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)「旅の重さ」('72年/松竹)高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)「はつ恋」('75年/東宝)仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

肉弾3.jpg肉弾 寺田農.jpg この作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした。
岡本喜八.jpg
 彼女が全裸で土砂降りの雨の中を走るシーンは衝撃的で、モノクロ映画ゆえに却ってその美しさは印象に残りましたが(結構グラマラスでもあるが、タイトルの肉弾という言葉は、「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のことを指し、彼女のことを指すのではない)、かの特攻隊員は、そこで初めて自らが守るべきものを見出し、空襲で彼女が犠牲になったことで復讐心から戦闘意欲に燃え、魚雷と共に太平洋に出るという―これ、岡本喜八ならではのアイロニーなのですが、笑えるようでやっぱり笑えないなあ。
                                                    岡本喜八
                                                (1924- 2005/享年81)
大谷直子 in 「肉弾」
肉弾 大谷直子1.jpg肉弾 大谷直子4.jpg肉弾 大谷直子2.jpg肉弾 大谷直子3.jpg

「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄//杉本美樹/桂木梨江●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★☆)●併映:「サード」(東陽一)

「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音楽:佐藤勝●時間:116分●出演:寺田農/大谷直子/天本英世/笠智衆/北林谷栄●公開:1968/10●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05)(評価:★★★)●併映:「人間蒸発」(今村昌平)

      

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投稿者 wadamy : 00:04

2009年03月15日

【1125】 ○ 相米 慎二 「台風クラブ (1985/08 東宝=ATG) ★★★★ (○ 石井 聰互 「逆噴射家族 (1984/06 ATG) ★★★☆)

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工藤夕貴の演技がいい「台風クラブ」。少女を撮るのが上手だった故・相米慎二監督。

台風クラブ.jpg 「台風クラブ [DVD]」 逆噴射家族.jpg 「逆噴射家族 [DVD]」 (監督:石井聰互)

台風クラブ1.jpg「台風クラブ」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:宮坂進●脚本: 加藤裕司●撮影:伊藤昭裕●音楽:三枝成章●時間:85分●出演:工藤夕貴/三上祐一/大西結花/三浦友和/佐藤充/寺田農/尾美としのり/鶴見辰吾●公開:1985/08●配給:東宝=ATG●最初に観た場所:不明(1986/9/20)(評価:★★★★)●併映:「時代屋の女房」(森崎東)

 地方都市の女子中学生たちが、学校のプールに夜中に泳ぎにやってきて、先に来ていた男子生徒にイタズラをするが、度が過ぎて溺死寸前の状態に追い込んでしまう。翌朝、ニュースでは台風の接近を告げていた―。

台風クラブ ポスター.jpg 「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)は、台風の接近に伴い、言いようのない感情の昂ぶりを見せ騒乱状態に陥る中学生たちを生々しく且つ瑞々しく描き出した作品で、三浦友和が不良っぽい教師役で出ていて、彼のイメージチェンジ作品となりました。

 しかし何と言っても女子中学生役の工藤夕貴が、中学生の日常とそこに潜む思春期の生理的・精神的危うさを演じて秀逸で、何か自分でそうしたものを観察でもしたかのような相米慎二監督の演出が際立っています。

 実際、女子中学生の私生活を「長回し」で写し撮っているような感じのシーンもあり、今ならば児童保護の名目で規制の対象になりそうな際どい場面もあって、更にストーリー的にも結構どろどろした出来事がありますが、そうしたことも含め、「観察対象」としての距離を置いて撮っているような感じもします。

 そして台風一過、中学生たちは何事もなかったかのようにまた元気に学校に通い出す―でも実際には、台風が来る前に比べぐっと大人に近づいているという、 “大人になるための出来事”を台風に絡めているところが旨く、また、女子中学生の方が男子よりも逞しく描かれているように思いました。

相米慎二.jpg 相米慎二(1948‐2001/享年53)監督は、薬師丸ひろ子主演の「セーラー服と機関銃」('81年)の後に夏目雅子主演の「魚影の群れ」('83年)や斉藤由貴主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)などを撮り、そして工藤夕貴主演のこの作品「台風クラブ」を撮っていますが、その内夏目雅子を除いて当時皆二十歳未満で、斉藤由貴は映画初出演で主演、工藤夕貴もこの作品が初主演でした。
 何だか新人専門みたいですが、とりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった?(工藤夕貴は作中の少女同様、まだ中学生だった)。

逆噴射家族1.jpg 工藤夕貴の映画初出演は、この作品の前年の石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)で、真面目で小心者のサラリーマン(小林克也)が長期ローンでやっとマイホームを建て、家族4人でそれなりの幸せ気分でいたところに(この家族が変人揃いで皆それぞれ勝手気儘というかバラバラなのだが、その1人が工藤夕貴演じる娘)、郷里からまた変な祖父(植木等)が舞い込んで来て家の中がおかしくなりだし、更にある日、このサラリーマン氏が自宅でシロアリの群れを発見して、マイホームが朽ちるのではとの不安に駆られ、シロアリ駆除に向けて大暴走するというものです。

逆噴射家族 1.png 小林よしのり氏(当時31歳)の原案だそうですが、映画としてはあくまでも石井聰互監督(当時27歳)の映画という感じで、DJ・小林克也の演技は役者並みだし、ちょっと狂い気味の妻役の倍賞美津子や、植木等の怪しい老人ぶりもいい。
 更には工藤夕貴の兄を演じた有薗芳記の電脳オタクぶりも、映画初出演ながら凄かった―ということで、工藤夕貴のぶっ飛び感も、これらに比べるとちょっと弱かったかも知れません(“緊縛シーン”(?)に象徴されるように、彼らの被害者的立場という色合いが強い役柄のせいもあったが)。
逆噴射家族 2.png
 海外の映画祭でもグランプリなどを獲っている作品ですが、狂気を描くことが目的化してしまっている面も感じられ、むしろ異価値・異文化的な面で海外に受けたのかなあ。

「逆噴射家族」●制作年:1984年●監督:石井聰互●製作:長谷川和彦/山根豊次/佐々木史郎●脚本:石井聰亙/小林よしのり/神波史男●撮影:田村正毅●時間:106分●出演:小林克也/倍賞美津子/植木等/工藤夕貴/有薗芳記●公開:1984/06●配給:ATG(評価:★★★☆)●最初に観た場所:不明(85-11-04)(評価:★★★★)●併映:「お葬式」(伊丹十三)

  逆噴射家族 チラシ.jpg 「逆噴射家族」 チラシ

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投稿者 wadamy : 22:56

【1124】 ◎ 周防 正行 「シコふんじゃった。 (1992/01 東宝) ★★★★★ (○ 周防 正行 「Shall We ダンス? (1996/01 大映) ★★★☆)

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すっかりハマってしまった「シコふんじゃった。」。取材がしっかりしている。

シコふんじゃった。.jpgシコふんじゃった。 [DVD]」 Shall We ダンス?.jpg 「Shall We ダンス? [DVD]

シコふんじゃった.jpg 就職先も決まっていた教立大学4年の秋平(本木雅弘)は、ある日、卒論指導教授の穴山(柄本明)に呼び出され、授業に一度も出席しなかったことを理由に、卒業と引き換えに穴山が顧問をする相撲部の試合に出るよう頼まれる―。

 「シコふんじゃった。」('91年/東宝)は、ひょんなことから相撲部に入ることになった大学生の奮闘を描いたもので、スポ根モノとして良くできている“佳作”―と言うより、観ていてすっかり嵌ってしまった自分を振り返れば、個人的には“大傑作”だったということになるでしょうか。

シコふんじゃった2.jpg 何故そんなに面白かったのかを考えるに、劇画チックではあるけれど、スポ根モノとしては極めてオーソドックな展開で、観る側に充分なカタルシス効果を与えると共に、きっちりした取材の跡が随所に窺えること、何よりもそのことが大きな理由ではないかと。
 大学相撲部(それも弱小の)という特殊な世界に関して、その背景が細部までしっかり描き込まれているから、“8年生”部員を演じる竹中直人のオーバーアクション気味の演技も、線画のしっかりしたマンガのようにすっと受け容れることが出来、楽しめたのかも知れません。

Shall We ダンス.jpg 同じく周防監督の「Shall We ダンス?」('96年/東宝)も、充分な取材の跡が感じられ、内容的にみても、多くの賞を受賞しハリウッド映画としてリメイクされるぐらいですから悪くはないのですが、この監督のカタルシス効果の編成方法が大体見えてきてしまったというのはある…。

 それと、「シコふんじゃった。」で竹中直人が演じていたコミカルな部分を、今度は竹中直人と渡辺えり子の2人が演じていて、片や役所広司と草刈民世のストイックなメインストーリーがあるにしても、2人分に増えたオーバーアクション(加えて竹中直人分は「シコふんじゃった。」の時より増幅されている)にはやや辟易させられました。

Shall We ダンス.jpg 但し、草刈民世を(演技的には無理させないで)キレイに撮っているなあという感じはして、外国の映画監督でもそうですが、ヒロインの女優が監督の恋愛対象となっている時は、女優自身の魅力をよく引き出しているということが言えるのでは。

 キャリアの初期に、ユニークで面白い、或いは骨太でパワフルな作品を撮っていた監督が、メジャーになってから、大作ながらもその人らしさの見えない、誰が監督しても同じようなつまらない作品ばかり撮っているというケースは多いけれども、この監督は、綿密な取材を通しての自分なりの映画づくりの路線を堅持するタイプに思え、引き続き期待が持てました。
                                                    渡辺えり子/竹中直人

「シコふんじゃった。」●制作年:1991年●監督・脚本:周防正行●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:105分●出演:本木雅弘/清水美砂/柄本明/竹中直人/水島かおり/田口浩正/六平直政●公開:1992/01●配給:東宝(評価:★★★★★

「Shall We ダンス?」●制作年:1996年●監督・脚本:周防正行●製作:徳間康快●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:136分●出演:役所広司/草刈民代/竹中直人/田口浩正/徳井優/宝井誠明/渡辺えり子/柄本明/原日出子/草村礼子/森山周一郎/清水美砂●公開:1996/01●配給:大映(評価:★★★☆)

    

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投稿者 wadamy : 22:38

【1123】 ○ 崔 洋一 「十階のモスキート (1983/07 ATG) ★★★☆ (○ 崔 洋一 「月はどっちに出ている (1993/11 シネカノン) ★★★★)

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荒削りだが骨太感がある崔洋一監督のデビュー作「十階のモスキート」。

十階のモスキート.jpg 「十階のモスキート [DVD]」 月はどっちに出ている.jpg月はどっちに出ている [VHS]

十階のモスキート1.jpg「十階のモスキート」●制作年:1983年●監督:崔洋一●製作:結城良煕●脚本:内田裕也/崔洋一●撮影:森勝●音楽:大野克夫●時間:108分●出演:内田裕也/アン・ルイス/小泉今日子/中村れい子/宮下順子●公開:1983/07●配給:ATG●最初に観た場所:大井ロマン(83-11-20)(評価:★★★☆)●併映:「シャッフル」(石井聰互)

 出世の見込みも無く、妻にも離婚された警察官の男は、原宿のロックンロール族に狂って家を出た娘がたまに金をせびりに男の住まう団地の十階を訪ねた時だけは甘い父親になるが、それ以外では酒とギャンブルとセックスに浸る虚無的で堕落し切った暮らしぶりで、元妻への慰謝料や毎月の養育費、バーのツケやギャンブルの借金に追われ、ついには昇進試験の勉強のためにサラ金から借金して購入したパソコンを団地の窓から放り投げ、そのまま郵便局へ駆け込み強盗を図る―。
十階のモスキート2.jpg
 「十階のモスキート」('83年/ATG)は崔洋一監督のデビュー作で、映画としての作りは粗く、主人公の警察官の短絡行動にはただ呆れるばかりであるはずであるのに、何か観ていて身につまされるような痛々しさを感じるのはなぜだろうか。
 若松孝二監督の「水のないプール」('82年/東映セントラル)などで既に俳優としても注目されていた内田裕也が、経済的に追い詰められることで徐々に精神的にも追い詰められていく主人公を好演していて、最後はちょっとシュールな感じですが、こうした現実感覚を喪失しているようなヤケクソ気味の犯罪は、最近はたまにあったりするのではないでしょうか。

 デビュー間もない小泉今日子が、内田裕也の娘の女子高校生役で登場するほか(この映画が上映される少し前に“竹の子族”というのが流行っていたが、まさにその役)、ビートたけしがチョイ役ながら競艇の予想屋で出てきますが、存在感充分でした(この人、役者としては“脇”の方がいいような…)。
                                     小泉今日子の映画デビュー作
月はどっちに出ている1.jpg
 後に「月はどっちに出ている」('93年/シネカノン)で国内の映画賞を総なめにする崔監督ですが、在日コリアンのタクシー運転手とフィリピーナの恋を軸に描いたこの作品は、在日外国人の日常をコミカルに描いていて細部の描写も冴えていたように思います(原作は梁石日の自伝的小説『タクシー狂騒曲』)。
 また、岸谷五朗はじめ役者陣も良く、有薗芳記の「ホソ」は特に秀逸、ルビー・モレノも多くの演技賞を受賞しましたが、今思えばこれは監督の演出力のお陰だったのではないかと。

 「月はどっちに出ている」の方が完成度では勝るように思いますが、ただ、こういう映画を撮るのだという骨太感ではこのデビュー作も劣っていないように思います(メジャーになると、だんだんそうしたものが失われることが往々にしてあるが)。
                                         岸谷五朗/ルビー・モレノ

「月はどっちに出ている」●制作年:1993年●監督:崔洋一●製作:李鳳宇/青木勝彦●脚本:内田裕也/崔洋一●撮影:藤澤順一●音楽:佐久間正英●原作/梁石日「タクシー狂操曲」●時間:108分●出演:岸谷五朗/ルビー・モレノ/絵沢萠子/小木茂光/遠藤憲一/有薗芳記/麿赤児/國村隼/芹沢正和/金田明夫/内藤陳●公開:1993/11●配給:シネカノン(評価:★★★☆)

   

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投稿者 wadamy : 00:12

【1122】 ○ 清水 邦夫/田原 総一郎 「あらかじめ失われた恋人たちよ (1971/11 ATG) ★★★★ (○ 神代 辰巳 「赫い髪の女 (1979/02 にっかつ) ★★★★)

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石橋蓮司主演2作。時代の空疎感伝える「あらかじめ…」と中上文学を再現した佳作「赫い髪の女」。

あらかじめ失われた恋人たちよ プレス.jpg「あらかじめ失われた恋人たちよ」チラシ 赫い髪の女.jpg 「赫い髪の女 [DVD]」(監督:神代辰巳)

あらかじめ失われた恋人たちよ.jpg 棒高跳びでのオリンピック出場の夢を断たれて自棄になり、強盗を働きながら日本中を放浪していた青年(石橋蓮司)はある日、日本海のある街のスーパーの開店イベントで、全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする唖の男女(加納典明・桃井かおり)の姿に目を奪われ、彼らにつきまとい始める―。                          

 「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)は、劇作家の清水邦夫と当時「東京12チャンネル」のディレクターだった田原総一郎(この人、最初は岩波映画でカメラ助手をやっていた)の共同脚本・共同監督作品で、桃井かおりのデビュー作であり、今は写真家になっている加納典明なども出ている映画ですが、今の田原総一郎、加納典明とこの映画とは、自分の中では長い間リンクしなかったような気がします。    加納典明/桃井かおり/石橋蓮司                    

 ストーリーはあるものの、多少前衛がかっていて(加納・桃井が喋らないので石橋の独白で話は進む)、地下演劇的なムードもあるかも(田舎でやる白黒ショーは何となく土俗的)。
加えて、タイトルもしゃれているし何だか難しそうですが、少なくとも「あらかじめ失われた」ものが第一義的には「言葉」であることは、容易にわかるのではないでしょうか(だから、言葉を駆使している評論家・田原総一郎、カメラマン・加納典明とリンクしない?)。 

内灘夫人.jpg 後半の主要舞台は金沢郊外の内灘砂丘ですが、かつてここで米軍の試射場設置に対する反対闘争があったわけで、この作品にも試写場の廃墟が出てきます。
 五木寛之が60年安保の余韻を伝える作品『内灘夫人』を発表したのが'68年、しかしながらこの映画の公開は’71年で、もう既に70年安保という“政治の季節”が終わってしまったようなムードが、作品の中にもどことなくあります。

 というわけで、面白いと言うよりもどちらかと言えば一時代の記念碑的な作品ですが、石橋蓮司のパフォーマンス的な演技がその時代の空疎感、閉塞感をよく伝えていて、神代(くましろ)辰巳監督の「赫い髪の女」といいこの作品といい、70年代の石橋蓮司っていいなあと思います。

赫い髪の女 poster.jpg赫い髪の女2.jpg 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は中上健次の原作で、ダンプ運転手(石橋蓮司)といきずりの女(宮下順子)の愛欲の生活をリアルに描いた作品ですが、雨のジトジト降る日に狭いアパートの一室で、セックスの合間にインスタントラーメンを音をたてて啜る2人が、どういうわけか個人的にはすごく印象的でした。
 この作品も時代の閉塞を表していると言えるかも知れません
赫い髪の女3.jpg(一体70年代のいつからいつまで“閉塞”状況だったのか、70年代がずーっと閉塞状況だったか、自分にはよくわからないが)。

 こちらはDVD化されているので、再見しようと思えばいつでも観ることができるのですが、出来れば劇場で観たい作品です(自分がこの作品を最初に観た「銀座並木座」は閉館してしまったが)。
 中上健次の原作のムードを損なわずに丁寧に撮られた佳作だったと思います。                                 石橋蓮司/宮下順子

「あらかじめ失われた恋人たちよ」●制作年:1971年●監督・脚本:清水邦夫/田原総一郎●撮影:奥村祐治●音楽:成毛滋●時間:123分●出演:石橋蓮司/桃井かおり/加納典明/岩淵達治/内田ゆき/正城睦子/緑魔子/カルメン・マキ/蟹江敬三/蜷川幸雄●公開:1971/11●配給:ATG●最初に観た場所:文芸地下 (79-11-25)(評価:★★★★)●併映:「エロスは甘き香り」(藤田敏八)
並木座.jpg
「赫い髪の女」●制作年:1979年●監督:神代辰巳●製作:三浦朗●脚本:本:荒井晴彦●撮影:前田米造●音楽:憂歌団●原作/中上健次「赫髪」●時間:108分●出演:宮下順子/石橋蓮司/亜湖/阿藤海/三谷昇/山口美也子/絵沢萠子/山谷初男●公開:1979/02●配給:にっかつ(評価:★★★★)●最初に観た場所:銀座並木座 (79-06-03)(評価:★★★★)●併映:「女教師」(田中登)

                                        銀座並木座
                                        1998(平成10)年9月22日閉館

   

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投稿者 wadamy : 00:05

2009年03月14日

【1121】 ○ 森 一生 「ある殺し屋 (1967/04 大映) ★★★★ (? 木村 恵吾 「初春狸御殿 (1959/12 大映) ★★★?)

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現代劇にもぴったりハマった市川雷蔵の「ある殺し屋」。カルト的珍品?「初春狸御殿」。

ある殺し屋dvd.jpgある殺し屋 [DVD]初春狸御殿.jpg初春狸御殿 [DVD]」(市川雷蔵・若尾文子・勝新太郎)
ある殺し屋3.jpg 「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/小林幸子/小池朝雄●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)

ある殺し屋.jpg 「ある殺し屋」('67年/大映)は、普段は一杯飲屋の主人で刺身魚を自ら捌いたりしているというありきたりの市井の男だが、実はその裏の正体は、大物ヤクザの親分の暗殺などの仕事を大金で請け負い、それがどんな困難なものであっても完遂するプロの殺し屋(武器としても用いるのは太い針)―というそのような役どころを、市川雷蔵(1931-1969/享年37)がニヒルかつスマートに演じている作品で、続編が1作だけ作られています。

ある殺し屋2.jpg 助けてやった女(野川由美子)に付きまとわれてもそれを一向に相手にせず、仲間のフリをして寄ってくるヤクザ(成田三樹夫)に裏切られても、全て織り込みで既に手は打ってある―あまりにストイックかつクールで、ストーリーだけで見ると非現実的なB級(C級とでも言うか)作品になりそうなものですが、市川雷蔵が演じると、殺し屋稼業をしている時でも何だかサラリーマン風にも見えたりして、そうしたステレオタイプのハードボイルド・ヒーローとのギャップ感がなかなかいいリアリティを醸していて、時にはそれが却って凄みになったりもしています。
 口数は少ないが男気も秘めており、結局、女よりも男が惚れる男というのはこういうものかと納得させられる、心地よいB級ハードボイルド作品となっています。
                                 野川由美子/市川雷蔵

 市川雷蔵は映画史上最高の時代劇スターと謳われた名優で、映画も「眠狂四郎シリーズ」や「大菩薩峠シリーズ」など数的には時代劇の方の出演が主なのですが、現代劇でもこんなにしっくり来る歌舞伎界出身の俳優は少ないのではないかと思われ、夭折したことが惜しまれます。
 現代劇に出ている時は歌舞伎役者的なニオイがキレイさっぱり無くなるタイプで、そうした系統では、同じく眠狂四郎を演じた片岡孝男(現・片岡仁左衛門)などがいましたが(田村正和も演じていたなあ)、ちょっとそれらと比較にならないかも(早逝したことも、イメージが損なわれないという意味ではプラスに働いているが)。
初春狸御殿 poster.jpg
 この人の時代劇の方は劇場ではあまり観ていないのですが、木村恵吾監督の「初春狸御殿」('59年/大映)というのは“珍品”。
 所謂“マゲものミュージカル”という類で、時代劇なのに若尾文子が演じるお姫様が着物にネックレスをしているというのが可笑しく、あの勝新太郎が完璧な二枚目役者として出ています。
 木村恵吾監督はこれ以前にも「狸御殿」「歌う狸御殿」「春爛漫狸祭」「花くらべ狸御殿」を撮っていて(「初春狸御殿」はシリーズ最終作)、50年代にこうした陽気な大衆映画が受けた時期があったことを知っている人がどれぐらいいるか分かりませんが、今の若い人にとってはある種のカルトムービー的位置づけになるのかも。

「初春狸御殿」●制作年:1959年●監督・脚本:木村恵吾●製作:三浦信夫●撮影:今井ひろし●音楽:吉田正●時間:95分●出演:市川雷蔵/若尾文子/勝新太郎/中村玉緒/金田一敦子/仁木多鶴子/水谷良重/中村雁治郎/真城千都世/近藤美恵子/楠トシエ/トニー・谷/菅井一郎/江戸屋猫八/三遊亭小金馬/左卜全●公開:1959/12●配給:大映●最初に観た場所:大井武蔵野館 (86-11-15)(評価:★★★?)●併映:「真田風雲録」(加藤泰)

      

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投稿者 wadamy : 23:12

2009年03月09日

【1117】 ○ 森田 芳光 「家族ゲーム (1983/06 ATG) ★★★☆ (△ 森田 芳光 「それから (1985/07 東映) ★★☆/○ 森田 芳光 「の・ようなもの (1981/09 N.E.W.S.コーポレーション) ★★★☆)

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森田作品は出来にムラあり(?)。80年代前半の松田優作と秋吉久美子がいい。

家族ゲーム.jpg家族ゲーム [DVD]」 森田 芳光 「それから」.jpgそれから [DVD]」 の・ようなもの.jpg  「の・ようなもの [DVD]

家族ゲーム1.jpg 森田芳光監督・脚本の「家族ゲーム」('83年/ATG)は、家族が食卓に横一列に並んで食事するシーンなど凝ったカットの多い作品でしたが、個人的には、川沿いの団地へ松田優作が演じる家庭教師が小舟に乗って赴く冒頭シーンと、教え子が無事に志望校に合格した後の家族全員の食事の席で、その家庭教師が食卓をぐちゃぐちゃにしてしまうラストが印象的でした。
 冒頭シーンはアクション映画のパロディ(?)。ラストはかなり唐突な感じもしましたが、全体を通して、松田優作のぼそぼそっと小声で早口で話す演技は、映画の家庭教師の特異なキャラクターとよくマッチしていたように思います。

「家族ゲーム」●制作年:1983年●監督・脚本:森田芳光●製作:佐々木志郎/岡田裕/佐々木史朗●撮影:前田米造●原作:本間洋平「家族ゲーム」●時間:106分●出演:松田優作/伊丹十三/由紀さおり/宮川一朗太●公開:1983/06●配給:ATG●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (84-02-11)(評価:★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)

探偵物語.jpg 松田優作(1949‐1989/享年40)は、NTV系ドラマ「探偵物語」(ハードボイルド作家・翻訳家の小鷹信光の原案)や、根岸吉太郎監督の「探偵物語」('83年/角川春樹事務所)(赤川次郎が薬師丸ひろ子のために書き下ろした小説が原作で、TV版とは別物)で見せたような、コミカルな面のある軽めのキャラクターがハマっていたように思い、また彼自身、自然体でそうした役柄を演じているように感じました。
 但し、映画の方のストーリーはイマイチで、恋愛ドラマ的要素が入る分、薬師丸ひろ子の演技力不足が痛いし(彼女を相手に演技している松田優作がやや気の毒)、TV版の方がハードボイルド・ヒーローでありながらずっこけたような面があるという点で、より“優作らしい”演技だったと言えるかも。

「探偵物語」●制作年:1983年●監督:根岸吉太郎●製作:角川春樹●脚本:鎌田敏夫●撮影:仙元誠三●音楽:加藤和彦●原作:赤川次郎●時間:106分●出演:薬師丸ひろ子/松田優/秋川リサ/岸田今日子/北詰友樹/坂上味和●公開:1983/07●配給:角川春樹事務所●最初に観た場所:東急名画座 (83-07-17)(評価:★★☆)●併映:「時をかける少女」(大林宣彦)

それから.jpg そうした意味では、森田芳光監督と再び組んだ「それから」('85年/東映)は、評論家の評価は高かったですが、個人的にはミスキャストだったように思え(何だか肩に力入り過ぎ)、作品自体も漱石の原作のイメージ(勝手に自分が抱いているイメージだが)とやや食い違ったものになってしまったような気がします。

「それから」●制作年:1985年●監督:森田芳光●製作:黒沢満/藤峰貞利樹●脚本:筒井ともみ●撮影:前田米造●音楽:梅林茂●原作:夏目漱石●時間:130分●出演:松田優作/藤谷美和子/小林薫/笠智衆/中村嘉葎雄/草笛光子/風間杜夫/美保純/イッセー尾形●公開:1985/07●配給:東映●最初に観た場所:新宿ミラノ座 (85-11-17)(評価:★★☆)

の・ようなもの3.gifの・ようなもの1.jpg 森田芳光監督には、「の・ようなもの」('81年/N.E.W.S.コーポレーション)というある若手の落語家の日常と恋を描いた劇場用映画デビュー作があり、映画のつくりそのものはやや荒削りな面もありましたが、落語家の世界の描写に関しては丹念な取材の跡がみてとれ、落語家志望の青年に扮する伊藤克信のとぼけた個性もいいし、彼が通うソープ嬢役の秋吉久美子も“軽め”のしっとりした演技で好演しています。
の・ようなもの2.jpg
「の・ようなもの」●制作年:1981年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:渡部眞●音楽:塩村宰●時間:103分●出演:秋吉久美子/伊藤克信/尾藤イサオ/でんでん/小林まさひろ●公開:1981/09●配給:N.E.W.S.コーポレーション=日本へラルド映画●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「ウィークエンド・シャッフル」(中村幻児)
愛と平成の色男.png
 結局、森田芳光という監督の演出力はよくわかりません。監督の力量なのか役者のお陰なのか…。
 「愛と平成の色男」('89年/松竹)などは、ストーリーもどうしょうもないし(石田純一にぴったりとも言えるが)、役者もみんな下手くそなのに、結果として、当時殆ど新人に近かった鈴木保奈美、財前直美、鈴木京香、武田久美子という4人の女優をいっぺんに発掘したことになっているし…(鈴木京香などは、この映画を機にNHKの朝の連ドラに抜擢された)。

「愛と平成の色男」●制作年:1989年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:仙元誠三●音楽:野力奏一●時間:96分●出演:石田純一/鈴木保奈美/財前直見/武田久美子/鈴木京香/久保京子●公開:1989/07●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹 (89-07-15)(評価:★☆)●併映:「バカヤロー!2」(森田芳光)

さらば愛しき大地 poster.jpgウィークエンド・シャッフル.pngウィークエンド・シャッフル2.jpg 秋吉久美子は柳町光男監督の「さらば愛しき大地」('82年/プロダクション群狼)のような重い作品でその演技力を見せつける一方、中村幻児監督の「ウィークエンド・シャッフル」('82年/幻児プロ=らんだむはうす)では、「の・ようなもの」以上に軽いノリで演じています。
 強盗(泉谷しげる)が主婦らに児童誘拐犯と間違えられ、さらに主婦(秋吉久美子)の偽夫の役回りを演じさせられるというハチャメチャなストーリーの原作は筒井康隆で、秋吉久美子、池波志乃、秋川リサら女優陣が惜しげもなく脱いでいますが、スラップスティク・コメディ調であるためにベタベタした現実感がなく、さらっと乾いた感じの作品に仕上がっています。
 秋吉久美子って演技の幅が広かったなあと、改めて思わされます。

「ウィークエンド・シャッフル」●制作年:1982年●監督:中村幻児●製作:渡辺正憲●脚本:中村幻児/吉本昌弘●撮影:鈴木史郎●音楽:山下洋輔●原作:筒井康隆「ウィークエンド・シャッフル」●時間:104分●出演:秋吉久美子/伊武雅刀/泉谷しげる/池波志乃/渡辺えり子/秋川リサ/新井康弘/村上不二夫/尾口康生/永井英里/野上正義/芦川誠/春風亭小朝/美保純●公開:1982/10●配給:幻児プロ=らんだむはうす●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「の・ようなもの」(森田芳光)

           

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投稿者 wadamy : 00:09

2009年03月07日

【1114】 ◎ 熊井 啓 「地の群れ (1970/01 ATG) ★★★★★

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差別される側の集団が互いに集団間で差別し合うという、やるせない構図を浮き彫りに。

地の群れ ポスター.jpg 地の群れ2.jpg 地の群れ.jpg地の群れ [VHS]」 ['87年]
                                 
地の群れ スチール.jpg 佐世保の開業医・宇南(鈴木瑞穂)は、被爆者が寄り集まった海塔新田、またの名を“ピカドン部落”と呼ばれる地域で原爆症と思われる少女を診療するが、母親(奈良岡朋子)は、被爆者が受けていた差別を思い頑強に否定する。
 一方、海塔新田出身の少年・信夫(寺田誠)は原爆病で死んだ母親似のマリア像を盗んだことで大人たちに折檻されて以来すさんだ性格になり、被差別部落の少女・徳子(紀比呂子)が強姦される事件があった際に、彼女と顔見知りであったことから警察に呼び出される。
 犯人の体にケロイドがあったという徳子の証言から、信夫は海塔新田に住む真犯人の真(岡倉俊彦)を突き止めて父親(宇野重吉)の前で自分の無実を訴え、更に、徳子の母親(北林谷栄)が信夫の手引きで真の家を訪ね父親と言い争いになるが、思わず被爆者を罵る言葉を吐いたため、海塔新田の住人たちから投石を浴び、投げつけられたトタン板の破片で喉を切られたのが致命傷となって死に、信夫も仲間を売ったとして海塔  “ピカドン部落”の住民から投石を浴びる徳子の母親(北林谷栄)
新田を追放され、逃げ込んだ徳子の部落でも敵として
追われる―。        

 被爆者、被差別部落、朝鮮人という差別される側の3つの集団が互いに集団間で差別し合うという、極めてやるせない構図(それは、差別というものが醸成されるメカニズムを示唆しているとも言える)がリアルな出来事を通して描かれていて、この物語の語り部的存在である医師・宇南も、被差別部落の関係者であり、それだけではなく、妊娠させた朝鮮人の娘を自殺に追い込んだという過去があり、更には、原爆投下直後の長崎において父親を探して歩き回った経験から今も原爆症に怯えているという、3つの差別の要素の全てに関与しているというのが、この映画の重さを象徴しています(だからこそ、宇南は語り部たり得るのかも知れないが)。

 鶏を食い殺した大量のネズミが炎でメラメラと焼かれていくタイトルバックはショッキングですが、映画の中での人間の所為は、そうした映像に符号してしまう残酷さを孕んでおり、とりわけ徳子の母親(北林谷栄)が石を投げつけられるシーンと、それを庇おうとする娘・徳子(紀比呂子)の悲痛な表情は、強く印象に残るものでした。
熊井啓.jpg
 熊井啓(1930‐2007/享年77)監督の「黒部の太陽」('68年)、「サンダカン八番娼館 望郷」('74年)に先立つ作品で、製作に際して「黒部の太陽」が予算約4億円だったのに対し、この作品の予算は1千万円しかなかったとのこと。
 監督自らが発掘した紀比呂子は、周囲のベテラン演技陣に支えられながらも、その瑞々しい演技で注目を浴び、この作品出演後、テレビドラマ「アテンションプリーズ」の主役に抜擢されていますが(このドラマは'06年に上戸彩主演でリメイクされた)、女優・三條美紀の娘であり、役者の血は争えないといったところでしょうか。

 この骨太と言っていい作品の原作は井上光晴(1926‐1992/享年66)。安部公房(1924‐1993)、埴谷雄高(1909‐1997)らと並ぶ純文学作家で、「ゆきゆきて、神軍」の映画監督・原一男が癌に冒された晩年を取材したドキュメンタリー映画「全身小説家」('94年)でも知られています。

「地の群れ」●制作年:1970年●監督:熊井啓●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:熊井啓/井上光晴●撮影:墨谷尚之●音楽:松村禎三●原作:井上光晴「地の群れ」●時間:127分●出演:鈴木瑞穂/寺田誠/紀比呂子/宇野重吉/松本典子/北林谷栄/奈良岡朋子/佐野浅夫/水原英子/小川吉信●公開:1970/01●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-01)(評価:★★★★★)●併映:「絞死刑」(大島渚)

       

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投稿者 wadamy : 23:14

2008年12月05日

【1057】 ? 衣笠 貞之助 「狂った一頁 (1926/09 衣笠映画連盟) ★★★? (? ピーター・ブルック 「マラー/サド」 (67年/英) (1968/11 ユナイト=ATG) ★★★?)

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徳川無声に弁士としてついて欲しかったところ。

狂った一頁0.jpg 「狂った一頁」  狂った一頁/十字路.jpg 「岩波ホール」公開時ポスター (1975.10)

狂った一頁1.jpg 川端康成や横光利一ら、当時「新感覚派」と呼ばれた若い才人たちが脚本に参加して生みだした実験的無声映画。
 主人公の元船乗りの男は、かつて自分のせいで妻を追い詰めて狂人にしてしまったことに対する自責の念から、今は妻の入院する精神病院の小間使いをしているのだが、そこに玉の輿の結婚話を控えた娘がやって来て、母親が狂人であるために結婚できないと言う。小間使いは妻を精神病院から逃がそうとするが失敗する―。
 というのが話の前段部なのですが、冒頭からいきなり踊り狂う女性の断片的なモンタージュが入り、無声映画なのに字幕も無く、しかも、主人公の空想の場面と現実の場面が錯綜するので、筋自体はわかりにくく、「ACTミニシアター」のスタッフの解説がなければ何のことやらという感じ(このミニシアターでは、黒澤明の「羅生門」上映時にも、バーナード・リーチによる読み解きをスタッフが解説してくれた)。

狂った一頁2.jpg 主人公の小間使いは宝くじで一等賞を獲った空想し、また、娘の結婚式を空想する。そして、最後に患者たちがオタフクのお面をつけることを空想する―(これは、主人公の空想だと思うが…。公開時には徳川無声などが弁士としてついて、この辺りの解説をしたらしい。別録りされていないのかなあ)。

「狂った一頁」●制作年:1926年●監督:衣笠貞之助●脚本:川端康成/横光利一ほか●撮影:杉山公平●原作:川端康成●時間:84分●出演:井上正夫/中川芳江/飯島綾子/根本弘/関操/南栄子●公開:1926/09●配給:衣笠映画連盟(新感覚派映画連盟)●最初に観た場所:ACTミニシアター(84-10-28)(評価:★★★?)●併映:「十字路」(衣笠貞之助)

マラー/サド2.jpg 精神病院という限定された状況設定は、ピーター・ブルック「マラー/サド」('67年/英)とちょっと似ているなあと思いました(正式邦題は「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」という長いもの。原題もギネスに世界最長大映画タイトルとして登録されている)。

 「マラー/サド」の舞台は19世紀はじめのフランスの精神病院で、ここでは治療の一環として演劇がプログラムに採り入れられており、そこへ収監されていたサド侯爵が、フランス革命で活躍し後に暗殺されたマラーのドラマを患者達を使って演出するというもの。
 檻に入れられた患者たちが、看守により度々中断させられながらも演じる劇は、異様な雰囲気と張り詰めた緊張感に覆われていますが、物語劇というより前衛劇に近い感じです。
マラー・サド.jpg その劇を檻の外から観る観客がいて、劇中劇の様相を呈していますが、演じているのは皆役者だったんだなあ(半分ぐらい、本当の患者が混ざっているのかと一瞬思ったが、そんなわけないか)。
 マラーを暗殺する女性を演じているのは、後に名女優としてその名を馳せるグレンダ・ジャクソンだし。

 共に個人的には評価不能に近い作品ですが、「狂った一頁」は「マラー/サド」より40年ほど前に作られている!
 サイレント末期にこのような前衛的な作品が日本にあったこと自体、驚くべきことかもしれません(この作品は大正時代の最後の年に公開された)。
 監督の衣笠貞之助(1896-1982)は、後に「雪之丞変化」のような娯楽時代劇も撮っていて、松竹に黄金時代をもたらした監督の1人です。

マラー/サド.bmp「マラー/サド」(「「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントレ精神病院の患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」」)●原題:MARAT/SADE(The Persecution and Assassination of Jean-paul Marat as Performed by the Inmates of the Asylum of Charenton Under the Direction of the Marquis De Sade)●制作年:1967年●制作国:イギリス●監督:ピーター・ブルック●脚本:ペーター・ヴァイス/エイドリアン・ミッチェル/ジェフリー・スケルトン●撮影:デヴィッド・ワトキン●音楽:リチャード・ピアスリー●原作:ペーター・ヴァイス●時間:119分●出演:パトリック・マギー/グレンダ・ジャクソン/マイケル・ウィリアムズ/クリフォード・ローズ/フレディ・ジョーンズ/ヒュー・サリバン ●日本公開:1968/11●配給:ユナイト=ATG●最初に観た場所:三鷹オスカー(79-04-08)(評価:★★★?)●併映:「叫びとささやき」(イングマル・ベルイマン)
                                                輸入盤DVD

  

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投稿者 wadamy : 23:47

2008年11月27日

【1051】 ○ 原 一男 「ゆきゆきて、神軍 (1987/08 疾走プロ) ★★★★

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ドキュメンタリーを逆利用した奥崎健三のしたたかさ。

ゆきゆきて、神軍2.jpg 「ゆきゆきて、神軍 [DVD]」 ['00年/パイオニアLDC]  ヤマザキ、天皇を撃て!.jpg 『ヤマザキ、天皇を撃て!』 ['72年]

「ゆきゆきて、神軍」●制作年:1987年●製作:疾走プロ●監督:原一男●企画:今村昌平●時間:122分●出演:奥崎謙三●劇場公開:1987/08●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(87-09-23) (評価★★★★)
ゆきゆきて、神軍.jpg
 このドキュメンタリー映画の“主演”の奥崎健三は、太平洋戦争時に「天皇の軍隊」の駒として密林で死んでいった仲間たちの無念を想い、生き残りの元軍曹を訪ねて行き、当時の上官だった軍曹による部下の射殺事件の事実や、果ては食人行為があったことまでを暴こうとするのですが(まるで、武田泰淳の『ひかりごけ』の世界!)、その姿には鬼気迫るものがありました。

 彼は、皇室一般参賀で天皇に向けてパチンコ玉を発射('69年)した人で、この経緯は『ヤマザキ、天皇を撃て!』('72年)という自著に詳しいのですが、'76年に書いた『宇宙人の聖書』(絶版)はより過激で、この本の内容宣伝としてデパートの屋上から天皇家をコラージュしたポルノビラを撒いて全国指名手配となり、その間に独立工兵連隊の生き残りの元軍曹を訪ね、映画と同様の糾弾を試みましたが、訪問直後に逮捕されています。
                               ['07年/GENEON ENTERTAINMENT]

 何だか無茶苦茶なことをする人物のようにも見えますが、奥崎健三の本を読むと、彼がこうした“弔い合戦”を何年にもわたり行脚的に続けていたことと、彼なりに論理的・計画的思考をする人であることが分かります。

 この作品はドキュメンタリーですが、彼が“作品”という枠組みを利用して積年の計画を実行しようとしたのは明らかで、“激昂していきなり元上官に掴みかかる”のもすべて計算の内であり、カメラを意識した演技の要素がかなり含まれているというのが、自分の個人的な見方です。

 この映画の企画に今村昌平が関わっていることもさることながら、彼自身そうしたドキュメンタリーという枠組みを逆利用する“したたかさ”を持っていたように思われ、と言うのは、彼は本当に激昂したならば、本来は鉄砲を持ってくるような人だからです(実際に映画のクランクアップ後に、元上官宅で発砲傷害事件を起こし、これが殺人未遂にあたるとして懲役12年の刑を言い渡され、'98年まで服役している)。

ゆきゆきて、神軍2.jpg この映画は渋谷のユーロスペースで公開され、場所柄もあってかなりの若い層が観たようで(同館の興業記録を作った)、映画のヒットで一時カリスマ文化人的存在にもなったりしたのを覚えていますが、'05年に87歳で没しています。

 映画は、彼が殺人未遂により服役することになったことと、彼の活動を支えてきた彼の奥さんが亡くなったことを伝えて終わっています。
 常に意気軒昂な人物でしたが、自分には、彼もある意味においての戦争犠牲者であったように思われます。  

宇宙人の聖書.gif    

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投稿者 wadamy : 23:38

【1050】 ◎ 今村 昌平 「人間蒸発 (1967/06 今村プロ=ATG) ★★★★★

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ドキュメンタリーもまたフィクションなり。

人間蒸発.jpg 「人間蒸発 [DVD]」      今村昌平.jpg 今村昌平 (1926- 2006/享年79)

人間蒸発2.jpg「人間蒸発」●制作年:1967年●製作:今村プロ=ATG●監督・企画:今村昌平●音楽:黛敏郎●時間:130分●出演:露口茂/早川佳江/早川サヨ●劇場公開:1967/06●配給:ATG=日活●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05) (評価★★★★★)●併映:「肉弾」(岡本喜八)

 結婚式の直前に突然失踪した婚約者を探す早川佳江という女性。露口茂がレポーターとなり、カメラと共に捜索を続ける彼女を追うが、やがて婚約者の二重生活が明らかになる。社会における人と人の繋がりの脆さに自分自身をも見失って呆然とする女性―。

 松本清張の『ゼロの焦点』('58年発表)の“ドキメンタリー版”みたいな装いですが、この作品の狙いは“人と人の繋がりの脆さ”を描くと言うよりもむしろ、ドキメンタリーと言われるもの自体の脆さ、ドキメンタリー成立の不可能性を示すことにあったと思います。

 途中から佳江さんの実の姉が婚約者と密会していたなどという証言も出てくきて、幼い頃から姉を憎んでいた佳江さんはカッとなり、婚約者の捜索をめぐる家族会議に証言者を交え、こぞって姉を糾弾し始める―。

 家族会議の場で大いに激昂していた関係者たちですが、今村昌平監督の「はい、カット」の一言で一斉に黙り、スタッフが“セット”の障子や襖を片付け始める―(観客はここで初めて、家族会議が行われていたのは茶の間ではなかったことに気づく)。
 
 スタッフが大道具、小道具を片付ける間、彼らは大人しく座っています。そして、カメラが回り始めると、再び口角泡飛ばし、猛然と話し出します。
 この時彼らは、事件当事者と言うよりも“出演者”になっているということが、面白いほどよく分かる場面です。

 佳江さんはやがて婚約者を探す気力を失い、レポーターの露口茂が好きになったことをカメラに向かって告白しますが、その時の彼女はまるで、物語の“主役”を演じている(しかも、自分で脚本を書いている)“女優”のように見えます(思わぬ告白に戸惑う露口茂の方が、よほど“ドキメンタリー”的)。

 今村監督は「ドキュメンタリーもまたフィクションなのだ」ということを、この“作品”で鮮やかに示しているように思います。

 

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投稿者 wadamy : 23:28

2008年11月16日

【1042】 ○ 中原 俊 「12人の優しい日本人 (1991/12 ニュー・センチュリー・プロデューサーズ) ★★★★ (○ シドニー・ルメット 「十二人の怒れる男」 (57年/米) (1959/08 ユナイテッド・アーティスツ) ★★★★)

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笑いながらも、考えさせられる「12人の優しい日本人」。

12人の優しい日本人.jpg 「12人の優しい日本人 [DVD]12人の浮かれる男 筒井康隆劇場.jpg12人の浮かれる男―筒井康隆劇場 (1979年)

12人の優しい日本人(映画).jpg「12人の優しい日本人」●制作年:1991年●製作:ニュー・センチュリー・プロデューサーズ●監督:中原俊●脚本:三谷幸喜●原作:筒井康隆「12人の浮かれる男」●時間:116分●出演:塩見三省/相島一之/上田耕一/二瓶鮫一/中村まり子/大河内浩/梶原善/山下容莉枝/村松克己/林美智子/豊川悦司●劇場公開:1991/12●配給:アルゴプロジェクト (評価★★★★)

 劇団東京サンシャインボーイズの舞台戯曲の映画化作品で、もしも日本に陪審員制が導入されたら…という前提でのコメディ。
12 ANGRY MEN.jpg 原作は筒井康隆の『12人の浮かれる男』で、シドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」('57年/米)をちょうど裏返しにしたようなストーリーです。

 「十二人の怒れる男」は、ナイフで実父を殺害した容疑がかかる少年の裁判における12人の陪審員の討議において、唯一人、少年の犯行だという意見に疑問を感じた陪審員(ヘンリー・フォンダ)が、残り10人の有罪説の根拠の脆弱を順番に暴いていくもので、テーマは「議論による民主主義の勝利」よりも、その議論の中核を成す「事実に基づく強固な論理」にあると言えるものですが、推理劇としての楽しさを満喫できるものでした。

「十二人の怒れる男」●原題:12 ANGRE MEN●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:レジナルド・ローズ/ヘンリー・フォンダ●脚本:レジナルド・ローズ●撮影:ボリス・カウフマン●音楽:ケニヨン・ホプキンス●原作:レジナルド・ローズ(TVドラマ)●時間:96分●出演:ヘンリー・フォンダ/リー・J・コッブ/エド・ベグリー/ E・G・マーシャル/ジャック・ウォーデン●日本公開:1959/08●配給:ユナイテッド・アーティスツ (評価★★★★)

  「12人の優しい日本人」は、12人の陪審員のうち11人までが被告を無罪だと考えていたところ…という状況から始まり、明らかにこの作品のパロディなのですが、三谷幸喜の脚本もいいし、役者も下手な人がおらず、自然に笑えます。
 豊川悦司はこの作品が本格的映画デビューでしたが、元々はシェイクスピア劇で知られる演劇集団「円」出身で、演技の基礎はしっかりしているし、この作品での「○○○のふりをする△△」の役はハマリ役だと思います(最近の舞台では、江口洋介がこの役をやっていて、江口洋介にとっての舞台デビュー作となっている)。

 「陪審制」は市民だけで有罪・無罪を決める裁判方式で、それに対し裁判官と市民が合議して判決を導き出すのが「参審制」。この映画で描かれているのは市民のみの討議だから「陪審制」で、日本でも昭和3年から昭和18年まで「陪審制」がありました(因みに、司法制度改革で今回導入される裁判員制度は「参審制」である)。

 「十二人の怒れる男」に対しては、日本に陪審制がないのは、体制側がこういう結果を恐れているからだ、という説もあるようです(ヘンリー・フォンダに対してではなく、残り10人の陪審員について言っているのだろうが、逆説的にはヘンリー・フォンダも含めた“場”乃至“座”として言えるかも)。
 日本人は会議などで権威者や専門家の意見になびきやすいと言われますが、そうした人に対して過剰な敬意を抱いてしまう傾向にあるらしいです。
  「12人の優しい日本人」は「十二人の怒れる男」と同様「陪審制」における話ですが、専門家(裁判官)が討議に加わる「参審制」の裁判員制度であればなおのこと、この映画のままとは言わないまでも類似のことが(つまり裁判官の意見に市民がどんどん引っ張られるようなことが)ありうるのではと、この映画の豊川悦司の役にすっかりダマされた自分をふりかえって思うのです。

   

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投稿者 wadamy : 00:14

2008年11月08日

【1037】 ◎ レフ・トルストイ (米川正夫:訳) 『イワン・イリッチの死 (1928/10 岩波文庫) ★★★★☆ (○ 黒澤 明 「生きる (1952/10 東宝) ★★★★)

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何時か確実に訪れる自らの「死」を想起させる。黒澤明に「生きる」を着想させた作品。

イワン・イリッチの死.jpg 『イワン・イリッチの死 (岩波文庫)』 米川正夫:訳 ['34年/'73年改版] イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ.jpg 『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)』 望月哲男:訳 ['06年]

レフ・ニコライビッチ・トルストイ.jpg 45歳の裁判官が不治の病に罹り、肉体的にも精神的にも耐え難い苦痛を味わいながら着実に「死」に向かっていく、その3カ月間の心理的葛藤を、今まで世俗的な価値に固執し一定の栄達を得た自らの人生に対する、それがいかに無意味なものであったという価値観の転倒からくる混乱と絶望、周囲から哀れみの眼差しを浴びながらも、あたかも自分の死が「予定調和」乃至は「ちょっとした不意の出来事」のように受け取られていることへの苛立ち、そして死の直前の苦悶と周囲への思いやりにも似た「回心」に至るまでを、まさに描き難いものを描き切ったとでも言うべきレフ・ニコライビッチ・トルストイ(1828‐1910/享年82)の中篇。

「生きる」1952.jpg生きる 志村喬 伊藤雄之助.jpg 1886年3月、文豪57歳の時に完成した作品ですが、1881年に実在のある裁判官の死に接して想を得たもので、主人公の葬儀とその世俗的な生涯の振り返りから始まるこの作品は、黒澤明監督の「生きる」と、導入部分や主人公が役人である点が似ており、黒澤はこの作品から「生きる」を着想したとされています。
 映画関連のデータベースでは、「生きる」の原作としてこの小説が記されているものがありましたが、実際のクレジットはどうだったでしょうか。
                                 「生きる」(1952・東宝/出演:志村喬)
 一応、このブログもそれに倣うことにしましたが(個人的な備忘録なので)、但し、トルストイ「原作」というより、作品の「翻案」という感じに近いかも(或いは、単にそこから着想を得たというだけのことか)。
 作品テーマから捉えても、「生きる」が残された時間をどう生きるかがテーマであったのに比べ、この作品は、自らの死をどう受け入れるかが大きなテーマになっているように思います。

「生きる」●制作年:1952年●製作:本木莊二郎 ●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/橋本忍/小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●原作:レフ・トルストイ「イワン・イリッチの死」●時間:143分●出演:志村喬/小田切みき/金子信雄/関京子/浦辺粂子/菅井きん/丹阿弥谷津子/田中春男/千秋実/左ト全/藤原釜足/中村伸郎/渡辺篤/木村功/伊藤雄之助●日本公開:1952/10●配給:東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館 (85-02-24) (評価★★★★)●併映「隠し砦の三悪人」(黒澤明)

 「カイウスは人間である、人間は死すべきものである、従ってカイウスは死すべきものである」という命題の正しさを信じながらも、「自分はカイウスではない」とし、死を受け入れられない主人公。
 彼を最も苦しめるのは、「ただ病気しているだけで、死にかかっているわけではなく、落ち着いて養生していれば治る」という「一同に承認せられた嘘」であり、それは皮肉にも彼自身が生涯奉仕してきた「礼儀」というものからくるものですが、その「嘘」に自分も加担させられていることに彼は苛立つ―。

 この作品は読む者に、日常の雑事により隠蔽されている、但し何時か確実に訪れる自らの「死」を想い起こさせるものであり、ある意味、怖いと言うか、向き合うのが苦痛に感じる面もありますが、一方で、文庫で僅か100ページ、「メメント・モリ」をテーマとしたものとしては、比較的手に取り易い、ある種“テキスト”的作品であるようにも思います。

 周囲との断絶に苦しむ主人公は、死の直前、自分の今の存在こそが周囲を苦しめており、そこから周囲を解き放つことによって自分も楽になると感じる。その時、そこには「死は無かった」―。
 死は生の側にあり、死自体は無であるということを如実に示す実存的作品であり、訳者の米川正夫(1891‐1965)はドストエフスキー作品の翻訳でも知られた人、最近刊行された光文社古典新訳文庫でも、ドストエフスキーが“専門”である望月哲男氏が翻訳にあたっています。

 尚、望月氏もそうですが、『新潮世界文学20-トルストイ5』('71年)の中で本作品を訳している工藤精一郎氏も主人公の名前を「イワン・イリイチ」としており、韻を踏むことで主人公の規則的な「役人」人生を表象しているらしく、その点からすれば、「イリッチ」より「イリイチ」の方が相応しいのかも。

 【1934年文庫化・1973年改定[岩波文庫(米川正夫訳)〕/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(望月哲男訳『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』)〕】

    

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投稿者 wadamy : 23:05

2008年08月20日

【975】 ○ 竹内 博 『東宝特撮怪獣映画大鑑 [増補版]』 (1999/03 朝日ソノラマ) ★★★★ (○ 本多猪四郎 「モスラ (1961/07 東宝) ★★★☆)

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写真が豊富(数千点)かつ鮮明。生活費を切り詰め集めた“執念のコレクション”。

東宝特撮怪獣映画大鑑(増補版).jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑 増補版.jpg 『東宝特撮怪獣映画大鑑』 ゴジラ.jpg 「ゴジラ」

浅野ゆう子.jpg 朝日ソノラマの旧版('89年刊行)の「増補版」。553ページにも及ぶ大型本の中で、'54年の「ゴジラ」から'98年の「モスラ3」までのスチールや撮影風景の写真などを紹介していますが、とにかく写真が充実(数千点)しているのと、その状態が極めてクリアなのに驚かされます。

 怪獣映画ファンサークル代表竹内博氏が、仕事関係で怪獣映画の写真が手元に来る度に自費でデュープして保存しておいたもので(元の写真は出版社や配給会社に返却)、当時の出版・映画会社の資料保管体制はいい加減だから(そのことを氏はよく知っていた)、結局今や出版社にも東宝にもない貴重な写真を竹内氏だけが所持していて、こうした集大成が完成した、まさに生活費を切り詰め集めた“執念のコレクション”です(星1つマイナスは価格面だけ)。
 やはり、冒頭に来るのは「ゴジラ」シリーズですが、スチールの点数も多く、ゴジラの変遷がわかるとともに、俳優陣の写真も豊富で、平田昭彦、小泉博、田崎潤、佐原健二、藤木悠、宝田明、高島忠夫、女優だと水野久美とか若林映子(古い!)、前田美波里、ゴジラものではないですが、浅野ゆう子('77年「惑星大戦争」)なども出ていたのだなあと。

モスラ.jpgゴジラ ポスター.jpg 「ゴジラ」('54年)に関しては、自分が生まれる前の作品であり(モノクロ)、かなり後になって劇場で観ましたが、バックに反核実験思想が窺えたものの、今ひとつ乗れなかったような…(やはりこういうのは、子供の時にリアルタイムで観ないとダメなのか)。
 むしろ、ゴジラ・シリーズではないですが、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の3人の純文学者を原作者とする「モスラ」('61年)の方が、大人の鑑賞にも堪えうるのではないかと…。
 ザ・ピーナッツのインドネシア風の歌も悪くないし、東京タワー('58年完成、「ゴジラ」の時はまだこの世に無かった)に繭を作るなど絵的にもいい(原作「発光妖精とモスラ」では繭を作るのは東京タワーではなく国会議事堂だが、60年安保の時節柄、政治性が強いという理由で変更された)。

怪獣大戦争.jpg三大怪獣 地球最大の決戦.jpg ただ、この「ゴジラ」第1作を観ると、ゴジラが最初は純粋に“凶悪怪獣”だったというのがわかり、それが「モスラ対ゴジラ」('64年)の時はまだモスラの敵役だったものの、同年公開の「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)では、キングギドラを倒すべく力を合わせようというモスラ(幼虫)の"呼びかけ"にラドンと共に説得されてしまい(この場面のバカバカしさは見モノ。ある意味、珍品映画かも)、すっかり"善玉怪獣"になっています(モスラ、ゴジラ、ラドンの3匹がを合わせてキングギドラ戦に挑む―本来は「四大怪獣」では?)。
 更に、ゴジラシリーズ第6作「怪獣大戦争」('65年)は、地球侵略をたくらむ宇宙人がキングギドラ、ゴジラ、ラドンの3大怪獣を操り総攻撃をかけてくるというもので、「シェー」をするゴジラなど、怪獣のショーアップ化が目立ち、"破壊王"ゴジラは、遂に自らのイメージをも完全粉砕してしまった…。

「ゴジラ」●制作年:1954年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:村田武雄/本多猪四郎●撮影:玉井正夫●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二ほか●原作:香山滋●時間:97分●出演:宝田明/河内桃子/平田昭彦/志村喬/堺左千夫/村上冬樹●公開:1954/11●配給:東宝●最初に観た場所:新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★★)●併映:「怪獣大戦争」(本多猪四郎)

「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而 ●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田善衛 「発光妖精とモスラ」●時間:101分●出演:フランキー堺/小泉博/香川京子/ジェリー伊藤 /ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シアターアップル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)

「三大怪獣 地球最大の決戦」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:97分●出演:夏木陽介/小泉博/星由里子/若林映子/ザ・ピーナッツ/志村喬/伊藤久哉/平田昭彦/佐原健二●時間:93分●公開:1964/12●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シアターアップル (83-09-04)(評価:★★☆)●併映:「モスラ」(本多猪四郎)

ゴジラvsキングギドラ.jpgゴジラvsビオランテ.gif '75年で一旦終了したシリーズが9年ぶりに再開し、久々に作られた第16作「ゴジラ」('84年)で、ゴジラを原点の"凶悪怪獣"に戻したようですが、第17作「ゴジラ vs ビオランテ」('89年)は、バイオテクノロジーによってゴジラとバラの細胞を掛け合わせて造られた超獣ビオランテが登場し、一般公募ストーリー5千本から選ばれたものだそうですが、確かに植物組織を持った怪獣は、「遊星よりの物体x」('51年/米)(「遊星からの物体x」('82年/米)のオリジナル)の頃からあるもとは言え、随分と荒唐無稽なストーリーを選んだものだと…。
 第18作「ゴジラ vs キングギドラ」('91年)は、南洋の孤島に生息していた恐竜が核実験でゴジラに変身したという新解釈まで採り入れており(ここに来てゴジラの出自を変えるなんて)、ゴジラが涙ぐんでいるような場面もあって、また同じ道を辿っているなあと(この映画、敵役の未来人のUFOが日本だけを攻撃対象とするのも腑に落ちないし、タイム・パラドックスも破綻気味)。
 第17、第18作は大森一樹監督で、いくらか期待したのですが、かなり脱力させられました(結局、ゴジラ・シリーズは'04年の第28作をもって終了する)。

「ゴジラ vs ビオランテ」●制作年:1989年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:すぎやまこういち(ゴジラテーマ曲:伊福部昭)●時間:97分●出演:三田村邦彦/田中好子/小高恵美/峰岸徹/高嶋政伸/沢口靖子●公開:1989/12●配給:東宝 (評価:★☆)

「ゴジラ vs キングギドラ」●制作年:1991年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二ほか●原作:香山滋●時間:103分●出演:中川安奈/豊原功補/小高恵美/西岡徳馬/土屋嘉男●公開:1991/12●配給:東宝 (評価:★☆)
日本誕生.jpg
 ゴジラ・シリーズ以外で、役者だけで見れば何と言っても凄いのが「日本誕生」('59年)で、ヤマタノオロチが出てくるため確かに“怪獣映画”でもあるのですが、三船敏郎、乙羽信子、司葉子、鶴田浩二、東野英治郎、杉村春子、田中絹代、原節子など錚々たる面々、果ては、柳家金語楼から朝汐太郎(当時の現役横綱)まで出てくるけれど、「大作」転じて「カルト・ムービー」となるといった感じでしょうか(観ていないけれど、間違いなくズッコケそうで観るのが怖いといった感じ)。       
                            「日本誕生」 アメノウズメノミコ (乙羽信子)

マタンゴ.jpgサンダ対ガイラ.jpg 初期の「透明人間」('54年)など“○○人間”モノや天本英夫の「マタンゴ」('63年)といった怪奇モノ、「宇宙大戦争」('59年)などの宇宙モノから中国妖怪モノ、“フランケンシュタイン”モノまで、シリーズごとのほぼ全作品を追っていて、作品当りのスチール数も豊富な上に、一部については、デザイン画や絵コンテなども収められています。
ミツバチのささやき.jpg
 個人的には、田舎の小学校に入った頃、学校の体育館で“フランケンシュタイン”モノを観た覚えがありますが、その後、都会の学校に転校し、同じころ都会の生徒らは「サウンド・オブ・ミュージック」とかを映画館で観たとのこと。
 同じ“課外授業”としての映画鑑賞でありながら、内容は随分違うなあと思い、田舎の学校の先生の教育的意図は何だったのかなあと不思議に思ったりしましたが、ビクトル・エリセ「ミツバチのささやき」('73年/スペイン)でも、子供らが集まる公民館で「フランケンシュタイン」を上映する場面があったから、あれはあれで、日本の一田舎に限ったものではなく、“世界標準”だったのか。

東宝特撮怪獣映画大鑑1.jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑2.jpg

                 

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投稿者 wadamy : 00:56

2007年12月26日

【826】 ○ 文藝春秋 『大アンケートによる日本映画ベスト150 (1989/06 文春文庫ビジュアル版) ★★★☆ (○ 文藝春秋 『洋・邦名画ベスト150 〈中・上級篇〉 (1992/11 文春文庫ビジュアル版) ★★★☆)

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シリーズ中、特に充実した内容。回答者のコメントを読むのが楽しい。

大アンケートによる日本映画ベスト150.jpg 『大アンケートによる日本映画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』 〔’89年〕 洋・邦名画.jpg 『洋・邦名画ベスト150〈中・上級篇〉』 〔’92年〕 (表紙イラスト:安西水丸)

 同じ「文春文庫ビジュアル版」の『大アンケートによる洋画ベスト150』('88年)の続編で、この映画シリーズはこの後、
大アンケートによる女優ベスト150.jpg ◆『大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150』( 〔'90年〕
 ◆『洋画・邦画ラブシーンベスト150』 〔'90年〕
 ◆『大アンケートによるミステリー・サスペンス洋画ベスト150』 〔'91年〕
 ◆『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』 〔'91年〕
 ◆『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』 〔'92年〕
 ◆『大アンケートによる男優ベスト150』 〔'93年〕
 ◆『戦後生まれが選ぶ洋画ベスト100』( 〔'95年〕
映画イヤーブック1994.jpg と続いています。
 このうちの殆どを買って、'90年代に毎年刊行された現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』と共に愛読・活用させてもらいました。
 角川文庫にも『日本映画ベスト200』('90年)などのアンケート・シリーズがありますが、「ビジュアル版」と謳っている文春文庫のシリーズの方が、掲載されているスチール、ポートレート、ポスターの量と質で、角川文庫のものを上回っています。

7samurai.jpg 本書『邦画ベスト150』には、赤瀬川順・長部日出雄・藤子不二雄A氏らの座談会や、映画通が選んだジャンル別のマイベスト、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」といった興味深い企画もありますが、メインの「ベスト150」は、1位が「七人の侍」で、以下「東京物語」「生きる」「羅生門」「浮雲」と続く“まともな”ラインアップとなっています。

 「七人の侍」の「1位」には、ほぼ異論を挟む余地が無いという気がします。
 先にジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」('60年/米)を観てオリジナルであるこの作品も早く観たいと思っていたですが、観るのなら絶対に劇場でと思い、リヴァイバル上映を待ちに待って、結局'90年代になってやっと観ました。                 「七人の侍」('54年/東宝)
「七人の侍」.jpg 渋谷のロードショーシアターへ休日の朝一番で観にいったら、観客多数のため上映館が急遽変更されていて(同じような考えの人が大勢いたということか)、渋谷の街中を走った思い出がありますが、「荒野の七人」どころのレベルの作品ではなかった―、アクション映画としても傑作ですが、脚本面でも思想性という面でも優れた作品だと思いました。

「七人の侍」●制作年:1963年●監督:黒澤明●製作:木莊二郎 ●脚本:黒澤明/橋本忍/小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄 ●時間:207分●出演:者 志村喬/加東大介/宮口精二/藤原釜足/千秋実/木村功/稲葉義男/三船敏郎●公開:1954/04●配給:東宝 ●最初に観た場所:渋谷東宝 (91-12-01)(評価:★★★★★

 『洋画ベスト150』もそうですが、映画通と言われる特定の映画にこだわりを持った人々からアンケートをとっても、それらを全部を集計してしまうと、一般の映画ファンのアンケート結果とそう変わらないものになるということ、「人目にふれにくい傑作」にテーマを絞った『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』が企画されたのは「むべなるかな」という感じがします。

十三人の刺客.jpg 『中・上級篇』の方では、「日本映画ベスト44」の1位が「十三人の刺客」、「外国映画ベスト109」の1位は「マダムと泥棒」となっていて、「七人の侍」が(前述の通り、個人的にも大傑作だと思うが)これほど賞賛されるならば「十三人の刺客」はもっと注目されるべきであるし、ヒッチコック(個人的は好きな監督だが)の作品に人気が集まるならば、「マダムと泥棒」も見て!という感じは確かにします。

 「十三人の刺客」は、将軍の弟である明石藩主というのが実は異常性格気味の暴君で、事情を知らない将軍が彼を老中に抜擢する話が持ち上がったために、筆頭老中が暴君排除を決意し、暗殺の密命を旗本島田新左衛門に下すというもの。
                                                    「十三人の刺客」 ('63年/東映)
十三人の刺客dvd.jpg 片岡千恵蔵演ずる島田新左衛門が集めた刺客は12人で、参勤交代の道中の藩主を襲うが、対する明石藩士は53名。
 この、2勢力の武士が、何か2匹の生き物のように画面狭しと動き回って、時代劇というよりまさにアクション映画。そうした点では「七人の侍」と見比べると、また違った味があります(そっか、脚本の池上金男って池宮彰一郎のことだったのか。音楽は「ゴジラ」の伊福部昭!)。

 本書にもあるように、アクション映画は、シチュエーションを単純にしてディテールに凝ったほうが面白いと言うその典型で、ラストの30分にわたるリアルな決戦シーンとそこに至るまでの作戦の積み重ねは、「早すぎた傑作」と呼ばれるにふさわしく、公開当時はあまり評価されなかったとのこと。
 大体、時代物に疎く、かなり後になってビデオで観たのですが、劇場でみたら星5つだったかも(オールド・プリントで、ちょっと画面が暗い。DVDの方はどうなのだろうか)。

「十三人の刺客」●制作年:1963年●監督:工藤栄一●製作:東映京都撮影所●脚本:池上金男●撮影:鈴木重平●音楽:伊福部昭●時間:125分●出演:片岡千恵蔵/里見浩太朗/嵐寛寿郎/阿部九州男/加賀邦男/汐路章/春日俊二 /片岡栄二郎/和崎俊哉/西村晃/内田良平/山城新伍/丹波哲郎●公開:1963/12●配給:東映 (評価:★★★★)

         

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投稿者 wadamy : 23:09

2007年05月19日

【639】 ○ 吉村 昭 『魚影の群れ (1983/07 新潮文庫) 《 海の鼠 (1973/01 新潮社)》 ★★★★ (△ 相米 慎二 「魚影の群れ (1983/10 松竹富士) ★★☆)

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動物パニック映画のようで、抑制が効き迫力ある「海の鼠」。映画よりずっといい「魚影の群れ」。

魚影の群れ 新潮文庫.jpg 魚影の群れ 新潮文庫2.jpg 『魚影の群れ』 新潮文庫 〔83年〕 海の鼠.jpg 宇和海地方 鼠駆除事業報告書 [昭和30年]

 吉村昭(1927‐2006)の動物をモチーフとした小説4編(「海の鼠」「蝸牛」「鵜」「魚影の群れ」)を所収していますが、'73年の単行本刊行時、この中で最も長い冒頭作の「海の鼠」が本のタイトルだったのが、'83年の文庫化に際して、巻末の「魚影の群れ」が文庫タイトルになったのは、同年、映画「魚影の群れ」が公開されたためでしょう。

 「海の鼠」は、愛媛・宇和島沖のある島で台風被害の後に鼠が大量発生し、それを駆除しようとする役場の担当係長をはじめ村人たちの凄絶な闘いを描いたものですが、まさに動物パニック映画みたいな感じで、ただし、それが記録文学風に書かれているだけに(台風も鼠被害も実際にあったものを小説に組み入れている)、抑制が効いてかえって迫力があります。

 殺鼠剤を撒いても天敵(青大将)を放しても鼠は増え続け、さらに新たな殺鼠剤、新たな天敵を投入してもダメ、農作物は全滅し島民は減り続け―と、状況は深刻化し、読んでいて恐ろしさもありますが、一方で天敵動物によせる人々の期待に反し、動物たちの思わぬ習性により次策を講じることを余儀なくされるという繰り返しが、何か滑稽だったりもします(鼠一匹を捕食したら満腹になり寝てしまう蛇とか)。

 「魚影の群れ」は、妻に去られ娘と2人で暮らす青森・大間のマグロ猟師が、娘に懇願されて娘の恋人を船に乗せるも、男は娘の恋人にうち解けず―、という感じで展開していく物語で、マグロ釣り漁の活写はさすがですが、全体としては、動物小説と言うよりヘミングウェイの「老人と海」にも通じるような人間ドラマ。
魚影の群れ.jpg
 「セーラー服と機関銃」('81年)の相米慎二(1948‐2001/享年53)が監督し(この人の「台風クラブ」('85年)は良かった)、緒形拳、佐藤浩市らが出ていましたが、大間漁師を演じた緒形拳はともかく、娘が夏目雅子(1957-1985/享年27)、妻が十朱幸代で、キレイ過ぎて猟師の家族に見えないのが難であるのと、原作にはない人情ドラマを盛り込み過ぎたために間延びし、ラストも少し変えてしまってあるのが好きになれない。
 原作は、文庫本70ページほどの中篇で、映画のようにだらだら、べとべとしておらず、男臭さと言うより、男の生き方の不器用さや侘びしさが滲む佳作です。

「魚影の群れ」●制作年:1983年●監督:相米慎二●脚本:田中陽造●音楽:三枝成章●原作:吉村昭「魚影の群れ」●時間:135分●出演:緒形拳/夏目雅子/佐藤浩市/十朱幸代/矢崎滋/三遊亭円楽●劇場公開:1983/10●配給:松竹富士●最初に観た場所:テアトル新宿 (84-02-12)(評価★★☆)●併映「居酒屋兆治」(降旗康男)


 【1973年単行本〔新潮社(『海の鼠』)〕/1983年文庫化〔新潮文庫〕】

  

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投稿者 wadamy : 23:27

【635】 ○ 山本 周五郎 『雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』 (1999/08 角川書店) 《 日日平安 (1965/06 新潮文庫)》 ★★★★ (○ 黒澤 明 「椿三十郎 (1962/01 東宝) ★★★★)

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「雨あがる」の主人公と似ている「日日平安」(「椿三十郎」の原作)の主人公。

雨あがる 山本周五郎短篇傑作選.jpg 『雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』 〔'99年〕 日日平安.jpg 『日日平安』 新潮文庫

tubaki.jpg 山本周五郎(1903‐1967)の時代小説のうち、「日日平安」「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」「雨あがる」の4編を所収し、これらは何れも黒澤明(1910-1998)監督が映画化した、或いは映画化しようとして脚本化していたものにあたります。

 「日日平安」は、映画「椿三十郎」('62年/黒澤プロ=東宝)の原作で、城代家老を陥れようとする次席家老ら奸臣たちに対し、城代の危難を救うべく起ち上がった若い侍たちを素浪人が助太刀するというストーリーは映画と同じ。
 ただし、原作の助太刀浪人・菅田平野は、映画の椿三十郎のような神がかり的剣豪ではなく(三船敏郎と仲代達矢の“噴血”決闘シーンは有名だが、原作にこんな場面は無い)、どちらかと言うと、切羽詰ると知恵を絞って苦境を乗り切るタイプで、未熟な若侍たちをリードしながらも、結構自分自身焦りまくっていたりします。                       「椿三十郎」 (黒澤プロ=東宝)

 城代のグループを手助けすることになったついでに、あわよくば仕官が叶えばと思っているくせに、城代の救出が成ると自ら姿を消すという美意識の持ち主で、それでも一方で、誰か追っかけて来て呼び止めてくれないかなあなんて考えている、こうした等身大の人物像がユーモラスに描かれていて、読後感もいいです。

「椿三十郎」1962.jpg椿三十.bmp椿三十郎ポスター.jpg 黒澤明は最初は原作に忠実なやや脆弱な人物像の主人公として脚本を書いたのですが、映画会社に採用されず、その後映画「用心棒」('61年)が大ヒットしたためその続編に近いものを要請されて、オクラになっていた脚本を「剣豪」時代劇風に脚色し直したそうです。
                    「椿三十郎」( 黒澤プロ=東宝)
 原作に大幅に手を加えて原作をダメにしてしまう監督や脚本家は多くいますが、黒澤明の場合は第一級のエンタテインメントに仕上げてみせるから立派としか言いようがなく(この作品は昭和47年のお正月映画だった)、「原作を捻じ曲げて云々…」といった類のケチをつける隙がありません。

「椿三十郎」●制作年:1962年●製作:東宝・黒澤プロダクション●監督・脚本:黒澤明●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「日日平安」●時間:96分●出演:三船敏郎/仲代達矢/加山雄三/小林桂樹/田中邦衛/入江たか子/志村喬●劇場公開:1962/01●配給:東宝 (評価★★★★)

雨あがる.jpg 黒澤明の没後に映画化された「雨あがる」の主人公・伊兵衛も浪人ですが、こちらは柔術などもこなす剣豪で、ただし、腕を生かして仕官したいのはやまやまだが、人を押しのけてまで仕官するぐらいなら妻と仲良く暮らせればそれでいいという人物。人助けの際に見せた自分の腕前が見込まれて士官が叶いそうになるが…。

 映画の「椿三十郎」と「雨あがる」の主人公は、剣豪という意味では同じであるものの人物造型はかなり違っている感じがしましたが、それぞれの原作においては、片や脆弱、片や剣豪、ただし、ついつい人助けをする人の良さや、自分の腕前や手柄に自分自身何となく気恥ずかしさのようなものを持っている点で、かなり通じる部分があるキャラクターだと言えるのではないでしょうか。
 また、こうした人物像に対する愛着が、山本周五郎と黒澤明の共通項としてあるような気がします。

 【「雨あがる」-1956年単行本〔同光社〕/「日日平安」-1958年単行本〔角川書店〕/1965年文庫化・1989年・2003年改版〔新潮文庫〕/2006年再文庫化[ハルキ文庫文庫]】

《読書MEMO》
●「日日平安」…1954(昭和29)年発表 ★★★★
●「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」…1956(昭和31)年発表 ★★★
●「雨あがる」…1951(昭和26)年発表 ★★★★

          

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投稿者 wadamy : 23:11

2007年05月05日

【627】 ○ 宮本 輝 「螢川・泥の河」―『螢川』 (1978/02 筑摩書房) ★★★★ (◎ 小栗 康平 「泥の河 (1981/01 東映セントラル) ★★★★☆)

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正統派の抒情文学。「泥の河」と、その映画化作品にはグッときた。

「螢川」.jpg 蛍川.gif蛍川 (角川文庫)』 新版・旧版 (「泥の河」収録)泥の川.bmp 「泥の河」 ビデオ

 単行本『螢川』の刊行は'78年で、太宰治賞の「泥の河」と芥川賞の「蛍川」の中篇2作を所収しています。
 「螢川」は思春期を、「泥の河」は少年期を扱っていますが、30歳で書いたというわりには、抒情性豊かな正統派文学に仕上がっているように思えました(さすが、後に芥川賞の選考委員になるだけのことはある?)。

 それぞれの舞台となる大阪と富山は、作者が5歳から9歳まで大阪に育ち、その後父親の仕事の関係で一時富山に移り住んだことに符号します。
 彼の家庭は、父親の事業の失敗などにより惨憺たるものであったらしいけれど、そうしたことが、大学受験浪人のときに海外文学に耽溺する契機となり、作家・宮本輝を形成していったのではないでしょうか。

 「川」は流転の象徴であり、作者の小説には、運命に翻弄される人々が時に生々しく描かれています。
 そうした中、芥川賞作品の「螢川」は、ホタルを少女に見せようとする少年の思いを透明感をもって描こうとしているものの、その過程がやや不自然で、「性の目覚め」のようなものがテーマであるとは言え、甘すぎるロマンチシズムを感じました(ラストはいいんだけれど…)。
 一方、「泥の河」の方は、下町の少年と、錨船に住む母子との交流と別れを描いたもので、こちらの方が主要人物の年齢が低いせいか、鼻の奥にツンとくるような、ストレートに切ない読後感を持てました。

泥の河.jpg「泥の河」.jpg 「泥の河」は'81年に小栗康平監督で映画化されましたが、原作の“原色の街”のイメージに反して映画は白黒映画で、それがかえって良く、昭和31年の大阪下町のひと夏をノスタルジックに描いていました。

 蟹に油を塗って火をつけ遊ぶ2人の少年が、船べりを逃げる蟹を追って眼にしたものは―、ラストの「きっちゃーん」という少年の呼びかけに応えることなく出て行く“船”―等々。

 夏の強い日差しを表すコントラストの強い画面や、子ども目線でのカメラ位置などの効果的な技巧が窺え、出演者の演技もベテラン、子役ともになかなか良かったです。特にラストはグッときます。                              映画「泥の川」タイアップ・カバー版(角川文庫)と映画の1シーン

 登場場面が数カットしかなかった加賀まりこが「キネマ旬報助演女優賞」受賞、子役の演技にはスティーブン・スピルバーグが感嘆し、演出の秘密を知ろうとして来日時に小栗康平に面会を求めたそうです。
 
「泥の河」●制作年:1981年●監督:小栗康平●脚本:重森孝子●撮影:安藤庄平 ●音楽:毛利 蔵人●原作:宮本輝●時間:105分●出演:田村高廣/藤田弓子/朝原靖貴/桜井稔/柴田真生子/加賀まりこ/殿山泰司/芦屋雁之助●劇場公開:1981/01●配給:東映セントラル●最初に観た場所:第一生命ホール(81-05-22) (評価★★★★☆)

【1978年単行本[筑摩書房(『螢川』)]/1980年文庫化[角川文庫(『螢川』)]/1986年再文庫化[ちくま文庫(『泥の河・螢川・道頓堀川』)]/1994年再文庫化・2005年改版[新潮文庫(『螢川・泥の河』)]】

      

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投稿者 wadamy : 21:19

【624】 ◎ 水上 勉 『飢餓海峡 (上・下) [改訂決定版]』 (2005/01 河出書房新社) 《[オリジナル版] (1963/10 朝日新聞社)》 ★★★★★ (○ 内田吐夢 「飢餓海峡 (1965/01 東映) ★★★★)

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洞爺丸事故を7年繰り上げた大胆さ。心筋梗塞後の作者がワープロ練習用に選んだ作品。

飢餓海峡 上.jpg 飢餓海峡下.jpg 『飢餓海峡 (上・下) [改訂決定版]』 〔'05年〕 飢餓海峡dvd.jpg DVD

飢餓海峡.jpg飢餓海峡2.jpg 水上勉(1919‐2004)(ミナカミベンと呼ぶ人もいるが本来は「みずかみ・つとむ」と読む)の代表作で、内田吐夢(1898‐1970(うちだ・とむ)監督による映画化作品も、様々なアンケートでいつも歴代邦画のベストテンに入っている力作でした(主人公・犬飼役の三國連太郎の生涯最高の演技に加えて、刑事役の伴淳三郎の演技もいい)。
「飢餓海峡」●制作年:1965年●制作:東映●監督:内田吐夢●脚本:鈴木尚之●音楽:冨田勲●時間:183分●出演:三國連太郎/左幸子/伴淳三郎/高倉健/加藤 嘉●劇場公開:1965/01●最初に観た場所:銀座並木座 (87-10-18) (評価★★★★) 
 
 以前に読んだときは、貧困から這い上がる男のパワーとその結末の哀しさが強く印象に残りましたが、「改訂決定版」('05年/河出書房新社(上・下))で再読し、終盤の主人公の更正施設への“寄付”の組み入れ方なども改めて良くできているなあと思いました(結果的にはこの寄付によって、主人公の犬飼は…)。 

 本作発表当時、すでに人気作家だった作者ですが、“贖罪”というテーマが、晩年の宗教的回帰の「予兆」としてこの作品の中に既にあったともとれます。

虚無への供物.jpg 岩内大火というのは本当に洞爺丸の転覆事故と同じ日に起きたのだと知りませんでした。共に、昭和29年9月の台風15号の影響を受けての惨事ですが、2つの事件からよくここまで構想したものだと驚きます。

 洞爺丸の転覆事故をモチーフにしたものでは、中井英夫『虚無への供物』がありますが、『虚無への供物』が歴史どおり昭和29年の出来事としてこの事件を扱っているのに対し、『飢餓海峡』では岩内大火と併せて7年繰り上げて昭和22年の出来事としているわけで、その大胆な“柔軟性”にも改めて感心させられました。 
 『虚無への供物』 講談社文庫
事件.jpg
 純文学作家による推理小説の最高峰として、テーマは異なりますが大岡昇平『事件』とこの作品を挙げたいと思います。
 ただし、前者は〈裁判小説〉、後者は〈社会派サスペンス小説〉と言った方がよいかもしれませんが…(『虚無への供物』が正統派ミステリーと言えるかどうかは別として、少なくともそれとはかなり異なるタイプの推理小説です)。

 河出書房新社の「改訂決定版」は、仮名使いだけでなく、文章そのものにかなり手を加えていますが、筋立ての変更はありません。
 作者は'89(平成元)年、70歳の時に心筋梗塞で倒れ、リハビリとしてワープロに挑戦し、“入力練習用”に選んだのがこの「飢餓海峡」だったということです(亡くなったのは「改訂決定版」出版の前年('04(平成16)年)で85歳でした)。

 【1963年単行本(全1巻)・1978年改訂版(全1巻)[朝日新聞社]/1964年単行本(全1巻)・2005年改訂決定版(上・下)[河出書房新社]/1969年文庫化(全1巻)・1990年文庫改訂(上・下)[新潮文庫]】

       

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投稿者 wadamy : 20:01

2006年11月23日

【588】 ○ 真保 裕一 『ホワイトアウト (1995/09 新潮社) ★★★★ (△ 若松 節朗 「WHITEOUT ホワイトアウト (2000/08 角川映画) ★★★)

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ハリウッド映画を思わせるスケールの大きい状況設定。

ホワイトアウト.jpg 『ホワイトアウト』 ['95年/新潮社] ホワイトアウト文庫.jpg 新潮文庫 〔'98年〕 ホワイトアウト2.jpg DVD

 1996(平成8)年度・第17回「吉川英治文学新人賞」受賞作。 
 日本最大の貯水量の「奥遠和ダム」を武装グループが占拠し、職員、麓住民を人質に50億円の身代金を要求するという、映画でも良く知られるところとなったストーリーです。

 スケールの大きい状況設定は、ハリウッド映画を思わせるものがあり、吹雪の様子などの描写が視覚的で、尚更そう感じます。
 作者は、アニメ制作会社でアニメの演出などをしていたそうですが、なるほどという感じもしました。
 ダムの構造の描写などにも作品のテンポを乱さない程度に凝っていて(“理科系”というか“工業系”って感じが、この人はします)、臨場感を増す効果をあげています。
 アクション・サスペンスの新たな旗手の登場かと思われる作品ではありました(その後、純粋なアクション・サスペンスはあまり書いてないようですが…)。

oda.gif ただ、アクション・サスペンス的である分、人物描写や人間関係の描き方が浅かったり類型的だったりで、映画にするならば、役者は大根っぽい人の方がむしろ合っているかも、と思いながら読んでました。
 結局のところ映画は織田祐二主演で、体を張った(原作にマッチした)アクションでしたが、演技の随所に「ダイハード」のブルース・ウィリスの“嘆き節”を連想したのは自分だけでしょうか。
 織田祐二はまあまあ頑張っているにしても、テロリスト役の佐藤浩市の演出が「ダイハード」のアラン・リックマンのコピーになってしまっているため存在感が薄く、人質にされた松嶋菜々子に至っては、別に松嶋菜々子を持ってくるほどの役どころでもなく、客寄せのためのキャスティングかと思いました。              映画「WHITEOUT ホワイトアウト」 ('00年・東宝)

「WHITEOUT ホワイトアウト」●制作年:2000年●製作:角川映画●監督・脚本:若松節朗●原作:真保裕一●時間:129分●出演:織田裕二/松嶋菜々子/佐藤浩市/石黒賢●劇場公開:2000/08●配給:東宝 (評価★★★)

奥只見ダム.jpg 奥只見ダム  黒部ダム.jpg 黒部ダム

 細かいことですが、本作の舞台のモデルとなったと思われる日本最大の貯水量のダムは奥只見ダム(重力式ダム)ですが、映画では「奥遠和ダム」はアーチ式ダムという設定になっているため(奥只見ダムはアーチ式ではない)、撮影の際にダムの外観のショットは、アーチ式の黒部ダムなどで撮っています(原作の中身は重力式ダム、単行本の表紙は奥只見ダムと思われる)。
 映画化するならば、アーチ式ダムの方がビジュアル面で映える、という原作者の意向らしい。確かにそうかも。さすが、もとアニメ演出家。
 
 【1998年文庫化[新潮文庫]】

   

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投稿者 wadamy : 21:34

2006年10月08日

【558】 ○ 阿部 和重 『シンセミア (上・下)』 (2003/10 朝日新聞社) ★★★☆ (○ 柳町 光男 「さらば愛しき大地 (1982/04 プロダクション群狼) ★★★★)

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フォークナーか? 中上健次か? と思いきや、エンタテインメントだった。構築力は凄い。

シンセミア 上.jpg シンセミア下.jpg 『シンセミア(上)(下)』 ['03年/朝日新聞社] 阿部和重.png 阿部和重 氏

 2004(平成16)年・第15回「伊藤整文学賞」受賞作。
 山形県・神(じん)町のあるパン屋の戦後史から話は始まり、2000年の夏にこの小さな田舎町で、高校教師の自殺、幽霊スポットでの交通事故死、老人の失踪といった事件が立て続けに起きるとともに、それまで町を牛耳ってきた有力者たちのパワーバランスに変化が起き、一方そうした有力者の息子たちをはじめ町のゴロツキ連中たちは盗聴・盗撮活動に精を出し、町は次なる犯罪の温床を育んでいく―。

 町の有力者とのしがらみを断ち切れないパン屋の主人と、ゴロツキ連中たちとのしがらみを断ち切れないその息子の共々の失墜を、地縁・血縁で繋がった多くの登場人物とともにロバート・アルトマンの群像劇の如く(例えば映画「ナッシュビル」('75年)は24人の“主人公”がいた)描いていますが、出てくる人間がどれもこれもろくでもない奴ばかりで、結局、暗い過去を持つこの町こそが主人公なのではないかと思わせます。

八月の光.jpg フォークナー 『八月の光 (新潮文庫)』  さらば愛しき大地.jpg 中上健次・柳町光男脚本 「さらば愛しき大地

 そうした意味では、作中にもその名があるフォークナーの『八月の光』を思い起こさせますが、フォークナーは架空の町を舞台に小説を書いたのに対し、「神町」は作者の故郷で、作者の実家はパン屋だし、中山正とかいう人もロリコン警察官なのかどうか知らないけれど実在するらしく、よくここまで書けるなあという感じです。
 むしろ、閉塞した田舎町で麻薬に溺れてダメになっていく登場人物などは、中上健次が初めて映画脚本に参画した「さらば愛しき大地」('82年)を想起させました。
                                              「さらば愛しき大地」 パンフレット&ポスター
さらば愛しき大地 poster.jpgさらば愛しき大地ポスター.jpg 「さらば愛しき大地」は、茨城県の鹿島地方という田舎を舞台に、高度成長期における巨大開発により工業化・都市化が進む中、農家の長男でありながら時代の波に乗れず破滅していく男を描いたもので、農家の長男(根津甚八)が農業を嫌って鹿島開発に関わる砂利トラックの運転手をやっているのですが、事故で2人の息子を亡くしてから人生の歯車が狂いだす―。
 女房(山口美也子)ともうまくゆかなくなり、家を出て馴染みの店の女(秋吉久美子)と同棲をし、いつしか覚醒剤にも手を出すようになってしまい、荒む一方の生活の中、遂に同棲の女を包丁で刺し殺してしまうというもので、覚醒剤に溺れて破滅していく男と、献身的に男に尽くしながら最後にその男に刺されてしまう女を、根津甚八・秋吉久美子が凄絶に演じたものでした(田園シーンのカメラは、小川プロの田村正毅。「ニッポン国古屋敷村」('82年)でもそうだったが、田圃を撮らせたら天下一の職人)。

「さらば愛しき大地」●制作年:1982年●監督・:柳町光男●製作:柳町光男/池田哲也/池田道彦●脚本:柳町光男/中上健次●撮影:田村正毅●音楽:横田年昭●時間:120分●出演:根津甚八/秋吉久美子/矢吹二朗/山口美也子/蟹江敬三●公開:1982/04●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:シネマスクウェア東急(82-07-10)(評価:★★★★)

 「さらば愛しき大地」においては、そうした鬱々とした男女の営みや事件もまるで風景の一部でもあるかのように時間は淡々と流れていきますが、『シンセミア』における様々な出来事に関する記述もまた叙述的であり、文学作品としては大岡昇平『事件』などに近いのかなあとも思いました(中山巡査のロリコンぶりだけがやけに思い入れたっぷりなのはなぜ?)。

 しかし、最後に読者のカタルシス願望を満たすかのようなカタストロフィが用意されていて、ああ、これって「文学」というより「ノワール」で、要するにエンタテインメントだったんだなと納得(「さらば愛しき大地」も「ノワール」であると言えるし、最後はカタストロフィで終わるが、こんなハチャメチャな終わり方ではない。その点では、映画の方が“文学的”)。

 ただし、小説全体の構築力は凄いと思いました。凡庸とは言い難いものがあります。
文庫版には人物相関図と年表が付いているそうですが、何かマニアックな気色悪ささえ感じました。

 【2006年文庫化[朝日文庫(全4巻)]】

         

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投稿者 wadamy : 00:05

2006年09月17日

【557】 ○ 阿佐田 哲也 『麻雀放浪記 (全4巻)』 (1969/09 双葉社) ★★★★ (○ 和田 誠 「麻雀放浪記 (1984/10 東映) ★★★★)

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伝わる時代の雰囲気、キャラクターやイカサマ対決の面白さ。

麻雀放浪記.jpg 『麻雀放浪記』 角川文庫(全4巻) 麻雀放浪記3.jpg 映画パンフ 阿佐田哲也.jpg 阿佐田哲也(1929‐1989/享年60) (角川文庫表紙イラスト:黒鉄ヒロシ/映画パンフ :和田誠)
麻雀放浪記1 青春篇.jpg
 '69年に「週刊大衆」で連載が始まった阿佐田哲也(1929‐1989)のギャンブル小説ですが、「青春編」「風雲編」「激闘編」「番外編」と続き、彼の代表作となりました。
 これの作品のヒットのお陰で双葉社は経営が持ち直したというから、昭和40年代って麻雀ブームだったんだなあと、改めて思いました。

 しかしこの小説で描かれているのは昭和40年代ではなく、終戦後まもなくの時代。上野のドヤ街をはじめ、その時代の情景やそこに生きた人々の息吹が、麻雀という勝負事を通して、圧倒的シズル感をもって伝わってきます。さすが、後に「色川武大」の本名で直木賞をとることだけはある筆力!
                              『麻雀放浪記 1 青春篇 (1) (文春文庫)』 ['07年]

 ギャンブル小説なのでほとんど全編ヤクザな世界を描いたものなのですが、同時に、(明らかに阿佐田哲也がモデルであるところの)〈坊や哲〉の子どもから大人への成長物語にもなっています。
 〈坊や哲〉以外にも、〈ドサ健〉、〈上州虎〉、〈出目徳〉といった魅力的なキャラが多く登場し、随所で紹介されるイカサマ技も面白かったです。

 最初から、お互いにイカサマで最高の手で上がることしか考えていない麻雀とか、情婦から果ては家の権利書まで賭けて、死人が出ても続ける麻雀って、「ちょっとスゴ過ぎ」という感じでした。

麻雀放浪記2.jpg イラストレーターの和田誠の監督により'84年に映画化されましたが、配役がまずまずハマっていて、白黒で撮影したのも成功していたと思います。
高品格.jpg 〈ドサ健〉の鹿賀丈史も悪くなかったのですが、〈出目徳〉の高品格が特に良かったです。
 俳優になる前はプロボクサーだったらしいですが、味のあるバイプレーヤーでした。

 映画「麻雀放浪記」('84年/東映)

「麻雀放浪記」●制作年:1984年●製作:角川春樹事務所●監督・脚本:和田誠●原作:阿佐田哲也(色川武大)●時間:109分●出演:真田広之/鹿賀丈史/高品格/加藤健一/名古屋章/大竹しのぶ/加賀まりこ/内藤陳/天本英世/笹野高史●劇場公開:1984/10●配給:東映 (評価★★★★)

 【1979年文庫化[角川文庫(全4巻)]/2007年再文庫化[文春文庫(全4巻)]】

     

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投稿者 wadamy : 13:28

2006年09月10日

【530】 ◎ 山崎 豊子 『華麗なる一族 (上・中・下)』 (1973/01 新潮社) ★★★★☆ (○ 山本 薩夫 「華麗なる一族 (1974/01 東宝) ★★★☆)

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古さを感じさせない。政財界にわたっての丹念な取材の跡が窺える。

華麗なる一族 上巻.jpg 華麗なる一族 中巻.jpg 華麗なる一族 下巻.jpg 新潮文庫〔改訂版〕 山崎豊子 華麗なる一族.jpg 文庫旧版
                                                                 映画パンフ 
華麗なる一族.jpg 万俵財閥の当主で阪神銀行頭取の万俵大介の野望を軸に、それに翻弄される一族の姿を金融業界の内幕に絡めて描いた作品で、'73(昭和48)年の発表ですが、「金融再編」に伴う「銀行の合併問題」がモチーフになっているため、あまり古さを感じさせません。

 小説の冒頭は、志摩半島の英虞湾を望む一流ホテルでの主人公一族の豪奢な正月晩餐会から始まりますが、作者は舞台のモデルにした「志摩観光ホテル」のレストランから夕陽がどう見えるかまで取材しに行ったそうで、そうした丹念な取材は、銀行内部のみでなく、政治家や大蔵省など政財界に広く及んでいて、物語にリアルな厚みを増しています。                   

 大介の野望は、上位銀行の専務と結託してその銀行を併呑する、所謂「小が大を呑む」というもので(かつて神戸銀行が太陽銀行を吸収合併し、“名”前だけ「太陽神戸」として“実”の方をとった出来事がベースになっている)、大介の政財界への働きかけは、「政財癒着は良くない」という綺麗事のレベルを遥かに凌駕する凄まじさで、目的のためには親友も、長男さえも切り捨てる―。
 タイトルの「華麗なる一族」という言葉が、政界との癒着強化のための閨閥づくりを指すとともに、長男・鉄平の暗い過去の出生の秘密を表す反語にもなっています。

「華麗なる一族」1974年.jpg華麗なる一族 ビデオ.jpg「華麗なる一族」●制作年:1974年●製作:芸苑社●監督:山本薩夫●脚本:山田信夫●音楽:佐藤勝●原作:山崎豊子●時間:210分●出演:佐分利信/仲代達矢/月丘夢路/京マチ子/酒井和歌子/目黒祐樹/田宮二郎/二谷英明●劇場公開:1974/01●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷名画座 (84-01-08) (評価★★★☆)                   映画 「華麗なる一族 [VHS]」 ビデオ(上・下)

 映画「白い巨塔」が大ヒットしたためか、この作品は豪華キャストで映画化されましたが('74年・山本薩夫監督)、オールキャストと言っても、その中で圧倒的に存在感を際立たせているのは佐分利信で、その万俵大介(佐分利信)と鉄平(仲代達矢)の“暗い血”にまつわる確執に重きが置かれていたような感じもしました。              

華麗なる一族2.gif 鉄平の最期が、大介の女婿を演じた田宮二郎の実人生での自殺方法と同じだったことに思い当たりますが、鉄平役は実は田宮二郎がやりたかった役だったそうです。                       
 
 どうしても、こういう複雑なストーリーの話が映画化されると、情緒的な方向に重きがいってしまうのは仕方が無いけれど(更には大介の妻妾同衾シーンなども当時話題になったらしい)、でもそれなりの力作で、“いい人”がとにかく苛められる(相手方銀行の頭取の二谷英明とか)点で「白い巨塔」に共通するものを改めて感じたのと、農家の預金獲得のために、ワイシャツ姿で終日稲刈りまでする銀行員なども描いていて、「銀行員って意外と泥臭いなあ、大変なんだなあ」とつくづく思わされました。

 【1973年単行本・1979年改訂[新潮社(上・中・下)]/1980年文庫化・2003年改訂[新潮文庫(上・中・下)]】

    

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投稿者 wadamy : 15:22

【529】 ◎ 山崎 豊子 『白い巨塔 (1965/07 新潮社) ★★★★★ (○ 山本 薩夫 「白い巨塔 (1966/10 大映) ★★★★)

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医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせた傑作。

白い巨塔 1.jpg 白い巨塔 2.jpg 白い巨塔 3.jpg 新潮文庫(全5巻) kyotou2.jpg 映画パンフ

kyotou1.jpg この作品は何度かテレビドラマ化ざれ、田宮二郎、村上弘明などが主役の財前五郎を演じ、最近では'03年にフジテレビ系で唐沢寿明主演のものがありましたが、断トツの視聴率。しかしながら個人的には、原作を読む前に映画(田宮二郎主演)で観たものが、強烈な印象として残っており、また観たいと思っていたら、'04年に映画のニュープリント版が銀座シネパトスなどで公開されました(テレビドラマのヒットのお陰)。

「白い巨塔」●制作年:1966年●製作:永田雅一(大映)●監督:山本薩夫●脚本:橋本忍●音楽:池野成●原作:山崎豊子●時間:150分●出演:田宮二郎/東野英治郎/小沢栄太郎/小川真由美/加藤嘉/田村高廣●劇場公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:渋谷名画座 (83-12-05) (評価★★★★)              映画「白い巨塔」('66年/大映)

 田宮二郎はテレビでも財前医師を演じていますが(愛人役は大地喜和子)、クイズ番組「タイム・ショック」の司会とかもやっていたのに、まさかヘミングウェイと同じ方法でライフル自殺するとは思わなかった…(司会者は自殺しないなどという法則はないのだが)。

 もともとの『白い巨塔』('65年/新潮社)は、'63年から'65年にかけて「サンデー毎日」に連載されたもので、熾烈な教授選挙戦を征して教授になった財前五郎が、権力者の後ろ盾のもとに、彼の医療ミスを告発する里見医師らを駆逐するところで終わっています。
 
 映画('66年)も教授選をクライマックスにそこまでを描いていて、原作・映画ともに、医学界の権威主義に対する強烈な風刺や批判となっていますが、権力志向の強い男の
ピカレスク・ロマンとしてもみることができます。
 
 しかしこうした終わり方に世間から批判があり、そのため『続・白い巨塔』('69年)が書かかれたということです。
 文庫の方も当初は正・続に分かれていましたが、'02年の改定版で「続」も含め『白い巨塔』(全5巻)になっていて、最近のテレビドラマもそれに準拠しています。
 文庫で読むときは、もともとは第3巻で終わる話だったことを意識してみるのも良いのではないでしょうか。

 続編も含め、単純な勧善懲悪物語にしていないところがこの著者の凄いところです。
 財前はむしろあやつり人形のような存在で、彼をとりまく人々の中に、医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせている(読んでると、権力を持たなければ何も出来ないではないかという気にさえさせられる)一方、個々には、権力に憧れる気持ちと真実を追究し正義を全うしようという気持ちが入り混じっているような“普通の人”も多く出てきて、この辺りがこの小説の充実したリアリティに繋がっていると思います。

 【1965年単行本・1973年改訂[新潮社]/1978年文庫化・1993年改訂・2002年再改定[新潮文庫(全5巻)]】

      

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投稿者 wadamy : 15:21

【501】 ○ 宮部 みゆき 『模倣犯 (上・下)』 (2001/03 小学館) ★★★★ (× 森田 芳光 「模倣犯 (2002/06 東宝) ★☆)

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クライマックスがやや弱い、それと、少し長すぎる気もするが、それでもそこそこの力作。

模倣犯 上.jpg 模倣犯 The copy cat 下.jpg模倣犯〈上〉〈下〉 style=模倣犯.jpg 新潮文庫(全5巻) 〔'05年〕
(単行本カバー画:大橋 歩)

模倣犯 movie.jpg ある日、公園のゴミ箱から女性の右腕が発見されるが、それは猟奇的な残虐さと比類なき知能を併せ持つ犯人からの宣戦布告であり、連続女性殺人事件のプロローグだった―。

 中居正広が初主演した映画で荒筋を知る人は多いと思いますが、映画でのあの変な結末は何だったのでしょうか?
 “正しい理解”のために原作を薦めようにも、とにかく長いので躊躇しますが…。感想が聞きたいばかりに他人の時間をそんなに奪っていいのか、とか思ったりして(半分、冗談だが)。
 でも、それぐらいに、映画は勝手に原作を改変して、しかもダメにしてしまっているように思えます。

 小説そのものについては、『火車』('92年/双葉社)の素晴らしいラストや『理由』('98年/朝日新聞社)の冒頭の意外な展開に比べると、本書のクライマックスにおける犯人を激昂させるキー―この鍵で扉が簡単にバタンと開いてしまうところは、やはり今ひとつでしたが(今まで極めて冷静だった犯人が、あまりに脆く瓦解する)、でも読んでいる間はやはりハマりました。

 個人的には『火車』が星5つで、『理由』も星5つに近く、この作品もそれらに及ばずともそこそこの評価になってしまうのです。

 全部読むのにかなり時間かかりました。それだけ長時間、宮部ワールドに浸れたということでもありますが、少し長すぎる気もします。
 けっこう残忍な場面とかがあったわりには、登場キャラの多いRPGゲームをやり終えたような読後感であるのは、この作家の体質的なものではないかと思います(本人、RPGゲーム大好き人間らしいですが)。

「模倣犯」●制作年:2002年●製作:「模倣犯」製作委員会(東宝・小学館・博報堂DYメディアパートナーズ・毎日新聞社・日本テレビ放送網ほか)●監督:森田芳光●撮影:北信康●音楽:大島ミチル●原作:宮部 みゆき●時間:124分●出演:中居正広/山崎努 /伊東美咲 /木村佳乃 /寺脇康文/藤井隆●劇場公開:2002/06●配給:東宝 (評価★☆)

 【2005年文庫化[新潮文庫(全5巻)]】

         

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投稿者 wadamy : 13:19

【498】 ◎ 宮部 みゆき 『理由 (1998/06 朝日新聞社) ★★★★☆ (○ 大林 宣彦 「理由 (2004/10 WOWWOW) ★★★☆)

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多くの読者を得る“理由”の1つは、社会への問題提起にあるのでは。

理由 単行本.jpg理由』 ['98年] 理由2.jpg理由 (朝日文庫)』 〔'02年〕 理由.jpg理由 (新潮文庫)』 〔'04年〕
 1998(平成10)年下半期・第120回「直木賞」受賞作。  
 東京・荒川区の超高層マンションで起きた殺人事件は、一家3人が殺され1人が飛び降り自殺するという奇怪なものだったが、被害者たちの身元を探っていくとそこには―。

 直木賞受賞作ですが、事件状況とその意外な展開という着想が素晴らしいと思いました。
 事件の解明を通して住宅ローン地獄や家族の崩壊という現代的テーマが浮き彫りになってきますが、そこにルポルタージュ的手法が効いています。
カバチタレ!3.jpg火車.jpg
 『火車』('92年/双葉社)において、戸籍が本人であることを詐称することで簡単に書き換えられることをプロットに盛り込んだ著者は、この作品では「占有権」という一般の目には不可思議な面もある法的権利と、それを利用する「占有屋」という商売に注目していて、こうした着眼とその生かし方にも、著者の巧さを感じます。

 (「占有屋」は、後に『カバチタレ!』(青木雄二(監修)・田島隆(原作)・東風孝広(漫画))というコミックでもとりあげられ、テレビドラマ化された中でも紹介された、法の網目を潜った奇妙な商売。)

映画「理由」.jpg 作品の冒頭の特異な事件展開にはグンと引き込まれましたが、それに対し、事実がわかってしまえばそれほど驚くべき結末でもなかったのでは…みたいな感じもあります。

 しかし、ミステリーとしての面白さもさることながら、それ以上に、現代社会に対する鋭い問題提起が、この多才な作家の真骨頂の1つであり、幅広い世代にわたり多くの読者を獲得している“理由”は、そのあたりにあるのではないかと思いました(とりわけそれは、社会派推理の色合いが強い『火車』と『理由』の2作品に最も言えることではないか)。

宮部みゆき『理由』新潮文庫.jpg '04年に大林宣彦監督が映画化していますが、元々はWOWOWのドラマとしてその年のゴールデンウィークに放映されたものであったとのこと。

 関係者の証言を積み重ねていくドキュメンタリー的なアプローチは原作と同じで、出演者107人全員を主役と見做し(“主要”登場人物に絞っても約40名!)、全員ノーメークで出演と頑張っているのですが、「キネマ旬報」に載った大林宣彦監督のインタビュー記事で、こうした作り方の意図するところを知りました。

 個人的には、原作に忠実である言うより(登場人物のウェイトのかけ方は若干原作と異なる)、原作のスタイルを損なわずにそのまま映像化したら(つまり、この作品における膨大な関係者証言の部分を、一切削らずに、「証言」のままの形で映像化したら)どのようになるかとという推理小説の映像化に際しての1つの実験のようにも思えました。

 但し、実際映像化されてみるとやや散漫な印象も。森田芳光監督の「模倣犯」みたいな“原作ぶち壊し”までいかなくとも、もっと違ったアプローチもあってよかったのではないかとも思いました。
                                                   新潮文庫 映画タイアップカバー版

理由3.jpg「理由」●制作年:2004年●製作:WOWOW●監督・脚本:大林宣彦●音楽:山下康介/學草太郎●原作:宮部 みゆき●時間:160分●出演:岸部一徳/柄本明/古手川祐子/風吹ジュン/久本雅美/立川談志、/永六輔/片岡鶴太郎/小林稔侍/高橋かおり/小林聡美/渡辺えり子/菅井きん/石橋蓮司/南田洋子/赤座美代子/麿赤兒/峰岸徹/宝生舞/松田洋治/根岸季衣/伊藤歩/宮崎あおい/裕木奈江/村田雄浩/山田辰夫/大和田伸也/松田美由紀/ベンガル/左時枝/入江若葉/山本晋也/渡辺裕之/嶋田久作/柳沢慎吾/島崎和歌子/中江有里/加瀬亮/勝野洋●劇場公開:2004/10●配給:アスミック・エース (評価★★★☆)

 【2002年文庫化[朝日文庫]/2004年再文庫化[新潮文庫]】

●大林宣彦監督インタビュー(「キネマ旬報」(2004.1.下)
 「今回の『理由』は、WOWOWの企画で出発してるんですけど、実はその枠にははまらない。というのは、WOWOWの番組としての予算も枠も決まったシリーズの中の一本なんですけど、宮部みゆきさんの原作は、その枠に合わせて作るのが不可能な小説なんですよ。これまでも多くの人が映画化やテレビドラマ化を試みたんだけど、宮部さんは一度も首を縦に振らなかった。その理由は、ひとつの殺人事件にいかに多くの人が絡み合っているかという、ぼく流に言えば人間や家族の絆が失われた時代に、殺人事件がむしろ哀しき絆となったような人間群像の物語なので、ぼくのシナリオの中でも主要な人物だけで107人もいるんですよ。強引にまとめていけば、10人くらいの物語にはできる。普通の映画やテレビの場合では、そうやって作るんです。しかし、それでは宮部さんが試みた集団劇としての現代の人間の絆のありようが描ききれないんですね。つまりこれをやる以上は、107人総てを画面に出さなければいけない。
 宮部さんは、ぼくに監督をお願いしたとWOWOWから知らされた時点で、すべてぼくにお任せしますとおっしゃったんです。任された以上、ぼくは原作者が意図したものを映画にするのが礼節だと思います。ぼくはいつも原作ものを映画にするときは、作者がはじめからこの物語を映画に作ったら、どういうものになるだろうと考えるんですね。だから紙背にこめられた作者の願いを文学的にではなく映画的に表現したらこうなるよというものを作ろうという意味で、決して原作どおりではないんだけど、原作者の狙いや願いを映画にしようと」

      

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投稿者 wadamy : 13:04

【488】 ◎ 松本 清張 『砂の器 (1961/07 カッパ・ノベルス) ★★★★☆ (○ 野村 芳太郎 「砂の器」 (1974/10 橋本プロ・松竹) ★★★★)

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映画を見てドラマを見て再読して、“本格派” 推理小説だったと…。

砂の器 カッパ.jpg 砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9).jpg 『砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9)』 砂の器.jpg 砂の器 下.jpg 『砂の器〈上〉 (新潮文庫)』 『砂の器〈下〉 (新潮文庫)』  〔'06年改版版〕

sunanoutuwa12.jpg この作品は、'60(昭和35)年5月から翌年4月にかけて「読売新聞」夕刊に掲載され、カッパ・ノベルスで'61(昭和36)年刊行、'74年に映画化されたほか、'04年には中居正広主演でTVドラマ化されているので、ストーリーを知る人は多いと思います。

 映画を見て、「宿命」という言葉(または“曲の演奏”)が頭にこびりついて、もう一度原作にあたると、刑事たちに視点を置いて犯人を地道に追う“本格派” 推理小説の色合いが強いという印象を受けました(テレビ版は最初から犯人を明かす倒叙型だった)。
 
 好みは人それぞれだと思いますが、小説における、推理を通して徐々に、間接的に“犯人像”を浮き彫りにして行く描き方の方が、主人公の“業”のようなものがじわ~っと感じられる気もします。
 (元々テレビ版の配役で「人間の業」のようなものの描出を期待する方が無理がある?)

映画「砂の器」.jpg 野村芳太郎(1919‐2005)監督による映画は、他の野村監督作品と比較しても、また同じ時期に映画化された他の松本清張原作のものとに比べても良い出来で、加藤剛が演じた〈和賀英良〉は、「飢餓海峡」('64年)で三國連太郎が演じた〈犬飼多吉(樽見京一郎)〉や「白い巨塔」('66年)で田宮二郎が演じた〈財前五郎〉と並んで、「成り上がる男」を体現していたと思われ、刑事役の丹波哲郎の演技も光るものがありました(その部下役が森田健作が演じている)。

 ただし、幼児期の暗い記憶や、自分をいじめた社会に対しての見返してやるという登場人物のリベンジ・ファクターが清張作品ならではのものだと思うのですが、どこまで映像で表現されていただろうかという気もします。
 テレビ版では「ハンセン病」というファクターを抜いてしまっているので、なおさらに原作とのギャップを感じざるを得ませんでした。
 
 この小説が今まで読んだ清張作品の中で一番だとは思わないし、「ハンセン病」に対する偏見を助長したという批判までありますが、作者の代表的な傑作作品であることに異存はなく、結末を知ったうえでも読む価値はあると思います。

砂の器 74松竹/橋本プロ.jpg「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本プロ・松竹●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川 也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林●劇場公開:1974/10●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)
 
  【1961年ノベルズ版[光文社]/1973年文庫化・2006年改版版[新潮文庫]】

     


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投稿者 wadamy : 11:24

【487】 ◎ 松本 清張 『黒い画集 (1971/10 新潮文庫) ★★★★☆ (○ 堀川 弘通 「黒い画集 あるサラリーマンの証言 (1960/03 東宝) ★★★☆)

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“映画化率”の高い短編集。映像と比べるのも面白い。

黒い画集.jpg  『黒い画集 (新潮文庫)』  〔'03年新装版〕 黒い画集 あるサラリーマンの証言.jpg映画 「黒い画集 あるサラリーマンの証言」 ('60年/東宝)

 新潮文庫版は、'59(昭和34)年4月から翌年7月にかけて光文社から刊行された『黒い画集』第1巻~第3巻の抜粋で、珠玉の名編集ですが、知る限りでは所収の7作中4作が映画化されており、“映画化率”の最も高い短編集ではないでしょうか。

amagigoe.jpg 「遭難」('61年映画化)は児玉清が被害者役でした。「証言」('60年映画化)は小林桂樹が好演、「寒流」('61年映画化)は池部良と新珠三千代の共演、「天城越え」('83年)は田中裕子が良かったです(「天城越え」は’98年に田中美佐子主演でテレビドラマ化もされている)。

 「天城越え」は、川端康成の『伊豆の踊子』に対する清張流の挑戦だという説もありますが(「踊り子を自分より下の弱い存在と見る東大生」vs.「旅の女性を憧憬のまなざしで見上げる少年」という対照的構図)、ある程度の説得力を持って感じられました。
 映画では、踊り子が派出所で少年の弁明をするという、小説には無い場面があります。テレビは、どうだったかなあ(ちょっと失念)。                  天城越え ('83年/松竹)

紐.jpg '05年にテレビ東京で「紐」を放映しました。絞殺死体を巡って保険金殺人の疑いがあるものの、容疑者には完璧なアリバイがあるという話で、「サスペンス劇場」とか「愛と女のミステリー」で今も清張作品をとりあげているというのは、「清張」というネームバリューだけでなく、面白さに普遍性があるということだと思います。
 原作が短編なので、それをどう脚色して映画や2時間ドラマにしているのか見比べるのも面白いです。
                                                        「紐」 ('05年/テレビ東京)
 映画化されていませんが、「凶器」という刑事が“餅をご馳走になる”話も味があって好きです。


 「遭難」の映画化タイトルは「黒い画集 ある遭難」、「証言」は「黒い画集 あるサラリーマンの証言」、「寒流」は「黒い画集 第二話 寒流」で、この中では、最初に映画化された堀川弘通監督の「「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)が地味ながらも面白くて印象に残っています(脚本は橋本忍だったのかあ)。

黒い画集 あるサラリーマンの証言.gif  ある会社の課長(小林桂樹)が妻に秘密で会社の同じ課の女性(原佐和子)を愛人にしていて、ある日情事の帰りに自宅近所に住む保険外交員の男とすれ違いざまについ目礼を交わしてしまうということがあり、その外交員は全く別の場所で起きた若妻殺しの容疑者として逮捕され、警察が課長のところに職質に来るが、課長は何も知らないとシラを切る―。
 保険外交員が犯人でないことは課長にはわかっているのだが、保険外交員のアリバイ立証の求めにより法廷証言を求められても、自らの保身のために外交員とは会わなかったと否認し、しかし、愛人に事実を話したのが人づてに伝わり、事件を担当している弁護士の耳にそれが入る―。

 小林桂樹って、それまでもサラリーマンものに多く出ているだけに、こうした小市民的な役がハマっているなあと(“小市民”でも愛人を囲うことができる点に、古き良き(?)時代を思わせるが)。
 原作は文庫で20ページほどしかないので、「天城越え」同様こちらも、愛人の若い恋人がヤクザに殺され、彼に強請られていた課長が若者殺害の容疑者になるという“原作には無い事件”を1つ絡ませています。
 ヤクザ役の小池朝雄とか刑事役の西村晃とかも渋い演技を見せており、この作品はビデオも絶版になっていて観る機会が限られると思いますが、時々CS放送などで放映されることがあります。

「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)

 【1959年単行本・2005年新装版[光文社]/1960年ノベルズ版[光文社]/1971年文庫化・2003年改版[新潮文庫]】

         

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投稿者 wadamy : 11:23

【486】 ○ 松本 清張 『ゼロの焦点 (1959/12 カッパ・ノベルス) ★★★★ (○ 野村 芳太郎 「ゼロの焦点 (1961/03 松竹) ★★★☆)

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社会ドラマとしての人間がしっかり描かれている初期代表作。

ゼロの焦点―長編推理小説 (カッパ・ノベルス.jpgゼロの焦点―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)ゼロの焦点.jpgゼロの焦点2.jpg  『ゼロの焦点 (新潮文庫)』 
  
 板根禎子は、広告代理店に勤める鵜原憲一と見合い結婚、信州から木曾を巡る新婚旅行を終えた。その7日後、東京へ転勤になったばかりだった憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言い前勤務地の金沢へ出張へ旅立つが、予定を過ぎても帰京しない―。やがて禎子のもとに、憲一が北陸で行方不明になったという勤務先からの知らせがある。
 禎子は単身捜査に乗り出すが、その過程で夫の知られざる過去が浮かび上がる―。
点と線 文庫.png点と線.png
 『ゼロの焦点』('58年発表)は、松本清張(1909‐1992)が『点と線』の翌年に発表したものですが、最初読んだ時は、時刻表トリックにハマって『点と線』の方が面白く感じたのに、時間が経つにつれ、そうしたトリックがやや陳腐化したこともあり、こっちの方が好きな作品になってきました(見合いだけで相手のことをよく知らないで結婚する―という設定においては、こちらの方が古風なのかも知れないが)。
       『点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4))』 『点と線 (新潮文庫)

 この小説が書かれた時点で“社会派”推理小説というジャンル分けは確立していなかったと思いますが、この辺りが始まりではないでしょうか。ミステリーとしては瑕疵が多いとの指摘もありますが、社会ドラマとしての人間がしっかり描かれて、これがこの作家の大きな魅力でしょう。

 また、清張の推理小説作品の中でも、風景の描写などに文学的な細やかさがあり、“旅情ミステリー”のハシリとも言えるのではないでしょうか。冒頭部分だったかが国語の試験問題に出されたのを覚えています。

zero1b.jpg『ゼロの焦点』(1961).jpg 映画化された「点と線」('58年・カラー)「ゼロの焦点」('61年・モノクロ)をそれぞれ観ましたが、「ゼロの焦点」の方が、白黒の画面が“裏日本”北陸の寒々とした気候風土に合った感じがして良かったです(松本清張がヒッチコックばりにちらっと出演していますが、どこで出てくるかは見てのお楽しみ)。

 多くのサスペンスドラマの典型モデルとなった、日本海の荒波を背に崖っぷちで犯人が告白するというラストシーンなど、橋本忍の脚本の運びを原作と比べてみるもの面白いかと思います。
                                映画「ゼロの焦点 [DVD]」(1961年/松竹)

「ゼロの焦点」●制作年:1961年●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●撮影:川又昂●音楽:芥川 也寸志●原作:松本清張●時間:95分●出演:久我美子/高千穂ひづる/有馬稲子/南原宏治/西村晃●劇場公開:1961/03●配給:松竹 (評価★★★☆)

 一方の「点と線」は、映画で観ると、主演の南廣が映画初出演ということもあり映画そのものがイマイチであるとともに、原作小説が社会派というよりはトリック主体のものであったことを改めて認識させられるものでした。

点と線 DVD.jpg点と線.jpg「点と線」●制作年:1958年●監督:小林恒夫●脚本:井手雅人●撮影:藤井静●音楽:木下忠司●原作:松本清張●時間:85分●出演:南廣/高峰三枝子/山形勲/加藤嘉/志村喬●劇場公開:1958/11●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸地下(88-01-23) (評価★★★) ●併映:「黄色い風土」(石井輝男)/「黒い画集・あるサラリーマンの証言」(堀川弘通)
                 
                                    映画 「点と線 [DVD]」(1958年/東映)


 【1959年ノベルズ版[光文社]/1971年文庫改版[新潮文庫]】

       


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投稿者 wadamy : 11:21

【475】 ○ 東野 圭吾 『秘密 (1998/09 文藝春秋) ★★★★ (○ 滝田 洋二郎 「秘密 (1999/09 東宝) ★★★☆)

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“感動ストーリー”だが、色々考えさせられるという意味で面白かった。

秘密.jpg  『秘密』 (1998/09 文藝春秋)  秘密DVD.jpg 1999年映画j化 (監督:滝田 洋二郎)

 1999(平成11)年度・第52回「日本推理作家協会賞」受賞作。 
 妻と娘が事故に遭い、妻は亡くなりますが、意識を取り戻した娘の方に妻の意識が宿って、残された夫は「娘の姿をした妻」と生活することになる―。
ゴースト ニューヨークの幻.jpg天国から来たチャンピオン.jpg 世間に対しては「娘が実は妻であること」は伏せていて、そのことがまずこの物語の第一の「秘密」。

 これ以上は何を書いてもネタバレになってしまいますが、アメリカ映画の「天国から来たチャンピオン」('79年)や「ゴースト/ニューヨークの幻」('90年)などのスピリチュアル・ファンタジーの系譜と同種のプロットかと思って読んでいました。

       「天国から来たチャンピオン [DVD]」/「ゴースト ニューヨークの幻 [DVD]

 そうしたら「憑依」という言葉が出てきて、この作品では心霊学的な「憑依」ではなく、超心理学的な「憑依現象」(心理学的には「多重人格」)としてのそれが扱われているので、「娘の姿をした妻」は実は「妻の意識を持った娘」であることがはっきりします。

 それでも読者を、「妻の人格」に感情移入させて読ませるところが、著者の力量でしょうか。
 夫の妻に対する想いを描き、「妻」の夫に対する想いを描きますが、後者は「娘の人格により投射された妻の像」であるはず。娘と妻の関係を直接的には描写せず、更に夫をセンチメンタリズムの中に埋没させ事実を直視させないことで、“科学的”ファンタージーとして成立しているように思えました。

 著者はそれでも不充分だと思ったのか、“指輪”を巡る第二の「秘密」を用意していましたが、それさえも、「霊」を持ち出さなくとも超心理学的には説明できてしまうことだと思います(ただしこの辺りにくると、真実はもうどうでもよくなっているような感じ)。

 亡くなった人の自我や個性が別の人の脳にコピーされた場合、その「別の人」が「亡くなった人」になり、状況的には「亡くなった人」が生きているというのと同じことになるのでしょうか。
 妻が娘にかけた、自分が死んだときに自動起動する「後催眠暗示」というふうにとれなくもないし、娘がそれを逆手にとって、夫の心の中での妻の座を占めようとしているようにとれなくもないない場面もあるからややこしい。

映画「秘密」.jpg “感動ストーリー”仕立てですが、著者は当初、コメディ仕立てでいこうかと考えたとのこと、自分にとっては、色々な見方ができて考えさせられるという意味での“面白さ”がありました。

 映画化もされましたが、話が途中から始まっているし、設定も細部において異なっていますが、物語の本筋の部分は生かされていたように思います。
 広末涼子の演技も悪くなっかたです(ベテランの役者陣が周りをしっかり固めているということもあったが)。
                         映画「秘密」(1999年・東宝)

幽霊紐育を歩く.jpg 因みに、先にあげた「天国から来たチャンピオン(Heaven Can Wait)」は、「幽霊紐育を歩く(Here Comes Mr. Jordan)」('41年)のリメイク作品で、前途有望なプロ・フットボール選手(ウォーレン・ベイティ)が交通事故で即死するが、それは天使のミスによるものだったため、困った天界は彼の魂を殺されたばかりの若き実業家の中に送り込み、その結果全く新しい人物となった彼は、再びフットボールの世界に乗り出す―というもの。

天国から来たチャンピオン2.jpg 「感動作」であり、“自分とは何か”を考えさせられる部分もありましたが、一方で個人的に今ひとつノリ切れなかったのは、映像上のウソがあるためで、つまり、死んだウォーレン・ベイティの魂が身体を借りた実業家兼フットボール選手を、やはりウォーレン・ベイティが演じているという点。

 これは致し方ないことであり、あまりこだわる人もいないのかも知れませんが、このウソを克服しないと映画が楽しめないような気もしました(オリジナル作品では、ボクシング選手の魂が実業家にのり移るのだがそれなりに実業家に見える。その点、ウォーレン・ベイティはどこから見てもウォーレン・ベイティ)。                                   「天国から来たチャンピオン」
 これに比べると、映画「秘密」は、こうした「お約束」を観る者に強いるほどではない分、(その点に関して言えば)旨く出来ているようにも思いました(原作がいいということか)。 

「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)

「天国から来たチャンピオン」●原題:HEAVEN CAN WAIT●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ウォーレン・ベイティ/バック・ヘンリー●製作:ウォーレン・ベイティ●脚本:エレイン・メイ/ウォーレン・ベイティ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:デーヴ・グルーシン●原作:ハリー・シーガル●時間:101分●出演:ウォーレン・ベイティ/ジュリー・クリスティ/ジェームズ・メイソン/ジャック・ウォーデン●日本公開:1979/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:新宿パレス(83-02-04)(評価:★★★☆)

 【2001年文庫化[文春文庫]】

      

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投稿者 wadamy : 09:09

2006年08月11日

【010】 △ 江波戸 哲夫 『成果主義を超える (2002/03 文春新書) ★★★ (△ 梶間 俊一 「集団左遷 (1994/10 東映) ★★★)

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電機メーカーの人事制度の取材はそれなりに深いが、提案面は肩透かし。

成果主義を超える.jpg 『成果主義を超える』 文春新書 〔'02年〕   江波戸哲夫.gif 江波戸哲夫 氏 (作家)

 『集団左遷』('93年/世界文化社)、『部長漂流』('02年/角川書店)などの企業小説や『会社葬送-山一証券最後の株主総会』('01年/新潮社)、『神様の墜落-“そごうと興銀”の失われた10年』('03年/新潮社)などの企業ドキュメントで知られる作家である江波戸哲夫氏が、企業を取材し、各社の成果主義人事制度の現状を分析、考察したものです。

 一般に人事制度の取材・とりまとめは専門のジャーナリストやライターが行うことが多いのですが、著者の取材はそれらに劣らない深さがあり、企業側だけでなく労働者や労働組合のコメントも取っているところにもバランスの良さを感じます。
 
 ただし、ある時期(2001年前後)のある業界の一定規模以上の企業のみを対象にした分析なので、確かに電機業界はいろいろな面で日本の産業のリーダー的役割を果たしてきた面はありますが(例えば週休2日制を最初に導入した大手企業は「松下」です)、これが日本企業全体の動向かと言われると若干の疑問もあります。

 鳴り物入りで導入された新人事制度の中には、一応機能しているものもあれば尻すぼみになっているものもあることがわかり、この辺りの取材はかなり緻密で、個人的には、大企業の人事部の中には、トレンドに合わせて何か新しい制度を入れて、自社適合性のチェックは後回しになっていると言うか、軽んじられている風潮があるのではないかと考えさせられる節もあります。
 いや、“自社適合”にばかり重きを置いていたら、何も出来ないまま同業他社から遅れていく、という焦りもあるかも。
 
 著者は、企業がリストラをしつつも根本的には雇用延長を図っていることに着眼し、企業への帰属意識(愛社精神)の効果は確かに見過ごせないとしています。
 しかしながら結論的には、企業は、年功序列・終身雇用制を弱めて従業員の帰属意識の減退を図りながらも、仕事へのエネルギーを引き出さなければならないという難しい課題を抱えていると…。

 確かにその通りですが、こうしたやや“感想”的結論で終わっているため、タイトルから具体的な“提案”を期待した向きには肩透かしの内容となっていることは否めないと思います。
 現実は、小説や映画のようなスッキリした締めくくり方にはならないということか…。

集団左遷2.jpg 因みに江波戸氏の小説『集団左遷』('93年/世界文化社)は映画化もされていて、バブル崩壊後に大量の余剰人員を抱えた不動産会社が、新規事業部に余剰人員50人を送り込み、達成不可能な販売目標を課して人員の削減を図るというリストラ計画を実行し、そうした中での50人のリストラ社員たちが逆境に立ち向かっていく姿を描いたものでした。
 梶間俊一監督はヤクザ映画系の出身の人で、テンポはいいし、“成果主義を超えた”かどうかはどもかく、一応“スッキリした締めくくり方”にはなっていますが、そこに至るつくりはやや粗いような気もしました(原作は未読。読めば結構面白いのかも)。
 柴田恭平がリストラされた社員のリーダーを熱演していて、この映画で「熱血ビジネスマン」のイメージが定着したとも言えるのではないでしょうか(脚本は'04年に自殺した野沢尚が書いている)。                                 「集団左遷」 ('94年/東映)

「集団左遷」●制作年:1994年●製作:東映●監督:梶間俊一●脚本:野沢尚●撮影:鈴木達夫 ●音楽:小玉和之●原作:江波戸哲夫●時間:116分●出演:柴田恭平/中村敦夫/津川雅彦/高島礼子/小坂一也/河原崎建三/萬田久子/北村総一朗/江波杏子/伊東四朗●劇場公開:1994/12●配給:東映 (評価★★★)

   

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和田泰明

投稿者 wadamy : 10:59

2006年08月04日

投稿者 wadamy : 16:20

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投稿者 wadamy : 14:44