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他の監督の作品には見られない、この監督だけの独自の世界が味わえる。

散歩する惑星 2000.jpg 散歩する惑星o.jpg  さよなら、人類  2014.jpg さよなら、人類s.jpg
散歩する惑星 愛蔵版 [DVD]」ラース・ノルド 「さよなら、人類 [DVD]」ホルガー・アンダーソン/ニルス・ウェストブロム
散歩する惑a6.jpg ここはとある惑星のとある町。30年間会社を無欠勤だった男が、リストラで解雇を宣告され泣きわめき、社長にすがりついて廊下を引き摺られていく。社屋の一階では、道に迷った男が訳もなく若者たちに殴られて倒れている。社長のペレ(トルビョーン・ファルトロム)は会社のことより、折れてしまったゴルフクラブを気にしている。ディナーショーでマジシャン(ルチオ・ブチーナ)は人体切断マジックに失敗して、協力者の腹をのこぎりで切ってしまう。保険金欲しさに自分の店に火をつけた家具屋経営のカール(ラース・ノルド)が、煤だらけで満員の地下鉄に乗っていると、どこからともなく音楽が聞こえてきて、乗客らが歌い始める。焼けた家具店の表通りは渋滞していて、デモ隊が鞭打ちをしながら車の間を行く。タクシー運転手をしていたカールの長男は、人々の悩みを聞かされるうちに自分が精神を病んでしまい、誰とも話せなくなって精神病院に入院中である。今は次男シュテファン(シュテファン・ラーソン)がタクシーを運転手をしている。そのタクシーに軍人が一人乗り込んできて、今日が総司令官(ハッセ・ソーデルホルム)の100歳の誕生日で自分がその祝辞の草稿を作った言う。将軍の100歳の誕生日を祝う式典が病院内で行われ、将軍はナチ式の敬礼をする。カールが同業者を訪ねると、彼は不況下で大聖年という理由で、十字架を売って儲けしようとしていて、カールも十字架を一つ買う。駅に行くと、自殺したはずのスヴェンが自分の後ろをついてくる。不条理な出来事が次々起きて、やがて町全体が異様な雰囲気に包まれていく―。

 CF界出身でカンヌの国際広告祭で8度のグランプリに輝いているロイ・アンダーソンの2000年の作品で、同年のカンヌ国際映画祭「審査員特別賞」受賞作です(勿論CFではなく映画として)。構想に20年、撮影に4年を費やしたという不条理映画で、どこかの惑星で展開するブラックでシュールな出来事の数々(上記に書き並べた分で半分足らずか)を、CGを使わずアナログ感たっぷり描いています。たまにはこんな映画を観るのもいいかなあという感じです。

 ロイ・アンダーソン監督はこの作品が長編としては「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」('69年)以来何と31年ぶりですが、この作品で、不条理な小劇で繋いでいきながら無理にストーリーを構築しようとはせず、ブラック且つシュールな雰囲気を醸す独特のスタイルを確立したという印象で、その後も、「愛おしき隣人」('07年)、「さよなら、人類」('14年)と寡作ながらも(7年に1作かあ)このスタイルを守っているようです。

ロイ・アンダーソン.jpgさよなら、人類 3.jpg 2014年・第71回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞した最近作「さよなら、人類」は(これも構想に15年、撮影に4年を費やしたという)、吸血鬼のお面や笑い袋といった面白グッズを売り歩く冴えないセールスマン・コンビのとサム(ニルス・ウェストブロム)とヨナタン(ホルガー・アンダーソン)を軸に話が展開し(これもストーリーにさほどさよなら、人類8_A04.jpg脈絡はないのだが)、2人がグッズがまるで売れずに散々な日々を送る中、フラメンコの女教師(ロッテ・トルノス)はレッスンを受けに来るお気に入りの若い男さよなら、人類ド.jpgの子の身体を指導のフリをして触りまくり、フェリーの船長(オラ・ステンソン)は船酔いが耐えられずに理容師に転職し、バーになぜか18世紀のスウェーデン国王カール12世(ヴィクトル・ギュレンバリ)が騎馬隊を率いて現われ...と、こちらも不条理の小劇のオンパレード。全39シーンというから、だんだんシーン数が多くなってきているのではないでしょうか。

さよなら、人類 2.jpg それらのシーンを主に繋いでいるのが、サムとヨナタンのセールスマン・コンビですが、この2人が面白グッズを売り歩いているのに滅茶苦茶にクラいというのがブッラクで可笑しいです。16世紀の画家ブリューゲルの「雪中の狩人」など様々な絵画からインスピレーションを受けて作られているとのことですが、低彩色のトーンは「散さよなら、人類 5.jpg歩する惑星」の時と同じであるものの、「散歩する惑星」よりも死のイメージが濃くなっているような気がしました。黒人たちがが回転する大きなドラムのようなものの中に入れられ、そのドラムが火で炙られるシーンなど、政治的なメッセージともとれるメタファーも前作よりグロテスクで直截的になっていますが、個人的には「散歩する惑星」の方がやや好みだったしょうか。

 何れの作品も、ストーリーを追い過ぎて観てしまっては楽しめないと思います。1シーン1シーンを、美術館にある絵を1枚1枚観るつもりで観たらいいのではないでしょうか。クロード・ルルーシュ、リドリー・スコット、大林宣彦、山崎貴とCMディレクター出身の映画監督は多いですが、これだけ尖がった方向で自らのスタイルを強固に貫いている監督は珍しいと思います。他の監督の作品には見られない、この監督だけの独自の世界が味わえます。

Sånger från andra våningen (2000)
Sånger från andra våningen (2000).jpg
散歩する惑星j.jpeg「散歩する惑星」●原題:SANGER FRAN ANDRA VANINGEN/SONGS FROM THE SECOND FLOOR●制作年:2000年●制作国:スウェーデン・フランス●監督・脚本:ロイ・アンダーソン●製作:フィリップ・ボバー●撮影:イストヴァン・ボルバス/イェスパー・クレーヴェンオース●音楽:ベニー・アンダーソン●時間:98分●出演:ラース・ノルド/シュテファン・ラーソン/ハッセ・ソーデルホルム/トルビョーン・ファルトロム/ルチオ・ブチーナ●日本公開:2003/05●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:恵比寿ガーデンシネマ(初代)(03-05-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(17-03-07)(評価★★★★)
恵比寿ガーデンテラス弐番館.jpg恵比寿ガーデンシネマ.jpg旧・恵比寿ガーデンシネマ 1994年(平成6年)10月8日、恵比寿ガーデンテラス弐番館内にオープン(2スクリーン)。2011年1月28日休館。2015年3月28日「YEBISU GARDEN CINEMA(正式名称「恵比寿ガーデンシネマ」)」として再オープン。


「さよなら、人類」●原題:EN DUVA SATT P A EN GREN OCH FUNDERADE PA TILLVARON/A PIGEON SAT ON A BRANCH REFLECTING ON EXISTENCE(「実存を省みる枝の上の鳩」)●制作年:2014年●制作国:スウェーデン・ノルウェー・フランス・ドイツ●監督・脚本:ロイ・アンダーソン●製作:ペニラ・サンドストロム●撮影:イストヴァン・ボルバス●音楽:Gorm Sundberg/Hani Jazzar●時間:100分●出演:ホルガー・アンダーソン/ニルス・ウェストブロム/カルロッタ・ラーソン/ヴィクトル・ギュレンバリ/ロッテ・トルノス/オラ・ステンソン●日本公開:2015/08●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-02-04)(評価★★★☆)

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関係性が"再生"される物語。原題タイトル「BEGIN AGAIN」の「AGAIN」に意味がある。

はじまりのうた01.jpgはじまりのうた02.jpg はじまりのうた98.jpg ジョン・カーニー監督.jpg
はじまりのうた BEGIN AGAIN [DVD]」 キーラ・ナイトレイ(Keira Knightley)/ジョン・カーニー(John Carney)監督
はじまりのうた15.jpg ミュージシャンの恋人デイヴ(アダム・レヴィーン)と共作した曲が映画の主題歌に採用されたのを機に、イギリスからニューヨークへやってきて彼とニューヨークで暮らすことにしたシンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)だったが、デイヴがスターとなって二人の関係の歯車に狂いが生じ始め、デイヴの浮気により彼と別れて、旧友の売れないミュージシャンのスティーブ(ジェームズ・コーデン)の家に居候する。スティーブは失意のグレタを励まそうとライブ・バーに連れていき、彼女を無理やりステージに上げる。歌い終わると、音楽プロデューサーを名乗るダン(マーク・ラファロ)にアルバムを作ろうと持ち掛けられる―。

 2013年にトロント国際映画祭で上映、2014年に一般公開のアメリカの音楽映画ですが、監督および脚本のジョン・カーニーは「ONCE ダブリンの街角で」('07年/アイルランド)の監督でアイルランド出身、主演のキーラ・ナイトレイはジェーン・オースティン原作の「プライドと偏見」('05年/英)など時代物の出演作が多いイングランド出身の女優であり(アメリカや日本ではむしろ「パイレーツ・オブ・ キーラ・ナイトレイ パイレーツ・オブ・カリビアン.jpgカリビアン」シリーズの第1作('03年)から第3作('07年)に出ていたことで知られているが)、ダン役のマーク・ラファロは米国俳優、デイヴ役のアダム・レヴィーンは米国のシンガーソングライター、ギタリストでロックバンド「マルーン5」のボーカル、ということで、英国的雰囲気と米国的雰囲気が入り交じったような映画だったでしょうか(グレタのことを励ます旧友スティーブ役の ジェームズ・コーデンもイングランド出身の俳優・コメディアン)。ジョン・カーニー監督の前作「ONCE ダブリンの街角で」もそうですが、最初は公開館数が非常に少なかったのが、口コミでその良さが伝わり大ヒットを記録したようです。

キーラ・ナイトレイ in「パイレーツ・オブ・カリビアン」

はじまりのうた86.jpg 冒頭のライブ会場の場面で、スティーブがグレタを無理矢理ライブのステージに上げて歌わせ、それにダンが聞き入ってしまうところから始まって、そこからフラッシュバックしてグレタの失意に至る道のりを振り返り、今度はダンの失意への道のりを振り返るという映画の前半部分の構成が、「倒叙法」とでも言うか、「長い導入部」とでも言うか実に巧みであり、しかも、技巧が勝ちすぎることなく、前半部分だけでもしっかり感動させてくれます(誰かが「開始3分で泣ける」と言っていたが確かに。しかも同じ場面で3回泣ける(?)というのはスゴイ)。

はじまりのうた4.jpg ここまでしっかり作られてしまうと、後半はもう予定調和でメデタシメデタシしかないのではないかと思ってしまいましたが、物語がグレタの"再生"に止まらずダンの"再生"も描いていて、これがグレタの"再生"だけだと単なる敏腕プロデューサーの話になってしまうところを、途中からダンの"再生"も描くことでバランスが良くなっています。

はじまりのうた53.jpg しかも、グレタは、ダン〈個人〉を"再生"させると言うよりは、過去の出来事によりダンとそれまでうまくいっていなかった彼の妻や娘との〈関係性〉を再生させます(それによってダン自身も再生する)。これはスゴいなあと思って観ていたら、今度はグレタと別れた恋人デイヴの〈関係性〉が"再生"されるのです。相互に関係性が"再生"される物語なんだなあと(原題タイトル'BEGIN AGAIN'の'AGAIN'に意味がある)。
 
はじまりのうた89.jpg 従って、グレタとダンはあくまで仕事上のパートナーに止まり、再会を約して「爽やかに」別れることになるわけですが、観ていていいなあという感じでした。やや出来過ぎた話との印象もありますが、ダンがバックバンドのメンバーを集めるところなどはコミカルで面白かったし、路上でのゲリラ・ライブはシズル感満点だったし(タイムズ・スクエアやエンパイア・ステート・ビルなどマンハッタンの名所巡りも味わえる)、「プライドと偏見」でアカデミー主演女優賞にノミネートされたキーラ・ナイトレイの演技力は、この現代劇でも発揮されていたように思います。

 エンディング・タイトルバックと共に映し出されるエピローグの、レーベル契約を結ばずにネットで曲を1ドルで曲を売るというアイデアも洒落ていて楽しかったです。

シング・ストリート 未来へのう3.jpgシング・ストリート 未来へのうた2.jpg 今月 ['16年7月]9日からは渋谷・シネクイントで、カーニー監督の最新作「シング・ストリート 未来へのうた」('15年/アイルランド・英・米)の上映が始まります。80年代半ばのダブリンが舞台のカーニー監督の自伝的要素も含んだ作品のようですが、シネクイントが「パルコ・パート3」の建て替えに伴う一時休業(?)で8月7日をもって最終上映となるため、シネクイントの実質ラストショーになるのではないだろうか。(実際その通りになった。ジョン・カーニーに着眼したシネクイントらしいラストショーか)

「シング・ストリート 未来へのうた」('15年/アイルランド・英・米)
    

はじまりのうた66.jpg「はじまりのうた」●原題:BEGIN AGAIN●制作年:2014年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョン・カーニー●製作:アンソニー・ブレグマン/トビン・アームブラはじまりのうた88.jpgスト(英語版)/ジャド・アパトー●撮影:ヤーロン・オーバック●音楽:グレッグ・アレキサンダー●104分●出演:キーラ・ナイトレイ/マーク・ラファロ/ヘイリー・スタインフェルド/アダム・レヴィーン/ジェームズ・コーデン/ヤシーン・ベイ/シーロー・グリーン/キャサリン・キーナー●日本公開:2015/02●配給:ポニーキャニオン●最初に観た場所:渋谷・CINE QUINTO(シネパルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpgクイント)(15-02-28)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(16-06-27)(評価:★★★★)
CINE QUINTO(シネクイント) 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「PARCO PART3」8階に「PARCO SPACE PART3」オープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。

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最後まで高いテンションが維持されているのは、アン・ハサウェイの勢いある「助走」のお蔭。

レ・ミゼラブル ps.jpgレ・ミゼラブル dvd.jpg レ・ミゼラブル バルジャンとコゼットX.jpg
レ・ミゼラブル [DVD]

レ・ミゼラブル 冒頭.jpg 1815年、フランス革命後の王政復古下、飢えた姪のためにパンを1つ盗み20年の刑に受けていたジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、19年目で仮釈放となるも、身分レ・ミゼラブル 燭台.jpg証の危険人物の烙印のため仕事につけずにいた。飢え、暴行を受けたバルジャンが教会の前で倒れていると、司祭が彼を客人として迎え入れ、暖かい食事とベッドを与えるが、バルジャンは夜中に教会の銀の食器を盗み逃亡する。すぐに捕まったバルジャンだったが、司祭は「食器は彼に与えたものだ」と警官に告げ、更に銀の蜀台をバルジャンへ与える。バルジャンは己(おのれ)の恥を知り、生まれ変わることを決意、身分証を破り捨て、仮釈放に伴う毎月の出頭も止める―。

レ・ミゼラブル バルジャンとジャベール.jpg 1823年、バルジャンは、貧者の味方と尊敬されレ・ミゼラブル ファンテーヌ1.jpgる市長になっていた。新任の署長ジャベール(ラッセル・クロウ)が挨拶にやってくるが、バルジャンの面影から彼の過去に疑惑を抱く。バルジャンの作業所で働く娘・ファンテーヌ(アン・ハサウェイ)は、男に捨てられ幼い娘コゼットを宿屋レ・ミゼラブル ファンテーヌ.jpgの夫婦に預けていたが、そのことで職場で騒動となり、バルジャンから穏便に収めるよう命じられた工場長により解雇されてしまう。ファンテーヌは、髪の毛、奥歯を売り、娼婦に身を窶(やつ)すが、娼婦街で彼女をからかった男を突き飛ばしたところへ警官隊が通りかかり、男は彼女レ・ミゼラブル バルジャンとファンテーヌ.jpgに襲われたと主張、ジャベールはファンテーヌを逮捕しようとするが、バルジャンが庇い病院へ運ぶ。ジャベールはバルジャンを逃亡犯として告発するが、別人が誤認逮捕される。バルジャンは苦悶し、法廷に乗り込んで事実を明らかにするが、法廷は取り合わない。バルジャンは病院にファンテーヌを訪ねるが、彼女はコゼットの幻を見ながら亡くなる。バルジャンはファンテーヌにコゼットの保護を約束し、ジャベールから逃げながら、宿屋で使用人の扱いを受けていた幼いコゼットを引き取る―。

レ・ミゼラブルABC.R.jpg 1832年、バルジャンは、美しい娘に成長したコゼット(アマンダ・サイフリッド)を連れ、貧民街で施しをしていた。そこにジャベールが現れる。パリでは革命気炎が高まり、特権階級の青年マリウス(エディ・レッドメイン)は、家を出て貧民街で革命運動に身を投じていた。宿屋夫婦の娘で、かつてコゼットと同じ家に暮らしてレ・ミゼラブル マリウスとエポニーヌ.jpgいた娘エポニーヌ(サマンサ・バークス)は、マリウスに恋をしていたが、マリウスはそれに気づかずコゼットに一目惚れし、コレ・ミゼラブル05.jpgゼットも同じく恋に落ちる。ジャベールに見つかったバルジャンは、家を引き払い、英国へ出発するとコゼットに告げる。マリウスは、エポニーヌにコゼットを探してくれと頼む。コゼLES MISERABLES.jpgットは、マリウスへの手紙を門に残し、エポニーヌが手紙を取る。民衆に慕われていた将軍の葬列の日、学生運動家たちは革命を決意、コゼットに恋していたマリウスも革命を選ぶ。王政側の兵から被弾し倒れたエポニーヌは、マリウスへコゼットの手紙を渡す。一方で、マリウスからコゼットへの手紙を受け取ったバルジャンは、彼を死なすまいとバリケード内部に侵入、そこにはジャベールが居た。彼は志願兵を名乗って偽情報を流していたが、正体を看破され拘束されていた。バルジャンはレ・ミゼラブル 7.jpgジャベールを逃す。翌朝、大砲でバリケードが粉砕され革命軍は全員が死亡したが、バルジャンが負傷したマリウスを抱えて下水道から逃亡し、2人だけが無事だった。その途中でジャベールに遭遇するも、ジャベールは彼らを捕えずに自殺する。マリウスはコゼットと結婚、父代わりだったバルジャンは、マリウスに自らの過去を明かし、その事実が明らかにされればコゼットを苦しませることになるとし、隠遁する。結婚式の日、宿屋夫婦からバルジャンが修道院にいることを明らかにされたマリウスは、コゼットとともに修道院へと向う。愛しいコゼットに見守られながら、ファンテーヌの幻に導かれ、バルジャンは天に召される―。

トム・フーパー監督.jpgレ・ミゼラブル 岩波.jpg 「英国王のスピーチ」('10年/英)でアカデミー作品賞を受賞したトム・フーパー監督の2012年作で、原作はもちろんヴィクトル・ユゴーですが(1862年発表)、1980年代にロンドンで上演され、以後、ブロードウェイを含む世界各地でロングランされていた同名のミュージカルの映画化作品であるとのことで、オリジナルのミュージカルの脚本家も原作者に名を連ねています。
レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)

レミゼラブル ブロードウェイ.jpg ミュージカルとしては、1985年のロンドン初演から史上最長ロングランを誇り、ブロードウェイでは1987年から2003年まで6,680回に渡ってロングラン上演されており、終了時点では第3位の連続公演(劇団四季のような"断続"公演ではない)回数でした。大体、バブル期後半の頃ニューヨークに行った日本人観光客が観るブロードウェイ・ミュージカルと言えば、この「レ・ミゼラブル」か、「キャッツ」(1982年~2000年、公演数7,485回)か、「オペラ座の怪人」(1988年~、公演数11,000回超)が定番でした。

 ゴールデングローブ賞でミュージカル・コメディ部門の作品賞を受賞したこの映画化作品の方は、波乱万丈のストーリーに、スケールの大きさと背景や細部のリアリティが加わり、更には、登場人物の表情がよく分かるという映画の特長がよく生かされていたように思います。それまでの多くのミュージカル映画が、歌の部分を事前にスタジオで収録してから、その音に合わせて演じる姿を撮影するのが一般的であったのに対し、この作品では、撮影時にピアニストを常駐させて仮の伴奏をする中で、俳優たちがその場で歌い、演技をしたため、よりリアルな感情表現を追求できたということです。

 イギリス映画ですが、ジャン・バルジャンを演じたヒュー・ジャックマンはオーストラリア出身、ジャベールを演じたラッセル・クロウはレ・ミゼラブル 2012 カーター ・コーエン.jpgレ・ミゼラブル  宿屋夫婦.jpgニュージーランド出身、ファンティーヌを演じたアン・ハサウェイとその娘コゼットを演じたアマンダ・サイフリッドが米国女優で、マリウスを演じたエディ・レッドメインが英国俳優です。欲深な宿屋夫婦を演じたサシャ・バロン・コーエンとヘレナ・ボナム=カーターも英国。ヘレナ・ボナム=カーター、ハリー・ポッターのベラトリックス・レストレンジ役以来どんどんスゴイ役になっていきますが、幼い子供までが凶弾に倒れるというヘビーな物語の中で、彼女とサシャ・バロン・コーエンの2人は、ある種ピエロ的なユーモアを醸していました。

レ・ミゼラブルハザウェイX.jpg この中ではバルジャンを演じたヒュー・ジャックマンもいいのですが、個人的"圧巻"は薄幸の女性ファンテーヌを演じたアン・ハサウェイでした。ファンテーヌは映画の前半3分の1くらいのところで死んでしまいますが、疾走するような集中力の高い演技で、う~ん、こんなスゴイ女優だったのかとビックリ。ミュージカルにおける俳優の演技ってパターン化しがちなのに対し(ラッセル・クロウなどがややそれ気味か)、彼女の演技はミュージカルの枠を超えてリアリティがありました。髪を売るために切るシーンでは自前の髪をばっさり切ったそうで、役者魂を感じます。彼女はこの作品で、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の両方で助演女優賞を獲得しています。

 2時間半以上の大作ですが、ミュージカル版の場合は第1幕・第2幕の間に途中で休憩があります。一方、一般にはミュージカルが映画化された作品の場合は休憩がない場合が多いので、どこか圧縮するケースと、舞台同様に全部やるケースがあり、後者の場合は観客の集中力を維持するのが一つ課題となる気がします。この作品はオリジナル・ミュージカルの"完全映画化"版を謳っており、ストーリーを端折ることは出来るだけしていないわけで、それでも初めから最後まで高いテンションが維持されていて、また、観ていてそれについていけるのは、やはり最初にアン・ハサウェイが勢いのある「助走」をつけてくれたからではないでしょうか。ヴィクトル・ユゴーの"ストーリーテラー"ぶりも再認識しましたが、ストーリーの面白さだけでなく、泣ける映画でもあります。

レ・ミゼラブル 2012.jpgレ・ミゼラブル 05.jpg「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:2012年●制作国:イギリス●監督:トム・フーパー●製作:ティム・ビーヴァン/エリック・フェルナー/デブラ・ヘイワード/キャメロン・マッキントッシュ●脚本:ウィリアム・ニコルソン/アラン・ブーブリル/クロード=ミシェル・シェーンベルク/ハーバート・クレッツマー●撮影:アン・ハサウェイ2.jpgアン・ハサウェイ.jpgダニー・コーエン●音楽:クロード・ミシェル・シェーンベルク●原作:(小説)ヴィクトル・ユゴー/(ミュージカル)アラン・ブーブリル/クロード・ミシェル・シェーンベルク●時間:158分●出演:ヒュー・ジャックマン/ラッセル・クロウ/アン・ハサウェイ/アマンダ・サイフリッド/エディ・レッドメイン/ヘレナ・ボナム=カーター/サシャ・バロン・コーエン/サマンサ・バークス/ダニエル・ハトルストーン/アーロン・トヴェイト/キリアン・ドネリー/フラ・フィー/アリスター・ブラマー●日本公開:2012/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(15-07-29)(評価:★★★★☆)

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テレビ版の方はテレビ版の方で、独自の世界を確立してしまった感じ。

Father Brown Complete Series 2 - BBC.jpgThe Pride of the Prydes father brown.png the shadow of the scaffold father brown 2.png
Father Brown Complete Series 2 [DVD] /S2 #3 "The Pride of the Prydes" /#4 "The Shadow of Scaffold"

The Pride of the Prydes.jpgブラウン神父 2-3-1.jpg 貴族のプライド家の領地を案内するツアー中、ガイド役を務めるオードリーが矢で射殺される事件が発生する。オードリーは教会でプライド家について調査をしていて、彼女のおせっかいを疎む人物は多かった。魔女に呪われているという言い伝えのあるプライド家がひた隠す秘密にブラウン神父(マーク・ウィリアムズ)が挑む―(第3話"The Shadow of Scaffold")。

ブラウン神父 2-3-3.jpg BBC「ブラウン神父」シーズン2(全10話)の本国放映は2014年1月で、日本では第1話・第2話が'14年5月、第3話以降は8月に放映されました(その際に、シーズン1(全10話)とシーズン2第1話・第2話も再放送された)。

ブラウン神父 2-3-2.jpg この第3話は、連続殺人の最初の殺人の動機がさっぱり分からず、従って犯人も見当がつきませんでしたが、動機はあって無いようなものだったなあ。魔女の呪いは、プライド家の長子に連綿と効いていたわけかあ。精神障害に対する偏見があるように感じられるのがやや引っ掛かりました。

 最初の殺人の犯人が2番目の犯人と同じでも良かったかとも思いましたが、そしたら2番目の殺人は起きなかったことになるのか。人の作った話にケチをつけるのは簡単だけど、いじるとなると難しいね(評価★★★)。

ブラウン神父 2-4-0.jpg 夫アイバン殺しの容疑で逮捕されたバイオレットの元を、ブラウン神父は告解を聞くために訪れる。しかし、バイオレットは潔白を訴え、妊娠していると告げる。事件の真相解明に乗り出した神父は、精肉店を営む一家が事件に関わっていると確信する。特にアイバンの母親はバイオレットを憎んでいた。フェリシアは、週に1度、彼女を癒す目的で朗読に訪れていた―(第4話"The Shadow of Scaffold")。

ブラウン神父 2-4-2.jpg 第4話は面白かった、と言うか、ヒロインをヒロインとしてパターンで観てしまたったため、最後に真犯人が捕まった後に、その"ヒロイン"であるところのバイオレットについて明かされた事実というのが意外でした。サリバン警部補は事件の全容解明よりもとにかく早いところ犯人を縛り首にしたいという感じだなあ。

ブラウン神父 2-4-1.jpg 一方のブラウン神父はバイオレットの秘密を鋭く見抜いたわけですが、結局、サリバン警部補には話さず自分で裁いてしまっていたなあ。尼さんにしちゃったわけ。"大岡裁き"と見做すには結構ビミョーな裁定でした。でも、まあそれなりに楽しめましたけれど(評価★★★☆)。

 テレビ版はブラウン神父は原作のようにあちこち旅せず、ホームグランドに腰を落ち着けてしまっている分、50年代のイギリスの田舎町の風情や人々の暮らしぶりがじっくり味わえるという利点があるようにも思います

 そもそも原作の時代設定は20世紀初頭なのですが、それを50年代に置き換えているということもあって、テレビ版の方はテレビ版の方で、独自の世界を確立してしまった感じでしょうか。まあ、気楽に観ることができてそこそこ楽しめる(時にケチもつけてみたくなったりする)シリーズではあります。

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神父と前任・新任それぞれの警部補との関係性の部分が、それぞれにおいて楽しめたか。

Father Brown Complete Series 2 - BBC.jpgブラウン神父 s2.jpg  mezzanine_232_jpg_fit_344x192.jpg
Father Brown Complete Series 2 - BBC [DVD] /Father Brown | S2, E1: The Ghost in the Machine
ブラウン神父 s2-1.jpg ビクター・マッキンレー家に呼ばれたブラウン神父は、夫人のシャーロットから"悪魔祓い"をしてほしい、と依頼される。シャーロットは、屋敷に幽霊がいて、突然物が動き出したりする、と言うのだ。実は、シャーロットには妹が居るが、9年前から行方不明になっていた―(第1話"The Ghost in the Machine")。

ブラウン神父 s2-2.jpg デンバーズ療養所を脱走したフィリックスは、「殺人...」と呟いて意識不明に陥る。サリバン警部補に止められながらも、療養所に不審を抱いたブラウン神父は自ら調査に乗り込んでいく。後日、フィリックスの葬儀が行われるが、フィリックスが突然息を吹き返す―(第2話"The Maddest of All")。

 BBC「ブラウン神父」シーズン1(全10話)の好評を受けて製作されたシーズン2(全10話)は、本国放映では2014年1月に月金のベルトで2週間に渡って一挙放映されましたが、日本ではAXNミステリーで、この第1話("The Ghost in the Machine")と第2話("The Maddest of All")のみ(Director:Matt Carter)、'14年5月に先行放映されました。

 本国でも人気が定着し、シーズン3の制作も決定しているようですが、もうマーク・ウィリアムズのブラウン神父像をはじめ、TVシリーズ独自の世界が確立されている印象で、原作のどの作品に該当するのか追いかけてもあまり意味がないのかも(シーズン1も半分はオリジナルだったし、シーズン1の時から"based on the character created by G.K. Chesterton"とはなっていたが)。

 第1話の原題の「機械の中の幽霊」という言葉は、デカルトの、内的に省察する自己のドグマ(身体=機械から切り離された内省する自己=幽霊)に関するギルバート・ライル(Gilbert Ryle, 1900-1976)による批判の表現として有名ですが(ライルは、デカルトの身体と心の二元論を嘲笑して、我々は機械(身体)の中に住む幽霊(心)なのだと表現した)、ライルがそのことを著した『心の概念』を発表したのは、1936年にG・K・チェスタトンが亡くなった、その13年後の1949年。

The Ghost in the Machine.jpg タイトルが大仰な割には結末はやや拍子抜けではあったけれど(事件と言うより事故だったわけか)、バレンタイン警部補が最後に警部に昇進してロンドンに赴任することになり、それまで事件の解決に際して先を越されてばかりで良くは思って神父に対して、自分が昇進できたのはブラウン神父のお蔭であることを素直に認めて礼を言うのが清々しく、同じMiss Marple   They Do It With Mirrors - コピー.jpgくBBCで1984年から1992年にかけて放映されたジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープルシリーズ」の終盤第11話「魔術の殺人」('91年)で、スラック警部が警視に昇進する前にミス・マープルにぎこちなく礼を言った場面を想起しました(評価★★★☆)。

サリバン警部補.jpg そして、第1話のエンディングで、ブラウン神父にあまりいい感情を抱いていない風の新任サリバン警部補が、第2話では本格的に事件を担当することになります。う~ん、これも犯人は大体読めてしまうし、事件そのものはイマイチだった気がしないでもないですが、サリバン警部補がバレンタイン警部補の最初の頃と同じく、ブラウン神父の事件への介入を嫌いながらも、ブラウン神父が療養所に患者として潜入しようと仮病を使ったのに対し、咄嗟にそれに合わせるような行動を取って神父の入院を後押ししたところなどは、意外と柔軟だったというか目的合理主義者であるような印象を受けました(後で、本当は逮捕するところだと忠告はしていたが)(評価★★★☆)。

 事件そのものはイマイチでしたが、神父とそれぞれの警部補との関係性の部分が、それぞれにおいて、まあまあ楽しめた2作でした(☆はその分のオマケといったところか)。

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ジョン・ネトルズが主役を演じた最後のエピソード。長らくの間お疲れ様でした。

第81話「安らぎのスパ殺人」dvd.jpg 第81話「安らぎのスパ殺人」.jpg Midsomer Murders Fit for Murder 2.jpg
"Midsomer Murders" Fit for Murder(安らぎのスパ殺人)

Midsomer Murders Fit for Murder 1.jpg ルーク・アーチボルド(ジェイソン・デュール)の経営するスパ&ホテルに、ジョイスとバーナビーは休みを利用して滞在することにする。バーナビーは、性に合わないので、文句を言い続けるばかりだった。やがて来るバーナビーの誕生日も何やら気掛かりな様子だった―。

Midsomer Murders Fit for Murder 0.jpg シーズン13の第8話(最終話)で、これまで通算81話に渡ってトム・バーナビー警部をを演じてきたジョン・ネトルズの最後の主演作ということで、本筋のミステリと併せて、バーナビーが引退を決意するという図太いサイドストーリーがあります。

 でも、ミステリの方も、いつもながらにジョイスの行くところに事件ありで、スパの客の女性キティが殺害され、スパの経営者ルーク・アーチボルドが殺害され、更に、先に殺された女性客の夫ケニーは行方不明で...と、相変わらずの複数殺人やら行方不明者やらで、一応は手を抜かず展開されていたように思います。

第81話「安らぎのスパ殺人」02.png 並行して、バーナビーの気掛かりの元が少しずつ明かされてきて、それは誕生日と同じ日に亡くなった父親に対する思いと(その日に限って、いつもの父親の誕生日と同じように一緒に釣りに行くことをしなかった自分に対する悔恨)、自分も父親と同じ年齢の誕生日、つまり間近に迫っている次の誕生日に死ぬのではないかという不安であったようです(既に誕生日が近づくつれて体調に変調をきたしていた)。

第81話「安らぎのスパ殺人」01.jpg ミステリの方は、サイドストーリーに圧迫されて、スパ経営者の妻と小説を書いているという女性の2人とそれを取り巻く男達の確執の経緯や、犯人の犯行動機とかが分かりにくかったかな。一応、このシリーズではここのところ、犯人が捕まった後、自らの殺人を丁寧に振り返ってくれる傾向にはあるのだけれど。

 突然、瞑想用の庭の噴水が噴き出して、びっくりして逃げ帰るトレーナーと、そこから行方不明者を突き止めるバーナビー(重傷を負ったままバルブに寄り掛かっていたわけか)、バーナビーが瞑想トレーナーの娘の透視術のインチキを見破ったかと思ったら、誰にも話していない自分の不安の源を言い当てられ、彼女の透視能力はホンモノだったとか、細部に見所はありました。

第81話「安らぎのスパ殺人」引退発表.jpg 事件解決後のエピローグに多い目に時間を割き、無事に誕生日を迎えたバーナビーが誕生パーティの席で突然の引退発表、唖然とするジョーンズも、事件現場からの呼び出し電話に当地に転任してきた従兄弟のジョン・バーナビー警部(ニール・ダジョン Neil Dudgeon)を電話口に出させる彼の姿を見て上司の引退を既定の事実として受け入れたのか、事件現場へ向かうために辞去する前に思わずバーナビーにハグ(いい場面!)、残されたジョイスのほっとしたような表情から、バーナビーの引退決意の理由はここにあったのだなあと。

第81話/安らぎのスパ殺人 誕生パーティー.jpg 引退はちょっと勿体ない気もしましたが(ジョーンズは今回も思い込みから誤認逮捕Midsomer Murders Fit for Murder 3.jpgしそうな感じでやや頼りなかったし)、あちらでは自分で引退をする時期を決め、後はリタイア後の人生を楽しむというのがむしろ普通なのかも。バーナビー警部を演じるジョン・ネトルズは1943年生まれで、1997年(54歳)から13年間主役張っており、67歳と言えばかなりいい歳ではありますが。

 ジョン・ネトルズ自身は「(引退するのは)とても悲しいが、(バーナビーは)約200件もの事件を解決した。目標は達成したと思う」と話しているそうです。正確には15シーズンで208件の殺人事件があったそうで、1話当たり概ね2.5人殺害されているわけか)。バーナビーもジョン・ネトルズも長らくの間お疲れ様でした。

アイソレーションタンク2.jpgアイソレーションタンク1.jpg 因みに、このエピソードの中でジョイスがスパで試そうとしたしたフローティングタンクは「アイソレーションタンク」と呼ばれるもので、都内にも利用可能なエステや「癒しのスペース」のようなものがあるみたいですが、装置は外国製のものを使っているようです。海外では、複数人数で浸かれるような大きなタンクもあるようです。アルタード・ステーツ tirasi.jpgアルタード・ステーツ2.jpg一度利用してみたい気もするけれど、このタンク見ると、ケン・ラッセル監督の「アルタード・ステーツ 未知への挑戦」('79年/米)を思い出して、ちょっと怖い気もしないでもない(少なくとも閉所恐怖症の気がある人は無理だろうなあ)。パディ・チャイエフスキーのSFが原案の映画では、感覚遮断実験のための装置として使われていましたが、タンクそのものの原理はほぼ同じだろうなあ(当時アメリカで、「タンキング」と呼ばれるこの種の瞑想法が流行っていた)。ウィリアム・ハート演じる科学者が、タンクを使って自らを実験台にし、人類進化の過程を意識面で遡っていくが、それが身体にまで影響を及ぼすというものでした(まあ、映画を観ていても、いくら何でもこれはあり得ないとは思いましたが)。

Church End seen in 'Fit for Murder'.jpg「バーナビー警部(第81話)/安らぎのスパ殺人」●原題:MIDSOMER MURDERS:FIT FOR MURDER●制作年:2011年●制作国:イギリス●本国上映:2011/11/15●監督:レニー・ライ●製作:ブライアン・トゥルー=メイ●脚本:アンドリュー・ペイン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ジェイソン・ヒューズ/ジェーン・ワイマーク/バリー・ジャクソン/カースティ•ディロン/ローラ・ハワード/ニール・ダジョン/ジェイソン・デュール●日本放映:2013/10/25●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)
Church End seen in 'Fit for Murder'

ALTERED STATES.jpgアルタード・ステーツa.gif「アルタード・ステーツ 未知への挑戦」●原題:ALTERD STATES●制作年:1979年(米国公開1980年)●制作国:アメリカ●アルタード・ステーツ b.gif監督:ケン・ラッセル●製作:ハワード・ゴットフリード●脚本:シドニー・アーロン●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ジョン・コリリアーノアルタード・ステーツ dvd.png●原作:パディ・チャイエフスキー●時間:101分●出演:ウィリアム・ハート/ドリュー・バリモア/ブレア・ブラウン/ボブ・バラバン/チャールズ・ヘイド●日本公開:1981/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿・京王地下(81-05-17)(評価:★★★)「アルタード・ステーツ 未知への挑戦 [DVD]

1977年8月6日 新宿京王 京王地下.jpg京王新宿ビル3.jpg京王三丁目ビル - 2.jpg 新宿京王・京王地下(京王2)新宿3丁目伊勢丹はす向い京王新宿ビル(現・京王三丁目ビルの場所)。1980年代後半に閉館。

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このシリーズ第1作が一番面白く、その後はどんどん大味になっていく。

ダイハード 1988 ちらし.jpg ダイハード 1988 02.jpg ダイハード 1988 05.jpg
「ダイ・ハード」チラシ
ダイハード 1988 01.pngダイハード dvd.jpgダイハード 1988 04.jpg 「ダイ・ハード シリーズ」の中で一番面白かったのはやはり第1作の「ダイ・ハード」('88年)であり、「テロ集団に襲われたロサンゼルスの高層ビル」という設定を生かして、縦のアクションに徹したのが成功した1つの要因だったと思います。
ダイ・ハード [DVD]

ダイ・ハード-04.jpgダイハード 1988 03.jpg ブルース・ウィリス演じるニューヨーク市警マックレーン刑事は、これまでに無かった新たなヒーロー像を産み出した言えるし(その"嘆き節"も受けた)、マックレーンが高層ビル内で孤軍奮闘する状況の中、外部から無線の声だけでサポートする黒人刑官(レジナルド・ヴェルジョンソン)との男同士の見えない絆なども、観客を熱くさせるものがあったと思います。

ダイハード 1988 アラン・リックマン.jpgダイハード 1988 リックマン.jpg また、英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身のアラン・リックマン(1946-2016/享年69)演じるテロリストも良かったです。アラン・リックマンは「ロビン・フッド」('91年)でもケビン・コスナー演じるロビンの敵役の悪役を演じましたが、半ばコメディ仕立てということもあってか、「ダイ・ハード」で見せたほどの凄味や演技のキレはありませんでした(但し「ロビン・フッド」の演技で英国アカデミー賞助演男優賞を受賞している)。「ダイ・ハード」での好演は、リックマンの落下シーンで事前に打ち合わせていたタイミングより早く彼を落下させ、"素"の驚きの表情を撮るなどした、ジョン・マクティアナン監督の演出の妙にあるのでしょうか(撮影は、後に「スピード」('94年)を監督することになるヤン・デ・ボン)。

 その後「ダイ・ハード2」、「ダイ・ハード3」、「ダイ・ハード4.0」と作られましたが、だんだん質が落ちていったような...。

エルム街の悪夢4.jpg 「ダイハード2」('90年)は、スイス出身で、「エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター最後の反撃」('88年)を撮ったレニー・ハーリンの監督作です。「エルム街の悪夢」シリーズは'84年から'97年までの間に7作作られいて、ライバルシリーズであった「13日の金曜日」シリーズは'88年から'02年までの間に10作作られています('03年には「フレディ vs ジェイソン」が作られている)。「エルム街の悪夢4」は「フレディ対超能力少女」で、その前に観た「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」('86年)が、"ジェイソン"はコメディアンだったのか?と思えるほど怖くなかったのですが、「エルム街の悪夢4」ダイ・ハード2 1990.jpgにおけダイハード2   .jpgる"フレディ"のコメディアン化は、ジェイソンのそれを上回っているように思えました。そんなこともあって、「ダイハード2」も劇場に行くのをためらわれたのですが、劇場で観たらまあまあの出来だったでしょうか。但し、雪のワシントン・ダレス空港を舞台に(原作はウォルター・ウェイジャー『ケネディ空港/着陸不能』)、旅客機ダイハード2 03.jpgの爆発、滑走路の大火災とスペクタル・シーンが大掛かりになった分だけ主人公のマックレーン刑事がスーパーマン化し、「1」と比べると大味な印象を受けました。レニー・ハーリンは、この後、シルヴェスター・スタローン主演の「クリフハンガー」('93年)を撮っています(「ダイハード2」の終盤のクライマックスシーンでのマックレーン刑事が懐からライターを取り出すところから、彼がまだ喫煙者であったころが窺える)。
ダイ・ハード2 [DVD]」('90年)

ダイ・ハード3.jpg 「ダイハード3」('95年)で監督をマクティアナン、舞台をニューヨークに戻して原点回帰? ニューヨーク市内で突如爆弾テロが発生し、「サイモン」と名乗る犯人は警察に電話し、ジョン・マクレーンを指名する。嫌がらせの様に、黒人達が多く住むハーレムのど真ん中で、「黒ん坊は嫌いだ(I hate Niggers)」というカードを下げさせられたマクレーンは、自身が白人である事も災いし、当然それを見た黒人ギャング達に半殺しにされかける。しかし、その近くで店を経営する黒人の男・ゼウス(サミュエル・L・ジャクソン)に助けられ、それを知り、面白くなかったサイモンの指示によって、2人は行動を共にする事になるというあらすじ。
ダイ・ハード3 [DVD]」('95年)

ダイハード3 ジェレミー・アイアンズ.jpg マクレーンに協力する黒人ゼウスを演じたサミュエル・L・ジャクソン(前年の「パルプ・フィクション」('94年/米)で一気に知名度をアップさせていた)、敵役サイモンを演じたジェレミー・アイアンズと(個人的には「運命の逆転」('90年/米)以来だったなあ)、共に演技達者で、途中まではそれなりに楽しませてくれましたが、途中から主人公のスーパーマン化は前作より更に進行し、最終的には一層大味な作品になってしまいました。

ダイ・ハード4.0 01.jpg その12年後に作られた「ダイハード4.0(フォー)」('07年)では(いきなりマクレーンの娘が出てきた)、不正にネットワークへアクセスするハッカーを利用して、政府機関・公益企業・金融機関への侵入コードを入手したテロリストがライフラインから防衛システムまでを掌握し、サイバーテロによって全米を揺るがすという設定で、それでもテロリストとまともに戦っていダイ・ハード4.0 3.jpgるのは(若いハッカーを従えた)マクレーンただ1人という不思議な設定で、彼の娘は例のごとくテロリストの人質に。一部にサイバー合戦も見られますが、遂には国防省から最新鋭戦闘機F-35まで出てきてしまって、これが結構間抜けな役回りで、通信システムを掌握するテロリストのミスリードでマクレーンを攻撃(いくら命令とは言え、街中のハイウェイで戦闘機が機銃を乱射するかなあ)、これはもう、カネをかければいいものが出来ると勘違いしているのではないかと思わざるを得ません。マクレーンはトラックから戦闘機に飛び乗り、戦闘機からハイウェイに舞い降りと、殆ど人間ではあり得ない超絶アクションで、これまた更に大味に。まあ、自分の中では既に「3」でこのシリーズは終わったという印象ではありましたが...。

ダイ・ハード/ラスト・デイdvd.jpgダイ・ハード/ラスト・デイ1.jpg 最近作のシーリズ第5作となる「ダイ・ハード/ラスト・デイ」('13年)は、舞台をシリーズ初の海外であるロシアに移しての展開でしたが(今度はいきなりマクレーンの息子が出てきた)、周囲の迷惑を顧みない滅茶苦茶なカーチェイスから始まって(巻き添えの死傷者が何十人と出てもおかしくない)、ラストでは女性敵役がマックレーンに対する怨みからヘリコプターで突っ込んでくるという、殆ど盲目的自爆の様相。彼女イリーナ(ユーリヤ・スニギル)はそれまで何のためにマックレーンを欺こうとしていたのか。もう完全にリアリティとはサヨナラした上に、ストーリーまでも破綻気味―「3」以降「5(ラスト・デイ)」まであまり評価する気にならないのですが、「5」はこれまでの中で最も劣るように思いました。 「ダイ・ハード/ラスト・デイ [DVD]」('13年)

 これでホントに終わりにするのかと思ったら「6」を作る予定があるらしく、ブルース・ウィリスの当シリーズへの思い入れは解らなくもないけれど、どうなんだろうか。

ダイハード 1988 00.jpg「ダイ・ハード」●原題:DIE HARD●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー●脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ/ジェブ・スチュアート●撮影:ヤン・デ・ボン●音楽:マイケル・ケイメン●原作:ロデリック・ソープ「ダイ・ハード」●時間:131分●出演:ブルース・ウィリス/アラン・リックマン/アレクサンダー・ゴドノフ/ボニー・ベデリア/レジナルド・ヴェルジョンソン/アート・エヴァンス/ウィリアム・サドラー●日本公開:1989/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:渋谷東宝(89-02-12)●2回目:三軒茶屋映劇(89-07-01)(渋谷 東横映画劇場(1936年).jpg渋谷東宝.jpg評価:★★★★)●併映(2回目):「レッド・スコルピオン」(ジョセフ・シドー)
渋谷東宝 1936年「東横映画劇場」として開場(座席数1,401席)。1944年「渋谷東宝映画劇場」に改称、後に渋谷東宝(渋谷東宝会館1階)、渋谷スカラ座(同4階)、渋谷文化劇場(同地階)の3館体制に。1989(平成元)年2月26日閉館(閉館時座席数1,026席)。1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーが開館。(右写真:「渋谷東宝会館」(渋谷東宝劇場・渋谷スカラ座/地階・渋谷文化劇場)
三軒茶屋映劇 2.jpg三軒茶屋シネマ/中央劇場.jpg三軒茶屋付近.png三軒茶屋映画劇場 1925年オープン(国道246号沿い現サンタワービル辺り)。1992(平成4)年3月13日閉館(左写真)。菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より 同系列の三軒茶屋中央劇場(右写真中央)は1952年、世田谷通りの裏通り「なかみち街」にオープン。(「三軒茶屋中央劇場」も2013年2月14日閉館)  ①三軒茶屋東映(→三軒茶屋シネマ) ②三軒茶屋映劇(映画劇場)(現サンタワービル辺り) ③三軒茶屋中劇(中央劇場)

ダイ・ハード2-38.jpgダイ・ハード2.jpg「ダイ・ハード2」●原題:DIE HARD 2: DIE HARDER●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:レニー・ハーリン●製作:ローレンス・ゴードン/ジョエル・シルバー/チャールズ・ゴードン●脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ/ダグ・リチャードソン●撮影:オリヴァー・ウッド●音楽:マイケル・ケイメン●原作:ウォルター・ウェイジャー「ケネディ空港/着陸不能」●時間:124分●出演:ブルース・ウィリス/デニス・フランツ/ウィリアム・サドラー/フランコ・ネロ/ジョン・エイモス/ボニー・ベデリア/ウィリアム・アザートン/レジナルド・ヴェルジョンソン/フレッド・トンプソン●日本公開:1990/09●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)
ダイ・ハード2 [DVD]

スマイルBEST エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃 [DVD]
エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター.jpg「エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター最後の反撃」●原題:A NIGHTMARE OF ELM STREET 4 THE DREAM MASTER●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:レニー・ハーリン●製作:ロバート・シェイ/レイチェル・タラレイ●脚新宿オデヲン座0.jpg本:スコット・ピアース/ ブライアン・ヘルゲランド●撮影:スティーヴン・ファイアーバーグ●音楽:クレイグ・セイファン●時間:94分●出演:ロバート・イングランド/リサ・ウィルコックス/チューズデイ・ナイト/アンドラス・ジョーンズ/ダニー・ハッセル/ブルック・ゼイス/トイ・ニューカーク/ニコラス・メレ/ブルック・バンディ/ロドニー・イーストマン/ケン・サゴーズ●日本公開:1989/04●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:新宿オデヲン座(89-04-30)(評価:★★)
新宿オデヲン座 1951(昭和26)年11月、現在の歌舞伎町「第二東亜会館」の場所に開館。1959年4月「グランドビル」(後の「第一東亜会館」)地下1階に移転。2009(平成21)年11月30日閉館。(写真:歌舞伎町「第一東亜会館」(左から新宿オスカー・新宿オデヲン座・新宿アカデミー)

13日の金曜日 PART6 ジェイソンは生きていた! [DVD]」/チラシ
13日の金曜日 PART6ジェイソンは生きていた.jpg13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた! tirasi.jpg「13日の金曜日 PART6/ジェイソンは生きていた!」●原題:FRIDAY THE 13TH PART6:JASON LIVES●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:トム・マクローリン●製作:ドン・ビーンズ●撮影:ジョン・R・クランハウス●音楽:ハリー・マンフレディーニ●時間:87分●出演:トム・マシューズ/ジェニファー・クック/デヴィッド・ケーガン/トム・フリドリー/レネー・ジョーンズ/ケリー・ヌーナン/トニー・ゴールドウィン/ナンシー・マクローリン/ヴィンセント・ガスタフェッロ/ロン・パリロ●日本公開:1986/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:東急レックス(89-04-30)(評価:★★)
東急レックス.jpg東急レックス2.jpg
東急レックス(渋谷東急3) 1956年開館東急文化会館の地下1階(地下東急ストア隣り)。当初はニュース映画館「東急ジャーナル」。1990(平成2年)10月、東急レックスから「渋谷東急3」に改称。2003(平成15)年6月30日閉館。

(モノクロ写真:東急レックス(1977(昭和52)年)/カラー写真:「東急文化会館」(左から渋谷東急2(旧東急名画座)・渋谷東急・渋谷パンテオン・東急レックス(後の渋谷東急3)

ダイ・ハード3-47.jpgダイ・ハード3 ps.jpg「ダイ・ハード3」●原題:DIE HARD: WITH A VENGEANCE●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・マクティアナン●製作:ジョン・マクティアナン/マイケル・タッドロス●脚本:ジョナサン・ヘンズリー●撮影:ピーター・メンジース・ジュニア●音楽:マイケル・ケイメン●時間:128分●出演:ブルース・ウィリス/サミュエル・L・ジャクソン/ジェレミー・アイアンズ/グラハム・グリーン/コリーン・キャンプ/ラリー・ブリッグマン/アンソニー・ペック/ニック・ワイマン/サム・フィリップス/ケヴィン・チェンバーリン/シャロン・ワシントン/スティーヴン・パールマン/マイケル・アレクサンダー・ジャクソン/アルディス・ホッジ●日本公開:1995/07●配給:20世紀フォックス(評価:★★☆)
ダイ・ハード3 [DVD]

ダイ・ハード4.0 02.jpgダイ・ハード4.0 [DVD].jpg「ダイハード4.0(フォー)」●原題:DIE HARD 4.0: LIVE FREE OR DIE HARD●制作年:2007年●制作国:アメリカ●監督:レン・ワイズマン●製作:マイケル・フォトレル●脚本:マーク・ボンバック●原案:マーク・ボンバック/デヴィッド・マルコーニ●撮影:サイモン・ダガン●音楽:マルコ・ベルトラミ●時間:129分●出演:ブルース・ウィリス/ジャスティン・ロング/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ティモシー・オリファント/マギー・Q/シリル・ラファエリ/エドアルド・コスタ/ジョナサン・サドウスキー/クリフ・カーティス/ケヴィン・スミス/ヤンシー・アリアス●日本公開:2007/07●配給:20世紀フォックス(評価:★★☆)
ダイ・ハード4.0 [DVD]

ダイ・ハード/ラスト・デイw.jpg「ダイ・ハード/ラスA GOOD DAY TO DIE HARD 01.jpgト・デイ」●原題:A GOOD DAY TO DIE HARD●制作A GOOD DAY TO DIE HARD 02.jpg年:2013年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ムーア●製作:アレックス・ヤング●脚本:スキップ・ウッズ●撮影:ジョナサン・セラ●音楽:マルコ・ベルトラミ●キャラクター創造:ロデリック・ソープ●時間:98分(劇場公開版)・102分(最強無敵ロング・バージョン)●出演:ブルース・ウィリス/ ジェイ・コートニー/セバスチャン・コッホ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド/ユーリヤ・スニギル/ラシャ・ブコヴィッチ●日本公開:2013/02●配給:20世紀フォックス(評価:★★)
Yuliya Snigir

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待っていれば事件の方が向こうからやってくる"農耕民族"的なブラウン神父という印象か。

Father Brown Series 1 [DVD] [2013].jpg2「ブラウン神父」シリーズ.jpg マッカーシー夫人.jpg バレンタイン警部補.jpg
Father Brown Series 1 [DVD] [2013]

ブラウン神父」固定メンバー 2 - コピー.jpg 「ブラウン神父」のBBCによる新シリーズの第5話から第10話。神父(マーク・ウィリアムズ)をはじめ、事件解決のため村の噂話や情報を入手する秘書的なおばさんのマッカーシー夫人(ソーチャ・キューザック)、家政婦のポーランド娘スージー、その恋人で運転手のシド、有閑マダムっぽいフェリシアなど、ブラウン・ファミリーは固定されていて、ブラウン神父と競合し、いつも神父に先を越されて苦々しい思いをしているバレンタイン警部補(ヒューゴ・スピアー)も毎回登場、1時間枠ということもあって、まあ、安心して気楽に観ることができるシリーズといった感じでしょうか。

第6話「キリストの花嫁」.jpg 第6話「キリストの花嫁」(The Bride of Christ)(Director:Ian Barber)は、同名の邦題原作が見当たりません。教会で修道女シスター・マグダレンが突然倒れて死亡、バレンタイン警部補やブラウン神父は、青酸中毒死を疑う。確認したところ修道院内にワイナリーがあり、ワインの中の銅や鉄を除去するために薬品が大量に置かれていることを知る―。
 犯人の犯行動機に同情の余地はあるけれど、無実、と言うより無辜の人が亡くなっているため、引き起こした結果の責任はあまりに重いという結構キツイ話でした。後味はイマイチ(評価★★★)。

第7話「「悪魔の塵」.jpg 第7話「悪魔の塵」(The Devil's Dust)(Director:Dominic Keavey)も、同名の邦題原作が見当たりません。村のルースという少女は子供の頃から、背中にアザのような症状が出ていたが、ルースの主治医エバンズは急に辞めてしまう。ルースは、友達からも伝染病と誤解され無視されていた。さらに父親ジェフリーの研究が症状の原因だと噂されていた―。
 作中に、放射能への理解が誤っている場面があるため、番組の冒頭に「1950年代が舞台なので」ということで視聴者に理解を求めるテロップが出てきましたが、ドラマを作っているのは現代でしょう(問題ありだなあ)。プロット的にはまあまあですが、殺人が無かったね(★★★☆)。

第8話「死者の顔」.jpg 第8話「死者の顔」(The Face of Death)(Director:Matt Carter)も、同名の邦題原作が見当たりません。ダニエルの父親が車に轢かれて数週間後に死亡。ダニエルは運転していたマーガレットに「罪を償え」と電話をする。夫のパトリックは警察に連絡しようとするが、マーガレットは忘れたい過去だと対処しない。ある日、2人の家でチャリティパーティが開催される―。
 パーティなどやっている場合かという気もするけれど、金持ちの日常習慣なんだろなあ。殺人が無かった第7話の反動か、今度の犯人はバンバン殺していくねえ。でも、最初のは純粋に交通事故だったということでしょうか? ある種、「叙述トリック」と言えるかも(評価★★★☆)。

第9話「市長とマジシャン」.jpg 第9話「市長とマジシャン」(The Mayor and the Magician)(Director:Dominic Keavey)も、これも同名の邦題原作が見当たりません。市長ウィリアムと妻のエレノア、娘のキャサリンが村を訪れ、マッカーシー夫人は張り切ってイベントを指揮し、市長一家を盛大に迎える。市長は、スージーが暮らすポーランド人収容施設にポーランド人小学校を建てるプロジェクトに賛同していた―。
 ドンデン返しがあるのかと思ったら、無かった。ちょっとストレートすぎる印象も。このドラマ版のブラウン神父は、生きている者は誰でも悔い改めれば許してしまうね。マッカーシー夫人の旦那さんが登場し、復縁話にウェイトがかかった感じ(★★★)。

第10話「青い十字架」.jpg 第10話「青い十字架」(The Blue Cross)(Director:Ian Barber)は、原作では第1短編集『ブラウン神父の童心』(The Innocence of Father Brown、1911年刊行)の第1話と同名タイトル。ブラウン神父に「泥棒を捕えるには十字架を見張れ」という手紙が届く。すぐに教会に飾られた青い十字架を見に行くと、十字架の横に「F」と刺繍されたハンカチを見つけ、「フランボウ」という指名手配中の泥棒が青い十字架を狙っていると警部補らに告げる―。
エルキュール・フランボウ.jpg 後に改心してブラウン神父の手足となる大泥棒エルキュール・フランボウが登場。やっと原作と同じタイトルのものが出てきたかと思ったら、かなり原作を改変しているような印象を受けました。犯人当て(要するにフランボウが化けているのは誰かということ)が主題になっていて、但し、神父がそれを見破る根拠などは原作を踏襲していたりもします(評価★★★☆)。

3 DVD Box Father Brown Complete Series 1.jpg 完全に「ブラウン・ファミリー」を背景に「ブラウン vs.バレンタイン警部補」という構成になっているので、全体を通して、事件に対して"狩猟民族"的に動き回るブラウンと言うより、待っていれば事件の方が向こうからやってくる"農耕民族"的なブラウン神父という印象でしょうか。ドラマとして気軽に楽しむ分には悪くないけれど、中には、あまりにあっさりし過ぎているのもあったかな。

 マーク・ウィリアムズのブラウン像は、原作とは異なる独自のものといった印象ですが、宗教がモチーフになっている場面では重厚感があって、そう悪くないと思いました。元々ややクセのある俳優と言えばそうであり、人によって好き嫌いは分かれると思いますが、演技力はあるのでは。

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ちょっと軽めだが、プロットに無理が無い印象。アットホーム感のあるブラウン神父像。

Father Brown Series 1 [DVD] [2013].jpg「ブラウン神父」固定メンバー1.jpg ブラウン神父の童心.jpgブラウン神父の童心 (創元推理文庫)
Father Brown Series 1 [DVD] [2013]

 かつて英国ITVでケネス・モア主演の「Father Brown」が全13話放送され(1973年)、好評を博しましたが、こちらの「ブラウン神父」はBBCによる新シリーズ。本国で今年(2013年)1月に10日連続で10話放映され、これまた平均で20%台後半の高視聴率で、第2シーズンの制作が内定したとのことです。日本では、今年10月にAXNミステリーで、2日に分けて5話ずつ一挙放映されました。

ブラウン神父の童心 (1959年) (創元推理文庫).jpg 原作者のG・K(ギルバート・ケイス)・チェスタトン(Gilbert Keith Chesterton、1874‐1936)はコナン・ドイル(1859‐1930)、モーリス・ルブラン(1864‐1941)などとそう年代的に変わらないわけですが、このシリーズでは時代を1950年代に置き換え、また、全てのエピソードにおいて、マッカーシー夫人(神父の秘書?)、バレンタイン警部補など数名のメンバーを固定的に配置し、アットホームな仕上がりになっているでしょうか。ブラウン神父を演じるマーク・ウィリアムズ(「ハリー・ポッター」の親友ロン父親役でお馴染み)は、原作と違って恰幅がいいですが、自転車を愛用し、蝙蝠傘を手放さないないのは同じ(但し、蝙蝠傘の方は邪魔になったのか、だんだん持っていない場面が結構多くなる)。
ブラウン神父の童心 (1959年) (創元推理文庫)

 第1シーズンの10話は、G・K・チェスタトンの1911年刊行の第1短編集である『ブラウン神父の童心』(The Innocence of Father Brown)にある話に基づいているようですが、翻訳のタイトルとドラマのタイトルが一致するのは半分ぐらいで、あとの半分はオリジナルなのか、別の短編集からの翻案なのか、個人的にはよく分かりませんでした。

ブラウン神父1.jpg 第1話「神の鉄槌」(The Hammer of God)(Director:Ian Barber)は、『ブラウン神父の童心』所収のものと同じ邦題。ブラウン神父は、ボーハン牧師が新しい時計台をお披露目するパーティーに参加していた。一方、牧師の弟であるノーマンは、招待されていないにもかかわらず、パーティーに現れ、周囲の人に悪態をつくき、更に、シメオン・バーンズとケンカを始める―。
 犯人は意外ですが、犯行はやや大雑把というか、鐘が命中しなかったら...と思ったりもするのですが、これ、兄弟の順番が入れ代わっているのを除いては、犯行手口等は原作通りなんですね(評価★★★)。

ブラウン神父2.jpg 第2話「飛ぶ星」(The Flying Stars)(Director:Ian Barber)も、『ブラウン神父の童心』所収のものと同じ邦題。貴族の令嬢、ルビー・アダムズの誕生日パーティーに招かれたブラウン神父とマッカーシー夫人は、バスに乗り遅れたので、領地を横切って邸宅に向かっていた。しかし、到着すると家政婦のスージーから、誕生日パーティーは中止になったと聞かされる―。
 劇中殺人というやつですか(その部分は未遂に終わったが)。若い2人の結婚を思想・身分の違いから反対していた親が、最後に2人の結婚を認めるラストは心地よい(評価★★★☆)。

ブラウン神父3.jpg 第3話「狂った形」(The Wrong Shape)(Director:Dominic Keavey)も『ブラウン神父の童心』所収のものと同じ邦題。ブラウン神父は、レナード・クィントン主催の詩の朗読会に招待され、屋敷には妻マーサの他に、レナードの愛人と噂されるバイオレット、弁護士のハリスがいた。朗読会が始まり、バイオレットはレナードとの関係を匂わす詩を読み、動揺したマーサは席を立つ―。
 アガサ・クリスティもそうですが、医者や弁護士って出てくるなり怪しい。すでに自殺者している者を首吊りに掛けるというのは、犯人に御大層なことでと言いたくなります(評価★★★)。

ブラウン神父4.jpg 第4話「木の中の男」(The Man in the Tree)(Director:Dominic Keavey)は、同名の邦題原作が見当たりません。ある日、絵を描こうとフェリシアが森を歩いていると、頭上からうめき声が聞こえ、見上げると負傷した男が下着姿で木に引っ掛かっていた。その頃、ブラウン神父とマッカーシー夫人は、ドイツからの訪問者フランク神父を駅で出迎えていた―。
 推理のプロットは面白かったです。クリスティは神父や牧師を犯人にすることは無かったけれど、チェスタトンはアリ。神父が主人公でありながら、結構、牧師や神父を悪者にしているなあ(元ナチスとは!)。本物の神父の前で神父になり切るのは無理。最後、ブラウン神父は犯人に逃走の機会を与えたの?(評価★★★☆)

ブラウン神父5.jpg 第5話「アポロの眼」(The Eye of Apollo)(Director:Matt Carter)は、『ブラウン神父の童心』所収のものと同じ邦題。アポロ教会という信仰集団が現れ、パンフレットを村中に配ったため、ブラウン神父はマッカーシー夫人と集会に参加する。集会では、アポロ教会の創始者ケイロンが、戦争で負傷した際に、太陽を通して神からの啓示を得た話を語り始める―。
 こんな胡散臭い教祖がいる教団によく信者になる人がいるなあと思うけれど、この手の新興宗教は日本にもいくらでもあるからなあ。身内が洗脳されてブラウン神父もやや焦り気味ですが、宗教対決的な局面もあって、かなり押し出しの強いブラウン像になっている印象です(でも、事前にちゃんと教祖の経歴の裏を取っている)。教祖は、色情狂であるとともに、脳の器質的障害による異常者でしたね。犯行の手口はミエミエでしたが、新興宗教 vs.ブラウン神父という素材が面白かったです(評価★★★★)。

 元が短編であるせいか、時間が60分ドラマに収める形になっているためか、ちょっと軽いかなという感じで、それはG・K・チェスタトンの原作を読んでも感じられることかもしれません。コナン・ドイルなどは、短編も結構密度が濃いけれど、一方で、現代に置き換えるとややキツイ面もあり(同じくBBC制作の「SHERLOCK(シャーロック)」は、そこのところを割り切って思い切り現代風にアブラウン神父」固定メンバー 2.jpgレンンジしている)、一方のG・K・チェスタトンは、当時の社会観の影響は受けているとはいえ、意外とプロット的には現代に置き換えても(このドラマの場合、50年代だが)無理がないかなという印象を、ドラマを観て改めて思いました。原作は結構、神父が自ら断罪してしまう司法的な役割も果たしてしまっているものがあったはず(エルキュール・ポアロも同様のことをしているが)。また読み直してみようっと。

「ブラウン神父」 Father Brown(英国BBC 2013~) ○日本での放映チャネル:AXNミステリー(2013~)

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ベン・アフレック才気煥発。「強いアメリカ」と言うより「賢いアメリカ」を強調した作品か。

映画アルゴ dvd.jpg映画アルゴ2.jpg 映画アルゴ1.jpg
アルゴ [DVD]

 第85回アカデミー賞の作品賞、脚色賞、編集賞受賞作で、その前にゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞と監督賞も受賞しており、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の作品賞が重なることは、もう珍しいことではなくなったなあ。

映画アルゴ0.jpg イラン革命真っ最中の1979年、イスラム過激派グループがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られたが、占拠される直前に6人のアメリカ人外交官が大使館から脱出、カナダ大使公邸に匿われる。CIA工作本部技術部のトニー・メンデス(ベン・アフレック)は6人をイランから救出するため、「アルゴ」という架空のSF映画をでっち上げて6人をそのロケハンのスタッフに身分偽変させるという作戦を立てる―。

 あの池上彰氏が試写会で、「すべて史実に基づいていると念頭に置いて楽しんでほしい」とアピールしたそうですが、ラストの脱出劇、テヘランの空港のカウンターで、一旦取り消された搭乗券の予約が土壇場で復活する場面から滑走路での軍のジープと飛行機のチェイス・シーンまでは殆どがフィクションだそうで、物理的にも、離陸直前ボーイング747の後をジープで追っかけたりすれば、追いつく前にエンジン排気によってジープはぶっ飛ばされてしまうことになるとの話もあります。

映画アルゴ3.jpg 個人的には、こうした映画の娯楽性を高めるための演出はあってもいいかなとは思います。池上彰氏の言う「史実」には、こうした"細部"の表現は含まれないのでしょう。ベースになっているのは、CIAが17年間公表を控えていた事実であることには違いないし、タイトルにもなっているニセ映画「アルゴ」をでっち上げるという奇抜なアイデアが実行されたのも事実だし、概ね「事実」だと思って観るからこそハラハラし、面白くもあるわけで、そう思って観る方が確かに楽しめるかと思います(仮に全てが創作だとして、それが事前に分かって観ているとすれば、ハラハラ度はずっと低下するに違いない)。

アルゴ6.jpg 監督兼主演のベン・アフレックって才人だなあと思いました。本人の抑制された演技だけでなく、演出面でも、俳優6人に事前に合宿生活を送らせ、潜伏生活を疑似体験させたという効果は出ているし、エンドロールのサービスカットで、場面ごとにディテールまで忠実に再現したことをアピールするなどの技はなかなかのものです(これで、映画の「全ての場面」が事実通りであると錯覚してしまう?)。

 但し、これまで「カナダの策謀」と呼ばれてきたこの救出劇において(CIAの関与が公表されたのは1997年)、CIAの果たした役割を強調するあまり、カナダの果たした役割が相対的に軽んじられているキライもあるようです。

映画アルゴ 05.jpg CIAから送り込まれたのは、映画のように主人公1人ではなく2人だったのを、トニー(アントニオ)・メンデス1人に集約させているといったヒロイズム的効果を狙っての改変は許せるとしても、ビザの日付にミスがあって危ういところだったのをカナダ大使館員の1人が気づいて指摘した事実は割愛されているし、非常事態に備えて色々と奔走したカナダ大使が、映画では、いきなりもうこれ以上匿えないからといって6人に緊急出国を余儀なくさせたように描かれているのは、元カナダ大使本人は一応はアメリカから表彰されているせいか苦言を呈さなかったようですが、カナダ側からすれば不満が出て当然の作りのように思えます。
George Clooney: 'Argo' Premiere with Stacy Keibler
George Clooney ARGO.jpg まあ、この作品を観て一番頭にくるだろうと思われるのは、イランの人たちだろうなあ。「強いアメリカ」と言うより「賢いアメリカ」を強調した"愛国"作品と言えるのでは。この作戦が実行された時、アメリカはジミー・カーター大統領の民主党政権で、ベン・アフレックも、この映画のプロデューサーの1人ジョージ・クルーニーも共に民主党及びバラク・オバマ大統領支持者。因みに、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス両監督やロバート・デ・ニーロ、トム・ハンクス、ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、ウィル・スミスらも民主党支持者であり、一方、クリント・イーストウッド、アーノルド・シュワルツェネッガーら政治家経験者や、ブルース・ウィリス、シルベスター・スタローンらは共和党支持者。支持政党によって、作る映画、出る映画に傾向の違いはあるかも。

アルゴ73.jpg「アルゴ」●原題:ARGO●制作年:2012年●制作国:アメリカ●監督:ベン・アフレック●製作:ジョージ・クルーニー/グラント・ヘスロヴ/ベン・アフレック●脚本:クリス・テリオ●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:アレクサンドル・デスプラ●原作:アントニオ・J・メンデス「The Master of Disguise」/ジョシュア・バーマン「The Great Escape」●時間:124分●出演:ベン・アフレック/ブライアン・クランストン/クレア・デュヴァル/ジョン・グッドマン/マイケル・パークス/テイラー・シリング/カイル・チャンドラー/アラン・アーキン/ケリー・ビシェ/ロリー・コクレーン/クリストファー・デナム/テイト・ドノヴァン/ヴィクター・ガーバー/ジェリコ・イヴァネク/リチャード・カインド/スクート・マクネイリー/クリス・メッシーナ●日本公開:2012/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)

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"改変の妙を愉しむ"という範疇を超えている。前監督の方が改変のツボをわきまえていた。

フレンチ・ミステリー/エッジウェア卿の死dvd.jpgエッジウェア卿01.jpg エッジウェア卿02.bmp
輸入盤DVD

 モリエールの喜劇「ドン・ジュアン」公演を控えた劇場で、若い女性が惨殺される。犯人からの挑発を受け、劇場を訪れたラロジエール警視とランピオン刑事。時を同じくして、ラロジエールの娘ジュリエットが母親の家から家出してくる。若手俳優に熱を上げる娘に気を揉みながら捜査を開始する警視だったが、まもなくそのジュリエットが行方不明に。娘の身を案じる警視。やがて佳境に入ったリハーサルの舞台裏で連続殺人の幕が開く―。(AXNミステリー「クリスティのフレンチ・ミステリー」第9話「エッジウェア卿の死」ストーリーより)

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死3.jpg ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2012年の作品で、「AXNミステリー」で放映された際は第9話でしたが、もともと「フランス2」での放映では「第11話」となっています。このシリーズは2013年4月に第13話が放映されていますが、アントワーヌ・デュレリ(ロジエール)、マリウス・ コルッチ(ランピオン)コンビとしてはこの「第11話/エッジウェア卿の死」が最終出演作品でした(日本での放映は本国放映(9/14)の翌日(9/15)であり、この日はクリスティの誕生日だった)。

エッジウェア卿の死 ハヤカワミステリ文庫.jpg 原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1933年に発表した名探偵ポワロシリーズの長編第7作で(原題:Lord Edgware Dies)、結構プロットは複雑な方ではないかと思いまが、どう料理するのかと思ったら、最初からいきなり原作には無い絞殺魔(劇場の管理人)が出てきて連続殺人を犯し、次は、事件の捜査に当たるラロジエール警視にくっついてきた娘のジュリエットを狙うという展開で、なんじゃこりゃという感じ。

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死1.jpg 往年の大女優が夫と離婚したがっているのは原作と同じですが、この夫は原作にあるエッジウェア「男爵」ではなく、かつては名優で今はアル中の「役者」という設定になっていて、大女優は彼と別れて伯爵(原作では「公爵」)と結婚したいと思っているけれど、今はとりあえず夫と「ドン・ジュアン」の舞台稽古をしている―ところが夫はいつもへべれけで稽古はままならず、これには大女優も舞台監督(オカマっぽい)も切れてしまう。一方、ラロジエール警視は昔から憧れていた大女優に会うことが出来て感激し、彼女を崇拝するあまり、捜査の方はやや片手間気味で、しかも、そこへ娘が行方不明になるという事態が発生し、なおさらそれどころではないといった状況に。そんな中、大女優の夫が殺害されますが、大女優の要請で代役でなんとラロジエールがドン・ジュアンを演じることに。更に、大女優の付き人の元女優(原作では有名女優の形態模写を得意とする新進女優)が殺害されます。一方、絞殺魔の劇場の管理人を追って娘の行方を突き止めたラロジエールが、娘共々管理人に殺さそうになったところへランピオン刑事が駆けつけ、あわやのところでの逆転劇。これで絞殺魔が犯した倒叙型の事件は決着。絞殺魔の最期の言葉から、大女優の夫と付き人を殺害した犯人は別にいると察したラロジエールは、犯人と思しき人物にある罠をかける―。

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死4.jpg 大女優の夫を殺害したのが大女優自身であり、アリバイ作りに自分にそっくりの真似ができる女性をパーティに出席させていたというのは原作と同じ。更に、パーティの席上で古代エジプト文明についての知識を披瀝したのが大女優の偽者であったことを確認するために、ラロジエールが大女優にエジプト風の置物をプレゼントしたというのも、原作のモチーフを一応は踏襲しています(原作では、別々のパーティに出席した同一女性であるはずの人物の教養の格差に気付き不審に思った俳優がポワロに相談をしようと電話するが、その前に殺害されてしまう。大女優よりも「新進女優」の方が教養があったということだが、ここでは大女優よりも「付き人」の方が教養があったということになっている)。

 この映像化作品だけ単独で観れば結構楽しめるかと思われ、今述べたように、原作の最も肝心なポイントは一応踏襲するなり織り込むなりしていることもあって自分も実際それなりに楽しみました。但し、あまりにも前半の"原作には全く出てこない"絞殺魔"の話のウェイトが大き過ぎて、"改変の妙を愉しむ"という範疇を超えているという印象。「どうせ別物」と割り切って観ればいいのかもしれませんが、個人的にはやはり、ここまではやり過ぎのように思いました(監督はいつものエリック・ウォレットではなく、初顔のルノー・ベルトラン。前監督の方が改変のツボをわきまえていた)。

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死5.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第11話)/エッジウェア卿の死」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ LE COUTEAU SUR LA NUQUE(Lord Edgware Dies)●制作年:2012年●制作国:フランス●本国上映:2012/9/14●監督:ルノー・ベルトラン●脚本:Thierry Debroux●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/A Maruschka Detmers/Jean-Marie Winling/Alice Isaaz/Guillaume Briat/Julien Alluguette/Frédéric Longbois●日本放映:2012/09/15●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)

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そこそこ楽しめたが、"ディーヴァーらしさ"と"007らしさ"が両立できているかというと微妙。

007白紙委任状.JPGジェフリー・ディーヴァー「007 白紙委任状」.jpg 007 スカイフォール dvd.jpg 007 スカイフォール 001.jpg
007 白紙委任状』(2011/10 文藝春秋) 「007/スカイフォール [DVD]

 2011(平成23)年・第30回「日本冒険小説協会大賞」(海外部門)受賞作。

 ODGの工作員ジェームズ・ボンドは、イギリス政府通信本部が傍受した「...20日金曜日夜の計画を確認。当日の死傷者は数千に上る見込み。イギリスの国益にも打撃が予想される...」との電子メールを発端に、計画の詳細を突き止めてテロを未然に防ぐ使命を帯びてセルビアに向かった。セルビアに現れた問題の男《アイリッシュマン》は用心深く冷静で、ボンドの出現という想定外の事態にも即座に対応し、ボンドの追跡をかわしてセルビアから脱出、イギリス国内に戻っていた。ODGはイギリス国内に管轄権を持たない。つまり、この地球上で唯一、ボンドがODGのエージェントとして活動する権限を持たない場所がイギリスであり、通常ならばミッションと同時に与えられる"白紙委任状"が無効になる地域だった。金曜の夜に、どこでどんなテロ行為が計画されているのか。白紙委任状がない状態で、ボンドは4日後に迫ったテロの危険から数千の命を救うことができるのか―。

 イアン・フレミングの版権を管理する《イアン・フレミング・エステート》からのオファーを受けて、2011年にジェフリー・ディーヴァーが発表した"007物"で(原題:Carte Blanche)、上下2段組みで456ページありますが、比較的テンポよく読めました。因みに、本書刊行時のインタビューによれば、ジェフリー・ディーヴァーはこの作品のラストを、2010年11月に来日した際にホテルニューオータニで書き上げ、書き終えた翌日から次作(キャサリン・ダンス・シリーズの第3作)にとりかかったというから、精力的に仕事してるなあ。

 一応お決まりではあるものの、次々と危機が迫り来る中、ボンドがそれをどう乗り越えるかという関心から、ジェットコースター感覚とまではいかないものの話の展開に自然に引き込まれ、話の舞台もセルビアからロンドン、ドバイ、南アフリカへとワールドワイドに広がっていくし、ボンドガールに関しても、候補が何人か現れてどれが本命かという点で楽しめました。ただ、読み進んでいくほどに話の本筋自体が深化していくという印象がやや薄く、何となく同じ次元で横滑りしているような感じもしました。

 プロットが何度も反転し、ドンデン返しが連続するような作者らしい小説―という点では、終盤は期待したほどでもなかったかな。財団からのオファーのもとに書いているという点では、007のファンも満足させなければならないというというが作者の"使命"でもあったと思うし、"ディーヴァーらしさ"と"007らしさ"が両立できているかというと、微妙なところかもしれません。

 "007らしさ"という点では、ボンドが普段どのような職場で仕事をしているのかといった背景に関する記述も多くあって興味深かったし、IT時代に相応しい小道具もふんだんに登場、一方、ボンドのキャラクター造型は、少なくともショーン・コネリーやロジャー・ムーアなどよりは、ピアーズ・ブロズナンやダニエル・クレイグなどのボンド像に近いかも。まあ、ピアーズ・ブロズナンとダニエル・クレイグの二人だって随分違うし、映画におけるボンド像もかなり幅広くなってきていて、固定的には捉えられなくなってきていますが。

007 スカイフォール 01.jpg ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)などは最初見た時は、ジェームズ・ボンドと言うよりもボンドの敵役のスナイパーかなにかのような印象で、最初の出演作「007 カジノ・ロワイヤル」('06年/英・米)がシリーズ第21作でありながら原作の第一作ということもあって(かつて'67年にパロディとして映画化された)、かなり今までのボンド像と違った印象を受けましたが(肉体派? 若気の至りからか結構窮地に陥る)、演じていくうちに独自のボンド像が出来上がっていき、彼自身にとっての第3作「007 スカイウォール」('12年/英・米)あたりになると、もうすっかりそれらしく見えます。

 skyfall.jpgサム・メンデス監督による「007 スカイウォール」はそこそこ楽しめました。特に前半部分は映像と音楽に凝っていたように思われ、それに比ミス・マネーペニー.jpgべると後半はドラマ重視性重視だったでしょうか。ジェフリー・ディーヴァーの本書『白紙委任状』におけるボンドの上司"M"は、映画と異なり男性ですが、ジュディ・デンチ(Judi Dench)演じる"M"が「スカイウォール」で殉職することは以前から決まっていたということなのでしょう(因みに秘密兵器開発担当の"Q"も配役が入れ替わった。そして、"ミス・マネーペニー"もナオミ・ハリス演じるイヴに入れ替わり)。「スカイフォール」の製作は、MGMの財政難のために2010年の間は中断されていたとのことです。結局、製作費は前作「慰めの報酬」の2億ドルから1億5千万ドルに抑えられ、それが前半と後半の手間のかけ方の違いに表れているような気がしないでもありませんが、興業的にはかなりの成功を収めたようです(チッケト代のインフレ調整をした上での比較で、シリーズ中、「サンダーボール作戦」「ゴールドフィンガー」に次ぐ興行収入だとか)。

「007 スカイフォール」1.jpg ベレニス・マーロウ(Bérénice Marlohe)演じるボンド・ガー「007 スカイフォール」2.jpgルが(ボンドが助け出すと約束していたにも関わらず)早々に犯人に殺害されてしまうとか、犯人の犯行目的が、"M"への復讐という個人的怨念に過ぎないものであるとか、冒頭の派手なアクションや前半の凝ったシークエンスに比べると、後半はボンドの実家に籠って「スカイフォール」廃墟の島1.jpg「ホーム・アローン」風の戦いになってしまい、前半ではディーヴァーの小説の犯人並みにサイバー攻撃をしていた敵役も、ここへきて火薬を使いまくるだけの芸の無い攻撃しかしなくなるとか、もの足りない面は少なからずありますが、ダニエル・クレイグのボンド像そのものは悪くなく、ディーヴァーもインタビューで、自身が映画のプロデューサーだったら、今回の作品のボンド役には誰をキャスティングするかと訊かれて「個人的にはダニエル・クレイグが気に入っている」と言ってます。
「スカイフォール」廃墟の島2.jpg
 マカオ沖に浮かぶ廃墟の島として敵役シルヴァのアジトとなった「デッドシティ」は、長崎港から約17km沖合にある「軍艦島」(正式名称は端島)がモデルですが、軍艦島は上陸に厳しい制約があって実際に軍艦島でロケは行うことはできず、スタッフが何度も訪れて細部まで酷似したセットをスタジオに作り上げたそうです。

「007 スカイフォール」●原題:SKYFALL●制作年:2012年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:サム・メンデス●製作:マイケル・G・ウィルソン/「007 スカイフォール」.jpgバーバラ・ブロッコリ●脚本:ジョン・ローガン/ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:トーマス・ニューマン[●原作:イアン・フレミング●時間:143分●出演:ダニエル・クレイグ/ハビエル・バルデム/レイフ・ファインズ/ナオミ・ハリス/ベレニス・マーロウ/アルバート・フィニー/ベン・ウィショー/ジュディ・デンチ/ロリー・キニア●日本公開:2012/12●配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(評価:★★★☆)

【2014年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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意外と原作の持ち味を活かしたソフトな改変だった。分かりやすい。

第7話)/五匹の子豚 dvd.jpg 五匹の子豚01.jpg 五匹の子豚00.jpg 新・刑事コロンボDVDコレクション 05.jpg

五匹の子豚02.jpg ある日、ランピオン刑事(マリウス・コルッチ)が歩いていると怪しげな男が近づいてきて、男はルブランという浮気調査の探偵だった。君は出世の道をラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)に邪魔されているとランピオンに話すルブランは、ランピオンを探偵社にスカウト、常日頃のラロジエールの横暴に耐えかねていたランピオンは、警察を辞め、探偵社に転職する。その探偵社に一人の女性マリー(プリュンヌ・ブシャ)が訪ねてきて、死んだと聞かされていた母親が夫殺しの罪で獄中にあることを最近知り、画家である父親は心臓発作で亡くなったと聞かされていたのだが、その15年前の出来事の真相を知りたいと調査依頼する。元上司のラロジエールを見返すべく、ランピオンは調査に奔走、事件は、女性の母親が、愛人を同じ屋敷内に住まわせた夫に対して嫉妬し、毒入りのビールを飲ませたというものだったが、マリーは母親の無実を信じていた―。

五匹の子豚 文庫2.jpg フランス2で2009年から放映されている「クリスティのフレンチ・ミステリー」シリーズの、2011年放映の通算第7話で、原作は1943年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Murder in Retrospect)で、実質的に同じ頃に書かれ、作者の遺言により没後に発表された『スリーピング・マーダー』と同じ、所謂"回想の殺人"物です。

五匹の子豚10.jpg 原作では、16年前に画家である夫を殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母の無実を訴える遺書を読んだ若き娘が、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる―というものですが、この映像化作品では母親は獄中にて存命しています。

五匹の子豚04.jpg 加えて、本編冒頭からラロジエール警視の横暴に不満の募るランピオン刑事の探偵社への転職話があったりして、原作が非常に完成度の高い構成を備えた傑作であるため、あんまり極端な改変をしないで欲しいなあと思って観ていましたが、まあ、上司・部下の関係の展開はサブストーリーであって、観終わってみれば、本筋の部分では原作をそう外れておらず、むしろ、母親がなぜ自身の無実を娘に伝えながらも公には冤罪を主張することをしなかったのか、或いは、なぜ犯人は被害者に対して殺意を抱いたのか、などといったことが状況と併せてスンナリ分かるものとなっています。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑦五匹の子豚 04.jpg 原作では、事件当時の5人の関係者それぞれにポワロが会って、過去の事件の状況を訊いて回り、まるで童謡にある「五匹の子豚」のような行動をとった5人に"レポート"まで出させるわけですが、さすがに"レポート"提出まではないものの、最後に関係者を集めて謎解きをしてみせるのは原作と同じ。しかもそこへ、存命だった(であることにしてしまった)母親が疑い晴れて釈放されて現れるというハッピーエンドで、冒頭で母親が絞首刑になる場面を入れた改変を行っているデヴィッド・スーシェ版(第50話、2003年)の暗さの対極にある、このシリーズならではの明るさです。カタルシス効果もあって良かったのではないかと思います。

五匹の子豚09.jpg 原作では、母親が被害者の殺害現場にあったビール瓶の指五匹の子豚06.jpg紋を拭ったのを見たと言う元家庭教師の後からの証言から、それこそ彼女が犯人ではないことを証明するものだというポワロの洞察が導かれるわけですが、この映像化作品では、当時5歳くらいだった娘に、二十歳過ぎの今になって、母親のそうした所為を見た記憶が甦ってくるというふうに改変されていて、これは改変する必要があったのかなとも。

 妻と愛人が同居する生活に自らも翻弄されながらも、愛人をモデルに絵を描くことに没頭し、現実の問題を解決しようともしなければ、女性心理を見抜くことも出来なかった被害者の画家は、いかにも芸術家らしいエゴを体現していていました。

殺意のキャンパス011.jpg殺意のキャンパス TITLE.jpg そう言えば、「刑事コロンボ」の中にも、「殺意のキャンバス」(Murder, a Self Portrait、第50話、1989年)という、3人の女性(妻・前妻・愛人)と海辺のコテージで暮らす天才画家の話がありました。こうした状況設定のモデルはパブロ・ピカソ(1881-1973)だそうです。

Murder, a Self Portrait.jpg殺意のキャンパス022.png 「殺意のキャンパス」の方は、前妻は隣りのコテージに住んでいますが、今の妻と絵のモデルの愛人は自分のコテージに同居させていて、何れにせよ、妻妾同居はトラブルの元―といったところでしょうか。

 この画家マックス・バーシーニ(パトリック・ボーショー)は、実は過去に画商を殺害しており、前妻もその秘密を知っていて、精神分析治療の際に過去の出来事に関連する事柄を口走りはじめるようになった前妻を、画家が身の危険を感じて殺害するというもので、殺害のトリックは、酒場の店主ヴィト(ヴィト・スコッティ)に頼まれた絵を、昔その酒場の2階で自分がアトリエとして使っていた部屋に籠殺意のキャンパス01.jpgって描いていたとうことをアリバイに、実は既に出来上がっていいる絵を持ち込んで、その間にアトリエを抜け出して海辺で日光用中の前妻を殺害するというもの。3人の女性との暮らしがギクシャクして、前妻を殺したら多少は落ち着くかと思ったら、現在の妻も愛人も画家の自己チューぶりに愛想をつかして出て行ってしまうという展開も皮肉がよく効いていて、80年代終わりに始まった新・シリーズの中では、比較的よく出来ている方ではないでしょうか。

殺意のキャンパス02.jpg殺意のキャンパス ヴィと.jpg このシリーズのコメディっぽいシーンに欠かせない俳優ヴィト・スコッティは、新旧シリーズ通して6話に登場していて、これが最後となりました。この作品以前は、第19話「別れのワイン」のレストラン支配人、第20話「野望の果て」のテーラーの主人、第24話「白鳥の歌」の葬儀屋、第27話「逆転の構図」の浮浪者、第34話「仮面の男」のぶどう輸入会社社長の役で出演しています。 
  
  
五匹の子豚05.jpg五匹の子豚08.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第7話)/五匹の子豚」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/CINQ PETITS COCHONS(Five Little Pigs)●制作年:2010年●制作国:フランス●本国上映:2011/4/8●監督:エリック・ウォレット●脚本:Sylvie Simon●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Julia Vaidis-Bogard /Vincent Winterhalter/Michel Muller/Prune Beuchat /Eglantine Rembauville/Gabrielle Atger/Marine Mendes/Lily-Rose Miot ●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

新・刑事コロンボDVDコレクション 05.jpg殺意のキャンパス00.jpg「刑事コロンボ(第50話)/殺意のキャンバス」●原題:MURDER, A SELF PORTRAIT●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・フローリー●製作:スタンリー・カリス●脚本:ロバート・シャーマン●音楽:パトリック・ウィリアムズ●時間:90分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・フォックスワース/パトリック・ボーショー/フィオヌラ・フラナガン/シーラ・ダニーズ/イザベル・ロルカ/ヴィト・スコッティ/ジョージ・コー/デヴィッド・バード●日本初放送:1994 /11●放送:NTV:★★★☆) 
隔週刊 新・刑事コロンボDVDコレクション 2013年 8/6号 [分冊百科]

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最初はビックリ。でも意外とプロットの根幹部分は変えず、"味付け"にこだわっている感じ。

フレンチ・ミステリー(第11話)/書斎の死体 dvd.jpg クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体05.jpg 書斎の死体2.jpg

 泥酔したラロジエール警視が目覚めると、ベッドに若い女性の死体が横たわっていた。全く身に覚えのないラロジエールだったが、第一容疑者として警察に身柄を拘束されてしまう。やがて、女性は娼婦と判明する―。

書斎の死体 ハヤカワ文庫.jpg ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」で、2011年10月に本国で放映されたもの。原作はアガサ・クリスティが1942年に発表したものです。シリーズ9話目ともなると、思い切り遊んでいる感じもします(「AXNミステリー」で放映された際は〈第11話〉としての放映だったが、元々のフランス2での放映時は〈第9話〉として放映された)。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体01.jpg そもそも原作では、「退役大佐の家の書斎」で若い女の死体が見つかることになっているのが、何と、このシリーズの探偵役であるラロジエール警視の「自宅」で女の死体が見つかってしまうわけで、冒頭からビックリ。これ、爆笑パロディ版なのかと。

書斎の死体4.jpg 原作では、被害者の女性がホテル付きのダンサーであったことから、ホテルを舞台に謎解きが進むわけですが、こちらは「ホテル」ではなく「売春宿」になっていて、しかも、ラロジエール警視の馴染みの店であるというのが笑えます。拘禁の身にあったラロジエールは、移送中に脱走し、売春宿に逃げ込んでそのままそこを根城にしてしまう―。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体04.jpg 事件の源となる大金持ちの老人も、高級ホテル住まいの客ではなく、売春宿の女に惚れてそこに滞在し続けているという設定で、原作はこのホテル住まいの大富豪を中心に関係者の姻戚関係がかなり複雑なのですが、そこは放蕩癖のある「娘婿」を「実の息子」に置き換えたり、「息子の嫁」も方は出てこなかったりして、やや端折っています。
 でも、原作は容疑者が豊富で、富豪の娘婿・息子の嫁の他に、いつも自宅で騒がしいパーティを開いている映画関係の男、ホテル・ダンサー兼テニスのコーチのハンサム男、被害者の女が消える前に一緒にいた男などがいましたが、大体それらに該当する人物は一応は揃えてみせています。

書斎の死体5.jpg 前半は第一容疑者としてラロジエール警視に容疑がかかっているため、その無実を晴らせるかどうかは、ランピオン君にかかっているという感じすが、ラロジエール警視の指示で、ホモセクシャルの彼が嫌々ながら売春宿に行った揚句、宿の経営を手伝っているハンサム男とホモ達になってしまうのは、このシリーズならでは(何と、ホモ達同士ベットで知恵を出し合う。そして、ランピオンがその彼を犯人ではないかと疑ってしまったことで二人の仲は決裂、そのことをランピオンは後々まで悔いる―という、この部分だけでBL的なストーリーが1つ仕上がっている)。

 結局、この話は、言ってしまえばアリバイ作りのための「死体入れ替え」トリックであって、結構"本格"推理っぽい複雑さを秘めたプロットであるわけですが、ラロジエール警視の最後の謎解きは、それを分かりやすく説明しているため、原作のプロットを忘れてしまった人は、この作品を見て十分思い出せると思います(但し、犯人像は一部改変されてしまっている。おそらく、原作を知っている人向けに捻ったのだろうが)。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体02.jpg 個人的には原作を大きく捻じ曲げているものはあまり好きではないのですが、このシリーズは最初から「改変の妙」を楽しむものであってあまり気にならず、この作品などは、冒頭どうなることかと思ったけれど、結局は、意外とプロットの根幹部分は変えずに、どう"味付け"するかにこだわっているなという感じ。

 時代設定はクリスティの原作に近いところまで遡るようですが、雰囲気はイギリスとフランスで全然違うなあ、「ホテル」を「売春宿」に置き換えてしまったというのが、その大きな要因としてあるかと思いますが、売春宿の退廃的レトロ感と言うか気だるい雰囲気などはよく出ていたように思います。コアなクリスティの原作ファンには、冒頭でもうすぐに拒絶反応を起こしそうな出だしだったけれど、観終わってみれば個人的にはまあまあ面白かったです。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体03.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第9話)/書斎の死体」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ UN CADAVRE SUR L'OREILLER(BODY IN THE LIBRARY)●制作年:2011年●制作国:フランス●本国上映:2011/10/28●監督:エリック・ウォレット●脚本:Sylvie Simon ●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Valérie Sibilia/Juliet Lemonnier/Nicolas Abraham/Charles Templon/Vernon Dobtchef●日本放映:2012/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

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初めは改変過剰の気がしたけれど、終わってみればまあまあマトモな翻案になっていた。

フレンチ・ミステリー/スリーピング・マーダー dvd.png フレンチ・ミステリー/スリーピング・マーダー01.jpg フレンチ・ミステリー/スリーピング・マーダー02.jpg
DVD(輸入盤)
フレンチ・ミステリー(第10話)/スリーピング・マーダー.jpg 20歳のサーシャは閉じ込められていた精神病院から脱出し、密かに所持していた大金で空き家となっていた邸宅を購入して身を潜めるが、その最初の晩から、邸の階段下に血まみれになった女性の姿が見えるという恐ろしい幻想に苛まれる―。

スリーピング・マーダー クリスティー文庫.jpg ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2012年の新作で、このシリーズは改変の妙が楽しいのですが、原作で新婚ほやほやの若妻で、強い前向きの意志を持った女性だった主人公が、この作品では、精神不安定で離婚して精神病院に入れられていた女性に置き換わっていて、何だかキャラクター的には真逆の設定のような感じも。

フレンチ・ミステリー⑩スリーピング・マーダー03.jpg 冒頭、若い女性(サーシャ)が電気ショック療法を受けているという、原作には全く無いシーンから始まるので、何だ、こりゃ、という感じも。一方、ラロジエール警視とランピオン刑事は、冒頭から女性精神分析学者の講義を受けていて、ラロジエール警視はこの女性が気になるようで、と思ったら女性の方から逆アプローチを受けて、どっぷり情事にハマるという―。

フレンチ・ミステリー⑩スリーピング・マーダー02.jpg おい、おい、こんな女性、原作には出てこないよと思いつつ、更に原作には無い殺人事件が早々に起き、サーシャが第一容疑者に。そんなサーシャを救おうと、ホモセクシャルが定着していたはずのランピオン刑事が「女性で愛せるのは君だけだ」と奮闘、女性精神分析学者との交際でインポテンスになってしまったため生きがい喪失気味のラロジエール警視と、上司-部下関係を逆転させたロールプレイを演じつつ、現在と過去の両事件の解決にあたるという―あ~あ、何だかドタバタ喜劇みたい。

 この辺りにくると、もうかなり自由に作っているという感じで、容疑者や真犯人も原作とは別物になってしまうんじゃないかと思ったら、ちゃんと原作通り、職業・性別は違えど(弁護士が公証人になっていたりした)3人の容疑者が浮かび上がるようになっていました。

 女性精神分析学者が出てきたのは一体何だったのかと思ったら、最後、精神分析学的観点から、ラロジエール警視とランピオン刑事に真犯人に行きつく手掛かりとなるヒントを提供する役割を担うことになった(要するに、事件解決のキーパーソンとなった)ということで、初めは無茶苦茶な感じがしたけれど、最後は原作との相似形で、ばらばらだったピースがしっかりハマった印象があります。

 ということで、振り却ってみれば、まあまあ真っ当な翻案になっていたと言えるかも。ユーモアナ乃至エスプリと(かなり"お遊び"しているが)、どろっとした気味悪さが混在した、このシリーズらしい作品でした。

フレンチ・ミステリー⑩スリーピング・マーダー01.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第10話)/スリーピング・マーダー」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ UN MEURTRE EN SOMMEIL●制作年:2012年●制作国:フランス●本国上映:2012/2/17●監督:エリック・ウォレット●脚本:Anne Giafferi/Muriel Magellan●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Jennifer Decker/Sophie Le Tellier/Patrick Descamps●日本放映:2012/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

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誤訳はあったにせよ清水俊二訳の方が好みか。再読でも楽しめる("叙述トリック"探しで?)。

そして誰もいなくなった ポケミス.jpg そして誰もいなくなった ポケット.jpg そして誰もいなくなった ポケット2.jpg そして誰もいなくなった クリスティー文庫 旧.png そして誰もいなくなった 青木訳.jpg
そして誰もいなくなった (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery196)』['55年・'75年('01年復刻版)/清水俊二:訳]『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['03年/清水俊二:訳]『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['10年/青木久恵:訳(装幀:真鍋博[1976年4月刊行のハヤカワ・ミステリ文庫初版カバーを復刻)]
ハヤカワ・ミステリ文庫創刊ラインナップ.jpg
 英国デヴォン州のインディアン島に、年齢も職業も異なる10人の男女が招かれるが、招待状の差出人でこの島の主でもあるU・N・オーエンは姿を現さない。やがてその招待状は虚偽のものであることがわかったが、迎えの船が来そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫).jpgなくなったため10人は島から出ることが出来なくなり、10人は島で孤立状態となる―。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1-1))』[清水俊二:訳]
          
And Then There Were None.jpgAnd Then There Were None2.jpg 1939年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Ten Little Niggers (米 Ten Little Indians) (改題:And Then There Were None))で、1982年実施の日本クリスティ・ファンクラブ員の投票による「クリスティ・ベストテン」で第1位になっているほか、早川書房主催の作家・評論家・書店員などの識者へのアンケートによる「ミステリが読みたい!」の2010年オールタイムベスト100の第1位、2012年実施の推理作家や推理小説の愛好者ら約500名によるアンケート「週刊文春・東西ミステリーベスト100」でも1位となっており(1976年創刊の「ハヤカワ・ミステリ文庫」の創刊ラインアップでもトップにきている)、クリスティの自選ベストテン(順不同)にも入っていて、クリスティ自身、インタビューで、自分でも最も上手く書けた作品であると思うと言っていたこともあります。

Collins Crime Club(1939)

AND THEN THERE WERE NONE .Fontana.jpg この作品がよく読まれる理由の一つとして、10人もの人間が亡くなる話なのに長さ的には他の作品と同じかやや短いくらいで、テンポよく読めるというのもあるのではないでしょうか(しかも、後半にいくほど殺人の間隔が短くなる)。その分、登場人物の性格の描写などは極力簡潔にとどめ、心理描写も他の作品に比べると抑制しているように思います。まあ、あまり"心理描写"してしまうと「叙述トリック」になってしまうからでしょう。

AND THEN THERE WERE NONE .Fontana.1990

 それでも、『アクロイド殺し』のようにストレートにではないですが、「叙述トリック」ではないかと思われる部分があり、よく知られている箇所では、生存者が残り5名になった時と残り4名になった時に、それぞれの内面心理の描写の羅列があって、お互いが疑心悪鬼になっている様が描かれているのですが(どれが誰の心理描写かは記されていない)、4名になった時はともかく5名の時は、この中に"ウソ"の心理描写になっているものがある―というものがあります。

青木久恵:訳 『そして誰もいなくなったe.png ところが、これは実は一部に訳者の清水俊二の誤訳があって、正しく訳せば、5人の心理描写の内の問題の1つは、当事者それなりのあることを警戒する心理を描いたと解することができるというのが実際のところのようです。

 後の清水訳ではこの翻訳部分は修正されたようですが、個人的には未確認。2010年に清水訳と入れ替わりにクリスティー文庫に収められた青木久恵氏の訳(表紙はハヤカワ・ミステリ文庫の1976年4月初版の真鍋博のイラストを復刻)を今回読んでみて、ナルホドね、という印象でした。

そして誰もいなくなった ジュニア版.jpg 青木氏による新訳はたいへん読み易いのですが(「インディアン島」が「兵隊島」になっているのはポリティカル・コレクト化か)、ちょっと軽い印象も受けます。氏は、2007年に同じ早川書房の「クリスティー・ジュニア・ミステリ」の方でこの作品を翻訳していて、時間的な制約があったのかどうかは知りませんが、自身による前の翻訳が"底本"になっているような感じがしました。より現代にマッチした言葉使いを意識したということかもしれませんが、個人的には(誤訳はあったにせよ)清水訳の方が好みです。初読の際の"???"の状態のまま最後の方のページをめくる興奮というのもあったかと思いますが...。但し、この作品は、再読でも楽しめる("叙述トリック"探しで?)傑作であることには違いないと思います。
そして誰もいなくなった (クリスティー・ジュニア・ミステリ 1)

そして誰もいなくなった 1945 01 00.jpgそして誰もいなくなった 1945 01.jpg この作品は、ルネ・クレール監督の「そして誰もいなくなった」('45年/米)をはじめ、ジョージ・ポロック監督の「姿なき殺人者」('65年/英)、ピーター・コリンソン監督の「そして誰もいなくなった」('74年/伊・仏)、アラン・バーキンショー監督の「サファリ殺人事件」('89年/米)など10回以上映画化されていますが、何れも、小説の方ではなく、クリスティ自身が舞台用に書いた「戯曲」版をベースにしたり、それをまた翻案したりしているそうで、そうした意味では、小説の方はまだ一度も映画化されていないとも言えます。

ルネ・クレール監督「そして誰もいなくなった」('45年/米) ★★★☆

そして誰もいなくなった bbc02.jpgそして誰もいなくなった bbc01.jpg(2015年製作の英BBC版テレビドラマは、時代が現代に置き換えられていて、10人のうち数人の属性(過去に犯した殺人の方法や動機など)が微妙に改変されているが、ラストは「戯曲」に沿ったこれまでの映画化作品と違って、原作「小説」の通り全員が"いなくなる"ものだった。)

 クリスティが自作を戯曲化したものでは、例えば戯曲「ナイルに死す」にはポワロが登場しないし、戯曲「検察側の証人」ではラストで小説にはないヒネリを加えるなど(ビリー・ワイルダー監督の「情婦」('57年/米)は戯曲に即して作られている)、小説からの改変が見られますが、この『そして誰もいなくなった』では、物語の中でも指摘されているように、"見立て殺人"のベースになっている童謡の歌詞の最後が「首を吊る」と「結婚する」の2通りあり、戯曲では「結婚する」の方を採用しています(改変するにしても歌詞に則っているのは立派)。

 従って、戯曲版は小説と結末が異なり、最後に男女が一組生き残るわけですが、おそらく戯曲が上演される頃には小説の方はよく知られ過ぎたものになっていて、そこで新たな"お楽しみ"を加えたのではないでしょうか(戯曲に比較的忠実に作られているルネ・クレール監督の映画作品についても同じことが言える)。まあ、最後タイトル通り誰もいなくなってしまうというのは、謎解きする人がいなくなって舞台や映画では表現しにくいというのもあるのでしょう。

 小説では、犯人が書き残し瓶に入れて海に流した手記が見つかったことによる後日譚風の謎解きになっているわけで、この犯人というのは、「神に代わって裁きを行う」"超越的"人物(ある種サイコ・シリアルキラー?)ともとれますが、裁きを行うという目的よりも、「誰にも解けない完全犯罪」を成し遂げるという手段そのものが目的化している印象も受け、そうした意味では、異常でありながらも、本格推理作家が創作上目指すところと重なる部分があるかもしれません。

【1955年新書化・1975年改訂(2001年復刻版)[ハヤカワ・ポケットミステリ(清水俊二:訳)]/1976年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(清水俊二:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(清水俊二:訳)]/2010年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(青木久惠:訳)]】


そして誰もいなくなった bbcド.jpg そして誰もいなくなった NHK-BS.jpgそして誰もいなくなった bbc .jpg
& Then There Were None [Blu-ray]」英BBC版テレビドラマ

そして誰もいなくなった第1話1.jpg「アガサ・クリスティー そして誰もいなくなった」(全3回)●原そして誰もいなくなった 第2話.jpg題:& Then There Were None●制作年:2015年●制作国:イギリス●本国放送:2015/12/26~28●演出:そして誰もいなくなった 第3話.jpgクレイグ・ヴィヴェイロス●製作:ダミアン・ティマー/マシュー・リード/サラ・フェそして誰もいなくなった!_.jpgルプス●脚本:サラ・フェルプス●時間:210分●出演:メイヴ・ダーモディ/チャールズ・ダンス/エイダン・ターナー/サム・ニール/Mそして誰もいなくなったaeve-Dermody.jpgトビー・スティーヴンス/ダグラス・ブース/バーン・ゴーマン/ミランダ・リチャードソン/ノア・テイラー/アンナ・マックスウェル・マーティン●日本放送:2016/11/27●放送局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★☆)
2016年11月27日、12月4日、12月11日NHK-BSプレミアムで放送

Maeve Dermody(メイヴ・ダーモディ)

And Then There Were None そして誰もいなくなった≪英語のみ≫[PAL-UK]

《読書MEMO》
●2017年ドラマ化 原作の本邦初映像化作品であるとのこと。登場人物および舞台は現代の日本に置き換えられ、一部の人物の職業や過そして誰もいなくなった ドラマ  03.jpgそして誰もいなくなった sawamura .jpg去に犯した殺人の方法、動機も変更されているが、BBC版と同じく、最後は原作「小説」の通り全員が"いなくなる"。終盤でこの事件を沢村一樹演じる警視庁捜査一課警部・相国寺竜也がリードして捜査し(この部分はややコミカルに描かれている)、犯人が残した映像メッセージに辿りついて事そして誰もいなくなった ドラマ .jpg件の全容が明らかになるという流れ。

そして誰もいなくなった 渡瀬_.jpg 3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、エンディングで「このドラマは2016年12月20日から2017年2月13日に掛けて撮影されました。渡瀬恒彦さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます」と流れる。クランクアップの1ヵ月後に亡くなった渡瀬恒彦は、実際に自らが末期がんの身でありながらドラマの中で末期がん患者を演じており、その演技には鬼気迫るものがあった。

そして誰もいなくなった ドラマ53.jpg「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」●監督:和泉聖治●脚本:長坂秀佳●プロデューサー:藤本一彦/下山潤/吉田憲一/三宅はるえ●音楽: 吉川清之●原作:アそして誰もいなくなった ドラマ 01.jpgガサ・クリスティ●出演:仲間由紀恵/沢村一樹/向井理/大地真央/柳葉敏郎/藤真利子/荒川良々/國村隼/余貴美子/橋爪功/津川雅彦/渡瀬恒彦●放映:2017/03/25・26(全2回)●放送局:テレビ朝日

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前作「ベルグレービアの醜聞」の"エロス趣向"と今回の"サイエンス趣向"では、前作に軍配。

SHERLOCK/シャーロック シーズン2.jpgsherlock バスカヴィルの犬 01.jpg sherlock バスカヴィルの犬 07.jpg
SHERLOCK/シャーロック シーズン2 [DVD]

sherlock バスカヴィルの犬 04.jpg シャーロック・ホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ)のもとに、ダートムアから依頼人ヘンリー(ラッセル・トヴェイ)がやってくる。ダートムアの荒野には政府の科学生物兵器研究施設「バスカヴィル」があり、極秘の実験が行われているという噂があった。ヘンリーは20年前、7歳のときに父親が悪魔のような巨大な犬「ハウンド」に殺されるのを目撃。ショックが生み出した妄想かと思ったが、昨夜、再びその現場で巨大な「ハウンド」の足跡を発見したという。ホームズらは怪物の正体探るためダートムアに向かう―。
            
sherlock バスカヴィルの犬 00.jpgsherlock バスカヴィルの犬 03.jpg 「バスカヴィルの犬(ハウンド)("The Hounds of Baskerville")」は、「ベルグレービアの醜聞」に続く「SHERLOCK(シャーロック)」第2シーズン第2話(通算第5話)で、原作は当然のことながら「バスカヴィル家の犬("The Hound of the Baskervilles")」ですが、「バスカヴィル」というのが、家名から軍の秘密実験基地みたいなものの名前に置き換わっています。

SHERLOCK:THE HOUNDS OF BASKERVILLE.jpg この作品、ダートムアの荒涼としたイメージをどう描くかがポイントかと思って観ましたが、ダートムアが既に"魔犬が出る地"として心霊スポット的な観光地になっていて、ホームズとワトスンは、幼少期に自分の父親がダートムアの窪地で魔物に襲われて殺されるところを見たという青年に導かれて夜のダートムアを走り回るけれども、偽造IDカードで基地内にも潜入して実験施設内も探索するということで、原作のおどろおどろしさは半減しています。

sherlock バスカヴィルの犬 05.jpg 一方で、基地内では怪しげな動物実験が行われていて、先にあった「発光ウサギ」が逃げ出したという、ホームズが一旦は調査の依頼を袖にした"珍事件"もこうした実験と関係があるらしい(下村脩氏が発見したオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質を注入した発光ネズミというのは写真で見たなあ)―となると、いよいよ近未来型の「バスカヴィルの犬」の登場かと思ったら、結局は意外としょぼい仕掛けだったと言うか(まあ、怪獣映画になってもマズイわけだけれど)、結末だって怪しげな人物はやっぱり怪しかったし...。

SHERLOCK(シャーロック)/バスカヴィルの犬.jpg 前作「ベルグレービアの醜聞」が"エロス趣向"だとすれば、こちらは"サイエンス趣向"と言え、毎回趣向を変えてくる努力は買いますが、これは今一つノレなかった...。

SHESHERLOCK(シャーロック)/バスカヴィルの犬2.jpg この原作の映像化作品は、「犬」の登場の場面で90年代からCGが使われていますが、この作品でCGであれだけハッキリ見せる必要はなかったのではないかな。前半部分でモンタージュ的な手法を使って「犬」を見せないでいたのに、あそこで登場人物の主観に合わせて見せてしまったら、前後の整合が取れないのでは。

バスカヴィル dvd.jpg「SHERLOCK(シャーロック)(第5話)/バスカヴィルの犬(ハウンド)」●原題:SHERLOCK:THE HOUNDS OF BASKERVILLE●制作年:2011年●制作国:イギリス●演出:ポール・マクギガン●脚本:マーク・ゲイティス●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ルパート・グレイヴス/ユナ・スタッブス/マーク・ゲイティス/ラッセル・トヴェイ●日本放映:2012/07●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★)

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まずまず上手いなあと。最後はホームズが「あの女性」を死地から救ったように見える。

SHERLOCK/シャーロック シーズン2.jpgA Scandal in Belgravia 000.png A Scandal in Belgravia01.jpg
SHERLOCK/シャーロック シーズン2 [DVD]

A Scandal in Belgravia 011.jpg ベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)主演の「SHERLOCK(シャーロック)」は、2010年から始まったBBC製作のドラマで(日本での放映は2011年8月から)、本作「ベルグレービアの醜聞("A Scandal in Belgravia")」は、第2シーズン第1話(通算第4話)にあたり、本国放映は2011年1月、日本ではNHK-BSプレミアムで2012年7月に放映されました。

A Scandal in Belgravia 012.jpg タイトルからも分かるように、コナン・ドイルの短編集でも最も人気のある第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険」の中の第1作「ボヘミアの醜聞("A Scandal in Bohemia")」(1891年初出)がオリジナルですが、元が短編なので、このTVシリーズ独特の現代風アレンジに加え、話を膨らませるだけ膨らまして、その上で大幅な改変もしているという印象でしょうか。個人的にはそれなりに面白かったです。

A Scandal in Belgravia02.jpg 原作の敵役であり実質ヒロインでもあるアイリーン・アドラーは、シャーロック・ホームズが「あの女性 (the woman)」と唯一定冠詞をつけて呼ぶ特別な存在になるほどの女性ですが、これがドラマでは、アイリーン(ララ・パルバー、Lara Pulver)の家に無理矢理入り込んだホームズ(原作では怪我して運び込まれたことになっている)の前にいきなり全裸で現れるという趣向で、しかも、両性を手玉に取る所謂"両刀使い"というのがスゴイね。

A Scandal in Belgravia03.jpg その他にもいっぱい"遊び"があるけれど、原作の、ホームズがワトスンに発煙筒を焚かせて、依頼主から奪還を要請されている写真(ドラマでは携帯電話に収められている)の在り処を「彼女の目線」から探り当てる場面など、細かいところはオリジナルを踏襲したりしているのが憎いなあと。

 前半は殆どアイリーンにホームズが振り回されっ放しですが(原作でもホームズより能力的に優れていることになっている)、最後はホームズがアイリーンを死地から救ったように見えるね(そうなると、ホームズは殆ど"007"並みの行動をとったことになるが)。原作を巡っては、恋愛感情に縁が無いホームズが唯一恋愛感情を抱いた女性ではないかとか、いや、ワトスンが作中で述べているように、ホームズはアイリーンに恋愛感情を抱いたわけではないとか、いろいろ論議があるようですが、(アイリーンのイメージは随分違っているけれど)引き続きそうした論議の余韻を残すような終わり方は、まずまず上手いなあと思いました。

A Scandal in Belgravia 003.png「SHERLOCK(シャーロック)(第4話)/ベルグレービアの醜聞」」●原題:SHERLOCK:A SCANDAL IN BELGRAVIA●制A Scandal in Belgravia 022.jpg作年:2011年●制作国:イギリス●演出:ポール・マクギガン●脚本:スティーブン・モファット●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ララ・パルバー/ルパート・グレイヴス/ウーナ・スタッブズ/マーク・ゲイティス/アンドリュー・スコット●日本放映:2012/07●放映局:NHSHERLOCK ベルグレービアの醜聞 .jpgK-BSプレミアム(評価:★★★★)

ベネディクト・カンバーバッチ(ホームズ)/ララ・パルヴァー(アイリーン・アドラー)/マーク・ゲイティス(演出及びマイクロフト・ホームズ役)
Sherlock (2010)
Sherlock (2010).jpgSHERLOCK.jpg「SHERLOCK (シャーロック)」SHERLOCK (BBC 2010~) ○日本での放映チャネル:NHK‐BSプレミアム(2011~)

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見ていると眠れなくなってしまいそうな本。美麗本であれば、ファンには垂涎の一冊。

怪奇SF映画大全2.jpg メトロポリス.JPG アマゾンの半漁人.JPG
怪奇SF映画大全』(30 x 23 x 2.4 cm) 「メトロポリス」('27年) 「アマゾンの半魚人」('54年)

図説ホラー・シネマ.jpgGraven Images 1992.jpgGraven Images 2.jpg 先に『図説 モンスター―映画の空想生物たち(ふくろうの本)』('07年/河出書房新社)を取り上げましたが、本書(原題"Graven Images" 1992)は怪奇映画だけでなくSFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」であり、「カリガリ博士」「キング・コング」から「吸血鬼ドラキュラ」「2001年宇宙の旅」まで怪奇・SF・ファンタジー映画の歴史をポスターの紹介と併せて解説したまさに永久保存版であり、1910~60年代まで450本の映画及びポスターが紹介されています。
"Graven Images: The Best of Horror, Fantasy, and Science-Fiction Film Art from the Collection of Ronald V. Borst"

 ポスターの紹介点数もさることながら、大型本の利点を生かしてそれらを大きくゆったりと配置しているためかなり見易く、また、迫力のあるものとなっています(表紙にきているのはボリス・カーロフ主演の(「フランケンシュタイン」ではなく)「ミイラ再生」('32年)のポスター)。

 「ふくろうの本」の方が映画そのものの解説が詳しいのに比べ、こちらはポスターそのものを見せることが主で、その余白に映画の解説が入るといった作りになっていますが、それでも解説も丁寧。「10年代と20年代」から「60年代」まで年代ごとの"編年体"の並べ方になっているため、時間的経緯を軸に怪奇SF映画の歴史を辿るのにはいいです。

 更に各章の冒頭に、ロバート・ブロック(「サイコ」の原作者)、レイブラッド・ベリ、ハーラン・エリスン、クライブ・パーカーなどの作家陣が、年代ごとの作品の解説を寄せていますが(序文はスティーヴン・キング)、それぞれエッセイ風の文章でありながら、作品解説としてもかなり突っ込んだものになっています。

「キング・コング」('33年)
kingkong 1933 poster.jpgキング・コング 1933.jpg ポスターに関して言えば、60年代よりも前のものの方がいいものが多いような印象を受け、個人的には、「キング・コング」('33年)のポスターが見開き4ページにわたり紹介されているのが嬉しく、「『美女と野獣』をフロイト的に改作」したものとの解説にもナルホドと。映画の方は、ストップ・アニメーションでの動きはぎこちないのに、観ていてコングについ感情移入してしまいますが、意外とこの時のコングは小さかったかも...現代的感覚から見るとそう迫力は感じられません。但し、当時は興業的に大成功を収め(ポスターも数多く作られたが、本書によれば、実際の映画の中でのコングの復讐_1.jpgコングの姿を忠実に描いたのはアメリカ製のポスター[左上]の1点のみとのこと)、その年の内に「コングの復讐」('33年)が作られ(原題は「SON OF KONG(コングの息子)」)公開されました。

「コングの復讐」('33年)
紀元前百万年 ポスター.jpg
紀元前百万年 スチール.jpg 因みに、アメリカやイギリスでは「怪獣映画」よりも「恐竜映画」の方が主に作られたようですが、日本のように着ぐるみではなく、模型を使って1コマ1コマ撮影していく方式で、ハル・ローチ監督、ヴィクター・マチュア、キャロル・ランディス主演の「紀元前百万年」('40年)ではトカゲやワニに作り物の角やヒレをつけて撮る所謂「トカゲ特撮」なんていう方法も用いられましたが、何れにしても動きの不自然さは目立ちます。そもそも恐竜と人類が同じ時代にいるという状況自体が進化の歴史からみてあり得ない話なのですが...。

one million years b.c. poster.jpg "全身整形美女"などと言われたラクェル・ウェルチ   .jpgラクエル・ウェルチ(とは言え、映画女優史上最強級アピール度のボディであったには違いない)が主演の「恐竜100万年」('66年)(100万年前なのに彼女はバッチリ完璧にハリウッド風のメイキャップをしている?)は本作のリメイク作品で、やはりここでも模型を使っています(結果的に、ラクエル・ウェルチの今風のメイキャップでありながらも、何となくノスタルジックな印象を受け、すごく昔の映画のように見えてしまう一方で、CGの出始めの頃の映画のようにも見え、なかなか微妙な味わいのある作品?)。

King Kong 02.jpg「キングコング」(1976年)1.jpg「キングコング」(1976年).jpg それが、その10年後の、ジョン・ギラーミン監督のリメイク版「キングコング」('76年)(こちらは邦題タイトル表記に中黒が無い)では、キング・コングの全身像が出てくる殆どのシーンは、リック・ベイカーという特殊メイクアーティストが自らスーツアクターとなって体当たり演技したものであったとのことで、ここにきてアメリカも、「ゴジラ」('54年)以来の日本の怪獣映画の伝統である"着ぐるみ方式"を採り入れたことになります(別資料によれば、実物大のロボット・コング(20メートル)も作られたが、腕や顔の向きを変える程度しか動かせず、結局映画では、コングがイベント会場で檻を破るワンシーンしか使われなかったという)。

フランケンシュタインの花嫁 poster.jpg 「フランケンシュタイン」('31年)「フランケンシュタインの花嫁」('35年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されていて、本書によれば、ボリス・カーロフは自分の演じる怪物にセリフがあることを不満に思っていたそうな(普通、逆だけどね)。その後も続々とフランシュタイン物のポスターが...。やはり、フランケンシュタインはSFまで含めても怪奇物の王者だなあと。

cat people 1942 poster.jpgthe thing 1951 poster.jpgforbbidden planet 1956 poster.jpg 40年代では「キャット・ピープル」('42年)や「ミイラ男」シリーズ、50年代では「遊星よりの物体X」('51年)「大アマゾンの半魚人」('54年)などのポスターがあるのが楽しく、50年代では日本の「ゴジラ」('54年)のポスターもあれば、「禁断の惑星」('56年)「宇宙水爆線」('55年)のポスターもそれぞれ見開きで各種紹介されています(50年代の最後にきているのはヒッチコックの「サイコ」('60年)のポスター)。

「キャット・ピープル」('42年)/「遊星よりの物体X」('51年)/「禁断の惑星」('56年)

 「キャット・ピープル」はポール・シュレイダー監督、ナスターシャ・キンスキー主演で同タイトル「キャット・ピープル」('81年)としてリメイクされ(オリジナルは日本では長らく劇場未公開だったが1988年にようやく劇場公開が実現したため、多くの人がリメイク版を先に観たことと思う)、「遊星よりの物体X」は、ジョン・カーペンター監督により「遊星からの物体X」('82年)としてリメイクされています。

cat people 1942 01.jpgcat people 1982.jpg 前者は、オリジナルでは、猫顔のシモーヌ・シモンが男性とキスするだけで黒豹に変身してしまう主人公を演じていますが、ストッキングを脱ぐシーンとか入浴シーン、プールでの水着シーンなどは当時としてはかなりエロチックな方だったのだろうなあと。実際に黒豹になるナスターシャ「キャット・ピープル」.jpg場面は夢の中で暗示されているのみで、それが主人公の妄想であることを示唆しているのに対し、リメイク版では、ナスターシャ・キンスキーが男性と交わると実際に黒豹に変身します。ナスターシャ・キンスキーの猫女(豹女?)はハマリ役で、後日「あの映画では肌を露出する場面が多すぎた」と述懐している通りの内容でもありますが、構成がイマイチのため、ストーリーがだらだらしている上に分かりにくいのが難点でしょうか。

the thing 1951.jpgthe thing 1982.jpg 後者「遊星からの...」は、オリジナル「遊星よりの...」の"植物人間"のモチーフを更に"擬態"にまで拡げてアレンジ、犬の顔がバナナの皮が剥けるように割けるシーンや、首を切られて落ちた頭に足が生えてカニのように逃げていくシーンのSFXはスゴかった...。これを観てしまうと、オリジナルはやや大人し過ぎるか。リメイクの方がむしろジョン・W・キャンベルの原作『影が行く』に忠実な面もあり、オリジナルを超えていたかも。SFXを駆使して逆にオリジナルの良さを損なう作品が多い中、誰が「偽人間」なのかと疑心暗鬼に陥った登場人物らの心理をドラマとして丁寧に描くことで成功しています。

フェイ・レイ.jpg2フェイ・レイ.jpgキング・コング 1976 ジェシカ・ラング.jpg 「キング・コング」('33年)のリメイク、ジョン・ギラーミン監督の「キングコング」('76年)は、オリジナルは、ヒロイン(フェイ・レイ)に一方的に恋したコングが、ヒロインをさらってエンパイアステートビルによじ登り、コングの手の中フェイ・レイは恐怖のあまりただただ絶叫するばかりでしたが(このため、フェイ・レイ"絶叫女優"などと呼ばれた)、King Kong 1976 03.jpgリメイク版のヒロイン(ジェシカ・ラング)は最初こそコングを恐れるものの、途中からコングを慈しむかのように心情が変化し、世界貿易センタービルの屋上でヘリからの銃撃を受けるコングに対して「私といれば狙われないから」と言うまでになるなど、コングといわば"男女間的コミュにケーション"をするようになっています(そうしたセリフ自体は観客に向けての解説か?)。但し、「美女と野獣」のモチーフが、それ自体は「キング・コング」の"正統的"なモチーフであるにしてもここまで前面に出てしまうと、もう怪獣映画ではなくなってしまっている印象も。個人的には懐かしい映画であり、郵便配達は二度ベルを鳴らす 1981.jpg興業的にもアメリカでも日本でも大ヒットしましたが、後に観直してみると、そうしたこともあってイマイチの作品のように思われました。ジェシカ・ラングも「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)で一皮むける前の演技であるし...2005年にナオミ・ワッツ主演の再リメイク作品が作られましたが、ナオミ・ワッツもジェシカ・ラング同様、以降の作品において"演技派女優"への転身を遂げています。
 因みに、ボブ・ラフェルソン監督、ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング主演の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はジェームズ・M・ケインの原作の4度目の映画化作品でしたが(それまでに米・仏・伊で映画化されている)、その中で批評家の評価は最も高く、個人的もルキノ・ヴィスコンティ監督版('42年/伊、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイ)を超えていたように思います。
ジェシカ・ラング in「郵便配達は二度ベルを鳴らす」('81年)

 「蠅男の恐怖」('58年)のリメイク、デヴィッド・クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」('86年)などは、原作の"ハエ男"化していく主人公の哀しみをよく描いていたように思われ、こちらはもオリジナル以上と言えるのではないかと思います。ラストは、視覚的には"蠅男"が"蟹男"に見えるのが難点ですが、ドラマ的にはしんみりさせられるものでした。

 見ていると眠れなくなってしまいそうな本であり、ファンには垂涎の一冊と言えますが、絶版中。発売時本体価格6,800円で、古本市場でも美麗本だとそう安くなっていないのではないかな。そこだけが難点でしょうか。

キングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター.jpgキングコング 髑髏島の巨神 日本ポスター2.jpg (キングコングについては2017年に新進気鋭の監督ジョーダン・ヴォート=ロバーツによる「キングコング:髑髏島の巨神」('17年/米)が作られ、シリーズのスピンオフにあたる作品とのことだが、主役はあくまでキングコング。1973年の未知の島髑髏島がキングコング 髑髏島の巨神 01.jpg舞台で、一応、コングが島の守り神であったり、主人公の女性を救ったりと、オリジナルのコングに回帰している。コングのほかにいろいろな古代生物が出てくるが、コングも含め全部CG。コングはまずまずだが、天敵の大蜥蜴などは何だかアニメっぽかったように思えた(日本アニメへのオマージュがキングコング 髑髏島の巨神 02.jpg込められているようだ)。本作のプレゼンテーションに参加した「シン・ゴジラ」('16年/東宝)の樋口真嗣監督は、本作のコングについて、'33年のオリジナル版キングコングのような人形劇の動きに近く、2005年版で描かれたような巨大なゴリラではなく、どちらかといえばリック・ベイカー(1976年版コングのスーツアクター)っぽいと語したそうだが、おそらくモーション・キャプチャを使っているせいだろう。同じCG主体でも、「ジュラシック・パーク」('93年/米)が登場した時のよう新奇性もなく(もうCG慣れしてしまった?)、その上、サミュエル・L・ジャクソンやオスカー女優のブリー・ラーソンが出ている割にはドラマ部分も弱くて、人間側の主人公が誰なのかはっきりしないのが痛い)。

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キング・コング 1933 dvd.jpgキング・コング 02.jpg「キング・コング」●原題:KING KONG●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:メリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサキング・コング(オリジナル).jpgック●製作:マーセル・デルガド●脚本:ジェームス・クリールマン/ルース・ローズ●撮影:エドワード・リンドン/バーノン・L・ウォーカー●音楽:マックス・スタイナー●時間:100分●出演:フェイ・レイ/ロバート・アームストロング/ブルース・キャボット/フランク・ライチャー/サム・ハーディー/ノーブル・ジョンソン●日本公開:1933/09●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「紀元前百万年」(ハル・ローチ&ジュニア)

紀元前百万年 dvd.jpg紀元前百万年 dvd.jpg「紀元前百万年」●原題:ONE MILLION B.C.●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ローチ&ジュニア●製作:マーセル・デルガド●脚本:マイケル・ノヴァク/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリーカート●撮影:ノーバート・ブロダイン●音楽:ウェルナー・リヒャルト・ハイマン●時間:80分●出演:ヴィクター・マチュア/キャロル・ランディス/ロン・チェイニー・Jr/ジョン・ハバード/メイモ・クラーク/ジーン・ポーター●日本公開:1951/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・文芸座ル・ピリエ(84-06-30)(評価:★★★)●併映:「キング・コング」(ジュニアメリアン・C・クーパー/アーネスト・B・シェードサック) 「紀元前百万年 ONE MILLION B.C. [DVD]

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恐竜100万年 dvd.jpg恐竜100万年 ラクエル・ウェルチ.jpg「恐竜100万年」●原ラクエルウェルチ71歳.jpg題:ONE MILLION YEARS B.C.●制作年:1966年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ドン・チャフィ●製作:マイケル・カレラス●脚本:ミッケル・ノバック/ジョージ・ベイカー/ジョセフ・フリッカート●撮影:ウィルキー・クーパー●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:105分●出演:ラクエル・ウェルチ/ジョン・リチャードソン/パーシー・ハーバート/ロバート・ブラウン/マルティーヌ=ベズウィック/ジェーン・ウラドン●日本公開:1967/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:杉本保男氏邸 (81-02-06) (評価:★★★)  Raquel Welch age71

フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
フランケンシュタインの花嫁[DVD]

CAT PEOPLE 1942 .jpgキャット・ピープル 1942 DVD.jpg 「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:ジャック・ターナー●製作:ヴァル・リュウトン●脚本:ドゥィット・ボディーン●撮影:ニコラス・ミュスラカ●音楽:ロイ・ウェッブ●時間:73分●出演:シモーヌ・シモン/ケント・スミス/ジェーン・ランドルフ/トム・コンウェイ/ジャック・ホルト●日本公開:1988/05●配給:IP●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「遊星よりの物体X」(クリスチャン・ナイビー) 「キャット・ピープル [DVD]

シモーヌ・シモン(1910-2005)

「キャット・ピープル」●原題:CAT PEOPLE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ポール・シュレイダー●製作:チャールズ・フライズ●脚本:アラン・オームキャット・ピープル 1982.jpgズビー●撮影:ジョン・ベイリー●音楽:ジョルジキャット・ピープル dvd.jpgキャット・ピープル ポスター.jpgオ・モロダー(主題歌:デヴィッド・ボウイ(作詞・歌)●原作(オリジナル脚本):ドゥイット・ボディーン●時間:118分●出演:ナスターシャ・キンスキー/マルコムジョン・ハード/ アネット・オトウール/ルビー・ディー●日本公開:1982/07●配給:IP●最初に観た場所:新宿(文化?)シネマ2(82-07-18)(評価:★★☆)
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禁断の惑星 dvd.jpg禁断の惑星 ポスター(東宝).jpg「禁断の惑星」●原題:FORBIDDEN EARTH●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス●製作:ニコラス・ネイファック●脚本:シリル・ヒューム●撮影:ジョージ・J・フォルシー●音楽:ルイス・アンド・ベベ・バロン●原作:アーヴィング・ブロック/アレン・アドラー「運命の惑星」●時間:98分●出演:ウォルター・ピジョン/アン・フランシス/レスリー・ニールセン/ウォーレン・スティーヴンス/ジャック・ケリー/リチャード・アンダーソン/アール・ホリマン/ジョージ・ウォレス●日本公開:1956/09●配給:MGM●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-04-29)(評価:★★★☆)
禁断の惑星 [DVD]」/パンフレット

宇宙水爆戦 dvd.jpg「宇宙水爆戦」.bmp「宇宙水爆戦」●原題:THIS ISLAND EARTH●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督:ジョセフ・ニューマン●製作:ウィリアム・アランド●脚本:フランクリン・コーエン/エドワード・G・オキャラハン●撮影:クリフォード・スタイン/デビッド・S・ホスリー●音楽:ジョセフ・ガ―シェンソン●原作: レイモンド・F・ジョーンズ●時間:86分●出演:フェイス・ドマーグ/レックス・リーズン/ジェフ・モロー/ラッセル・ジョンソン/ランス・フラー●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●日本公開:1955/12)●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(87-05-17)(評価:★★★☆)
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遊星よりの物体X3.jpg遊星よりの物体X dvd.jpg「遊星よりの物体X」●原題:THE THING●制作年:1951年●制作国:アメリカ●監督:クリスチャン・ナイビー●製作:ハワード・ホークス●脚本:チャールズ・レデラー●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:マーガレット・シェリダン/ケネス・トビー/ロバート・コーンスウェイト/ダグラス・スペンサー/ジェームス・R・ヤング/デウェイ・マーチン/ロバート・ニコルズ/ウィリアム・セルフ/エドゥアルド・フランツ●日本公開:1952/05●配給:RKO●最初に観た場所:千石・三百人劇場(88-05-04)(評価:★★★)●併映:「キャット・ピープル」(ジャック・ターナー)
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遊星からの物体Xd.jpg遊星からの物体X dvd.jpg「遊星からの物体X」●原題:THE THING●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・カーペンター●製作:デイヴィッド・フォスター/ローレンス・ターマン/スチュアート・コーエン●脚本:ビル・ランカスター●撮影:ディーン・カンディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ジョン・W・キャンベル「影が行く」●時間:87分●出演:カート・ラッセル/A・ウィルフォード・ブリムリー/リチャード・ダイサート/ドナルド・モファット/T・K・カーター/デイヴィッド・クレノン/キース・デイヴィッド●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「エイリアン」(リドリー・スコット)
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King Kong 01.jpgking kong 1976.jpg「キングコング」●原題:KING KONG●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジョン・バリー●時間:134分●出演:ジェフ・ブリッジス/ジェシカ・ラング/チャールズ・グローディン/ジャック・オハローラン /ジョン・ランドルフ/ルネ・オーベルジョノワ/ジュリアス・ハリス/ジョン・ローン/ジョン・エイガー/コービン・バーンセン/エド・ローター ●日本公開:1976/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:新宿プラザ劇場(77-01-04)(評価:★★★)

郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD].jpg郵便配達は二度ベルを鳴らす br.jpg「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●原題:THE POSTNAN ALWAYS RINGS TWICE●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ボブ・ラフェルソン●製作:チャールズ・マルヴェヒル/ ボブ・ラフェルソン●脚本:デヴィッド・マメット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マイケル・スモール●原作:ジェイムズ・M・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」●時間:123分●出演:ジャック・ニコルソン/ジェシカ・ラング/ジョン・コリコス/マイケル・ラーナー/ジョン・P・ライアン/ アンジェリカ・ヒューストン/ウィリアム・トレイラー●日本公開:1981/12●配給:日本ヘラルド●最初に観た場所:三鷹オスカー (82-08-07)●2回目:自由ヶ丘・自由劇場 (84-09-15)(評価★★★★)●併映:(1回目)「白いドレスの女」(ローレンス・カスダン(原作:ジェイムズ・M・ケイン))●併映:(2回目)「ヘカテ」(ダニエル・シュミット)
郵便配達は二度ベルを鳴らす [DVD]」「郵便配達は二度ベルを鳴らす [Blu-ray]

ザ・フライ dvd.jpg「ザ・フライ」●原題:THE FLY●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ●製作:スチュアート・コーンフェルド●撮影:マーク・アーウィン●音楽:ハワード・ショア●原作:ジョルジュ・ランジュラン「蠅」●時間:87分●出演:ジェフ・ゴールドブラム/ジーナ・デイヴィス/ジョン・ゲッツ/ジョイ・ブーシェル●日本公開:1987/01●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (87-07-19)(評価★★★★)●併映:「未来世紀ブラジル」(テリー・ギリアム)
ザ・フライ <特別編> [DVD]

キングコング 髑髏島の巨神24.jpgキングコング 髑髏島の巨神es.jpgキングコング 髑髏島の巨神 海外.jpg「キングコング:髑髏島の巨神」●原題:KONG:SKULL ISLAND●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ●脚本:ダン・ギルロイ/マックス・ボレンスタイン/デレク・コノリー●原案:ジョン・ゲイティンズ/ダン・ギルロイ●製作:トーマス・タル/ジョン・ジャシュー/アレックス・ガルシア/メアリー・ペアレント●撮影:ラリー・フォン●音楽:ヘンリー・ジャックマン●時間:118分●出演:トム・ヒドルストン/キングコング髑髏島の巨神ド.jpgブリー・ラーソン キング・コング.jpgサミュエル・L・ジャクソン/ジョン・グッドマン/ブリー・ラーソン/ジン・ティエン/トビー・ケベル/ジョン・オーティス/コーリー・ホーキンズ/ジェイソン・ミッチェル/シェー・ウィガム/トーマス・マン/テリー・ノタリー/ジョン・C・ライリー●日本公開:2017/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸 (17-03-29)(評価★★☆)
旧神戸新聞会館9.jpgミント神戸6.jpgミント神戸.jpgOSシネマズ ミント神戸 神戸三宮・ミント神戸(正式名称「神戸新聞会館」。阪神・淡路大震災で全壊した旧・神戸新聞会館跡地に2006年10月完成)9F~12F。全8スクリーン総座席数1,631席。

阪神・淡路大震災で廃墟と化した旧・神戸新聞会館(1995.2.3大木本美通氏撮影)

Raquel Welch
Raquel Welch RPT 0005.jpgRaquel Welch RPT.jpgRaquel Welch RPT 0006.jpg




 
 
 
  
《読書MEMO》
●主な収録作品
【10~20年代】エッセイ=ロバート・ブロック
カリガリ博士/吸血鬼ノスフェラトゥ/巨人ゴーレム/ロスト・ワールド/猫とカナリヤ/メトロポリス/狂へる悪魔/ダンテ地獄篇/バット/オペラの怪人/真夜中すぎのロンドン/プラーグの大学生/他
【30年代】エッセイ=レイ・ブラッドベリ
魔人ドラキュラ/フランケンシュタイン/フランケンシュタインの花嫁/透明人間/モルグ街の殺人/悪魔スヴェンガリ/M/怪人マブゼ博士/倫敦の人狼/猟奇島/恐怖城/怪物団/肉の蝋人形/キング・コング/オズの魔法使/ミイラ再生/獣人島/バスカヴィル家の犬/他
【40年代】エッセイ=ハーラン・エリスン
狼男の殺人/バグダッドの盗賊/猿人ジョー・ヤング/キャット・ピープル/ミイラの復活/謎の下宿人/スーパーマン/夢の中の恐怖/凸凹フランケンシュタインの巻/美女と野獣/バッタ君町に行く/死体を売る男/猿の怪人/他
【50年代】エッセイ=ピーター・ストラウブ
遊星よりの物体X/地球最後の日/宇宙戦争/大アマゾンの半魚人/原子怪獣現わる/ゴジラ/放射能X/タランチュラの襲撃/禁断の惑星/宇宙水爆戦/海底二万哩/蠅男の恐怖/吸血鬼ドラキュラ/ミイラの幽霊/狩人の夜/空の大怪獣ラドン/ボディ・スナッチャー 恐怖の街/シンドバッド7回目の航海/戦慄!プルトニウム人間/他
【60年代】エッセイ=クライヴ・パーカー
サイコ/血だらけの惨劇/ローズマリーの赤ちゃん/忍者と悪女/血塗られた墓標/吸血狼男/テラー博士の恐怖/ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/タイム・マシン/恐竜100万年/猿の惑星/2001年宇宙の旅/怪談/鳥/何がジェーンに起ったか?/華氏451/バーバレラ/博士の異常な愛情/ミクロの決死圏/血の祝祭日/他

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謎多き生涯を、多くの証言等から再構築。映画の方はフーヴァーに寄り添っている感じだが...。

大統領たちが恐れた男 上.jpg 大統領たちが恐れた男 下.jpg 大統領たちが恐れた男.jpg  大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd.jpg 
大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈上〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯〈下〉 (新潮文庫)』『大統領たちが恐れた男―FBI長官フーヴァーの秘密の生涯』「J・エドガー [DVD]
大統領たちが恐れた男 フーヴァー.jpg 1924年にFBI長官に任命され、1972年に亡くなるまで長官職にとどまったジョン・エドガー・フーヴァー(John Edgar Hoover, 1895 - 1972/享年77)の人と生涯の記録ですが、謎の多い彼の長官時代の実態を、多くの証言と資料から立体的に再構築しているように思われました。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー.jpg 折しも、クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演によるフーヴァーの伝記映画「J・エドガー」('11年/米)が公開され、この映画に対する評価は割れているそうですが、本書を読む限り、分かっている範囲での事実関係、或いはフーヴァーのセクシュアリティ(同性愛、異性装)など、ほぼ事実とされている事柄については、比較的漏らさずに描かれていたように思います。

・エドガー3.jpg 映画では、フーヴァーの、FBIの機能・権力を整備・改革・拡大していく才気に溢れた青年時代を、マザコンのために女性と上手く付き合うことが出来なかったその性癖と併せて描く共に、ケネディ兄弟に対する脅迫など自分の地位を守るために手段を選ばなかった最盛期、老いて権力にしがみつく亡霊のようになった晩年期が、ほぼ同じような比重で描かれていたように思います。

 しかし本書を読むと、政治家に対する脅しに関しては、映画で中心的に描かれていたロバート・ケネディ司法長官との対立に限らず、フーヴァーがケネディ兄弟の以前から、歴代大統領の私生活のスキャンダルも含めた極秘情報を使っていかに彼らを恫喝していたかが、様々な証言や資料を基に最も詳しく描かれていて、圧倒的なボリュームを占めています。

 例えば、映画では、ニクソンがフーヴァーの恫喝が通じにくい新しいタイプの大統領であったかのように描かれていますが、本書を読むと、ウォーターゲート事件の先駆けとなるニクソンの政敵への盗聴工作について、自らが実行部隊の責任者でありながら、それがホワイトハウス・マターであることの証拠を確保しておいて、後に自分を長官の座から追い落とそうとするニクソンを恫喝するネタにしていたことが分かります。

 さらに、映画では殆ど描かれていなかったマフィアとの黒い交際(フーヴァーは大好きな競馬で勝ち馬をマフィア関係者から事前に教えてもらうなどの優遇を受け、マフィアを取り締まることはFBIの管轄ではないとしていた)や、映画の方では控え目にしか描かれていなかった同性愛癖についても、様々な事実関係や証言を基に、かなり詳しく検証しています。

J・エドガー1.png 自らがFBIの副長官に任じたクライド・トールソンとの同性愛は、映画ではキス・シーンが1回ある程度で、あとは、フーヴァーのトールソンに贈った詩や、彼が異性との交際の意思をトールソンに伝えた際にトールソンが激昂する―といった象徴的な表現に抑えられていますが、二人が老齢に達して両者の肉体関係は終わったものの、その後もフーヴァー自身は若いゲイなどを相手に同性愛に耽り、女装癖も保持し続けていたことが、本書からは窺えます。

 映画の方は、脚本のダスティン・ランス・ブラックが「J・エドガーのような人物を映画に描くとき、その人物の衷心にあるものを読み取ろうとしないなどということは、私の脚本にはありえない」と述べているように、この女装癖についても、彼の最愛の母が亡くなった際に母親の服を纏うというセンチメンタルなトーンで描かれていましたが、これが老醜の男がベビードールを纏って少年愛に耽っているとなると、かなり一般のイメージが違ってくるのでは。

 本書では、彼のこうした性癖についても最後に簡潔に成育歴からみた精神分析学的な分析を行っていますが、それに加えて、彼が有名人のスキャンダルなどを執拗に追いかけた背景には、相手の弱みを握るためだけでなく、そうしたことをはじめ風紀に関する厳しい取り締まりを行うことが、自分の秘密を守ることに繋がると彼は考えたのだとの分析も示しています。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー3.jpg 「犯罪とスキャンダルの摘発」「権力者への恫喝」「自らの性癖の隠蔽」の3つがトライアングルのような関係になっていたことを暗示している分、心理学的にみても本書の方が読みが深いと言え、また、このような人物が国の機関の最高権力者として居続けたことに対する問題提起もされています。

 こうしてみると、映画の方は、むしろフーヴァーに寄り添っている感じですが、とても寄り添えるような人物ではないような...。イーストウッドが撮ると、こうなるのだろうなあ。

 映画でフーヴァーを演じることを切望したというディカプリオの演技は、確かに頑張っているなあという印象はありますが、元々ブルドッグ顔で知られるフーヴァーをディカプリオが演じること自体が視覚的にハードルが高く、晩年期はメイクが濃すぎてゾンビのようで、かなりギャップを感じました(自伝のウソの部分を先に映像にしてしまっている点も気になった。これ、"禁じ手"ではないか)。

J・エドガー2.jpg 本書の原題 "Official and Confidential(公式かつ機密)"は、フーヴァーが収録したファイルの名前で、所謂この「フーヴァー・ファイル」には、有名人に対する恐喝や政治的迫害が記録されているとのことですが、本書にも映画にもあるように、長年にわたって彼の秘書を務めた女性(映画でナオミ・ワッツが演じた、フーヴァーが初めて女性に想いを打ち明け、結婚を断られた相手)が、フーヴァーの死後に、訃報に触れたニクソンがファイル回収のために配下をフーヴァーの屋敷に送り込む前に持ち出し、密かに処分したとのことです。

大統領たちが恐れた男 j.エドガー dvd2.jpgナオミ・ワッツ.jpg「J・エドガー」●原題:J. EDG「J・エドガー」01.jpgAR●制作年:2011年●制作国:アメリカ●監督:クリント・イーストウッド●製作:クリント・イーストウッド/ ブライアン・グレイザー/ロバート・ロレンツ●脚本:ダスティン・ランス・ブラック●撮影:トム・スターン●音楽:クリント・イーストウッド●時間:137分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ ナオミ・ワッツ/アーミー・ハマー/ジョシュ・ルーカス/ジュディ・デンチ/エド・ウェストウィック●日本公開:2012/01●配給/ワーナー・ブラザーズ(評価★★★☆)
ナオミ・ワッツ(1968- )[2012年]

 【1998年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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