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五月革命に翻弄される田舎のブルジョワたちの人間模様。フランスの田舎を美しく撮っている。

五月のミル dvd.jpg 五月のミル MILOU EN MAI DVD.jpg 五月のミル ピクニック.jpg  美しき諍い女 _.jpg
「五月のミル」[DVD]「五月のミル【HDニューマスター版】 [DVD]」ミシェル・ピコリ主演「美しき諍い女 無修正版 [HDリマスター版] Blu-ray
五月のミル 母の死.jpg 1968年5月のパリ五月革命の最中、南五月のミル 0.jpg仏ジェール県の当主ヴューザック家夫人(ポーレット・デュボー)が突然の発作で死ぬ。長男のミル(ミシェル・ピコリ)は彼女の死を兄弟や娘たちに伝えようとするがストで電話が繋がらない。ようやく駆け付けたミルの娘カミーユ(ミュウミュウ)と五月のミル ザリガニ.jpgフランソワーズたち3人の子、姪のクレール(ドミニク・ブラン)とそのレズビアン友達マリー=ロール(ロゼン・ル・タレク)、弟のジョルジュ(ミシェル・デュショーソワ)と彼の後妻リリー(ハリエット・ウォルター)たちの話題は革命と遺産分配のことばかり。立派な邸宅を売ったらゴルフ場にもできるというカミーユとジョルジュにミルは怒りを爆発させ、小川へザリガニ捕りに行く。カミーユと幼馴染みの公証人ダニエル(フランソワ・ベルレアン)の読みあげる夫人の遺書の中に、小間使いのアデル(マルティーヌ・ゴーティエ)が相続人に含まれていると知って一同は驚くが、気のあるミルだけは喜ぶ。パリで学生運動に参加しているジョルジュの息子ピエール五月のミル milou-en-mai.jpg=アラン(ルノー・ダネール)が共産党嫌いのグリマルディ(ブルーノ・カレット)のトラックに乗せてもらって屋敷に現われる。翌日、革命の影響で葬儀屋までがストをする。ミルたちは遺体を庭に埋めることにし、葬式を一日延期し、ピクニックに興じる。その夜、屋敷に現われた村の工場主夫妻から、ド・ゴール大統領が姿を消していて、ブルジョワは殺されると知らされた一同は、森の洞窟へと逃げる。疲労と空腹で一夜を過ごした彼らのもとにアデルがやって来て、ストが終ったことを知らせる。いつしか彼らの心の中には、屋敷を売る考えはなくなっていた。無事に葬儀は終わり、人々も帰るべき場所へと帰って行き、屋敷には再びミルだけが残される―。

田舎の日曜日 1984 dvd.jpgお葬式 映画 dvd.jpg ルイ・マル監督の1989年作品(公開は1990年)。ミルが住む美しい田舎へ娘や孫たちがやって来てまた慌ただしく去っていくという設定は、ベルトラン・タヴェルニエ監督の「田舎の日曜日」('84年/仏)を想起させますが、ストのため埋葬できない遺体を差し置いて、遺産相続の話で親族同士が揉め、更に、久しぶりに、或いは新たに出会った男女が急速に接近するなどといった色恋も交えた展開は、伊丹十三監督の「お葬式」('84年/ATG)に近いかも。

田舎の日曜日[デジタルリマスター版] [DVD]」「伊丹十三DVDコレクション お葬式

五月のミル3.jpg ブルジョワ階級出身のルイ・マル監督が五月革命に翻弄されるブルジョワを風刺と皮肉を込めて描いた作品ととれますが、アイロニカルな部分がことさらに強調されているわけではなく、その点において自然であるとともにやや中途半端か。むしろ、政治的なことは抜きにして、単純に集団劇として見た場合に結構面白いのではないでしょうか(ルイ・マルの頭にはアントン・チェーホフの『桜の園』があったという。また、ジャン・ルノワールの「ゲームの規則」的な作りをも意識しているらしい)。

五月のミル pikori.jpg ミルは母親の死に一度慟哭しますが、その後は親族たちのドタバタに振り回され、そうした中で弟の後妻リリーと急速に接近(それまでも小間使いのアデルと恋人関係にあったようだが)、娘のカミーユは幼馴染みの公証人のダニエルとの関係が再燃したようで、レズビアンだったはずのマリー=ロールはピエール=アランと親密になり、それに対抗するようにクレールもトラック運転手のグリマルディと親しくなります(何だか、親戚と他人が入り混じった乱交状態みたいになってくるね)。

五月のミル ピクニック2.jpg こうした人同士の関係の化学変化が、ミルの突然思い立ったザリガニ捕りや(これも相続争い対する嫌気から逃れたい気持ちからの行動だと思うが)、関係者総出でのピクニックを通して描かれ、美しい自然の中で人々の気持ちが解放され、行動が大胆になっていく一方、屋敷を売ってどうのこうのといった考えは消えていき、また、それは同時に、屋敷を売りたくないミルの思惑に沿ったものになっているというのは、観ていてまずますスムーズな流れです。

五月のミル rasuto.jpg しかし、ミル自身は、屋敷は売らずに済んだものの、最後は小間使い兼恋人のアデルにも婚約者がいて彼女も去っていくという目に遭います(意外としたたかな女性だった)。リリーも去ってアデルも去り、残されたミルは、もう誰もいない屋敷で亡き母の幻影とダンスを踊る―ミルの老境の孤独を感じさせるエンディングで、初黒澤明が選んだ100本の映画 (文春新書).jpg黒澤明         .jpgめ「田舎の日曜日」→中ほど「お葬式」→ラスト再び「田舎の日曜日」といった感じの作品ですが、「田舎の日曜日」同様にフランスの田舎を美しく撮っている作品でもあります。黒澤明(1910-1998)監督の娘である黒澤和子氏によれば、黒澤明が生前評価していた作品でもあるようです(黒澤和子『黒澤明が選んだ100本の映画』('14年/文春新書))。

 この作品、オリジナルタイトルは Milou en mai(「5月のミル」) だけれども、英文タイトルだと May Fools(「5月の愚か者たち」) になっているなあ。

                               ミシェル・ピコリ/エマニュエル・ベアール
美しき諍い女 poster .jpgジャック・リヴェット.jpg美しい諍い女4.jpg ミシェル・ピコリ(1925年生まれ)は「最後の晩餐」('73年/伊・仏)や「自由の幻想」('74年/仏)にも出ていた俳優ですが、この映画の翌年、今年['16年]1月に亡くなったジャック・リヴェット(1928-2016/享年87)監督(この人もヌーヴェルヴァーグの中心的人物である)の「美しき諍い女(いさかいめ)」('91年)に出演しています。高名であるが世捨て人の画美しい諍い女05.jpg家(ミシェル・ピコリ)が、もともとモデルだった妻(ジェーン・バーキン)とプロヴァンスの片田舎にある古城で静かに暮らしているところへ、一人の若い画家が恋人(エマニュエル・ベアール)を連れて彼のもとを訪れると、画家は彼女をモデルにする事で、自分が長い間打ち捨てていた作品「美しき諍い女」の制作を再開する気になるというもので、ノーカット版は3時間57分ですが、当時['93年]ビデオ版(1時間31分)で観てしまいました(リヴェットが別撮りのフィルムでテレビ用にシーンを変更した2時間5分の別バージョン「美しき諍い女ディヴェルティメント」が1993年に劇場公開されているが、現在は約4時間のオリジナル完全版がDVD・Blu-ray化されている)。作中を通じて、エマニュエル・ベアールはほとんど美しい諍い女03.jpg知られざる傑作.JPG全裸で、「ワイセツか芸術か」の物議をかもした問題作ですが、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しています。個人的には、画家のアトリエのある古城の別荘がヨーロッパ的でいい感じでした(ウラヤマシイ)。原作はバルザックの短編「知られざる傑作」であり(岩波文庫『知られざる傑作 他五編』に所収。帯に結末が書いてあることから窺えるように、あくまでも文学作品である)、手元の文庫版があるので、それを読んだ上でまた観直してみたいと思います(文庫で50ページ足らずの作品を4時間の映画にしてしまうなんてスゴイね。当時観た時の評価は★★★★)。
バルザック「知られざる傑作―他5篇 (1948年) (岩波文庫)

ミシェル・ピコリ in「最後の晩餐」('73年/伊・仏) with マルチェロ・マストロヤンニ
最後の晩餐1.jpg 最後の晩餐4.bmp

五月のミル  .jpg五月のミル シネヴィヴァン 1990.jpgMay Fools (1990).jpg「五月のミル」●原題:MILOU EN MAI●制作年:1989年(公開年:1990年)●制作国:フランス・イタリア●監督:ルイ・マル●製作:ルイ・マル/ヴィン・セントマル●脚五月のミル 06.jpg本:ジャン=クロード・カリエール●撮影:レナート・ベルタ●音楽:ステファン・グラッペリ●時間:107分●出演:ミュウミュウ/ミシェル•ピコリ/ミシェル・デュショーソワ/ブルーノ•カレット/ポーレット・デュボー/ハリエット•ウォルター/マルティーヌ•ゴーティエ/ドミニク・ブラン/ロゼン・ル・タレク/フランソワ・ベルレアン/ルノー・ダネール●日本公開:1990/08●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(90-10-10)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-04-18)(評価:★★★☆)

美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組).jpgミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン  「美しき諍い女(いさかいめ)」●原美しき諍い女  ジェーン・バーキン.jpg題:LA BELLE NOISEUSE●制作年:1991年●制作国:フランス●監督:ジャック・リヴェット●製作:マルティーヌ・マリニャック●脚本:パスカル・ポニツェール/クリスティーヌ・ロラン/ジャック・リヴェット●撮影:ウィリアム・リュプチャンスキー●音楽:イゴール・ストラヴィンスキー●時間:107分●出演:ミシェル・ピコリ/ジェーン・バーキン/エマニュエル・ベアール/マリアンヌ・ドニクール/ダヴィッド・バースタイン/ジル・アルボナ/マリー・ベリュック/マリー=クロード・ロジェ●日本公開:1992/05●配給:コムストック(評価:★★★★) 
美しき諍い女 デジタル・リマスター版(2枚組) [DVD]」[237分]

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"正統派"ラブロマンス。若くして映画のセオリーをマスターし切っていることを見せつける作品。

恋人たち モロー dvd.jpg恋人たち dvd.png 恋人たち(1958) 00.jpg 
恋人たち [DVD]」['06年] Jeanne Moreau & Jean-Marc Bory
恋人たち【HDマスター】《IVC 25th ベストバリューコレクション》 [Blu-ray]」['13年]

恋人たち(1958) 夫.jpg 1954年の仏ディジョン。新聞社主アンリ(アラン・キュニー)の妻ジャンヌ(ジャンヌ・モロー)は閉塞的な日常からの逃避を月に二度のパリ行きと愛人ラウール(ホセ・ルイ・ド・ビラロンガ)との密会に求めていた。妻の不倫を疑うアンリの思惑により、逆に、ラウール恋人たち(1958) kuruma.jpgたちを屋敷に迎えざるを得なくなったその当日、車が故障した所を若い考古学者ベルナール(ジャン・マルク・ボリー)に拾われ家に辿り着いた彼女。友人らを迎えたその晩、眠れずに戸外へ出ると、そこにベルナールの姿もあった。夢遊病者のように庭をさまよい歩き、いつしか二人恋人たち(1958) バス.jpgは、ジャンヌの寝室で愛を交わす。そして翌朝、驚く夫や愛人を後目に、彼女は新しい男と共に家を出る―。

 ルイ・マルの監督デビュー第2作目('58年)で、北千住・シネマブルースタジオのルイ・マル監督特集の一本として上映されたのを観ました。二週替わりで他に「死刑台のエレベーター」('57年)、「地下鉄のザジ」('60年)、「鬼火」('63年)を上映していましたが、この作品は個人的には今回が初めてでした。

LES AMANTS ジャンヌモロー.jpg 実業家の若い妻ジャンヌが、仕事人で嫉妬深い夫とスポーツマンで貴族的生活を送っているプレイボーイの愛人の間で揺れ動いていたと思ったら、偶然出会った若い考古学者と一夜にして突然の恋に落ちるという、ストーリーとしては意外な展開ですが、ラブロマンスとしてはむしろオーソドックスなタイプの1LES AMANTS 1958 2.jpgつ。むしろアンニュイな若妻を主人公とする(この頃ルイ・マルとジャンヌ・モローは恋人同士の関係にあったと思うが)この"正統派"ラブロマンスを26歳で真っ向から撮っているというのがスゴイなあと思うし、ちょっと背伸びしている感じもなくもないですが、既に「死刑台のエレベーター」という傑作を撮っているだけに、何か映画の文法というものを若くして体得してしまっている印象を受けます。

恋人たち(1958) ボート.jpg ジャンヌが夜中に偶然にベルナールと出くわして、そこから二人が結ばれるまでの映像の流れはまるで夢の世界のようであり(カメラは「死刑台のエレベーター」と同じくアンリ・ドカエだが、この夜のシーン、何となく〈道行〉のような印象を受けたのは自分だけか)、それに被るクラシック音楽も効いています。子どもに別れまで告げていることからジャンヌの強い決意が窺える一方で、ラストではどことなく未だ不安の表情を残しているというのがリアル。それでも、もう彼女は元の世界に戻ることはない...。

 二人が出会う夜のシーンの音楽は、ブラームスが27歳の時に作曲した「弦楽六重奏曲1番」を使っていますが、これはブラームスの作品の中で最も"甘い"とされている曲だそうです。「死刑台のエレベーター」でパリに公演に来ていたマイルス・デイヴィスにラッシュに合わせてトランペットを吹いてもらって、後に、映画が注目されたことの理由の1つとしてマイルス・デイヴィスの音楽が使われていることも当時あったことをトリュフォー自身認めていますが、そうしたこともあってここではクラシックを使ったのでしょうか。この物語の原作が、18世紀の作家イヴァン・ドノンの"ポワン・ド・ランドン"(明日はない)という古典であることも意識されているかと思われます。

恋人たち(1958) 6.jpg 「死刑台のエレベーター」のマイルス・デイヴィスの使われ方といい、「鬼火」のエリック・サティのピアノ曲の使われ方といい、この監督の映像と音楽の融和レベルの高さは他の追随を許さないものあるとこの作品を観ても思います。強いて言えば、自分が映画のセオリーというものをマスターし切っていることを見せつけるために撮った作品ともとれるのが難点と言えなくもないですが、(デビュー作がフロックでないことを証明するために?)敢えて古典に材を得つつ、クラシカルな優美さを現代に移し替えても損なわないのは、やはり巧みの技と言えるかと思いました。

LES AMANTS 1958 3.jpg
「恋人たち」●原題:LES AMANTSD●制作年:1958年●制作国:フランス●監督:ルイ・マル●製作:イレーネ・ルリッシュ●脚本: ルイ・マル/ルイ・ド・ヴィルモラン●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:ヨハネス・ブラームス●原作:イヴァン・ドノン「明日シネマブルースタジオ1.jpgシネマブルースタジオ2.jpgはない」●時間:95分●出演:ジャンヌ・モロー/ジャン・マルク・ボリー/アラン・キュニー/ホセ・ルイ・ド・ビラロンガ/ジュディット・マーグル/ガストン・モド/ジュディット・マーレ●日本公開:1959/04●配給:映配●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(14-07-08)(評価:★★★★)

シネマブルースタジオ 2006年4月、北千住・東京芸術センター内にオープン。

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小津 安二郎 「お早よう」('59年/松竹)の大泉滉・泉京子夫婦の家の室内にあるポスターは「恋人たち」のもの

 
 

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ルイ・マル25歳の時のヌーヴェル・ヴァーグの傑作。映像と音楽の融合が素晴らしい。

死刑台のエレベーター2.jpg死刑台のエレベーター パンフ.jpg死刑台のエレベーター【HDニューマスター版】.jpg 死刑台のエレベーター.jpg  Shikei dai no erebêtâ(1958).jpg
死刑台のエレベーター [DVD]」/パンフレット/「死刑台のエレベーター【HDニューマスター版】 [DVD]」/「死刑台のエレベーター」 CD/Shikei dai no erebêtâ(1958) Poster

死刑台のエレベーター ポスター.jpg 会社の技師ジュリアン・タベルニエ(モーリス・ロネ)と社長夫人フロランス・カララ(ジャンヌ・モロー)は愛し合っていて、社長のシモンを殺害する完全犯罪を計画する。実行の日、ジュリアンはバルコニーから錨付ロープをかけて上って社長室に入り、社長を射殺してその手に拳銃を握らせる。手摺から一階下の自屋に戻ってエレベーターで下に降り死刑台のエレベーター00.jpgて外に出る。手摺にロープを忘れて来たことに気付き、またエレベーターに乗るが、エレベーターは階の途中で止まってしまう(ビルの管理人が電源スイッチを切って帰ったため)。ジュリアンは脱出しょうとするが果たせず、フロランスとの約束の時間は過ぎていく。彼を待つフロランスは次第に不安にかられ、彼を求めて夜のパリを彷徨う―。一方、花屋の売り子ベロニック(ヨリ・ベルダン)とチンピラのルイ(ジョルジュ・プージュリー)は、ジュリアンの車を盗んで郊外に出る(車内には小型カメラ、拳銃がある)。前を走るスポーツカーの後についてあるモーテルに着くと、ジュリアン・タベルニエ夫婦と偽って投宿し、スポーツカーの持主のドイツ人夫婦と知り合ってパーティに呼ばれ、遊び半分にカメラで写真を撮った後、モーテルの現像屋へフィルムを出す。二人はスポーツカーを盗もうとして見つかり夫婦を射殺して逃げるが、アパートにも戻ってから怖くなり心中を図る―。

 先にスタンリー・キューブリック(1928-1999/享年70)監督の劇場デビュー作「現金に体を張れ」('56年/米)を取り上げましたが、この時キューブリックは28歳、これに対し、このルイ・マル(1932-1995/享年63歳)のノエル・カレフのサスペンス小説を原作とした「死刑台のエレベーター」(原題:Ascenseur pour l'échafaud)('56年/仏)は、彼が25歳の時の実質デビュー作で、ルイ・マル監督の出世作となりました。

 最初に観て以来ずっと傑作だと思っているのですが、ウェブなどで見ると必ずしも評価が高くなかったりもし、今回久しぶりに観直してみて、主人公が犯行時に凡ミスをしたりするプロット面でケチがつくのかなあと。更に、後半の若者たちの犯行の部分はかなり記憶が薄れていたのですが、今観ると、タイミングよく(折悪く)偶然が重なったり、状況証拠だけで殺人がバレたような終わり方になっていのも、ミステリとしての弱さがあるのかも。でも、個人的にはやはりヌーヴェル・ヴァーグ傑作だと思っています。

 後から付いてくる理屈はともかく、観ている間は、リアリスティックな映像によってサスペンスフルな雰囲気にどっぷり浸れます。それと何と言っても、モーリス・ロネとジャンヌ・モローが演じる主人公2人の描き方が良く、熱愛という感じではなく2人共人生に倦んでいるような感じでしょうか。もう一組の若者たちも、主人公らと対比的に描かれていると言うよりはむしろ同類かも。

Shikei dai no erebêtâ (1958).jpg死刑台のエレベーター01.jpg こうした緊迫感にアンニュイ感が入り交じったような映像世界にしっくり合っているのが、マイルス・デイヴィスのジャズトランペットで、特に、恋人モーリス・ロネからの連絡が無く、不安の裡にパリの街を彷徨うジャンヌ・モローの姿にマイルス・デイヴィスのトランペットが被るシーンは何とも言えないムードを醸していて素晴らしく、映像と音楽が旨く融合するとスゴイ訴求力になると改めて思いました。

Shikei dai no erebêtâ (1958)

死刑台のエレベーター マイルス.jpg この作品は超低予算映画ということでも知られていて、それにしては"帝王"マイルス・デイヴィスが演奏しているではないかと疑問に思われますが、マイルスがたまたまパリに演奏公演に来ていたのを、ルイ・マル監督が一晩借り受けて、ラッシュに合わせ即興で演奏してもらったということです。

新宿アートビレッジ3.png死刑台のエレベーター.jpg「死刑台のエレベーター」●原題:ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD●制作年:1957年●制作国:フランス●監督:ルイ・マル●製作:ジャン・スイリエール●脚本: ロジェ・ニミエ/ルイ・マル●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:マイルス・デイヴィス●原作:ノエル・カレフ●時間:95分●出演:モーリス・ロネ/ジャンヌ・モロー/ジョルジュ・プージュリー/リノ・ヴァンチュラ/ヨリ・ヴェルタン/ジャン=クロード・ブリアリ/シャルル・デネ●日本公開:1958/09●配給:ユニオン●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-02-10)●2回目:新宿アートビレッジ (79-02-10)●3回目:高田馬場・ACTミニシアター(82-10-03)●4回目:六本木・俳優座シネマテン(85-02-10)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「恐怖の報酬」(アンリ=ジョルジュ・クルーゾー)/(3回目):「大人は判ってくれない」(フランソワ・トリュフォー) 
新宿アートビレッジ (歌舞伎町ジャズ喫茶「タロー」3F、16ミリ専門の上映館・席数40) 1980(昭和55)年に活動停止

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3監督のオムニバス。コアなファンがいてもおかしくない雰囲気はある。

世にも怪奇な物語 dvd.jpg  世にも怪奇な物語 ポスター.jpg  世にも怪奇な物語 輸入版dvd.jpg
世にも怪奇な物語 HDニューマスター版 [DVD]」/ポスター/輸入版DVD 
世にも怪奇な物語 1-1.jpg世にも怪奇な物語 ジェーン・フォンダ.jpg エドガー・アラン・ポーの怪奇小説3作を基に、ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニの3監督が共作したオムニバス映画。一応、全体のトーンはゴチック・ホラーですが...。

 第1話「黒馬の哭く館」(ロジェ・ヴァディム監督) 若くして莫大な財産を相続し、我儘放題に暮らす伯爵家の娘フレデリック(ジェーン・フォンダ)は、ある日、親族で唯一彼女を批判して憚らない男爵ウィルヘルム(ピーター・フォンダ)に偶然助けられたことで彼に一目惚れし、彼を誘惑しようとするが、男爵は彼女の誘い世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)2.jpgには乗らず、プライドを傷つけられた彼女は家臣に命じて男爵の厩に火をつけさせる。愛馬を助けようとした男爵は焼死し、ショックを受けた彼女は、火事の後にどこからともなく現れた黒馬に癒しを求める―。

ロジェ・ヴァディム.gif ロジェ・ヴァディム監督による第1話は、ゴチックホラー調と次回作「バーバレラ」にも通じるセクシー&サイケデリック調の入り混じった感じで、詰まる所、ヴァディムが妻の美貌と伸びやかな肢体を獲りたかっただけのことかとも勘繰りたくなるくらいジェーン・フォンダがセックス・アピールしており、これ、純粋な意味での"ゴチック調"とはちょっと違うかも...。

第2話「影を殺した男」.jpg世にも怪奇な物語 影を殺した男1.jpg 第2話「影を殺した男」(ルイ・マル監督) 暴力で他の生徒らを支配する残忍な少年ウィリアム・ウィルソンが、ある時他の少年を苛めていると1人の転校生が近付いてきて、その少年もウィリアム・ウィルソンと名乗るが、彼は全てにおいてウィルソンより優れていた。ある夜、寝ていたその転校生をウィルソンは絞め殺そうとするが、途中で気付かれ放校処分に。数年後、医大に進んだウィルソン(アラン・ドロン)は若い女性を誘拐し、解剖を始めようとしていた―。

「影を殺した男」02.jpg世にも怪奇な物語 2.jpg アラン・ドロンがベッドに縛りつけた全裸女性を解剖しようとするシーンをルイ・マル監督が撮っているというのも驚きですが、むしろ、この第2話「影を殺した男」の方が、ポーの作品の雰囲気は出ていたかも知れず、青年になったウィルソンの、優(やさ)男の裏側に残忍さを秘めた二重人格者ぶりは、TV番組「デクスター」のよう。この場合、"二重人格"と言うより完全に"分身"(ドッペルゲンガー?)だけど。
 ウィルソン(アラン・ドロン)は、イカサマ賭博で手に入れた女(ブリジット・バルドー)を鞭打ち残酷な快楽に浸るというスゴい設定ながも、ドロンは好演しており、ドロン相手にトランプの賭けをする女賭博師ブリジット・バルドー(ロジェ・ヴァディムの元妻!)の演技も良くて、ジェーン・フォンダよりは演技しているという感じでした。

世にも怪奇な物語 悪魔の首飾り1.jpg 第3話「悪魔の首飾」(フェデリコ・フェリーニ監督) 落ちぶれたイギリス人俳優トビー(テレンス・スタンプ)は撮影のためイタリアへ飛ぶが、酒と麻薬で意識は混濁。そのトビーの前に度々現れるのは、少女の姿をした死神だった―。

世にも怪奇な物語 3.gif 第3話は、ストーリーよりも、フェリーニ監督の映像美が(美的と言うより意匠的なのだが)堪能できる作品。主人公の妄想に出てくる少女(死神)が、なぜ白い服を着て白いボールを持っているのかよく解りませんが、まあ、理屈よりも映像美...。
 テレンス・スタンプの出ようとしている映画が、キリストが西部の草原に降臨するという「カトリック西部劇」なるわけのわからない映画であることや、マスコミの取材攻勢を描いたところなどは「甘い生活」('59年)の雰囲気に繋がりますが、3作品の共通テーマが「死」であることからすると、締め括りに最も相応しい作品かも知れません。
世にも怪奇な物語 輸入版ポスター.jpg 一方で、これだけが時代背景が「現代」であることもあって、前2作とはトーンが異なる感じも(イタリア人監督ということもあるか)。
 ただ、神経質そうな主人公を演じるテレンス・スタンプの演技は悪くない、と言うか、かなり良かったように思います(アラン・ドロンより上か)。

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ.jpg和田 誠 氏2.jpg 何れも「怪奇」な話であるけれども怖くはないという感じ。和田誠氏は『お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ』('75年/文藝春秋)の中で、ロジェ・ヴァディムのパートは「耽美主義的映像が逆に小細工のようでいけなかった」とし、「通俗的にはルイ・マルが面白く、怖さや不思議さではフェリーニが圧巻」としています。

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ

高田馬場東映パラス 入り口.jpg「世にも怪奇な物語」.jpg 高田馬場東映パラス(時々変わった作品を上映していた)で観て以来、10年以上もビデオにもならなかったので、もう見(まみ)えることはないと思っていたら、'99年にTV放映されビデオも発売、最近はCS放送で放映されたり、DVDにもなったりしていて、昨年('10年)は遂にデジタル・リマスター版が新宿武蔵野館で公開されました。

 3作とも、コアなファンがいてもおかしくない、カルトというか独特な雰囲気は確かにありました。考えてみれば、作風はマイナーでありながらも一応エドガー・アラン・ポーの原作に忠実に作られているわけだし、何よりも贅沢過ぎると言っていいくらい豪華な配役でもあることだし、実際そうなったから言うわけではないですが、リバイバル上映されてもおかしくない作品でした。

世にも怪奇な物語」 pos.jpg世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)1.jpg


「世にも怪奇な物語」●原題:HISTOIRES EXTRAORDINAIRES(TRE PASSI NEL DELIRIO)●制作年:1967年●制作国:フランス/イタリア●監督:ロジェ・ヴァディム(1話)/ルイ・マル(2話)/フェデリコ・フェリーニ(3話)●脚本:ロジェ・ヴァディム(1話)/パスカル・カズン(1話)/ルイ・マル(2話)/クレマン・ビドル・ウッド(2話)/ダニエル・ブーランジェ(1話、2話)/フェデリコ・フェリーニ(3話)/ベルナルディーノ・ザッポーニ(3話)●撮影:クロード・ルノワール(1話)/トニーノ・デリ・コリ(2話)/ジュゼッペ・ロトゥンノ(3話)●音楽:ジャン・プロドロミデス世にも怪奇な物語 1-2.jpg(1話)/ディエゴ・マ悪魔のような恋人2.jpgッソン(2話)/ニーノ・ロータ(3話)●原作:エドガー・アラン・ポー「メッツェンゲルシュタイン」(1話)/「ウィリアム・ウィルソン」(2話)/「悪魔に首を賭ける勿れ」(3話)●時間:121分●出演:ジェーン・フォンダ(1話)/ピーター・フォンダ(1話)/アラン・ドロン(2話)/ブリジット・バルドー(2話)/世にも怪奇な物語」 (67年/仏・伊)0.jpgテレンス・スタンプ(3話)/サルヴォ・ランドーネ(3話)●日本公開:1969/07●配給:MGM●最初に観た場所:高田馬場東映パラス(86-11-30)(評価:★★★☆)●併映:「白夜」(ルキノ・ヴィスコンティ)

高田馬場a.jpg高田馬場・稲門ビル.jpg高田馬場東映パラス 入り口.jpg高田馬場東映パラス 高田馬場・稲門ビル4階(現・居酒屋「土風炉」)1999年頃閉館

①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹 

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自殺をする人は、自分で自分が自殺するという「脚本」を書いている。アランの孤独は現代人に通ず。

LE FEU FOLLET.bmp 鬼火dvd.jpg  鬼火.jpg  ドリュ・ラ・ロシェル『ゆらめく炎』2.jpg
鬼火 [DVD]」「鬼火 [DVD]」 ピエール・ドリュ・ラ・ロシェル 「人間の文学〈第8〉ゆらめく炎 (1967年)
鬼火 ポスター.jpgLE FEU FOLLET (輸入版DVD)

 アルコール中毒で治療院に入院し、死にとりつかれたアラン(モーリス・ロネ)という男の、彼が自殺に至るまでの最後の48時間を追った作品で、原作は、ピエール・ドリュ・ラ・ロシェルの『ゆらめく炎』('80年/河出書房新社)。この原作者自身も自殺しています。

鬼火B9.jpg アランは、治療院を一時出てパリにLe Feu follet2.jpg行き、旧友と再会したりしますが、彼らはあまりに凡庸なマイホーム主義の中に自己を埋没させていて、彼はその凡庸さを嫌悪します。或いは、かつての恋人エヴァ(ジャンヌ・モロー)の場合だと、彼を受け容れはするものの、彼女自身が麻薬漬けの退廃生活に陥ってしまっていて、やはり、アランに生き方の指針を示すようなものではありませんでした。

鬼火11.jpg 彼の厭世観と孤独は深まるばかりで、医者に禁じられているアルコールにも手を出し、そうしながらも、昔馴染みのソランジュ(アレクサンドラ・スチュワルト)が催す晩餐会に出たりもしますが、誰も彼の話すことを理解しようとはせず、一層疎外感を募らせるだけで、この映画の登場人物で最もアランのことを理解していると思われるソランジュさえも、「気の毒な人」という感じでアラン見送るほかありません。
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 アランは晩餐会の翌朝、治療院に戻り、読みかけのフィッツジェラルドの本(『華麗なるギャツビー』)を読み終えると、ピストルで自分の人生の幕を静かにおろします。「僕は自殺する。君達も僕を愛さず、僕も君達を愛さなかったからだ。だらしのない関係を緊め直すため、君達のぬぐいがたい汚点を残してやる」と書いた手紙を残し。

鬼火09.jpg アランが自殺したのは7月23日で、これは冒頭の治療院の場面で壁の鏡に書かれていた日と同じであり、彼は最初から自殺を決意していたことがわかります。確かにアランの抱える虚無感は根深いものがあります。但し、この作品を観て先ず思ったことは、自殺をする人というのは、自分で自分が自殺するというストーリーの「脚本」を書いているという面があるのではないかということです。この映画ぐらい、そのことがよくわかる映画は無く、個人的には、もしも自殺を考えている人がこの映画を観たら逆に踏みとどまるのではないかという気もします。

LE FEU FOLLET1.bmp エリック・サティ(1866-1925)のピアノが、淡々とした描写を自然に繋いでいて、時にそれは死への甘美なる誘いを醸しているようにも思えます。モーリス・ロネ(1927-1983/享年55)の抑制の効いた演技も素鬼火パンフ.jpg晴らしく、アランという複雑な性格の主人公を、驚異的な集中力をもって演じていたように思います。

 今思うに、アランの純粋さは、「シゾイド」(統合失調質)型の人格の特徴と一致するかも。あまりに純粋過ぎて、「世間」と妥協することでできない気質であるともとれます。ただ、「アル中」であり「シゾイド」であるとなると、アランのケースは何か特殊なもののように思われそうですが、飲み友達は多くいても(アランはかつては社交会で鳴らした存在だった)、真に価値観を共有したり、心を通わせ合ったりする友人はいないという点では、アランの孤独は、現代人の孤独に通じるものがあるように思います。

「鬼火」 パンフレット

鬼火6J.jpg鬼火0U.jpg「鬼火」●原題:LE FEU FOLLET●制作年:1963年●制作国:フランス●監督・脚本:ルイ・マル●撮影:ギスラン・クロケ●音楽:エリック・サティ●原作:ピエール・ドリュ・ラ・ロシェル「ゆらめく炎」●時間:108分●出演:モーリス・ロネ/ベルナール・ノエル/ジャンヌ・モロー/レナ・スケルラ/アレクサンドラ・スチュワルト/イヴォンヌ・クレシュ/ユベール・デシャン/ジャン=ポール・ムリノ/モLe feu follet(1963).jpgナ・ドール●日本公開:1977/08●配文芸坐.jpg文芸坐休館.jpg給:フランス映画社●最初に観た場所:池袋文芸坐 (78-02-20)●2回目:有楽シネマ (80-05-25)●3回目:有楽シネマ (80-05-25)●4回目:六本木・俳優座シネマテン(96-12-01)(評価:★★★★★)●併映(1回目):「ローマに散る」(フランチェスコ・ロージ) 池袋文芸坐(旧) 1997(平成9)年3月6日閉館/2000(平成12)年12月12日〜「新文芸坐」
Le feu follet(1963)

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無垢のままナチの手先となる17歳の少年の悲劇を鮮烈に描く。

「ルシアンの青春」1.jpg ルシアンの青春1.jpg ルイ・マル.jpg ルシアンの青春 00.jpg
Lacombe Lucien(1974)ルシアンの青春 [DVD]」Louis Malle

「ルシアンの青春」2.jpgルシアンの青春.jpg ルイ・マル(1932‐1995/享年63)監督作。1944年、ビシー政権下のフランス片田舎の病院で雑役夫として働く17歳の少年ルシアンは、反ナチスの動きを牽制する「ドイツ警察」と呼ばれるゲシュタポの手先集団に成り行きで入ってしまい、レジスタンスの地下運動に携わる人々の逮捕や財産没収に参加するなど仲間と共に非道を尽くすが、あるきっかけでユダヤ人の娘フランスと知り合って恋に落ち、彼女に危機が訪れたときに、その祖母とともにスペインへの逃避行を図る―。

ルシアン3.jpg ルシアンが「ドイツ警察」のメンバーになった契機が、最初はレジスタンスに志願したのに若すぎて信用できないと拒否され、渋々職場に戻る途中に自転車がパンクして外出禁止時刻の夜になり、スパイ容疑で「ドイツ警察」がある屋敷に連れて行かれ、そこルシアンの青春  02.jpgで繰り広げられる刹那的な享楽の世界に見入っているところを勧誘されたというもの。自分を拒絶したレジスタンスのリーダーの名前を挙げて彼らの逮捕に貢献し、そのことで家族やかつての仲間から裏切り者呼ばわりされることで、彼はますますナチ・グループに傾斜していく―その様は、彼がイデオロギーによってではなく、ただ自分を認めてくれる"世間"を求めて彷徨っていることが明らかなだけに、辛いものがあり、また恐くもあります。

ルシアンの青春    06.jpgルシアン2.jpg そうしたルシアンも、ユダヤ人娘への恋を通して人間性を回復し、彼女を救うためにナチスに背を向けるまでに成長しますが、映画の最後には、野外で娘との無邪気とも動物的とも思えるようなセックスをし、陽光のもと満足そうに寝そべる彼の笑顔に被って、「1944年10月12日ルシアンはレジスタンス側の裁判で銃殺刑に処せられた」という字幕が出ます。

ルシアン4.jpg 病院雑役夫をしていたのが同じ年の6月で、それから僅か4ヵ月の間に、罪の意識を持たないままナチ協力者として行動し、生まれて初めての恋をし、国境への逃避行を図り、結局は刑場の露と消えることになる17歳の少年―この個人的にも強い印象を受けたルシアンの役を演じたのは公募で選ばれた素人(ピエール・ブレーズ)で、本作完成の2年後に交通事故で亡くなったとのことです。

ルシアンの青春  01.jpg「ルシアンの青春」●原題:LACOMBE LUCIEN●制作年:1973年●制作国:フランス・イタリア・西ドイツ●監督・脚本:ルイ・マル(写真右端)●製作:ルイ・マル/クロード・ネジャール●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:ジャンゴ・ラインハルト●時間:130分●出演:ピエール・ブレーズ/オロール・クレマン/ボルガー・ローヴェンアドラー●日本公開:1975/05●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:八重洲スター座(79-02-01) (評価★★★★★)●併映:「愛の嵐」(リリアーナ・カヴァーニ)

八重洲スター座 - 2.jpgヤエススター座2.jpg八重洲スター座o.jpg八重洲スター座.jpgヤエススター座 4.jpg

八重洲スター座(1978年まで「ヤエス・スター座」)
東京駅八重洲口・八重洲大通り出て左地下入ル。1989年8月31日閉館。


 
   

菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より

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