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20年代がキートンに"神"が宿った時期だった(その前半部分がこれら短編)と思わせる2作。

キートンの警官騒動 警官たち.jpgキートンの強盗騒動 az.png キートンの強盗騒動 逃亡犯.jpg  キートンの警官騒動 poster.jpg
「キートンの強盗騒動 (悪太郎/The Goat)」輸入版ポスター/「キートンの警官騒動 (Cops)」 輸入版チラシ

キートンの強盗騒動 馬の粘土像.jpg 配給のパンにありつけず、とぼとぼと歩いていたキートン。道端に落ちてた蹄鉄を投げると警官を直撃し、警官に追いかけられるハメに。何とか逃げ切ったとき、ふと警察署の中を鉄格子越しに覗くと、凶悪犯が顔写真の撮影をしようとしているところだった。そこでキートンは、凶悪犯に一杯食わされ、キートンの写真が凶悪犯として撮影されてしまう。その後、凶悪犯は脱走し、キートンの写真が脱走中の凶悪犯として公開される―。(「キートンの強盗騒動」)

 「キートンの強盗騒動」は1921年5月の本国公開作品で、日本では、'77年4月に「キートンの大列車強盗(将軍)」がリバイバル上映された際に併映作品として公開されていますが、「悪太郎」の別邦題から窺えるように、大正末期から昭和にかけての米国の短編映画が大量に輸入された時期に既に日本に入ってきていたのではないでしょうか(原題"The Goat"から「身代りの山羊」という邦題もある)。

キートンの強盗騒動 テーラー.jpgThe Goat 1921.jpg 冒頭、パンの配給の列に割り込もうとしたキートンが、注意され列の一番後ろに回ったところ、テーラーのマネキンの後ろに並んでしまうというコミカルな設定から始まって、以降、ギャグがテンポ良く展開され、小刻みなギャグやアクションが間断なく続いて、終盤のキートンを追いかける警官とのエレベータでの追いかけっこまで、一気に見せます。

キートンの強盗騒動 警官.jpg しかも、キートンが恋心を抱き家に招かれた女性の父親が実はその警官だったという、こうしたシチューションは、後の「荒武者キートン」('23年)や「キートンの蒸気船」('28年)にも通じるものがあります。また、列車を使ったチェイスなど、「キートンの大列車強盗(将軍)」('26年)を想起させられる場面もあります。

 無実の罪で追われる者という設定は、キートンの盟友ロスコー・アーバックルが無実の罪で逮捕されたことへのキートンの批判の気持ちを表しているとも言われますが、アーバックルが強姦殺人容疑で逮捕されたのはこの作品の公開の4か月後であり、むしろ、予言的な作品になってしまったという意味で皮肉ではあります。但し、ナンセンス・ギャグとシュールなアクションだけ観ていていも楽しめる作品です。


キートンの警官騒動 逃げる.jpg 金持ち令嬢を好きになったキートンは、彼女に"立派な事業家になったら結婚してあげる"と言われ追い返される。フラフラと町に出た彼は、タクシーを拾おうとする紳士の落とした財布を拾って彼に返そうとするが、渡し損ねて中身だけ貰ってしまう。その大金に目をつけた詐欺師が、引っ越しで今から運ばれようという家具を、持ち主のいない隙に彼に泣きついて無理矢理買わせる。キートンは近くの洋服露地商の値札を、その前に停めてあった馬車の値段と勘違いして僅か5ドルで手に入れ、家具を満載して出発。やがて、馬車は警官の大パレードに突入。折悪しく、その荷台の上で過激派の爆弾が炸裂したため、キートンは何百という警官に追われるハメになる―(「キートンの警官騒動」)。

キートンの警官騒動 シーソー.jpg 「キートンの警官騒動」は1922年3月の本国公開作品で、日本では、'73年6月に「キートンのセブン・チャンス(栃面棒)」がリバイバル上映された際に併映作品として公開されていますが、これももっと早い時期に日本で公開されているかもしれません(但し、何年ごろの公開なのか記録が見当たらないが)。

 冒頭、タイトルに続き、稀代の奇術師フーディーニの"愛は錠前屋をあざける"という言葉が出ますが、キートンによれば、「バスター」という芸名はフーディーニから授かったものだとのことです(キートンの両親はフーディーニの一座のショーに参加していた時期があった)。

キートンの警官騒動 ラスト.jpg 無実の男が警官に追われるという設定は「強盗騒動」と重なりますが、こちらは、アーバックルの事件後の作品であり、ラストが、キートンが逃げるのを諦め、自ら無実の罪で捕まるというコメディらしからぬ終わり方になっていて、エンディングには墓石のようなものが映っていることからも(そこに"THE END"と刻まれ、キートン帽が置かれている)、事件への批判が込められているとみてよいかと思います。

COPS1922.jpg 前半から中盤にかけては馬車に乗って手信号に噛みつく犬をボクシング・グローブで撃退したり、横着してマジック・ハンドで合図していたら、交通整理の巡査を殴り倒していたりという細かいギャグの連続。それが馬車が警官の大パレードに突入してからは、これでもかこれでもかというくらいの数の警官がキートンただ一人を追いかけ、これはこれで、後の「キートンのセブン・チャンス(栃面棒)」('25年)の、キートンが女性の大群に街中を追い掛け回される設定を想起させます。


キートンの強盗騒動 機関車 4.jpg キートンは1920年から23年にかけて自らのプロダクションで20本近い短編を撮っていますが、その中でこの2本は「キートンの文化生活一週間(マイホーム)」('20年)と並んで好きな作品です。キートンがMGMに移ってからの30年代の長編トーキー作品などと比べると、何倍もテンポが良く、ギャグもキレがあって、アクションはシュールということで、しかも、キートンは追われる身でありながら、どこかスマートでカッコ良く(「強盗騒動」で迫りくる機関車の先頭に座りながら、機関車がピタッと止まっても微動だにしないキートンはカッコいい)、こういうのを観てしまうと、逆に後期作品におけるキートンは観ていて痛々しく感じられさえします。

 先にも述べたように、モチーフやアクションにおいて中期作品の原型が見られるのも興味深いですが、これは後から観直してみて気づいたことであり、そうしたものをそれぞれの作品の流れに合った形で作中に取り込んでいるため、"被(かぶ)っている"という印象が殆ど無い(この2作にしても共に警官に追いかけられる展開なのだが)―これも、後期のトーキー作品がギャグの部分だけ"懐かしのギャグ"といった感じで浮いたようになっているのとの大違い―というのはスゴイことだなあと。

 20年代というのがキートンに"創造性の神"が宿った時期であり、その前半部分がこれら短編作品だったと思わせる2作品です(この間の作品が全て傑作とは言い切れないが、「文化生活一週間」とこの2作がそれぞれ1920年、21年、22年に作られているということだけでもスゴイ)。

キートンの強盗騒動 機関車.jpg「キートンの強盗騒動(悪太郎)」●原題:THE GOAT●制作年:1921年●制作国:アメリカ●監督・脚本:バスター・キートン/マル・セント・クレア●製作:ジョセフ・M・シェンク●撮影:エルジン・レスリー●時間:23分●出演:バスター・キートン/ジョー・ロバーツ/ヴァージニア・フォックス/エドワード・F・クライン/マル・セント・クレア●日本公開:1977/04(リバイバル)●配給:フランス映画社●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-15)(評価:★★★★)●併映:「キートンの文化生活一週間(マイホーム)」「キートンの船出(漂流)」「キートンの警官騒動」「キートンの鍛冶屋」「キートンの空中結婚」

The Goat (1921).jpgキートンの警官騒動 爆弾.jpg「キートンの警官騒動」●原題:COPS●制作年:1922年●制作国:アメリカ●監督・脚本:バスター・キートン/エドワード・F・クライン●製作:ジョセフ・M・シェンク●撮影:エルジン・レスリー●時間:20分●出演:バスター・キートン/ジョー・ロバーツ/ヴァージニア・フォックス/エドワード・F・クライン●日本公開:1973/06(リバイバル)●配給:フランス映画社●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-15)(評価:★★★★)●併映:「キートンの文化生活一週間(マイホーム)」「キートンの強盗騒動(悪太郎)」「キートンの船出(漂流)」「キートンの鍛冶屋」「キートンの空中結婚」
The Goat (1921)

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トーキー3作目。キートン作品として面白くなっているかというと全然そうなっていない。

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キートンの恋愛指南番 1.jpg ジェフリー・ヘイウッド(レジナルド・デニー)はヴァージニア(サリー・アイラース)と結婚したいと望んでいるが、ヴァージニアは姉アンジェリカ(ドロシー・クリスティー)が結婚しない限り、自分も結婚ができないと言い、そのアンジェリカは男をえり好んでばっかりで、なかなか結婚しそうにない。思ったようにことが進まないジェフリーだったが、ある日、電柱に広告を貼る仕事をしていたレギー(バスター・キートン)を車で撥ねてしまい、彼がアンジェリカの家で治療を受けることになったのをきっかけに、レギーを希代のプレイボーイであるかのように見せかけて彼とアンジェリカを結婚させるべく画策、しかし、実際のレギーのあまりの押しの弱さにイライラして、女性記者ポリー(シャーロット・グリーンウッド)を買収して回復したレギーと某ホテルに止まらせ故意にアンジェリカの目にかからせる作戦を練る―。

キートンの恋愛指南番 クラシック.jpg バスター・キートン主演の1931年2月本国公開作品で、キートンがMGMに移籍してからの第5作目、トーキーとしては「キートンのエキストラ」('30年3月公開)、「キートンの決死隊」('30年8月公開)に続く3作目で、日本公開は'31年7月。オリジナルはブロードウェイのコメディ劇だそうですが、確かに脚本は凝っているけれども、それがキートン作品として面白くなっているかというと全然そうなっていないという印象です。

キートンの恋愛指南番 大女.jpg ある種、群像劇という感じで、舞台出身のシャーロット・グリーンウッド演じる、恋の手ほどき役として送り込まれたでジャジャ馬の大女ポリーなど、かなりエキセントリックなキャラクターの中で、キートン演じる主人公であるはずのレギーは殆ど受身的に動くばかりであり、時折見せる"懐かしのギャグ"のようなものが、却って侘しく感じられます。

キートンの恋愛指南番 2.jpg この後のMGMでのキートン主演作は、「キートンの紐育の舗道(Sidewalks of New York)」('31年) 、「キートンの決闘狂(The Passionate Plumber)」('32年)、「キートンの歌劇王(Speak Easily)」('32年)、「キートンの麦酒王(What! No beer? )」('33年)と続きますが、"キートンのトーキー作品"としてフィルム記録的な価値はあるかもしれませんが、単にコメディとして評価した場合、この辺りで観るべき作品はあまりないように思います。

キートンの恋愛指南番 スチール.jpg 「キートンの決闘狂」にも自分の発明した謎の銃の威力を決闘の場で試そうというエキセントリックな人物が出てきますが、キートン演じる主人公を差し置いておかしな人物を登場させることで、却ってキートンの魅力を後退させ、作品としてもキートンが演じる必然性があまり感じられない凡庸なものになっているという点では、この「キートンの恋愛指南番」もそれに通じる気がします。

「キートンの恋愛指南番」●原題:PARLOR, BEDROOM AND BATH●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・セジウィック●脚色:リチャード・スカイヤー●撮影:レナード・スミス●音楽:エドワード・セジウィック/ハワード・ジョンソン/ジョセフ・メイヤー●原作:チャールズ・W・ベル/マック・スウォン●時間:79分●出演:バスター・キートン/シャーロット・グリーンウッド/レジナルド・デニー/クリフ・エドワーズ/ドロシー・クリスティー/ジョーン・ピアース/サリー・アイラース/ナタリー・ムーアヘッド/エドワード・ブロフィー/ウォルター・メリル/シドニー・ブレイシー●日本公開:1931/07●配給:MGM日本支社(評価:★★)

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キートンのトーキー2作目。セジウィック監督作に共通するテンポの悪さ。

キートンの決死隊【字幕版】 [VHS].jpgキートンの決死隊  dvd.jpg キートンの決死隊 2.jpg  
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キートンの決死隊 新兵訓練.jpg 金持ちのエルマー(バスター・キートン)はメリー(サリー・アイラース)という娘を恋して言い寄るが、いつも拒まれていた。米国が欧州戦線に参加し、国民の多くが参戦熱に駆られる中、運転手が義勇兵募集に応じてしまい、エルマーは職安へ求人に訪れる。ところがそこがいつの間にか入隊申込所と変わっていて、彼は新兵訓練所に回されて種々珍事を起し、頑固一徹のプロフィー軍曹と衝突するが、メリーが軍隊に働いているの知って喜び、彼女もまた彼の一兵卒となった心意気に感じ入る。ある夜、秘かにキャンプを抜け出してメリーに会いに行くが、同じ思いのプロフィー軍曹と顔を合わせ、メリキートンの決死隊 3.jpgーはエルマーのためを思いこんな男と会ったこともないと突っぱね、軍曹も追い返す。メリーとエルマーは同じ輸送船で出征することになり、彼女はエルマーに心情を打ち明けようとしたが機会が無く、戦線で彼が見張りに出た時に再会、彼は彼女の本心を聞かされ喜びの余りユクレレを奏して同僚の安眠を妨げて窓から突き落とされ、キートンの決死隊 4.jpg農家の娘の寝室に迷い込んだため、メリーの信用を失ってしまう。沈んでいる彼を見た同僚が兵士慰安会に出演させるが、敵方戦闘機により開場は被弾、恋を失ったエルマーは戦死の覚悟で敵陣に乗り込む。敵の塹壕内に転げ込んだ時に彼の以前の使用人と再会、彼らが食料を断たれて困っているのを聞き、食料を届ける約束をして味方の陣地に引き上げるが、その際に何気なく机上にあった地図を持ち帰ったのが手柄となり、功によって休暇を貰う。彼が戦線からキャンプに戻る途中またも敵機が飛来し、逃げ惑う中でメリーを見つけ、敵陣地へまた飛びこむ。そこへ喚声が上がり2人は驚くが、終戦条約締結の知らせのとためと知れた。戦争を終えて帰国したエルマーは会社の社長として復帰、メリーは妻として彼を助けていた―。

キートンの決死隊 日本公開.jpg バスター・キートン主演の1930年8月本国公開作品で、キートンがMGMに移籍してからの第4作目、トーキーとしては「キートンのエキストラ」('30年3月公開)に続く2本目で、「エキストラ」と比べ製作費は半分強、しかし、利益は10倍以上だったとのことです(日本公開は'31年4月)。ただ、個人的には「エキストラ」同様にイマイチでした。

キートンの決死隊 敵陣内.jpg ストーリーにやや無理があるように思われ、何故キートンが入隊申込所に送り込まれてしまったのかよく解らなかったし(執事のミス?)、敵陣に行って、そこにかつての使用人がいたからといって食料を届ける約束をしてくるというのもどうか。終戦がなければ、キートンが携えてきた作戦地図を基に相手方に総攻撃をかけていたわけで...。ラストで、会社の社長として軍隊でいじめられた上官たちを従業員として使用して得意にしているキートンというのもちょっとなあ...と。

キートンの決死隊 踊り.jpg これだけストーリーを捏ね繰り回しながら、キートンらしさを発揮する場面が少ないせいか、「キートンの結婚狂」('29年)、「エキストラ」に続いて、ここでも劇中劇を"兵士慰安会"という形で入れ、女装で踊るなどしていますが、何だかわざとらしい印象を受けました(キートンは第一次大戦に従軍した際に実際こうした余興をやっていたとの説もあるが)。

キートンの決死隊 ウクレレ.jpg キートンの同僚役のクリフ・エドワーズは、「ウクレレ・アイク」の愛称で知られた歌手兼コメディアンで、キートンとのコンビネーションは悪くはないですが、キートンをじっくり見たい自分としてはやや邪魔っ気な印象も。キートンの唄とウクレレ演奏が聴けるのは貴重ですが...(クリフ・エドワーズより上手かったといわれるウクレレを奏でつつ唄っている時のキートンは甘くてカッコ良すぎ)。

キートンの決死隊 1.jpg 戦争もののコメディって難しいと思うなあ。失恋したエルマー(キートン)が敵地へ乗り込んでいくところなどは悲壮感の方が勝ってしまう...。加えて、エドワード・セジウィック監督作に共通して言えることですが、全体にテンポがイマイチであり、終盤でキートンがメリーと避難したところへ不発弾が落ちてきてキートンが慌てふためく場面は、最後にキートンらしさが出たという感じでしたが、それでもそこまでの流れの悪さを挽回するには至らなかったように思います。

 キートンが悪いのではない。キートンをスポイルしているセジウィックが悪いのだ―という感じでしょうか。

「キートンの決死隊」●原題:DOUGHBOYS●制作年:1930年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・セジウィック●脚本:リチャード・シェイヤー●撮影:レナード・スミス●音楽:エドワード・セジウィック/ハワード・ジョンソン/ジョセフ・メイヤー●原作:アル・ボースバーグ/シドニー・ラザラス●時間:79分●出演:バスター・キートン/クリフ・エドワーズ/サリー・アイラース/エドワード・ブロフィ/ヴィクター・ポテル●日本公開:1931/04●配給:MGM日本支社(評価:★★☆)

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キートンの初トーキー。彼は頑張っているが、その使われ方や脚本の方に問題あり。

キートンのエキストラ dvdd2.jpg キートンのエキストラ dvd.png キートンのエキストラ 舞台3.jpg  
キートン「キートンのエキストラ」 [DVD]」「キートンのエキストラ [DVD]

 カンザス州の田舎町に住むブランケット夫人(トリクシー・フリガンザ)は、娘のエルヴィラ(アニタ・ペイジ)が町内の美人コンテストに優勝したのを契機に、彼女を映画スターに仕立てようとマネージャーのエルマー(バスター・キートン)を連れ立ってハリウッドに乗りこむ。エルマーの不注意で、彼らはハリウッドの人気二枚目俳優のラリー(ロバート・モンゴメリー)の座席に座ってしまう。エルヴィラの美しさに心を奪われたラリーは彼女を援助することを約束するのだが、彼女に無体を働いたとキートンのエキストラ 舞台1.jpgころをエルマーが連れてきたブランケット夫人に見咎められ、母と娘の信頼を失ってしまう。エルマーは当初ラリーを良く思っていなかったが、ラリーが自分と同郷であることを知って互いに親しくなる。エルヴィラを売り込むために撮影現場に潜り込み、エキストラとして何度も失敗を繰り返していたエルマーだったが、ひょんなことからキートンのエキストラ 02.jpgコメディアンとしての成功の糸口を掴むことになり、コメディ・ミュージカルでエキストラに抜擢されたブランケット夫人と共演することになる。一方、将来を悲観するエルヴィラに、エルマーは自らの彼女を愛する想いを伝えようと「貴女と結婚したがっている人がいる」と示唆するが、運命の悪戯によりエルヴィラはそれがエルマーだと思い込み、二人は結ばれエルマーは失恋する―。

 バスター・キートン主演の1930年の作品で、MGM移籍後に撮ったキートンの初トーキー作品(監督はエドワード・セジウィック)。キートンはトーキーの時代についていけなくてダメになったとよく言われますが、彼自身は早くからトーキーに参入したがっていて(本当は前作「キートンの結婚狂」('29年)からトーキーで撮りたがっていたとのこと)、この作品「キートンのエキストラ」では彼の声が初めて聴けるだけでなく、演技面でも頑張っている感じです。

 但し、前作「キートンの結婚狂」の前半と"エキストラ"ネタが被りつつ、キートンの使われ方が前作よりも出演者の一人に過ぎないようになっており、ずーっとキートンが常に真ん中に在るそれまでのキートン作品を見続けてきたファンにはかなり物足りなかったのではないでしょうか。ギャグもどこかやらされている感じがあって、キートン独特の切れ味に乏しかったりします。

キートンのエキストラ 門.jpg また、ストーリーが、"トーキーに乗り込んだ"彼を"ハリウッドに乗り込んだ"エルマーに重ねているのはいいのだけれど、ラストで映画では成功するが、恋愛の方は失恋してしまうという結末はいかがなものかと...。これまでカラッと乾いた笑いと(とりわけ恋愛において)ハッピーエンドのコメディが定番だっただけに、あまりウェットなのはこの人には似合わない気がします。

キートンのエキストラ 舞台2.jpg キートンは頑張っているだけなく、声も良くて台詞もメリハリがあり、トーキーの世界でも十分にイケル感じなのですが、その使われ方や脚本の方にキートンの魅力を引き出そうにも引き出せない問題があって、こうしたことがますますキートンを追い込んでいったのだろうなあと思わせるものがあり、トーキー時代に入ってからのキートンの退潮はMGMの責任だという印象を改めて抱かされました。

 そう思って観ると、終盤の「劇中劇」的なコメディ・ミュージカルの中でのキートンの「やらされてる感のある」ギャグ・シーンや吊るされているだけのアクションなども、映画作りの日進月歩のシステム化に翻弄されるキートン自身を象徴している感じがし、また、その中での役柄としての道化師がキートンの置かれている状況と重なる部分もあって、観ていて辛い感じもします。

キートンのエキストラ 03.jpg ミュージカル・シーンは「劇中劇」であることを利用して顔の"白塗り"を復活させたりしていますが、ギャグがキートンのギャグではなく、演出家による振付けの一部になっているという感じで、"白塗り"も「ストーン・フェイス」ではなく予め悲哀を表す眉線が入っていたりして、わざわざ白塗りにしたのに却ってキートンらしくなくなっている感じです。「道化の悲哀」というのも、キートンのそれまでの、最後振り返ってみれば実にスマートだったというスタイルとは異質であり、個人的にはイマイチの作品でした(いや、イマニかイマサンくらいか)。

 ⅯGM映画「ベン・ハー」('26年)のフレッド・ニブロ監督が、キートンが演じる"にわかコメディアン"エルマーの演技にダメ出しをする「ニブロ監督」役で出演しています。「キートンの恋愛三代記」('23年)のチャリオットレースのシーンなどは、当時最大の映画会社パラマウントの大作主義に対する批判が込められていたと言われていますが、自身が同じく大手のMGMに移って、フレッド・ニブロ監督の指示で動く役を演じているのもどことなく寂しくて笑えません。

Buster Keaton and Anita Page in "Free and Easy" (1930) 
キートンのエキストラ 01.jpgキートンのエキストラ オールドポスター.jpg「キートンのエキストラ」●原題:FREE AND EASY●制作年:1930年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・セジウィック●脚本:ポール・ディッキー●撮影:レナード・スミス●原作:リチャード・スカイヤー●時間:92分●出演:バスター・キートン/アニタ・ペイジ/トリクシー・フリガンザ/ロバート・モンゴメリー/フレッド・ニブロ/エドガー・ダーリング/グウェン・リー/ジョン・ミルジャン/ライオネル・バリモア/ウィリアム・ヘインズ/ウィリアム・コリアー・シニア●日本公開:1930/12●配給:MGM日本支社(評価:★★)

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キートンのMGM移籍第2作にして最後のサイレント作品。キートンらしさが次第に後退。

キートンの結婚狂 1929年 vhs.jpg Spite Marriage (1929) 輸入盤.jpg キートンの結婚狂 結婚を迫られる.png
キートンの結婚狂 [VHS]」/「Spite Marriage [VHS] [Import]」 Dorothy Sebastian and Buster Keaton

キートンの結婚狂 舞台2.jpg クリーニング店の店主エルマー(バスター・キートン)は舞台女優のトリルビー(ドロシー・セバスチャン)の大ファンで、顧客から預かっているタキシードを着込んで金持ちの風采で彼女の舞台に通い詰め、仕舞には、劇団員の一人に話をつけて代役で彼女の芝居の舞台に立ち、大事な芝居をぶち壊してしまう。そんな折、トリルビーの恋人で同じ劇団のキートンの結婚狂 新婚.jpg花形男優(エドワード・アール)が別の金髪美人(レイラ・ハイアムズ)と婚約したことに憤慨した彼女は、面当てにエルマーと結婚する。しかし、エルマーが実は金持ちでないと判り、彼は離婚を言い渡される。エルマーは船でその地を去ろうとするが、彼が乗ったのは密輸船だった。脅迫されて海に飛び込んだエルマーは航行中の客船に救キートンの結婚狂 船.jpgわれ、そこで水夫として働くことになる。この船は多数の賓客が舟遊び客として乗っていたが、その中にトリルビーと前の恋人男優もいた。突然船は出火して賓客も船員も船を捨てて逃げたが、エルマーとトリルビーは取り残される。エルマーは単身で火を消し止め、トリルビーと助けを待つが、そこへ現れたのは例の密輸船だった―。

キートンの結婚狂 1929年.jpg バスター・キートン主演の1929年4月本国公開作品で、キートンがMGMに移籍してからの第2作目、最後のサイレント作品となります(日本公開は同年12月)。

キートンの結婚狂 舞台.jpg 前半部分はコント風で、キートンがエキストラとして上がった舞台で繰り広げるドタバタが一つのヤマでしょうか(舞台に上がる前のメーキャップを自分でやる場面のギャグがキートンらしくて可笑しい)。キートンはこの作品をトーキーでやりたかったそうですが、MGMがサイレントでの公開を決め、次回作「キートンのエキストラ」('30年)が初のトーキー作品となります。"エキストラ"ネタで次回作と被りますが、以前ほどのキレは無いにしても、こちらの"エキストラ役"の方が「エキストラ」における"エキストラ役"の彼よりもキートンらしいギャグが効いています。

キートンの結婚狂 船で二人きり.jpg 後半部分、海に乗り出してからは、主人公の2人が船にSpite Marriage (1929)1.jpg取り残されるという設定は「海底王キートン」('24年)を彷彿させ、密輸船に再び遭遇してからは、キートン持ち前のアクロバティックなアクションで大立ち回りを見せてくれますが、一方で、明らかにスタントを使ってる場面もあり、ドル箱俳優のキートンにケガでもされたら困るというMGMの思惑が見て取れます。

Spite Marriage (1929)2.jpg 「キートンのカメラマン」の「IMDb」での評価スコアが「8.3」で、この「キートンの結婚狂」が「7.2」、トーキー第1作の「キートンのエキストラ」が「5.6」となっているのは、「カメラマン」がやや高過ぎる評価との印象を受けるものの、まあまあ妥当な線でしょうか。自分の個人的評価(五つ星評価)は「カメラマン」「結婚狂」「エキストラ」の順にそれぞれ★★★☆、★★★、★★ですが、何れにせよMGM移籍後の第1作から第3作にかけて段階的に評価が下がっていく点で同じであり、そのことはまさにかつてのキートンらしさ、キートン映画らしさが徐々に後退していくことによるものと思われます。

キートンの結婚狂 プログラム.jpgキートンの結婚狂 気絶.jpg トリルビー役のドロシー・セバスチャンは当時のキートンの愛人だったそうで、そう思って観ると何となくそんな気もしないでもなく、艶めかしく感じられる場面もあれば、ハードなアクションを容赦なく強いている場面も...。作品全体としては往年の切れ味は相当落ちていますが、恋愛の上でのハッピーエンドは定番ストーリーを維持しており、「キートンのエキストラ」などと見比べれば、キートンはやはりサイレントが似合うと思わせる最後の作品となっています。
Original film program for Spite Marriage, with Dorothy Sebastian and Buster Keaton on the cover, 1929

「キートンの結婚狂」●原題:SPITE MARRIAGE●制作年:1929年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・セジウィック●脚本:アーネスト・パガノ/リチャード・スカイヤー●撮影:レギー・ラニング●原作:ルー・リプトン●時間:80分●出演:バスター・キートン/ドロシー・セバスチャン/エドワード・アール/レイラ・ハイアムズ●日本公開:1929/12●配給:MGM映画(評価:★★★)

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"夢オチ"を上手く活かす。映像の"魔術"的工夫、アクションの凄さで飽きさせない。

キートンの探偵学入門 リバイバル.jpgキートンの探偵学入門vhs.jpg キートンの探偵学入門 dvd.jpg Sherlock, Jr.jpg
1973(昭和48)年リバイバル時チラシ/「キートンの探偵学入門【字幕版】(淀川長治 名作映画ベスト&ベスト) [VHS]」「キートンの探偵学入門 [DVD]」「Sherlock Jr & Our Hospitality [VHS] [Import]

Sherlock,Jr.07.jpg 映写技師のキートンは、探偵に憧れていて、映写時間外は館内や入り口のキートンの探偵学入門 2.jpg掃除もやっている一方、仕事中も「探偵学」の本を読んだりしている。ある日、プレゼントを届けに行った愛する女性(キャサリン・マクガイア)の家で恋敵と張り合うことになるが、そこに女性の父親(ジョー・キートン)の懐中時計の盗難事件が発生、「探偵学」のマニュアルに沿って意気揚々と犯人捜査に乗り出すも、時計を質屋に預けた質札が自分のポケットの中から見つかり、女性の父親に家から追い出されてしまう。恋敵が怪しいと睨んだキートンは、彼を尾行するが、逆に貨物列車に閉じ込められ、何とか抜け出して貨車の屋根を走り、給水塔のノズルに掴まって降りようとするが、大量の水が放出され線路に叩きつけられる。女性は質屋に聞き込みに行き、犯人はキートンの恋敵の男で、キートンは濡れキートンの探偵学入門 夢.png衣を着せられたことを突き止める。一方の仕事場の映画館に戻ったキートンは、映画上映中に居眠りを始め、その分身が憧れの銀幕の中に入っていく。映画の中の男女はキートンの恋する女性と恋敵sherlock jr. (1924)3.pngに変わっており、恋敵に殴られた彼は客席に飛び出し再び入り込むと、場面は変わっていて...。やがて、愛する女性の家で高級ネックレス盗難事件が発生する。彼は映画の中で"シャーロック2世"となって犯人探しを続け、窃盗団と決死の追走劇を演じる...。目醒めた彼には愛する女性にプロポーズをする勇気がなく、上映中の映画のシーンを真似て求婚すると上手くいきかけるが―。

sherlock jr. (1924)poster.jpgキートンの探偵学入門 映画館.jpg この「キートンの探偵学入門」は1924年4月に本国公開され、それは丁度前キートンの探偵学入門 松竹.jpg作「荒武者キートン」('23年)の半年後、次作「海底王キートン」('24年)の半年前になります。日本では同じく'24(大正15)年12月に「忍術キートン」のタイトルで公開されており(「荒武者キートン」の本邦初公開と同時期か)、このタイトルは配給元の松竹が「キネマ旬報」などに「探偵第二世」という直訳に近いタイトルで予告広告を出して邦題を一般公募したものだったようです。'73年に「キートンの探偵学入門」のタイトルでリバイバル上映されています。
Keaton no Tantei gaku Nyûmon (1924)
Keaton no Tantei gaku Nyûmon (1924).jpg "夢オチ"ですが、主人公のキートンが夢に入っていく箇所は二重露出を使って分かり易くなっています。観客キートンの探偵学入門 映画館3.jpg席を映したままキートンが客席と映画の中を行き来するシーンは秀逸。スクリーンの場面は次々と変わり、階段を一歩踏み出した途端に足場が消えて転んだり、いきなりライオンのいるジャングルにいたり、断崖や砂漠だったり、海上の岩礁や雪の野原だったりと、シーンが変わるごとにスクリーンの中で翻弄されるキートンのアクションと映像とのマッチングが巧みです。主人公が映画の中に入っていくアイデアは、ウディ・アレンの「カイロの紫のバラ」('85年/米)でのミア・ファローが映画の中に入っていく設定にヒントを与えたと言われていますが、キートンのこの作品の場合、前半分は現実の話であり、ヒロインが真相に気づいた所でキートンへの疑いは晴れていることになり、それを知らないキートンが夢の中で犯人捜しをするということになります。

 夢の中では懐中時計ではなくネックレス盗難事件が起きますが、話が凶悪窃盗団の犯行のように膨らんでいき、恋敵の共犯者となったヒロインの家の執事が、ビリヤードの13番の玉に爆薬を仕込んだり、椅子に座ると斧が降ってくる仕掛けをしたり、ワインに毒を盛ったりしてキートンを亡き者にしようとします。キートンがビリヤードを13番に当てることなく完璧にプレーを続け、最後1個だけ残った13番を外すというシーンがこれまた巧みです。

キートンの探偵学入門 かべ.jpgキートンの探偵学入門 クルマ.png この後も、キートンが敵陣に乗り込む前に窓に女性用の衣装ケースをぶら下げておいて、窓を飛び抜けると服装が女性の衣装に変わる早技や、キートンが路地に追い詰められて壁際に立った仲間が持つ鞄の中に飛び込むというシュールな脱出技など、どうやって撮ったのかと思わせるようなシーンが続きます。更に、キートンがハンドルに飛び乗った警官のバイクが警官を落として暴走、キートンは運転者がいなくなっていることに気づかずにずっとバイクのハンドルに乗っかって爆走していくという、いつもにも増して過激なアクションシーンが続きます。

キートンの探偵学入門 給水塔.jpgキートンの探偵学入門 たんく.jpgキートンの探偵学入門 鉄水塔.jpg
 このように、映像テクニックの工夫もさることながら、生身のアクションも密度が濃くて飽きさせません。給水塔の場面でキートンは水の勢いを誤算し、線路に叩き落とされた際に後頭部を強打して、撮影が数日間中断されたとのこと。実際にはこの時にキートンは首の骨を折っていたにもかかわらず本人は気がつかず、一年半後に偶然に骨折の痕が見つかった時には既に完治していたという逸話があります(数カ月間の間「頭痛が続く」としか本人は自覚がなかったという)。

キートンの探偵学入門 ラスト.jpg ラストで、映画のシーンを真似て女性に指輪を渡し軽くキスするところまでは上手くいきますが、映画の方がエピローグで夫婦に双子が生まれ、女性が編み物をし男性が赤ん坊をあやしている場面になると、それ以上先に進むのを逡巡してしまうというのは、キートンの独身主義の表れと言うより(キートンはこの時既に「荒武者キートン」でも共演したナタリー・タルマッジと結婚している)、安定し切ってしまうことへの不安を表象しているのではないでしょうか。

sherlock jr. (1924)びりやーど.jpg キートン作品のベストテンなどで1位にくることもある作品で、「荒武者キートン」('23年/67分)、「海底王キートン」('24年/59分)より若干短く、ストーリーをシンプルにして、身近な設定ながら"夢オチ"にすることでギャグやアクションに幅を持たせているといった感じです。

 "夢オチ"ってがっかりさせられることが結構あったりしますが、この作品は、そうした"お約束事"を観客と共有した上に作られているので納得です。その意味ではこの場合100%の"夢オチ"とキートンの探偵学入門 スマート.jpgは言えないかも。でも観ているうちに夢の中の出来事であるというのを忘れそうになります(と言うより、どこから夢だったか忘れそうになる)。

 「ビリヤードの13番の玉」のシーンもそうですが、夢の中でのキートンは実にスマートであり、ある意味、これがキートンの身上なのだと改めて思わされます。最初に観た時の評価は中編ということもあって星4つでしたが、その時はコメディとして愉しむ一方で、映像の「魔術的」工夫や、首の骨を折るまでしたアクションの凄さにまで思いが至ってなかったかもしれなかったです。観直してみると改めてそのレベルの高さが実感され、中編としての相対評価を加味して星半分追加しました。
 わずか50分。一度は観ておきたい作品です。

「キートンの探偵学入門(忍術キートン)」●原題:SHERLOCK JR.S●制作キートンの探偵学入門 0.jpg年:1924キートンの探偵学入門 クルマ2.jpg年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン●製作:バスター・キートン/ジョセフ・M・シェンク●脚本:クライド・ブラックマン/ジョン・ハヴェズ/ジョゼフ・ミッチェル●撮影:エルジン・レスレー●時間:50 分●出演:バスター・キートン/キャサリン・マクガイア/ジョー・キートン/ウォード・クレイン●日本公開:1924/12●配給:松竹(評価:★★★★☆)
Sherlock,Jr. ネタ.jpgTop 10 Buster Keaton Films: Feature-Length(海外サイト)
1. Sherlock, Jr.(キートンの探偵学入門)(1924)
2. The General(キートンの大列車強盗)(1926)
3. Steamboat Bill, Jr.(キートンの蒸気船)(1928)
4. Seven Chances(キートンのセブン・チャンス)(1925)
5. The Cameraman(キートンのカメラマン )(1928)
6. Go West(キートンの西部成金)(1925)
7. Three Ages(キートンの恋愛三代記 )(1923)
8. The Navigator(海底王キートン)(1924)
9. Our Hospitality(荒武者キートン)(1923)
10. College(キートンのカレッジ・ライフ )(1927)

   

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キートンが監督した初長編作。3つの時代の恋愛奮闘劇。47分の中にギャグ満載で飽きさせない。

キートンの恋愛三代記 シネマ2 - コピー.jpgkeaton the three ages.jpgキートンの恋愛三代記 dvd.jpg The Three Ages (1923) yunyubann video.jpg
キートンの恋愛三代記 [DVD]」「Three Ages [VHS] [Import]
Theatrical poster for Three Ages (1923)

キートンの恋愛三代記 0.jpg 石器時代、ローマ時代、現代の3つの時代で繰り広げられる、美しい娘を手に入れるまでの男の恋愛騒動&奮闘劇で、キートンが監督した初長編作品(1923年9月公開、47分)ということになっていますが、長編への進出に不安のあったキートンが、従来に短編を組み合わせる形で制作し、上手くいかなかった場合はそれぞれ個別の作品として公開しようと考えていたという説もあるようです。日本公開は1925(大正14)年3月で、公開時邦題は「滑稽恋愛三代記」。'74年7月に「キートンの恋愛三代記」のタイトルで「ニュー東宝シネマ2」でリバイバル上映されました(併映短編「スケアクロウ」「マイホーム」)。

Three Ages (1923).jpg 各時代それぞれシチュエーションごとに区切って、47分の間に石器時代、ローマ時代、現代の3つの時代が繰り返し出てくる展開は、キートンならではのギャグ満載で観る者を飽きさせず、しかも前半の恋占いシーンや、中盤の女性をめぐる男達の決闘シーンなど、時代ごとのモチーフを揃えているところなどから、やはり最初からから長編としての公開を意識したものと思われます(キートンの相手役のヒロインも一貫してマーガレット・リーイー(Margaret Leahy)が演じているし)。

 その決闘シーンが、石器時代は単なる格闘だったのが、ローマ時代になると「ベン・ハー」さながらのチャリオット(馬車戦車)レース対決に(但し、キートンは前日の降雪を見越して犬ぞりで参戦)、現代になるとフットボール対決といった具合に進化していきます。このチャリオットレースのシーンは、当時最大の映画会社パラマウント社で大作主義に明け暮れるキートンの恋愛三代記 ローマ.jpgセシル・B・デビル監督を皮肉ったものとも言われていますが、このキートンの「恋愛三代記」の中でもセットなどに最もお金をかけている場面のように思われました。D・W・グリフィス監督の「イントレランス」('16年)のパロディとも言われていますが、確かにセットは「イントレランス」と似ています(大掛かりなだけに、大観衆の迎える中でキートンがしょぼい犬ぞりで登場するギャップが非常に効果的なのだが)。

The Three Ages (1923)4.jpg キートンは実際に映画「ベン・ハー」を参考したのでしょうか? ウィリアム・ワイラー監督、チャールトン・ヘストン主演の「ベン・ハー」('59年/米)はアカデミー賞11部門を獲得した大作として知られていますが、その前にフレッド・ニブロ監督が撮ったラモン・ノヴァロ主演のMGM映画「ベン・ハー」('26年/米)があり、ウィリアム・ワイラーはこの作品で助監督を務めています。この作品は、「民衆」役でジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、マリオン・デイヴィス、ダグラス・フェアバンクス、リリアン・ギッシュ、ハロルド・ロイド、メアリー・ピックフォードなど多くのスターが出演していることでも知られています。但し、これはこの「恋愛恋愛三代記」の3年後の公開作品であり、キートンが真似ようにもそれは不可能です。

フレッド・ニブロ.jpg しかしながら、フレッド・ニブロはその18年前に作られたシドニー・オルコット監督のサイレント映画「ベン・ハー」('07年/米)を参考にしたと言われており、この作品は15分の短編ながら終盤が殆どチャリオット・レースのシーンになっていることから、キートンもこの作品を参照した可能性はかなり高いように思います。後にキートンがMGMに再移籍して最初に出演した作品「キートンのエキストラ」('30年)で、フレッド・ニブロはキートンの演技に再三ダメ出しする「ニブロ監督」役で登場しています。
Fred Niblo(1874-1948)
キートンの恋愛三代記 アフリカゾウ.jpg ローマ時代だけでなく、石キートンの恋愛三代記 アメフト.jpg器時代も現代も手抜きしておらず、石器時代ではマンモスの代わりに本物のアフリカゾウを使い(ローマ時代のキートンが爪を磨いてあげることで喰われずに済んだライオンは明らかに着ぐるみだが)、現代ではフットボールの試合をスポーツ大好き人間のキートンらしくかなり本格的に撮影しています。石1923-3Ages[animated].gif器時代の岩から岩へ飛び移ってのアクションが、現代のビルからビルへ飛び移るアクションと重なるのも上手いし(それにしてもスゴいアクション)、ラストはどの時代のキートンも目出度くヒロインと結ばれ、石器時代では凄い数の子どもに恵まれ、ローマ時代もそこそこ、それが現代では夫婦の間にペットの犬が一匹というのが見る側の予想を覆して可笑しいです(少子化時代を予測した?)。

キートンの恋愛三代記 ゴルフ.jpg 派手なアクションもありますが、細かいギャグや小道具も効いていたように思います。石器時代で言えば、キートンがしている"腕時計型の日時計"とか"ゴルフセット"とか。現代においては、ジョー・ロバーツ演じる恋敵(こちらも3時代を通しての)の見せる身分証(社員証)にFirst National Bank(国立一流銀行)であるのに対し、キートンのがLast National Bank(国立三流銀行)であるというのも可笑しいです。現代版キートンの恋愛三代記 現代 クルマ.jpgにおけるキートン帽にネクタイ、ワイシャツ、チョッキ、ダブダブのズボン、ドタ靴という組み合わせは、所謂「アーバックル時代」と言われるロスコー・アーバックルとの共演時代(1917-1920)の最後の名残りかと思われますが、キートン帽など以降の作品にも暫く引き継がれていくものもあります。

キートンの恋愛三代記 大女.jpg 石器時代にキートンがアプローチする女性の一人で岩の上に寝そべっている女性―立ち上がると実は大女だった―は、ブランシ・ペイソンという人で、ニューヨーク最初の婦人警官だったそうです。

キートンの恋愛三代記 ラスト.jpg「キートンの恋愛三代記(滑稽恋愛三代記)」●原題:THE THREE AGES●制作年:1923年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/エドワード・F・クライン●製作:バスター・キートン/ジョセフ・M・シェンク●脚本:バスター・キートン/クライド・ブラックマン/ジョゼフ・ミッチェル/ジャン・C・ハヴェズ●撮影:エルジン・レスレー/ウィリアム・C・マクガン●時間:47分●出演:バスター・キートン/ウォーレス・ビアリー/マーガレット・リーイー/ジョー・ロバーツ/ホラス・モーガン/リリアン・ローレンス●日本公開:1925/03●配給:イリス映画(評価:★★★★)

BEN-HUR A TALE OF THE CHRIST poster.pngBEN-HUR A TALE OF THE CHRIST 2.png「ベン・ハー」●原題:BEN-HUR:A TALE OF THE CHRIST●制作年:1926年●制作国:アメリカ●監督:フレド・ニブロ●脚本:ジューン・メイシス/ケイリー・ウィルソン/ベス・メレディス●撮影:クライド・デ・ヴィナ/ ルネ・ガイサート/ パーシー・ヒルバーン/カール・ストラッス●音楽:ウィリアム・アクスト●原作:ルー・ウォーレス●時間:141分●出演:ラモン・ノヴァロ/フランシス・X・ブッシュマン/メイ・マカヴォイ/ベティ・ブロンソン/クレア・マクドウェル/ベン・ハー 二ブロ dvd.jpgキャスリーン・キー/カーメル・マイヤーズ/ナイジェル・ド・ブルリエ/ミッチェル・ルイス/レオ・ホワイト/フランク・カリアー/チャールズ・ベルチャー/ベティ・ブロンソン/デイル・フラー/ウィンター・ホール/(以下、エキストラ出演)レジナルド・バーカー/ジョン・バリモア/ライオネル・バリモア/クラレンス・ブラウン/ジョーン・クロフォード/マリオン・デイヴィス/ダグラス・フェアバンクス/ジョージ・フィッツモーリス/シドニー・フランクリン/ジョン・ギルバート/ドロシー・ギッシュ/リリアン・ギッシュ/サミュエル・ゴールド/ウィンシド・グローマン/ルパート・ジュリアン/ヘンリー・キング/ハロルド・ロイド/コリーン・ムーア/メアリー・ピックフォード●日本公開:1928/09●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:杉本保男氏邸(80-12-02)(評価:★★★☆)ベン・ハー【淀川長治解説映像付き】 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

Ben Hur [VHS] [Import] (1907).jpgBEN-HUR1907.jpgBEN-HUR 1907.jpg「ベン・ハー」●原題:BEN-HUR●制作年:1907年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・オルコット●脚本:ジーン・ゴルチエ●原作:ルー・ウォーレス●時間:15分●出演:ハーマン・レトガー/ウィリアム・S・ハート●米国公開:1907/12●最初に観た場所:杉本保男氏邸(81-09-27)(評価:★★★?)Ben Hur [VHS] [Import]

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キートンの短編の中では一番よく出来ている。仕掛けもアクションもギャグもいい。

キートンのマイホーム 文化生活一週間 vhs.jpg キートンの文化生活一週間 dvd.jpg keaton one week.jpg
マイ・ホーム [VHS]」「バスター・キートン傑作集(1) [DVD]

キートンの文化生活一週間1新婚.jpg (9日月曜日)...結婚式を終えた新郎(バスター・キートン)と新婦(シビル・シーリー)は、叔父から貰った新居に車で向かうが、運転していたのは新婦にフラれた男ハンキートンの文化生活一週間2部品.jpgクで、彼は2人の新生活を邪魔したりする。新居の場所に着くとそこには土地しかなく、届けられた木材と工具で自分で組み立てなければならなかったのだ。(10日火曜日)...早速翌日から2人は新居の組み立て作業に入るが、ハンクの妨害により間違った手順で新居が出来上がってしまう。(11日水曜日)...平行四辺形のような奇妙なキートンの文化生活一週間4完成.jpg形の新居に引っ越し業者(ジョー・ロバーツ)が運んできたピアノを入れようとするが、これがまた大騒動になる。(12日木曜日)...新郎は煙突を取り付けようとして、入浴キートンの文化生活一週間5嵐の後.jpg中の新婦がいる2階の風呂の浴槽に落ち、恥ずかしがる新婦に風呂から追い出され、出口かと思ったドアを開けて外に転落する。(13日金曜日)...2人は新居完成披露パーティに友人らを呼ぶが、雨漏りがして新郎は室内で傘をさしている。やがて雨は暴雨風となり、新居は風に煽られ土台ごと猛烈な勢いで回転しはじめる。客は帰り、2人は外で一夜を過ごす。(14日土曜日)...嵐キートンの文化生活一週間6線路上.jpgが去った翌朝、新居はボロボロになっていたが、そもそも家を建てる場所が間違っていたことに気づいた2人は車で新居を移動させる。その途中で線路に引っ掛かって立ち往生してしまうが、そこへ猛烈なスピードで蒸気機関車がやってくる―。

 キートン1920年発表の約20分の短編で、日本公開はいつだか明確ではありませんが、一部資料(KINENOTEなど)に1925年とありました(後に「キートンのマイホーム」の邦題で公開されたこともあり、VHSのタイトルはそうなっている)。この頃の2本組で製作していたキートンの短編作品の中では一番よく出来ているのではないかと思われ、仕掛けが大掛かりであるばかりでなく、当時25歳のキートンのアクションも冴え、また、ギャグの密度も極めて濃く、愉しんでいる内にあっという間に終わってしまう感じです。

 誤った組立手順で出来上がった新居の奇抜さが秀逸で、面白いと思われたアイデアを実際に形にしてしまうところがスゴイなあと。これが映画ではどんどん変形していくわけで、結局これ、また別に最初から作り直しているのかなあ。時を経れば経るほど手作りの良さが引き立ってきて、この"我が家"は作品のまさに「主役」と言っていいのでは。

キートンの文化生活一週間入浴.jpg 新郎が入浴中のシーンでカメラに手が覆いかぶさったりするのが遊び心を感じさせ、そこへキートンが落ちてくるという繋がりもまた良く、更に、ドアを開けたら外に転落してしてしまったキートンが、新居披露パーティに来たハンクに追いかけ回されて、そキートンの文化生活一週間7後のギャグ.jpgの経験を活かして彼を自ら外へ追いやってしまう場面は痛快(山崎バニラ氏はその活弁の中で敵役の彼をストーカーと呼んでいるが、まさにピッタリ)。その他にも、後のキートンの長編に見られるアクションの原点が幾つもここにあるという印象でした。

キートンの文化生活一週間ラスト.jpg ラストで新居が機関車で粉砕されてしまうのは本来ならば悲しい結末ですが、「売家」の札と「組立説明書」を置いて2人でその場を去っていくシーンはカラっと乾いていて、いかにもキートンらしいです。この2人が手をつないで新たな道に向かって歩いていくエンディングは、チャップリンの「モダン・タイムス」('36年)のエンディングとダブらないこともないですが、そこで観客を感動させるような余韻を持たせるチャップリンに対し、1秒間くらいでとっとと終わらせてしまうキートンに、両者の作風の違いを感じます。
   
キートンの文化生活一週間 新婦.jpgキートンの文化生活.jpg 新婦役のシビル・シーリー(Sybil Seely)は「キートンの船出(漂流)」(1921)でも奥さん役でした(コレ、パニック映画だったなあ)。この人は1902年生まれでこの作品の当時18歳でしたが、20歳で映画界を引退し、1984年に82歳で亡くなっています。
 
One Week (1920).jpg「キートンの文化生活一週間(マイホーム)」●原題:ONE WEEK●制作年:1920年●制作国:アメリカ●監督・脚本:バスター・キートン/エドワード・F・クライン●撮影:エルジン・レスリー●原作:バスター・キートン/エドワード・F・クライン●時間:19分●出演:バスター・キートン/シビル・シーリー/ジョー・ロバーツ●日本公開:1925年●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-15)●2回目:アートシアター新宿(84-05-27)(評価:★★★★)●併映:(1回目)「キートンの強キートンの船出 0.jpg盗騒動(悪太郎)」「キートンの船出(漂流)」「キートンの警官騒動」「キートンの鍛冶屋」「キートンの空中結婚」/併映:(2回目)「キートンのコニー・アイランド(デブ君の浜遊び)」「デブの自動車屋」「キートン・ライズ・アゲイン」 One Week (1920)

「キートンの船出(漂流/The Boat)」(1921)
         
バスター・キートン THE GREAT STONE FACE.jpgバスター・キートン THE GREAT STONE FACE DVD-BOX 【初回生産限定】
収録作品:(全33タイトル)
「文化生活一週間」「ゴルフ狂」「案山子」「隣同志」「化物屋敷」「ハード・ラック」「ザ・ハイ・サイン」「悪太郎」「即席百人芸」「漂流」「酋長」「警官騒動」「キートン半殺し」「鍛冶屋」「北極無宿」「電気屋敷」「成功成功」「空中結婚」「捨小舟」「コニー・アイランド」「自動車屋」「馬鹿息子」「海底王キートン」「キートンのカメラマン」「拳闘屋キートン」「キートンの大学生」「キートンの結婚狂」「キートンのエキストラ」「キートンの恋愛三代記【淀川長治解説映像付き」「キートンの探偵学入門【淀川長治解説映像付き】」「キートンのセブン・チャンス【淀川長治解説映像付き】」「荒武者キートン」「キートンの蒸気船」
          
Top 10 Buster Keaton Films: Shorts(海外サイト)
1. The Haunted House(キートンの化物屋敷)(1921)
2. One Week(キートンの文化生活一週間) (1920)
3. Cops(キートンの警官騒動)(1922)
4. The Scarecrow(キートンのスケアクロウ)(1920)
5. The Play House(キートンの即席百人芸)(1921)
6. The Boat(キートンの船出)(1921)
7. Neighbors(キートンの隣同士)(1920)
8. The Goat(キートンの強盗騒動)(1921)
9. The 'High Sign'(キートンのハイ・サイン)(1921)
10. Convict 13(キートンの囚人13号)(1920)

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アクションは後退、ギャグ&ラブストーリーとしてはまあまあ。MGMに抵抗するキートン。

キートンのカメラマン ポスター.jpgキートンのカメラマン vhs2.jpg キートンのカメラマン サル.jpg
復刻版ポスター(伊)/「キートンのカメラマン [VHS]

キートンのカメラマン1.jpg 旧式カメラを持って町の一角に立つ旧時代の遺物のようなカメラマンのルーク(バスター・キートン)は、ある日街で美しい娘を見初め、後をつけて行くと彼女はMGMのニュース映画部門に勤めているサリー(マーセリン・デイ)という娘だった。サリーからキートンのカメラマン 5.jpg成功するにはもっと良いカメラを買わねば駄目だと言われ、早速彼はカメラを買い求め、以来毎日彼女の事務所に詰め、彼女の好意により重大事件が発生する毎に密かに情報を教えられては現場へ飛んで行き撮影した。中国人街キートンのカメラマン 中華街.jpgでマフィアの抗争があった際の撮影では、ちょっとした事件から買い取ったサルの悪戯のためにフィルムを抜き取られ失敗したが、それでも彼は屈せず、モーターボート競争を撮影中に転覆事故で溺れそうになったサリーを泳いで救う。彼が薬を求めている隙に、サリーと共に海中に投げ出された彼女の彼氏が、自分キートンのカメラマン ラスト.jpgが彼女を救ったように装い彼女を連れ去る。落胆したルークはカメラマンになることを断念、自分が撮ったフィルムを投げ出して事務所を飛び出す。会社で彼のフィルムを試写したところ、中華街の抗争が映っているうえに、ボート転覆事故のサリー救出の殊勲者がバスターであることが判明、彼を呼び戻せとの上司の指示の下、サリーは命の恩人であるルークの行方を探し出す。大西洋横断飛行成功のリンドバーグ歓迎で湧く市中、ルークとサリーを祝福するが如く紙吹雪が舞う―。

キートンのカメラマン 輸入盤dvd.jpg バスター・キートン主演の1928 年9月本国公開作品で、彼がユナイトから古巣のMGMに戻って最初に撮った作品で監督はエドワード・セジウィック(因みに、作中で歓迎パレードの実写フィルムが用いられていると思われるリンドバーグの大西洋横断無着陸飛行の成功は1年以上前の1927年5月)。日本では翌年(昭和4年)9月に公開されました。

キートンのカメラマン サルが撮っていた!.jpg この頃には既にキートンも顔は白塗りではなくなっているし、ストーリーも相棒のサルがカメラを回してボート転覆事故の始終をフィルムに撮っていたというシュールな設定を除いては(どうやってサルに演技をつけた?)意外とリアルで、ドタバタ喜劇からラブストーリーの方へ比重を移している印象がありますが、そうしたことも含め、次第と初期のキートンらしさが失われていく過渡期的作品と言えるかもしれません。但し、この作品については「MGM移籍後で唯一の佳作」などと評されることもあり、MGM移籍当初で、まだそれだけキートンが比較的自由に撮らせてもらっている部分があり、ギャグとラブストーリーとの兼ね合いが程よく楽しめるといった感じ。

キートンのカメラマン ヒロイン.jpg キートンの相手役のヒロインを演じるのはマーセリン・デイ(Marceline Day)で、比較的今風の美人であり、これが個人的には作The Cameraman keaton pool.jpg品への好感度にも繋がり、恋敵役は「キートンのカレッジ・ライフ」でもライバル役だったハロルド・グッドウィン(Harold Goodwin)で、これも相変わらず憎たらしいだけに、最後の逆転劇が効いています。マーセリン・デイは水着美人として売り出しただけに、キートンとデートで市民プールに行くシーンでは水着姿でスタイルの良さ披露キートンのカメラマン(スチール).jpgしています。ただ、マーセリン・デイの水着姿もさることながら、当時のニューヨーク市営プールの意外と現代のスポーツクラブ風な様子が窺えて興味深かったです(右写真はスチールで、作中ではルークがこれほど女性にモテる場面は無い)。

キBuster Keaton, Sidney Bracy, Marceline Day-- The Cameraman.jpg この物語では、ルークことキートンが街頭写真屋から報道カメラマンへの転身を図るわけですが、テレビが無い時代、今のTVニュース報道に当たるものを映画会社のニュース映画部門が担っていたわけです。しかしルークにとって動画を撮るのは初めての経験であり、二重写しをやらかした結果、戦艦がニューヨークの街を進むといったとんでもない映像が出来上がってしまったりし、挙句の果てに、中国人街でのマフィア抗争の撮影でフィルムを入れ忘れたらしく(実はサルがフィルムを抜き取っていた)、これらの失敗でルークはMGMを去ろうとするが、最後はサルが撮っていたフィルムによりボート転覆事故の事の真相が明らかになり、MGMは彼を歓迎する―。

キートンのカメラマン 撮影風景.jpg 表向きはキートンのMGM入社を祝うような結末ですが、そのMGMはキートンをクリエイターというよりは一人の役者としてしか見ていなかったため、彼の作品に及ぼす影響は大幅に制限されるようになり、キートンはこれに対し、無人のヤンキー・スタジアムでの「一人野球」とか、プールの狭い更衣室の中での太った男と揉み合いへし合いなっての「窮屈な着替え」とか、彼自身のアドリブを入れて、彼らしさを出そうと抵抗しています(この辺りがまだ"比較的自由に撮らせてもらっている部分"か)。

「窮屈な着替え」撮影風景

キートンのカメラマン ダッシュ.jpg まだ20年代の作品なので、宙を飛ぶようなキートンの韋駄天ぶりは健在。それでも全体としてはアクションはかなり後退していますが、先にも書いキートンのカメラマン 2.jpgた通りギャグとしてもラブストーリーとしてはまあまあといったところでしょうか。むしろ、キートンの過渡期的作品であるという意味で、初期作品と見比べてみる価値はあるかもしれません。
「キートンのカメラマン」●原題:THE CAMERAMAN●制作年:1928年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・セジウィック●製作:ルイス・B・メイヤー●脚本:リチャード・シェイヤー●撮影:エルジン・レスリー●原作:クライド・ブラックマン/リュウ・リプトン●時間:67 分●出演:バスター・キートン/マーセリン・デイ/ハロルド・グッドウィン/シドニー・ブレイシー/ハリー・グリボン●日本公開:1929/09●配給:MGM日本支社(評価:★★★☆)

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ロイドをパクったというより、対抗意識から作ったのでは。終盤の畳み掛けるアクションがいい。

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キートンのカレッジライフ arubaito.jpg カリフォルニアのある高校の卒業式、学業優秀で表彰を受けたロナルド(キートン)は、「スポーツの大害」と題した講演をするが、得意になってスポーツマンを罵倒した彼の話に、同級生メアリー(アン・コーンウォール)は、憤慨する。美人のメアリーにロナルドは、そして、スポーツマンのジェフ(ハロルド・グッドウィン)も密かに恋していた。メアリーとジェフは共に大学へ進学することになっている。ロナルドの家は貧しかったが、恋敵に遅れをとってはならないと、自分College 1927 ハードル.jpgで学費を稼ぐ事を条件に母を説得し、ロナルドも同じ大学に進学した。かくして、ロナルドは給仕のアルバイトをして学費を稼ぎつつ、メアリーのハートを射るため大の苦手なスポーツに挑戦する。野球、砲丸投げ、短距離走と、何をやってもまるでダメ。例えば短距離障害走であkeaton callage.jpgればハードルを全部なぎたおしてしまうといった具合。ところが教授の計らいで、ボート大会にコックスとして出場することになってしまう。他の選手はロナルドが試合に出ては勝ち目が無いと、妨害を試みるが見事に失敗。自信なく出場したロナルドは溺れながらも機転を利かせて、チームに勝利をもたらすのだった。その時、ジェフがメアリーを一室に閉じ込め、結婚を迫っていた。メCollege 1927.jpgアリーから電話で連絡を受けたロナルドは、あらゆるスポーツの方法を駆使して、メアリーの救出に向かうのだった―。

キートンの大学生 牛込館.jpg バスター・キートンの1927 年本国公開作品(キートン・プロの長編9作目)で、日本でも同年(昭和2年)9月に「キートンの大学生」のタイトルで当時の「新宿武蔵野館」「牛込館」他で封切上映されています。前作「キートンの大列車強盗」('26年)が興行的に芳しくなかったため、それまで多くのキートン作品を製作してきたジョゼフ・M・スケンクによって、監督にジェームズ・ホーン、脚本にカール・ハルボウが送り込まれてきたが、キートンの自伝によれば、この二人は監督・脚本家としては全く役に立たなかったとのことです(カール・ハルボウはボートのコーチ役で出演している)。

 個人的には、最初に観た時「セブン・チャンス」('25年)と並んでたいへん面白く感じられた作品です。allcinema onlineのあらすじ紹介では、ボート大会の後に「表彰となって功労者キートンの胴上げとなるが、彼が高く舞い上がると見たくもないのに、女子寮の舎監の入浴シーンを目撃。これをのぞきと間違えた彼女に水をかけられて、傘で防戦したキートン。その傘はパラシュートにもなって...」と続きますが、このシーンは中盤の、キートンが皆にバカにされ続けている状況の中で、仲間からのからかいを受けてのシーンとして出てくるのであって、「功労者としての胴上げ」というのは順番として誤りです。

キートンのカレッジライフ 円盤.jpg この作品に先行するハロルド・ロイドの「ロイドの人気者」('25年)とほぼ同じモチーフであり、実際に巷には"ロイド映画のパクリ"との評価もあるようですが、ロイドに対する対抗意識から敢えて同じモチーフの作品を撮ったのではないかという気がしないでもありません(「ロイドの人気者」の主人公の名は勿論「ハロルド」、一方キートンのこちらは「ロナルド」)。

キートンの大学生 野球.jpg 作中のロナルドことキートンは、自ら学費を稼ぐために、黒人給仕の募集に顔を黒塗りにして応募して仕事に就きますが、その割にはあまり苦学生というイメージはなく、結構長閑なコントのような場面が続きます。一方で様々なスポーツに挑戦してこれがどれもこれもダメで、とりわけ野球のシーンが丹念に描かれていますが、実際のキートンは野球大好き・大得意人間で、このシーンでは他の出演者のプレーを指導したという、ストーリーとは真逆の裏話があるのが面白いです。

キートンのカレッジライフ ボート.jpg ロナルドは、結局は野球でも陸上でも芽が出ず、それがボート大会でコックスとなってやっと花開きますが、ここまでは前半のコント集のようなシーンの比重が大きくて、安心して観られるけれどそれ以上のものではない、単なるギャグ映画という印象だったでしょうか。それが、好きな彼女から、彼の恋敵の不良学生ジェフに監禁されているとの知らせを受け、現場へ駆けつけて恋敵をやっつけて彼女を救出する―そこまでの間に、猛烈なスピードで町を駆け抜け、生け垣をハードルのように飛び越え、不良学生が投げつけてきたものを野球のバッティングのように打ち返すという、これまで全くダメだったスポーツ種目が見違えるようなパフォーマンスとして織り込まれているのが上手かったと思います。

キートンのカレッジライフ 2階飛び移り.jpg 終盤の畳み掛けるアクションの連続は、これぞキートンの真骨頂といったところですが、棒高跳びの応用で彼女が監禁されている建物の2階に飛び移るシーンだけは初めて本格的にスタントを使ったそうで、そのスタントを演じたのは1924年のパリ五輪の棒高跳びの金メダリストだそうです(その他にも、前半の陸上競技シーンなど当時の一流どころのアスリートが出演しているのではないか)。

 ラストで老後のロナルドとメアリーや2人の墓標が並んでいるシーンが出てきて「偕老同穴」を示しているのは、キートンの作品にしては珍しい終わり方のようにも思われますが、ロナルドがメアリーを連れて教会に駆け込んだのが単なる思いつきでなかったことを念押ししたのでしょうか。
College (1927)
College (1927).jpg
キートンのカレッジライフ.jpg「キートンのカレッジ・ライフ(大学生)」●原題:COLLEGE●制作年:1927年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・W・ホーン●製作:ジョセフ・M・スケンク●脚本:カール・ハルボウ/ブライアン・フォイ●撮影:デブロー・ジェニングス/バート・ヘインズ●時間:66 分●出演:バスター・キートン/フローレンス・ターナー/アン・コーンウォール/フローラ・ブラムリー/ハロルド・グッドウィンキートンの大学生 スチール.jpg/グラント・ウィザース/スニッツ・エドワーズkeaton callage import.jpg/サム・クローフォード/カール・ハルボウ●日本公開:1927/09/15●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-21)(評価:★★★★)●併映:「キートンの大列車強盗 (将軍)」(バスター・キートン)/「キートンの線路工夫」(ジェラルド・ポタートン)

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終盤のスぺクタルシーンからラストの畳み掛け感とエンディングがいい「キートンの蒸気船」。

Steamboat Bill, Jr.(1928).jpgキートンの蒸気船 新訳版 2007.jpg キートンの蒸気船 dvd.jpg  キートンの蒸気船 木.jpg
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キートンの蒸気船 02.jpg ミシシッピー川で操業する蒸気船ストーンウォール・ジャクソン号のオーナー、ウィリアム・キンフィールド(アーネスト・トーレンス)は"スチームボート(蒸気船)ビル"と呼ばれる町の人気者。一人息子のスチームボート・ビル・ジュニア(バスター・キートン)は故郷を離れてボストンに遊学中だった。副船長のトム・カーター(トム・ルイス)と長閑な日々を送るビルだったが、強力なライバルが現われる。金持ちのジョン・ジェイムズ・キング(トム・マクガイアー)が新造船キング号で事業に乗りだしたのだ。そんな時、ボストンから息子が帰ってくる。都会風に妙に洗練された息子を見て、父は落胆。おまけに息子と、商売仇の娘メアリー(マリオン・バイロン)が恋仲になり、ますます面白くない。更ににジャクソン号が老朽化のため使用停止勧告を出されてしまう。警察にはむキートンの蒸気船 チラシ.jpgかったためビルは拘置所に入れられる。ジュニアは父親を助けようとするが、そこへ巨大な暴風雨がやってきて猛威を奮う。ミシシッピーの河川地帯は大パニックとなり、吹きすさぶ風の中、ジュニアは父親と恋人メアリー、そして命を落としかけたキングも救い出す―。

 1928年に本国で公開されたキートンの長編第10作目で、キートンが自身の撮影所で撮った最後の作品。監督にはチャールズ・F・ライスナーがクレジットされていますが、キートンの共同監督がライスナーであったとみていいのでは。日本公開は'28(昭和3)年8月。'73年から'74年にかけてのキートン作品のリバイバル上映で、「キートンのセブン・チャンス」('73年6月/併映短編「警官騒動」)、「海底王キートン」('73年7月/併映短編「白人酋長」)に次ぐ第3弾として'73年8月に上映(併映短編「鍛冶屋」)されています(以降、「キートンの探偵学入門」('73年12月/併映短編「船出」「化物屋敷」)、「キートンの恋愛三代記」('74年7月/併映短編「スケアクロウ」「マイホーム」)と続く)。

キートンの蒸気船 01 帽子.jpg 前半部分はマッチョ志向の父親が、赤ん坊の時以来久しぶりに会った息子の思いもよらなかった脆弱ぶりに幻滅しつつも、何とか一人前の蒸気船乗りに仕立て上げようと躍起になるも、なかなかそうはいかず、そのうSteamboat Bill Jr. ヒロイン.jpgち息子はライバルの蒸気船会社のオーナーの娘と恋仲になるは、自身は拘置所に入れられてしまうはの踏んだり蹴ったりというドラマ的な展開が主となりますが、父親役のアーネスト・トーレンスの演技がなかなかいいです(帽子を使ったギャグは、「荒武者キートン」「海底王キートン」にもあったことを思い出させる)。それと、キートンのことを慕って何かと面倒を見るヒロインの娘もなかなかきびきびしていて良かったですが、演じているマリオン・バイロン(1911-1985)は当時16歳であったとのこと。可愛らしいながらにも(キートン作品のヒロインの中では今風にカワイイ)、役柄のせいで随分しっかりして見えます。

キートンの蒸気船11.jpgキートンの蒸気船 15.jpg 物語が終盤に入って、残り15分のところで町は暴雨風に見舞われ、一気に映画はスぺクタルの様相を呈します。暴雨風の中、斜めになったまあ動けなかったり木に掴まって風に靡いたりするキートンの姿や、家屋が倒れてきて偶然にも窓枠の位置にいて奇跡的に助かるといったキートンの躰を張ったアクション・シークエンスは、キートン作品の中でもよく知られている場面です。

Steamboat Bill Jr. ラスト.jpg そして、ラスト5分、キートンが演じるビル・ジュニアは、これまでと打って変わって獅子奮迅の働きを見せることになりますが、ラスト15分に「起承転結」のうちの暴風雨による「転」とジュニアの活躍という「結」を集約させた作りが、前半から中盤にかけてその脆弱ぶりが繰り返し描かれていただけに効いています。暴風雨で危険な状態に晒された娘を救い、拘置所ごと漂流していた父親を救い、そして父親のライバルである彼女の父親キングをも救う―これらの神業を表情も変えず黙々とこなしていくのが小気味良く、ラストも両家の父親の和解という"感動的"な場面でありながら当人は感傷に浸ることなく、今度は漂流していた牧師を引っぱってきて、そこで"ジ・エンド"となる終わり方がいです。このラストは、同じく恋人の親同士が対立しているという「ロミオとジュリエット」風の状況設定であった「荒武者キートン」('23年)の、最後の主人公と彼を敵(かたき)にしてきた家族との和解シーンで、相手の家族が和解の印にそれぞれ拳銃を差し出したら、キートンが表情を一斎変えず、それまで服の下に隠していた何丁もの拳銃を差し出したところで終わるラストと並んで好みです。

キートンの蒸気船12.jpg この作品の「暴雨風」というモチーフは当初「大洪水」というモチーフだったそうで、「大洪水」で亡くなる人が多くいるのでコメディに相応しくないとの意見で「暴雨風」に変更されたそうですが、後で統計を調べてみたら「暴雨風」で亡くなる人の方が「大洪水」で亡くなる人より何倍も多いことが判ったとのことです。

 家屋の下隅に嵐に襲われた人が避難する場所としての地下室の入り口がありましたが、これは南部という土地柄からしておそらく「竜巻」避難用ではないでしょうか。「暴風雨」には使えるけれど、「大洪水」だと却って危ないかも。
                       
蒸気船ウィリー4-2.jpg この作品にヒントを得て作られたと言われているのが、同じ年に公開された世界初のトーキー・アニメ「蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)」('28年)で、正しくは世界初の「サウンドトラック方式」のトーキー・アニメ。それまでのBGMとして音楽が流れるだけの方式ではなく、登場人物(ミッキー)が台詞を喋ります。ミッキー・マウス作品としては3作目ですが、ミッキーの初主演作であるため、1928(昭和3)年ニューヨークのコロニーシアターで初公開された、その11月18日という日蒸気船ウィリーと愉快な仲間たち.jpg蒸気船ウィリー.jpgが「ミッキー・マウスの誕生日」とされています。但し、ディズニーがこの日をミッキーの誕生日として公式に定めたのは、生誕50周年を記念して大々的な回顧展が行われるのを機にしてのことでした(日本公開は1929年で、どの会社がいつ輸入し、どの映画館で最初に上映したのか明確ではないが、9月に新宿にあった武蔵野館でミッキー・マウス映画が公開された記録があり、この時が本邦初公開だったのではないか。因みに本国では大手配給会社に配給を断られ、セレブリティ・プロダクションという制作会社が配給した)。
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ウォルト・ディズニー (1901-1966).jpg 東京ディズニーリゾートの「ミート・ザ・ミッキー」で順番待ちの間にこの作品が流れていますが、基本的にはウォルト・ディズニーのオリジナルという感じでした。但し、原題(Steamboat Willie)などは確かに「キートンの蒸気船」(Steamboat Bill Jr.)のバロディっぽく、ミッキー・マウスの実質デビュー作がキートン作品から何らかの影響を受けているというのが興味深いです。因みに、1928年公開のこの作品から1947年までの約20年間、ミッキーの声優を務めたのはウォルト・ディズニー自身であり、自分の声を入れたのは予算の都合だったそうで、実は1作目からミニーの声も担当していたそうです(ミニーは4作目からディズニー社の女性社員に変更されたという)。

キートンの蒸気船 vhs vip.jpg「キートンの蒸気船(船長)」●原題:STEAMBOAT BILL JR.●制作年:1928年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/チャールズ・F・ライスナー●製作:バスター・キートン●脚本:カール・ハルボー●撮影:デヴ・ジェニングズ/バート・ヘインズ●時間:59分●出演:バスター・キートン/アーネスト・トレンス/マリオン・バイロン/トム・ルイス/トム・マクガイア●日本公開:1928/08●配給:ユナイテッド・アーチスツ●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-16)(評価:★★★★)●併映:「キートンのセブンチャンス(栃面棒)」(バスター・キートン)


蒸気船ウィリー dvd1.jpgSteamboat Willie .jpg「蒸気船ウィリー」●原題:STEAMBOAT WILLIE●制作年:1928年●制作国:アメリカ●監督・製作:ウォルト・ディズニー●作画:アブ・アイワークス/レス・クラーク/ジョニー・キャノン/ウィルフレッド・ジャクソン●(声の)出演:ウォルト・ディズニー●時間:7分●日本公開:1929/09●配給:ユナイテッド・アーチスツ(評価:★★★☆)
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やや無理のあるストーリー展開か。「ロッカー・ルーム戦」は気合入っていた。

拳闘屋キートン vhs2.jpg Battling Butler(1926).jpg 拳闘屋キートン 01.jpg
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拳闘屋キートン テント.jpg アルフレッド・バトラー(バスター・キートン)は何不自由なく暮らす大富豪の御曹司だが、父親から大自然の中でキャンプしてもっと逞しくなれと言われ、執事のマーティン(スニッツ・エドワーズ)を連れ田舎のキャンプ場へと出向くも、そこでも執事に何もかもやってもらう生活を続けていた。そんな中、地元の美人の娘(サリー・オニール)と知り合い、早速結婚を申し込むが、こんなひ弱な男に娘はやれないと彼女の父と兄に反対をされてしまう。そこで、新聞でアルフレッド・バトリング・バトラーなる同名の人物が近々ボクシングの世界戦拳闘屋キートン 02.jpgをするという記事を見つけたマーティンが、アルフレッドのことをこの人物こそバトラーなのだと美人の父と兄に告げ、一気に婚約成立となる。本物のバトラーは、試合に負ければ後は何とかなるというマーティンの読みに反して世界戦に勝利してしまい、本物に間違えられたアルフレッドは地元で大変な歓迎を受け、事実を告白する勇気がないまま彼女と結婚してしまうが、バトラーは次は「アラバマの人殺し」というボクサーと試合をすることになっていた。アルフレッドは仕方なくバトラーのキャンプ地へ行くが、そこには本物のバトラーが妻君同伴でいて、さらに娘が追いかけてきたために話はややこしくなり、遂にアルフレッドがリングに立つことになる―。

 バスター・キートンの1926年9月本国公開作品。ヤマニ洋行の配給で1927(昭和2)年12月31日に日本で公開されたときの邦題は「拳闘屋キートン」で、日本での70年代のリバイバル・シリーズの際の邦題は「ラスト・ラウンド」となっていますが(シリーズの途中打切りのため上映されず)、その後、アテネ・フランセなどで自主上映された際は「拳闘屋キートン」に戻っています(VHSタイトルも「拳闘屋キートン」)。

拳闘屋キートン3.jpg キャンプ生活に入っても御曹司風の生活スタイルを続けるキートンが可笑しく、これでは何のためにキャンプに来たのか分からない...そのキート拳闘屋キートン スパ.jpgンにまめまめしく仕えるスニッツ・エドワーズ演じる執事がいい味出していますが(彼は翌年の「キートンのカレッジ・ライフ」('27年)ではカレッジの校長を演じている。但し、この作品の方がよりキーパーソン的役回り)、彼が主(あるじ)のために良かれと思ってついた嘘が、どんどん状況を悪くしていき、とうとうアルフレッドは世界戦のリングに上がる羽目になり、トレーナーの指導を受けることになるといった展開です。

 「キートンのセブン・チャンス」('25年)と「キートンの大列車強盗」('26年)の間の作品だと思うと、それらに比べてやや落ちるでしょうか。やはりちょっと展開に無理があるかなあという感じ(この"無理さ加減"には一応オチがあるのだが)。オリジナルの脚本も、結局アルフレッドは世界戦に臨まなくて済んだというもので、そこでお終いだったのが、それだと映画的には面白くないので、最後のアルフレッドvs.バトラーの「ロッカー・ルーム戦」を入れたようです。

拳闘屋キートン ロッカー.jpg 喜怒哀楽を見せないはずのキートンが、バトラーに打ちのめされて怒り心頭に発して拳闘屋キートン ロッカー2.jpg反攻に出るという、「怒」の部分が顕著に出ているのが、やや一連のキートン作品と異なるように思いましたが、そうでもしないと、アルフレッドの反攻の説明がつきにくかったというのもあったのではないでしょうか。マ-ティン・スコセッシはこのシーンを何度も見直して、「レイジング・ブル」('80年)の参考にしたとかで、それくらい、両者のボクシング・シーンは気合が入っています。

拳闘屋キートン ラスト.jpg このキートンの本気度は、チャップリンが「ノック・アウト」('14年、27分)、「拳闘」('15年、30分)と2本のボクシング映画を撮っているので、それに対する意識もあったのではないかなと個人的には思ったりもしました(ロイドもボクシング映画を撮っている。当時、ボクシングは極めて人気の高いスポーツだったということもあるのか)。脆弱な優男が困難な状況を経て逞しく変身し、最後に女性の心からの愛を得るというという流れは、一応、キートン作品の定番を踏襲しています。

Battling Butler (1926).jpg「拳闘屋キートン(キートンのラスト・ラウンド)」●原題:BATTLING BUTLER●制作年:1926年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン●製作:バスター・キートン●脚本:アル・ボースバーグ/レックス・ニール/チャールズ・H・スミス/ポール・ジェラルド・スミス●撮影:デブロー・ジェニングス/バート・ヘインズ●原作戯曲:スタンリー・ブライトマン/オーステイン・メルフオード●時間:68分●出演:バスター・キートン/サリー・オニール/スニッツ・エドワーズ/フランシス・マクドナルド/トム・ウィルソン●日本公開:1927/12●配給:ヤマニ洋行(評価:★★★)
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キートン初の60分超作品だが傑作。プロットの巧みさに加え、ラスト15分のアクションは神業。

荒武者キートン dvdd2.jpg 荒武者キートン dvd1.jpg 荒武者キートン dvd4.jpg OUR HOSPITALITY 1923 6.jpg
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荒武者キートン ポスター.jpg 1810年、隣同士のキャンフィールドとマッケイ家の相克は、遂に当主同士の相撃ちで倒れるという悲劇を生んだ。争いのむなしさを儚んだマッケイ夫人は幼い息子ウィリーを連れNYの伯母を頼った。が、キャンフィールドの弟は子々孫々までの復讐を誓うのだった。それから10数年が経ち、既に母を亡くした成長したウィリー(バスター・キートン)の許に父の遺産相続の報せ。彼は田舎の豪華な邸宅を思い浮かべ、即座に故郷への旅を決意。伯母から、くれぐれもキャンフィールドに気をつけろ、と言い聞かされて、長距離特急の旅客となる―(allcinema ONLINE)。
Aramusha Keaton (1923)
Aramusha Keaton (1923).jpg
 1923年11月に本国で公開されたキートンがキートン・プロで作った初めての60分を超える作品で、「IMDb」による日本での一般公開は1925(大正14)年12月、「映画 MOVIE-FAN」も同年12月となっていますが、丁度1年前の'24(大正13)年12月にすでに上映されていた記録もあり(『昭和外国映画史』毎日新聞社)、そうなるとキートンが監督した中で最初の長編作品「キートンの恋愛三代記」('23年、日本公開'25年3月)より数か月早い日本公開だったことになります。DVDの販売元のIVCの口上にも「キートンの長編第1作は「キートンの恋愛三代記」(1923)だが、日本公開はこちらが先になり、キネマ旬報の娯楽的優秀映画のベストテンの8位に選ばれた」とあり、実際第2回(1925年度)キネマ旬報ベストテンにランクインしているので1924年公開というのが正しいことになるようです(キネ旬ベストテンは第1回と第2回だけ外国映画のみが対象で、芸術的映画と娯楽的映画に分けてベストテンを発表していた)。過去に「キートンの激流危機一髪!」の邦題で公開されたこともありますが、1979年12月にリバイバル上映された際は「荒武者キートン」の方を使っています。

OUR HOSPITALITY 1923 自転車.jpg荒武者キートン 0.jpg 導入部分の、1810年にマッケイ家の父親とキャンフィールド家の若者が撃ち合いで共に死んでしまい、マッケイ家の母親が息子ウィリーを連れて南部からNYに引っ越すまでは、コメディと言うより普通のドラマという感じであり、それが約20年後に話が飛んで、キートンが変てこな自転車に乗って登場するところからコメディ映画らしくなりますが、キャンフィールド家とマッケイ家の確執を描いた冒頭のシリアスなムードが、後半のロミオとジュリエット的な話の展開に効果を及ぼしているように思います。

OUR HOSPITALITY 1923 キシャ83.jpg ウィリー(キートン)は家を継ぐための南部への里帰りの途中、美しい娘と列車に乗り合わせる―「列車」といっても、"特急"というのは名ばかりの、遊園地にあるような機関車に、馬車2台を繋いで客車としたような極めて初期のもので、矢鱈あちこちにうねりや歪みのある線路our_hospitality_train.jpgをのんびり走行し、ウィリーの飼い犬が結局目的地までついてきてしまうような超スロースピードのシロモノです。しかも、途中のレールポイントで客車は機関車とはぐれたうえに、線路から外れて地面の上を走っている始末。前半部分は、この「列車」が主役と言ってもよく、3年後に作られる「大列車強盗(将軍)」('26年)の萌芽が見られます。

荒武者キートン 9.jpg この珍奇な鉄道の旅を通してウィリーと娘は親しくなり、自分の実家が想像していた豪邸とは違ってオンボロの掘立て小屋だったという彼でしたが(空想の中で豪邸が本当にぶっ飛ぶのが可笑しい)、その娘からは自邸に晩餐会に招かれる―しかし、この娘が何と、伯母から「くれ荒武者キートン 1.jpgぐれもキャンフィールドに気をつけろ」と言われていたそのキャンフィールド家の娘であり、ウィリーがマッケイ家の跡取り息子であることに気づいたキャンフィールド家の父親と息子2人は、彼に対して親切を装いながらもその荒武者キートン 2.jpg命を付け狙いますが、「敵(かたき)であっても、自分の家に訪問している間は撃ってはならない」という先祖代々の家訓があって、客OUR HOSPITALITY 1923 8.jpgとしてウィリーが邸内に居る間は、すぐ手の届く所に仇敵がいながらも撃てないでいる―やがて、ウィリーも背景状況と事態の重大さを知ることになり、晩餐会後に彼を外に出そうとするキャンフィールド家の誘いに乗らず、取り敢えず家に居ついて娘の傍に寄り添いながら脱出の機会を窺う、その辺りの両者の駆け引きを飽きさせずに見せます。

 一方で娘はウィリーがマッケイ家の息子だと分かっても彼のことを恋慕しているという、こうしたロミオとジュリエット的なシチュエーションは、「キートンの蒸気船(キートンの船長)」('28年)でも繰り返されます。但しここまでは、プロットはしっかりしているものの、アクション部分でややもの足りないかなとつい思ってしまうのですが、この作品はこのままでは終わりません。ウィリーが女装して邸を脱出してからそれをキャンフィールド家の面々が追走するラスト15分に、崖から急流、そして滝へと驚嘆すべきアクションシーンが詰まっています。

荒武者キートン 川.jpg荒武者キートン 滝.jpg 断崖でのロープアクションは実によく練られているように思いましたが、川に落ちたキートンが激流に呑まれるシーンは、実際にロープが切れて生じたアクシデントだったそうです。但し、激流に流されるシーンだけでも命懸けであると思われるのに、そこからがまた凄く、同じく激流に落ちた娘が滝から落ちるのを、キートンが空中ブランコの曲芸師さながらに受け止めるシーンは、一体どうやって撮ったのか、殆ど奇跡に近いような神業的アクションだったように思います。

バスター・キートン/ナタリー・タルマッジ.jpg キートンの初長編作品でありながら、本作をキートンの最高傑作に推す人も少なからずいるというのも頷けます。ヒロインの娘を演じるのはキートンの当時の妻のナタリー・タルマッジで、冒頭のウィリーの赤ん坊時代はキートン・ジュニア(ナタリーとの間に生まれた赤ん坊)、更に、客車を置き去りにしてしまう間抜けな機関士に扮しているのは、キートンの父親で寄席芸人だったジョー(ジョセフ)・キートンと、キートン・ファミリー総出演の作品であり、この辺りのチームワークの良さも作品のテンポの良さに関係していたのかもしれません。個人的にも、「海底王」「セブンチャンス」「大列車強盗」に先立つ作品でありながら、それらに比肩し得る作品であるように思います。
Buster Keaton and Natalie Talmadge with Junior and Bob

「荒武者キートン(キートンの激流危荒武者キートン dvd3.jpg荒武者キートン 家.jpg機一髪!)」●原題:OUR HOSPITALITY●制作年:1923年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/ジョン・G・ブリストーン●製作:ジョセフ・M・スケンク/バスター・キートン・プロダクションズ●脚本:クライド・ブラックマン/ジャン・ハベッツ/ジョセフ・ミッチェル●撮影:ユージン・レスリー/ゴードン・ジェニングス●時間:67分●出演:バスター・キートン/ナタリー・タルマッジ/ジョー・ロバーツ/ジョセフ・キートン/ラルフ・ブッシュマン/クレイグ・ワード/モンテ・コリンズ/キティ・ブラッドバリー/バスター・キートン・Jr./アーウィン・コネリー/エドワード・コクソン/ジェームズ・ダフィー●日本公開:1924/12●配給:国際映画社(評価:★★★★)
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「海底」シーンが秀逸。決して「アクション度の低い作品」では無かった。

海底王キートン シネマ2 チラシ.jpg海底王キートン vhs.jpg 海底王キートン dvd.jpg Navigator [DVD] [Import].jpg 
1973(昭和48)年リバイバル時チラシ/「海底王キートン【字幕版】 [VHS]」「キートン「海底王キートン」/「キートンのカメラマン」 [DVD]」「Navigator [DVD] [Import]
海底王キートン(1924) 0.pngTHE NAVIGATOR 02.jpg 親の遺産で暮らす金持ちお坊ちゃまのロッロ(バスター・キートン)は、欲しい物は何でも簡単に手に入ると思っていた。近所のお嬢さまベッツィ(キャサリン・マクガイア)に不用意に求婚するが、愛はそう簡単ではなく、先に予約していた船でハネムーンに行く予定が、失恋の船旅となる。しかし、彼が乗った船は某国のスパイの謀略に巻き込まれて漂流し、彼は船に一人残されてしまったかにみえたが、その船には偶然にもベッツィも乗っていた―。

海底王キートン(1924) 4.jpg 前作「キートンの探偵学入門」(1924年4月米国公開)に続くキートン・プロでの長編第4作(同年10月公開)で、共同監督としてドナルド・クリスプを起用。彼は後にジョン・フォード監督の「わが谷は緑なりき」('41年)の家長役など役者としても知られるようになりますが、この「海底王THE NAVIGATOR(1924) 料理.jpg」では、キートンをぎょっとさせる「写真の男」として登場しています。キャサリン・マクガイアは前作「探偵学入門」に続いての相手役で、キートンと気の合う演技を見せますが、ドナルド・クリスプの方は、キートンの考えにあまりに口出しするため、撮影期間の途中でキートンが共同監督を解任してしまったそうです。
THE NAVIGATOR(1924)  キス.jpg 前半部分は、豪華客船に取り残された2人が最初は互いに行き違ってばかりでなかなか遭遇し得ないなど、細かいコント風の遣り取りを見せますが、従来の一般的なドタバタ喜劇の定番のパイ投げのような場面は無く、あくまで長編であることを意識した作りになっています。
 一旦はベッツィにフラれたロッロではあったものの、2人が意図せずして船内で新婚生活のような暮らしを始めることになるという微笑ましい設定がよく生きているように思います(2人が言い争っている際の影絵がキスしているように見えるスチールが巧み)。

THE NAVIGATOR(1924).jpg 原題になっているこのハワイ行き客船「ナビゲーター号」は、「バフォード号」という大型客船が廃棄処分になるという情報を得たキートンが2万5千ドルで買い上げたそうで、船の備品がギャグに上手く使われており、おそらくキートンは"居抜き"でこの客船を買ったのではないでしょうか。

 やがて船は人食い人種のいる島へ漂着し、ベッツィは原住民にさらわれる―この辺りからぐーんとスケールアップしてきて、何となく「小品」とのイメージがあったのですが、今観直してみると、やはりお金もかかってっているし、キートンのアクションの魅力も十分に発揮されていました。

 「海底王キートン」とのタイトルの通り、キートンが船の修理海底王キートン(1924) キートン.jpgのために潜水服を着て海に潜る「海中シーン」があり、これがよく出来ています。THE NAVIGATOR 海中.jpg実際の撮影はシエラネヴァダ山中にあるタホ湖(かつては世界第3位の透明度を誇った)で行われましたが、水温が低すぎて30分と潜っていられず、水中シーンだけで4週間も要したそうです。加えて、当時の潜水技術からするとかなり危険な撮影でもあったように思われます(「アクション度の低い作品」との見方は間違っていたかも)。しかしながら、大ダコはどうやって撮ったのか?(ある部分では"特撮映画"とも言える作品か)

Buster Keaton and Kathryn McGuire
Buster Keaton and Kathryn McGuire.jpg海底王キートン(1924) 3.jpg 「人食い人種」の描かれ方が今の時代海底王キートン(1924) クルマ.jpgからするとどうかというのはありますが、和暦でいえば大正13年の作品になるわけで、これは仕方ないか。冒頭で向いの家に行くにも運転手付の車を使っていた「お坊ちゃまロッロ」が、最後は一人の頼りがいある男として女性の愛を獲得するという成長物語にもなっていて、観ていて心地よい作品です。加えて"映画史上初の海中シーン"などもあったためか、実際、当時としても大ヒットし、この作THE NAVIGATOR(1924) ボート.jpg品によってキートンはドル箱スターの仲間入りを果たします(因みに、「Wikipedia」によれば、キートン作品の中で興行収入において最も成功した作品であるとのこと)。
 勿論、肩肘張って観るような作品ではないです。「人食い人種」が畏怖した潜水服姿のキートンがむしろ何とも言えず愛らしく、ベッツィがそのキートンを筏代わりにして危機を脱する場面などは、よく考え付いたアイデアだなあと感心させられました。
The Navigator (1924)
The Navigator (1924).jpg
keaton The Navigator.jpg海底王キートン 10.jpg「海底王キートン」●原題:THE NAVIGATOR●制作年:1924年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン/ドナルド・クリスプ●製作:ジョセフ・M・シェンク●脚本: ジーン・ハヴェッツ/クライド・ブラックマン/ジョセフ・ミッチェル●撮影:エルジン・レスリー/バイロン・フーク●時間:59分●出演:バスター・キートン/キャスリン・マクガイア/フレデリック・ブルーム/ノーブル・ジョンソン/H・M・クラグスト/クラレンス・パートン●米国公開:1924年10月(評価:★★★★)


爆笑コメディ劇場2 DVD10枚組.jpg爆笑コメディ劇場 2 チャールズ・チャップリン バスター・キートン マルクス兄弟 ローレル&ハーディ BCP-062 [DVD]
keaton The Navigator2.jpg《読書MEMO》
●「爆笑コメディ劇場2」収録作品
1. 海底王キートン ( 59分 / モノクロ・サイレント / 1924年 )
相手もいないのに結婚したくなったので、家の向かいの海運王の娘にプロポーズするもすげなく断られた大富豪の御曹司ロロ。新婚旅行用に予約していた客船に一人さびしく乗るはずが、間違えて娘の父親の船に乗ったのが運の尽き...。
2. マルクス一番乗り ( 109分 / モノクロ / 1937年 )
競馬場近くの診療所は経営難に陥っていた。オーナーのジュディは、富豪夫人の強い希望で名医ハッケンブッシュ博士を招くことになったが、彼は馬専門の獣医だったのだ。診療所の運命やいかに!マルクス兄弟の強烈なギャグが冴えわたる傑作。
3. キートンの鍛冶屋 ( 同時収録「キートンの空中結婚」 : 42分 / モノクロ・サイレント / 1922-3年 )
鍛冶屋で助手として働くキートンはドジの連続。親方のいないある日、蹄鉄を馬に打とうとして失敗したり、車を修理しようとしてポンコツにしてしまったりと、やることなすことヘマばかり...。爆笑必至の「キートン空中結婚」を同時収録。
4. チャップリン醜女の深情 ( 同時収録「チャップリンの夜遊び」 : 106分 / モノクロ・サイレント / 1914-5年 )
詐欺師はある娘を誘惑して家から大金を持ち出させることに成功するが、彼女を捨てた後で、娘が億万長者になったことを知り・・・。酔っ払ったチャップリンが行く先々でトラブルを起こす「チャップリンの夜遊び」を同時収録。
5. マルクス兄弟 珍サーカス ( 87分 / モノクロ / 1939年 )
ジェフが経営するサーカス団は借金まみれ。彼は友人と弁護士に相談し、ジェフの裕福な叔母が主催するパーティーで興行し、負債を返済しようとするが...。ゴリラも登場するクライマックスの空中ブランコの曲芸シーンは圧巻。
6. 天国二人道中 ( 68分 / モノクロ / 1939年 )
ヨーロッパ旅行中、パリで踊り子に恋をしたハーディ。結婚を決意していたハーディだったが、彼女にはすでに夫がいた。心の傷を癒すためローレルとともに外人部隊に入隊したのはいいが、ハチャメチャな大騒動を巻き起こしてしまう。
7. チャップリンのお掃除 ( 同時収録「チャップリンの寄席見物」 : 48分 / モノクロ・サイレント / 1915年 )
とある銀行の掃除係チャップリンは、エドナが自分を愛していると早とちり。しかし、本当に彼女が好きだったのは...。寄席にやってきたチャップリンが舞台裏でハチャメチャな騒動を起こす「チャップリンの寄席見物」を同時収録。
8. キートンの歌劇王 ( 81分 / モノクロ・サイレント / 1932年 )
真面目だが変わり者の大学教授は、遺産相続で大金持ちになったと思い込まされ旅に出る。道中、どさ回りの貧乏劇団と知り合う。気が大きくなった教授は、彼らのスポンサーとなり、ブロードウェイで興行をすることになるが...。
9. チャップリンの海水浴 ( 同時収録「彼の更正」「メーベルの身替り運転」 : 43分 / モノクロ・サイレント / 1914-5年 )
海水浴にやってきたチャップリンが二組の夫婦を巻き込んで繰り広げる、ナンパあり、喧嘩ありのドタバタコメディ。脇役として出演している「彼の更生」、レーサーに嫉妬する男を演じる「メーベルの身替り運転」を同時収録。
10. ユートピア ( 82分 / モノクロ / 1951年 )
遺産を相続したローレル。その中には太平洋の島もあり、さっそくハーディとともに船でその島に向かう。幾多の冒険の末、島に着くが、待っていたのはサバイバル生活だった。そして人が訪れるようになると彼らは島を独立国とするが...。

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虚構と現実の交錯と奇抜なオープニング。W・ホールデンの実生活での死を想起した。

Sansetto ôdôri (1950).jpgサンセット大通り.jpg 「サンセット大通り」.jpg 
サンセット大通り [DVD]
Sansetto ôdôri (1950)
Movie Poster of Sunset Boulevard (1950) Gloria Swanson/William Holden 
Movie Poster of Sunset Boulevard (1950).jpgSUNSET BOULEVARD2.jpg 売れないハリウッドの脚本家ジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)は借金取りから逃れる途中サンセット大通りの荒れた邸宅に迷い込むが、そこには、サイレント時代の大物ハリウッド女優ノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)が執事マックス(エーリッヒ・フォン・シュトロハイム)と2人で住んでいた。映画界へのカムバックを図るノーマは、自ら書いた脚本の手直しをジョーに依頼し、彼を住み込ませて仕事をさせるが、2人の関係はやがて仕事を超えたものとなり、自分を独占しようとするノーマに嫌気がさしたジョーは屋敷を出て行こうとする―。

グロリア・スワンソン.bmp ビリー・ワイルダー(1906-2002/享年95)監督が、往年のスター女優の狂気とそれに翻弄されるジゴロのような立場の男をサンセット大通り」01.jpg描いた作品ですが、落ちぶれた今も再起を夢見る元女優を、グロリア・スワンソンが鬼気迫る演技でみせていて、彼女は実際この時61歳で既に落ち目女優だったそうで、この役をよく引き受けたものだなあと思います(ノーマ役の候補は二転三転し、スワンソンも最初は断ったそうだが)。                         

SUNSET BOULEVARD  Erich von Stroheim.jpgSUNSET BOULEVARD  Buster Keaton.jpg グロリア・スワンソンに限らず、サイレント時代の名優が多く出ているのがこの作品の特徴で、執事役のエーリッヒ・フォン・シュトロハイムもそうだし、更にはノーマ邸でトランプゲームに興じる「かつての大物俳優達」も、喜劇王バスター・キートンをはじめ皆サイレント映画時代のスター達がカメオ出演しています。
Erich von Stroheim/Buster Keaton

The beginning of Sunset Boulevard.jpg この映画のオープニングは、最初はモルグ(死体置き場)で死体同士が、自分が死んだ経緯を語り合うというシュールなものが用意されていたそうですが、プールにうつ伏せに浮かんだ主人公ジョーの死体のモノローグから始まるというのもやはり奇抜だと思いました。

 往年のスターを起用することで虚構と現実を交えている点が作品の妙ですが、モンゴメリー・クリフト、ジーン・ケリーが断ったためにジョー役に抜擢された当時無名のウィリアム・ホールデンは、この作品で一躍名を馳すも、後にアルコール依存症となり、'88年、自宅で転倒して頭を切って血の海にうつ伏せになって死んでいるのを死後数日経ってから発見されていて、個人的にはそのことが冒頭のシーンとダブり何か因縁めいたものを感じなくもありませんでした。

サンセット大通り10.jpg「サンセット大通り」●原題:SUNSET BOULEVARD●制作サンセット大通り」02.jpg年:1950年●制作国:アメリカ●監督:ビリー・ワイルダー●製作:チャールズサンセット大通り 和田誠ポスター.jpg・ブラケット●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:110分●出演:グロリア・スワンソン/ウィリアム・ホールデン/エリッヒ・フォン・シュトロハイム:マックス/バスター・キートン/ナンシー・オルソン●日本公開:1951/10●配給:セントラル●最初に観た場所:銀座文化劇場 (88-12-12) (評価:★★★★)
「銀座文化/シネスイッチ銀座」3階「銀座文化劇場」/地階「シネスイッチ銀座」(1987-1997)
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpg シネスイッチ銀座.jpg銀座文化劇場 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」

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「キートン・ライズ・アゲイン」でレール・テクニックが体に染み付いたものだったことを知る。

キートンの大列車追跡.jpg世界名作映画全集 99 キートンの大列車追跡.jpg 『キートンの大列車追跡』(1926) 21.jpg Buster Keaton.jpg
世界名作映画全集99 キートンの大列車追跡 [DVD]
「キートンの大列車追跡」1977年リバイバル公開時チラシ

THE GENERAL  Buster Keaton.jpg アメリカ南北戦争を舞台にした機関車追跡劇。キートンが機関士を務める蒸気機関車の名が「将軍(General)」。愛する機関車を北軍に奪われ、彼は別の機関車で追走するが、その奪われた機関車には彼の恋人も乗っていた―。


キートン将軍 vhs.jpg キートン黄金期の代表作で、日本初公開時のタイトルは「キートン将軍」で、後に「キートンの大列車強盗」となり、70年代のリバイバル上映時に「キートンの大列車追跡」という邦題になっていますが、その方が内容に沿ったタイトルと言『キートンの大列車追跡』(1926) .jpgえるかも(80年代の渋谷ユーロスペースでの自主上映では「キートンの大列車強盗」のタイトルを使用し、最近のフィルムセンターでの上映は「キートン将軍」、シネマヴェーラ渋谷での上映では「キートンの大列車強盗」を使用している)。

 最後の方で本物の機関車を鉄橋ごと川に落下させるシーンがあり、この場面だけで映画製作予算42万ドルの大半を使っているとのことです。そうしたスケールの大きさもさることながら、とにかく、機関車の線路の切り替えのテクニックを使ったアクション描写が巧みな映画でした。今でこそキートン映画の上映会の定番作品ですが、公開当時の評価は「かつての労作より遥かに劣る」(NYタイムズ)など惨憺たるもので、興行収入も「拳闘屋キートン」('26年)の77万ドルに対して47万ドルに止まったということです。

 キートンは、MGM解雇、離婚やアルコール中毒などによる没落期を経て、50代半ば頃から映画界に復帰しましたが(「サンセット大通り」('50年)に"かつての大物俳優"役で出演している)、70歳近くなった晩年にも「線路工夫(The Railrodder)」('65年/カナダ、ジェラルド・ポタートン監督)という25分ほどの小品を撮っています。

The Railrodder dvd.jpg これは、カナダ観光局がキートンを招聘して作った作品で、ロンドンにいたキートンがふとした思いつきでカナダに渡り(泳いで!)、偶々休息をとったトロッコ(カナディアン・ナショナル鉄道の「CN」のロゴ入り)が動き出して、結局それに乗って風光明媚なカナダの各地を旅するという、いわば「レイルロード・ムービー」。背景的に登場する人はいるものの、出演者は実質、終始The Railrodder 11.jpgトロッコに乗りカナダ各地を駆け抜ける(その間トロッコに乗ったまま、料理したり洗濯したり鳥撃ちしたり編み物したりする)キートンのみで、カラー作品ではあるもののセリフ無しという無声映画のスタイルを踏襲しています。「大列車強盗」と同趣の、つまり"レール・テクニック"を前面に押し出したものとなっており、高齢となったキートンが自らアクションっぽいこともやっていれば、随所でしっかり笑いもとっています。人生に浮き沈みのあったキートンが、晩年にこうした原点回帰的な作品を撮っているというのは嬉しいことであり、それがドラマなどでなく、純粋にテクニカルな要素を前面に出した、スピード感溢れる乾いたコメディになっている点が尚のこと良いです。爆笑コメディと言うより、キートンが次々と繰り出す懐かしいギャグやクスッと笑える妙技を(サイレント時代と同じく笑わないが、"無表情"ではなく表情豊かになっている点に注目)、カナダの美しい風景と共に楽しめる作品で、キートンを招聘したカナダ観光局にも一票を投じたく思います。
                     "Buster Keaton Rides Again / The Railrodder "(輸入版)
BUSTER KEATON RIDES AGAIN1.jpgRailrodder & Buster Keaton Rides Again.jpg その「線路工夫」もさることながら、「線路工夫」のメイキング・ムービーである「キートン・ライズ・アゲイン」('65年/カナダ)というのがこれまた興味深く、70歳に間近いキートンが、自ら線路の切り替えテクニックの指導をし、しばしばとり憑かれたように自分で機械の調整や操作をしています。この記録映画の中で老優の日常の生活ぶりも紹介されていますが、個人的には、「線路工夫」の撮影の様子が、失った何かを取り戻そうとしている老人に見えて、切ないような印象も受けました。でも、「線路工夫」の見事な出来映えからするに、70歳間際であれだけのものを作ろうとするならば、やはり、とてつもない集中力(気力・体力)が必要なのだろなあとも思いました。

 共にキートンが亡くなる1年前の映像ですが、とりわけ「キートン・ライズ・アゲイン」により、老優の映画と機関車への執着を感じさせるとともに、「大列車強盗」におけるレール・テクニックが彼の体の真底に染み付いたものであったことを、改めて思い知りました。

キートンの大列車強盗 vhs.jpgBUSTER KEATON THE GENERAL.jpg「キートンの大列車強盗 (将軍)」●原題:THE GENERAL●制作年:1926年●制作国:アメリカ●監督・脚本:バスター・キートン/クライド・ブラックマン●製作:ジョセフ・M・シェンク●撮影:デヴラクス・ジェニングス/バート・ヘインズ●音楽:コンラッド・エルファース●時間:106分●出演:バスター・キートン/マリオン・マック/グレン・キャベンダー/チャールズ・スミス●日本公開:1926/12●配給:東和●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-21)●2回目:池袋文芸座ル・ピリエ(86-02-01)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「キートンのカレッジ・ライフ(大学生)」(バスター・キートン)/「キートンの線路工夫」(ジェラルド・ポタートン)●併映(2回目):「我輩はカモである」(マルクス兄弟)

BUSTER KEATON The Railrodder1.jpgBUSTER KEATON The Railrodder01.jpg「キートンの線路工夫」●原題:THE RAILRODDER●制作年:1965年●制作国:カナダ●監督・脚本:ジェラルド・パッタートン●製作:ジュリアン・ビッグス/ナショナル・フィルム・ボード・オブ・カナダ作品●撮影:ロバート・ハンブル●音楽:エルドン・ラスバーン●時間:25分●出演:バスター・キートン●日本公開:1980/02●配給:有楽シネマ●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-21)(評価:★★★☆)●併映:「キートンの大列車強盗 (将軍)」(バスター・キートン)/「キートンのカレッジ・ライフ(大学生)」(バスター・キートン)

BUSTER KEATON RIDES AGAIN 2.jpgBUSTER KEATON RIDES AGAIN2.jpg「キートン・ライズ・アゲイン」●原題:BUSTER KEATON RIDES AGAIN●制作年:1965年●制作国:カナダ●監督・撮影:ジョン・スポットン●製作:ジュリアン・ビッグス/ナショナル・フィルム・ボード・オブ・カナダ作品●時間:61分●出演:バスター・キートン/エレノア・キートン/ジェラルド・ポタートン●日本公開:1980/02●配給:有楽シネマ●最初に観た場所:アートシアター新宿 (84-05-27)(評価:★★★☆)●併映:「キートンの文化生活一週間」(バースター・キートン)/「デブ君の浜遊び」(バースター・キートン)/「デブ君の自動車屋」(ロスコー・アーバックル)

「荒武者キートン」チラシ(1977(昭和52)年/日劇文化)
キートンの大列車強盗13-0.jpg 

キートンの大列車強盗13-1.jpg
 
爆笑コメディ劇場1.png爆笑コメディ劇場 DVD10枚組 キートン将軍 我輩はカモである マルクス兄弟オペラは踊る キートンの蒸気船 猛進ロイド キートンの大学生 ロイドの牛乳屋 チャップリンの拳闘 チャップリンの舞台裏 チャップリンの駈落 BCP-047

バスター・キートン Talking KEATON DVD-BOX.jpgバスター・キートン Talking KEATON DVD-BOX
【収録作品】
1「キートンのエキストラ」FREE AND EASY 1930年 90分
監督:エドワード・セジウィック 出演:アニタ・ペイジ/ロバート・モンゴメリー
2 「キートンの決死隊」 DOUGHBOYS 1930年 79分
監督:エドワード・セジウィック 出演:クリフ・エドワーズ/サリー・アイラース
3「キートンの恋愛指南番」PARLOR, BEDROOM AND BATH 1931年 72分
監督:エドワード・セジウィック 出演:シャーロット・グリーンウッド/レジナルド・デニー
4 「紐育(ニューヨーク)の歩道」SIDEWALKS OF NEW YORK 1931年 73分
監督:ジュールス・ホワイト/ジオン・マイヤーズ 出演アニタ・ペイジ/クリフ・エドワーズ
5 「キートンの決闘狂」 THE PASSIONATE PLUMBER 1932年 74分
監督:エドワード・セジウィック 出演:オーギュスト・トレール/アイリン・パーセル
6「キートンの歌劇王」SPEAK EASILY 1932年 82分
監督:エドワード・セジウィック 出演:ルース・セルウィン/セルマ・トッド
7「キートンの麦酒王」 WHAT NO BEER? 1933年 66分
監督:エドワード・セジウィック 出演:フェリス・バリー/ジミー・デュランテ
【特典ディスク】「キートンの大列車追跡」 THE GENERAL 1926年 106分
監督:バスター・キートン/クライド・ブラックマン 出演:マリアン・マック/グレン・キャベンダー

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キートン映画では、面白さ、スリル、スピードともこの作品が一番だと思う。

 キートンのセブン・チャンス チラシ.jpg '73年リバイバル公開時チラシ

キートンのセブン・チャンス01.jpg キートン演じる破産寸前の青年実業家のもとにある日見知らぬ弁SEVEN CHANCES  Buster Keaton.jpg護士が訪れ、27歳の誕生日の午後7時までに結婚すれば700万ドルの遺産が彼に与えられるという親戚の遺言書を示すが、その誕生日というのは何と今日だった! 彼の"想い娘"は金目当ての結婚は嫌だと言い、仕方なく新聞にその旨の「花嫁募集」広告を出したところ、7000人もの花嫁候補に追われる羽目になる―。

「キートンのセブンチャンス (栃面棒)」.jpg ということで、"7並び"から「セブン・チャンス」というタイトルになるわけですが、日本公開時のタイトルは「キートンの栃面棒」で、"栃面棒"というのは"栃の実"で作る栃麺という蕎麦の類をこねる棒のことで、転じて「面食らう」ことらしいですが、当時の日本では一般的に使われていたのかなあ、こんな言葉が。

セブン・チャンス.jpg キートンがウェディング・ドレスを着た大勢の花嫁候補に追いかけられるシーンは、彼のスラップスティック・コメディの真骨頂ですが、それ以上にスゴイのが、丘陵地に差し掛かったところで、花嫁が岩に転じたのかどうかよくわからないけれども、ゴロゴロ転がり落ちてくる無数の巨大岩石(全部で1500個)を彼がよけるシーンで、コメディとしてもそうですが、それ以上にアクション映画としてスゴイ! 転がってくる無数の岩を次々とかわす場面などはシュールでもあり、一度見ておいて損は無いです。

 実はこの大小合わせて1500個もの石がキートンを追いかけてくるシーン、全くの偶然から生まれたとのことです(以下、『バスター・キートン自伝』より)。
 ―― 花嫁募集の広告で集まってきた女性の大群から逃げるという短い場面があってね。私は彼女たちを野外に連れ出して、追い掛けっこの撮影を始めた。丘の斜面を駆け下りている時だった。丘には石がいくつもあって、私はその一つに偶然にぶつかってしまったんだ。それが転がり出して、別の二つの石にぶつかった。後ろを振り返ると、さっきの三つの石が転がり落ちてくる。ボーリングのボールぐらいのが三つ、私の方に向かってくるんだ。必死に走って逃げるしかなかった―。

キートンのセブン・チャンス02.jpg 「海底王キートン」('24年)がヒットしたにしても依然としてチャップリン、ロイドに比べるとややマイナーだったキートンが、人気面で彼らと肩を並べる契機となった作品であり、キートン映画の中で「大列車強盗(将軍)」とこの作品のどちらを最高傑作とするか迷うところですが、個人的には面白さ、スリル、スピードともこの作品が一番だと思います。チャップリンのように"感動することを迫られる"ようなウェット感も無く、ただただ驚き笑えるという点では、この岩石落しのシーンも含め、スラップスティック・コメディの傑作と言えるでしょう。
 
 
キートンのセブン・チャンス/キートンの蒸気船(1973).jpgキートンのセブン・チャンス.jpgキートンのセブン・チャンス [DVD]
「キートンのセブン・チャンス/キートンの蒸気船」 (1973年公開時チラシ)

 
「キートンのセブン・チャンス(栃面棒)」●原題:SEVEN CHANCES●制作年:1925年●制作国:アメリカ●監督:バスター・キートン●製作:ジョセフ・M・シェンク●脚本: ジーン・ハヴェッツ/クライド・ブラックマン/ジョセフ・ミッチェル●撮影:エルジン・レ渋谷ユーロスペース03.jpgスリSeven Chances (1925).jpgSEVEN CHANCES.jpg ー●音楽:ロバート・イズラエル●原作:ロイ・クーパー・メグルー●時間:57分●出演:バスター・キートン/ロイ・バーンズ/ルース・ドワイヤー/フランキー・レイモンド/スニッツ・エドワーズ/ジーン・アーサー●日本公開:1926年7月15日●配給:ヤマニ洋行●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(84-01-16)(評価:★★★★☆)●併映:「キートンの蒸気船(船長)」(バスター・キートン)
Seven Chances (1925)
旧・渋谷ユーロスペースシアターN渋谷 1982(昭和57)年渋谷駅南口桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月移転のため閉館。2006(平成18)年1月から渋谷円山町「Q-AXビル」に再オープン。旧ユーロスペース跡地に、2005年12月3日「シアターN渋谷」がオープン(2012年12月2日閉館)

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