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TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品。

「ソア橋のなぞ」d1.jpg「ソア橋のなぞ」d2.jpg 「ソア橋のなぞ」1.jpg
シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.16 [DVD]」「シャーロック・ホームズの冒険 レディー・フランシスの失踪/ソア橋のなぞ(英日対訳ブック 特典DVD付き)

「ソア橋のまぞ」8.jpg 金鉱王として有名な大富豪ギブソン(ダニエル・マッセイ)の妻マリア(セリア・グレゴリー)が射殺体となってソア橋の上で発見され、当家の家庭教師でグレース(キャサリン・ラッセル)という女性が逮捕される。夫人は頭を撃たれており、凶器と思われる銃がグレースの部屋から見つかったのだ。だがギブソンは彼女の無実を主張。証拠品やアリバイから、嫉妬を買ったダンバー嬢がマリアと揉み合っているうちの悲劇とも考えられたが、本人はそれをも否認。一方、ギブスンが潔白を主張する理由は、彼が好意を示した際に慈善に動くよう諭されたダンバー嬢の人柄だという。絞首刑の危機が迫るグレースを救うため、ホームズ(ジェレミー・ブレット)は捜査に乗り出す―。 

 英国グラナダTV(ITV)製作、ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett、1933-1995)主演の「シャーロック・ホームズの冒険」(1984~1994、全41話)の第28話で、本国では1991年2月28日に放映、日本では第29話として1991年8月28日に放送されました。アーサー・コナン・ドイルの原作は、1922年に発表され、1927年発行の第5短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』(The Case-Book of Sherlock Holmes) に収録されています(原題:he Problem of Thor Bridge)。

 ストーリーはおおよそ原作通りですが、ギブソンがベーカー街のアパートに戻ってしまい事件の事情を話さないことが大きな違いです(ギブスンは馬車ではなく運転手付きのT型フォードを移動手段として用いている)。結局、ギブソンがホームズに事情を話したのは自身の屋敷の敷地内「ソア橋のなぞ」あ.jpgで、なぜかアーチェリーをしながらでした。このアーチェリーの場面(ホームズも弓を引く)は原作にはありません。ただ、ギブスンがホームズに依頼しておきながら、捜査に非協力的なのは原作と同じです(家庭教師を愛してしまったことへの衒いがあるのか)。

 トリックは分かってみれば単純なのですが、マリアが自らの命を絶たってまでもダンバー嬢に報復しようしたのは、彼女もまた夫を愛していたからであり、これを行き過ぎた愛情と呼ぶべきか、それとも、夫の愛を失った女性の悲劇と見るべきか、何れにせよ彼女の激情的な気質が原因です(だからこそ夫の心が離れていったのだと思うが)。

 こうした哀しい人間ドラマがバックボーンにあり、トリックも単純とは言えまさか自殺とは考えつかないため、TVシーリーズの中でベストエピソードとする人も多い作品です(野外ロケが多く、イギリスの田舎の美しさを満喫できるのもいい)。一応、ギブスンは嫌疑の晴れたグレースと結ばれることになる結末ですが、手放しでハッピーエンドと喜んでもおられないのでは。

 因みに、ここからはネタばれになりますが、凶器のピストルに紐で重りを結びつけ、その重りでピストルを引っ張ることで現場から凶器を移動させ隠すことにより、自殺を他殺に見せかけるというこの短編のトリックには、モデルとなった実際の事件があり、それは、「ヨーロッパにおける犯罪学の創始者」といわれるハンス・グロスの著書に記されている事件だそうです。

 この実際の事件は、ある早朝にドイツ人の穀物商が、橋の上で頭をピストルで撃たれ死亡しているのが発見されたことに始まり、凶器のピストルは現場に見当たらず、当初は強盗による殺人事件と考えられ、付近にいた浮浪者が一人、容疑者として拘束されました。しかし、予審判事が死体の側の欄干に新しい不審な傷があるのを発見したことから、橋の下の水中を浚ってみることになり、その結果、水中から紐で結ばれたピストルと石が引き上げられました。鑑定の結果、穀物商の頭部に残されていた弾丸はこのピストルで撃ったものだと確認され、最終的には、困窮していた穀物商が高額の保険金を目当てに自殺したのだと結論づけられたとのことです。

 多分、コナン・ドイルはこの事件を参考したのだと思いますが、自殺では家族へ保険金が支払われないため、強盗に襲われたように偽装したと考えられる実際の事件を、愛憎の縺れに起因する事件に置き換えたところに巧さを感じます。

「ソア橋のなぞ」s.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第28話)/ソア橋のなぞ」●原題:THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES: THE PROBLEM OF THOR BRIDGE●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/28●監督:マイケル・シンプスン●脚色:ジェレミー・ポール●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:48分●出演:ジェレミー・ブレット/エドワード・ハードウィック/ダニエル・マッセイ/キャサリン・ラッセル/セリア・グレゴリー●日本放映:1991/08/28 (NHK)(評価:★★★★)
 

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ワトスンが婚約に至らないことを除き、原作に忠実。"モース"が出ていたことに後で気づいた。

シャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名0.jpgシャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名1.jpg 四人の署名0.jpg
シャーロック・ホームズの冒険 完全版 Vol.11 [DVD]
シャーロック・ホームズの冒険DVD BOOK vol.11 (宝島MOOK) (DVD付)」ジョン・ソウ(John Thaw)(上)、(左から)ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett)、ジェニー・シーグローブ(Jenny Seagrove)、エドワード・ハードウィック(Edward Hardwicke)

The Sign of Four (1987) Poster.jpg ホームズの元にメアリー・モースタン(ジェニー・シーグローブ)という若い女性が相談に訪れ、彼女の父親はインド英国軍の大尉だったが、帰国した際に消息を絶ち、その数年後から謎の人物から彼女に贈り物が届くようになって、そして今度は、その相手から直接会いたいとの連絡があったという。ホームズとワトスンは、メアリーに付添って、彼女の父親とインドで一緒だったショルトー少佐の息子サディアス(ロナルド・レイシー)を訪れ、そこで父親の死と秘密の財宝についての話を聞かされる。それによれば、サディアスの父ショルトー少佐はインドにいた時期に、友人のモースタン大尉と共にアグラの財宝を発見し、ショルトーは先に財宝を持ってイギリス本国に戻っていたが、約束していた財宝の分け前を要求してインドからやってきたモースタン大尉と口論になり、心臓発作を引き起こさせてしまう。せめてもの罪滅ぼしに、財宝の一部を娘の元に送るようにというショルトー少佐の遺言を守っていたというのが事の真相で、ショルトーはその後持病を悪化させ、謎の侵入者の影に怯えながら急死、遺骸の胸に、侵入者が現れたことを示す「四人の署名」の文字と、シーク教を象徴する4の意味の赤い印付きの紙片が残されていたという。そして今回、父が生前に隠し場所を話さなかった財宝の隠し場所を発見して、メアリに分け与えるために手紙で呼び出したのだという。ホームズ一行はショルトーの兄が住むノーウッドの屋敷へと向かうが、鍵のかかった部屋の中で、双子の兄(ロナルド・レイシー二役)の死体が発見され、サディアスは兄殺しの容疑をかけられ逮捕される。ホームズが犬のトービィの嗅覚を頼りに真犯人を追ってテムズ河畔に辿り着くと、貸し船屋の女主人が義足の奇妙な男に船を貸したとを言う。ホームズは船を発見するため、ベーカー街イレギュラーズをロンドンの街に放った―。

 英国グラナダTV(ITV)製作、ジェレミー・ブレット(Jeremy Brett、1933-1995)主演の「シャーロック・ホームズの冒険」(1984~1994、全41話)の第25話で、拡大スペシャル版として作られ、本国では1987年12月29日に放映、日本では第21話として1988年3月5日と12日に前後編に分けて放送されました。アーサー・コナン・ドイルの原作は、1890年に発表され、同年に単行本刊行されています(原題:The Sign of Four)。

 冒頭で、『緋色の研究』において事件の記録にロマンチックな要素を持ち込んだことをホームズに批判されるワトスン(エドワード・ハードウィック)など、細部において原作に忠実ですが、四人の署名1-2.jpg1点だけ大きな違いがあり、原作では最後ワトソンンはメアリーと婚約してめでたしめでたし、それをホームズが「絶対におめでとうとは言えないね」と皮肉るところ、この映像化作品では、彼女は事件解決後に去っていき、それを窓から見遣ったワトスンが「魅力的な女性だ」とポツリ漏らすと、ホームズは「気がつかなかったよ」と―(この遣り取りは、原作では、メアリーがベイカー街を最初に訪れ、帰った後にある)。以降、長編第2作にしてワトスンが婚約してしまった原作に対し、このシリーズでは、最後までワトスンはホームズの同居人でいます。

四人の署名1.jpg ジェニー・シーグローブ演じるメアリーは美しく、また、原作よりかなり気丈な印象。彼女の手に財宝が渡るかどうかがストーリーのカギとなりますが、ファッションから見て何だか原作よりも経済的に恵まれている生活を送っている印象もあり、これだったら、財宝がなくても大丈夫?

 最後、ボートによるチェイスがあって、アクション映画っぽい感じもありますが、これも原作通り。事件のカギを握シャーロックホームズ 長編「四人の署名」.jpgる義足の男ジョナサン・スモールが逮捕された後に事件の内容を自らホームズらへ語るのも原作と同じですが、このジョナサン・スモールを演じているのが、「主任警部モース」のジョン・ソウ(John Thaw、1942-2002)だとは、最初気づきませんでした。「主任警部モース」の第1話は、この年(1987年)の1月に英国で放映されています。
四人の署名 ジョン・ソウ.jpg
 ジェレミー・ブレットが心不全のため61歳で、ジョン・ソウが食道癌のため60歳でと、共に比較的早くに亡くなっているのが惜しまれます。因みに、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」は11年間(1984-94)で全41話、ジョン・ソウ主演の「主任警部モース」は13年間(1987-99)で全33話作られています。

シャーロック・ホームズの冒険.jpg「シャーロック・ホームズの冒険(第25話)/四人の署名」●原題:THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES: THE SIGN OF FOUR●制作年:1987年●制作国:イギリス●本国放映:1987/12/29●監督:ピーター・ハモンド●脚本:ジョン・ホークスワース●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:102分●出演:ジェレミー・ブレット/エドワード・ハードウィック/ロザリー・ウィリアムズ/ジェニー・シーグローブ(メアリー・モースタン)/ロナルド・レイシー(サディアス&バーソロミュー・ショルトー)/エムリス・ジェームズ(アセルニー・ジョーンズ警部)/キラン・シャー(トンガ)/ジョン・ソウ(ジョナサン・スモール)●日本放映:1988/3/5 (NHK)(評価:★★★☆)
「シャーロック・ホームズの冒険」THE ADVENTURE OF SHERLOCK HOLMES(英国グラナダ(ITV) 1984~1994) ○日本での放映チャネル:NHK(1985~1995)/AXNミステリー

●「シャーロック・ホームズの冒険」サブタイトル一覧とNHKでのシリーズ作放映年月日

●「シャーロック・ホームズの冒険」サブタイトル一覧(日本での放映順に変化のあった場合は()内にて)(Wikipedia
第1シリーズ/The Adventures of Sherlock Holmes
 第1話 ボヘミアの醜聞/A Scandal In Bohemia
 第2話 踊る人形/The Dancing Men
 第3話 海軍条約事件/The Naval Treaty
 第4話 美しき自転車乗り/The Solitary Cyclist
 第5話 まがった男/The Crooked Man
 第6話 まだらの紐/The Speckled Band
 第7話 青い紅玉/The Blue Carbuncle
第2シリーズ/The Adventures of Sherlock Holmes
 第8話 ぶなの木屋敷の怪/The Copper Beeches
 第9話 ギリシャ語通訳/The Greek Interpreter
 第10話 ノーウッドの建築業者/The Norwood Builder
 第11話 入院患者/The Resident Patient
 第12話 赤髪連盟/The Red-Headed League
 第13話 最後の事件/The Final Problem
第3シリーズ/The Return of Sherlock Holmes
 第14話 空き家の怪事件/The Empty House
 第15(18)話 修道院屋敷/The Abbey Grange
 第16(17)話 マスグレーブ家の儀式書/The Musgrave Ritual
 第17(16)話 第二の血痕/The Second Stain
 第18(19)話 もう一つの顔/The Man with the Twisted Lip
 第19(15)話 プライオリ・スクール/The Priory School
 第20話 六つのナポレオン/The Six Napoleons
第4シリーズ/The Return of Sherlock Holmes
 第21(23)話 悪魔の足/The Devil's Foot
 第22話 銀星号事件/Silver Blaze
 第23(24)話 ウィステリア荘/Wisteria Lodge
 第24(25)話 ブルース・パーティントン設計書/The Bruce-Partington Plans
 第25(21)話 四人の署名/The Sign of Four(2時間スペシャル:日本初回放送時は放映枠の都合で前後編)
 第26話 バスカビル家の犬/The Hound of the Baskervilles(2時間スペシャル:日本初回放映時は放映枠の都合で前後編)
第5シリーズ/The Casebook of Sherlock Holmes
 第27話 レディ・フランシスの失踪/The Disappearance of Lady Frances Carfax
 第28(29)話 ソア橋のなぞ/The Problem of Thor Bridge
 第29(28)話 ボスコム渓谷の惨劇/The Boscombe Valley Mystery
 第30(31)話 高名の依頼人/The Illustrious Client
 第31(30)話 ショスコム荘/Shoscombe Old Place
 第32話 這う人/The Creeping Man
2時間スペシャルシリーズ
 第33(34)話 犯人は二人/The Master Blackmailer
 第34(33)話 サセックスの吸血鬼/The Last Vampyre
 第35話 未婚の貴族/The Eligible Bachelor
第6シリーズ/The Memoirs of Sherlock Holmes
 第36話 三破風館/The Three Gables
 第37話 瀕死の探偵/The Dying Detective
 第38(40)話 金縁の鼻眼鏡/The Golden Pince-Nez
 第39(38)話 赤い輪/The Red Circle
 第40(41)話 マザランの宝石/The Mazarin Stone (with The Three Garridebs)
 第41(39)話 ボール箱/The Cardboard Box

●NHKでのシリーズ作放映年月日(# は日本での放映順)(シャーロック・ホームズの冒険 - 番組データ
NHK総合:1985/04/13~1985/09/21 [#01~#13] 土:21:45-22:30
NHK総合:1988/01/09~1988/03/12 [#14~#22] 土:
NHK総合:1989/01/14~1989/02/18 [#23~#28] 土:
NHK総合:1991/08/28~1992/01/05 [#29~#34] 水:
NHK総合:1994/07/02~1995/02/11 [#35~#40] 土:20:00-20:45

NHK[再]:1997/03/03,04,05,24,25,27 [#01~#06] 月~木:17:15-17:59
NHK[再]:1997/11/25~1998/03/05 [#01~#34] 月~木:17:15-17:59
NHK[再]:1998/05/15,1998/05/22 [#41~#46](3話) 金:25:00-27:15
NHK[再]:2002/02/25,2002/03/04 [#29,#30] 15:10-15:55
NHK[再]:2002/04/11,12 [#31,#32] 14:05~14:50
NHK[再]:2002/12/26~2003/03/13 [#01~#28,#33~#40] 月~金:14:05-14:50

NHK-BS2:2000/09/05~2001/03/27 [#01~#26] 火:23:00-23:45
NHK-BS2:2001/04/03~2001/07/31 [#27~#40] 火:23:00-23:45
NHK-BS2:2001/08/02,09,16 [SP] 木:21:00-22:45

【英ITV:1984/04/24~1994/05/11 [1st~7th]】

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「アガサ・クリスティー協会」公認の改変とはいえ、大枠からしてどうみても改変過剰気味。

殺人は容易だ.jpg 第14話「殺人は容易だ」011.jpg SHERLOCK A STUDY IN PINK.jpg 
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4」「SHERLOCK / シャーロック [DVD]」【収録話数】第1話:「ピンク色の研究」(A Study in Pink)/第2話:「死を呼ぶ暗号」(The Blind Banker)/第3話:「大いなるゲーム」(The Great Game) 

Marple - Murder is Easy  title.jpg 地方の村の教区の牧師が養蜂作業中に毒を吸い込んで死ぬ。ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は列車内で村の老婦人ラヴィニア・ピンカートン(シルヴィア・シムズ)に出会うが、彼女は牧師の毒死も以前に村で起きた老婦人の毒キノコ中毒死も何れも殺人事件だと言い、捜査依頼のためロンドン警察へ行くところだと。彼女は「殺人は容易だ」と連続死を仄めかすが、その直後、乗換駅で何者かにエスカレーターで突き落とされて死亡する。
Marple - Murder is Easy 1.jpg 新聞でその死亡記事を見たミス・マープルは葬儀に参列し、植民地から来た元警官ルーク・フィッツウィリアム(ベネディクト・カンバーバッチ)と知り合ってホテルに間借りし、共に謎解きを始める。ラヴィニアの予言通り、今度はハンブルビー医師(ティム・ブルック・テイラー)が敗血症で死亡するが、その夫人ジェシー(ジェンマ・レッドグレイヴ)は夫の死に疑問を持っていない。

Julia McKenzie/Benedict Cumberbatch

James Lance / Shirley Henderson / Russell Tovey
第14話「殺人は容易だ」06.jpg第14話「殺人は容易だ」02.jpg第14話「殺人は容易だ」07.jpg その娘ローズ(カミラ・アーフウェドソン)、彼女と恋仲でハンブルビーの後継のトーマス医師(ジェイムズ・ランス)、退役軍人ホートン少佐(デヴィッド・ヘイグ)、公立図書館員アボット(ヒューゴ・スピア)、教会のオルガン弾きオノリア(シャーリー・ヘンダーソン)、メイドのエイミー(リンゼイ・マーシャル)といった面々に若い捜査官テレンス・リード(ラッセル・トビー)はマープルの助言をもとに聞き込みを行う―。

 2008年制作のグラナダ版第4シーズン第2話(通算第14話)で(本国放映は2009年)、第3シーズンまでミス・マープル役を務めたジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan、1932‐)が退き、第4シーズン通算第13話からジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie、1941-)がミス・マープルを演じています(吹替版の声の担当は藤田弓子)。

殺人は容易だ[装]上泉秀俊 pm.jpg 原作『殺人は容易だ』は、1939年にクリスティが発表した「バトル警視もの」でミス・マープルは出てきませんが(といってもバトル警視も最後ちょっと出てくるだけで、中心となる探偵役は元警官ルーク)、この映像化作品ではマープルがルークや若い捜査官テレンス・リードと協力して事件を解決します(と言っても、解決するまでにいっぱい人が死ぬわけだが)。

MURDER IS EASY 2008 リディア.jpg オノリアには知的傷害者の弟がいて、昔、泥酔して川に落ちて死亡しており、エイミーは、教会で何かを告解しようとしていた矢先に帽子塗料をセキ止め薬と誤飲して死亡(彼女は妊娠していた)、ホートン少佐は議員選挙に出馬するつもりだったが、過去の買収行為をネタに脅喝されて出馬を取りやめ、それに落胆したかのようには妻リディア(アナ・チャンセラー)が浴室で死亡、インスリンの過剰注射による自殺と思われたが―。牧師、老婦人、医師、メイド、少佐夫人と、ホント次々と人が死ぬなあと。

 ここまで5人死ぬのは原作と同じ。但し、原作で亡くなるのは、老婦人、医師、メイドの外は、飲んだくれの居酒屋亭主ハリーが川に落ちて死に、嫌われ者のいたずら小僧トミーが博物館の窓を拭いているときに墜死、この映像化作品でルークが村に入ってから亡くなる医師、メイドも含め5人とも、ルークが村に入る前に亡くなっており、ルークが村に来てから更に1人死にます。原作の方も人物が錯綜していて、これを更に改変して93分位に詰め込んでいるだけに、テンポはいいけれど人物の相関関係を追うのがたいへんかも。

Margo Stilley(マーゴ・スティリー) in MURDER IS EASY
第14話「殺人は容易だ」03.jpg第14話「殺人は容易だ」08.jpgMarple_Murder_is_easy2.JPG 原作の先入観無しで見ると、ベネディクト・カンバーバッチが演じる元警官が先ず怪しげな雰囲気ですが、しばらくすると今度はアメリカから教会に古文書の拓本を採りに来たというブリジット(マーゴ・スティリー)が怪しげに見えてくるかも(彼女は幼いころ親に棄てられた過去を持つ。その親とは...という話もこの映像化作品の全くのオリジナル。原作では、ブリジットは早くからルークと捜査上の協力関係となる)。

 原作に覚えがある人は、登場人物の造形や殺害方法などの"改変の妙"を楽しめるかも。夫が愛犬家だったのが、妻が愛猫家であることに変わっていたり、交通事故死がエスカレーターでの事故死になっていたり...。

MURDER IS EASY 2008.jpg 但し、こうしたトリビアな改変はさておき、大枠そのものについても「アガサ・クリスティー協会」公認の改変とはいえ、どうみても改変過剰気味で、結局、何と犯人まで改変されていたけれど(完全に別個の犯人当てクイズみたいになっている。原作にこだわりを持つ人には受け容れられないだろう)、原作では犯人はサイコっぽいシリアルキラーという印象でしたが、この作品では、人間の原罪を背負った悲劇的人物という描かれ方をしている印象もあり(これも原作には無い近親相姦の話が絡んでいる)、一方で、ミス・マープルが謎解きと犯人への追及を同時に行うため、クライマックス場面は結構キツイ感じの作りになっています。
Margot Stilley
Margot Stilley.jpgPicture of Margo Stilley.jpg 別の意味で楽しめたのは、'10年にTVシリーズ「SHERLOCK (シャーロック)」の主役に抜擢されることになるベネディクト・カンバーバッチ(一度見たら忘れられない英国俳優)演じるルークと、スタイル抜群のマーゴ(マルゴ)・スティリー(アダルト女優からセレブ女優へ転身?)演じるブリジットの遣り取りで、"将来のシャーロック"は、魅惑的な謎の女ブリジットに惹かれるも、ずっと彼女に翻弄されっぱなしで、でも最後は何となく脈ありの雰囲気で終わる―という、ドロドロした話にしてしまった後の"口直し的ラスト"とも言えますが、事件解決によって明らかになったブリジットの"出自の重さ"を考えると、こんなんでいいのか~という、やっかみめいた感想も抱かざるを得ませんでした(改変も含め、トータルではそれなりに楽しめたが)。

SHERLOCK s1.jpgピンク色の研究.jpg 因みにTVシリーズ「SHERLOCK」は、ドイルの原作でホームズとワトスンが初めて出会う『緋色の研究』を読んだうえでシーズン1第1話「ピンク色の研究」を観ると、今風にアレンジされた"改変の妙"が効いていて、ベネ君の英国俳優らしい雰囲気と併せて、これ、かなり楽しめます。

ピンクの研究5.jpg ワトスンが、軍医として従軍したアフガン戦争で負傷して右足が不自由なうえに、戦争トラウマにより左手に断続的な痙攣があって職業生活に困難をきたし、 物価の高いロンドンで暮らしていくため必要に迫られて下宿をシェアできるルームメイトを探し、そこでホームズと出会うという設定になっていて、まずホームズは初対面のワトスンを一目見て、彼の経歴や現況からからストレスの原因まで全て言い当ててしまう―というのはお約束通りでしょうか。ワトスンがそうしたホームズのことを最初は気味悪く思いながらも、彼を通して次第にトラウマを克服していく一方、やや引き籠り傾向のあるホームズも、ワトソンを通して現実社会との関わりを保っていくという両者の"共生"関係のようなものが、第1話にして分かり易く示唆されていたのは、今思えば、かなりの"巧みの技"だったかも。やはり、目の肥えた視聴者が多い英国だと、ただ改変すればいいということでは済まないのだろうなあ。

ピンク色の研究 dvd.jpgピンク色の研究 04.jpg「SHERLOCK(シャーロック)(第1話)/ピンク色の研究」」●原題:SHERLOCK:A STUDY IN PINK●制作年:2010年●制作国:イギリス●演出:ポール・マクギガン●脚本:スティーブン・モファット/マーク・ゲイティス●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ルパート・グレイヴス/ウーナ・スタッブズ●日本放映:2011/08●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★★)
SHERLOCK / シャーロック [DVD]」【収録話数】第1話:「ピンク色の研究」(A Study in Pink)/第2話:「死を呼ぶ暗号」(The Blind Banker)/第3話:「大いなるゲーム」(The Great Game)

Margo Stilley 5.jpgMarple - Murder is Easy 1.5.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第14話)/殺人は容易だ」●原題:MURDER IS EASY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2008年(本国放映2009年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ヘティ・マクドナルド●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ「殺人は容易だ」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ベネディクト・カンバーバッチ/シャーリー・ヘンダーソン/マーゴ(マルゴ)・スティリー/アナ・チャンセラー/ジェンマ・レッドグレイブ/カミラ・アーフウェドソン/デビッド・ヘイグ/ヒューゴ・スピア/ラッセル・トビー/ジェームズ・ランス/ティム・ブルック・テイラー/シルビア・シムズ/リンゼイ・マSHERLOCK (シャーロック) .jpgーシャル●日本SHERLOCK.jpg放送:2012/03/20●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆) Margo Stilley(マーゴ・スティリー)

「SHERLOCK (シャーロック)」SHERLOCK (BBC 2010~) ○日本での放映チャネル:NHK‐BSプレミアム(2011~)

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前作「ベルグレービアの醜聞」の"エロス趣向"と今回の"サイエンス趣向"では、前作に軍配。

SHERLOCK/シャーロック シーズン2.jpgsherlock バスカヴィルの犬 01.jpg sherlock バスカヴィルの犬 07.jpg
SHERLOCK/シャーロック シーズン2 [DVD]

sherlock バスカヴィルの犬 04.jpg シャーロック・ホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ)のもとに、ダートムアから依頼人ヘンリー(ラッセル・トヴェイ)がやってくる。ダートムアの荒野には政府の科学生物兵器研究施設「バスカヴィル」があり、極秘の実験が行われているという噂があった。ヘンリーは20年前、7歳のときに父親が悪魔のような巨大な犬「ハウンド」に殺されるのを目撃。ショックが生み出した妄想かと思ったが、昨夜、再びその現場で巨大な「ハウンド」の足跡を発見したという。ホームズらは怪物の正体探るためダートムアに向かう―。
            
sherlock バスカヴィルの犬 00.jpgsherlock バスカヴィルの犬 03.jpg 「バスカヴィルの犬(ハウンド)("The Hounds of Baskerville")」は、「ベルグレービアの醜聞」に続く「SHERLOCK(シャーロック)」第2シーズン第2話(通算第5話)で、原作は当然のことながら「バスカヴィル家の犬("The Hound of the Baskervilles")」ですが、「バスカヴィル」というのが、家名から軍の秘密実験基地みたいなものの名前に置き換わっています。

SHERLOCK:THE HOUNDS OF BASKERVILLE.jpg この作品、ダートムアの荒涼としたイメージをどう描くかがポイントかと思って観ましたが、ダートムアが既に"魔犬が出る地"として心霊スポット的な観光地になっていて、ホームズとワトスンは、幼少期に自分の父親がダートムアの窪地で魔物に襲われて殺されるところを見たという青年に導かれて夜のダートムアを走り回るけれども、偽造IDカードで基地内にも潜入して実験施設内も探索するということで、原作のおどろおどろしさは半減しています。

sherlock バスカヴィルの犬 05.jpg 一方で、基地内では怪しげな動物実験が行われていて、先にあった「発光ウサギ」が逃げ出したという、ホームズが一旦は調査の依頼を袖にした"珍事件"もこうした実験と関係があるらしい(下村脩氏が発見したオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質を注入した発光ネズミというのは写真で見たなあ)―となると、いよいよ近未来型の「バスカヴィルの犬」の登場かと思ったら、結局は意外としょぼい仕掛けだったと言うか(まあ、怪獣映画になってもマズイわけだけれど)、結末だって怪しげな人物はやっぱり怪しかったし...。

SHERLOCK(シャーロック)/バスカヴィルの犬.jpg 前作「ベルグレービアの醜聞」が"エロス趣向"だとすれば、こちらは"サイエンス趣向"と言え、毎回趣向を変えてくる努力は買いますが、これは今一つノレなかった...。

SHESHERLOCK(シャーロック)/バスカヴィルの犬2.jpg この原作の映像化作品は、「犬」の登場の場面で90年代からCGが使われていますが、この作品でCGであれだけハッキリ見せる必要はなかったのではないかな。前半部分でモンタージュ的な手法を使って「犬」を見せないでいたのに、あそこで登場人物の主観に合わせて見せてしまったら、前後の整合が取れないのでは。

バスカヴィル dvd.jpg「SHERLOCK(シャーロック)(第5話)/バスカヴィルの犬(ハウンド)」●原題:SHERLOCK:THE HOUNDS OF BASKERVILLE●制作年:2011年●制作国:イギリス●本国放映:2012年1月8日●演出:ポール・マクギガン●脚本:マーク・ゲイティス●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ルパート・グレイヴス/ユナ・スタッブス/マーク・ゲイティス/ラッセル・トヴェイ●日本放映:2012/07●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★)

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まずまず上手いなあと。最後はホームズが「あの女性」を死地から救ったように見える。

SHERLOCK/シャーロック シーズン2.jpgA Scandal in Belgravia 000.png A Scandal in Belgravia01.jpg
SHERLOCK/シャーロック シーズン2 [DVD]」ベネディクト・カンバーバッチ/ララ・パルバー

A Scandal in Belgravia 011.jpg ベネディクト・カンバーバッチ(Benedict Cumberbatch)主演の「SHERLOCK(シャーロック)」は、2010年から始まったBBC製作のドラマで(日本での放映は2011年8月から)、本作「ベルグレービアの醜聞("A Scandal in Belgravia")」は、第2シーズン第1話(通算第4話)にあたり、本国放映は2011年1月、日本ではNHK-BSプレミアムで2012年7月に放映されました。

A Scandal in Belgravia 012.jpg タイトルからも分かるように、コナン・ドイルの短編集でも最も人気のある第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険」の中の第1作「ボヘミアの醜聞("A Scandal in Bohemia")」(1891年初出)がオリジナルですが、元が短編なので、このTVシリーズ独特の現代風アレンジに加え、話を膨らませるだけ膨らまして、その上で大幅な改変もしているという印象でしょうか。個人的にはそれなりに面白かったです。

A Scandal in Belgravia02.jpg 原作の敵役であり実質ヒロインでもあるアイリーン・アドラーは、シャーロック・ホームズが「あの女性 (the woman)」と唯一定冠詞をつけて呼ぶ特別な存在になるほどの女性ですが、これがドラマでは、アイリーン(ララ・パルバー、Lara Pulver)の家に無理矢理入り込んだホームズ(原作では怪我して運び込まれたことになっている)の前にいきなり全裸で現れるという趣向で、しかも、両性を手玉に取る所謂"両刀使い"というのがスゴイね。

A Scandal in Belgravia03.jpg その他にもいっぱい"遊び"があるけれど、原作の、ホームズがワトスンに発煙筒を焚かせて、依頼主から奪還を要請されている写真(ドラマでは携帯電話に収められている)の在り処を「アイリーンの目線」から探り当てる場面など、細かいところはオリジナルを踏襲したりしているのが憎いなあと。

SHERLOCK(シャーロック)(第4話)13.jpg 前半は殆どアイリーンにホームズが振り回されっ放しですが(原作でもホームズより能力的に優れていることになっている)、最後はホームズがアイリーンを死地から救ったように見えるね(そうなると、ホームズは殆ど"007"並みの行動をとったことになるが)。原作を巡っては、恋愛感情に縁が無いホームズが唯一恋愛感情を抱いた女性ではないかとか、いや、ワトスンが作中で述べているように、ホームズはアイリーンに恋愛感情を抱いたわけではないとか、いろいろ論議があるようですが、(アイリーンのイメージは随分違っているけれど)引き続きそうした論議の余韻を残すような終わり方はまずまず上手いのではないかと思いました。

A Scandal in Belgravia 003.png「SHERLOCK(シャーロック)(第4話)/ベルグレービアの醜聞」」●原題:SHERLOCK:A SCANDAL IN BELGRAVIA●制A Scandal in Belgravia 022.jpg作年:2011年●制作国:イギリス●本国放映:2012年1月1日●演出:ポール・マクギガン●脚本:スティーブン・モファット●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ララ・パルバー/ルパート・グレイヴス/ウーナ・スタッブズ/マーク・ゲイティス/アンドリュー・スコット●日本放映:2012/07●放映局:NHSHERLOCK ベルグレービアの醜聞 .jpgK-BSプレミアム(評価:★★★★)

ベネディクト・カンバーバッチ(ホームズ)/ララ・パルヴァー(アイリーン・アドラー)/マーク・ゲイティス(演出及びマイクロフト・ホームズ役)

ララ・パルヴァー.jpgSherlock (2010)
Sherlock (2010).jpgSHERLOCK.jpg「SHERLOCK (シャーロック)」SHERLOCK (BBC 2010~) ○日本での放映チャネル:NHK‐BSプレミアム(2011~)
 
   

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BBC版。楽しめた。ホームズ、ワトスン共にグラナダ版より若いが、ワトスンが大活躍。恋もした?

バスカヴィル家の獣犬01.jpgバスカヴィル家の獣犬 dvd.jpg    The Hound of the Baskervilles (2002).jpgバスカヴィルの獣犬 [DVD]」リチャード・ロクスバーグ(Richard Roxburgh)

シャーロック・ホームズ 「バスカヴィルの獣犬」 前編.jpg ダートムアの荒野に響く獣の唸り声は、かつてバスカヴィル家の領主だったヒューゴーという男が妻の不倫に怒り沼地に逃げた妻を殺害、その際に妻が大事に飼っていた大きな犬がヒューゴーに飛びかかって殺され、そして今でもその犬の悪霊が沼地を彷徨って遠吠えしているという―そうした伝説が沼沢地の気味悪さを一層深めるこの地で、バスカヴィル家の領主・チャールズ卿が変死し、死体の側に彼のつま先だけの足跡と巨大な犬の足跡が残されていた。当家医師モーティマーの依頼により、ホームズはチャールズ卿の死に関する調査を始めるとともに、新たな当主となったヘンリー卿の身の安全と相続した莫大な財産を守るため、ワトスンが彼の護衛に当たる―。

Hound of the Baskervilles'00.jpg 1901年にコナン・ドイルが発表した、ホームズ物語の4つの長編中最長の作品『バスカヴィル家の犬』の映像化であり、ホームズ物語の映像化では、1994年に完結した英グラナダテレビ製作のジェレミー・ブレッド主演のシャーロック・ホームズシリーズがよく知られていますが、これは英国国営放送(BBC)が2002年に作ったものです(2004年にもう1作放映している。ホントはもっと作ってシリーズ化したかったのか?)。日本では、NHK-BSで2004年に放映されましたが、先行して2003年にDVDが国内発売されています。

 シャーロック・ホームズを演じたリチャード・ロクスバーグ(「ミッション:インポッシブル2」('02年/米)などに出演)は、グラナダ版のホームズ役で高い評価を得たジェレミー・ブレットと比べれば新顔でしたが、4大長編の最後である原作の時代設定が実は一番最初であることを考えると、50代でこの役を演じたブレットよりも、当時40歳だったロクスバーグの方が年齢的には合っているかも知れず、同じことは、ワトスンを演じたイアン・ハート(「ハリー・ポッターと賢者の石」('01年/英)などに出演)にも言えるかと思います。

Hound of the Baskervilles'01.jpg この作品、ホームズ物語で最も数多く映像化されていながら、原作通りに作られているものは一つもないそうで、そうした中では、前半の展開はかなり原作に忠実な方ではないでしょうか。
 原作に比べるとテンポよく話が進んでいき(原作はダートムアの土地柄など文学的な記述表現もあってやや冗長に思える部分もあった)、それでいて軽過ぎる印象を受けないのは、何よりも、ダートムアの荒涼とした気象、土地柄がよく描かれていて、一方で、チャールズ卿の邸宅内などの室内シーンなどはセットに贅を凝らしていて、映像的に全く手抜きがないためでしょう。

Hound of the Baskervilles3.jpg 原作とやや異なるのは、イアン・ハート演じるワトスンが結構活躍する場面が多いことと、ホームズの良き友でありながらも、調査の秘密を明かさなかったホームズに対して強く詰め寄るなど、「助手」と言うより「対等」な関係であろうとしているのが窺える点で、その分、イアン・ハートの人間味溢れるワトソン像が前面に出ていて、これもいいです(対比的に、ロクスバーグのホームズ像はやや冷たい印象か)。

 近所に住む考古人類学者(原作では昆虫学者)スティプルトン(リチャード・E.・ラント)の妹ベリル(ネイブ・マッキントッシュ)が、ヘンリー卿と間違えてワトスンにこの地を立ち去るよう警告するのは原作と同じですが、彼女に惹かれたヘンリー卿と併せて、ワトスンもベリルに惹かれたような印象を受けました(ベリル役のネイブ・マッキントッシュの美貌がかなり目立っている)。

 それで彼女が殺された(原作にはない殺人)ことを知ったワトスンは激昂して...とここからは原作とかなり異なる展開。もともとアクション映画っぽい場面のある原作ですが、よりアクション映画っぽくなっています(最後にホームズが沼にハマる場面は原作にもあるが、とにかくワトスン大活躍といった感じ)。

バスカヴィル家の獣犬 犬.jpg その他にも、原作に無いバスカヴィル家での降霊会や大掛かりなクリスマス・パーティなどがあって(この番組、クリスマスシーズンに放映された)、"膨らまし感"はあるものの"手抜き感"は無いため、これはこれで良しとしていいのではないかと。「犬」はCG(と模型?)を使っていますが、今から10年前のCGだから、まあこんなものかというレベルです。

バスカヴィル家の獣犬 ジョン・ネトルズ.jpgバーナビー警部ド.jpg 「バーナビー警部」のジョン・ネトルズが、モーティマー医師役で登場。「バーナビー警部」のシリーズはもう始まって大いに人気を博していた頃だから、シーズンとシーズンの隙間をぬってのゲスト出演といった感じなのでしょうか。

John Nettles

 繰り返しになりますが、(この映像化作品では)ワトスンもベリルに惹かれたのだと思います。だから、事件が解決しても鬱々としているのではないかなあ(実際、ベリルが殺されたことで、よりダークなトーンになったように思えた)。

 原作とはやや異なった余韻を残す作品で、正統派支持者からはこき降ろされそうなよう要素も多々ありますが、テンポの良さもあって、個人的には改変部分も含め原作より楽しめたかも。

The Hound of the Baskervilles2.jpgシャーロック・ホームズ 「バスカヴィルの獣犬」 後編.jpg「バスカヴィル家の獣犬」●原題:THE HOUND OF THE BASKERVILLES●制作年:2002年●制作国:イギリス●監督:デヴィッド・アットウッド●製作:リストファー・ホール●脚本:アラン・キュービット●撮影:ジェームズ・ウェランド●音楽:ロブ・レイン●原作:アーサー・コナン・ドイル●時間:100分●出演:リチャード・ロクスバーグ/イアン・ハート/マット・デイ/リチャード・E・グラント/ネイブ・マッキントッシュ/ジョン・ネトルズ/ジェラルディン・ジェームズ /ロン・クック●日本放映:2004/09/18●放送局:NHK‐BS2 (評価:★★★★)

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