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「罪と罰」―人は神に代わって人を裁けるか―。映画版よりずっと重かった。

「オリエント急行の殺人」2010 dvd.jpg「オリエント急行の殺人」2010 dvd1.jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 49号.jpg 「オリエント急行の殺人」2010 2.jpg
名探偵ポワロ 47 [レンタル落ち]」「名探偵ポワロDVDコレクション 49号 (オリエント急行の殺人) [分冊百科] (DVD付)
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「オリエント急行の殺人」2010 1.jpg 中東での仕事を終えたポアロが連絡船で移動し、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行へ。新しい事件のために急遽帰途に就くことになったのだが、一等寝台「オリエント急行の殺人」2010 3ressya.jpg車は満室で、列車は混み合っていた。やがて、車内でアメリカ人の大富豪ラチェットが計12回刺されて殺害される。事件の容疑者は、1人の車掌と12人の一等客室の乗客たち。ユーゴスラビアで積雪により立ち往生する列車内で、ポアロは謎解きに乗り出す―。

「オリエント急行の殺人」2010 かお.jpg「オリエント急行の殺人」2010 4.jpg デビッド・スーシェがポアロを演じる英ITV制作の「名探偵ポワロ」(1989~2013)の第64話(第12シリーズ第3話)で103分の長尺版。原作は、アガサ・クリスティが1934年に発表した、あまりに有名な作品です。原作出版から75年を記念して制作にとりかかり、本国放映は2010年12月25日、本邦初放映は2012年2月9日(NHK-BSプレミアム)です。


オリエント急行殺人事件 映画 アルバート・フィニー.jpg 1974年のシドニー・ルメット監督による「オリエント急行殺人事件」('74年/米)は、アルバ「オリエント急行殺人事件」ふ.jpgート・フィニー(1936-2019)がポワロを演じ、チャード・ウィドマーク、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギールグッド、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ウェンディ・ヒラー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエー「オリエント急行殺人事件」33.jpgオリエント急行殺人事件 snow.jpgル・カッセルら豪華俳優陣を配したものでしたが、ラストで皆が乾杯するシーンがあるなど(目出度し目出度しといったところか)、原作より明るい雰囲気でした。シドニー・ルメット監督自身が「スフレのような陽気な映画」を目指したと述べています(評価:★★★☆)。

オリエント急行殺人事件 2017 00.jpg「オリエント急行殺人事件」ぷらな3.jpg その43年後に作られた、2017年のケネス・ブラナー監督・主演のリメイク作品「オリエント急行殺人事件」('17年/米)は、1974年版に何一つ新しいものを付け足せていないとの評価もありましたが、それでも前作に対抗したのか、ポワロが事件にどう片を付けるか悩む部分が強調されていて、ラストの謎解きもダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模した構図の中でケネス・ブラナーの演劇的な芝居が続く、" やや重"を目指したような印象を受けました(ただ、一方で、列車が雪中を行くシーンなどにCGを使った分、旧作にはあった重厚感が削がれた)(評価:★★★)(ケネス・ブラナーはその後「ナイル殺人事件」('22年/米)も撮るが、ここでも長広舌を奮っている(笑))。

「オリエント急行殺人事件」野村1.jpg「オリエント急行殺人事件」野村2.jpg その前に、2015年に三谷幸喜脚本で「オリエント急行殺人事件」('15年/フジテレビ)としてドラマ化されていて、野村萬斎がポアロに相当する名探偵・勝呂武尊を演じましたが、他の俳優陣が普通に演技している中で一人だけ狂言チックな演技をしています。ただ、これは彼の主演映画「のぼうの城」('12年/東宝)などで既に体験していて、個人的にはそう抵抗はなかったです。かなりコメディタッチになっていて、ラストで、「これは勝呂武尊が解決できなかった初めての事件。しかし、これほど誇らしいことはない」とこれまた、シドニー・ルメット版よりさらに明るいです(第2弾「黒井戸殺し」('18年)、第3弾「死との約束」('21年)も同じような感じか)。全2夜放送の第1夜は原作に則して描き、第2夜は犯人の視点から犯行の流れを描いたオリジナル構成としているのも旨く、2015年「東京ドラマアウォード」の単発ドラマ部門でグランプリを受賞しています(当ブログでは90年代以降のドラマは星による評価をしていないが、仮に評価するとすれば★★★★)。

「オリエント急行の殺人」2010 5.jpg そしてこの2010年のデヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」の1話としてのドラマ化作品ですが、「罪と罰」―人は神に代わって人を裁けるかというテーマを前面に出していて、これが一番(ケネス・ブラナーの映画版などを超えて)重かったように思いました。

 プロローグとして原作にはない2つのエピソードがあります。1つは、ポワロがある事件で、犯人の目の前で威圧的な早口で事件の真相をまくしたてると、追い詰められた犯人がピストル自殺してしまうという出来事があり、後に、犯人が人格面では立派な人物だったことを知っていた人物から、一度の過ちで支払った代償が大きすぎる批判され、それに対してポワロが反論するというもの。もう一つは、ポアロがイスタンブールで、姦淫の罪を犯した女性が民衆に引き摺られて、石打ちの刑を受ける刑場に連れていかれる場面に遭遇し、後にオリエント急行の乗客として再会する女性もその場に居合わせ、なんとか止めてと言われるが、どうにもならない、というもの。この2つに共通するのは、罪を犯したら罰を受けなければならないということであり、それがポワロの信念であるということでしょう。 

「オリエント急行の殺人」2010 last.jpg こうした前振りがあると、物語の結末を知った上で観ていて、最後どうなるのだろうと思いましたが、案の定、ポワロは自分の考えを曲げず、今回の事件を起こしたことについては、事に至った思いを訴える人たちに対し、「そんな権利はどこにもない」「何様のつもりか」といった具合です。そして、警察が現場に到着し、いよいよポワロが事件の説明をする場面がやってきます。もちろん、物語の結末は変わりません。ポワロは結局、「外部犯行」であったと説明します。その時のポワロの苦渋に満ちた表情―。「これほど誇らしいことはない」と言った三谷幸喜・野村萬斎版のドラマと真逆と言えます。日本版ドラマの明るさもいいですが、この本国版ドラマの暗さの方が本筋でしょう。本エピソードが「名探偵ポワロ」全70話の中でベストエピソードに選ばれることが多いというのも分かる気がします(評価:★★★★☆)。

 従って、時系列で並べると以下のような評価一覧となります。
  シドニー・ルメット/アルバート・フィニー版「オリエント急行殺人事件」 (1974年/英・米)★★★☆(○)
  デビッド・スーシェ版 「名探偵ポワロ/オリエント急行の殺人」 (2010年/英ITV)★★★★☆(◎)
  三谷幸喜・野村萬斎版「オリエント急行殺人事件」(2015年/フジテレビ)★★★★(○)
  ケネス・ブラナー版 「オリエント急行殺人事件」 (2017年/米) ★★★(△)


■AXNミステリー「あなたが選ぶ!名探偵ポワロ(長編全34話)ベストエピソード」(2016年)
1位  シーズン12 第3話 「オリエント急行の殺人」(第64話)
2位  シーズン4 第1話 「ABC殺人事件」(第31話)
3位  シーズン13 第5話 「カーテン~ポワロ最後の事件」(第70話)

4位  シーズン9 第4話 「ナイルに死す」(第52話)
5位  シーズン6 第1話 「ポワロのクリスマス」 (第42話)
6位  シーズン9 第2話 「五匹の子豚」(第50話)
7位  シーズン6 第4話 「もの言えぬ証人」(第45話)
8位  シーズン3 第1話 「スタイルズ荘の怪事件」(第20話)
9位  シーズン8 第1話 「白昼の悪魔」(第48話)
10位  シーズン7 第1話 「アクロイド殺人事件」(第46話)
10位  シーズン8 第2話 「メソポタミア殺人事件」(第49話)

12位  シーズン9 第2話 「杉の柩」(第51話)
13位  シーズン10 第3話 「葬儀を終えて」(第56話)
13位  シーズン2 第1話 「エンドハウスの怪事件」(第11話)
15位  シーズン6 第3話 「ゴルフ場殺人事件」(第44話)
16位  シーズン6 第2話 「ヒッコリー・ロードの殺人」(第43話)
17位  シーズン4 第2話 「雲をつかむ死」(第32話)
18位  シーズン11 第4話 「死との約束」 (第61話)
19位  シーズン12 第2話 「ハロウィーン・パーティー」(第63話)
20位  シーズン11 第2話 「鳩のなかの猫」(第59話)
20位  シーズン4 第3話 「愛国殺人」(第33話)

22位  シーズン13 第2話 「ビッグ・フォー」(第67話) 
23位  シーズン10 第2話 「ひらいたトランプ」 (第55話)
23位  シーズン7 第2話 「エッジウェア卿の死」(第47話)
25位  シーズン13 第4話 「ヘラクレスの難業」(第69話)
26位  シーズン10 第1話 「青列車の秘密」(第54話)
26位  シーズン11 第3話 「第三の女」(第60話)
28位  シーズン9 第4話 「ホロー荘の殺人」 (第53話)
29位  シーズン13 第1話 「象は忘れない」 (第66話)
30位  シーズン12 第1話 「三幕の殺人」 (第62話)

31位  シーズン11 第1話 「マギンティ夫人は死んだ」(第58話)
31位  シーズン12 第4話 「複数の時計」(第65話)
33位  シーズン10 第4話 「満潮に乗って」 (第57話)
34位  シーズン13 第3話 「死者のあやまち」(第68話)

「オリエント急行の殺人」2010 dore.jpg「オリエント急行の殺人」2010 syuugou.jpg「名探偵ポワロ(第64話)/オリエント急行の殺人」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅫ:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作国:イギリス●本国放映:2010/12/25●演出:フィリップ・マーティン●脚本:スチュワート・ハーコート●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/トビー・ジョーンズ(サミュエル・ラチェット)/バーバラ・ハーシー(ハバード夫人)/ブライアン・J・スミス(ヘクター・マックイーン)/ジェシカ・チャステイン(メアリー・デベナム)/セルジュ・アザナヴィシウス(ザビエル・ブーク)/アイリーン・アトキンス(ナターリア・ドラゴミノフ)/ヒュー・ボネヴィル/デヴィッド・モリッシー/ズザンネ・ロータ/マリ=ジョゼ・クローズ/スタンレイ・ウェーバー/エレナ・サチン/ジョゼフ・マウル/ドゥニ・メノーシェ/サミュエル・ウェスト●日本放映:2012/02/09●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★★☆)


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オリエント急行殺人事件  1974 dvd.jpgオリエント急行殺人事件02.jpg「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:1974年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ポール・デーン●撮影:ジェフリー・アンスワース●音楽:リチャード・ロドニー・ベネット●原作:アガサ・クオリエント急行殺人事件03.jpgリスティ「オリエント急行の殺人」●時間:128分●出演:アルバート・フィニー/リチャード・ウィドマーク/アンソニー・パーキンス/ジョン・ギールグッド/ショーン・コネリオリエント急行殺人事件 ショーン・コネリー.jpgオリエント急行殺人事件 バコール.jpg/ヴァネッサ・レッドグレーヴ/ウェンディ・ヒラー/ローレン・バコール/イングリッド・バーグマン/マイケル・ヨーク/ジャクリーン・ビセット/ジャン=ピエール・カッセル●日本公開:1975/05●配給:パラマウント=CIC(評価:★★★☆)

オリエント急行殺人事件 [DVD]」Kenneth Branagh
オリエント急行殺人事件 2017 dvd.jpgオリエント急行殺人事件 20172.jpg「オリエント急行殺人事件」●原題:MURDER ON THE ORIENT EXPRESS●制作年:2017年●制作国:アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:リドリー・スコット/マーク・ゴードン/サイモン・キンバーグ/ケネス・ブラナー/ジュディ・ホフランド/マイケル・シェイファー●脚本:マイケル・グリーン●撮影:ハリス・ザンバーラウコス●音楽:リパトリック・ドイル●原作:アガサ・クリスティ「オリエント急行の殺人」●時間:114分●出演:ケネス・ブラナー/ペネロペ・クルス/ウィレム・デフォー/ジュディ・デンチ/ジョニー・デッ/ジョシュ・ギャッド/デレク・ジャコビ/レスリー・オドム・Jrオリエント急行殺人事件 2017michelle-pfeiffer.jpgミシェル・ファイファー/デイジー・リドリー/トム・ベイトマン/オリヴィア・コールマン/ルーシー・ボイントン/マーワン・ケンザリ/マオリエント急行殺人事件 2017 deppu.jpgヌエル・ガルシア=ルルフォ/セルゲイ・ポルーニン/ミランダ・レーゾン●日本公開:2017/12●配給:20世紀フォックス(評価:★★★)

Johnny Depp

Michelle Pfeiffer 

「オリエント急行殺人事件」野村3.jpg「オリエント急行殺人事件」●脚本:三谷幸喜●監督:河野圭太●音楽:住友紀人●原作:アガサ・クリスティ●時間:333分●出演:野村萬斎/松嶋菜々子/二宮和也/杏/玉木宏/沢村一樹/吉瀬美智子/石丸幹二/池松壮亮/黒木華/八木亜希子/青木さやか/藤本隆宏/小林隆/高橋克実/笹野高史/富司純子/草笛光子/西田敏行/佐藤浩市●放映:2015/01(全2回)●放送局:フジテレビ
「オリエント急行殺人事件」2015 しゅ.jpg野村萬斎(名探偵・勝呂武尊(すぐろ たける))

佐藤浩市(実業家・藤堂修/笠原健三)/富司純子(羽鳥夫人)
「オリエント急行殺人事件」2015佐藤k.jpg 「オリエント急行殺人事件」2015 富司.jpg

「オリエント急行殺人事件」野村4.jpg

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概ね原作通り。旅情溢れる場面や大掛かりなロケシーンもあって愉しめた。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」1992 dvd1.jpg 「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」1992 dvd2.jpg 「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」11.jpg ABC殺人事件 クリスティー文庫.jpg
名探偵ポワロ 17 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 2号 (ABC殺人事件) [分冊百科] (DVD付)」『ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」01.jpg ABCという差出人名でポアロ宛てに挑戦状が届く。何事もなく記してあった日付が過ぎて悪戯だと思われたが、予告通りアンドーヴァーでアリス・アッシャー(A.A)なる人物が亡き者にされていた。アリスが絶命したのは午後5時半~6時5分だと推定され、後頭部に受けた強い打撃が命を落とした原因だった。そして、カウンターの上にABCの鉄道案内が置かれていた。捜「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」02.jpg査が難航しアンドーヴァーでの一件が忘れ去られた頃、ABCから第二の挑戦状が届き、事が再燃、明け方のベクスヒル=オン=ザ=シーで、エリザベス・バーナード(B.B)という若い女性が自分のベルトで首を絞められて命を落としたのだった。現場にあったABCの鉄道案内がアンドーヴァーとの関連を示唆していたが、アリスとの共通点は女性というだけしかない。エリザベスの家族や恋人に話を聞くも特に有力な手がかりは得られず、ただ時だけが過ぎていった。さらに、ABCからの3通目に挑戦状がポアロ宛てに届く。ABCによる住所の書き間違いにより手紙の配達が遅れるという不運も重なり、第三の犠牲者が出てしまう「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」04.jpg。場所はチャーストンで、命を落としたのはカーマイクル・クラーク(C.C)という富豪だった。3件すべてが世間に公表され、警察も地道な捜査を続ける一方、ポアロは、関係者を集めて話をさせ、本人たちですら気づいていないこ「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」06.jpgとに目を向けて真実に迫る手法をとる。ABCから4件目の殺人予告があり、厳戒態勢を敷いたにもかかわらず、4人目の犠牲者も出てしまう。警察は様々な証言により、ABCの正体はアレクサンダー・ボナパㇽト・カスト(A.B.C)(ドナルド・サンプター)というストッキングのセールスマンと特定し、逮捕する。しかし何一つ解決していないと思っていたポアロは、ヘイスティングズの言葉をヒントに、事件の黒幕を明らかにしてみせる―。

 「名探偵ポワロ」の第31話(第4シーズン第1話)で103分の長尺版(第4シーズン全3話はいずれも長尺版)。本国放映は1992年1月5日/本邦初放映は1992年10月2日(NHK-BS2)。原作はクリスティー文庫『ABC殺人事件』(堀内静子:訳)など。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」08.jpg 真犯人の手口は、本当のターゲットに加えて関係ない人物を巻き込み操作を撹乱するもので、東野圭吾の小説など今でもよく使われる手法ですが、犠牲者に共通点があるという先入観を逆手にとったやり方です。映像化作品の場合、見せ方が難しくなる場合もあるところ、本作はうまく撮っていたように思われ、ただし、原作の良さに負うところはやはり大きいかと思います(4番目の殺人が微妙。映画館で殺害されるのは原作通りだが)。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」09.jpg 原作のストーリーが複雑であるためか、原作の主要な登場人物のうち何人かを省いていて、原作では2か月半以上かけて行われる4つの殺人が1カ月に満たない期間に集約しているほか、すべての現場に同行していたクローム警部が出て来ず(ちらっと出てきた?)、代わりにジャップ警部がすべての現場に同行していたり、さらには、カーマイクル・クラークの弟フランクリンがカーマイクルの手紙をポアロに見せるシーンが割愛されていたりしますが(原作ではこれがポワロの事件解決のヒントの1つになる)、それでも概ね原作通りだったのではないでしょうか(アレクサンダー・ボナパㇽト・カストの人格については戦争PTSDのような解釈だったが)。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」03.jpg 新シーズンスタートの第1作ということもあってか、、汽車による移動シーンや地方の保養地のシーンなど旅情溢れる場面が多く、競馬場のダービーシーンなど大掛かりなロケシーンがあって愉しめました。さらには、ヘイスティン「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」05.jpgグズが中南米旅行の土産に持ち帰った、自らが射ったというカイマン(ワニ)の剥製〈セドリック〉を巡るポワロとヘイスティングズの愉快なやり取りもあったりして、いつもながら、小粒のユーモアも効いていました。シリーズの中でも佳作であると思います。

「名探偵ポワロ(第31話)ABC殺人事件」07.jpg 「名探偵ポワロ(第31話)/ABC殺人事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:THE ABC MURDERS●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/05●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス大尉)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ドナルド・サンプター(アレクサンダー・ボナパㇽト・カスト)/ドナルド・ダグラス(フランクリン・クラーク)●日本放映:1992/10/02●放映局:NHK-BS2(評価:★★★★)


■AXNミステリー「あなたが選ぶ!名探偵ポワロ(長編全34話)ベストエピソード」(2016年)
1位  シーズン12 第3話 「オリエント急行の殺人」(第64話)
2位  シーズン4 第1話 「ABC殺人事件」(第31話)
3位  シーズン13 第5話 「カーテン~ポワロ最後の事件」(第70話)

4位  シーズン9 第4話 「ナイルに死す」(第52話)
5位  シーズン6 第1話 「ポワロのクリスマス」 (第42話)
6位  シーズン9 第2話 「五匹の子豚」(第50話)
7位  シーズン6 第4話 「もの言えぬ証人」(第45話)
8位  シーズン3 第1話 「スタイルズ荘の怪事件」(第20話)
9位  シーズン8 第1話 「白昼の悪魔」(第48話)
10位  シーズン7 第1話 「アクロイド殺人事件」(第46話)
10位  シーズン8 第2話 「メソポタミア殺人事件」(第49話)

12位  シーズン9 第2話 「杉の柩」(第51話)
13位  シーズン10 第3話 「葬儀を終えて」(第56話)
13位  シーズン2 第1話 「エンドハウスの怪事件」(第11話)
15位  シーズン6 第3話 「ゴルフ場殺人事件」(第44話)
16位  シーズン6 第2話 「ヒッコリー・ロードの殺人」(第43話)
17位  シーズン4 第2話 「雲をつかむ死」(第32話)
18位  シーズン11 第4話 「死との約束」 (第61話)
19位  シーズン12 第2話 「ハロウィーン・パーティー」(第63話)
20位  シーズン11 第2話 「鳩のなかの猫」(第59話)
20位  シーズン4 第3話 「愛国殺人」(第33話)

22位  シーズン13 第2話 「ビッグ・フォー」(第67話) 
23位  シーズン10 第2話 「ひらいたトランプ」 (第55話)
23位  シーズン7 第2話 「エッジウェア卿の死」(第47話)
25位  シーズン13 第4話 「ヘラクレスの難業」(第69話)
26位  シーズン10 第1話 「青列車の秘密」(第54話)
26位  シーズン11 第3話 「第三の女」(第60話)
28位  シーズン9 第4話 「ホロー荘の殺人」 (第53話)
29位  シーズン13 第1話 「象は忘れない」 (第66話)
30位  シーズン12 第1話 「三幕の殺人」 (第62話)

31位  シーズン11 第1話 「マギンティ夫人は死んだ」(第58話)
31位  シーズン12 第4話 「複数の時計」(第65話)
33位  シーズン10 第4話 「満潮に乗って」 (第57話)
34位  シーズン13 第3話 「死者のあやまち」(第68話)

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お茶を飲む前に逡巡したポワロ。どこまでが演技だったのか考えると興味深い。

名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 2003.jpg名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 ロード.jpg 名探偵ポワロ/杉の柩   dvd.jpg 名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩  00.jpg
名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 1」「名探偵ポワロDVDコレクション 52号 (杉の柩) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 02.jpg名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 00.jpg 裁判で、被告エリノア・カーライが、殺人罪で裁かれている。数カ月前、エリノアは婚約者ロデとハンタベリー・ハウスの叔母ローラ・ウェルマンを訪ねていたが、そこに庭師の娘で幼なじみのメアリーがニュージーランドから帰って来ていた。数日前にエリノアは、"雪のように白い"人物が叔母の遺産の横取りするという悪意のある手紙を受け取っていた。エリノアは叔母の主治医ロードに相談、ロードは知り合いのポワロを紹介し、自ら手紙を持参し来談する。ロディはメアリーとの再会を喜んでいた。叔母は発作を起こし、弁護士を依頼して名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 03.jpgメアリーに遺産を遺そうとしているようにみえた。夜中、エリノアは別部屋でロディがメアリーと抱き合っているのを目撃した直後、叔母の容態が急変し急死、遺言書は無く、遺産は全て最も身近な姪のエリノアに行くことになる。ロディの心が自分から離れてしまったことで、エリノアは彼との婚約を解消し、メアリーには七千ポンドを譲ることに。叔母の看護師ホプキンズとオブライエンの薦めで遺言書を作ったというメアリーは名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 04.jpg、ニュージーランドの叔母に自分の遺産が渡るようにしたとエリノアに話す。エリノアは家政婦に暇を出し、自分で昼食用のサンドイッチを作って、メアリーにサケのサンドを、自分とホプキンズとでエビとカニのサンドを食べる。お茶を飲んだ暫く後、メアリーが居間のソファーで死んでいる見つかる。毒物はモルヒネで、叔母の死体が掘り返され、司法解剖の結果これもモルヒネ死だったことがわかる。庭師テッドはメアリーが好きだったが、最近メアリーは人が変わったようにお高くとまっていたとポワロに話す。マースデン警部はエリノアを容疑者として逮捕する。ロード医師は彼女が殺人犯のはずがないと言うが、ポワロはエリノア犯人説を主張する。そして裁判ではエリノア有罪・絞首刑の判決が下されたのだった。刑の執行まで日が残されていない中、ポワロはエリノアの無実を証明する―。

杉の柩 ミステリ文庫.jpg 「名探偵ポワロ」の第51話(第9シーズン第2話)で2003年製作のロング・バージョン。本国放映は2003年12月26日で、本邦初放映は2005年8月24日(NHK-BS2)。原作はクリスティが1940年に発表した長編推理小説で(原題:Sad Cypress)で、原作もエリノアが法廷に立つ場面から始まる倒叙法を採っています。

 原作では、自分が嫉妬心に駆られていたことを自覚するエリノアが、無罪を主張しながらも、自分が"無意識"にサンドイッチに毒を仕込んだかのような錯覚に陥りかけているという―こうした彼女の揺らめく心理を、心理小説的な手法で描いており、この部分(3部構成の第1部)はいわば"文芸小説"風でもあります。これを映像化するのはなかなか難しかったのではないかと思われますが、それほど不自然にならずにそれをやってみせている点は評価できるかと思います。

 原作でメアリーに想いを寄せるテッドが、ドラマでは庭師の別の男と1つのキャラになって"庭師テッド"になっていました。サンドイッチ食べてお茶飲んだのは室内になっていますが、原作では野外ではなかったでしょうか。ロディはヒトラーを尊敬していたりして、原作よりも良くないキャラになっていました(メアリーに対してもロディの方から働きかけた?)。

名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 images.jpg ポワロがお茶を飲んで苦しむ振りをするのは、視聴者には分かり易かった演技かも。むしろ飲む前に逡巡した理由が分かりにくかったかもしれません。お茶に毒が入っているかもしれないということではなく、カップの中に入っていたのが、ポワロ自らがすり替えた花瓶の水だったというわけです。ポワロが、エリノアが殺人犯のはずがないと言うロード医師に対し、彼女が犯人であるとしか考えられないと強弁したのは、あれも演技なのでしょうか(もし演技ならば、敢えてそういう振りをするメリットは?)。どこでポワロが犯人が分かったのかが分かりにくかったため、その部分もちょっと分かりにくかったです。

名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩 ケイリー・ライリー.jpg 前作第49話から暗いトーンになっていますが、最後はエリノアの将来に光明が見える終わり方でほっとします(原作が暗示的であるのに対し、かなり明示的と言えるか)。こうなると、ケリー・ライリー演じる、最初は大いに怪しかったけれど結局は殺害されたメアリーが気の毒になります(なんで前の庭師の娘がこんなに厚遇されるのかと思ってしまうが、他に怪しいことが多くあってそこまで気が廻らない?)。

ケリー・ライリー(メアリ)

 因みに、看護師ホプキンズを演じたフィリス・ローガンは、「主任警部モース(第30話)/カインの娘たち」('96年)や「バーナビー警部(第7話)/首締めの森(カラスの森が死を招く)」 ('99年)にも出演しています。

Phyllis Logan THE DAUGHTERS OF CAIN 1996.jpgPhyllis Logan STRANGLER'S WOOD 1999.jpgPhyllis Logan SAD CYPRESS 2003.jpgフィリス・ローガン in「主任警部モース(第30話)/カインの娘たち」('96年)/「バーナビー警部(第7話)/首締めの森(カラスの森が死を招く)」 ('99年)/「名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩」 ('03年)

Sad Cypress .jpg「名探偵ポワロ(第51話)/杉の柩」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON9:SAD CYPRESS●制作年:2003年●制作国:イギリス●本国放映:2003/12/26●監督:デビッド・ムーア●脚本:デビッド・ピリ●時間:94 分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/エリザベス・ダーモット・ウォルシュ(エリノア) /ルパート・ペンリー・ジョーンズ(ロディ) /ポール・マクガン(ドクター・ロード) /フィリス・ローガン(ホプキンス) /ダイアナ・クイック(ウェルマン夫人) /ケリー・ライリー(メアリ) /ジャック・ギャロウェイ(マーズデン警部)●日本放映:2005/08/24●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)
Sad Cypress

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このシーズンから雰囲気が重くなる。緻密にプロットを再現、ドラマ的にも重厚。

名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚  00.jpg名探偵ポワロ 五匹の子豚 dvd.jpg名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚 01.jpg 名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚pigs2.jpg
名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 1」「名探偵ポワロDVDコレクション 50号 (五匹の子豚) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚_pigs1.jpg名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚a4.jpg ポワロはルーシー・ルマルション(旧姓クレイル)という21歳の女性に、14年前に母キャロラインが画家である父アミアスを殺害した罪で絞首刑になった事件の真相を探って欲しいと依頼される。母キャロラインは処刑される直前に娘ルーシーに自分は無実であるという手紙を遺していたのだ。ポワロは事件を担当した弁護士から事件の概要を聴く。当時アミアスは、妻子がありながら、頼まれてその肖像画を描名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚ges.jpgくことになった大金持ちの美少女エルサ・グリアーに夢中になっていた。アミアスは結婚後も芸術家として何度も女性と付き合っていたが、今回はエルサに公然と一緒に住むよう迫られ、そのためアミアスと妻キャロライ名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚es.jpgンの間で口喧嘩が多発し、当時近くにいた人々もキャロライン自身がアミアスを殺すかもしれないと言っていたのを聞いていた。近所の住人名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚  07.jpgメレディス・ブレイクの薬棚から毒物のコニンが紛失しており、妻がビールグラスに入れて夫を毒殺したことは疑いようも無かった。ポワロは事件の関係者、アミアスの親友でメレディスの弟のフィリップ・ブレイク、エルサ・グリアー、メレディス・ブレイク、当時の家庭教師ミス・ウィリアムズ、キャロラインの異父妹アンジェラの5人を訪ねる。アンジェラは幼い頃、キャロラインが投げつけた文鎮で右目を失明していた。ポワロは、それぞれが語る当時の様子から事件の真相に辿りき、メイドのスプリッグも加えて古い屋敷に関係者が集められ、ポワロによる謎解きが行われる―。

五匹の子豚 文庫2.jpg 「名探偵ポワロ」の第50話(第9シーズン第1話)で2003年製作のロング・バージョン。本国放映は2003年12月14日で、本邦初放映は2005年8月25日(NHK-BS2)。原作はクリスティが1943年に発表した長編推理小説で(原題:Five Little Pigs)で、『スリーピング・マーダー』などと同じく所謂"回想の殺人"物です。
五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』(クリスティー文庫山本やよい新訳版・真鍋博復刻カバー)

 テレビドラマの方は、第9シーズンの第1作であるこの第50話から製作会社や製作者が変わって転換点を迎え、以降の21話分はそれまでの49話分とがらっと変わってシリアスなトーンになっています(第49話と第50話の間に2年8カ月のブランクがある)。ヘイスティングス、ジャップ警部、ミス・レモンのレギュラー3人が登場しなくなり、これまでユーモラスな描写が結構あったのが極端に減って、全体に暗く重いトーンになっていきます。こうした変化については賛否あるかもしれませんが、この「五匹の子豚」などは原作も結構重い話なので、こうした演出が合っているかもしれません(IMDbの評価スコアは「8.4」とシリーズトップクラス)。

名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚 001.jpg 原作ではルーシーの母キャロラインは死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡したことになっていますが、このドラマ版では死刑を宣告されてすぐに刑死したことになっており、冒頭その処刑シーンから始まるので、かなり暗いです(「クリスティのフレンチ・ミステリー(第7話)/五匹の子豚」では、キャロラインが獄中でまだ生きていた設定に変えられている)。一方で、メレディスの弟のフィリップ・ブレイクが殺害された当の画家アミアスに対して以前からボーイズ・ラブ的な感情を抱いていて、片や幼馴染みのキャロラインにも気があって...といった脚色もされています(フィリップが、寝室に誘い込んだキャロラインにアミアスへの自分のの感情を指摘されて激高するのは、ある種の分裂症気味だが、ここにもまた重いモチーフが設けられていると言える)。

五匹の子豚  .jpg名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚 09.jpg キャロラインが自分が右目を失明させた異父妹アンジェラを守るために敢えて犠牲になろうとする一方、娘のルーシーに自分は無実であることを知っておいて欲しいという、その母としての気持ちが分かるだけにやるせないです。一方で、オリジナルの精緻なプロットは損なわずに映像化しており、ラストのポワロの関係者一同を集めての謎解きにもドラマ的な重厚感がありました。しかし、犯人は憎らしいくらい堂々としていたなあ。ポワロがルーシーに犯人は処罰を受けるだろうと言ったのは、今更死刑になるということではなく(一事不再理か)、生きて精神的な罪苦を受け続けるということなのでしょうが、ここまでエゴイストだと、どれくらい罪の意識を感じるのか。犯人に銃を向けたルーシーの気持ちが分かります(母親の仇ということだからなあ)。

エイミー・マリンズ(Aimee Mullins)
名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚   es.jpgエイミー・マリンズ g.jpg 因みに、ルーシーを演じたエイミー・マリンズ(Aimee Mullins)はアメリカのエイミー・マリンズ tedド.jpg女優で、両脚の骨の一部(腓骨)を持たずに生まれ、1歳で両膝から下を切断、両脚とも義足です。義足エイミー・マリンズ.jpgながらもスポーツをずっと好きでやっていて、5年間ソフトボールをした後、高校からはずっと競技スキーをやり、やがて陸上競技でパラリンピックを目指すようになり、'96年、アトランタ・パラリンピックで女子100Mと走り幅跳びに出場、その後ス―パーモデルとして活躍しながら女優業もこなしているという女性です。但し、この作品に関して言えば、演技力よりもヘアスタイルやメイクアップなどヴィジュアルの方が印象に残るといった感じでしょうか。

ジュリー・コックス(Julie Cox)/ジュリー・コックス in「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」/ジュリー・コックス&マーク・ウォレン in「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)
Julie Cox2.jpgJulie Cox FIVE LITTLE PIGSド.jpg牧師館の殺人B.jpg エルサ・グリアー役のジュリー・コックス(Julie Cox)とメレディス・ブレイク役のマーク・ウォレンは、ジェラルディン・マクイーワン主演「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」 ('04年)において、若かりし日のミス・マープルと、その恋人エインズワース大尉をそれぞれ演じています(「若かりし日のミス・マープル」という設定はドラマのオリジナル)。また、キャロライン・クレイル役のレイチェル・スターリング(Rachael Stirling)も、レイチェル・スターリング .jpg名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚Poirot_Five_little_pigs3.JPGグリゼルダ(レイチェル・スターリング).jpg同じ「牧師館の殺人」でグリゼルダ役を演じるなどしていますが、彼女はアガサ・クリスティ原作の映画「地中海殺人事件」('82年/英)で元女優アレーナ・スチュアートを演じたダイアナ・リグの娘です。

レイチェル・スターリング(Rachael Stirling)/レイチェル・スターリング(右)/レイチェル・スターリング in「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)

エイミー・マリンズ 9.jpgFive Little Pigs .jpg「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON9:FIVE LITTLE PIGS●制作年:2003年●制作国:イギリス●本国放映:2003/12/14●監督:ポール・アンウィン●脚本:ケヴィン・エリオット●時間:100分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/エイミー・マリンズ(ルーシー)/ジュリー・コックス(エルサ)/レイチェル・スターリング(キャロライン)/エイダン・ギレン(アミアス)/ソフィー・ウィンクルマン(アンジェラ)/トビー・スティーブンス(フィリップ)/マーク・ウォーレン(メレディス)/ジェマ・ジョーンズ(ウィリアムズ)/パトリック・マラハイド(ディプリーチ)●日本放映:2005/08/25●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★)
Five Little Pigs

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本格推理の色濃い原作のプロットを、丁寧に分かり易く映像化している。

名探偵ポワロ48/白昼の悪魔 dvd.jpg名探偵ポワロ/白昼の悪魔 0_.jpg 
名探偵ポワロ 完全版 Vol.31「白昼の悪魔」 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 17号 (白昼の悪魔) [分冊百科] (DVD付)
名探偵ポワロ/白昼の悪魔1.jpg ヘイスティングスが投資したアルゼンチン・レストランのオープンでポワロは食事中に倒れて入院し、ミス・レモンの手配で、ヘイスティングスに付き添われてヘルス・リゾートホテルのある島に行くことになる。目的の島への船で、記者のパトリックとクリスティンのレッドフ名探偵ポワロ/白昼の悪魔im.jpgァーン夫婦に出会うが、パトリックは島で女優アレーナ・スチュアートと再会し、彼女にべったりになる。ホテルにはアレーナの夫ケネス・スチュアートと彼の息子ライオネルもいて、ポワロとは以前にある殺人事件で知り合ったロザモンド・ダーンリー夫人もいた。ロザモンドはケネスが自分の初恋相手だと言う。ポワロはロザモンドから、アレーナは前夫の死で得た遺産で潤ってい名探偵ポワロ/白昼の悪魔 hotel.jpgるとの話を聞く。ライオネルは継母のアレーナを嫌い、同じく島に来ている活動的な女性エミリー・ブルースター、狂信的な牧師レイン、バリー名探偵ポワロ/白昼の悪魔 00.jpg少佐らも彼女を嫌い、牧師は邪悪視さえしていた。ポワロはホテルでスチーム・バスに入れられ、隣にいた職業不詳のヨット好きの男ブラットと知り合う。彼のヨットは何故か日によって赤い帆だったり白い帆だったりした。ポワロはパトリックにアレーナとの浮気を咎めるが、逆ギレされてしまう。翌名探偵ポワロ/白昼の悪魔35.jpg朝、ポワロとヘイスティングスはピクシー洞窟に船外機付きボートで行こうとするアレーナを目撃するが、そのことを彼女から口止めされる。一方、クリスティンとライオネルはガル洞窟に、それぞれスケ名探偵ポワロ/白昼の悪魔 5.jpgッチと海水浴に出掛ける。パトリックはエミリーを誘ってボートを漕ぎ出し、ピクシー洞窟の浜辺で俯せに倒れているアレーナらしき女性を発見する。急いで上陸して駆け寄った彼は「脈が無い」と言い、エミリーがホテルに通報をすることに。クリスティンは12時からテニスの約束はあるためホテルに引き返していたが、そこにはケネスやヘイスティングスもいて、そこへ「アレーナが殺された」との報が入り、ジャップ警部が島に捜査に入る―。

地中海殺人事件 1982 poster.jpg白昼の悪魔  cb.jpg白昼の悪魔 (ハヤカワ・ミステリ文庫2.jpg 「名探偵ポワロ」の第48話(第8シーズン第1話)で2001年製作のロング・バージョン。本国放映は2001年4月20日で、本邦初放映は2002年1月2日(NHK)。原作はクリスティが1941年に発表した長編推理小説で(原題:Evil Under the Sun)、ガイ・ハミルトン監督、ピーター・ユスティノフ主演の「地中海殺人事件」('82年/英)の原作でもあります(映画では舞台をアドリア海の孤島に改変している)。
   
名探偵ポワロ/白昼の悪魔4.jpg 原作と比べるとこの映像化作品では、島に滞在している人物の内、あまり事件に関係ないガードナー夫妻がカットされ(原作でも容疑者たり得なかった)、その代り、冒頭に島に来る以前のレイン牧師の教会での狂信的な説教の場面があって、その狂信ぶりが強調されており(後でその狂信ぶりが妻に不倫され逃げられたことからくるものであると分かるがこれはドラマのオリジナル)、また、後で謎解きに関係してくる過去の事件の一場面があります。更に、ケネス・スチュアートの連れ子である"娘"が"息子"に置き換わっています(容疑者の一人であることには変わりない)。
 
名探偵ポワロ/白昼の悪魔 (1).jpg 原作には、ヘイスティングスが投資したアルゼンチン料理のレストランが出てきたり、ポワロが島のホテルで無理やり食事療法をさせられたりスチーム・バスに入れられたりすることもなく、また、ヘイスティングスが名探偵ポワロ/白昼の悪魔ges.jpgポワロの療養にお供して島に来たり、事件後ジャップ警部が島に乗り込んで来た英国バー・アイランド.jpgり、ポワロがミス・レモンに殺害されたアレーナの財務状況や過去の未解決の類似事件について調べてもらったりすることなどもありません。ポワロがほぼ誰からの協力を得ることもなく一人で事件を解決します(『そして誰もいなくなった』のようなクローズド・サークルバー島.jpg型に近いミステリと言える。このドラマ版のロケ地は、クリスティが実際に滞在し、小説を執筆する際にモデルにしたとされるバー・アイランドで、この島は『そして誰もいなくなった』のインディアン島のモデルとも言われている)。

英国デヴォン州バー・アイランドと島に渡るSea Tractor

 このように細部においては原作と異なりますが、プロット的には、本格推理の色濃い凝ったプロットの原作を、出来るだけ端折らずにうまく再現しているように思いました。原作も傑作だと思いますが、唯一の難点は、実際にこのような複雑な犯行が実行可能かということではないかと思います。でも、映像化作品を見ると、少なくとも理論的には実行可能であると改めて思いました(蓋然性が伴うが)。

 牧師の過去についてはドラマの付け足しですが、過去の類似の事件については、事件解決のための重要事項でありながら原作ではそれほど詳しく描かれていなかったように思われ、それを分かり易く映像化しているのは親切だと思いました。また、そのことにより、犯人の動機もより明らかになっているように思いました。ピーター・ユスティノフ主演の映画版でも冒頭で過去の事件を映像化していますが、原作には無い模造宝石の事件とかも出てきて、あまり分かりよくなかったです。ゴージャスさを楽しむなら映画ですが、プロットを楽しむならドラマでしょうか。

Evil Under the Sun
Evil Under the Sun.jpg
名探偵ポワロ/白昼の悪魔).jpg「名探偵ポワロ(第48話)/白昼の悪魔」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON8:EVIL UNDER THE SUN●制作年:2001年●制作国:イギリス●本国放映:2001/04/20●監督:ブライアンEvil Under the Sun_1.jpg・ファーナム●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:100分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ティム・ミーツ(スチーブン・レーン)/タムジン・メールソン(クリスチン・レッドファン)/マイケル・ヒッグス(パトリック・レッドファン)/ロジャー・アルボロー(ウェストン警視正)/ケビン・ムーア, ルイス・デラメア(アリーナ・スチュワート)/デビッド・マリンソン(ケネス・マーシャル)●日本放映:2002/01/02●放映局:NHK(評価:★★★★)

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原作もいいが、いろいろな部分で原作より良くなっている点があったように思う。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人 Dumb Witness(1997)02.jpg もの言えぬ証人 dvd.jpg  名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人00.jpg Dumb Witness AL_.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.27 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 7号 (もの言えぬ証人) [分冊百科] (DVD付)Dumb Witness
名探偵ポワロ45もの言えぬ証人 s.jpg名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人01.jpg ポワロはヘイスティングスの友人チャールズ・アランデルが、水上ボートの最速記録に挑戦するのを見学にウィンダミアにやって来る。そこには、取材陣や村人らの他に、チャールズの叔母でリトル・グリーンハウスの主のエミリー、付添婦のウィルミーナ、チャールズの妹テリーザ、エミリーの姪のベラ・タニオスとその夫でギリシャ人医師のジェイコブが集っていた。さらに、霊媒のトリップ姉妹も駆けつけ、ポワロ名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人03.jpgに不吉な警告をする。チャールズのボートは火を噴くが、彼は無事に脱出、祝賀会の予定が単なる夕食会になったその席には、エミリー名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人02.jpgの主治医グレンジャー医師も同席する。席上、トリップ姉妹のイザベルに霊が憑依し、MP(ポワロの先祖)からポワロに警告すると言う。その夜、エミリーが階段から転落する事故が起き、踊り場に飼い犬のフォックステリア、ボブのボールが見つかる。彼女はそれに躓いたと思われたが、ポワロはネジを発見し、ワイヤーが張られていたと推理する。エミリーから相談を受けたポワロは、遺産目当てに命を狙われるな名探偵ポワロ45もの言えぬ証人es.jpg ら、遺言状を書き換えて身内には遺産をやらないことにすればよいと提案し、エミリーはこれを受け入れ実行する。ジェイコブが調合薬をエミリーに渡し、エミリーがそれを飲んで外に出たとたん、口から緑色の気体を吐いて倒れ、彼女は亡くなる。トリップ姉妹もウィルミーナもエミリーの口から魂が外に出たのだと思い込む。地元警察のキーリ名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人05.jpgィ巡査部長は肝臓障害による死亡と断定し、検死解剖を拒否する。ポワロは降霊会をやるというトリップ姉妹の提案を受け入れ、その降霊会でイザベルはエミリーの言葉で殺人者はロバート・アランデルだと告げるが、そんな名の者は、犬のボブがロバートであるのを除いていない。新しい遺言状で遺産全部がウィルミーナに贈られることが明かされ、ウィルミーナ自身も初めてそれを知る。彼女はボブが騒いだ夜、夢うつつで見た"誰か"のナイトガウンにTAと縫い取りされていたことを思い出したとポワロに告げる。TAはテリーザのイニシャルである。一方、グレンジャー医師は、エミリーが吐いた緑色の気体の正体に気づくが―。

もの言えぬ証人 (クリスティー文庫)_ -.jpg 「名探偵ポワロ」の第45話(第6シーズン第4話)で1997年製作のロング・バージョン。本国放映は1997年3月16日で同年に英国で放映されたシリーズ新作は本作1本のみです。本邦初放映は1997年12月30日(NHK)。ヘイスティングスの吹替を担当してきた富山敬(1938-1995/享年56)の「名探偵ポワロ」最後の出演作品となりました。原作はクリスティが1937年年発表したポアロシリーズの第14作で(原題:Dumb Witness)です。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人c34c.jpg 原作では、エミリー・アランデルはポワロに相談の手紙を書きますが、その手紙がポワロに届く前に彼女は"病死"しており、手紙を受けてポワロらがリトル・グリーンハウス(小緑荘)に来た時にはもう彼女はこの世にいないという設定になっており、チャールズが水上ボートの最速記録挑戦に入れ込んでいて、彼がヘイスティングスの友人であったためポワロも一緒にその挑戦を見学に来たというのはドラマ版オリジナルです(結果として、ポワロが来てから殺人が起きるというパターンになった)。

 また、原作では、テリーザの恋人で、グレンジャー医師の下にいるドナルドソンという新米医師がいて、彼も容疑者の1人になっていますが、ドラマ版では出てこず、代わりにグレンジャー医師がウィルミーナと互いに好意を抱き合う関係になっていて、彼の方が容疑者の1人になっています。そのグレンジャー医師が、エミリーが吐いた緑色の気体の正体が毒物の燐(リン)であることに気付くというのは、原作よりもむしろ自然な流れですが、そのことによって彼は原作には無い"第2の殺人"の犠牲者になります(殺害されることで容疑者から外れるというパターン)。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人s.jpg 細部の改変はありましたが(ボブがボートに映った自分の顔を見て吠えるとことからポワロが鏡の原理を思い出す点などもドラマのオリジナル。このホワイトテリア、名演技だったなあ)、但し、犯人が誰かは勿論のこと、プロットなども原作を踏襲しているように思われました。原作では、チャールズは遊び人、テリーザは浪費家、ベラはテリーザを真似るも彼女のように垢抜けることは出来ない女性ということになっていますが、それぞれのその"程度"は弱められていたように思います。

名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人04.jpg 文庫解説で、事件解決後ポワロに贈られたボブがその後どうなったかについて(その後の作品にポワロが犬を飼っていた記述はなく、一方、本原作をもってヘイスティングスは長編小説から姿を消し、『カーテン』まで登場しない)、ヘイスティングスと一緒にアルゼンチンに渡ったのではないかとしていますが、このドラマ作品ではポアロが霊媒能力を身に着けた振りをして本職の霊媒師のトリップ姉妹にボブを託してしまうというエピローグが可笑しかったです。

 原作もいいですが、いろいろな部分で原作より良くなっている点があったようにも思いました。

名探偵ポワロ45もの言えぬ証人 Dumb Witness(1997)01.jpg名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人06.jpg「名探偵ポワロ(第45話)/もの言えぬ証人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:DUMB WITNESS●制作年:1997年●制作国:イギリス●本国放映:1997/03/16●監督:エドワード・ベネット●脚本:ダグラス・ワトキンソン●時間:100分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/パトリック・ライカート(チャールス・アランデル)/ケイト・バファリー(テリーザ・アランデル)/ノーマ・ウェスト(ウィルミーナ)/ジュリア・セント・ジョン(ベラ・タニオス)/ポール・ハーツバーグ(ジェイコブ・タニオス)/アン・モリッシュ(エミリー・アランデル)/ ポーリン・ジェームソン(イザベル・トリップ)/ミュリエル・パブロー(ジュリア・トリップ)●日本放映:1997/12/30●放映局:NHK(評価:★★★★)

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原作をかなり改変しているが、意外性がありこれはこれで楽しめた。

名探偵ポワロ 死との約束(2009).jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 8号 (死との約束).jpg 名探偵ポワロ 死との約束(2009) 00.jpg
「名探偵ポワロ 43」「名探偵ポワロDVDコレクション 8号 (死との約束) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ 死との約束Poirot.jpg 1937年のシリア。考古学者ボイントン卿はヘロデ王がヨハネの首を埋めた遺跡を突き止めたと信じ、その発掘は話題となって見学者が訪れていた。ポアロも見学に来ていたし、卿の妻やその子供たちも当地を訪れていた。医師サラ・キングが日射病で倒れ、レイモンド・ボイントンが介抱する。夫である卿の発掘資金を提供しているレオノラ・ボイントン夫人は、子どもたちに対しては独裁者で、彼女の養子であるレイモンド、キャロル、、ジニーは、幼い頃にレオノラに命じられた乳母により折檻されていた。そのため、彼らの中にはレオノラが死ねばいいと言う者もいるし、ボイントン卿の発掘を手伝っている卿の前妻の子レオナードも、義母を名探偵ポワロ 死との約束 es.jpgお母さんとは呼ばない。発掘現場に向かうバスに、ポワロや子どもたち以外に、精神科医のテオドール・ジェラール、修道尼アニエシュ、米国人の投資家ジェ名探偵ポワロ 死との約束(2009) 05.jpgファーソン・コープも同乗し、更に旅行家のウェストホルム卿夫人が合流する。発掘現場に着いてからジェラールはマラリアらしい熱病で倒れキャンプへ戻る。キャンプでは、ハチに刺されたと言っていたレオノラ夫人が、日光浴中に何者かによって刺殺されていた。ちょうど、人身売買の実態を探る密命で当地に来ていたカーバリ大佐がポアロに事件の捜査を依頼する。ポアロの目の前に、亡くなったボイントン夫人の過去の養子や養子候補たちに対する虐待の実態が明らかになり、乳母によれば、今は行方不明だが、レスリーという名前の子も比較的長い期間いた養子だったという。その乳母は、自責の念から浴槽で自殺してしまう。そんな折、ジニーが人身売買組織に拉致されかけて修道尼を石で殴ってしまうという出来事が起きる。ショックを受けるジニーをウェストホルム卿夫人が慰める。事件の全容を把握したポアロは、関係者を集めて真相を説明することにする―。

agatha-christie-poirot-appointment-with-death.jpg 「名探偵ポワロ」の第61話(第11シーズン第4話)で2008年製作のロング・バージョン。本国放映は2009年12月25日で、2009年に英国で放映されたシリーズ新作は本作1本のみです(前年の9月死海殺人事件2.jpg死との約束HM.jpgに英国の一部とスウェーデンで先行放映されている)。本邦初放映は2010年9月16日(NHK-BS2)。原作はクリスティが1938年発表したポアロシリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、マイケル・ウィナー監督、ピーター・ユスティノフ主演で「死海殺人事件」('88年/英)の邦題で映画化されています。

名探偵ポワロ 死との約束 06.jpg 先に映画化されていることを意識したのか、原作をかなり改変してる感じで、殺されるレオノラ・ボイントンが未亡人ではなく、ちゃんと夫がいて、その夫は考古学者として発掘作業をしているということで、この辺りで『メソポタミヤの殺人』のように考古学的モチーフを事件にだぶらせています(原作では、ペトラ遺跡への単なる観光ツアーに皆が参加するという設定になっている)。

 その他、登場人物も微妙に改変し、また原作にある登場人物であってもそのバックグラウンドを変えたりしています。例えば、修道尼や乳母(元乳母)は原作に無いキャラクターであり、また、殺害されるレオノラ・ボイントン夫人は原作では元看守であり、旅行家のウェストホルム卿夫人は原作では英国国会議員であって、そのことが事件の大きなカギとなっています。更に、原作は時間差トリックであり、しかも容疑者の多くが訳あって嘘の証言をするため、話がややこしくなるというものでしたが、この映像化作品では全く別の種類のトリックが用いられています。原作でも映画でも新米医師サラ・キングは夫人の死亡推定時刻について1時間前という正しい見立てをし、この作品でも1時間内という見立てをしますが、ある意味、そのことを知っている視聴者の思い込みを利用したプロットとも言えます(実はこのドラマ版では、後で考えてみてこの点が一番引っ掛かったのだが)。

名探偵ポワロ 死との約束o.jpg 映画の方は、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、後で真実が明らかになった時に違和感があり(起きなかったことが映像化されていることが引っ掛かった)、この問題をドラマ版ではどう扱うのかと思ったら、そもそもトリックからして違っていて、そうした問題が生じる余地がありませんでした。ラストでは登場人物たちのそれまで明かされなかった関係がポワロによって次々と明らかになり、衝撃的というか、これはこれで意外性があって楽しめましたが、ドラマしか観ていない人は、原作または映画と比べてみてはどうでしょうか。異国情緒も十分あり(ロケ地はモロッコのカサブランカとアル・ジャディーダ)、個人的には映画より面白かったように思います。

エリザベス・マクガヴァン(ウェストホルム卿夫人)/ティム・カリー(ウエストホルム卿)/マーク・ゲイティス(レナード)
名探偵ポワロ 死との約束D.jpg名探偵ポワロ 死との約束(2009) ティム.jpg名探偵ポワロ 死との約束(2009) 09.jpg 映画では、ウエストホルム卿夫人を演じたローレン・バコールがピーター・ユスティノフをも凌ぐ貫禄でしたが、このドラマでのウエストホルム卿夫人役はエリザベス・マクガヴァン(「ダウントン・アビー」)です。ボイントン卿を演じたティム・カリー(「THE ROCKY HORROR SHOW  .jpgロッキー・ホラー・ショー」('75年)の変態博士役。「名探偵モンク」にも凶悪犯の役で出ていた)をはじめ、ボイントン夫人を演じたシェリル・キャンベル(「バーナビー警部(第13話)/裂かれた肖像画(古城の鐘が亡霊を呼ぶ)」('00年)のSHERLOCK マーク・ゲイティス3.jpg修復画家役)、レナードを演じたマーク・ゲイティス(「SHERLOCK(シャーロック)」のマイクロフト役で脚本や演出も担当)、ジニーを演じたゾーイ・ボイル(「ダウントン・アビー」)、ジェラール医師役のジョン・ハナー(映画「ハムナプトラ」シリーズ、「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第3話)/パディントン発4時50分」('04年)のトム・キャンベル警部役)、サラ・キング医師役のクリスティーナ・コール名探偵ポワロ 死との約束 08.jpg名探偵ポワロ 死との約束(2009)ハナー.jpg名探偵ポワロ 死との約束  .png(「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)の画家の描く絵の水着モデルになる娘役、「SUITS/スーツ」)など、映画やTVドラマシリーズで知る俳優が多く出ていて、トリビアな楽しみがありました。

ゾーイ・ボイル(ジニー)/ジョン・ハナー(ジェラール医師)/クリスティーナ・コール(サラ・キング医師)

名探偵ポワロ(第61話)/死との約束c.jpg「名探偵ポワロ(第61話)/死との約束」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON11:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:2008年●制作国:イギリス●本国放映:2009/12/25●監督:アシュレイ・ピアース●脚本:ガイ・アンドリュース●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワ名探偵ポワロ 死との約束s.jpgロ)/ティム・カリー(ボイントン卿)/シェリル・キャンベル(ボイントン夫人)/ゾーイ・ボイル(ジニー)/エマ・カニフェ(キャロル)/トム・ライリー(レイモンド)/マーク・ゲイティス(レナード)/ポール・フリーマン(カーバリ大佐)/クリスティーナ・コール(サラ・キング医師)/ベス・ゴダード(シスター・アニエシュカ)/ジョン・ハナー(ジェラール医師)/エリザベス・マクガヴァン(ウェストホルム卿夫人)/クリスチャン・マッケイ(コープ)●日本放映:2010/09/16●放映局:NHK-BS2(評価:★★★☆)
Christina Cole
Christina Cole_0N.jpgChristina Cole.jpg名探偵ポワロSL250_.jpg名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 3
全4話収録
第40巻『マギンティ夫人は死んだ』(原題:Mrs. McGinty's Dead)
MURDER AT THE VICARAGE 2004 01 .jpg第41巻『鳩(はと)のなかの猫』(原題:Cat Among the Pigeons)
第42巻『第三の女』(原題:Third Girl)
第43巻『死との約束』(原題:Appointment with Death)
アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)

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映画よりも謎解きが分かりやすかった。プロットを落ち着いて確認できるのはドラマのメリットか。

名探偵ポワロ 52  ナイルに死す.jpg名探偵ポワロ  ナイルに死す 02.jpg ナイルに死す2.jpg ナイル殺人事件 DVD.jpg
名探偵ポワロ 34 [レンタル落ち]」『ナイルに死す (ハヤカワ・ミステリ文庫)』「ナイル殺人事件 デジタル・リマスター版 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]

名探偵ポワロ  ナイルに死す 01.jpg 解雇に遭って文無しのサイモン・ドイルと婚約したジャックリーンは資産家の友人リネットに彼を雇ってもらうが、若く美しいリネットは友人の婚約者を奪って結婚してしまい、エジプトへ新婚旅行に出かける。リネットは、エジプトのホテルで一緒になったポワロに、ジャクリー名探偵ポワロ  ナイルに死す .jpgンが執拗に二人を追いまわしているので交渉してほしいと相談をもちかけるが、略奪婚の話を聞いているポワロは断る。ポワロはジャクリーンにストーキング行為を止めるよう注意するが彼女は聞き入れず、サイモン夫妻が参加したナイル川クルーズの同じ船に彼女もいた。クルーズには、ゴシップ好きなアラートン夫人、その息子ティム、リネットの会社の米国管財人ペニントン、小説家サロメ・オタボーン、その娘ロザリー、ヴァン・シュワイラー夫人、その娘コーネリア、共産主義者ファーガソン、医師ベクターなどもいた。遺跡見学中にリネットの頭上から石が落ちてくる出来事名探偵ポワロ  ナイルに死す6.jpgがあった。一方、ポワロは旧知のレイス大佐と再会。その晩、ポワロが早く寝てしまった後、ブリッジをしていた人たちの所にジャクリーンとコーネリアが来てリネットが寝室に戻たところで、ジャクリーンが突然ピ名探偵ポワロ  ナイルに死す 04.jpgストルでサイモンの脚を撃つ。自身狼狽するジャクリーンをコーネリアとファーガソンが部屋に連れて行き、ベクター医師がサイモンの膝を治療、鎮静剤を打って眠らせる。翌朝、起床したポワロにレイス大佐から、リネットが撃たれて死んだとの知らせが入り、大佐の指揮で捜査が始まるが、不審者の目撃を仄めかしたドイルのメイドのルイーズが刺殺され、更にはルイーズと会った人物について話そうとしたサロメが射殺される―。  

 「名探偵ポワロ」の第52話(第9シーズン第3話)でロング・バージョン。本国放映は2004年4月12日、本邦初放映は2005年8月23日(NHK-BS2)。原作はアガサ・クリスティが1937年に発表した長編作品であり、クローズド・サークルものの傑作とされ、1982年に行われた日本クリスティ・ファンクラブ会員の投票ではクリスティの全作品中5位に入っています。

「ナイル殺人事件」('78年/英)
ナイル殺人事件 スチール.jpg 同じ原作の映画化作品であるジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」('78年/英)が、ポワロ役のピーター・ユスティノフ他オールスター・キャスト映画としてよく知られていて、しかも"クルーズ観光映画"とでも言うべきか旅行気分も味わえる作品ですが、犯人が誰だったかということについては強烈な印象があるものの、事件の細かい経緯は忘れてしまったので(映画は'78年の公開年に観てその後テレビでも観たと思うが)、この「名探偵ポワロ・シリーズ」で改めて観て経緯を再確認したといったところでしょうか(原作の船客からは考古学者のリケティ、弁護士のファンソープ、看護師のミス・バワーズの3人が削られている)。

名探偵ポワロ(第52話)/ナイルに死す .jpg 犯人の解明に至るプロセスを改めて堪能したという感じです。映画の方は、推理半分・観光半分みたいな感じで、最後ポワロが関係者全員を集めて定番の謎解きをするのですが、それがややバタバタっという印象であったのに対し(後で原作を読んで細部について納得した記憶がある)、このテレビ版は、ポワロがさほど大げさなことはしませんが丹念に謎解きをしてくれているように思いました(舞台の派手さよりも。謎解き重視か)。"観光映画"としては、劇場版に比べるとさすがに地味ですが、それでもTVシリーズとしては結構お金がかかっている感じです。戯曲にもなっているように、その気になれば全て室内での演技でも出来てしまう作品なのですが、原作より上流の方らしいけれどちゃんとナイル川に船を出して遺跡巡りもしています(エジプトが舞台の第7話「海上の悲劇」('89年)はギリシャで、第34話「エジプト墳墓のなぞ」('93年)はスペインでそれぞれ撮影されている)。

ナイルに死す エミリー・ブラント.jpgエミリー・ブラント プラダを着た悪魔.jpg 映像化作品では、リネットがお金持ちであるだけでなく美人であり(このドラマでは「プラダを着た悪魔」('06年/米)でブレイクする直前のエミリー・ブラントが金髪のウィッグで演じている)、一方のエマ・グリフィス・マリン(「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第15話)/魔術の殺人」 (09年)にも出演している)演じるストーカー行為を行うジャクリーンはコンプレックスをしょい込んだような、普通の男性だったらあまり近づきたくない感じEmma Griffiths Malin as Jacqueline de Bellefor.jpgの女性であって(映画版ではミア・ファロー_3.jpg演技派ミア・ファローが好演)、ジャクリーンからリネットに"乗り換えた"サイモン・ドイルはややとっぽい感じの美男子というのがミソでしょうか。男女間の意外な関係がラストで明かされるというのは、クリスティだけでなく、その後も英国ミステリで何度か使われていますが、この作品の場合、先入観無しで映像(見た目)から入っていくと尚更分からないだろなあ(映画もそうだった)。

Emma Griffiths Malin as Jacqueline de Bellefort

 最初に映画を観た時には、動機について伏線が全然無かったではないかとの印象で星3つの評価(△評価)をつけましたが、このTVドラマ版では、ポワロが先入観ではなくロジックで謎解きをしていることがよく分かり、映画よりやや上の星3つ半(○評価)にしました。映画とTVシリーズとで同列で評価するのは難しいけれど、プロットを落ち着いて確認できるというTVドラマのメリットが生かされていたように思います。
Death on the Nile
Death on the Nile.jpg
名探偵ポワロ  ナイルに死す 03.jpg「名探偵ポワロ(第52話)/ナイルに死す」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON9:DEATH ON THE NILE●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/04/12●監督:アンディ・ウィルソン●脚本:ケヴィン・エリオット●時間:99分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/エマ・グリフィス・マリン(ジャクリーEMMA GRIFFITHS MALIN -Death On The Nile.jpgン)/JJ・フィールド(サイモン)/エミリー・ブラント(リネット)/バーバラ・フリン(アラートン夫人)/ダニエル・ラパイン(ティム)/ジュディ・パーフィット(ヴァン・シュワイラー)/デイジー・ドノヴァン(コーネリア)/フランセス・デラチュアEmma Griffiths Malin2.jpg(オタボーン夫人)/デビッド・ソウル(ペニストン)/ジェームズ・フォックス(レイス)●日本放映:2005/08/23●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

Emma Griffiths Malin

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分かりにくくてイマイチだった原作を、分かりやすく面白くした?

名探偵ポワロ 43ヒッコリー・ロードの殺人 dvd.jpg 名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人2.jpg ヒッコリー・ロードの殺人 1956.jpg ヒッコリー・ロードの殺人1978.jpg ヒッコリー・ロードの殺人2004.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.25 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 22号 (ヒッコリー・ロードの殺人) [分冊百科] (DVD付)」『ヒッコリー・ロードの殺人 (1956年) (ハヤカワ・ミステリ)』『ヒッコリー・ロードの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM1-37))』『ヒッコリー・ロードの殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人 00.jpg名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人title.jpg ポワロの秘書ミス・レモンの姉ハバード夫人が管理人を務めるヒッコリー・ロードにある学生寮で奇妙なものが盗まれる事件が頻発し、ミス・レモンはポワロに相談する。学生寮のオーナーのニコレティスは気難しい女性で、学生たちへの犯罪学の講演名目で寮ににやった来たポワロを歓迎していない様子。寮名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人01.jpgにいる学生は、医学生のレオナルド、アメリカからフルブライト留学生で英文学専攻のサリー、考古学・中世史専攻のナイジェル、政治学専攻のパトリシア、心理学専攻のコリン、化学専攻のシーリア、服飾デザイン専攻のヴァレリーら7人。盗まれた品物の内訳は、聴診器、指名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人3.jpg輪、ライター、ホウ酸、夜会靴の片方、リュックサック、電球などで、被害は大したものではないが、それを見たポワロは盗みの陰に潜む危険を察知する。程なくして盗名探偵ポワロ ヒッコリー・ロードの殺人 02.jpgみの犯人が盗癖持ちだったという女子学生シーリアと判明するが、彼女は一部の品については盗んでいないと言う。ポワロが事件の予感を覚えた直後にシーリアが毒殺される事件が起き、医学生のレオナルドへの容疑が強まるが、次いで学生寮のオーナー女性ニコレティスが何者かに刺殺される―。

AGAHTA CHRISTIE HICKORY DICKORY DOCK1.jpgAGAHTA CHRISTIE HICKORY DICKORY DOCK2.jpg 「名探偵ポワロ」の第43話(第6シーズン第2話)でロング・バージョン。本国放映は1995年2月12日、本邦初放映は1996年12月30日(NHK)で、第42話「ポワロのクリスマス」より1年早く放映されています。原作はクリスティが1955年に発表したポアロシリーズ第26作。映像化作品としては、戦後発表されたものの中では(戦前に発表した短編を戦後に中篇に拡張した「盗まれたロイヤル・ルビー」「スペイン櫃の秘密」を除いて)シリーズ初登場とのことですが、時代設定は他のシリーズ作品同様1930年代半ばにしています。

AGAHTA CHRISTIE HICKORY DICKORY DOCK k.jpg 原作は、学生寮にいて様々な出身国の学生が集い自由に議論したりする様は印象深かったですが、登場人物が多すぎて(文庫巻頭の登場人物一覧表に記載されている寮生だけでも11人、全部で16人か)、しかもその中で殺害された者を除いて全員容疑者とあって、もう最後は犯人が誰だっていいや的な気分になりそうでしたが、推理通に言わせれば、ロジックで辿っていくと犯人は判るようになっているとのことです(個人的には全然判らなかった)。
Hickory Dickory Dock (Poirot) (Hercule Poirot Series)

ヒッコリー・ロードの殺人 2.jpg この映像化作品では、さすがに100分の話の中に寮生十数人を全部詰め込むのは無理と考えたのか7人に絞っていて、原作では、ジャマイカからの黒人の留学生エリザベス、西アフリカ人の黒人の留学生アキンボ、その他インド人の学生など有色人種の学生も結構いましたが、全部白人になっています。これは別に人種差別ということでもなく(フランス人の留学生なども省かれている)、時代設定を戦前にしたことに関係しているのではないかと思います。

ヒッコリー・ロードの殺人  .jpg まあ、その前に、登場人物を減らしてスッキリさせるという狙いがあったかと思いますが、それが成功しているように思います。品物が盗まれる事件に複数の人物の動機が絡んでいて、それだけでも複雑であるため、これで容疑者が10人も15人もいたら何が何だか分からなくなるところでしたが(原作を読んだ時はその印象に近かった)、この映像化作品を観て腑に落ちたという感じでしょうか。

 しかも、ジャップ警部が夫人が旅行で不在のため、自宅で一人で家事をして失敗したりした末に(ジャップ警部の自宅が出て来るのは第33話「愛国殺人」以来だが、あの時から引っ越しした?)、ポワロの所へ招かれて泊り込み(客用の寝室があったのだ)、トイレのビデが何のためのものか分からずにミス・レモンに訊ねて彼女を困らせた挙句、夜中にそれで顔を洗ったり、ポワロの作った豚足料理(ベルギーの豚足料理は有名らしい)に辟易し、ミス・レモンの作ったムニエルに飽き足らず、自分でマッシュポテトに煮豆、レバー団子という英国風昼食を作って今度はポワロに癖癖させたりといった、文化的ギャップが生むユーモラスな場面を織り込んだりする余裕もあったようです。

 一方で、実はナイジェルの父親だったスタンリー卿の話を結構膨らませていて、この辺りは脚本のアンソニー・ホロヴィッツの好みでしょうか。個人的には、原作にある、シーリアが書いた謝罪の手紙を犯人が遺書として利用するといったプロットなどを省いてまでこの話を膨らませる必要はあったのかと思いましたが、映像化作品だけで観ればそれほど気になりませんでした。但し、クリスティの描く通常の犯人像からはやや逸脱したサイコ的な極悪人の犯人像になったようにも思います。

 因みに、2016年のAXNミステリーのスペシャル企画「アガサ・クリスティー生誕記念特集」で、「名探偵ポワロ」の視聴者投票と併せて著名人に「名探偵ポワロ」のベストを聞く企画で、英文学者、英国文化研究家の小林章夫・上智大学教授はこの作品をベストに挙げています。また、ミステリマガジン2014年11月号の作家・若竹七海氏による「ドラマ版ポワロからベスト3」で、「原作は今一つなのに、意外に楽しい作品になっていた。数多い学生寮の住人を整理し、マザー・グースに合わせてネズミを配し、ミステリ的にはツッコミどころのあるお話をテンポよく進めてみせた」傑作の一本との高評価を得ています。マザー・グースは原作ではタイトルに使われていただけでしょうか。原作との相対評価で言うと、自分も若竹七海氏に近いと言えます。

ヒッコリー・ロードの殺人s.jpg「名探偵ポワロ(第43話)/ヒッコリー・ロードの殺人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:HICKORY DICKORY DOCK●制作年:1995年●制作国:イギリス●本国放映:1995/02/12●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ)/ ポーリン・モラン(ミス・レモン)/パリス・ジェファーソン(サリー・フィンチ)/ナイジェル・チャップマン(ジョナサン・ファース)/ダミアン・ルイス(レナード・ベイトソン)/ギルバート・マーティン(コリン・マクナブ)/エリナー・モリストン(バレリー・ホブハウス)/ポリー・ケンプ(パトリシア・レーン)/ジェシカ・ロイド(シーリア・オースティン)/サラ・ベデル(ハバード夫人)/レーチェル・ベル(ニコレティス夫人)/グランヴィル・サクストン(キャスタマン氏)/デビッド・バーク(サー・アーサー・スタンリー)●日本放映:1996/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)

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若干"禁じ手"のような気もするが、プロセスにおいて愉しめたからまあ良しとする。

名探偵ポワロ/ポワロのクリスマスL.jpg名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス dvd_book.jpg 名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス05.jpg  ポワロのクリスマス book - コピー.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.24 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 9号 (ポワロのクリスマス) [分冊百科] (DVD付)」『ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス02.jpg クリスマスも間近に迫ったある日、ポワロはセントラル・ヒーティングが壊れて困っているところに、ゴーストン・ホールの当主である老富豪シメオン・リーから電話で泊まりの仕事の依頼があり、そちらにはセントラル・ヒーティングがあるとのことで邸へ赴く。彼には、ホールに同居するアルフレッド、国会議員のジョージ、道楽者のハリーの3人の息子と、スペイン人と結婚名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス01.jpgした娘ジェニファーがいた名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス03.jpgが、娘は子供を残して亡くなっており、シメオン・リーはこのクリスマスに、ジョージ、ハリーの夫婦に加え、長年離れて暮らしていた末息子ハリーと亡くなった娘の子供、つまり彼にとっての孫娘となるピラールも呼び寄せていた。一族たちが邸を訪れ、互いに再会したり初めて会ったりした一同ではあったが、兄弟の不仲や老人の嫌味な言動などにより、邸内には不穏な空気が流れる。そしてクリスマス・イヴに事件は起こる。老人の部屋から聞こえて来た凄まじい騒音と絶叫。鍵のかかっていたドアを破壊し中に踏み入った一同が目にしたものは、崩れた家具とその横に倒れる老人の血まみれの死体だった。そして、彼が銀行から届けさせていたダイヤが紛失していた―。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス  book.jpg名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス book.jpg名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス book2.png 「名探偵ポワロ」の第42話(第6シーズン第1話)でロング・バージョン。本国放映は1995年1月1日、本邦初放映は1997年12月29日(NHK)。原作はアガサ・クリスティが1938年に発表した長編作品であり、映像化作品の年代設定もほぼ同じ(このTVシリーズが"通し"で大体名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス04.jpgその頃の時代設定になっている)。但し、原作ではジャップ警部は登場しませんが、こちらは、妻の実家ウェールズに帰省していて、地元ウェールズ人のクリスマス期間中に朝から晩まで歌い通しの慣習にウンザリしている彼を、ポワロが"救出"して捜査に当たらせます(奥さんの実家は見せても、当の奥さんの姿は無い。「刑事コロンボ」ではないが、ジャップ警部の奥さんを見せないのがドラマの決まりごとになっているようだ)。

 プロローグで、40年前に南アフリカで大粒のダイヤモンドを発掘した2人の男の内、片方の男が欲に駆られて相方の男を殺害し、自らも灼熱の地に倒れるも、現地の一人住いの女性に助けられて介抱され、やがて2人は夫婦生活を送るようになる―という話が展開され、その男が今の老大富豪シメオン・リーであることが示唆されています。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス1.jpg ということで、シメオン・リーは過去に仲間を殺害して富を得る機会を独占した"殺されても仕方がないくらい"悪い奴なのですが(更に、現在においても、孫娘に躙り寄るどうしようもない好色爺なのだが)、あまりに多くの人物から恨みにを買っていそうで、一体誰が犯人なのか判らない―長男、次男にそれぞれの嫁まで絡んで、何となく秘密を抱えていそうなピラールも加え、当面の容疑者は6人に。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス-212.jpg 個人的には、シメオン・リーを殺害したのは、ダイヤ発掘の際に彼に殺害された相方の子孫だと思ったのですが、それが孫娘に化けて邸に潜入したのかと思ったけれど、ちょっと違っていました(ポワロが仄めかした「犯人は内部の者であり外部の者でもある」という言葉に該当するのはその時点で彼女しかいないように思えたのだが、ただ金持ちになりたかっただけか)。

名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマスes.jpg 結局、「執事が犯人だった」という手に匹敵する"禁じ手"だったような気名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス-s.jpgがしなくもないですが、しっかり伏線もあったし(ビリアード室でのピラールの言葉など)、密室殺人から始まってお決まりの関係者全員を集めての謎解きまで、プロセスにおいて最後まで愉しめたから、まあ、良しとしようという感じでしょうか(評価はロング・バージョンHercule Poirot's Christmas.jpg間の相対評価で星3つ半くらいか)。ポワロとジャップ警部のクリスマス・プレゼントの交換が可笑しかったです(当然、ジャップが出てこない原作には無い話なのだが)。

「名探偵ポワロ(第42話)/ポワロのクリスマス」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅥ:HERCULE POIROT`S CHRISTMAS●制作国:イギリス●本国放映:1995/01/01●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ヴァーノン・ドブチェフ(シメオン・リー)、サイモン・ロバーツ(アルフレッド・リー)●日本放映:1997/12/29●放映局:NHK(評価:★★★☆)
Hercule Poirot's Christmas

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AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編)ベスト10」第1位作品。ドラマ性が高い。

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱dvd.jpg 名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 dvdbook.jpg 名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 00.jpg 名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱  07.jpg
名探偵ポワロ 完全版 22 [レンタル落ち]」(「イタリア貴族殺害事件」「チョコレートの箱」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 63号 (チョコレートの箱) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 01.jpg ポワロはベルギーで「黄金の枝」勲章を叙勲されるジャップ警部に伴い、ブリュッセルを訪れる。警視総監になった旧友のシャンタリエと再会したポワロは、20年前の事件を思い出す。ポワロが警官だった頃、リベラル派の大臣ポール・デルラールが家族や知人たちとの食事後、好物のチョコレートを食べて急死した事件だ。ポワロはシャンタリエと捜査を始めるが、ブシェール警視によって打ち切りを命じられる。それでもポワロは決然と捜査を進めたのだった―。

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 05.jpg 「名探偵ポワロ」の第39話(第5シーズン第6話)でショート・バージョン。本国放映は1993年2月21日、本邦初放映は1993年7月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「チョコレートの箱」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「チョコレートの箱」)などに所収。

名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱09.jpg ポワロがベルギー警察時代に初めて〈私立探偵〉として手がけた事件を描いた作品(警官が捜査打ち切り命令に反して休暇を取って自主的に捜査すれば私立探偵ということになるわけか)。原作では ポワロがヘイステングス相手にロンドンの自室で40年前の事件の回顧談をする設定なのに対し、映像化作品では、ポール・デルラールの死が1913年頃で、20数年前の事件となっています。更に、回顧談の相手がジャップ警部に変更され、どうせ回顧シーンをブリュッセルでロケしなければならないのならば、現在のポワロとついでにジャップ警部もベルギーへ行かせようということになったの名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 02.jpgか、ジャップ警部がベルギーで勲章を受けることになり、奥さんが長旅がダメで同伴できなくて(ジャップ警部の自宅や奥さんの親戚は出てくることがあっても、当の奥さんは姿を見せ名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱ド.jpgないのが、「刑事コロンボ」のコロンボのカミさん同様にドラマのお決まりになっている)、代わりにポワロがジャップ警部に同行するという設定になっています(旅費2人分は予め表彰する側が負担することになっているということか。ベルギー側が、ジャップ警部の功績はポワロによるところ大であることを知っていて、ポワロも招待したのかと思ってしまった。それではジャップ警部に対して嫌味になってしまう)。

 従って、現在のポワロと警察時代のポワロが交互に交錯してストーリーが進んでいきますが、ポワロ役のデビッド・スーシェは普段ポワロを演じている時は"詰め物"をしているわけで、警察時代を演じる時はそれを抜いているため、若干スリムかになっている感じでしょうか(但し、上司より顔がデカかったりして、これは如何ともしがたい)。階段を駆け下りたり、逃走者を走って追いかけたりと、若々しさを強調しています。

ブローチをしたポワロ.jpgポワロのブローチ.jpg名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱  03.jpg 原作との大きな改変点は、原作でポール・デルラールに想いを寄せる女性ビルジニー・メナール(ポールの亡き妻の従妹)が、何とポワロに想いを寄せているとでも言っていいくらいポワロを信頼しきっている感じになっており、ポワロがいつも身に付けている襟のブローチがその時の彼女からの贈り物であったことが明かされ、同時に、かつてビルジニーへ抱いたポワロ自身の思慕が今も生き続けていることが示唆されます。再会シーンは微妙(個人的には要らなかったかなとも)。夫は薬剤師なのに、息子2人は警官になっているという...(原作では、彼女は女好きのポールに幻滅して修道院に入ってしまうため、ポワロとの恋愛談は無い)。

 もう一つの見所は、未解決事件だとされていたポール・デルラールの死は、実はポワロは当時すでに事件を解決していたけれどもそれを封印し、今ここで充分に月日を経たことを理由にその封印を解いたという作りになっている点で、では何故彼は当時、事件を自分の手柄とすることなく敢えて封印したのか―それは観ていれば分かるのですが、謎解きのプロットもさることながら、このように、ショート・バージョンにしてはドラマ的要素が盛り沢山で、事件が回顧談の中で展開されポワロが警官服で出てくるという変則的なものでありながら、この作品が、AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編)ベスト10」の第1位に選ばれているのも分かる気がします。

The Chocolate Box
The Chocolate Box _.jpg名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱 04.jpg ポワロが犯人を見逃すというのは『オリエント急行の殺人』などでそのような例がないわけではないですが珍しい方でしょう(警察時代の事件であるということもあるのか。いや、警察官だったら本来は犯人逮捕は義務であるはずだが)。チョコレートの箱と蓋の組み合わせを間違えた犯人は、赤と緑を十分に区別できない所謂「赤緑色盲」だったのでしょうか?
               
 
チョコレートの箱.jpg「名探偵ポワロ(第39話)/チョコレートの箱」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE CHOCOLATE BOX ●制作国:イギリス●本国放映:1993/02/21●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ジェームズ・クームス(ポール・デルラール)/デヴィッド・デ・キーサー(ガストン・ボージュ)●日本放映:1993/07/10●放映局:NHK(評価:★★★★)
 
■AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」(2010年)(話数は放映順。()内数字はオリジナルの放送順)
1位 第34話 「チョコレートの箱」 (第39話)
2位 第31話 「黄色いアイリス」 (第36話)
3位 第4話 「24羽の黒つぐみ」 (第4話)
4位 第19話 「あなたの庭はどんな庭?」 (第21話)
5位 第1話 「コックを捜せ」 (第1話)
6位 第6話 「砂に書かれた三角形」 (第6話)
7位 第29話 「エジプト墳墓のなぞ」 (第34話)
8位 第22話 「スズメバチの巣」 (第24話)
9位 第26話 「盗まれたロイヤル・ルビー」 (第28話)
10位 第27話 「戦勝舞踏会事件」 (第29話)

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ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまう。

名探偵ポワロ 完全版 21  黄色いアイリス・なぞの遺言書L.jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 60号.jpg THE YELLOW IRIS POIROT.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.21 [DVD]」(「黄色いアイリス」「なぞの遺言書」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 60号 (黄色いアイリス) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス 01.jpg 2年前、アルゼンチンに滞在しているヘイスティングスに会いに行ったポアロは、ブエノスアイレスのホテルで偶然事件に遭遇する。それから月日は流れ、ある朝、ポアロはヘイスティングスから「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」が付近にオープンすることを聞き、ミス・レモンからは「事務所のポストに挿されていた」と"黄色いアイリス"を手渡される。ポアロにとって思い出したくない2年前の黄色いアイリス.jpg事件―同じ名のレストランの黄色いアイリスが飾られたテーブルにいたアイリスという女性の殺害事件が再び脳裏に蘇る。ポワロが過去に遭遇し未解決に終わっていたその事件が、2年後の今、ロンドンで再び動き出す―。
 
 「名探偵ポワロ」の第36話(第5シーズン第3話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月31日、本邦初放映は1994年2月5日(NHK)。原作は短編で、クリスティー文庫『黄色いアイリス』(「黄色いアイリス」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』(「黄色いアイリス」)などに所収。
黄色いアイリス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス04.jpg 「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」は、2年前の事件の現場名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス06.jpgとなった有名なフランス料理店で、この度ロンドンに進出しオープンしたわけですが、そのオープンの日は、図らずも2年前その事件が起きた―アイリスが突然うっ伏して亡くなった―その日であり、当時、ポアロはまさにその時その場所にいたにも関わらず、クーデターを起こした軍によりスパイ容疑で逮捕されて強制送還され、事件を解決するに至らず、事件はアイリスのポーチにあった青酸カリによる自殺として処理されたというもの。

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス03.jpg 今回黄色いアイリス THE YELLOW IRIS POIROT.jpgは、当時アイリスが青酸カリによって殺害されたテーブルにいた当事者全員が招待されて店に集います。店のテーブルは、米国人実業家のバートン・ラッセルが予約したもので、ラッセルは4年前と同じ状況を作った上でアイリスは他殺であるとの考えを述べ、この中に犯人がいるとしますが、今度はその場でアイリスの妹ポーリンが突然うっ伏してしまう―。

忘れられぬ死(2003年)洋DVD.jpg忘られぬ死 ハヤカワ文庫09.jpg 原作の短編は長編『忘られぬ死』の原型とされる作品で、但し『忘られぬ死』ではポワロは登場せず、姉妹の名前は、姉がローズマリーで妹がアイリスでした。2003年にはグラナダTVによってTVドラマ版が作られています。

 『忘られぬ死』は文芸小説風ミステリでもありましたが(映像化作品は時代を現代に置き換え、原作と若干違って、トミーとタペンスの「おしどり探偵」シリーズの"初老版"みたいな作りになっている)、こちらの映像化作品の「黄色いアイリス」は短編がベースであるためか、純粋にトリックが楽しめます。ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまいますが、それにしてもポーリン、演技が上手すぎ? いや、それ以前に、犯人の手先が器用すぎ?

The Yellow Iris Hercule Poirot an Hastings.jpg 因みに、ヘイスティングスは今はアルゼンチンからロンドンに戻ってきているわけで、これは、ドラマでは鉄道への投資に失敗したため破産し、イギリスに帰国して再びポアロの助手を務めているという設定になっているためです。原作では、アルゼンチンで牧場を経営し成功を収めたため、イギリスに一時帰国することあっても、途中から彼の本拠地はあちらになっています(そのため、ポワロはミス・レモンを雇うことになった)。

 この作品は、AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」の第2位に選ばれています(第1位は「チョコレートの箱」)。

名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス02.jpg「名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE YELLOW IRIS●名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス07.jpg制作国:イギリス●本国放映:1993/01/31●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロビン・マキャフリー(アイリス・ラッセル)/ジェラルディン・サマーヴィル(ポーリーン・ウェザビー)●日本放映:1994/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)

《読書MEMO》
●AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」(2010年)(話数は放映順。()内数字はオリジナルの放送順)
1位 第34話 「チョコレートの箱」 (39)
2位 第31話 「黄色いアイリス」 (36)
3位 第4話 「24羽の黒つぐみ」 (4)
4位 第19話 「あなたの庭はどんな庭?」 (21)
5位 第1話 「コックを捜せ」 (1)
6位 第6話 「砂に書かれた三角形」 (6)
7位 第29話 「エジプト墳墓のなぞ」 (34)
8位 第22話 「スズメバチの巣」 (24)
9位 第26話 「盗まれたロイヤル・ルビー」 (28)
10位 第27話 「戦勝舞踏会事件」 (29)

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プロットより舞台設定か。「エジプト墳墓のなぞ」(第34話)。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞdvd3.jpg 名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞdvd100_.jpg 名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ  7.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.20 [DVD]」(「エジプト墳墓のなぞ」「負け犬」所収) 「名探偵ポワロDVDコレクション 58号 (エジプト墳墓のなぞ) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ7.jpg名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ01.jpg エジプトで行われている大掛かりな発掘調査で、遂にメンハーラ王の墳墓が開封される時が訪れるが、封印の扉を開けた直後、発掘隊の考古学者ウィラード卿が倒れ、そのまま亡くなってしまう。死因は心臓発作で自然死と判断されたが、それから次々と調査に関わった人間が不審な死を遂げて行く。そんな折、卿夫人の依頼を受けたポワロは、ヘイスティングスとともにエジプトへ向かう。 人々は「王の墓を暴くものには制裁が下される」と王の呪いを噂するが―。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞs.jpg 「名探偵ポワロ」の第34話(第5シーズン第1話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月17日、本邦初放映は1993年7月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「エジプト墳墓の謎」)、創元推理文庫『クリスティ短編集1』(「エジプト墓地の冒険」)などに所収。

 ウィラード卿に次ぐ第二の死者は、発掘を財務的に支援していたアメリカ人資産家・ブライブナー氏で死因は急性敗血症、第三の死者はブライブナーの甥で自殺死、第四の死者は、ニューヨーク・メトロポリタン博物館勤務の考古学者シュナイダー博士で、ポワロらの到着とほぼ時を同じくして破傷風のために急死―と、ばたばたばたっと4人続けて病死や自殺を遂げますが、何となく犯人が判らなくもないような展開だったかも。

名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ06.png 犯人はやっぱりという感じでした。あとは動機だけでしたが、動機は謎解きされてみないと分からないものでした。シーズンの第1話ということでロケをした割には("王家の谷"のロケ地はエジプトではなくスペインのようだが、大英博物館のラムセス二世の胸像なども出てきて雰囲気を盛り上げている)、プロットは大したことなかったかも。まあ、今回は、砂漠での王家の墓の発掘作業というエキゾチックかつミステリアスな舞台設定に、ポワロがいつも通りのスタイルで(砂漠にもかかわらず皮手袋にエナメル靴で)乗り込んでいくところが見所だったのかもしれません(ポワロは飛行機がダメだから海路で行ったのか)。テレビドラマにしては舞台背景はしっかり撮ってると思われ、その分評価として星半個プラスしました(プロットだけ見ると星3つ。因みに、メンハーラ王はクリスティによる架空の王らしい)。

 ヘイスティングスがミス・レモンのペースに引き込まれて二人で「こっくりさん」のような占いをやっているのがご愛嬌ですTHE UNDERDOG POIROT.jpg(ミス・レモンは原作より親しみやすい人柄として描かれている。原作で彼女が登場するのはヘイスティングスと入れ違いであるため、基本的に2人同時には登場しない)。ミス・レモンは、続く第35話「負け犬」(The Underdog)第35話 負け犬.jpgは、今度はポワロに、きっと仕事に役に立つからと催眠術をかけようとしますが、ポワロは意地っ張りなせいもあってか術にかかりません。しかし、ポワロに言われて殺人事件の関係者に催眠術をかけ、事件解決の大きなヒントを引き出します(本当に仕事に役に立った)。
第35話「負け犬」(The Underdog)

イタリア貴族殺害事件0.jpg また、この「エジプト墳墓のなぞ」の時、ミス・レモンは愛猫を亡くして寂しい気持ちになていますが、そうした彼女を気遣って、ポワロが事件解決の後、ミス・レモンにエジプト王の墓に描かれている猫に模した置物のお土産を渡すと、彼女はかなり癒された風でした。こんなミス・レモンに、第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)ではボーイフレンドができますが、実はこれがとんでもない男で、そのことをTHE ADVENTURE OF THE ITALIAN NOBLEMAN.jpg突き止めたポワロは、彼女に真実を告げなければというヘイスティングスに対し、それは自分の役目だと言ってミス・レモンに対峙しますが、彼女はすでに男とは別れたとのことで拍子抜けしてしまいます。そして、別れた理由は男が飼い猫が邪魔になって処分しようとしたことに彼女が憤慨したためで、ポワロがふと気づくと、オフィスの中に当の猫が...(ポワロはやや渋い顔に)。
第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)

The Adventure of the Egyptian Tomb_.jpg「名探偵ポワロ(第34話)/エジプト墳墓のなぞ(エジプト墳墓の謎)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ:THE ADVENTURE OF THE EGYPTIAN TOMB●制作国:イギリス●本国放映:1993/01/17●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:クライブ・エクストン●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ピーター・リーヴス(ウィラード卿)/アンナ・クロッパー(レディー・ウィラード)●日本放映:1993/07/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Adventure of the Egyptian Tomb

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凝ったプロットの原作を比較的分かりやすく再現。結末のスッキリ感も維持されていた。

愛国殺人 dvd.jpg 名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人_.jpg ポワロ 愛国殺人50.jpg 愛国殺人 hpm 2.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.17 [DVD]」「名探偵ポワロDVDコレクション 13号 (愛国殺人) [分冊百科] (DVD付)」『愛国殺人 (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery 207)

ポワロ 愛国殺人 40.jpg 1925年インド。英国皇太子巡行の際に、女優のメイベル・セインズベリー・シールは同僚のガーダが銀行員アリステア・ブラントと結婚すると知り、その12年後、英国行きの船で一緒だったアンベリオティスに歯科医を紹介したついでにその昔話をする。英国に戻ったセインズベリー・シールは歯科医院の前で偶然ブラントと再会、彼は銀行頭取にまで出世していて、伝道師でもある彼女は寄付を頼む。ポワロは偶々その歯科医モーリィの所に通う。するとモーリィはこれから経済界を牛耳るブラントが来ると。待合室でブラントと擦れ違い歯医者を出るとセインズベリー・シールとぶつかる。待合室にいた彼女は待ち時間が長過ぎると怒って帰ってしまい、ボーイが診察室を覗くとモーリィ医師の拳銃自殺死体が。ジャップ警部からの要請でポワロは捜査に協力することになり、医師の予約簿にはポワロ、ブラント、セインズベリー・シール、アンベリオテ愛国殺人2.jpgィスの順に名が。最後に治療を受けたのがアンベリオティスだと本人からも確認したが、直後にアンベリティオスは麻酔の過剰投与の後作用で死亡する。死ぬ気配がなかったモーリィが自殺したのは投薬ミスに気づいたからだと警察は納得するが、ポワロは納得できず捜査を続行。メイドが証言では、モーリィは秘書ネビルが最近勤怠不良になっているのは失業中の恋人カーターのせいだとして2人の交際に反対していて、事件当時待合室にいた青年はそのカーターだと。話を聞こうと思ったセインズベリー・シールは失踪し、後日、チャップマン夫人の部屋に顔を潰された彼女と思しき遺体が。モーリィ医師が自殺した日に訪れた患者が二人も死んだことを訝しんだポワロは、ブラントにも話を聞くが、アーンホルト財閥の令嬢レベッカの入り婿となって一介の銀行員から経済界の実権を握った彼は、病死したレベッカの知り合いだと言われてもそんな女性に覚えはないと。そんな時、庭師として入り込んでいたカーターが発砲事件を起こし、ブラントの秘書モントレソーに現場を取り押さえられ、濡れ衣を主張するが逮捕される。歯の治療跡から顔の潰されたセインズベリー・シールだと思われた遺体はチャップマン夫人の遺体だったらしい。ではセインズベリー・シールは何処へ行ったのか。ポワロは留置場のカーターから、事件当時モーリィに文句を言いに行ったら死んでいたという証言を得、それによって当初の犯行推定時刻の1時間前、セインズベリー・シールが帰る前に殺人は行われていたと確信する。ポワロが銀行の会議室に関係者を集め、事件の種明かしが行われる―。

愛国殺人 クリスティー文庫.jpg 「名探偵ポワロ」の第33話(第4シーズン第3話(ロング・バージョン))で、本国放映は1992年1月19日、本邦初放映は1992年10月3日(NHK-BS2)。原作はクリスティー文庫『愛国殺人』(加島祥造:訳)など。

 原作のストーリーが複雑であるためか、TVシリーズの長尺版の方でありながら(103分)、それでも原作の主要な登場人物のうち、バーンズ(内務省退職官吏)、レイクス(ブラントの姪の恋人)、ライリー(モーリィの仕事上のパートナー)がカットされています。それによってかなりスッキリしたのは良いけれど、殺人の背景にある政治色が弱まったかも。バーンズを省いたことで、チャップマン夫婦の正体は何者かという、原作でポワロも引っ掛かった謎の種明かしが無くなってしまったのが少し残念です。

 ネタバレになりますが、顔の潰れた死体で発見された女性はやはりセインズベリー・シールでした。ポワロが歯医者から帰ろうとしたときにぶつかりバックル付きの靴が壊れたのを見ていて、その時履いていたストッキングは高級品だったのに、彼女の部屋には安いストッキングしかなかったし、死体の足のサイズも違っていたので、ブラント氏が会ったセインズベリー・シールとポワロが会ったセインズベリー・シールは別人だと言うことです。変装しセインズベリー・シールを演じた共犯者は犯人の秘書のモントレソーであり、彼女こそガーダでした。

ポワロ 愛国殺人640.jpg 原作では殆ど前面に出てこないこの共犯者が、この映像化作品では多分に映像化されており、但し、最初は"セインズベリー・シール"に変装して出ている訳で、では冒頭の本物のメイベル・セインズベリー・シールはまた別の女優が演じたのでしょうか(プロローグのインドでメイベル・セインズベリー・シールとガーダが一緒に出てくることからするとそうなるが、舞台メイクをしているのでよく分からない)。何れにせよ、映像面、演技面で観る側をも引っ掛かけているというのは興味深いです。

 普通ならば医療の知識も技量もないはずの人物に可能な殺人手段かとか、奥さんが死んだならばなぜ本命の女性と再婚しなかったのかとか、原作に起因する突っ込み所は幾つかありますが、事件を解くカギとなる歯科医院での複雑な人の出入りなどは比較的分かり易く再現されており、3人の主要人物をカットしたりはしているものの(その割には、ポワロが休日にジャップ警部の自宅を訪問するという"オマケ"がついていたりもするが)、原作にほぼ忠実に作られているように思いました。

 原作は幾つか突っ込み所がありながらも、プロット面でも(犯人が歯の治療記録を改竄したのは巧妙)、ラストの犯人とポワロの価値観対決という面でもまずまずの傑作。この映像化作品でも、経済界の大物がその独善による殺人を「愛国のため」と言い切る傲慢さを、ポワロが最後に事実を暴露するとともに、その誤った考え(政治観以前の人間価値観とでも言うべきもの)をも粉砕するという、そうしたスッキリ感は維持されていたのではないでしょうか。

ポワロ 愛国殺人64.jpg「名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人(愛国殺人事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:ONE, TWO, BUCKLE MY SHOE●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/19●監督:ロス・デベニッシュ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)、フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)、キャロリン・コルキュホーン(メーベル)、ジョアンナ・フィリップ=レーン(ガーダ)、ピーター・ブライス(ブラント)、ジョー・グレコ(アルフレッド・ビッグス)、クリストファー・エクルストン(フランク・カーター)、カレン・グレッドヒル(グラディス・ネビル)、ローレンス・ハリントン(ヘンリー・モーリィ)、セーラ・スチュワート(ジェーン・オリベラ)、ヘレン・ホートン(ジュリア・オリベラ)、ケボーク・マリキャン(アンベリオティス)、トリルビー・ジェームズ(アグネス・フレッチャー)●日本放映:1992/10/03●放映局:NHK-BS2(評価:★★★☆)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1962】 「ミス・マープル(第11話)/魔術の殺人 
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凝ったプロットの2話。「戦勝舞踏会事件」(第29話)と「猟人荘の怪事件」(第30話)。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件 dvdbook.jpg 戦勝舞踏会事件001.jpg  名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件 dvdbook.jpg 名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 55号 (戦勝舞踊会事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 57号 (猟人荘の怪事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件03.jpg ポワロは、ヘイスティングスに誘われて戦勝記念舞踏会に出かける。 晩餐の後、女優のココ・コートニーと骨董陶磁器の収集家クロンショー卿が争いながら食堂から出てくる。一方、アメリカ人のマラビー夫人は、ダンスの約束をしたクロンショーを捜していると、食堂でひとつの死体を発見する。それはクロンショーの死体だった。彼のポケットにはCの頭文字のついた小さなケースが入っており、死体発見の直前に彼がメモしていた手帳も見つかる―(第29話「戦勝舞踏会事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第29話(第3シーズン第10話)で本国放映は1991年3月3日、本邦初放映は1992年7月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「戦勝記念舞踏会事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』などに所収。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件00.jpg 戦勝記念舞踏会って仮装舞踏会であるわけで、そこへ、自分は自身が有名人であるから仮装はしないと乗り込んでいくポワロの自信家ぶりはスゴイね。そのポワロの居合わせた舞踏会で殺人が起きてしまい、犯人を見逃したとマスコミに叩かれて、名誉回復のため事件解決に躍起になるというのがいかにも彼らしいです。

名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件01.jpg 事件の当事者は、骨董陶磁器のコメディア・デラルテ(仮面即興劇)の6体の人物にそれぞれ扮した、クロンショー卿、女優のミス・ココ・コートニー、男優のクリス・デビッドソンとその夫人、ペルテイン子爵、未亡人ミス・マラビーの6人で、その中でクロンショー卿が殺され、普通でいけばクロンショー卿の伯父であり、相続人であるペルテイン子爵が一番怪しいということになりますが、このシリーズの場合、一番怪しい人は真犯人で名探偵ポワロ 戦勝舞踏会事件06.jpgはないというのはほぼ定番となっています。

 仮装ということが1つ鍵となった「入れ替わり&時間トリック」で、そう考えると結構凝ったプロットだったのではないでしょうか。第2の殺人で女優も犠牲になりますが、最後は、その女優が出ていたラジオ番組で(テレビが無い時代だからテレビ女優というのはいないわけだ)、ポワロが関係者に呼びかけて出演させ、その番組内で謎解きをします。この勿体ぶった演出にもポワロの名誉回復への意地が感じられますが、ポワロの面目躍如かと思いきや、リスナーからは意外な反応が...。
 

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件000.jpg 冬、ヘイスティングスの友人ロジャー・ヘイバリングの伯父ハリントン・ペースに招待されたポワロとヘイスティングスは、ライ鳥猟に出かける。猟に興味はなく、ライチョウ料理が楽しみだったポワロは風邪をひき、ホテルで寝込んでしまう。その夜、ロッジでは訪ねてきたひげの男にハリントン・ペースが殺される―(第30話「猟人荘の怪事件」)。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件X.jpg 「名探偵ポワロ」の第30話(第3シーズン第11話)で本国放映は1991年3月10日、本邦初放映は1992年7月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「狩人荘の怪事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「ハンター荘の謎」)などに所収。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件01.jpg ライチョウ猟をするための別荘というのは贅沢だなあ。しかし、ライチョウ料理ってそんなに美味なのでしょうか。それを楽しみにしていたポワロは風邪で寝込んでしまい、殆ど「安楽椅子探偵」ならぬ「ベッド・ディテクティブ」状態でした。

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件AL_.jpg 殺害されたハリントン・ペースは身内の皆から嫌われていて、ロジャーの従弟のアーチー・ヘイバリングは、ハリントンから教師としての安月給をバカにされている上に、狩場での失態を厳しく咎められ、ペースの腹違いの弟ジャック・スタッダードも、猟場の番人をさせられれている上に、恋仲のメイドとの結婚資金の融通もして貰えない、更に、ロジャー・ヘイヴァリング夫妻も...といった具合。

 事件の夜、別荘を訪ねた髭もじゃの男はどこへ消えたのか、そして、臨時雇いの家政婦までも消えてしまった...。これもなかなか凝ったプロットだったと思います。原作ではロジャー・ヘイヴァリングの奥さんは元女優ということですが、この映像化作品ではそうした説明は無かったなあ。原作では、容疑者を殺人犯として逮捕するには証拠が弱すぎて、ジャップ警部は立件を断念(ポワロも立件不能を認めた)、但し、数ヵ月後、叔父の遺産を相続した犯人らは飛行機事故で亡くなる―という因果応報的な後日譚があるようですが、この映像化作品だと、物的証拠は充分にあることになるのでしょう。

 
The Affair at the Victory Ball_.jpg戦勝舞踏会事件002.jpg「名探偵ポワロ(第29話)/戦勝舞踏会事件(戦勝記念舞踏会事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/03●監督:レニー・ライ●脚本:アンドリュー・マーシャル●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/マーク・クラウディ(クロンショー卿)/ヘイドン・グウィン(ココ・コートニー)●日本放映:1992/07/29●放映局:NHK(評価:★★★★)
THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL

名探偵ポワロ 猟人荘の怪事件Q.jpg「名探偵ポワロ(第30話)/猟人荘の怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF HUNTER'S LODGE●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/10●監督:レニー・ライ●脚本:T・R・ボウエン/クライブ名探偵ポワロ[完全版]Vol.16.jpg・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ジム・ノートン(ロジャー・ヘイバリング)/デニーズ・アレクサンダー(ミドルトン夫人)●日本放映:1992/07/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.16 [DVD]」(「戦勝舞踏会の事件」「猟人荘の怪事件」所収)

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原作に先んじてポワロが恋に落ちた「二重の手がかり」(第26話)。原作よりエグい殺害方法の「スペイン櫃」(第27話)。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg 第26話/二重の手がかり 05.jpg  スペイン櫃の秘密 dvdbook.jpg 第27話/スペイン櫃の秘密 dvd.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD]」(「マースドン荘の惨劇」「二重の手がかり」所収) 「名探偵ポワロDVDコレクション 53号 (スペイン櫃の秘密) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロ[完全版]Vol.15 [DVD]」(「スペイン櫃(ひつ)の秘密」「盗まれたロイヤル・ルビー」所収)

第26話/二重の手がかり 01.jpg ジャップ警部が浮かない顔でポワロのもとを訪れ、イギリス各地の貴族の邸で発生した3件の宝石強盗事件の解決の糸口が掴めず、自らのクビさえ危ないと言う。待つしかないというポワロの言葉通り、第4の事件が発生。宝石コレクターとしても有名なマーカス・ハードマン氏の邸での野外コンサートに客たちが招かれた際に、邸内の金庫が壊され、カトリーヌ・ド・メディシスのエメラルドのネックレスが盗まれたのだった―(第26話「二重の手がかり」)。

 「名探偵ポワロ」の第26話(第3シーズン第7話)で本国放映は1991年2月10日、本邦初放映は1992年4月1日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

第26話/二重の手がかり 03.jpg "二重の手がかり"とは、破られた金庫の中に白い手袋が、その近くに"B.P."のイニシャル入りのシガレットケーがあったことを指し、容疑者はネックレスが盗まれた晩に屋敷に出入りした4人の客ということになりますが、ポワロはその容疑者の一人、ロシア人亡命貴族を称するヴェラ・ロサコフ伯爵夫人に一目惚れしたようで、3日以内に事件を解決しないとクビになると総監から言い渡されているジャップ刑事を尻目にロサコフ夫人とデートばかりしていて、事件を投げ出した印象さえあります。そこで、ヘイスティングスとミス・レモンが、それぞれに怪しいところがある他の3人の調査に当たります。

第26話/二重の手がかり 02.jpg このポワロのシリーズにおけるロサコフ夫人は、シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」における、ホームズが恋した唯一の女性アイリーン・アドラーに相当するわけです。ということで宝石盗難犯の見当はおおよそつくわけですが、ポワロは犯人を捕まえる気がないわけで(クライアントの了解済み)、となるとこの事件にどう決着をつ第26話/二重の手がかり 04.jpgけるのかが見所になるわけです。そうした意味では、なかなかユニークな展開でした。

 原作シリーズでは、ポワロはこのエピソードよりむしろ「ビッグ4」で本当に恋に落ち、そして別れ、その20年後、「ヘラクレスの冒険」(ケルベロスの捕獲)でまた再会するようですが、このTVシリーズでは今回で既に恋に落ちてしまって(このことは「ビック4」の改変を余儀なくするのでは)、しかも「ビッグ4」の次の回が「ヘラクレスの冒険」であるため、その辺り、どのような繋がり方になっているのか関心が持たれます。


The Mystery of the Spanish Chest  .jpg第27話/スペイン櫃の秘密 02.jpg オペラ劇場で旧知のレディ・チャタートンに、友人のクレイトン夫人が夫に命を狙われているらしいと言われたポワロは、様子を探りにクレイトン夫妻が出席するパーティに出掛ける。クレイトン夫人と親しくしているリッチ少佐、クレイトン夫人を巡って決闘して敗れたこともあり、今もまお夫人を執拗に追いかけるカーティス大佐らがパーティに出席していたが、クレイトン氏は急な仕事で欠席。翌日、パーティ会場にあったスペイン櫃の底から、大量の血が流れ出してるのをメイドが発見し、蓋を開けると中にクレイトン氏の刺殺体があった―(第27話「スペイン櫃(ひつ)の秘密」)。

The Mystery of the Spanish Chest2.jpg 「名探偵ポワロ」の第27話(第3シーズン第8話)で本国放映は1991年2月17日、本邦初放映は1992年4月2日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、などに所収。

第27話/スペイン櫃の秘密 01.jpg 先ず逮捕されたのは、屋敷のオーナーであるリッチ少佐で、スペイン櫃(エリザベス朝の家具で大きくて蓋がある)の持ち主でもない限り、クレイトンの死体を持ち込むなど不可能と思われたわけですが、クレイトン夫人がポワロのマンションを訪ねて来て、リッチ少佐の無実を証明することを依頼したため、ポワロは動き出します。

第27話/スペイン櫃の秘密   .jpg リッチは逮捕されましたが、第一容疑者は真犯人ではないというのはもうお約束事のようになっており、そうなると、リッチとは別に最初から怪しい人物はいるなあと思われ、それがそのまま結末までいってしまい、 "犯人当て"という面ではヒネリはさほどなかったように思います。

 しかしながら、犯人がクレイトンの嫉妬心を煽って、妻の浮気を確認させるためにスペイン櫃に身を潜まさせるというのはなかなか巧妙(死体を持ち込んだのでなく、自分で櫃に入ってしまったわけだ)。原作では酒に薬を入れて眠らせるのに対し、この映像化作品では、櫃に穴を空けて覗かせたものだから、犯人によってクレイトンは"目刺し"にされてしまったわけだなあ(櫃が柩になってしまった)。

 殺害方法としては、眠って鼾をかかれるよりは確実だという見方と、短剣を刺した時に穴から覗いているかどうか不確実だという両方の見方が成り立つのでは。さすがに死体までは見せなかったけれど、何れにせよ、洒落たタイトルに反してエグい殺害方法になった気がします。

「名探偵ポワロ(第26話)/二重の手がかり」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE DOUBLE CLUE●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/10●監督:アンドリュー・ビディントン●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/キカ・マーカム(ロサコフ伯爵夫人)/デヴィッド・ライアン(マーカス・ハードマン)●日本放映:1992/04/01●放映局:NHK(評価:★★★★)

The Mystery of the Spanish Chest .jpg「名探偵ポワロ(第27話)/スペイン櫃(ひつ)の秘密」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF THE SPANISH CHEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/17●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/アントニア・ペンバートン(レディー・チャタートン)、キャロライン・ラングリッシュ(マーゲリート・クレイトン))●日本放映:1992/04/02●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Mystery of the Spanish Chest

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"起きていない犯罪を解決する"ポワロ。終わり方もいい「スズメバチの巣」(第24話)。

名探偵ポワロ スズメバチの巣 dvd.jpg 名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 dvdbook.jpg  名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg 名探偵ポワロ 48号 (マースドン荘の惨劇).jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.13 [DVD]」(「プリマス行きの急行列車」「スズメバチの巣」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 47号 (スズメバチの巣) [分冊百科] (DVD付)」/「名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD]」(「マースドン荘の惨劇」「二重の手がかり」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 48号 (マースドン荘の惨劇) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣250.gif 夏祭りの席上でポワロは旧友の息子ジョン・ハリスンに出会った。彼は自分の婚約者モリーをポワロに紹介、ポワロは戯れに紅茶占いをするが、彼女のカップには彼女自身の口紅と一緒に別の口紅がついていた。会場にはモリーの元婚約者で今は良き友人というクロードも参加していたが、三人の関係にポワロは暗雲を予測する―(第24話「スズメバチの巣」)。

 「名探偵ポワロ」の第24話(第3シーズン第5話)で本国放映は1991年1月27日、本邦初放映は1992年3月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「スズメ蜂の巣」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』(「スズメ蜂の巣」)などに所収。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 01.jpg ポワロが、まだ起きていない犯罪を防ぐべく捜査を始めるというユニークな展開です。モリーのカップに彼女自身の口紅と一緒に付着していた紅は元婚約者クロードのものであり(彼は夏祭りでピエロに扮していた)、それでポワロは悪い予感に駆られたという訳です。クロードは未だにモリーへの気持ちを捨てられず、またモリーも故意にクルマ事故を起こしてクロードとの時間を過ごすなどしていました。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 0.jpg 殺人未遂罪は成立していると思われますが、最後、ポワロが犯人に優しいのは、犯人の置かれた境遇に対する思い遣りからでしょうか。まあ、死ぬつもりの人間をわざわざ訴えても仕方がないし、どうせ公判の途中で死んでしまうのならば意味がないという理屈とも呼応している訳ですが(プラグマティックに考えればであるが)。

名探偵ポワロ スズメバチの巣.jpg ポワロ、いつから占い魔になった?とか、ハチの巣駆除のガソリンと単なる水との色や臭いの違いが分からないものかとかいった突っ込み所はありますが(洗濯ソーダと青酸カリの味の違いが分からないのは、今まで生きている間に青酸カリを飲んだことがないのだから仕方がないが)、ポワロの友への友情が感じられる終わり方は良かったです。

名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 3.jpg 絶望している相手には"要らぬ同情"として拒絶される可能性もあったのではないかという見方もありますが、犯行を実行していれば、ポワロがいる限り、死後に殺人犯として糾弾されるのは自分であることは避けられなかったため(死後の復讐を考える者は、死後の名誉も考える)、やはり自ずとポワロに感謝することになるのでしょう。

 ヘイスティングスはカメラに夢中で、ミス・レモンはフィットネスジム通いで、ポワロにも運動するよう勧めたのが勧められたポワロにとっては余計なお世話で面白くなく、ジャップ警部は食中毒で動けない(と思ったら盲腸だった)と何となく皆ばらばらですが、それでいて各人がそれぞれ事件の解決に貢献しているという脚本は(殆どドラマのオリジナルで、原作はほぼポアロとジョンの会話だけで成り立っている)上出来と言っていいのではないでしょうか。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 1.jpg 自分に高額保険をかけたばかりのマルトラバースが、庭の大木の下で死んでるのを発見される。死因は内出血だが、庭には死者が引きずられたような痕跡が残されていた。美しい未亡人スーザンは、大木にまつわる少女の霊を見た夫がショック死したのではないかと言う。彼女は医師から夫が、ショックで潰瘍が再発した場合に死ぬ可能性もあると聞いていたのだ。本当に幽霊がいるのか?ポワロは灰色の脳細胞を駆使し、事件解決に挑む―(第25話「マースドン荘の惨劇」)。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 2.jpg 「名探偵ポワロ」の第25話(第3シーズン第6話)で本国放映は1991年2月3日、本邦初放映は1992年3月31日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(マースドン荘園の悲」)などに所収。

名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 輸入版.jpg 第24話では、事件が無いことに対してポワロが苛立ち、ヘイスティングスが気晴らしと連れて行った夏祭りで、祭り会場で死体でも出れば満足するのかとジャップ警部に陰口を叩かれ、第25話では、ある殺人事件を解決できるのはポワロだけだという手紙を受け、ロンドンから200キロ離れた町に来てみれば、事件は手紙を出した宿の主人の小説の中の話だったという―でも、ポワロの行く処に事件は必ずあります。

Poirot  The Tragedy a  Marsdon Manor.jpg 今回は、犯人は途中で大体判りました。犯行のヒントをどこから得たのか(瞬時に英字新聞を読みとらないと分からない)など細かいことまではともかく、誰が犯人かは何となく目星がついて、何か予想を覆すような展開があるかなと思ったけれど、意外とそれがありませんでした。

 ポワロは最後、一芝居打って犯人を自白に追い込みますが、その "ニセ幽霊"作戦の際に宿の主人の協力を得たのは、彼が推理小説作家になりたがっていることから自然な流れでしょうか(原作では、高額保険に入っていた資産家が急死したために、自殺の疑いはないか調べて欲しいという保険会社からの依頼だった)。

the tragedy at marsdon manor.jpg このラスト、犯人が、自分の手についた血を被害者のものだと思って自白してしまうくだりは、心霊現象を怖れていた態度がすべて芝居だったという事実と矛盾しているという批判もあるようです。でも、嘘だと知っていてやってたら本当に幽霊が出てきたら、やはり怖いだろうね。自分が殺しているだけに。

Sleeping Murder, 1987 001.jpg スーザン役のジェラルディン・アレグザンダーは、この作品より前に、ジョーン・ヒクソン主演の「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー」('87年/英)」でも、幼少時の記憶の幻影に怯えるヒロインの役を演じています。

 事件そのものの展開はたいしたことなかったけれど、最初、遠路はるばる来てみれば小説の中の事件だったということでかんかんに怒っていたポワロが、結局は寝付かれずに宿の主人の小説を全部読んで、最後、本当の事件の方を解決の兆しが見えてきたらご機嫌で、小説の事件の方にも解決のアドバイスを与えるというというのが可笑しいです(これが、事件解決への宿の主の協力と交換条件になったわけだが、宿の主はポワロに協力出来るだけで嬉々としていた)。
Wasps' Nest
Wasps' Nest _.jpg名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣 title.jpg「名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣(スズメ蜂の巣)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:WASPS' NEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/20●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マーティン・ターナー(ジョン・ハリスン)/メラニー・ジェサップ(モリー・ディーン)●日本放映:1992/03/30●放映局:NHK(評価:★★★★)

The Tragedy at Marsdon Manor jpg.jpg名探偵ポワロ 25 マースドン荘の惨劇 5.jpg「名探偵ポワロ(第25話)/マースドン荘の惨劇」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE TRAGEDY AT MARSDON MANOR●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/03●監督:レニー・ライ●脚本:デビッド・レンウィック●時間:56分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/イアン・マカロック(ジョナサン・マルトラバース)/ジェラルディン・アレグザンダー(スーザン・マルトラバース)/ニール・ダンカン(ブラック大尉)●日本放映:1992/03/31●放映局:NHK(評価:★★★)
The Tragedy at Marsdon Manor

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わざわざヒントを与えている感じの犯人(第21話)。船旅気分が味わえ楽しい一篇(第22話)。

あなたの庭はどんな庭 dvd.jpg あなたの庭はどんな庭 dvdbook.jpg あなたの庭はどんな庭 dvdimport.jpg  100万ドル債券盗難事件 dvdbook.jpg THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY 1991.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.12 [DVD]」(「あなたの庭はどんな庭?」「100万ドル債権盗難事件」所収)/「名探偵ポワロDVDコレクション 44号 (あなたの庭はどんな庭?) [分冊百科] (DVD付)」/輸入盤DVD/「名探偵ポワロDVDコレクション 45号 (100万ドル債券盗難事件) [分冊百科] (DVD付)

あなたの庭はどんな庭 00.jpg 自分の名がついた新種のバラが発表される園芸展でポワロは、アメリアという車椅子の老婦人に声をかけられ、種袋を差し出される。しかし、何故か中身は空だった。帰宅後に老婦人から助けを求める手紙を受け取ったポワロは、ミス・レモンを連れて彼女の家を訪ねるが、すでに彼女は前夜に猛毒ストリキニーネで殺されていた。いつ、どうやって毒は盛られたのか?(第22話「あなたの庭はどんな庭?」)。

 「名探偵ポワロ」の第21話(第3シーズン第2話)で本国放映は1991年1月6日、本邦初放映は1991年9月14日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。原作では、ポワロの名前がついたバラどころか、園芸展も出てきません。

あなたの庭はどんな庭 01.jpg 老婦人のアメリアは姪のメアリー、その夫ヘンリーの夫婦と暮らし、カトリーナという付添いがいて、彼女はカトリーナを相続人にしていましたが、カトリーナの部屋にストリキニーネの小瓶があり、警察は先ず彼女の身柄を拘束します。彼女はロシア人で、スターリンのせいで財産をなくした貴族階級の出身(メアリー夫婦は彼女を共産主義者と決めつけていたが実際の出自はむしろ逆)。カトリーナがロシア大使館員と密かに会う場面などもあって、ちよっと怪しげではあるものの、このシリーズ、「第一容疑者は真犯人ではない」ということがほぼセオリー化しているため、そのつもりで観ていると、もう、そんなに犯人候補者は残っていないんじゃないかという感じ(カトリーナの出自やキャラクターは原作からかなり改変されているようだ)。

あなたの庭はどんな庭 03.jpg ラストはカトリーナは容疑が晴れて恋人とも結ばれ、これで無事に遺産も入るからメデタシ、メデタシ。一方の犯人は、ええいっ、これまでと毒を飲み干そうとしたら、アル中の夫が妻に内緒で毒をウィスキーに入れ替えていて...。このラストが一番印象に残るくらいだから、プロセスはさほどインパクト無かったかなあ。

 ストリキニーネは生牡蠣に注射されアメリアの口に入ったわけですが、ヨーロッパはヒラガキにレモンをかけ、西洋わさびを乗せてつるっと貝から直接口に流し込むという食べ方がポピュラーなようです。そうした意味では、毒殺方法としては秀逸。但し、牡蠣殻を庭の花壇に使ったのは、自らポワロにヒントを与えたようなものでした。


THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY book.jpg100万ドル債券盗難事件 00.jpg ロンドン・スコティッシュ銀行は100万ドル相当の自由公債をアメリカに移送する計画を立てた。ところが、移送前にショー部長が狙われるなど不穏な雰囲気があり、別の担当者リッジウェイが移送の任を負うことに。また、銀行側はポワロに相談を持ちかけ、ポワロもクイーン・メリー号に乗り込んで移送に同行することに―(第22話「100万ドル債券盗難事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第22話(第3シーズン第3話)で本国放映は1991年1月13日、本邦初放映は1991年9月15日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「百万ドル債券盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「百万ドル公債の盗難」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「百万ドル公債の盗難」)などに所収。

Agatha Christie The Million Dollar Bond Robbery.jpg100万ドル債券盗難事件 01.jpg 案の定、100万ドルの債権はポワロたちの船旅の途上で消え、案の定、ギャンブルで負債を抱えているリッジウェイに疑いがかかります。まあ、彼が真犯人でないことは大方予想がつきますが、後の展開は意外性があって面白かったです。最後、リッジウェイの容疑は晴れ、婚約者の部長秘書とポワロのところへ挨拶に。リッジウェイ、大丈夫かな(しっかり者の女性はダメ男にくっつきがちというパターンだなあ)。

 原作を改変して、クイーン・メリー号という実在の船名にし、当時のニュース映像などを交え(1936年3月27日就航)、そこにポワロの乗船の様子などを織り交ぜているのが楽しいです。でも、そうしたニュース映像と繋げて、ポワロ達がいる今の船内の様子をカラーで撮っているわけだから、TV映画でありながらしっかり手をかけているのがこのシリーズの良さでしょう(船旅気分が味わえる?)。

100万ドル債券盗難事件 船内.jpg 豪華客船での船旅を楽しみにしていたヘイスティングスの方が船酔いでダウンし、亡命時の船酔いがトラウマとしてあり、船旅を嫌っていたはずのポワロの方が乗船してからは絶好調で、好物の「牛の脳ミソのソテー」などこってりしたものを食しているのが可笑しいです。ヘイスティングスは船上で美女と知り合い、アタックしようにも体調が...。実はこれ、事件の鍵を握る女性だったのですが、もしヘイスティングスの体調が良ければ、どういう展開になっていたのだろう(まあ、振られてお終いで、結果、あんまり変わらないか)。

How does your garden grow ?.jpg「名探偵ポワロ(第21話)/あなたの庭はどんな庭?」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:HOW DOES YOUR GARDEN GROW?●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/06●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:アンドリュー・マーシャル/クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マージェリー・メイソン(アミリア・バロビー)/アン・ストーリーブラス(メアリ・デラフォンテン)●日本放映:1991/09/14●放映局:NHK(評価:★★★)

The Million Dollar Bond Robbery_.jpg100万ドル債権盗難事件 3.jpg「名探偵ポワロ(第22話)/100万ドル債権盗難事件(百万ドル債券盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/13●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/オリヴァー・パーカー(フィリップ・リッジウェイ)/ナタリー・オーグル(エズミー・ダルリーシュ)●日本放映:1991/09/15●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Million Dollar Bond Robbery

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大味な政治物の典型(第18話)。話が見えにくい部分とミエミエ部分が混在(第19話)。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.10.jpgポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣 title.png 名探偵ポワロDVDコレクション 42号 (首相誘拐事件).jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 43号 (西洋の星の盗難事件).jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.10 [DVD]」(「誘拐された総理大臣」「西洋の星の盗難事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 42号 (首相誘拐事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 43号 (西洋の星の盗難事件) [分冊百科] (DVD付)

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣 01.png 何者かによる英国首相の襲撃事件があったが、首相は顔にかすり傷を負ったのみで難を逃れ、国際連盟の会議に出席するべく渡仏する。関係者がほっと安堵した矢先に今度は首相誘拐の報が入り、国家機密問題として外務省のサー・バーナードからジャップ警部の推薦を介してポワロに捜査要請が下る。会議までに残された時間は32時間と15分。差し迫った状況にも関わらず、ポワロは渡仏前の首相の英国での襲撃事件ばかりを調べて、一向にフランスへ渡る気配を見せない―(第18話「誘拐された総理大臣」)。

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣3.png 「名探偵ポワロ」の第18話(第2シーズン第8話)で本国放映は1990年2月25日、本邦初放映は1991年2月26日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「首相誘拐事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「誘拐された総理大臣」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「首相誘拐事件」)などに所収などに所収。

ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣0.png ポワロはフランスで首相と共に襲撃されたというダニエルズ中佐が英国に帰って来ているというので会いに行きます(事件当時の運転手にも会いに行くがこちらは行方不明に)。なかなか渡仏しないポワロに対しサー・バーナードは苛立ちを露わにし(原作と異なり最後まで渡仏しない)、「(ポワロを推薦した)私の年金もパアかも」と嘆くジャップ警部に、ポワロは以前に中佐と派手に離婚争議をやったという元妻イモジャン(ミス・レモン、ここでもゴシップ通を発揮)のことを調べるよう依頼します。

名探偵ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣2967.jpg この辺りから何となく読めてしまう感じもします。ポワロ・シリーズで政治や外交を扱ったものは大味になりがちだという典型例かも(警察だけでなく軍隊まで登場)。分かり易く映像化されていますが、その分、替え玉工作の"無理さ加減"などが露呈した印象も。

 ジョーン・ヒクソン版「ミス・マープル」シリーズのスラック警部役のデヴィット・ホロヴィッチが、ダニエル中佐役で登場していますが、撮影時期は「第11話/魔術の殺人」('91年)の少し前でしょうか。生憎、ダニエル中佐の元妻役のリサ・ハーロウの方がキャラが立っていて(「主任警部モース(第13話)/ラドフォード家の遺産」('90年)にも出ていた)、その存在感はイマイチでしたが。


名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件01.png名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 1.jpg名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 2.jpg ベルギー出身の国際的映画スター、マリー・マーベルのもとに、満月の晩にダイヤ"西洋の星"を盗むという脅迫状が届いた。西洋の星には対になる宝石があり、それはレディー・ヤードリーの持つ"東洋の星"と呼ばれるダイヤだという。そして、ヤードリー家にも脅迫状が届いているらしい。レディー・ヤードリーがポワロとヘイスティングスにその宝石を披露した直後、"東洋の星"は盗まれてしまい、やがて"西洋の星"もマリー・マーベルも元から消えてしまう―(第19話「西洋の星の盗難事件」)。

名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 4.jpg名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 3.jpg 「名探偵ポワロ」の第19話(第2シーズン第9話)で本国放映は1990年3月4日、本邦初放映は1991年6月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「〈西洋の星〉盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「西洋の星の事件」)などに所収などに所収。
名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 location.jpg
名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 5.jpg いかにも悪そうな奴らの間に更に仲介人がいて話がややこしくなる一方で、「辮髪の男が...」といったところからして嘘臭く、何となく話が見えにくい一方で、何となくミエミエな面もあるという、観ていて落ち着かない印象でしょうか。

名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件 飛行場.png レディー・ヤードリーは最後良かったね、という感じ。もとは言えば、海外で"色男"に靡いてしまったという身から出た錆でもあっただけに、ポワロにどれだけ感謝しても感謝し切れないだろうなあ。一方のマリー・マーベルの方は、ポワロは彼女に悲しい知らせを伝えなければならないと言っていましたが、へイスティングスに対しては、悪党男と切れて良かったと言っています。無理にそう思い込もうとしているのではなく、ポワロ自身の本音でしょうね。全然"いい男"そうでもないし、こんなのが、彼女だけでなく、レディー・ヤードリーまで巻き込んだのが不思議ですが、この部分にケチをつけても仕方がないのでしょう。事件が解決しているのに、"消えたもう一つのダイヤ"はどこにいったのかと案じるへイスティングスは、視聴者に優越感を与えるための存在か?

 大味になりがちな政治物の典型とも言える第18話「誘拐された総理大臣」と、話が見えにくい部分とミエミエ部分が混在する第19話「西洋の星の盗難事件」といったところでしょうか。

The Kidnapped Prime Minister .jpg「名探偵ポワロ(第18話)/誘拐された総理大臣」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE KIDNAPPED PRIME MINISTER●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/26●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロナルド・ハインズ(サー・バーナード・ドッジ)/デイヴィッド・ホロヴィッチ(ダニエルズ中佐)●日本放映:1991/02/26●放映局:NHK(評価:★★★)

The Kidnapped Prime Minister

The Adventure of the Western Star.jpg「名探偵ポワロ(第19話)/西洋の星の盗難事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE WESTERN STAR●制作国:イギリス●本国放映:1990/03/04●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロザリンド・ベネット(マリー・マーベル)/キャロライン・グッドール(レディー・ヤードリー)●日本放映:1991/06/29●放映局:NHK(評価:★★★)

The Adventure of the Western Star

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2篇ともプロット的には面白かった。あの"書割り"(第17話)の意味は?

名探偵ポワロ完全版9.jpg Double Sin(22 Jan. 1991).jpg 名探偵ポワロ/二重の罪 dvdc.jpg The Adventure of the Cheap Flat(5 Feb. 1991).jpg 名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 dvdc.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.9 [DVD]」(「二重の罪」「安いマンションの事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 40号 (二重の罪) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 41号 (安いマンションの事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 03.jpg 暫く面白い事件もなく、ポワロは落ち込んで引退を口走り、へイスティングスを連れて北部の海辺の町ウィットコムに観光に赴く。町にはジャップ警部の講演ポスターが貼られ、本人も姿を見せるが何故かポワロは素っ気無い。ヘイスティングスはポワロ名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 04.pngを、湖の町ウインダミアへのバス旅行に誘う。二人はバスの中でメアリーという娘と知り合った。彼女は、骨董屋を営む叔母から、掘り出し物の画集を得意先に届けるように頼まれていた。ポワロが気に留めたもう一人のバス客は、貧弱な口髭の青年で、これは態度が失礼だったため。観光地でヘイスティングスがメアリーとランチをしている時、メアリーは突然走り出し、自分のスーツケースをその青年が盗ろうとしていると...。しかし、これは間違いで、よく似たスーツケースだったようだ。その夜、ヘイスティングスらと同宿のホテルでメアリーは、画集が盗まれたと言って騒ぎ出す。盗難届を出し、得意先にも行くと、既に絵は何者かによって得意先に売却されていた―(第16話「二重の罪」)。

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪 アンチーク.jpg 「名探偵ポワロ」の第16話(第2シーズン第6話)で本国放映は1990年2月11日、本邦初放映は1991年1月22日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪02.jpg このプロットには誰でもまんまと引っ掛かるのではないでしょうか。前半部分が映像上の"叙述トリック"になっていないか、もう一度観直してみる必要はある気がしますが、プロット自体は原作にほぼ忠実に作られているようです。ポワロの謎解きが終わった後、共犯者がポワロに毒づき、そのことによって、ああ、共犯者もいたのかと思い出したくらいですから、自分もヘイスティングスと似たようなものか。

 ポワロが引退を仄めかし、ヘイスティングスが中心になって捜査するとというのは、映像版のオリジナルのようで(但し、ヘイスティングスは例によって"空振り"をする)、短編の場合、サイドストーリーを加えて話を膨らますというのはよくあります。ポワロがこの海辺の町を行先に選んだところ、偶然そこでジャップ警部が講演会に呼ばれていたかのように思われましたが、実はそうではなかったことがエピローグで明かされ、更にポワロが最初イラついていた理由まで分かるというのが上手いです。

 「二重の罪」とは、盗難品では原則として所有権は移動しないため、理論上は同じ手口で再犯が可能であることを指していると思われますが、法的には、占有権とのしのぎ合いでグレーゾーンも存するように思えます(英国の裁判所はどう判断するのか)。


名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 02.jpg ポアロは、あるパーティーで、若夫婦のロビンソン夫妻から自分たちが分不相応な高級マンションを格安で借りることが出来たという話を耳にし、この話の背後に何か事件が拘わっていると考え捜査に乗り出す。一方、スコットランドヤードでは、ジャップ警部が、アメリカからやって来たFBI捜査官たちと、国際的なスパイ事件に関する合同捜査を行っていた―(第17話「安いマンションの事件」)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 レモン.png  「名探偵ポワロ」の第17話(第2シーズン第7話)で本国放映は1990年2月18日、本邦初放映は1991年2月5日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「安アパート事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「(「安アパート事件」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「「安アパートの冒険」)などに所収。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 eiga.jpg 冒頭でポワロ達が観ている映画はジェームス・キャグニー主演の「Gメン」('35年)という作品だそうで、当エピソードも、雰囲気的にはアメリカの犯罪サスペンス映画の雰囲気を取り入れたものと言えるでしょうか。プロット的には面白かったです(アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』所収の「赤毛組合」に着想がやや似た印象も)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件 set.jpg ただ、アメリカで起きた事件の屋外シーンが、見るからにバックが"書割り"風で(高層ビル街などは垂れ布に描いた風)、パリのナイトクラブのシーンが雰囲気があっただけに、ギャップが大きかったように思います(好意的に解釈すれば、パリのナイトクラブは今ポワロ達が見ている光景であるのに対し、アメリカでの事件は、ポワロが謎解きに際して想像したものを映像化したものであるから、わざと作り物風にしているのだと?)。

名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件3.png FBIの態度のデカい捜査官が、最初はポワロのことを小馬鹿にしていたのが、最後は素直にその能力を認め、感謝と脱帽の意を表しているのが快く、ポワロもさることながら、ジャップ警部も溜飲を下げたのでは。

 2篇とも、プロット的には面白かったです。それと、ミス・レモンが、第16話「二重の罪」では夢の中でポワロの示唆を得て失くした鍵を見つけ出し、第17話「安いマンションの事件」では、ポワロの指示で単独潜入捜査をして成果を得るなど(ポワロも危ないことさせるなあ)、かなり彼女に焦点が当たっているように思いました。

Double Sin  .jpg「名探偵ポワロ(第16話)/二重の罪」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:DOUBLE SIN●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/11●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/キャロライン・ミルモー(メアリ・ダラント)/エルスペット・グレイ(エリザベス・ペン)/アダム・コッツ(ケイン)●日本放映:1991/01/22●放映局:NHK(評価:★★★☆)

Agatha Christie's Poirot (1989-2013) Double Sin


名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件9.png「名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件(安アパート事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE CHEAP FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/18●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン/ラッセル・The Adventure of the Cheap Flat.jpgマレイ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ミッチー(ジェームス・ロビンソン)/サマンサ・ボンド(ロビンソン夫人)●日本放映:1991/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)

The Adventure of the Cheap Flat

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ギャング映画っぽさとユーモアが楽しめる(第13話)。最後は警部に手柄を譲った?(第14話)。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑 dvdc.jpg 名探偵ポワロ13/消えた廃坑 01.jpg 名探偵ポワロDVDコレクション 36号 (コンウォールの毒殺事件).jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 35号 (消えた廃坑) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 36号 (コンウォールの毒殺事件) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ13/消えた廃坑6.jpg ポワロは残高の確認のため銀行へ行くが、引き出しオーバーで赤字と言われ激昂する。その深夜、ポワロの元にピアソン頭取が訪ねてきた。謝罪に来たのかと思ったポワロだが、事件の依頼である。銀行はウー・リンという中国人から、鉱山の場所を示す高価な地図を買う事になっていたのだが、約束の重役会にウー・リンは現れず、行方が分からないという。その翌日、ウー・リンの死体が発見されるが、地図は消えていた―(第13話「消えた廃坑」)。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑.jpg 「名探偵ポワロ」の第13話(第2シーズン第3話)で本国放映は1990年1月21日、本邦初放映は1990年7月25日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「消えた鉱山」)などに所収。

 米エドガー賞の1992年 TV エピソード部門賞受賞作。中篇の割には結構凝っていたなあと。冒頭のウー・リンが重役会に現れず、焦る頭取など、若干"叙述トリック"っぽい箇所もありますが、まあ、佳作と言えるのでは。名探偵ポワロ13/消えた廃坑 4.jpg中華街のカジノ(アヘン窟でもある)での捜査など、ギャング映画っぽい雰囲気もあったし、一方で、ロンドン警察の最新システムという、無線連絡に沿って3人の婦警が地図上でミニチュアのパトカーを動かす奇妙な捜査方法などが出てきて、"ハードボイルド風"と"ホントウかいな風"が混在し、最後は、ポワロがウー・リンのパスポートと見せかけて...と、色々楽しめました。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑 モノポリー.jpg 冒頭のポワロが銀行のピアソン頭取が来たのを、謝罪しに来たのと勘違いする場面も可笑しく(原作のピアソンはビルマ鉱業の重役)、さらに可笑しいのが、モノポリーに真剣にハマっているポワロとへースティングス。ポワロは最初劣勢で、「駅にはホテルは建てられないよ」と指摘され、「実際にはあるじゃないか」「でもルールだし...」「じゃあルールが間違ってるんですよ!」とここでも激昂。「スキルなんかは全然関係のないゲームだね」と言っていたのが、ジャップ警部が訪ねてきてもゲームに熱中。事件が解決する頃にはへースティングスに圧勝し、全く逆の発言に...。因みに、残高不足はポワロの入金し忘れが原因でした。

 第10話「夢」、第11話「エンドハウスの怪事件」、第12話「ベールをかけた女」の犯人は、皆ポワロに悩みを打ち明けたり相談を持ちかけたりするふりをしてポワロを騙そうとして、結局墓穴を掘ってしまった...。このエピソードの犯人も同じ轍を踏んだと言えます。


名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件02.png 雨の降る寒い日、ポワロの元に中年の女性が訪ねて来る。コーンワルのポルガーウイズに住む歯科医の妻ペンゲリー夫人である。夫人は胃の痛みを訴え、夫が助手のエドウィナといい仲になり、自分を殺すために毒を盛っているのではないかと話す。翌日、ポワロとヘイスティングスは夫人の住むコーンワルへ赴く。しかし、既に夫人は毒殺されていた―(第14話「コーンワルの毒殺事件」)。

 「名探偵ポワロ」の第14話(第2シーズン第4話)で本国放映は1990年1月28日、本邦初放映は1990年8月1日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「コーンウォールの毒殺事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「コーンウォールの謎」)などに所収。

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件0.jpg ペンゲリー夫人への訪問を、彼女の方から訪ねて来た日の翌日ではなくその日にしていれば、夫人は殺害されずに済んだのではないかとの自責の念から、ポワロの事件捜査は夫人の弔い合戦の様相を呈し、また、おそらく裁判にかけられるであろう夫のペンゲリーを絞首台送りにしないためにも―と、結構最初から力が入っています。そして、ペンゲリーは実際に捕まり、裁判にかけられます(推理ドラマの"逆転のセオリー"からすれば、まず間違いなく無実だろうとの予測はつくが、その割には、当のペンゲリーは法廷でも無力化していたなあ。妻が亡くなったショックからか。毒殺事件において自らの無実を実証することの困難さというのもあるかも)。

 事件そのものは、犯人は登場した時から何となく犯人っぽかったし、ポワロにとってそう難しくなかったかなあ。最後に犯人に、自白書にサインすること(結局、状況証拠しか無かったから?)とバーターで24時間の逃げる猶予を与えたというのは、最初捜査に力が入っていた割にはあれっという感じでしたが、と思ったらその直後、すたすたと裁判所に行って自白書を見せ、今度はへースティングスの方が、24時間の猶予を与えたことに拘っている?

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件 last.jpg 最後、公判中のペンゲリーが犯人だと信じきって、のんびり立ち食いなんぞをしているジャップ警部に、ポワロが「勝算のない戦を続けるより、負けを認めるほうが利口です」と言って去っていったところへ、部下からの真犯人は別にいたとの報。ジャップ警部は「ポアロめぇっ!」と怒鳴りますが、ポワロが犯人を逃がす際に「2日以内に捕まる」と予言していることからすると、ジャップ警部に手柄を立てさせるための所為だったともとれます。因みに、それより前の事件直後に、ポワロはヘイスティングスに対し、警察はペンゲリーを逮捕し、彼が裁判にかけられることも予言しており、"ポワロの予言は的中する"ことの伏線になっているという構図が上手いと思いました。

 2篇とも星4つに限りなく近い星3つ半といったところでしょうか。

名探偵ポワロ13/消えた廃坑splash.jpg「名探偵ポワロ(第13話)/消えた廃坑」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE LOST MINE●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネット●名探偵ポワロ[完全版]Vol.7.jpg脚本:マイケル・ベイカー/デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アンソニー・ベイト(ピアソン頭取)/ジェームズ・サクソン(レジー・ダイアー)●日本放映:1990/07/25●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.7 [DVD]」(「ベールをかけた女」「消えた廃坑」所収)

名探偵ポワロ14/コーンワルの毒殺事件01.jpg「名探偵ポワロ(第14話)/コーンワルの毒殺事件(コーンウォールの毒殺事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE CORNISH MYSTERY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/28●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エク名探偵ポワロ[完全版]Vol.8.jpgストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジェローム・ウィリス(エドワード・ペンゲリー)/アマンダ・ウォーカー(ペンゲリー夫人)●日本放映:1990/08/01●放映局:NHK(評価:★★★☆)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.8 [DVD]」(「コーンワルの毒殺事件」「ダベンハイム失そう事件」の2話収録)

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まあまあ楽しめた2篇。○○していた犯人(第10話)、今度はポワロが○○?(第12話)。

名探偵ポワロ10夢 dvdc.jpg 名探偵ポワロ10 夢 01.png  名探偵ポワロ12ベールをかけた女 dvdc.png ポワロ ベールをかけた女 ポワロ.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 33号 (夢) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロDVDコレクション 34号 (ベールをかけた女) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ10 夢 9.jpg 創立50周年の式典を行っているパイ工場。そのパイ工場の経営者ファーリーから一通の手紙を受け取ったポワロは、工場内にある彼の家を訪ねる。毎晩繰り返し、自分が自殺する不可解な夢を見ると彼は言い、誰かが催眠術で自分を殺そうとしているのではと疑っているのだった。ポワロは、その態度や依頼ともつかない彼の話に釈然としないまま工場を後にした。後日ファーリーが、ポワロに話した夢と同じような方法で自殺をする。しかしポワロは、その死に疑問を持ち調査を始める―(第10話「夢」)。

AGATHA CHRISTIE'S POIROT  THE DREAM夢1.jpg 「名探偵ポワロ」の第10話(第1シーズン第10話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。

名探偵ポワロ10夢7.jpg サイコ・ミステリと思わせておいて...というのは、クリスティ作品に結構あるパターンではないでしょうか。今回はポワロはかなり行き詰った様子を見せ、「若い頃の放蕩」が今になって祟ったのではないかと彼らしからぬことまで口にしますが(ヘイスティングスもこのポワロには似つかわしくない言葉にはさすがに唖然とする)、偶々ポワロに時刻を聞かれたミス・レモンが窓を開けて時計台を見て答えた、その何でもないような彼女の行動を見て一気に閃きます。

AGATHA CHRISTIE'S POIROT  THE DREAM夢2.jpg では、その前までは、どこまで判っていたのか。ファーリーに例の手紙を返してくれと言われて最初別の手紙を返したのは単純ミスだったのか。でも、何となくおかしい雰囲気は感じていたようでした(自分も感じたけれど、どこがおかしいかは全然分からなかった)。結局、ポワロは犯人が○○していたのを見破ったわけですが、それは、ミス・レモンの啓示より前か同時か、気になるところです。

 エピローグで、ポワロはミス・レモンに感謝のプレゼント。ミス・レモンは、タイプライターの調子が悪くて新しい物への買換えを以前からポワロに訴えており、今回も直訴したばかり。やっとボスに聞き入れられたかと思ったら、包みの中から出てきたのは...(笑)。ポワロは自分で自分を「従業員に理解がありすぎる(だから件の工場主のような富豪になれない)」と思ってるのが、これまた可笑しいです。


ベールをかけた女 .jpg ポワロたちが、最近起きた宝石泥棒の話をしていると、伯爵令嬢のミリセントがある捜査の依頼をしにやってくる。公爵と結婚することになっている彼女は、ラビントンという男に、昔の恋人に出した手紙をネタにゆすられており、その手紙を取り返してほしいというのだ。ポワロはラビントンと交渉するが、話はポワロ ベールをかけた女 01.jpg決裂する。やむなく、ポワロはヘイスティングスと共にラビントン家に押し入るが―(第12話「ベールをかけた女」)。

 「名探偵ポワロ」の第12話(第2シーズン第2話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「ヴェールをかけた女)」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「ヴェールをかけた貴婦人」)などに所収。

ポワロ ベールをかけた女 錠前屋.jpg 第10話「夢」では犯人が○○していましたが、今回はポワロが錠前屋を装ってラビントン家に単独入り込んで細工を施し、夜にまた、今度はヘイスティングスを伴って侵入、例の手紙は見つかりますが、通いだったはずの家政婦がいて警官に通報され、逃げ遅れたポワロのみ留置場に入れられてしまうという展開(但し、留置場に入れられるのはドラマのオリジナル)。

ポワロ ベールをかけた女 09.jpg 家政婦は最初から怪しいと思っていたということで(ということは「通い」というのがウソだったのか)、変装やアクションがイマイチなのがポワロらしいというか、先ずそれ以前に、スーパーマリオ・ブラザーズみたいな格好の"スイス人"錠前屋に扮したり、黒のニット帽を被って上下黒ずくめの出で立ちで不法侵入の危険を冒すところはポワロらしくないというか。やっぱり、結構ユニークなエピソードと言えるかも。

 結局、最初にあった宝石泥棒の話とリンクしていたわけかあ。まあ、箱を振ったら、中に何か入っているなって分かるだろうなあ。最後、貴婦人然とした美人が忽ちに豹変するところは、第11話「エンドハウスの怪事件」と重なりました。「名探偵ポワロ」の作品中で唯一、クレジットのゲストキャストに役名の表示が無い作品だそうで、まあ、律儀と言えば律儀です。

 2話とも、中篇としてはそこそこに楽しめました。

The Dream.jpg名探偵ポワロ夢11.jpg「名探偵ポワロ(第10話)/夢」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE DREAM●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アラン・ハワード(ベネディクト・ファーリー)、ジョエリー・リチャードソン(ジョアンナ・ファーリー)●日本放映:1990/07/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Dream

The Veiled Lady.jpg「名探偵ポワロ(第12話)/ベールをかけた女(ヴェールをかけた女)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ: THE VEILED LADY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネットポワロ ベールをかけた女09.jpg●脚本:クライブ・エクストン●時間:54分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/フランシス・バーバー(レディー・ミリセント)/キャロル・ヘイマン(ゴッドバー夫人)●日本放映:1990/07/18●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Veiled Lady

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犯人逮捕という場面がない2作。ちょっと凝り過ぎ?(第8話) ややご都合主義?(第9話)。

名探偵ポワロ 完全版4.jpg 名探偵ポワロ 謎の盗難事件 dvdc.jpg   名探偵ポワロ 完全版5.jpg 名探偵ポワロ クラブのキング DVDC.jpg
名探偵ポワロ[完全版]Vol.4 [DVD]」(「海上の悲劇」「なぞの盗難事件」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 31号 (なぞの盗難事件) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロ[完全版]Vol.5 [DVD]」(「クラブのキング」「夢」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 32号 (クラブのキング) [分冊百科] (DVD付)」   

なぞの盗難事件.jpgAgatha Christie's Poirot The Incredible Theft.jpg 新型戦闘機の開発設計を手がける夫メイフィールドがドイツのスパイとの噂のあるバンダリン夫人を屋敷に招待していると知ったメイフィールド夫人。悩んだすえ国家の一大事とポワロに依頼し、屋敷に招くことに。その夜、まんまと設計図が紛失し、バンダリン夫人が盗んだと思われたが―(第8話「なぞの盗難事件」)。

Agatha Christie's Poirot The Incredible Theft dvd.bmp 「名探偵ポワロ」の第8話(第1シーズン第8話)で本国放映は1989年2月26日、本邦初放映は1990年3月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)などに所収。

ポワロ第8話/なぞの盗難事件1.jpg 意外と凝っていたなあと。ポワロは、バンダリン夫人は犯人ではないと早々と宣言していましたが、ではシロかと言うとそうとも言えないのではないでしょうか。しかし、ドイツのスパイ組織と交渉したにしても、こんな面倒なトリックを使うかなあという気もしました(ポワロに見破られるための契機をわざわざ作ったことになる)。ちょっと凝り過ぎ?

ポワロ第8話/なぞの盗難事件3.jpg 最後、夫婦間の信頼が回復できて「めでたし、めでたし」、ポワロも表向き笑みを隠しながら、実は目を細めニッコリという感じですが、夫がかつて軍事秘密を敵国(日本)に売ったというのは、恐喝ネタになっていたということからすると本当だったということか。まあ、過去のことより、今のことの方が大事?

 ジャップ警部と同室の宿になってその寝言に悩まされウンザリしていたヘイスティングスが、終盤ではバンダリン夫人の車を追いかけるカーチェイスでドライビング技量を発揮して、水を得た魚のように活き活きした感じになっているのが微笑ましかったです。


ポワロ9/クラブのキング 02.jpgポワロ9/クラブのキング dvd.jpg ポワロは、ヘイスティングスの友人が監督をしている撮影現場を見に行く。主演は人気絶頂の美人女優ヴァレリー、夫役はサイレント時代の大スター・ウォルトンだが、彼は酔っており台詞も満足に言えない。そして、現場で我もの顔にふるまっているプロデューサーのリードバーンがいた。ヴァレリーはある国の皇太子ポールと婚約しているが、リードバーンに何やら弱みを握られているらしい。その夜、ポワロの元に一本の電話がかかる。自宅にてリードバーンが殺され、第一発見者ヴァレリーの潔白を証明してほしいという依頼だった―(第9話「クラブのキング」)

ポワロ9/クラブのキング 01.jpg 「名探偵ポワロ」の第9話(第1シーズン第9話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年3月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「クラブのキング」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「クラブのキング」)などに所収。

ポワロ9/クラブのキング4.jpg これも結構凝っていました。原作の興行主とダンサーの関係がプロデューサーと女優に置き換わっていますが、事件当夜ボスの自宅玄関前に三人の男女が次々と現れ慌てて立ち去る姿が見られたというのは原作と同じ。最初、オグランダー家(ここへヴァレリーが逃げ込み匿われる)でその家の家族たちポーカーをしていたその痕跡にポワロがこだわっている意味が不明でしたが、後でナルホドねと。但し、家族として義絶しているのに、隣りなり(プロデューサーの家の隣りだが)近所なりに住んでいるというのはご都合主義的な印象も受けます。

The Adventure of the King of Clubs.jpg それと、やはり最後は「めでたし、めでたし」ですが(丁度嫌な奴もいなくなったことだし?―コレ、制作に口出しするプロデューサーを揶揄してる?)、事件そのものは「傷害致死」が成立しているとも言える状況でありながら、ポワロが意図的に迷宮入りにしてしまったとも言える結末で(これはドラマのオリジナルで、原作ではこの「傷害致死」に該当する部分が無かったのではないか)、この辺りが何となく素直に「めでたし、めでたし」とは言えない印象も。原作では、オグランダー家が家族を一徹なまでに守り切り、ポワロはそれに押されたという感じだったでしょうか(正確には未確認)。少なくともドラマでは、ポワロは積極的にオグランダー家に加担した印象を受けます(ポワロの台詞「家族万歳」!)。

ポワロ9/クラブのキング03.jpg ただ、死んだリードバーンから排斥され関係が険悪だったジプシー(ロマ)の中に犯人はいるのではないかとハナから疑ってかかって、真相からほど遠いところを漁っているジャップ警部からすれば、"ポワロにも解けない事件がある"というのは安心材料なのかも。

 「第4話/24羽の黒つぐみ 」で抽象絵画をバカにしていたかのように見えたヘイスティングスが、今度は前衛芸術を前にキュビズムの講釈をする変わりようですが、それをポワロは殆ど聞き流しているのが可笑しいです。

 共に「犯人逮捕」という場面がない2作。第8話「なぞの盗難事件」はやや凝り過ぎと言うか、こんな手の込んだことをするかという感じで、第9話「クラブのキング」はややご都合主義なのと、やはり「傷害致死」っぽいのが気になりました。

The Incredible Theft_.jpg第8話)/なぞの盗難事件.jpg「名探偵ポワロ(第8話)/なぞの盗難事件(謎の盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE INCREDIBLE THEFT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/26●監督:エドワード・ベネット●脚本:デビッド・リード●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ストライド(トミー・メイフィールド)/シアラン・マッデン(レディー・メイフィールド)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)

The Incredible Theft

ポワロ9/クラブのキング2.jpg「名探偵ポワロ(第9話)/クラブのキング」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE KING OF CLUBS●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:レニー・ライ●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ニーヴ・キューザック(バレリー・サンクレア)/ジャック・クラフ(ポール皇太子)/Jonathan Coy(バニー・ソーンダース監督)/David Swift(リードバーン)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)

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自宅マンションでの事件(第5話)とアレクサンドリアでの事件(第7話)。何れも"速攻"解決。

4階の部屋 ポワロ DVDブック.jpg 4階の部屋01.jpg 海上の悲劇 dvdbook.jpg 海上の悲劇 03.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション 28号 (4階の部屋) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション 30号 (海上の悲劇) [分冊百科] (DVD付)

名探偵ポワロ 4階の部屋 1.jpg ポアロが住むホワイトヘイブンマンションの自宅56Bの二階下36B号室に、裕福なグラント夫人が引っ越してくる。 ポアロはこのところ風邪をこじらせて自室に閉じこもったまま元気が無く、見かねたヘイスティングスがポアロを推理劇に誘う。観劇で二人は、ポアロの直ぐ階下46B号室の住人で 若い女性パトリシア・マシューズを見かける。劇が終わり、アパートに戻ったマシューズと友人達は部屋の鍵が無い事に気付き、友人のドノバンとジミーがゴミ用エレベーターから入ろうとするが、間違えて1つ下の36B号室に入ってしまう。そこで二人はグラントの夫人の死体を発見する―(第5話「4階の部屋」)。

ホワイトヘイブン・マンション.jpg 「名探偵ポワロ」の第5話(第1シーズン第5話)で本国放映は1989年2月5日、本邦初放映は1990年2月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』(「四階のフラット」)、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』(「四階の部屋」)などに所収。

 ジャップ警部の言うように、まさにポワロのお膝元で起きた事件で、お蔭でポワロがどんなマンションに住んでいるかが分かりましたが、実はマンションのポワロの部屋の外部の共有部分はいつもと別のマンションを使って撮影されたようです。イギリスでは日本の1階に当たる部分が "the ground floor"で、2階に当たる部分から1階、2階と数え始めますが、この「4階の部屋」というのは、事件があった36B号室があるフロアなのでしょう。原題では"The Third Floor Flat"となっています。

名探偵ポワロ 4階の部屋 0.jpg 原作を多少変えているようですが、引っ越して来たグラント夫人が、1つ上の階のパトリシア・マシューズが友人と音楽とダンスに興じ、下の自分の階に響いてウルサイため、手紙で苦情を伝えようとした―と思わせる所は上手いと思いました。ただ、お手伝いが、部屋に入って来て死体に気づかないまま寝てしまったというのはどうか。何れにせよ、犯人を推理するのは無理な"知られざる背後関係"設定であり、それでもポワロは推理してしまうわけですが(しかも"速攻"で解決!)、意外性は楽しめる作品ではないでしょうか。

 ヘイスティングスに推理劇の犯人当てで10ポンドを賭けて(推理劇ってインターミッションがあるわけか)、その取ってつけたようなオチに憤っていたポワロですが、ちゃんと10ポンドの小切手を切っていたのは律儀。ただ、本編も、見方によっては...。


海上の悲劇 02.jpg海上の悲劇 2.jpg ポワロとヘイスティングスが船で乗り合わせたクラパトン大佐夫妻。夫人は傍若無人な言動をくり返すが、大佐はそんな妻にも献身的だった。それには夫人の古い友人の将軍も憤ったり呆れたりしている。ところが、船がアレクサンドリア港に停泊中、大佐が船に戻ると、鍵のかかった船室で夫人は殺されていた。アレキサンドリアの警察に介入されたくないというと船長の意向でポワロは捜査に乗り出す―(第7話「海上の悲劇」)。

海上の悲劇 00.jpg 「名探偵ポワロ」の第7話(第1シーズン第7話)で本国放映は1989年2月19日、本邦初放映は1990年3月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』(「船上の怪事件」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角』(「海上の悲劇」)などに所収。

海上の悲劇 01.jpg 優雅の地中海クルーズとそれに参加している貴族趣味っぽい乗客たち。どういう訳か、その中におそらく休暇中と思われるポワロとヘイスティングも混ざっています(ジャップ警部とミス・レモンは"お休み")。乗客の中でもとりわけ皆から嫌われているのがクラパトン夫人で、大佐はよくあんな女性の夫でいるものだと陰口を叩かれる始末。殺され海上の悲劇 09.jpgるならこの夫人だろうと思って観ていましたが(そうすれば皆が容疑者になるから)、肝腎の事件はなかなか事件は起こらず、船はアレクサンドリア港に寄港。「地中海殺人事件」ではないですが、観光情緒はそこそこ味わえます。TV版としては結構贅沢な方かも。

 そして、ようやっと中盤で殺人事件が...。別に船長の意向でなくたっても、ポワロは捜査に乗り出したろうなあ―と思ったら、これまた"速攻"で解決(残り時間の関係で?)。皆の前で謎解きをしてみせる場面は小道具や子供まで使って芝居がかっていましたが、それなりの効果はありました。あんなのやられて、犯人は名指しされる前にギブアップでしたね。但し、これも、観ていてトリックを見破るのはほぼ無理("いっこく堂"かあ)。束の間の観光気分が味わえた分だけ、星半分オマケです。

The Third Floor Flat L_.jpg4階の部屋03.jpg「名探偵ポワロ(第5話)/4階の部屋」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE THIRD FLOOR FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/05●監督:エドワード・ベネット●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /スザンヌ・バーデン(パトリシア・マシューズ)/ジョシィ・ローレンス(グラント夫人)●日本放映:1990/02/17●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Third Floor Flat

Problem at Sea
Problem at Sea_.jpgPROBLEM AT SEA.jpgo海上の悲劇70.jpg「名探偵ポワロ(第7話)/海上の悲劇(船上の怪事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: PROBLEM AT SEA●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/19●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /ジョン・ノーミントン(クラパトン大佐)/シェリア・アレン(クラパトン夫人)/ベン・アリス(ファウラー船長)●日本放映:1990/03/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)

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両作品とも犯人自体は雰囲気で判ってしまう。気負わずに気軽に楽しめる作品。

名探偵ポワロ[完全版]Vol.2.jpgジョニー・ウェイバリー誘拐事件 dvdコレクション.jpg ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 00.jpg  二十四羽の黒つぐみ dvd.jpg
名探偵ポワロDVDコレクション26号 (ジョニー・ウェイバリー誘拐事件) [分冊百科] (DVD付)」「名探偵ポワロDVDコレクション27号 (24羽の黒つぐみ) [分冊百科] (DVD付)
名探偵ポワロ[完全版]Vol.2 [DVD]」(「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」「24羽の黒つぐみ」所収)

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 3.jpg 地方の大地主マーカス・ウェイバリーが、ポワロのところへ相談に訪れる。5万ポンドを支払わないと、翌日息子ジョニーを誘拐するという脅迫状を受け取ったと言うのだ。ヘイスティングスは、ウェイバリーの話を半信半疑で聞いていた。ポワロは、ウェイバリーを連れてジャップ警部を訪ねるが、ジャップ警部もまた事件としては扱ってくれない。事件を未然に防ぐことが重要だと考えるポワロは、ウェイバリー邸に赴き、やがてジャップ警部も部下を引き連れ警戒にあたるが、2人はジョニーを目の前で誘拐されてしまう―(第3話「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」)。

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 2.jpg デヴィッド・スーシェ主演の英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第3話(第1シーズン第3話)で本国放映は1989年1月22日、本邦初放映は1990年1月27日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。

ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 syokuji.jpg 振り返ってみれば、この回のポワロは結構犯人に翻弄されて、現場を離れた隙に子供を誘拐されてしまうなど複数のミスしている感じがするのですが(時計が10分進められていたことにポワロもジャップ警部も気ジョニー・ウェイバリー誘拐事件 屋敷.jpgづかなかったというのはちょとねえ)、その割には「足行水」などして若干のんびりした雰囲気がするのは、事件が誘拐であって殺人事件ではないためか、それとも翻弄されているように見えて実は早い段階でポワロには犯人の目星がついていたためか。

 ポワロならずとも、犯人は観ていて大体見当がつくのでは。後は共犯者と動機がポイントでしょうか。こちらはちょっと推理が難しい?
  「名門」と「お金持ち」の違いは夫婦の間でもあるのか。邸の増改築を巡る夫婦間の意見対立という伏線はありましたが、そんなことより、邸宅と庭園の美しさを楽しむ一作だったかも。


24羽の黒つぐみ3.jpg 友人の歯科医ボニントンとレストランで食事をしたポワロは、そこの常連客であるという老人が最近長年の習慣にないメニューを口にしたという話に興味を惹かれる。数日後、その老人は遺体で発見され、警察は階段からの転落事故死と判断したが、ポワロは老人が死の直前にレトランでとった行動の不自然さから不審を抱き、独自に調査に乗り出す―(第4話「24羽の黒つぐみ」)。

24羽の黒つぐみ0.jpg 英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第4話(第1シーズン第4話)で本国放映は1989年1月29日、本邦初放映は1990年2月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。

24羽の黒つぐみ1.png ミス・マープル物の長編『ポケットにライ麦を』と同じくマザーグースの"6ペンスの歌"がモチーフとして使われていますが、『ポケットにライ麦を』ほどには歌詞がプロットに絡んでいないように思いました。

 原作では亡くなった老人ヘンリー・ガスコインが売れない画家だったのに、この映像化作品では売れっ子画家に変更されていて、その遺作に価値があるとの設定に。そのため容疑者の幅が原作より若干は出ていますが、結局、連続殺人事件で容疑者の1人が亡くなってしまうため、ポワロ自身が言うように、自ずと容疑者が絞られる状態になったように思います。

24羽の黒つぐみ2.jpg ポワロが歯の治療中で肉料理が食べられず、自分で肉料理を作ってヘイスティングスに食べさせ、その味はどうかしきりに気にするという場面が可笑しかったし、抽象絵画を観てそのタイトルが「鳥に石を投げる男」だと聞いてヘイスティングスが「ほぅ。で、どっちが男?」と言ったり、ポワロがクリケットの試合に夢中で気も漫(そぞ)ろのヘイスティングスにイラついたり皮肉を言ったりしつつ、ラストで自ら試合結果を分析してみせヘイスティングスを唖然とさせる場面なども楽しいです。ただ、こうした場面ばかり印象に残って、ポワロの鋭さというのは意外と感じられなかったような気も。

 両作品とも短編がベースであり、犯人探し自体はそう難しくないと言うか、雰囲気で判ってしまうところがあります。でもその分、あまり気負わずに気軽に楽しめる作品ではあります。

The Adventure of Johnnie Waverly_.jpgジョニー・ウェイバリー誘拐事件01.jpg「名探偵ポワロ(第3話)/ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF JOHNNIE WAVERLY●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/22●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ジェフリー・ベイトマン(マーカス・ウェイバリー)/ジュリア・チャンバース/DOMINIC ROUGIER●日本放映:1990/01/27●放映局:NHK(評価:★★★☆)
The Adventure of Johnnie Waverly

Four and Twenty Blackbirds_.jpg24羽の黒つぐみ4.jpg「名探偵ポワロ(第4話)/24羽の黒つぐみ」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:FOUR AND TWENTY BLACKBIRDS●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/29●監督:レニー・ライ●脚本:ラッセル・マレー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /リチャード・ハワード(ジョージ・ロリマー)/トニー・エイトキン(トミー・ピナー)/CHARLES PEMBERTON/GEOFFREY LARDER/DENYS HAWTHORNE/HOLLY DE JONG●日本放映:1990/02/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)
Four and Twenty Blackbirds

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「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

記念すべき本国及び日本放映第1話。シーズンのスタートにしてはやや大人しい感じの滑り出し。

コックを捜せ dvd.jpg コックを捜せ ポワロ へニングス レモン.jpg ミューズ街の殺人 dvd.jpg ミューズ街の殺人1.jpg  
名探偵ポワロDVDコレクション 24号 (コックを捜せ) [分冊百科] (DVD付)」 「名探偵ポワロDVDコレクション 25号 (厩舎街の殺人) [分冊百科] (DVD付)

コックを捜せ 依頼.jpg ヘイスティングスが新聞に載っている面白そうな事件を読み上げてみても、国家的重大事件でなければ引き受けないと言うポワロ。そんな彼のもとへコックが失踪したから探してくれという夫人が現れる。依頼を拒否しようとするポワロだったが、夫人から、熟練したコックがいなくなるのは家宝の宝石を失うに等しい国家的事件だと言われて、これは失礼だったと依頼を受けることに。ポワロが話を聞いた下働きの女性は、彼女は奴隷商人に誘拐されたに違いないと言うが、荷造りしていたために、誘拐ではなく、自分から姿を消したのだとポワロは考える。家に下宿している銀行員にも事情を聞くが、何も知らないと言う。彼の勤める銀行では証券紛失事件があり、不審に思ったポワロだが、そうこうするうちに依頼主の夫人から、コックが勝手に出て行ったなら依頼は取り消しだと1ギニーが送られてきてまう―(第1話「コックを捜せ」)。

熊倉一雄 ポワロ.jpgTHE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK.jpg デヴィッド・スーシェの主演英国LWT(London Weekend Television)制作「名探偵ポワロ」(ポワロの声の吹き替えは、昨年['15年]10月に88歳で亡くなった熊倉一雄が最終シリーズまで務めた)の第1シーズン第1話で本国放映は1989年1月8日、本邦初放映は1990年1月20日(NHK)(記念すべき第1話だが、日本での放送は第2話の方が1週先だった)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「料理人の失踪」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「料理女を捜せ」)などに所収。

コックを捜せ 銀行家.jpgコックを捜せ 弁護士.jpg 結局、コック失踪事件は銀行の横領事件から殺人事件へと発展していき、プロットの密度は濃いですが、これでほぼ原作通りのようです。失踪したのはコックと言うより家付きの料理女といった感じでしたが、完全に犯人い騙されていたのだなあ。しかし、コックを捜せ 料理人.jpg殺人の犯行において死体を隠すというのは結構たいへんであるにしても、それ用のトランク1つのために、弁護士になりすますなどしてここまでやるかなあというのはあります(それで話が面白くなっているも確かだが)。ただ、同居人ということで、彼女がそういう話に乗ってくるタイプだということは読んでいたのでしょう(高齢者を狙った詐欺だね。金を奪うわけではないけれど)。

 ポワロが最初はコック捜しといった些細な仕事をしていることをジャップ警部に悟られまいとしているのが可笑しく、それが何か背後に怪しいものがあるとと思い始めたところへ夫人から依頼の取り消し連絡があって1ギニーが送られてきたことに珍しく激昂、タダでも捜査を続けると言い、さらにその後の事態の思わぬ展開に、最後はどんな依頼も軽んずべからずとして、1ギニーを額に入れて壁に飾る―という展開は巧み。因みに1ギニーは21シリング、1930年代半ばの貨幣価値で25,000円くらいだそうです(ホームズの時代とそう変わらない?)。


ミューズ街の殺人 現場.jpg ガイ・フォークス・デイの夜、こんな晩なら銃声が花火の音にまぎれてしまうので殺人にはもってこいだとヘイスティングスは言うが、その翌日、女性が自宅で射殺体で発見される。被害者は、若き美貌の未亡人バーバラ・アレンで、当初自殺と思われたが、状況に不審な点があり、警察はミューズ街の殺人 0.jpg他殺と断定する。第一発見者は、ルームシェアをしていた女性写真家のジェーン・ブレンダーリースで、彼女にはアリバイがあり、他に容疑者として、被害者のバーバラと婚約していた下院議員ミューズ街の殺人 gate.jpgチャールズ・レイバトン・ウェスと、ジェーンとバーバラの部屋をしばしば訪れていたユースタス少佐が浮上する。さらに、少佐は被害者との過去の愛人関係を理由にして、恐喝していたようだった―(第2話「ミューズ街の殺人」)。

MURDER IN THE MEWS.jpg 英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第2話(第1シーズン第2話)で本国放映は1989年1月15日、本邦初放映は1990年1月13日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)などに所収。"ミューズ"は"Muse"ではなく"Mews(厩舎)"で、転じて厩から通りまでの「路地」を言います。

ガイ・フォークス・デイ.jpg ガイ・フォークス・デイ(11月5日)は、1605年の「火薬陰謀事件」で国会爆破をもくろんだ実行犯のガイ・フォークスが捕らえられたガイ・フォークス お面.jpg記念日で、祭りでは篝火で人形を燃やします(但し、ガイ・フォークスは火刑ではなく絞首刑に処せられた)。英語で「男、奴」を意味する"Guy"は彼の名に由来し、また、ガイ・フォークス・デイに人々が着けるお面は、アノニマス、ウィキリークスのジュリア・アサンジが"抵抗と匿名"のシンボルとして用いています。

ミューズ街の殺人 2.jpg 話の方は、自殺だと思ったら他殺...と思ったら...と二転三転する展開に引き込まれますが、"犯人"はちゃんといましたね。"犯人"と言っていいのかどうか分かりませんが、ポワミューズ街の殺人 nazotoki.jpgロははっきり「殺人未遂」と言ってます。この辺りの厳格さはポワロらしいという気がします。それでも"犯人"の気持ちが分からないでもないですが。

 時代背景の割には、シェアしている部屋や下院議員が使っているスポーツクラブのプールなどがモダンで、その分、結構垢抜けて見える一篇でした。但し、第1話についても言えることですが、元が短編で時間も正味55分であることもありますが、シーズンのスタートにしてはやや大人しい感じの滑り出しであった印象を受けます。

「名探偵ポアロ」.jpg名探偵ポワロ.jpg2名探偵ポワロ.jpg「名探偵ポアロ」 Agatha Christie: Poirot (英国グラナダ(ITV)1989~2013) ○日本での放映チャネル:NHK→NHK-BS2→NHK-BSプレミアム(1990~2014)/ミステリチャンネル→AXNミステリー

名探偵ポワロ DVD 全52巻【上段】第1巻~31巻(第1話~第48話)【下段】第32巻~第52巻(第50話~第70話)
名探偵ポワロ [レンタル落ち] 全52巻.jpg

Agatha Christies Poirot The Adventure Of The.jpg「名探偵ポワロ(第1話)/コックを捜せ(炊事婦の失踪)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK●制コックを捜せG.jpg作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/08●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ブリジット・フォーサイスコックを捜せ dvd1.jpg(トッド夫人)/ダーモット・クロウリー(アーサー・シンプソン)/FREDA DOWIE/ANTONY CARRICK●日本放映:1990/01/20●放映局:NHK(評価:★★★☆)

名探偵ポワロ[完全版]Vol.1 [DVD]」(「コックを捜せ」「ミューズ街の殺人」所収)

「名探偵ポワロ(第2話)/ミューズ街の殺人(厩舎(ミューズ)街の殺人)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:MURDER IN THE MEWS●制作年:1988年●制作ミューズ街の殺人 ゴルフ.jpg国:イギリス●本国放映:1989/01/15●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・Murder in the Mews.jpgレモン) /ジュリエット・モール(ジェーン・プレンダーリース)/デイヴィッド・イェランド(チャールズ・レイバトン・ウェスト)/JAMES FAULKNER/GABRIELLE BLUNT●日本放映:1990/01/13●放映局:NHK(評価:★★★☆)

Agatha Christie's Poirot: Season 1, Episode 2 Murder in the Mews

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ラロジエールに娘が...太すぎるサイドストーリー。面白かったが、改変の一部がやや気に入らない。

Épisode 5 鳩の中の猫.jpg鳩のなかの猫 フレンチ・ミステリ0.jpg 鳩のなかの猫 フレンチ・ミステリ2.jpg
Les Petits Meurtres d'Agatha Christie Épisode 5 : Le chat et les souris(鳩のなかの猫)

鳩のなかの猫 フレンチ・ミステリ3.jpg 森で身元不明の女性の遺体が発見される。遺体に着衣はなく、頭を砕かれていた。時を同じくして、森の近くの女子寄宿学校では、学生達が休みから学校に戻ってきた。新任の教師も集まり、学校は活気を取り戻していた―。

 ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2010年の作品(第5話)で、2011年9月に「AXNミステリー」で放映されました(女性の全裸死体をそのまま映すところがフランスのTVっぽい?)。

鳩のなかの猫 クリスティ文庫.png 原作は1959年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で、原題「Cat among the Pigeons」は、女生徒(鳩)達の園である学園に殺人者(猫)が紛れ込んでいるという意。中東の王国で起きた革命騒ぎのさなか、莫大な価値をもつ宝石が消えうせ、一方、ロンドン郊外の名門女子校で新任の体育教師が何者かに射殺されるのですが、ふたつの事件には実は関連があったという話です。

 原作で最後に事件を解決するのはポワロですが、そのポワロは原作を読み始めて3分の2を過ぎないと出てきません。原作に比較的忠実に作られているとされている英国ITVデヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズでも、この原作の映像化作品(第59話/2008年製作)では、ポワロを最初から登場させたり、登場人物の一部を端折ったりしていました。

クリスティのフレンチ・ミステリー(第5話)/鳩のなかの猫.jpg "改変の妙"が売りのこの「フレンチ・ミステリー」シリーズですので、この作品も、新学期から学校に転入してきた革命があった国の王女と、国王から宝石を託された男性の姉の娘(同じくこの学校の生徒)を同一人物にしたりしています(原作では王女はニセモノだったけれど、この作品ではホンモノになっている!)。

 更に、事件解決の鍵となる宝石の在り処に辿り着く女子校生ジュリエット(原作ではジュリア)の母親は、原作ではトルコにのんびりバス旅行に行っている有閑マダム(実は昔諜報機関にいた)になっていますが、ここでは学校の寮母と同一人物になっていて、寮母の娘であるジュリエットはその関係で、庶民でありながら上流階級の子女が集うこの学校に入学が許されたことになっています(従って、学校で高慢ちきでイヤミな女子学生からイジメを受けている。但し、寄宿寮で同室の王女とは仲良し)。

鳩のなかの猫 フレンチ・ミステリ1.jpg でも、何よりの改変は、ジュリエットの母親である寮母とラロジエール警視は昔一夜を共にしたことがあり、実は彼女の娘ジュリエットはラロジエールの娘でもあったという―このもの凄い改変が、それまで娘がいることを知らなかったラロジエールと、父親を知らなかった娘の出会いの物語という、太いサイドストーリーを形成しています(太過ぎる!)。

 「テニスラケットの入れ替え」などは原作を踏襲していてそれなりに面白かったですが、原作の犯人は宝石狙いだったのに、ここではそれに加えて、中東国で国王を殺害したことになっていて、最後、王女が剣でブスリと父の仇を討つという、ややぶっ飛び過ぎの結末。「目には目を歯には歯を」はかつてのイスラム圏の話で、フランスだと一応は殺人罪が適用されると思うのですが、何となく目出度し目出度しで終わってしまったような...。

 ラロジエールとジュリエットの父娘の別れは切ないけれど、そんなに裕福ではない母子家庭に対し、ラロジエールには今後しばらくは養育費を送り続ける義務が発生しているのではないかなあ、などと考えてしまいます。

鳩のなかの猫 フレンチ・ミステリ.jpg鳩の中の猫.jpg 原作では、女子校の校長は立派な人物で、彼女の教育観には原作者クリスティの教育観が織り込まれていますが、ここでは、頑なに学校の名誉にこだわる石のような女性にキャラクター改変されていて、全体として面白Flore Bonaventura.jpgかったなりにも、この改変が個人的にはやや気に入らず、評価は「△」としました。

「クリスティのフレンチ・ミステリー(第5話)/鳩のなかの猫」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/LE CHAT ET LES SOURIS●制作年:2010年●本国放映:2010/9/8●制作国:フランス●監督:エリック・ウォレット●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・ コルッチ/Flore Bonaventura/Stéphane Caillard/Isabelle Candelier/Marilyne Canto●原作:アガサ・ クリスティ●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)

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ポアロが出てくるのは後の方だけれど、やはりポアロ物らしい傑作。

鳩のなかの猫 ポケミス.jpg 鳩のなかの猫 hm文庫.jpg 鳩のなかの猫 クリスティ文庫.png  鳩のなかの猫 dvd.jpg「名探偵ポワロ 41」
鳩のなかの猫 (1960年) (世界ミステリシリーズ)』『鳩のなかの猫 (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『鳩のなかの猫 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』「名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 3」(2010)

 中東のラマット国での革命勃発当日、アリ・ユースフ国王は、自分が生き延びられなかった場合に備え、一族伝来の巨額の価値を持つ宝石を国外へ持ち出すよう、英国出身の親友ボブ・ローリンスンに託す。ボブは、自分は国王の国外脱出行に同行するため、別の誰かに宝石を託そうとするが、姉のジョアン・サットクリフが娘ジェニファーの肺炎の療養のため当地に滞在し、やがて英国へ戻ることになっているのに目をつける。そのジェニファーが通うロンドン郊外の名門女子校メドウバンクは、新たに夏季学期を迎えていたが、新任の体育教師が何者かに射殺されるという事件が起きる。その学校には、今学期からラマット国の国王の従妹であるシャイスタ王女が転入してきたところでもあった。莫大な価値を持つ消えた宝石の謎と、名門女子校で起きた体育教師殺害事件には何か関連があるのか―。

鳩のなかの猫 原著.jpg 1959年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で、原題「Cat among the Pigeons」は、女生徒(鳩)達の園である学園に殺人者(猫)が紛れ込んでいるという意。ポワロ物ですが、ポワロが登場するのは、メドウバンクの生徒で知人の娘であるジュリアが彼に相談を持ち込んできてからで、これが全体の3分の2を過ぎてからということもあって、今一つポワロ物という印象が薄かった作品でした(作家の浅暮三文氏もハヤカワ・クリスティー文庫の解説で、ポワロは「友情出演」の感が強いとしている)。でも今回読み直してみて、ラストの畳み掛け感は素晴らしく、やはりポワロ物らしい傑作ではないかと感じました。

Cat Among the Pigeons Dust-jacket illustration of the first UK edition

 冒頭の中東のラマット国での革命の話は、作者の政治的冒険譚風の初期作品の雰囲気もありますが、これはポアロ物では全33の長編の内の第28長編とのことで、かなり後の方。実は1958年に起きたイラン革命をモチーフにしているとのことで、その頃の作者は、遺跡の発掘作業のため毎年のようにイラクに赴いていた考古学者である夫に随行して当地を訪ねていたとのことです。また、メドウバンク校のモデルは、作者の娘が通っていた全寮制の女子予科校だそうです。そうしたこともあって作者にとっても愛着があるのか、この作品は作者の自選ベスト10にも入っています。

 第2の殺害事件が起き、ポワロが捜査に乗り出してからも第3の殺害事件が発生するなど、相変わらず殺人事件に"事欠かない"状況ですが、「3連続殺人」でしかも被害者は同じ学校の女教師ばかりというというのが、振り返れば、推理をミスリードさせる1つのポイントでした。ミステリ書評家の濱中利信氏は、この作品を傑作としながらも、物語の視点が一定していない、探偵役が不在である、犯人がアリバイ不在の状況の中で犯行を犯すとは考えにくい等ミステリとしての欠点も指摘しています。個人的にもその辺りが、星5つまでには至らない理由でしょうか。但し、中盤部分の探偵役は、ジェニファーとテニスラケットを交換したことから宝石の在り処に辿り着いたジュリアでしょう。

 嫌な人物も多く出ていますが、国王とボブの厚い信頼に基づく友情から始まって、国王が密かに結婚していた女性が、宝石の受け取りを拒否し、更に、その1つを、宝石の在り処を突き止めたジュリアに贈ることを言付けるなど、清廉な人物も登場し、読後感は悪くありません(メドウバンクの校長オノリア・バルストロードも立派な人物)。

鳩のなかの猫 ドラマ.jpg 英国LWT(London Weekend Television)制作・デヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズで、第59話(本国放映2008年)として映像化されていますが、ポワロがなかなか登場しないのではマズイと思ったのか、原作の冒頭にあるメドウバンクの新学期が始まる場面からポワロが登場します(引退を考えている校長オノリアが、自分の後継者の人選にあたり、人間洞察に優れたポワロの助言を求めたという設定。原作ではポアロは、女生徒ジュリアの母親を介して学園と繋がるが、校長のオノリアとは直接面識がなく、初めて会う直前はやや警戒気味。但し、会ってから後はオノリアの人格者ぶりに感心する)。

鳩のなかの猫 ドラマ2.jpg ポワロが女生徒らの只中にいたりする場面は原作には無く、また、第2の殺人事件の被害者ヴァンシッタートをカットし、被害者を別の人物に変更しています(但し、結末の整合性は保っている)。更には、宝石の1つがジュリアに贈られることになったエピローグで、ポアロがわざわざキャンディドロップに混ぜて、この中に1つだけ固いキャンディがある、なんて言って彼女に贈るのも、原作でのポワロの登場時間の少なさを補うTVドラマ版のオリジナル。但し、時間を遡ったりしてはいるけれども、大筋では原作のプロットに忠実であり、原作の持ち味は活かしていたと思います(「IMDb」のレーティングは8.0という高ポイント)。

鳩のなかの猫 dvd2.jpg「名探偵ポワロ(第59話)/鳩のなかの猫」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON11: CAT AMONG THE PIGEONS●制作年:2008年●制作国:イギリス●本国放映:2008/09/21●監督:ジェームス・ケント●脚本:マーク・ゲイティス●時間:94分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ) /ハリエット・ウォルター(バルストロード) /アマンダ・アビントン(ブレイク) /エリザベス・バーリントン(スプリンガー) /アダム・クローズデル(アダム) /ピッパ・ヘイウッド(アップジョン夫人) /アントン・レッサー(ケルシー警部) /ナターシャ・リトル(アン) /キャロル・マクレディ(ジョンスン) /ミランダ・レーゾン(ブランシュ) / クレア・スキナー(アイリーン) /スーザン・ウールドリッジ(チャドウィック) /ロイス・エドメット(ジュリア) /アマラ・カラン(シャイスタ王女) /ケイティ・ルング(スイ・タイ) /ジョー・ウッドコック(ジェニファー)●日本放映:2010/09/14●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)名探偵ポワロDVDコレクション 20号 (鳩のなかの猫) [分冊百科] (DVD付)

Épisode 5 鳩の中の猫.jpg鳩のなかの猫 フレンチ・ミステリ0.jpg 「クリスティのフレンチ・ミステリー(第5話)/鳩のなかの猫」 (10年/仏) ★★★

【1960年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(橋本福夫:訳)]/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(橋本福夫:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(橋本福夫:訳)]】

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原作のポイント部分をきっちり抑えていたため楽しめた。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗ってdvd.jpgクリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗って01.jpg  クリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗って06.jpg
DVD(輸入盤)

クリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗って05.jpg ある日、ランピオン刑事はラロジエール警視の所属する"スタークラブ"の集会に参加する。名士達が集まる会場で、ラロジエール警視は、かつての上官で大富豪のドラリーブ大尉と感動の再会を果たす。しかし、警視が大尉の屋敷での家族との食事会に招かれた数日後、滞在先の火事により大尉が亡くなったとの悲報が警視にもたらされる。大尉は孫のような年の娘アルベルティーネと結婚したばかりで、大尉によって多くの親族が養われていた屋敷へ、その若妻の兄が、大尉の遺言によりその全財産の相続人となった妹を連れて乗り込んで来る―。

満潮に乗って クリスティー文庫.jpg フランス2で2009年から放映されている「クリスティのフレンチ・ミステリー」シリーズの、2011年放映の通算第8話で、原作は1948年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Taken at the Flood)で、戦争が生んだ一族の心の闇をポアロが暴くもの(但し、ポワロは後半部からしか登場しない)。原作では大尉は空襲により亡くなったことになっていますが、この映像化作品では火事によって亡くなったことになっています(因みに、英国ITV(グラナダ)のデヴィッド・スーシェ版「名探偵ポアロ」ではガス爆発による事故死だった)。
    
クリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗って6.jpg 冒頭、科学的捜査に執心するランピオンとそれを軽んじる警視との間に確執があり、そこへ大尉の訃報が入り、警視は実の父親を失ったような思いに駆られ虚脱状態に。事件の捜査どころか刑事を辞めるとまで言い出し、話は一体どうなるのかと思いましたが(事件現場にランピオンから貰ったキノコのバスケットを抱えて悄然と立ち、親族から「あの人、大丈夫」と言われているのが可笑しい)、そこから警視の"復活"に至るまでのサイドストーリーはサイドストーリーとして楽しめ、むしろデヴィッド・スーシェ版が原作を改変してまでポワロが最初から事件に関与していたのに比べると、前半部分で警視が事件捜査に直接関与しない分、原作に近かったかも。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗って04.jpg 原作と同じく死体が上がるのは3体。原作の妙味は、それらが自殺・事故・他殺とそれぞれ死亡原因が異なることが考えられる点と、AがBを殺害し、CがDを殺害したという一般的な推理を、例えばAがDを殺害したとすればどうかという具合に置き換えてみないと事件の謎は解けないという点で、細部のキャラクターの改変はあるものの、この原作のポイント部分はきっちり抑えていたと思われます。親族たちが若妻の死を願う気持ちが、個々の"妄想"を映像化することで巧く表現されていたりした点も含め、十分楽しめました。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗って062.jpg 「若妻」の「兄」は、 原作でも大尉の親族を屋敷から追い出して財産の"総取り"を狙う悪い奴なのですが、この映像化作品では、登場早々に見るからにワルそう。親族の中で唯一そうした"妄想"に駆られることのなかったセリアが、婚約者を差し置いてこんな男に惹かれる気持ちが知れないですが、一見しっかり者に見える女性がジゴロ風の男が好きだったということがあってもおかしくないのかも。田舎の生活にやや飽きがきていて、更には婚約者との結婚後に待っている平凡な牧場暮らしにもあまり魅力を感じていなかった矢先だったというのもあるかもしれません。或いは、深読みすれば、婚約者の欲得やその中に潜む危険な何かを本能的に嗅ぎ取っていて、その反動だったのかも(婚約者が性的不能であることも暗示されている。加えて言えば、大尉の焼死にこのジゴロ風の男が関与していたことも暗示されていて、これらは原作には無い設定)。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑧満潮に乗って03.jpg このシリーズ、何れも細部にコメディ風のアレンジをしていますが、一方で、原作の抑えるべきところはきっちり抑えていたりもし、特にこの作品についてはそのことが言え、ロケに使われたドラリーブ大尉の屋敷なども豪勢でした。本場英国のクリスティ物テレビ映画にほぼ負けていない一作ではないかと。
マリー・ドゥナルノー(Marie Denarnaud)
Marie Denarnaud est Célie.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第8話)/満潮に乗って」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ LE FLUX ET LE REFLUX(Flux and Reflux)●制作年:2010年●制作国:フランス●本国上映:2011/4/15●監督:エリック・ウォレット●脚本:Sylvie Simon●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/マリー・ドゥナルノー/Alexandre Zambeaux/Yves Pignot/Blandine Bellavoir/Nicky Marbot/Dominique Labourier/Luce Mouchel/Pascal Ternisien●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★★)

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脚本家に「ご苦労様」と言いたいぐらいの改変。オリジナル作品として楽しんだ方が良さそう。

復讐の女神 dvd.jpg 「復讐の女神」.jpg 第12話/復讐の女神 00.jpg

第12話/復讐の女神00.jpg 1940年、独軍戦闘機が英国で墜落し、操縦士は英国女性ベリティ(ローラ・ミシェル・ケリー)に助けられた。11年後の1951年、大富豪ラフィールの訃報を新聞で知ったミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)のもとへ彼の秘書が現れ、ミス・マープルを「ネメシス(復讐の女神)」と呼んでいたラフィールの、事件の解決を依頼する遺言と、「ミステリー・ツァー」のチケットが2枚届き、ミス・マープルは甥で作家レイモンド・ウェスト(リチャード・E・グラント)とツアーに参加す第12話/復讐の女神 04.jpgることに。ツァーのコンダクター兼バス運転手はジョージア(ルース・ウィルソン)で、ツアー参加者はマーガレット(ローラ・ミシェル・ケリー、ベリティと二役)とシドニー(ジョニー・ブリッグズ)の夫婦、元執事レイバン(ジョージ・コール)、派手な赤コートの女アマンダ第12話/復讐の女神 01.jpg(ロニー・アンコーナ)とその弁護士ターンブル(エイドリアン・ローリンズ)、足が不自由で顔中に縫い傷の痕があるワッディ(ウィル・メラー)とその妻ロウィーナ(エミリィ・ウーフ)、アグネス修道院長(アン・リード)とクロチルド修道女(アマンダ・バートン)、ドイツ人のマイケル(ダン・スティーブンズ)らで、全員ラフィール氏に招待されていた―。

第12話/復讐の女神 09.jpg ツアーで訪れたフォレスター卿の邸で、邸の相続続人であるアマンダが癇癪を起こし、そこにあったベリティの写真を踏みつける。宿泊先でコリン・ハーズ(リー・イングルビー)という若者が作家志望だとレイモンドに話しかけてくる。ミス・マープルは孤立しているマイケルに話し掛け、彼がラフィールの息子であることを掴む。夜中に宿の階段から落ちたレイバンは、マーガレットに「ベリティ?」と問いかけるが、彼女は否定する。翌朝、レイバンはベッドで亡くなっており、実は警官だったコリンに、ミス・マープルは毒殺の可能性を示唆する。朝食の席で修道尼らは、ベリティは第12話/復讐の女神 05.jpg男に追われて修道院に逃げ込んできたと言い、その男とはシドニーのようだ。また、ベリティはフォレスター卿の隠し子だったようで、アマンダがメイドをしていた彼女を邸から追い出し、行方不明のまま死亡宣告されため、相続権は無いと彼女は言う。ボナヴェンチュア・ロックッス見物で、ミス・マープルと同じ川縁コースを選んだ修道女らは、マイケル(=ラフィールの息子)がベリティを殺したに違いないと話す。一方、山道コースを選んだロウィーナが何者かに突き落とされ、翌日死体で発見される。コリンとレイモンド、マープルの3人はツアー客らから聞き込みを行う―。

復讐の女神 クリスティ文庫.jpg 2009年1月1日に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、2007年に放映されたシーズン3の「バートラム・ホテルにて」「無実はさいなむ」「ゼロ時間へ」に続く第4話(通算第12話)。このシーズン3の4作は、全て英国に先行してカナダで2007年中に放映されています。ジェラルディン・マクイーワンはこの「復讐の女神」を以ってミス・マープル役を降板、同名シリーズのまま、マープル役はジュリア・マッケンジーに交代します。日本ではNHK‐BS2で2010年3月26日に初放映。原作は1971年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第11作(原題:Nemesis)で、1964年発表の『カリブ海の秘密』の続編乃至は後日談ですが、ジョーン・ヒクソン主演のBBC版と同じく、「カリブ海の秘密」より先に放映されています。

「復讐の女神」レイモンド.jpg 原作ではミス・マープルが単独で「ミステリー・ツァー」に参加するのに対し、BBC版もこのグラナダ版も、甥で作家のレイモンド・ウェストを伴っての参加となっていますが、このグラナダ版の方がBBC版よりもレイモンドの事件解決へ向けてへの関与度はすっと大きくなっています(でも、事件を実質的に解決するのはやはりミス・マープルなのだが)。

第12話/復讐の女神 02.jpg 真犯人は、原作では「魔女の館」っぽい邸にいた3姉妹の1人であり、BBC版ではこれを踏襲していましたが、この映像化作品では、ツアー客の中の独自のキャラクターに置き換えています(犯行動機などから見て、犯人まで変えているとは必ずしも言えないが)。また、原作では、ラフィールの息子マイケルは事件が解決するまで収監されていたのを、BBC版では貧民屈でボランティア活動をしている(自らも浮浪者?)風に置き換えていましたが、この映像化作品では、これもまたツアー客の1人になっています。

 彼らばかりでなく、この映像化作品では、マープル、レイモンド以外の10名の参加者が全員何らかの形でベリティに纏わる過去の出来事に関与しているという(原作ではミス・マープルの外に14名いたツアー参加者の大半が事件には直接絡んでこなかった)―その絡み方につてはオリジナルの脚本になっているわけで、加えて、犯人の案山子を使ったトリックや、死体入れ替えトリック、そのための記憶喪失者への別人の記憶注入と、独自のプロット&トリック満載、もうこれは、半ばオリジナル作品として楽しんだ方が良さそう...。まあ、これはこれで面白かったと見るべきでしょうか。

 コアなクリスティの原作ファンからは大いに叩かれそうな改変ぶりですが、個人的には、原作でツアー客の殆どが事件に絡んでこないことにやや拍子抜けの感があっただけに、10人全員を事件に関与させたことに対して、脚本家に「ご苦労様」といいたいくらいです。結果的に、原作に全く無い話の部分でかなりごちゃごちゃしてしまった面もありますが、一応これでも、クリスティ協会だかクリスティ財団だかのお墨付きは得ているのだろうなあ。

NEMESIS  MARPLE SEASON 2007.jpgローラ・ミシェル・ケリー.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第12話)/復讐の女神」●原題:NEMESIS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:ニコラス・ウィンディング・レフン●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ローラ・ミッシェルローラ・ミシェル・ケリー .jpgLaura Michelle Kelly2.jpg・ケリー/ダン・スティーブンズ/グレイム・ガーデン/リチャード・E・グラント/ルース・ウィルソン/ジョニー・ブリッグズ/ジョージ・コール/ロニ・アンコーナ/エイドリアン・ローリンズ/ エミリー・ウーフ/ウィル・メラー/アン・リード/アマンダ・バートン/リー・イングルビー●日本放送:2010/03/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

Laura Michelle Kelly

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ミス・マープルの「割り込み感」が気になったが、基本的なプロット改変は思ったほどもない。

ゼロ時間へ dvd.jpg 第11話/ゼロ時間へ 00.png 第11話/ゼロ時間へ 01.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3

第11話/ゼロ時間へ 00.jpg 物語のプロローグで、ホームパーティの席上、犯罪学に関心を持つ高名な弁護士(元判事)トリーブス(トム・ベイカー)がミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に、殺人が起きたところから始まるというのは誤りであって、殺人は結果であり、物語はそのはるか以前から始まっていると語る。スケッチ旅行でソルトクリークを訪れ、当地のバル 第11話/ゼロ時間へ 04.jpgモラルコート・ホテルに滞在していたミス・マープルは、古い学友でソルトクリークにある大邸宅の女主人カミーラ(アイリーン・アトキンス)に、邸でのパーティに招待されていた。パーティには、カミーラの甥で有名プロZoe Tapper marple.jpgテニスプレーヤーのネヴィル・ストレンジ(グレッグ・ワイズ)とその現在の妻ケイ(ゾーイ・タッパー、ケイの男友達でマープルと同じホテルに泊まっているテディ・ラティマー(ポール・ニコルズ)、ネヴィルの元妻Saffron Burrows marple.jpgオードリー(サフラン・バローズと彼女が誘ったマラヤ帰りの従兄トーマス・ロイド(ジュリアン・サン第11話/ゼロ時間へ 02.jpgズ)、カミーラの亡夫の友人だったトリーブス元判事らが招待されていた。ケイは、パーティの招待客の中に夫の元妻オードリーがいるのが不満で、わざとテディと親密げに振る舞い、そのオードリーに好意を寄せるトーマス・ロイドはオードリーを気遣っていた。ホームパーティの場で、トリーブス元判事は、かつて子供が成した事故を装った計画殺人の話をし、形質学的な特徴は一生変わらないので、大人になったその人物にゼロ時間へ 3.jpg会えば今でも分かると話すが、その晩彼は、宿のエレベータが故障して階段を使おうとして心臓発作で亡くなる。ミス・マープルは彼の死が、事故ではなく計画殺人であると確信し、地元警察のSaffron Burrows marple 2.jpg警視に元判事が話した昔の犯罪話の人物を探すよう依頼するが、警視はミス・マープルの話にまともに取り合わない。そんな中、女主人カミーラが寝室で、ゴルフクラブで頭を強打された死体姿で発見され、明白な状況証拠から、テニス選手の甥ネヴィルが第一容疑者として浮かび上がる―。

ゼロ時間へ クリスティー文庫.jpg 2007年1月に本国イギリスに先行してカナダで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で(本国放映は2008年8月)、シーズン3の第3話(通算第11話)。日本ではNHK‐BS2で2010年3月25日に初放映。原作はアガサ・クリスティが1944年に発表した長編ミステリで(原題:Towards Zero)、作者自身がマイベスト10に選んでいて、日本の「クリスティー・ファンクラブ」の会員アンケートでもベスト10に入っている作品です。

 原作は、『チムニーズ館の秘密』や『殺人は容易だ』など全5作ある「バトル警視」物の中でもバトル警視が最も本領を発揮する作品ですが、この映像化作品としての「ゼロ時間へ」では、非マープル物にミス・マープルを登場させたこともあってか、バレット警視に置き代わっています(このシリーズの「チムニーズ館の秘密」もフィンチ警視に置き代わっているが、やはり「警部」ではなく、その上の「警視」をもってきていている)。

ゼロ時間へ 9.jpg プロテニス選手の甥とその新妻及び前妻、更にその2人の女性にそれぞれ恋心を抱く2人の男たちという嫉妬や恨みが渦巻く一触即発の雰囲気の中で事件は起きますが、原作の犯人は、意外だったと言うか、秘められた異常性を持つある種サイコパスでした。それに比べると、原作を読んで犯人の見当がついてしまっているのもありますが、やや最初から当該人物は怪しげだったかな。

「ゼロ時間へ」.jpg 実は原作で本当に事件解明に繋がる鋭い閃きを見せたのは、冒頭と最後の方にしか登場しない、たまたま当地に滞在していた自殺未遂の心の傷を克服しつつある男だったのですが、この人物はこの映像化作品には登場しません。代わりに、マープルと同じホテルに泊まっている犬を連れた少女が登場して、彼女の「ビリヤード場で腐った魚の匂いがした」との証言からマープルは犯人の確証を得ます。

 しかし、あくまでも状況証拠なので、最後は犯人にカマをかけて、犯人の自分は完全犯罪を成し得る人物だという自尊心を逆手にとって自白を導き出しますが、この辺りは原作と同じか。但し、そこに至るまでに、バレット警視の協力のもと、関係者全員を船に乗せて、船上でポワロ風に謎解きをやるのは、元々非マープル物とは言え、原作とかなり趣きが違います。

 このシリーズ、結構、原作には無いポワロ風の「一同集めての」謎解きが見られますが、まあ、この方が映像的に見栄えがするのでしょうか。ただ、船縁に乗っかって脚をぶらぶらさせているテディ・ラティマーをいきなり海に突き落としたのは、ちょっとやり過ぎの印象も受けました。全体を通してミス・マープルの「割り込み感」が気になる映像化作品でしたが、原作がよく出来ていて、基本的なプロット改変は思ったほど多くなかったこともあり、楽しめました。

ゼロ時間へ 4jpg.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第11話)/ゼロ時間へ」●原題:TOWARDS ZERO, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:デヴィッド・グリンドリー●脚本:ケヴィン・エリオット●原作:アガサ・クリスティ「ゼロ時間へ」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ジュリアン・サンズ/ゾーイ・タッパー/ポール・ニコルズ/グレッグ・ワイズ/サフラン・バローズ/ジュリー・グレアム/トム・ベイカー/アイリーン・アトキンス/アラン・デービス●日本放送:2010/03/25●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

Saffron Burrows(元妻オードリー)         Zoe Tapper(現妻ケイ)
Saffron Burrows.jpgゾーイ・タッパー.jpg

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ノン・シリーズものの原作を改変して原作より面白くなるならばともかく、そうもなっていない。

007 死ぬのは奴らだps.jpgミス・マープル3 無実はさいなむ dvd.jpg ミス・マープル3 無実はさいなむ 4人兄弟.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3」「007 死ぬのは奴らだ アルティメット・エディション [DVD]

ミス・マープル3 無実はさいなむ グェンダ.jpg ミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、昔マープル家で奉公していたグェンダ(ジュリエット・スティーヴンソンが、自分が秘書を勤める歴史家リオ・アーガイル(デニス・ローソン)と婚約したため、その結婚祝に招待される。リオの妻レイミス・マープル3 無実はさいなむ シーモア.jpgチェル(ジェーン・シーモアは2年前に書斎で殺害されていて、犯人とされた養子のジャッコ(バーン・ゴーマン)は日頃から問題児で、その日もグェンダに金の無心をしに来てと口論になり、彼女に掴 ミス・マープル3 無実はさいなむ キャルガリ.jpgみかかっていた。彼は殺害時刻には他人の車に乗っていたとアリバイを主張するも、証人が現れず死刑になっていた。ケンブリッジ大学の動物学者アーサー・キャルガリ(ジュリアン・リンド・タットは、南極探検で英国を離れていて帰国してから古い新聞記事で、自分が処刑されたジャッコの証言にある人物であることに思い当り、ジャッコの無実を告げにアーガイルの邸サニー・ポイントに駆けつける―。

ミス・マープル3 無実はさいなむ キャルガリの訪問.jpg 邸にはリオ家族である、長女メアリ(リサ・スタンスフィールド)、長男ミッキー(ブライアン・ディック)、次女ヘスター(ステファニー・レオニダス)、ジャッコの双生児ボビー(トム・ライリー)、末女で混血児のティナ(グーグー・ムバサ・ロー)がいて、ジャッコと同様、皆レイチミス・マープル3 無実はさいなむ フィリップ.jpgェルの養子だった。リオ、グェンダ、養子の兄弟姉妹の外には、メアリの夫で車椅子生活のフィリップ・デュラント(リチャード・アーミテージと、家政婦のカーステン・リカーステン・リンツトロム(<font color=deeppink>アリソン・ステッドマン</font>).jpgンツトロム(アリソン・ステッドマンがいた。キャルガリがもたらしたジャッコ冤罪の知らせは皆を喜ばせることはなく、むしろ家族の間で疑心暗鬼が深まる。ミス・マープルが家政婦カーステンから家族の事情を聞くと、レイチェルの葬儀の日に、ジャッコが密かに結婚していた妻モーリーン(アンドリア・ロウ)が家を訪ねて来たと言う。翌日、ヒュイッシ警部補(リース・シェアスミス)が到着して捜査を始めると、家族間の疑心暗鬼は更に深まり、カーステンは、リオの妻の座を狙った秘書のグェンダが犯人だと糾弾する。そのグェンダが、何者かによってレター・オープナーで刺殺される―。

無実はさいなむ ハヤカワ・ミステリ文庫 .bmpMiss Marple & Lisa Stansfield as Mary Durrant.jpg 2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年から翌年にかけて作られたシーズン3全4話の内の第2話(通算第10話)であり、日本ではNHK‐BS2で2010年3月24日に初放映。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1958年に発表された作品で(原題:Ordeal by Innocence)、で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものでで、クリスティはマイベスト10に選んでいますが、巷では評価が割れている作品です。

Miss Marple & Lisa Stansfield as Mary Durrant

 原作はミス・マープルものではないため、グェンダがミス・マープルの元奉公人という話は当然のことながら無く、ジャッコは刑死ではなく無期懲役で獄中で病死しており、キャルガリの専門は動物学ではなく地理学、彼を除く養子の兄弟姉妹は、長女メアリ・デュラント、長男ミッキー、次女ヘスター、末娘ティナの4人で、ジャッコの双子の兄弟ボビーというのは登場しません(グェンダがミス・マープルの元奉公人ということで視聴者目線では容疑者から外れるため、容疑者の人数合わせで一人足した?)。

ヒュイッシ警部補.jpgMiss Marple and Gwenda Vaughan.jpg 前半部分は、ほぼそれ以外は原作通りに進行しますが、原作では、キャルガリが真相究明に燃えるほか、フィリップも真実の解明に乗り出しますが、この映像化作品では、キャルガリの推理は冴えず、フィリップは推理することすらしないし、原作のヒュイッシ警視は、原作より年齢が下の"警部補"になっていて、あまり冴えないメガネ男に変えられている―要するに、オイシイ箇所は全てミス・マープルが持って行ってしまった感じです。
Miss Marple and Juliet Stevenson as Gwenda Vaughan

 後半部分になると急に改変が目立つようになり、グェンダは刺殺されるわ、ボビーは溺死するわで、これみんな原作には無い話です(原作では、真相に近づき過ぎたフィリップが殺害され、事件当日の不審な出来事を思い出したティナも刺される)。特に、グェンダを殺してしまったのは、ちょっとねえという感じ。「ポケットにライ麦を」でも、ミス・マープルの元奉公人が殺害されますが、あれは原作通りだからいいとして、わざわざ改変してまで殺さなければならなかったのかなあ。容疑を掛けられたまま殺されたグェンダが気の毒過ぎました。

キャルガリ.jpg 原作では、事件解決後に、キャルガリとヘスターとの間に恋が芽生えるのですが、これも無し(それ以前に、ヘスターの恋人で医師のドナルドというのが登場するが、これも出てこない)。まあ、ラストのヘスターの新たな恋の目覚めは、原作においても唐突感があるため端折ってもいいかなという気はするし、さすがに真犯人までは変えていなかったけれど、様々な改変によって原作より面白くなるならばともかく、そうもなっていないため、自分としてはイマイチでした。
Julian Rhind-Tutt as Dr Arthur Calgary

Jane Seymour
Jane Seymour 007.pngJane Seymour 3.jpg  グェンダ役のジェーン・シーモアは、"007シリーズ"第8作、ガイ・ハミルトン監督、ロジャー・ムーア主演「007死ぬのは奴らだ」('73年/英)のボンドガールであり、自分が初めて映画館で見た007作品であるため懐かしかったです。この作品も、"007シリーズ"の中で評価が割れている作品ですが、個人的にはそう嫌いではないです(懐かしさもあって)。

ジョアンナ・ラムレイ .jpgティモシー・ダルトン.jpg この"ミス・マープル"シリーズの第8話「シタフォードの謎」('06年)では、ロジャー・ムーアの次にボンド役を演じたティモシー・ダルトンが登場し、また、第1話「書斎の死体」('04年)第20話「鏡は横にひび割れて」('10年)には、「女王陛下の007」('69年/英)のボンドガール、ジョアンナ・ラムレイが登場しています。

  
ミス・マープル3 無実はさいなむ title.pngミス・マープル3 無実はさいなむ 食卓.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第10話)/無実はさいなむ」●原題:ORDEAL BY INNOCENCE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:モイラ・アームストロング●脚本:スチュアート・ハーコート●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ジュリエット・スティーヴンソン/デニス・ローソン/アリソン・ステッドマン/リチャード・アーミテージ/ステファニー・レオニダス/リサ・スタンスフィールド/バーン・ゴーマン/ジェーン・シーモア/トム・ライリー/リース・シェアスミス/ジュリアン・リンド・タット/ブライアン・ディック/グーグー・ムバサ・ロー/マイケル・フィースト/ピッパ・ヘイウッド/カミーユ・コドゥリ●日本放送:2010/03/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)

ジェーン・シーモアロジャー・ムーア「007 死ぬのは奴らだ」0.jpg
クレオパトラ=ジェーン・シーモア.jpgJane Seymour2.jpg「007 死ぬのは奴らだ」●原題:LIVE AND LET DIE●制007 死ぬのは奴らだ dvd.jpg作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ハリー・サルツマン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:トム・マンキーウィッツ●撮影:テッド・ムーア●音楽:ジョージ・マーティン● 原作:イアン・フレミング●時間:121分●出演:ロジャー・ムーア/ヤフェット・コットー/ジェーン・シーモア/クリフトン・ジェームズ/ジュリアス・W・ハリス/ジェフリー・ホールダー/デイヴィッド・ヘディソン/グロリア・ヘンドリー/バーナード・リー/ロイス・マクスウェル●日本公開:1973/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆) 
死ぬのは奴らだ (アルティメット・エディション) [DVD]

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完全に原作とは別の「推理ドラマ」として、立派に成り立ってしまっている。

バートラム・ホテルにて dvd.jpg 第9話/バートラム・ホテルにて 02.jpg 第9話/バートラム・ホテルにて 01.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3

第9話/バートラム・ホテルにて title.jpg第9話/バートラム・ホテルにて 04.jpg 少女時代の訪れたことがある憧れのバートラム・ホテルを60年ぶりに訪れ宿泊することになったミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、伯父リチャード卿の遺言状読み上げに来た友人セリーナ・ヘイジー(フランチェスカ・アニス、"トミーとタペンスシリーズ"でタペンス役を演じていた女優)と出会う。ホテルには女性冒険家のベス・セジウィック(ポリー・ウォーカー)が訪れ、彼女が育児放棄した娘第9話/バートラム・ホテルにて 05.jpgエルヴィラ(エミリー・ビーチャム)とその友人ブリジット(メアリー・ナイ)も泊りに来ていた。その他にも、ペニフェザー神父(チャールズ・ケイ)、ドイツの帽子屋ムッティ(ダニー・ウェッブ)、双子のジャックとジュール(ニコラス・バーンズ)、レーサーのマリノフスキー(エド・ストッパード)らが客としていた。そんな中、ホテル屋上でメイドのティリー(ハンナ・スペアリット)が絞殺され、バード警部補(スティーブン・マンガ第9話/バートラム・ホテルにて メイド.jpg)が捜査に乗り出す。ティリーの同僚メイド、ジェーン・クーパー(マルティン・マッカッチャオン)とミス・マープルは、同じファーストネームということで意気投合し、バード警部補も頭が良くて行動力のあるジェーンに惹かれるとともに、鋭い観察眼を持ったミス・マープルも頼りにするようになる―。

第9話/バートラム・ホテルにて 03.gif メイド絞殺事件の翌日、ホテルの123号室で湯船から溢れた湯が下の階に洩れてレストランが停電し、客がラウンジに移動すると外で銃声がして、ベスを庇ったとみられるドアマンのミッキー・ゴーマン(ヴィンセント・リーガン)が撃たれて死ぬ。ミッキー・ゴーマンはベスの前の夫であり、彼が庇ったと思われたのはベスではなくエルヴィラだった。彼女はすぐにピストルを狙撃犯がいる2階の部屋に向けて撃つが、バード警部補が部屋に駆けつけると、部屋は無人でライフルが窓辺に置かれ、しかも内側から鍵が掛かっていた。ミス・マープルは、ベスが血の色で書かれた脅迫状を受け取っていたことを、偶然掴んでいた―。

バートラム・ホテルにて クリスティー文庫.jpg 2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン3全4話の内の第1話(通算第9話)であり(他3話は「無実はさいなむ」「ゼロ時間へ」「復讐の女神」)、日本ではNHK‐BS2で2010年3月23日に初放映。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表された作品(原題:At Bertram's Hotel)。

 BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズの「バートラム・ホテルにて」(1987)が、古色蒼然としたホテルの重厚感をかなり高いレベルで映像化していたのに対し、こちらは、ホールでルイ・アームストロング(1901-1971、シェントン・ディクソンン)が演奏し、アメリア・ウォーカー(架空の人物? 演じているのはソウル・シンガーのミーシャ・パリス)がジャズを歌う設定で盛り上げています。

ミス・マープル(第9話)バートラム・ホテルにて.jpg ストーリーの方は、BBC版がほぼ原作に忠実であったのに対し、こちらは、原型をとどめないほどに改変されていて、もうここまで変えてしまうとこれはこれで楽しむしかないかと思いつつ(「えーっ」と何度も声を上げながら)観てましたが、観終えてみれば、十分楽しめてしまったようにも思います。逆に感心してしまいました。

Mica Paris,Geraldine McEwan & Francesca Annis

 原作のストーリーは周知のことという前提のもとに、改変の妙を愉しんで下さいという趣旨なのでしょうが、原作を中途半端に改変して、或いは大幅に改変してがっかりさせられるものが多い中、この映像化作品の脚本家は、なかなかの才人ではないかと思わせるものがあり、これはこれで完全に原作とは別の「推理ドラマ」として、立派に成り立ってしまっているように思えました。これしか観たことが無い人には、是非とも原作と読み比べるか(これを観て原作を読んだ気にならないように)、BBC版と観比べて欲しいです(そこでまた、改変の妙が愉しめる。但し、"改変"しているのは、当然のことながら、原作ではなくこっちの方だが)。

 まず、原作ではなかなか殺人事件が起きないのに、こちらはいきなり原作に出てこないメイドが殺され、次にペニフェザー神父がいつ誘拐されるのかと思って観てたら結局誘拐されず、しかも最後に明かされた彼の正体は―。それにレーサーのマリノフスキーや帽子屋が絡んで、ナチス狩りの話だったのかあと驚かされました。

 ホテル全体が犯罪装置のような役割を果たしている点は原作を踏襲しているのかな。犯行のアリバイ作りに利用するというより、盗品の保管場所みたいになっています。ホテルに飾ってあったレンブラントやフェルメールの絵が本物だったというアイデアは秀逸。リチャード卿の遺言で相続の恩恵に与れなかったマープルの友人セリーナの、最後の頼みの綱である宝石が消えた話は、組織的犯行ではなく、双子の"単独"犯行だった? 元々こんな話は原作には無かったわけですが。

 ドアマンのマイケル・ゴーマンも、随分と早めに殺害されたけれど、改変の決定打は、真犯人が原作と異なること! 従って、犯行の手口もぜぇ~んぶ原作と違ってくるのですが、これはこれで全く予想がつかないものであり、なかなか凝っていました。因みに、「原作での真犯人」であるべスは、原作でも娘のエルヴィラを庇いますが、このエルヴィラという小娘、あまりにエゴイスティックで、母親の愛情に応えていない印象を、原作からも受けました。

AT BERTRAM'S HOTEL 2007.jpg第9話/バートラム・ホテルにて 10.jpg 原作で捜査に当たるのはベテランのフレッド・デイビー主任警部でしたが、この映像化作品では、若いバード警部補が、ミス・マープル、メイドのジェーン・クーパーの協力を得て3人で事件の謎を解こうとし、結局、マープル以外の2人は自力では真犯人に辿り着かないのですが、その間、バードとジェーンの距離がぐんぐん狭まってきて(これも原作には無い話なので「えーっ」だったが)、ラストはハッピーエンドに(「あなたが私に何を頼もうとも私の答えはイエスよ」なんてセリフは上手い)。これはこれで爽やかな終わり方だったのではないでしょうか。ミス・マープルは"復讐の女神"ならぬ"縁結びの女神"か。

第9話/バートラム・ホテルにて ホテル.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第9話)/バートラム・ホテルにて」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:ダン・ゼフ●脚本:トム・マクレイ●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ビンセント・レーガン/マーク・ヒープ/ エミリー・ビーチャム/メアリー・ナイ/マルティーヌ・マカッチャン/チャールズ・ケイ/エド・ストッパード/ニコラス・バーンズ/ミーシャ・パリス/フランチェスカ・アニス/ピーター・デーヴィソン/スティーブン・マンガン/ハンナ・スピアリット/ポリー・ウォーカー/●日本放送:2010/03/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【2032】 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第9話)/バートラム・ホテルにて 
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ノン・シリーズものを「面白く」と言うより「複雑に」改変した、「スリークラウンの謎」と呼ぶべき別物の話。

シタフォードの謎 dvd.jpg第8話シタフォードの謎 01.jpg 第8話シタフォードの謎 title.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2

第8話シタフォードの謎 00.jpg プロローグで、エジプトの秘宝発掘現場で2人の男が王の墓から財宝を見つける。その25年後、「シタフォード荘」に住むトレヴェリアン大佐(ティモシー・ダルトンは、現首相チャーチルの後継と目されている。彼が後見人となっているジム・ピアソン(ローレンス・フォックス)は、素Zoe Telford.jpg行不良のため遺産相続人から外す旨の手紙を大佐から受け取ったとして怒っているが、大佐は、自分がその手紙を書いたことを否定する。酔い潰れたジムを、その婚約者エミリー(ゾーイ・テルフォードは、パーティーで偶然知り合った新聞記者チャールズ・バーナビー(ジェームズ・マリー)とともに家に送り届けるが、翌日ジムは大佐に会うと言って、降りしきる雪の中、シタフォード荘に向かう。ミス・マープル(第8話シタフォードの謎 07.pngジェラルディン・マクイーワン)は甥で作家のレイモンドの別荘を訪ねてシタフォードに来たが、レイモンドは戻れず、彼女は、近くの「シタフォード荘」に泊めてもらうことになる。大佐の親友エンダービー(メル・スミスは、大佐の政務官であり「シタフォード荘」を管理している。大佐は、そのエンダービーにも行先を告げずに山荘を出るが、ミス・マープルは彼が、ホテル「スリークラウン館」に偽名で予約を入れるのを聞いていた。エンダービーは、山荘に送り届けられたゼリーを食べた飼い鷹が死んだのを見て、大佐の身を案じて吹雪の中「スリークラウン館」に向第8話シタフォードの謎 o6.jpgかうが、歩いて2時間はかかる。更にそれを案じたチャールズが後を追う。「スリークラウン館」は、カークウッド(ジェームズ・ウィルビー)が昨年ここを買い取ったもの第8話シタフォードの謎 04.jpgで、ミセス・ウィレット(パトリシア・ホッジ)と娘のヴァイオレット(キャリー・マリガン、ミス・パークハウス(リタ・トゥシンハム)ら何人かの客がいて、ウィレット夫人の提案で、ホテルの客たちを集めての心霊占いが始まるが、占いの結果「今夜トレヴェリアン大佐が死ぬ」という言葉が現れる。エンダービーが到着し、途中で彼に追いついたチャールズと共に大佐の部屋に行くと、彼は胸を刺されて死んでいた。大雪で警察が来られないため、エンダービーが捜査に当たる―。

シタフォードの秘密  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg第8話シタフォードの謎 06.jpg 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演のグラナダ版で、シーズン2の第4話(通算第8話)。日本ではNHK‐BS2で2008年6月26日に初放映。原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1931年に発表し作品で(原題:The Sittaford Mystery (米 Murder at Hazelmoor))で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものです。
エミリー(ゾーイ・テルフォード)/チャールズ・バーナビー(ジェームズ・マリー

 原作は、結構、登場人物が多くて人物相関が複雑な割には、犯行に直結するプロットも動機も単純で、個人的にはクリスティ作品としては物足りなかった印象があり、「面白い方向」に改変してくれるならばいいかなと思いましたが、「面白い方向」と言うより「複雑な方向」に改変しただけの映像化作品でした。

第8話シタフォードの謎 シタンフォード荘.jpg 降霊会の行われるのが原作の「シタフォード荘」でではなく、「スリークラウン館」に改変されていて、「シタフォード荘」の降霊会で「大佐が死ぬ」というお告げがあったちょうどその頃、「スリークラウン館」で大佐は殺害されたらしい、というのが原作のミソであるのに対し、「スリークラウン館」で行われた降霊会に大佐自身が加わっていて、その後で殺害されるので、その分、ミステリアスな雰囲気は削がれてしまっています。

 ジム・ピアソンが第一容疑者として拘束されるのは原作と同じ。原作では、「シタフォード荘」のコテージに住む隣人たちが次に疑わしい容疑者になるわけですが、ここでは「スリークラウン館」の客らがそれに該当します(彼らの人物像は、ウィレット夫人と娘のヴァイオレット以外は全面改変されている)。原作での真犯人バーナビー少佐に該当するエンダービーが、なんと、いきなり刑事役を買って出ます(原作での素人探偵役は、ジム・ピアソンの婚約者エミリーと新聞記者のチャールズ・"エンダービー")。

Zoe Telford2.jpg 原作では、事件を解決したエミリーが、頼りない男である婚約者ジムと、事件を通して距離の狭まった新聞記者チャールズのどちらを選ぶかが1つの見所で、最終的にはやはり婚約者の方を選んで、出来る女性というのは意外と頼りない男の方を選んだりするものだなあと思わせる面がありましたが、この映像化作品に登場するジム・ピアソンは最初からどうしようもない男で、そもそもなぜエミリーはこんな男と婚約したのかと思わざるをえません(そのエミリーも、やや高慢ちきで、原作ほど魅力的な女性にはなっていないのだが)。 エミリー(ゾーイ・テルフォード

第8話シタフォードの謎 09.jpg 「この線でいくと、こっちは最後、チャールズの方を選ぶだろうなあ」と思わせるのが1つの引っ掛けだったわけかと。原作の真犯人バーナビー少佐がエンダービーに改名され、新聞記者のチャールズ・"エンダビー"の名前がチャールズ・"バーナビー" に改名されていることが「伏線」だったわけですが、凝り過ぎていて分かんないよ、そんな細かいところは...(因みに、ミセス・ウィレットの娘で原作のヴァイリットも"ヴァイオレット"に改変され、トレヴェリアン大佐がエジプト時代に愛した娘と同名という設定になっているが、こんな話は原作には元々は無い)。 トレヴェリアン(ティモシー・ダルトン)/ヴァイオレット(キャリー・マリガン

 第2の殺人となるドクターの殺害や、エジプトでの過去の殺人(大佐も殺人犯だったのか)、そして最後は、エメリーによるチャールズの○○(どうして、その後の女2人の南米行きに繋げることができるのだろうか。取り敢えず、身柄拘束されて警察の尋問を受けるのでは?)等々、原作に無い話がてんこ盛りで、脚本家がもう好き放題に造っている感じ。 「シタフォードの謎」ではなく、「スリークラウンの謎」とでも呼ぶべき、原作とは別物の話でした。

007 リビング・デイライツ ポスター.jpg007 リビング・デイライツ 洋物.jpg ティモシー・ダルトンは007シリーズの4代目ジェームズ・ボンド役で、シリーズ第15作、第16作に主演(原作は共にイアン・フレミングの短編、監督は共にジョン・グレン)。第15作「007 リビング・デイライツ」('87年)は、高齢ロジャー・ムーアからの大幅若返りということで、ハードアクションが多く、アンケートによっては、シリーズの中、ショーン・コネリーの「ロシアより愛をこめて」に次いで人気が高いという結果が出ているものもありましたが、ロケや仕掛けにお金がかかっている割には個人的にはイマイチでした。アクションも、最初の、久しぶりにシリーズで復活したアストン・マーチンで山から下っていくカーチェイスは迫力がありましたが、それ以外は...。

007 消されたライセンス チラシ.jpg007 消されたライセンス 1シーン.jpg 続く第16作「007 消されたライセンス」('89年)は、'89年11月にベルリンの壁が崩壊したこともあり、冷戦下で作られた最後の007シリーズ作品です。ストーリー的も冷戦の要素が組み込まれた最後の作品とされていますが、ボンドの実質的な敵役は既に、前作のKGBから麻薬王へと変わっています。「古い時代の名残を感じられる最後のボンド映画」との見方もありますが、個人的には、ティモシー・ダルトンになってアメリカのアクション映画とあまり変わらなくなってきた印象を受けました。麻薬王の役は前年に「ダイ・ハード」('88年)でFBI特別捜査官を演007 消されたライセンスes.jpgじたロバート・デヴィ、ボンド・ガールはキャリー・ローウェル(味方側)とタリサ・ソト(敵側)でこちらも共に米国出身、ティモシー・ダルトン"ボンド"は、この敵味方二人の女性に助けられてばかりだったなあ。

ティモシー・ダルトン2.jpg ティモシー・ダルトンは、'71年にショーン・コネリーの後任としてボンド役を依頼されていますが、ボンドを演じるには若すぎるという理由で辞退し、'79年にロジャー・ムーアが降板を考えていたために来た依頼も断っており、3度目の依頼でようやく引き受けたとのことです。但し、この2作でボンド役を降ろされてしまい、次回作からボンド役はピアース・ブロスナンになっています。もう何本かボンド役を演じていればまた違ったかもしれませんが、結果的には、ちょうどシリーズの転換期にボンドを演じた俳優であり、方向性試行錯誤の犠牲になったというイメージがあります。


Carey Mulligan.jpg第8話シタフォードの謎 2.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第8話)/シタフォードの謎」●原題:THE SITTAFORD MYSTERY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:ポール・アンウィン●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ティモシー・ダルトン/マイケル・ブランドン/ローレンス・フォックス/ロバート・ハーディ/パトリシア・ホッジ/ポティモシー・ダルトン 007.jpgール・ケイ/マシュー・ケリー/ジェフリー・キッスーン/キャリー・マリガン/ジェームズ・マリー/メル・スミス/ゾーイ・テルフォード/リタ・トゥシンハム/ジェームズ・ウィルビー●日本放送:2008/06/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)

Carey Mulligan 


007 リビング・デイライツ  dvd2.jpg「007 リビング・デイライツ」●原題:JAMES BOND 007 THE LIVING DAYLIGHT●制作年:1987年●制作国:イギリス・アメリカ007 リビング・デイライツ  dvd1.jpg●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・ミルズ●音楽:ジョン・バリー●原作:イアン・フレミング●時間:130分●出演:ティモシー・ダルトン/マリアム・ダボ/ジェローン・クラッベ/ジョー・ドン・ベイカー/ジョン・リス=デイヴィス/アート・マリック/ジョン・テリー/アンドレアス・ウィズニュースキー/デスモンド・リュウェリン/ロバート・ブラウン/キャロライン・ブリス●日本公開:1987/12●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「007 リビング・デイライツ アルティメット・エディション [DVD]

007 消されたライセンス dvd.jpg「007007 消されたライセンス dvd2.jpg 消されたライセンス」●原題:JAMES BOND 007 LICENCE TO KILL●制作年:1989年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・マイルズ●音楽:マイケル・ケイメン●原作:イアン・フレミング●時間:133分●出演:ティモシー・ダルトン/キャリー・ローウェル/ロバート・ダヴィ/タリサ・ソトアンソニー・ザーブ/フランク・マクレイ/エヴェレット・マッギル/ウェイン・ニュートン/デスモンド・リュウェリン●日本公開:1989/09●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「消されたライセンス (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]

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"トミ・タぺ"にミス・マープルがしゃしゃり出て、何から何まで全て解決してしまったように見えてしまう。

ミス・マープル2 親指のうずき dvd.jpg ミス・マープル2 親指のうずき.jpg   マープル2 親指のうずき0.jpgアガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2

マープル2 親指のうずき2.jpg トミー(アンソニー・アンドルー)とその妻タペンス(グレタ・スカッキ)は、トミーの叔母エイダ(クレア・ブルーム)に会いに養護ホーム「サニー・リッジ」に行く。養老院には、タペンスのブローチを誉める老ランカスター夫人(ジェーン・ウィットフィールド)や時間にこだわるマジョリー(ミリアム・カーリー)がいた。エイダ叔母から邪険にされたタペンスは、ランカスター夫人の部屋で、彼女から突然、「暖炉の奥の子供はあなたのお子さん?」と聞かれ驚く。数週間後、エイダ叔母が心臓病で急死し、遺品の引き取りに来たタペンスは、その中に、以前には彼女の部屋には無かった風景画と、1通の手紙を発見、手紙には「ランカスター夫人は安全ではない。なにかあったらこの絵を見て」とあった。 タペンスは、エイダの死んだ日にランカスター夫人が身内に引き取られたと聞き、マージョリーに面会に来ていたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)から、ランカスター夫人は無理やり連れ去られたらしいと聞かされる。タペンスとマープルは、絵に描かれていた家から、その家のある村を探し出す。村で酒場の女主人ハンナ(ジョシー・ローレンス)や司祭(チャールズ・ダンス)とその妻ネリー(リア・ウィリアムズ)、ジョンソン夫妻と娘ノラ、フィリップ卿(レスリー・フィリップス)などに会うが、皆、何かを隠している雰囲気がある―。

 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン2全4話の内の第3話(通算第7話)であり、日本ではNHK‐BS2で2008年6月24日に発放映(第6話「動く指」の前日)。原作『親指のうずき』はアガサ・クリスティ(1890‐1976)が1968年、78歳の時に発表した、トミー&タペンス・ベレズフォード夫妻シリーズの長編第3作ですが(原題:By the Pricking of My Thumbs)、トミ・タぺ夫婦は齢を重ね、原作ではこの時点で2人共60代後半になっています。

 この映像化作品では、時代設定を第二次世界大戦後(50年代初め)にしているようで、それでも既に2人とも探偵染みたことはしていませんが、トミーはそれなりに老けているけれど(「新・刑事コロンボ/汚れた超能力」で犯人役グレタ・スカッキ.gifを演じたアンソニー・アンドリュース。この時、実年齢58歳)、仕事上はまだ現役、一方のタペンスは彼より随分と若い感じで(「推定無罪」「ザ・プレイヤー」のグレタ・スカッキ。この時の実年齢は46歳)、暇を持て余し気味の状態にあり、しかも、夫から相手にされていないという思い込みから、ややキッチン・ドランカー気味(これは原作にない描写)。彼女なりの直感で事件の臭いを嗅ぎつけ、持ち前の好奇心で、ランカスター夫人誘拐(?)事件を追います。

グレタ・スカッキ(Greta Scacchi)

親指のうずき 映画タイアップカバー2.jpg パスカル・トマ監督の映画化作品『アガサ・クリスティーの奥様は名探偵』('05年/仏)の原作が同じくこの『親指のうずき』ですが、話がちょっと分かりづらかった印象があり、このTV版にも背後関係においてそのキライはあったかも(村全体が、ある種"犯罪装置"みたいになっているのだが、元々原作が、その部分の説明的要素が少ない)。

ミス・マープル2 親指のうずき3.jpg 非マープル物に強引にミス・マープルを登場させていることによって、改変される部分が自ずと多くなるわけですが、更にオリジナリティを出そうとして、駐留米軍兵士のクリス(O・T・ファグベンル)と警官イーサン(マイケル・ベグリー)の村の娘ローズ(ミシェル・ライアン)を巡る恋の鞘当の話があり、警察はクリスを疑うという―原作に無い話、原作に無い登場人物、原作に無い容疑者―もはや改変過剰...。

親指のうずき ミステリ文庫 2.jpg 絵に描かれた家は、原作では早いうちに「運河の家」をタペンスが見つけるのに、この映像化作品では「魔女の家」がなかなか見つからない―この原作の焦点である「意外な犯人」はさすがに変えてなかったけれど、エイダ叔母さんも犯人の犠牲者にしてしまったなあ。タペンスを甥の嫁とも思わず邪険に扱い、認知症にさしかかっているかに思えた彼女が、実は、原作以上に事の真相に気付いていて、絵の中で色々とそのことを示唆し、それゆえに殺害されたということなのでしょう(絵に書き加えられた暗示は、原作では、ハヤカワ・ミステリ文庫の表紙の真鍋博のイラストにもあるように、舟一艘だけだったのではないか。この映像化作品では外にも色々と...)。

ミシェル・ライアン.jpg ミス・マープルは、クリスの無実を晴らして彼のローズへの想いをバックアップし、更に、最後にはタペンスに「あなた一人で事件を解決したのよ」と言って、トミーも改めて彼女のことを評価し直し愛おしく思うという、夫婦の倦怠期の脱却にも彼女が一役果たした終わり方ですが、どうみても、ミス・マープルがしゃしゃり出て、何から何まで全てを解決してしまったように見えてしまうなあ。

ミシェル・ライアン(Michelle Ryan)

ミシェル・ライアン2.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第7話)/親指のうずき/●原題:BY THE PRICKING OF MY THUMBS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:ピーター・メダック●脚本:スチュワート・ハーコート●原作:アガサ・クリスティ「親指のうずき」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/アンソニー・アンドルーズ/グレタ・スカッキ/パトリック・バーロウ/マイケル・ベグリー/スティーブン・バーコフ/クレア・ブルーム/ブライアン・コンリー/チャールズ・ダンス/ミシェル・ライアン/O・T・ファグベンル/クレア・ホルマン/ミリアム・カーリン/ボニー・ラングフォード/ジョシー・ローレンス●日本放送:2008/06/24●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)

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ジェリーの自信回復及び新たな恋愛物語の色彩が濃くなっている。女優にばかり目がいった。

アガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 09.jpg動く指 輸入盤dvd.jpgアガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 dvd.jpg  動く指 02.png
"The Moving Finger"輸入盤DVD/「アガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2

アガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 03.jpg 元軍人で、無気力な日々に嫌気がさしてバイクで自滅事故を起こして脚を負傷したジェリー・バートン(ジェームズ・ダーシー)は、妹ジョアナ(エミリア・フォックス)と一緒に静養のためリムストック村に来たが、村では村人を中傷する匿名の手紙、所謂ブラックレターが出回っていて、そんな折にアップルトン大佐が拳銃自殺を遂げる。ジェリーはシミントン弁護士(ハリー・エンフィールド)の家の2人の息子の家庭教師エルシー・ホランド(ケリー・ブルック)に心を奪われ、シミントン家には夫人(イモジェン・スタッブス)の連れ子で変わり者の二十歳の娘ミーガン(タルラ・ライリー)がいた。ジェリーとジョアナは、招かれたお茶会で村人たちの噂話を聞くが、シミントン夫妻の夕食会には、ジェリーの主治医グリフィス(ジョーン・パートウィー)と妹のエメ(ジェシカ・スティーブンソン)、オルガン奏者パイ(ジョン・セッションズ)、大佐の葬儀のために村に来ていたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)が集っていた。やがて、中傷の手紙を受け取った毒舌家のシミントン夫人(イモジェン・スタッブス)が、「もうダメ」というメモを遺して青酸カリで自殺し、検死審問では、大佐の死も夫人の死もブラックメールを苦にした自殺とされる。ジェリーはミーガンを自分の家に預かり、不安に怯えていたミーガンは生気を取り戻すが、エメが意見したために再び自宅に戻ったミーガンは、階段下で召使アグネス(エレン・カプロン)の死体を発見する―。

動く指 クリスティ文庫.jpg第6話/動く指.png 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン2全4話の内の第2話(通算第6話)であり、日本ではNHK‐BS2で2008年6月25日に初放映。原作『動く指』はアガサ・クリスティ(1890‐1976)が1943年に発表した、ミス・マープルシリーズの長編第3作(原題:The Moving Finger)で、『牧師館の殺人』(1930)、『書斎の死体』(1942)に続くものであり、クリスティが自作の自選ベストテンに入れている作品でもあります。

 原作ではミス・マープルは安楽椅子探偵を決め込んでか、前半から中盤位かけては殆ど登場せず、最後に犯人に罠を仕掛けた後で、読者向けにばたばたと謎解きをしてしまうという印象ですが、先行するジョーン・ヒクソン主演のBBC版('85年/英)では、最初からちょくちょく出てきて謎解きに積極的に関与し、個人的には結構それが良かったように思われました。

 このグラナダ版におけるミス・マープルの事件関与度は、原作とBBC版を足して二で割った感じでしょうか。第3の事件が起きてから警察がより本格的に動き始めますが、一旦は"探偵ごっこ"はやめるように警部から諭されたジェリーに警部が自らの推理を展開している横で、更にマープルまでもが一人編み物をしていたりする場面は、やや不自然な印象を受けなくもないものの、マープルの推理のプロセスを窺わせるものとしてはむしろアリかなあと(但し、途中のプロセスにおいては自らの推理をなかなか明かさないという点では原作に近いか)。
エルシー・ホランド(ケリー・ブルック)/ミーガン(タルラ・ライリー
エリシー・ホーランド(ケリー・ブルック).jpg動く指 08.jpg 綺麗どころの女優が複数出ていて、家庭教師エルシー・ホランド(ケリー・ブルック)は、ジェリーがあれで子供たちは勉強に集中できるのかと冗談めかすほどの美人で、爽やかなセクシーさを醸しています。でもそのジェリーは、自分がエルシーではなく実はミーガン(タルラ・ライリー)に魅かれていることに気がつく―。子供っぽかった野生児ミーガンを、「マイ・フェア・レディ」の如く淑女に大変身させたのは、原作ではジェリー自身でしたが、この映像化作品では妹のジョアナ(エミリア・フォックス)になっていて、その変身後のミーガンの登場シーンは、すでに美形としてエルシーが登場しているだけに、ハレーションを施して、それを超えるものにしたという印象。まあ、同じ美人でも、タイプは異なるけれど(女優ばっかり観ているね)。

アガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 07.jpgアガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 10.jpg 妹ジョアナとグリフィス医師の接近も原作通りですが、男優は、ジェームズ・ダーシーの男前ぶりを除いてはやや格落ち? 原作もそうですが、この映像化作品は、ジェリーの自信回復及び新たな恋愛を基調とした青春物語の色彩がより濃くなっているため(原作では自滅事故で負傷したのではなく、戦争中の飛行機事故によるいわば名誉の負傷のはずだった)、主人公とも言えるジェリー役はやはり二枚目であることが必須条件だったのか(一応、その点は満たしている)。

 ストーリーや人間関係は結構複雑で、犯人もなかなか判らず、マープルが最後に犯人に大胆な罠を仕掛けるのも原作と同じ。但し、犯人が判ってしまえば、動機は意外と単純です。シミントンが妻の葬儀の際に、エルシー・ホランドの胸元を見ている場面があったけれど、男性ならどうしても目がいってしまうかも(それをまたしっかり観察しているマープル-という構図が凄いけれど)。個人的には、妹ジョアナの胸元も気になったけれど...(胸ばっかり観ているね)。
Kelly Brook
ケリー・ブルック.jpgアガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 ラッセル.jpg ラテン語の説教を皆に披露したがる「頭が良すぎて偉くなれなかったという」司祭役を演じているのは、映画監督のケン・ラッセル、死体でしか出てこないアップルトン大佐を演じているのは、このシリーズで前作「スリーピング・マーダー」など幾つかの作品の脚本を手掛けているスティーヴン・チャーチェット。モデル出身のケリー・ブルックをはじめキレイどころを揃えて、結構、仲間内で楽しみながら作った印象もありますが、映像化作品としての一定の質は保っているように思いました。 

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第6話)/動く指」●原題:THE MOVING FINGER, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:トム・シャンクランド●脚本:ケヴィン・エリオット●原作:アガサ・クリスティ「動く指」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/キース・アレン/セルマ・バーロウ/ケリー・ブルック/ジェームズ・ダーシー/フランシス・デ・ラ・トゥーアケリーブルック.jpgケリー・ブルック7.jpg/ハリー・エンフィールド/エミリア・フォックス/ショーン・パートウィー/タルラ・ライリー/ジョン・セッションズ/ジェシカ・スティーブンソン/イモジェン・スタッブズ/ケン・ラッセル●日本放送:2008/06/25●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

 
Kelly Brook
  
Talulah Riley
タルラ・ライリー04.jpgタルラ・ライリー 00.jpgTalulah Rileyド.jpg 

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継母が実は実母だったという改変もさることながら、一番の改変点は"ハッピーエンド"の中身か。

ミス・マープル スリーピング・マーダー dvd.jpg         ミス・マープル2 スリーピング・マーダー 03.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2」 ソフィア・マイルズ/エイダン・マクアードル

ミス・マープル2 スリーピング・マーダー 観劇.jpg インド滞在中に交通事故で妻クレアを亡くしていたケルヴィン・ハリデイ(ジュリアン・ウォダム)の娘で、幼い頃からインドで育ったグエンダ(ソフィア・マイルズ)は、婚約者の会社の部下ヒュー・ホーンビーム(エイダン・マクアードル)とイギリスで新居探しする中、ディルマスのヒルサイド荘に一目惚れして早速契約しリフォームにかかるが、不思議なことにグエンダにはこの邸に既視感があり、更にホールで絞殺される女性の幻影を見る。ホーンビームは知り合いのミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に電話し、グエンダを喜劇の観劇に連れ出すが、公スリーピング・マーダー09.jpg演中の演劇は喜劇ではなくウェブスター原作『マルフィ公爵夫人』に変わっていて、復讐劇の絞殺シーンに女性の幻影が重なったグエンダは思わず「ヘレン!」と叫ぶ。マープルは,グエンダが幼いころ殺人事件を目撃したと考え、家を手配した弁護士ウォルター・フェーン(ピーター・セラフィノウィッツ)の事務所で邸の1934年当時の持主がグエンダの父親ケルヴィンだったことを突き止めるが、フェーンはそれ以上その事に触れたがらない。マープルは町で探し出した邸の元召使ミセス・パジェット(ウーナ・スタッブス)から、当時、毎夏来ていた旅回りの一座「ファニーボンズ」のことを聞く。クレアの兄で精神分析医のジェイムズ・ケネディ(フィル・デービス)の話から、ケルヴィンは幼いグエンダを連れてイギリスに戻りヒルサイド荘に住んでいたことが分かる。妻ミス・マープル2 スリーピング・マーダー 02.jpgクレアを亡くしていたケルヴィンは、一座の看板歌手ヘレン(アナ・ルイーズ・プロウマン)と婚約したが、ヘレンは結婚式前日に姿を消していた。看板歌手が抜けてファニーボンズが解散した夜のことを次第に関係者は想い出す。一座のメンバーは、ジャッキー・アフリック(マーティン・ケンプ)を中心に、手品師のライオネル(ニコラス・グレイス)、そしてディッキー・アースキン(ポール・マッギャン)とジャネット(ドーン・フレンチ)(2人はその後結婚していた)、更に、当時は垢抜けず誰からも愛されなかったが今や独立して大スターのイーヴィ(サラ・パリッシュ)ら。フェーンの母(ジェラルディン・チャップリン)はヘレン失踪事件に息子が関係していたのではないかと疑っている。定年間近のプライマー警部(ラス・アボット)がマープルに調査の協力をする―。

岸田 今日子ド.jpg 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン2全4話の内の第1話(通算第5話)。2008年6月から日本で放映されたこの第2シーズンでは、それまでマープルの吹き替えをしていた岸田今日子が2006年12月に他界したため、声は草笛光子に交替しています。原作『スリーピング・マーダー』は第二次世界大戦中(1943年)に書かれた作品ですが、アガサ・クリスティ(1890‐1976)の遺言により没後の1976年に刊行された作品(原題:Sleeping Murder)です。

ソフィア・マイルズ.jpg グエンダを演じるソフィア・マイルズ(英国の女優だが、この年3本のアメリカ映画に出演している)の魅力で見せる部分が大きい作品でしょうか。その分、そのお嬢様ぶりに対する好悪で、作品に対する好き嫌いも決まってしまうかも(こんな女優中心の見方をしている人ばかりではないと思うが)。

 原作では3人の男性容疑者が浮かび上がりますが、この映像化作品では内1人が女性となっていて、被害者も含め何れも旅芸人の一座に所属していたという設定。更には、後妻のヘレンがなんと交通事故で亡くなっていたはずのクレアと同一人物だったという...(グエンダのお嬢様ぶりと、追想シーンに出てくるヘレンの田舎一座の看板歌手という境遇が、イメージ的にどうしても結びつかないのだが...)。

 継母が実は実母だったという改変もさることながら、一番の改変点は、原作で途中からグエンダと一緒に真相の究明に当たったはずの"優しい婚約者" ジャイルズが、この映像化作品では、部下のホーンビームに「彼女の話を聞くか、聞くふりをする調査員を頼め」と電話で指示したのみで全く登場しない点でしょうか。いつになったら出てくるのかと思っていたけれど、その内にグエンダとホーンビームの距離は狭まり、最後はマープルに励まされてホーンビームがグエンダに跪いて求婚! そうか、あの電話で部下にいい加減な指示した段階で、婚約者はフィアンセよりも仕事の方を優先する男であることが暗示されていたわけかと。

 既に原作はよく知られており、先行するジョーン・ヒクソン版(1987年/BBC)では、家探しの段階からグエンダとジャイルズが共に行動するなど、「トミー&タペンス」の「おしどり探偵」シリーズの若手版風に2人の仲の良さが強調され、また、実に爽やかな2人であったため、このグラナダ版の方は、新味を持たせるために逆方向を狙ったのかな。これはこれで、なかなか面白かったし、「え~っ、婚約者に対する裏切りじゃん」と思う人もいるかもしれないけれど、ホーンビームのグエンダへの想いが抑制的に描かれていてずっと気になっていた分、ラストの改変された"ハッピーエンド"の後味はそう悪くなかったです(マープルは、一途に女性のことを想う男の味方だったわけか)。

SLEEPING MURDER 1.jpg 考えてみれば、原作で若い新婚の2人を暖かく見守っているマープルが、ここでは、ホーンビームを後押しすることで相手の女性の婚約を破棄させる(寝取られ男を一人生み出す)手助けをしているとも言えるけれど、女性を大事にしない男は、たとえ婚約者であろうと女性から見捨てられても当然、という意味では、より現代的な展開を示して見せたと言えるかも。

 さすがに真犯人までは変えていなかったけれど、この原作の映像化作品って、(原作を読んで真犯人を知っているというのもあるかもしれないが)犯人に該当する人物は、いつも出て来るなり何となく怪しいなあ。真犯人は、ヘレンとクレアが同一人物であると判っていたわけか。

ミス・マープル2 スリーピング・マーダー.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第5話)/スリーピング・マーダー」●原題:SLEEPING MURDER, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:エドワード・ホール●脚本:スティーブン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ「スリーピング・マーダー」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ラス・アボット/ジェラルディン・チャプリン/フィル・デービス/ドーン・フレンチ/マーティン・ケンプ/エイダン・マクアードル/ポートランスフォーマー ロストエイジ  ソフィア・マイルズ.jpgル・マッギャン/ソフィア・マイルズ/アナ・ルイーズ・プロウマン/ピーター・セラフィノウィッツ/ウーナ・スタッブズ/ジュリアン・ウォダム/サラ・パリッシュ●日本放送:2008/06/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

ソフィア・マイルズ in「トランスフォーマー/ロストエイジ」('14年/米)

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比較的原作に忠実。後のポワロことデビッド・スーシェ演じるジャップ警部に目が行ってしまう。

エッジウェア卿殺人事件 us.jpg     エッジウェア卿殺人事件 vhs2.jpg Thirteen at Dinner 1985 04.jpg
"Thirteen at Dinner"輸入盤DVD 「名探偵ポワロ エッジウェア卿殺人事件 [VHS]」 David Suchet/Peter Ustinov

Thirteen at Dinner 1985 フェイ・ダナウェイ2.jpg 偶然に女優のジェーン・ウィルキンソン(フェイ・ダナウェイ)と知り合ったポワロ(ピーター・ユスティノフ)は、彼女から離婚に応じない夫エッジウェア卿を説得して欲しいと頼まれる。ポワロはエッジウェア卿に会うが、卿からは半年も前に承諾の手紙を書いたことを聞かされ訝しがる。そしてその晩、エッジウェア卿は何者かに殺害され、現場ではジェーンの姿が目撃されたのだが、彼女には確かなアリバイがあり、どうやらそれは彼女そっくりの物真似タレント、カーロッタ(フェイ・ダナウェイが二役)だったらしい。しかし今度はそのカーロッタまで不自然な死を遂げる。エッジウェア卿の娘をはじめ、卿の死を望みそうな人間は多くいるが、その誰もにアリバイがあった―。

Thirteen at Dinner 1985 03.jpg 映画「ナイル殺人事件」('78年/英)、「地中海殺人事件」('82年/英)でポワロを演じたピーター・ユスティノフ(1921-2004)が、'85年にアメリカのTVドラマでポワロを演じたもので(原題:Thirteen at Dinner)、この翌年には「死者のあやまち」と「三幕の殺人」が作られていますが、ピーター・ユスティノフ主演のTVシリーズはこの3作で打ち止めで(ヘイスティングス役は3作ともジョナサン・セシル)、ユスティノフは2年後に映画「死海殺人事件」('88年/米)で彼自身最後のポワロ役を演じています。

晩餐会の13人 (創元推理文庫.jpgThirteen at Dinner 02.jpg 原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1933年に発表した名探偵ポワロシリーズの長編第7作(原題:Lord Edgware Dies)ですが、時代は、この映像化作品が作られた時代に置き換えられています。ポワロが有名人としてTV出演したり、男優がアクションシーンに何度もダメ出ししたりといった現代風の味付けがありますが、筋立てそのものは原作に比較的忠実に作られており、かなりストーリー的には複雑な作品ではありますが、謎解きも丁寧でした。

 但し、原作を比較的忠実になぞった分、テンポ的にはややゆったりしているかなという印象。一人二役のフェイ・ダナウェイは、さすが堂々たる演技ですが、登場人物が多いため、その中にやや埋没している印象も。

Thirteen at Dinner 1985 05.jpg そうした中、興味深いのは、お馴染みジャップ警部を、'89年からTⅤ版「名探偵ポアロ」でポワロを演じることになるデビッド・スーシェが演じている点で、ピーター・ユスティノフ演じるポワロに常に先行される役どころを彼が演じているというのが、なかなか面白かったです。

 "新旧ポアロ対決"と言いたいところですが、デビッド・スーシェ演じるジャップ警部はいつも食い意地が張っていて、犯行現場などに行ってもつまみ食いばかりしているといった、ややとぼけた人物造型となっており、その上、最初から犯人はアイツだと決めてかかかる石頭ぶりで、後のポワロ役の剃刀の如く研ぎ澄まされた名探偵ぶりとは雲泥の差です。

デビッド・スーシェ/フェイ・ダナウェイ

 ピーター・ユスティノフとデビッド・スーシェが並ぶと、ついついデビッド・スーシェの方に目が行ってしまいます(後に自分がポワロを演じることになるのを少しでもイメージしていたのかなあ、とか考えてしまう)。フェイ・ダナウェイと並んでもデビッド・スーシェの方に目が...。
 という訳で、ピーター・ユスティノフやフェイ・ダナウェイの演技よりも、デビッド・スーシェのダメ警部ぶりの方が、"お宝映像"的な価値があったかもしれない作品ですが、原作のストーリーを再度確認する上ではオーソドックスな作品と言えます。

エッジウェア卿殺人事件001.jpgThirteen at Dinner 1985 04.jpg「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」●原題:THIRTEEN AT DINNER●制作年:1985年●制作国:アメリカ●本国放映:1985/09/19●監督:ルー・アントニオ●脚本:ロッド・ブラウニングス●原作:アガサ・クリスティ●時間:95分●出演:ピーター・ユスティノフ/デヴィッド・スーシェ/フェイ・ダナウェイ/ジョナサン・セシル/リー・ホースリー/ビル・ナイ/ダイアン・キートン●ビデオ発売:1990/11 (ビクターエンタテインメント)(評価:★★★☆)

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どんな状況においてもポアロは名探偵であるという思い込みがトラップになっているとも言える?

邪悪の家 1959 ハヤカワ 田村.jpg エンドハウスの怪事件 創元推理文庫.jpg 邪悪の家 クリスティー文庫 旧田村訳.jpg 邪悪の家 クリスティー文庫 新訳.jpg エンドハウスの怪事件 dvd.jpg
邪悪の家 (1959年) (世界ミステリーシリーズ)』(田村隆一:訳)『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['04年](厚木 淳:訳)『邪悪の家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['04年](田村隆一:訳)『邪悪の家(ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['11年](真崎義博:訳、カバーイラスト:和田誠)「名探偵ポワロ[完全版]Vol.6 [DVD]
[下]『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['75年](厚木 淳:訳)『邪悪の家 (1984年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['84年](田村隆一:訳、カバーイラスト:真鍋博)『エンド・ハウス殺人事件 (新潮文庫)』['88年](中村妙子:訳)
エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫).JPG「邪悪の家」ハヤカワ・ミステリ文庫.jpgエンド・ハウス殺人事件.jpg 英国南部の牧歌的な漁村セント・ルーにバカンスで来ていたポワロとヘイスティングスは、滞在先のマジェスティックホテルで、近くにあるエンドハウスの女主人ニック・バックリーと知り合う。彼女は最近3日間に3回も命拾いをする経験をしたと話すが、ポワロとホテルのテラスで話している間にも、何者かから狙撃される。弾は逸れ、またも彼女の命は救われるが、ポワロは彼女に警告を発し、自ら警護を申し出てエンドハウスへと乗り込む。しかし、花火の夜に、偶然ニックのショールを羽織っていたニックの従妹のマギーが何者かによって射殺されてしまう―。

Peril At End House.jpg 1932年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポワロシリーズの長編第6作で(原題:Peril at End House)、『牧師館の殺人』(1930)、『シタフォードの秘密』(1931)に続く「館物」でもあり、タイトルの邦訳は、ハヤカワ・ミステリ文庫・クリスティー文庫(共に田村隆一:訳、クリスティー文庫新訳版は真崎義博:訳)では「邪悪の家」ですが、創元推理文庫(厚木淳:訳)では「エンド・ハウスの怪事件」、新潮文庫(中村妙子:訳)では「エンド・ハウス殺人事件」などとなっています。

First Edition Cover 1932(Collins Crime Club (London))

 クリスティの脂が乗り切った時の作品でありながら意外と評価が高くないのは、クリスティ自身が、「私の小説の中ではまるで印象が残っていないし、書いた記憶さえ思い出せない」と発言していることもありますが、ポワロが事件の謎に翻弄され続ける状況が続き、いつもの精彩を欠いているように見えるから、というのもあるのでしょう。ポワロのファンにはいただけない作品かも。

 確かに屋敷に出入りする関係者には一様に怪しい点があり、いつも通り容疑者の数には事欠かないのですが、その中に犯人がいるはずだと推理するポワロに対し、ある程度のミステリ通は、ポワロより先に犯人が判ってしまうのかも。但し、自分が初読の際は全く真犯人が判らず、その分、ドンデン返しも含んだ最後の謎解きはストレートに楽しめました。

PERIL AT END HOUSE f.jpg 犯人がポワロの謎解きをミスリードさせる張本人である作品ですが、ポワロに対する読者の、彼がどんな状況においても超人的な名探偵であるという思い込みがある種トラップになっている作品とも言え、そう言えばこの作品はポワロとヘイスティングスとの謎解きを巡る会話が多く、振り返ってみれば、2人して読者をミスリードする役割を果たしていた感じもします。

PERIL AT END HOUSE Fontana1975 (Cover illus.Tom Adams)

 2011年にクリスティー文庫が田村隆一(1923-1998)の旧訳を改版して真崎義博氏による新訳版を刊行しましたが、現代風で、それでいてジュニア版みたいな翻訳にはなっておらず、これはこれで良かったのでないでしょうか。

 田村隆一訳との違いの一つとして、ポワロがヘイスティングスと話す際に、例えば田村訳では「わが友(モナミ)、あなたのは受け売りですよ」となっているのが、真崎訳では「君の言っていることは受け売りだよ」というように、ポワロとヘイスティングスの距離感が近くなっているように思いました(特にこの作品は2人の会話が多いため、それを強く感じた)。

熊倉一雄 ポワロ.jpgエンドハウスの怪事件 0.jpg デヴィッド・スーシェ(David Suchet)の主演TⅤ版(London Weekend Television)「名探偵ポワロ」でも、吹替えの熊倉一雄(1917-2015)の独特の声の抑揚のもと、ポワロはヘイスティングスに対しても「です・ます調」で語りかけ、それが固定的イメージになっていますが、考えてみれば、ポワロがヘイスティングスに対して「です・ます調」で話すのは、あくまでも翻訳者の選択であると言えるのでないかと思います。

エンドハウスの怪事件00.jpg そのデヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」ですが、英国LWT(London Weekend Television)が主体となって制作、1989年1月放映分から2014年1月放映予定分まで70作品作られており、この『邪悪の家』は、第2シーズン第1話(通算第11話)「エンドハウスの怪事件」として、1990年1月にシリーズ初の拡大版(ロング・バージョン)で放映されました。日本でも1990年8月11日、NHKがこのシリーズの放映を始めた年に放映されており、このシリーズで最初に観たポワロ物がコレという人も多いのではないかと思われます。

エンドハウスの怪事件03.jpg ほぼ原作に忠実に作られていますが、田舎に来て、誰も自分が有名な探偵であることを知らないことに不満なポワロのご機嫌斜めぶりが強調されているのが可笑しいです。それと、原作には出てこないミス・レモンが登場し、謎解きのヒントはヘイスティングスと彼女の言葉遊び的な遣り取りから生まれることになっています。更に、ラストのポワロが仕組んだ降霊会で、無理やり霊能力者の役割を演じさせられるのは、原作ではヘイスティングスのところが、この映像化作品ではミス・レモンになっています。

 海岸沿いの丘の上にあるホテルが美しく、推理と併せてリゾートの雰囲気が楽しめるのがいいです(ポワロがホテルのレストランで注文した2つのゆで卵の大きさが違うから食べられないと駄々をこねるところは、まるで「名探偵モンク」みたい。こういう完璧主義が探偵に共通する気質なのか)。

Poirot Polly Walker1.jpgPoirot Polly Walker2.jpg「名探偵ポワロ(第11話)/エンドハウスの怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT II:PERIL AT END HOUSE●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/07●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ポリー・ウォーカー(ニック・バックリー) /ジョン・ハーディング/ジェレミー・ヤング/メアリー・カニンガム/ポール・ジェフリー/アリソン・スターリング/クリストファー・ベインズ/キャロル・マクレディ/エリザベス・ダウンズ●日本放映:1990/08/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)

名探偵ポワロ.jpg2名探偵ポワロ.jpg「名探偵ポアロ」 Agatha Christie: Poirot (英国グラナダ(ITV)1989~) ○日本での放映チャネル:NHK→NHK-BS2→NHK-BSプレミアム(1990~)/ミステリチャンネル→AXNミステリー

【1959年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)]/1975年文庫化[創元推理文庫(厚木淳:訳『エンド・ハウスの怪事件』)/1984年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/1988年再文庫化[新潮文庫エンド・ハウスの怪事件 カバー.JPG(中村妙子:訳『エンド・ハウス殺人事件』)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳)]/2011年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(真崎義博:訳)]】

『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['75年]初版本

デヴォンシャーの自宅のクリスタル夫妻

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"改変の妙を愉しむ"という範疇を超えている。前監督の方が改変のツボをわきまえていた。

フレンチ・ミステリー/エッジウェア卿の死dvd.jpgエッジウェア卿01.jpg エッジウェア卿02.bmp
輸入盤DVD

 モリエールの喜劇「ドン・ジュアン」公演を控えた劇場で、若い女性が惨殺される。犯人からの挑発を受け、劇場を訪れたラロジエール警視とランピオン刑事。時を同じくして、ラロジエールの娘ジュリエットが母親の家から家出してくる。若手俳優に熱を上げる娘に気を揉みながら捜査を開始する警視だったが、まもなくそのジュリエットが行方不明に。娘の身を案じる警視。やがて佳境に入ったリハーサルの舞台裏で連続殺人の幕が開く―。(AXNミステリー「クリスティのフレンチ・ミステリー」第9話「エッジウェア卿の死」ストーリーより)

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死3.jpg ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2012年の作品で、「AXNミステリー」で放映された際は第9話でしたが、もともと「フランス2」での放映では「第11話」となっています。このシリーズは2013年4月に第13話が放映されていますが、アントワーヌ・デュレリ(ロジエール)、マリウス・ コルッチ(ランピオン)コンビとしてはこの「第11話/エッジウェア卿の死」が最終出演作品でした(日本での放映は本国放映(9/14)の翌日(9/15)であり、この日はクリスティの誕生日だった)。

エッジウェア卿の死 ハヤカワミステリ文庫.jpg 原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1933年に発表した名探偵ポワロシリーズの長編第7作で(原題:Lord Edgware Dies)、結構プロットは複雑な方ではないかと思いまが、どう料理するのかと思ったら、最初からいきなり原作には無い絞殺魔(劇場の管理人)が出てきて連続殺人を犯し、次は、事件の捜査に当たるラロジエール警視にくっついてきた娘のジュリエットを狙うという展開で、なんじゃこりゃという感じ。

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死1.jpg 往年の大女優が夫と離婚したがっているのは原作と同じですが、この夫は原作にあるエッジウェア「男爵」ではなく、かつては名優で今はアル中の「役者」という設定になっていて、大女優は彼と別れて伯爵(原作では「公爵」)と結婚したいと思っているけれど、今はとりあえず夫と「ドン・ジュアン」の舞台稽古をしている―ところが夫はいつもへべれけで稽古はままならず、これには大女優も舞台監督(オカマっぽい)も切れてしまう。一方、ラロジエール警視は昔から憧れていた大女優に会うことが出来て感激し、彼女を崇拝するあまり、捜査の方はやや片手間気味で、しかも、そこへ娘が行方不明になるという事態が発生し、なおさらそれどころではないといった状況に。そんな中、大女優の夫が殺害されますが、大女優の要請で代役でなんとラロジエールがドン・ジュアンを演じることに。更に、大女優の付き人の元女優(原作では有名女優の形態模写を得意とする新進女優)が殺害されます。一方、絞殺魔の劇場の管理人を追って娘の行方を突き止めたラロジエールが、娘共々管理人に殺さそうになったところへランピオン刑事が駆けつけ、あわやのところでの逆転劇。これで絞殺魔が犯した倒叙型の事件は決着。絞殺魔の最期の言葉から、大女優の夫と付き人を殺害した犯人は別にいると察したラロジエールは、犯人と思しき人物にある罠をかける―。

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死4.jpg 大女優の夫を殺害したのが大女優自身であり、アリバイ作りに自分にそっくりの真似ができる女性をパーティに出席させていたというのは原作と同じ。更に、パーティの席上で古代エジプト文明についての知識を披瀝したのが大女優の偽者であったことを確認するために、ラロジエールが大女優にエジプト風の置物をプレゼントしたというのも、原作のモチーフを一応は踏襲しています(原作では、別々のパーティに出席した同一女性であるはずの人物の教養の格差に気付き不審に思った俳優がポワロに相談をしようと電話するが、その前に殺害されてしまう。大女優よりも「新進女優」の方が教養があったということだが、ここでは大女優よりも「付き人」の方が教養があったということになっている)。

 この映像化作品だけ単独で観れば結構楽しめるかと思われ、今述べたように、原作の最も肝心なポイントは一応踏襲するなり織り込むなりしていることもあって自分も実際それなりに楽しみました。但し、あまりにも前半の"原作には全く出てこない"絞殺魔"の話のウェイトが大き過ぎて、"改変の妙を愉しむ"という範疇を超えているという印象。「どうせ別物」と割り切って観ればいいのかもしれませんが、個人的にはやはり、ここまではやり過ぎのように思いました(監督はいつものエリック・ウォレットではなく、初顔のルノー・ベルトラン。前監督の方が改変のツボをわきまえていた)。

クリスティのフレンチ・ミステリー エッジウエア卿の死5.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第11話)/エッジウェア卿の死」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ LE COUTEAU SUR LA NUQUE(Lord Edgware Dies)●制作年:2012年●制作国:フランス●本国上映:2012/9/14●監督:ルノー・ベルトラン●脚本:Thierry Debroux●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/A Maruschka Detmers/Jean-Marie Winling/Alice Isaaz/Guillaume Briat/Julien Alluguette/Frédéric Longbois●日本放映:2012/09/15●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)

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意外と原作の持ち味を活かしたソフトな改変だった。分かりやすい。

第7話)/五匹の子豚 dvd.jpg 五匹の子豚01.jpg 五匹の子豚00.jpg 新・刑事コロンボDVDコレクション 05.jpg

五匹の子豚02.jpg ある日、ランピオン刑事(マリウス・コルッチ)が歩いていると怪しげな男が近づいてきて、男はルブランという浮気調査の探偵だった。君は出世の道をラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)に邪魔されているとランピオンに話すルブランは、ランピオンを探偵社にスカウト、常日頃のラロジエールの横暴に耐えかねていたランピオンは、警察を辞め、探偵社に転職する。その探偵社に一人の女性マリー(プリュンヌ・ブシャ)が訪ねてきて、死んだと聞かされていた母親が夫殺しの罪で獄中にあることを最近知り、画家である父親は心臓発作で亡くなったと聞かされていたのだが、その15年前の出来事の真相を知りたいと調査依頼する。元上司のラロジエールを見返すべく、ランピオンは調査に奔走、事件は、女性の母親が、愛人を同じ屋敷内に住まわせた夫に対して嫉妬し、毒入りのビールを飲ませたというものだったが、マリーは母親の無実を信じていた―。

五匹の子豚 文庫2.jpg フランス2で2009年から放映されている「クリスティのフレンチ・ミステリー」シリーズの、2011年放映の通算第7話で、原作は1943年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Murder in Retrospect)で、実質的に同じ頃に書かれ、作者の遺言により没後に発表された『スリーピング・マーダー』と同じ、所謂"回想の殺人"物です。

五匹の子豚10.jpg 原作では、16年前に画家である夫を殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母の無実を訴える遺書を読んだ若き娘が、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる―というものですが、この映像化作品では母親は獄中にて存命しています。

五匹の子豚04.jpg 加えて、本編冒頭からラロジエール警視の横暴に不満の募るランピオン刑事の探偵社への転職話があったりして、原作が非常に完成度の高い構成を備えた傑作であるため、あんまり極端な改変をしないで欲しいなあと思って観ていましたが、まあ、上司・部下の関係の展開はサブストーリーであって、観終わってみれば、本筋の部分では原作をそう外れておらず、むしろ、母親がなぜ自身の無実を娘に伝えながらも公には冤罪を主張することをしなかったのか、或いは、なぜ犯人は被害者に対して殺意を抱いたのか、などといったことが状況と併せてスンナリ分かるものとなっています。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑦五匹の子豚 04.jpg 原作では、事件当時の5人の関係者それぞれにポワロが会って、過去の事件の状況を訊いて回り、まるで童謡にある「五匹の子豚」のような行動をとった5人に"レポート"まで出させるわけですが、さすがに"レポート"提出まではないものの、最後に関係者を集めて謎解きをしてみせるのは原作と同じ。しかもそこへ、存命だった(であることにしてしまった)母親が疑い晴れて釈放されて現れるというハッピーエンドで、冒頭で母親が絞首刑になる場面を入れた改変を行っているデヴィッド・スーシェ版(第50話、2003年)の暗さの対極にある、このシリーズならではの明るさです。カタルシス効果もあって良かったのではないかと思います。

五匹の子豚09.jpg 原作では、母親が被害者の殺害現場にあったビール瓶の指五匹の子豚06.jpg紋を拭ったのを見たと言う元家庭教師の後からの証言から、それこそ彼女が犯人ではないことを証明するものだというポワロの洞察が導かれるわけですが、この映像化作品では、当時5歳くらいだった娘に、二十歳過ぎの今になって、母親のそうした所為を見た記憶が甦ってくるというふうに改変されていて、これは改変する必要があったのかなとも。

 妻と愛人が同居する生活に自らも翻弄されながらも、愛人をモデルに絵を描くことに没頭し、現実の問題を解決しようともしなければ、女性心理を見抜くことも出来なかった被害者の画家は、いかにも芸術家らしいエゴを体現していていました。

殺意のキャンパス011.jpg殺意のキャンパス TITLE.jpg そう言えば、「刑事コロンボ」の中にも、「殺意のキャンバス」(Murder, a Self Portrait、第50話、1989年)という、3人の女性(妻・前妻・愛人)と海辺のコテージで暮らす天才画家の話がありました。こうした状況設定のモデルはパブロ・ピカソ(1881-1973)だそうです。

Murder, a Self Portrait.jpg殺意のキャンパス022.png 「殺意のキャンパス」の方は、前妻は隣りのコテージに住んでいますが、今の妻と絵のモデルの愛人は自分のコテージに同居させていて、何れにせよ、妻妾同居はトラブルの元―といったところでしょうか。

 この画家マックス・バーシーニ(パトリック・ボーショー)は、実は過去に画商を殺害しており、前妻もその秘密を知っていて、精神分析治療の際に過去の出来事に関連する事柄を口走りはじめるようになった前妻を、画家が身の危険を感じて殺害するというもので、殺害のトリックは、酒場の店主ヴィト(ヴィト・スコッティ)に頼まれた絵を、昔その酒場の2階で自分がアトリエとして使っていた部屋に籠殺意のキャンパス01.jpgって描いていたとうことをアリバイに、実は既に出来上がっていいる絵を持ち込んで、その間にアトリエを抜け出して海辺で日光用中の前妻を殺害するというもの。3人の女性との暮らしがギクシャクして、前妻を殺したら多少は落ち着くかと思ったら、現在の妻も愛人も画家の自己チューぶりに愛想をつかして出て行ってしまうという展開も皮肉がよく効いていて、80年代終わりに始まった新・シリーズの中では、比較的よく出来ている方ではないでしょうか。

殺意のキャンパス021.jpg殺意のキャンパス ヴィと1.jpg このシリーズのコメディっぽいシーンに欠かせない俳優ヴィト・スコッティは、新旧シリーズ通して6話に登場していて、これが最後となりました。この作品以前は、第19話「別れのワイン」のレストラン支配人、第20話「野望の果て」のテーラーの主人、第24話「白鳥の歌」の葬儀屋、第27話「逆転の構図」の浮浪者、第34話「仮面の男」のぶどう輸入会社社長の役で出演しています。 
  
  
五匹の子豚05.jpg五匹の子豚08.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第7話)/五匹の子豚」」●原第7話)/五匹の子豚 dvd.jpg題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/CINQ PETITS COCHONS(Five Little Pigs)●制作年:2010年●制作国:フランス●本国上映:2011/4/8●監督:エリック・ウ ォレット●脚本:Sylvie Simon●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Julia Vaidis-Bogard /Vincent Winterhalter/Michel Muller/Prune Beuchat /Eglantine Rembauville/Gabrielle Atger/Marine Mendes/Lily-Rose Miot ●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

新・刑事コロンボDVDコレクション 05.jpg殺意のキャンパス00.jpg「刑事コロンボ(第50話)/殺意のキャンバス」●原題:MURDER, A SELF PORTRAIT●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・フローリー●製作:スタンリー・カリス●脚本:ロバート・シャーマン●音楽:パトリック・ウィリアムズ●時間:90分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・フォックスワース/パトリック・ボーショー/フィオヌラ・フラナガン/シーラ・ダニーズ/イザベル・ロルカ/ヴィト・スコッティ/ジョージ・コー/デヴィッド・バード●日本初放送:1994 /11●放送:NTV:★★★☆) 
隔週刊 新・刑事コロンボDVDコレクション 2013年 8/6号 [分冊百科]

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最初はビックリ。でも意外とプロットの根幹部分は変えず、"味付け"にこだわっている感じ。

フレンチ・ミステリー(第11話)/書斎の死体 dvd.jpg クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体05.jpg 書斎の死体2.jpg

 泥酔したラロジエール警視が目覚めると、ベッドに若い女性の死体が横たわっていた。全く身に覚えのないラロジエールだったが、第一容疑者として警察に身柄を拘束されてしまう。やがて、女性は娼婦と判明する―。

書斎の死体 ハヤカワ文庫.jpg ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」で、2011年10月に本国で放映されたもの。原作はアガサ・クリスティが1942年に発表したものです。シリーズ9話目ともなると、思い切り遊んでいる感じもします(「AXNミステリー」で放映された際は〈第11話〉としての放映だったが、元々のフランス2での放映時は〈第9話〉として放映された)。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体01.jpg そもそも原作では、「退役大佐の家の書斎」で若い女の死体が見つかることになっているのが、何と、このシリーズの探偵役であるラロジエール警視の「自宅」で女の死体が見つかってしまうわけで、冒頭からビックリ。これ、爆笑パロディ版なのかと。

書斎の死体4.jpg 原作では、被害者の女性がホテル付きのダンサーであったことから、ホテルを舞台に謎解きが進むわけですが、こちらは「ホテル」ではなく「売春宿」になっていて、しかも、ラロジエール警視の馴染みの店であるというのが笑えます。拘禁の身にあったラロジエールは、移送中に脱走し、売春宿に逃げ込んでそのままそこを根城にしてしまう―。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体04.jpg 事件の源となる大金持ちの老人も、高級ホテル住まいの客ではなく、売春宿の女に惚れてそこに滞在し続けているという設定で、原作はこのホテル住まいの大富豪を中心に関係者の姻戚関係がかなり複雑なのですが、そこは放蕩癖のある「娘婿」を「実の息子」に置き換えたり、「息子の嫁」も方は出てこなかったりして、やや端折っています。
 でも、原作は容疑者が豊富で、富豪の娘婿・息子の嫁の他に、いつも自宅で騒がしいパーティを開いている映画関係の男、ホテル・ダンサー兼テニスのコーチのハンサム男、被害者の女が消える前に一緒にいた男などがいましたが、大体それらに該当する人物は一応は揃えてみせています。

書斎の死体5.jpg 前半は第一容疑者としてラロジエール警視に容疑がかかっているため、その無実を晴らせるかどうかは、ランピオン君にかかっているという感じすが、ラロジエール警視の指示で、ホモセクシャルの彼が嫌々ながら売春宿に行った揚句、宿の経営を手伝っているハンサム男とホモ達になってしまうのは、このシリーズならでは(何と、ホモ達同士ベットで知恵を出し合う。そして、ランピオンがその彼を犯人ではないかと疑ってしまったことで二人の仲は決裂、そのことをランピオンは後々まで悔いる―という、この部分だけでBL的なストーリーが1つ仕上がっている)。

 結局、この話は、言ってしまえばアリバイ作りのための「死体入れ替え」トリックであって、結構"本格"推理っぽい複雑さを秘めたプロットであるわけですが、ラロジエール警視の最後の謎解きは、それを分かりやすく説明しているため、原作のプロットを忘れてしまった人は、この作品を見て十分思い出せると思います(但し、犯人像は一部改変されてしまっている。おそらく、原作を知っている人向けに捻ったのだろうが)。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体02.jpg 個人的には原作を大きく捻じ曲げているものはあまり好きではないのですが、このシリーズは最初から「改変の妙」を楽しむものであってあまり気にならず、この作品などは、冒頭どうなることかと思ったけれど、結局は、意外とプロットの根幹部分は変えずに、どう"味付け"するかにこだわっているなという感じ。

 時代設定はクリスティの原作に近いところまで遡るようですが、雰囲気はイギリスとフランスで全然違うなあ、「ホテル」を「売春宿」に置き換えてしまったというのが、その大きな要因としてあるかと思いますが、売春宿の退廃的レトロ感と言うか気だるい雰囲気などはよく出ていたように思います。コアなクリスティの原作ファンには、冒頭でもうすぐに拒絶反応を起こしそうな出だしだったけれど、観終わってみれば個人的にはまあまあ面白かったです。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑪書斎の死体03.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー(第9話)/書斎の死体」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ UN CADAVRE SUR L'OREILLER(BODY IN THE LIBRARY)●制作年:2011年●制作国:フランス●本国上映:2011/10/28●監督:エリック・ウォレット●脚本:Sylvie Simon ●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Valérie Sibilia/Juliet Lemonnier/Nicolas Abraham/Charles Templon/Vernon Dobtchef●日本放映:2012/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

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初めは改変過剰の気がしたけれど、終わってみればまあまあマトモな翻案になっていた。

フレンチ・ミステリー/スリーピング・マーダー dvd.png フレンチ・ミステリー/スリーピング・マーダー01.jpg フレンチ・ミステリー/スリーピング・マーダー02.jpg
DVD(輸入盤)
フレンチ・ミステリー(第10話)/スリーピング・マーダー.jpg 20歳のサーシャは閉じ込められていた精神病院から脱出し、密かに所持していた大金で空き家となっていた邸宅を購入して身を潜めるが、その最初の晩から、邸の階段下に血まみれになった女性の姿が見えるという恐ろしい幻想に苛まれる―。

スリーピング・マーダー クリスティー文庫.jpg ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2012年の新作で、このシリーズは改変の妙が楽しいのですが、原作で新婚ほやほやの若妻で、強い前向きの意志を持った女性だった主人公が、この作品では、精神不安定で離婚して精神病院に入れられていた女性に置き換わっていて、何だかキャラクター的には真逆の設定のような感じも。

フレンチ・ミステリー⑩スリーピング・マーダー03.jpg 冒頭、若い女性(サーシャ)が電気ショック療法を受けているという、原作には全く無いシーンから始まるので、何だ、こりゃ、という感じも。一方、ラロジエール警視とランピオン刑事は、冒頭から女性精神分析学者の講義を受けていて、ラロジエール警視はこの女性が気になるようで、と思ったら女性の方から逆アプローチを受けて、どっぷり情事にハマるという―。

フレンチ・ミステリー⑩スリーピング・マーダー02.jpg おい、おい、こんな女性、原作には出てこないよと思いつつ、更に原作には無い殺人事件が早々に起き、サーシャが第一容疑者に。そんなサーシャを救おうと、ホモセクシャルが定着していたはずのランピオン刑事が「女性で愛せるのは君だけだ」と奮闘、女性精神分析学者との交際でインポテンスになってしまったため生きがい喪失気味のラロジエール警視と、上司-部下関係を逆転させたロールプレイを演じつつ、現在と過去の両事件の解決にあたるという―あ~あ、何だかドタバタ喜劇みたい。

 この辺りにくると、もうかなり自由に作っているという感じで、容疑者や真犯人も原作とは別物になってしまうんじゃないかと思ったら、ちゃんと原作通り、職業・性別は違えど(弁護士が公証人になっていたりした)3人の容疑者が浮かび上がるようになっていました。

 女性精神分析学者が出てきたのは一体何だったのかと思ったら、最後、精神分析学的観点から、ラロジエール警視とランピオン刑事に真犯人に行きつく手掛かりとなるヒントを提供する役割を担うことになった(要するに、事件解決のキーパーソンとなった)ということで、初めは無茶苦茶な感じがしたけれど、最後は原作との相似形で、ばらばらだったピースがしっかりハマった印象があります。

フレンチ・ミステリー⑩スリーピング・マーダー01.jpg ということで、振り却ってみれば、まあまあ真っ当な翻案になっていたと言えるかも。ユーモアナ乃至エスプリと(かなり"お遊び"しているが)、どろっとした気味悪さが混在した、このシリーズらしい作品でした。

「クリスティのフレンチ・ミステリー(第10話)/スリーピング・マーダー」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ UN MEURTRE EN SOMMEIL●制作年:2012年●制作国:フランス●本国上映:2012/2/17●監督:エリック・ウォレット●脚本:Anne Giafferi/Muriel Magellan●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Jennifer Decker/Sophie Le Tellier/Patrick Descamps●日本放映:2012/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

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ランピオン刑事の女装が効き過ぎて、ドタバタ・コメディに。

クリスティのフレンチ・ミステリー/杉の柩.jpg DVD(輸入盤) クリスティのフレンチ・ミステリー⑥杉の柩03.jpg

クリスティのフレンチ・ミステリー/杉の柩02.jpg フランスの大富豪の館で起きた2つの殺人事件の判決が下ろうとしていた。容疑をかけられているクレール・ヴィゾル(レナ・ブレバン)という女性は、館の主である実母エリザベット(フレデリク・ティルモン)と下男の娘である母の付き添い人だったクレマンス(ルー・ドゥ・ラージュ)殺害したとされ、彼女には死刑が宣告される。殺害された二人には、3ヵ月前に「財産が狙われている」との脅迫状が届いており、エリザベットの秘書でクレールの無罪を信じるルイ・セルヴェ(ヤニック・ショワラ)は、古くからの友人でもあるランピオンに助けを求めていた―。

 ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2010年の作品で、2009年に本国フランスで放送された「ABC殺人事件」「無実はさいなむ」「動く指」「エンドハウスの怪事件」の好評を受けて制作された通算第5話から第8話の内の第6話です(他は、第5話「鳩のなかの猫」、第7話「五匹の子豚」、第8話「満潮に乗って」)。

杉の柩 ミステリ文庫.jpg 原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1940年に発表した名探偵ポワロシリーズの一作で(原題:Sad Cypress)、すごく面白いというわけでもないですが、登場人物の心理描写がキメ細やかな作品。特に、婚約者の前に現れた美しい付添人に婚約者を奪われたことから、嫉妬心から自分が本当に彼女を殺したのではないかと思い込んでしまう主人公の心理がよく描けています。

クリスティのフレンチ・ミステリー(第6話)/杉の柩03.jpg こちらの"フレンチ版"も倒叙スタイルで彼女の裁判から始まる点は原作と同じであり、彼女の無実を信じるランピオン刑事の友人の男性秘書(原作では家付きの医師)に頼まれて、ラロジエール警視とランピオン刑事が調査をしたが、結局、彼女の無実を証明できなかった―彼女は処刑の日を待つしかないのか、といった状況から、事件発生当時に時を遡って話が展開していきます。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑥杉の柩02.jpg  クレールの実母は女権推進者で(という話は原作には全く無いのだが)、邸に女権活動家を招いて庭で講演会を開こうとしているという設定になっていて、そこへラロジエール警視の命により、ランピオン刑事が女性活動家に化けて乗り込む(しかも、そこで本物に成り代わってj女権拡張講演をしなければならない)というスゴイ無茶な話で、ラロジエール警視は妻の尻に敷かれているその夫という役回りなのに、邸に早めに来たある女性の後を追いまわすという、いつもながらの猟色漢ぶりを発揮します。

クリスティのフレンチ・ミステリー⑥杉の柩 01.jpg 原作がストーリー的にそう複雑ではないためか、女装がばれそうになって慌てるランピオン刑事など、ドタバタのユーモアにウェイトが置かれてしまった感じで、第二の殺人が起きて(原作の毒殺ではなく刺殺になっている)、いきなり仕掛人のラロジエール警視自身に皆の前でその正体を明かされてしまったのはやや気の毒でした(ラロジエール警視が追い回していた件の女性が、「あなたより奥さんの方が好み」と言っていたのはどこまで本気か。女装したランピオン刑事は実は同性愛者であるだけに複雑?)。

 でも、クレールの死刑執行が翌日に迫った土壇場になって、ある新聞記事から事件解決への糸口を見出したのはランピオン刑事で、友人である男性秘書への義理も果たす―しかし、裁判所が捜査に協力して犯人逮捕に向けて一芝居打つなんてことは、ちょっと現実には考えられないのでは。

クリスティのフレンチ・ミステリー(第6話)/杉の柩04.jpg ラスト近くでのクレールと彼女を思い続けてきた男性秘書との会話は切ないのですが、原作ではポワロが「彼女にはあなたが必要だ」と男性を後押しする優しさを珍クリスティのフレンチ・ミステリ杉の柩.jpgしく見せるのに、このラロジエール警視の方はそうした役回りが苦手なのかこうした場面には出てこず(むしろここまでランピオン刑事が男性を後押ししている)、最後は二人が別れの言葉を交わす感じになっていて、えーっという印象も。

 全体としては、やはりランピオン刑事の女装が効き過ぎて、ドタバタ・コメディ風になっているけれど、こうした展開もフランス風の味付けということなのでしょうか。個人的には今一つノリ切れなかったという感じでした。

「クリスティのフレンチ・ミステリー(第6話)/杉の柩」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ JE NE SUIS PAS COUPABLE(I'm not Guilty)●制作年:2010年●制作国:フランス●本国上映:2010/9/15●監督:エリック・ウォレット●脚本:Thierry Debroux●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Jennifer Decker/Sophie Le Tellier/Patrick Descamps●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)

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意外と原作に忠実。観終わった後で、犯人の死は自殺か他殺か、解釈議論に花が咲きそう。
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鏡は横にひび割れて 10.jpg鏡は横にひび割れて02.jpg ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は友人のドリー・バントリー(ジョアンナ・ラムレイ/左)と一緒に女優マリア・グレッグ(リンゼイ・ダンカン/右)の主演映画「マリー・アントワネット」を鑑賞し、王妃が息子を奪われる場面に涙する。そのマリア・グレッグは、ゴシントン・ホールをドリーから買い取って村の住人になったばかりで、二人は邸に招かれるが、帰り道ミス・マープルは暴走する車鏡は横にひび割れて05.jpgに煽られて転んで足首を捻挫し、傍にいたヘザー・バドコック(キャロリーネ・クエンティン)に介抱してもらうことになる。よって、後日、マリア・グレッグが映画監督で彼女の5番目の夫ジェィソン・ラッド(ナイジェル・ハーマンと共にゴシントン・ホールで開いたお披露目の慈善パーティには、邸の前所有者であるドリーだけが出席するが、パーティ大いに賑わい、グレッグの4番目鏡は横にひび割れて03.jpgの夫で芸能ゴシップ記者のヴィンセント・ホグ(マーティン・ジャーヴィスが愛人で女優のローラ・ブルースター(ハンナ・ワディンガムまで連れてやってくる(彼女はジェイソンの元愛人)。その時、グレッグの昔からの熱狂的ファンで、戦時中に病気をおして彼女に会いに行ったことがあるヘザー・バドコックが、その話をグレッグに一方的に話したあと、何者かが抗うつ剤のカーモで規定の6倍の量入れたダイキリを飲んで死んでしまう。ドリーは、ヘザー・バドコックがグレッグに一方的にお喋りしていた時、グレッグの表情は、テニスンの詩にあるシャロット姫のような"鏡が横にひびわれた"表情をしていたとミス・マープルに話す。鏡は横にひび割れて04.jpgヒューイット警部(ヒュー・ボネヴィルと若いティドラー巡査部長(サミュエル・バーネットが事件捜査にあたるが、ティドラーもグレッグのファン。一方、ヒューイット警部は、警視総監からミス・マープルに話を聞くことを勧められていた。
鏡は横にひび割れて04.jpg マープルの捻挫を治療した医師ヘイドック(ニール・ステューク)の話では、ヘザーがダイキリのグラスをこぼしてグレッグの服を濡らし、グレッグは自分のグラスをヘザーに渡したという。そうすると、これはグレッグの命を狙った犯行だったのか。パーティ会場では、写真家のマーゴット・ベンス(シャーロット・ライリーが写真を撮っていたが、ドリーとそのスタジオを訪ねたマープルは、グレッグのこわばった表情が写った問題の写真を見つけるとともに、彼女が、グレッグが3番目の夫との間でも子どもができないでいた時に養子になったものの、直後にグレッグが妊娠するや相手にされなくなったという過去があることを知る。そのグレッグが生んだ息子には重度の障害があり、彼女は以来、情緒不安定を繰り返しているのだった―。

鏡は横にひび割れてクリスティー文庫.jpg 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第4話(通算第20話)で(本国放映は米国2010年、英国2011年、)。原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1962年、72歳で発表した作品で(原題"The Mirror Crack'd from Side to Side")、個人的にはミス・マープルのシリーズの中でも傑作だと思います。先行するBBCのジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズでは最後に作られていますが(1992年、第12話)、こちらのジュリア・マッケンジー主演のものも、当シリーズでは今のところ('13年現在)最近作に位置しています。

 ジョーン・ヒクソン版はかなり原作に忠実に作られていますが、ジュリア・マッケンジー版は改変の多いものも目立ち、どうなるのかなあと思っていたら、いきなりミス・マープルが足を挫いてパーティに出てこない! このまま、安楽椅子探偵のスタイルでいくのかと思いきや、後の流れは意外と原作に忠実であり、原作が傑作であるだけにほっとした感じも(このシリーズ、非マープルものの原作にマープルが出てくると改変が激しく、元がマープルものであればそうでもないという傾向か)。

Joanna Lumley and Julia McKenzie.jpg ゴシントン・ホールはシリーズ第1話「書斎の死体」(2004年)の舞台でもありますが、ドリー・バントリーを同じくジョアンナ・ラムレイが演じていて、マープルの方はジェラルディン・マクイーワンからジュリア・マッケンジーに交代しているのに、この人は変わらないなあ。元ボンドガールだけあって、マリア・グレッグ役のリンゼイ・ダンカンよりむしろ派手かも。

Joanna Lumley and Julia McKenzie

 ジェイソン・ラッドの元愛人が今は妻グレッグの4番クリスタル殺人事件45.jpg目の夫の愛人で、元恋人がグレッグの秘書で(今も恋人)、映画監督ってそんなにモテるのかなあ。ハリウッド女優をイギリスに連れてきて「クレオパトラ」を撮ることもないだろう、同原作の映画版「クリスタル殺人事件」('80年)のエリザベス・テイラーに懸けたのか?

 このシリーズ、毎回刑事が変わるけれど、この回の、片手に手袋を嵌めた「ヒューイット警部」もなかなかよかったね。ミス・マープルに子供の頃に自分の母親が亡くなっ時の話を語ったり、女優のローラ・ブルースターに聞き込み中に彼女からセクシーポーズを見せつけられてたじたじとなったり、マリア・グレッグに夢中で捜査に身の入らないティドラー巡査部長に活を入れたりと、結構細かいところで見せ場がありました。

 細部はともかく、全体としては原作の持ち味を損ねていない佳作となっていますが、この作品の主人公とも言える犯人は、最後は自殺だったのか、それとも夫が全ての幕引きをしたのか―原作並びにジョーン・ヒクソン版では、夫による他殺の線が色濃いですが、この映像化作品では、夫が早くから全てを察していたという点では同じですが、グレッグが重度障害の息子を訪ねる場面などがあり、自殺とも他殺ともとれる終わり方をしています(どちらかと言うと自殺っぽい)。これはこれで、"余韻"と言うより"推理の余地"を残す終わり方であって、見方によっては犯人に寄り添っているとも言えます。観終わった後で、一体どっちだ、との解釈の議論に花が咲きそうで、こういうのもありかなあと。

鏡は横にひび割れて03.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/鏡は横にひび割れて」●原題:THE MIRROR CRACK'D FROM SIDE TO SIDE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年(本国放映[米国]2010年(5/23)/[英国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:トム・シャンクランド●脚本:ケヴィン・エリオット●撮影:シンダース・フォーショウ●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/ジョアンナ・ラムレイ/リンゼイ・ダンカン/ナイジェル・ハーマン/マーティン・ジャーヴィス/ハンナ・ワディンガム/ヴィクトリア・スマーフィット/ブレナン・ブラウン/シャーロット・ライリー/ロイス・ジョーンズ/キャロライン・クエンティン/ウィル・ヤング/ミッシェル・ドトリス/ニール・ステューク/ヒュー・ボネヴィル/サミュエル・バーネット●日本放送:2012/03/29●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★★)

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短編集『火曜クラブ』の一話を映像化。原作のことは考えないで、これだけで十分に楽しめる。

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青いゼラニウム axn08.jpg青いゼラニウム axn04.jpg  航空会社社長ジョージ・プリチャード(トビー・ステーヴンス)の妻メアリー(シャロン・スモール)は、占いに凝って青い花を恐れていたが、ある朝、メイドのキャロライン(クレア・ラッシュブルック)が食事を持っていくと部屋には鍵が掛かっており、ジョージが扉を突き破って中に入ると、彼女は口から血を吐いて死んでいた。事件は「青いゼラニウム事件」として報じられ、浮気をしていた夫ジョージが逮捕された。半年後に新聞で公判の予告記事を読んだミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、庭師ジョン(イアン・イースト)の蜂避け薬を混ぜる作業を見て、自分は事件現場に居合わせながら真犯人を突き止められなかったことを悟り、警察を引退したサー・ヘンリー・クリザリング(ドナルド・シンデン)に会って、ジョージは間違って死刑にされようとしていると説明する。
青いゼラニウム axn19.jpg マープルは6ヵ月前、友人のダーモット牧師(ディヴィッド・カルダー)に招かれ向かったリトル・アンブローズ村行きのバスで、エディー・セワード(クリザリング・ジェイソン・ダー)と乗り合わせたことから話す。彼はどもりがちで、アルコール依存症のようだった(後に断酒施設から来たことが判明する)。マープルは教会の寄付活動を手伝いに来たのだが、寄付の目当Claudie Blakley marple.jpgてのプリチャード家は兄弟、姉妹で結婚していた。ジョージは元婚約者フィリッパ(クラウディー・ブレイクリー)を振って、そこへ割り込んだ姉のメアリーと結婚していたが、メアリーがすぐに癇癪を起こすためうんざりしていた。フィリッパはジョージの弟で売れない作家ルイス(ポール・リス)と結婚し、競馬に金を注ぎ込み作品を完成させない夫のために生活苦に陥っていた。ダーモット牧師の姪で、プリチャード家の料理人ヘスター(ジョアンナ・ペイジ)とは、マープルは、彼女が幼い頃に会ったきりの再会だった。
 メアリーは公衆の面前で暴言を吐くなど皆の嫌われ者だったが、夫ジョージの地元ゴルフクラブの会長就任式でも、ダーモットの教会をこき下す。その式典でジョージのティーショットの行方を追った子供らが、エディの溺死体を発見する。メアリーは女占い師に「青い花は死の宣青いゼラニウム axn 医師.jpg告」と脅され発狂寸前で、壁紙のゼラニウムが赤から青になったと大騒ぎして皆をうんざりさせるが、彼画家青いゼラニウム axn.jpg女が亡くなったのはその翌朝だった。彼女は常に薬を飲んでいたが、医師ジョナサン・フレイン(パトリック・バラディ)は「本当は病気じゃない」とニセ薬(水)を与えていた。メアリーが恐慌をきたした夜、壁紙のゼラニウムは青く変色していたため、その壁紙を描いた画家で、ジョージの不倫の恋人ヘイゼル(キャロライン・キャッツ)が疑われる。ヘスターが、ジョージがメアリーの前看護婦スーザン・カーステアーズ(レベッカ・マニング)に、室内でゴルフを教えながらキスしていたと話すのを聞いたヘイゼルはショックを受ける。そのスーザンが絞殺死体で発見され、彼女は妊娠しており、首にはジョージのネクタイが巻かれていた―。

 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第3話(通算第19話)。原作は、1932年に刊行されたアガサ・クリスティ(1890‐1976)の短編集『火曜クラブ』全13話の中の一話(原題:The Blue Geranium)で、「火曜クラブ」とは、マープルの甥で作家のレイモンド・ウェストが彼女の家を借りて主催する、メンバーが過去に遭遇した難事件を披露して皆で謎解きをするという趣向もの。もともと全6話でしたが、単行本化するにあたって7話書き加えられ、「青いゼラニウム」は7話目(つまり、書き加えられた第1話)で、後の長編『書斎の死体』(1942)の舞台となるゴシントン・ホールの持主であるバントリー大佐が披露した話。事件の話そのものの中にはミス・マープルは登場しないわけであって、原作はミス・マープルものでありながら、「非マープルもの」であるとも言えますが、この映像化作品では、最初から事件の中にマープルが居て、但し、その大部分は、6ヵ月前の出来事として彼女の口から語られるという枠組み。因みに、そのマープルの話を聞く元警視総監のサー・ヘンリーもこの「火曜クラブ」のメンバーの一員でしたが、このクラブを通してミス・マープルの抜群の推理力に圧倒され、以降、彼女の有力な支持者となります(この映像化作品では、もう完全にマープル信奉者になり切っている?)。

青いゼラニウム axn09.jpg 元が短編であるだけに、かなり話を膨らませていますが、教会での牧師ダーモットのメアリー追悼シーンなどはかなりドタバタ。メアリーにこき下された経験を持つ牧師は、説教の中で「神もメアリーの人生は無駄なものだったと言われるでしょう」なんて言っちゃうし、それに反発するかの如く、フィリパは、メアリーは殺されたのだと(犯人はヘイゼルだと)言う―聖域どころじゃないね。教会でこんなことってあるのかなという気もしますが、犯人は誰かをミスリードさせる上では効を奏していて、以前に原作は読んでいるはずなのに、観ていて誰が真犯人なのか判らなくなってきてしまいました(共犯者もいたのだなあ。どちらかと言えば、こっちの方が主犯っぽいかも)。

青いゼラニウム axn02.jpg 牧師はミス・マープルに、実はフィリパが告発した時刻、ヘイゼルは自分にジョージとの恋愛について告解に来たのだがこのことは守秘義務上話せなかったのだと言いますが、牧師が、フィリッパがメアリーのために作ったスープをつまみ食いして体調がおかしくなった時点でも、フィリパにさほど疑念を抱いていなかったのか。サマーセット警部(ケヴィン・R・マクナリー)はジョージを犯人だと確信して彼を逮捕し、その時点ではミス・マープルも彼が犯人だと(或いは第一容疑者だと)思っていたことになるのかな。「私が間違ったことがありますか」とサー・ヘンリーに言うミス・マープルにしてみれば珍しいチョンボかも。サマーセット警部って、かつて酒で失敗して今地方で燻っているのに(その辺りは全てミス・マープルに見抜かれてしまっている?)、未だにアルコールが手放せない。人間臭いと言えば人間臭い警部だけれど、この事件の解決は彼の功績になるのか気になります。

青いゼラニウム axn05.jpg青いゼラニウム axn 12.jpg ジョージは、始まった公判でエディ、メアリー、スーザンの殺害を認めますが、半年後にして真相に気付いたミス・マープルは、ジョージが愛する女性を守るために罪を被っていると言って、それを聞き驚いたヘンリー卿の急遽の計らいで、開廷中の法廷に駆け込んで証人の立場で謎解きをし、まるで、E・S・ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズみたい。

 壁紙の花の色が変わったのは、本来メアリーの薬のアンモニア塩を予め張ってあったリトマス紙に吹き付けたためで、これは原作通りですが、謎解きには化学の基礎知識も必要なわけだなあ(犯人の方には当然その心得があるが、原作ではマープルも、これは初歩的知識だとしていた)。

ミス・マープル(第19話)/青いゼラニウム00.jpg 今回映像化作品を観て、ああ、そうだったのかと思ったのは、マープルがバスで乗り合わせた、ワーズワースの詩を唱えていたアルコール依存症のエディ・セワードが会いに来た相手は、ヘイゼルだったということ(最初はよく解らなかった)。ジョージとヘイゼルの繋がりは、不幸な結婚をした者同士ということか(フィリッパの結婚も不幸だったわけで、その源はジョージにあるのだが)。犯人はジョージに罪を着せるために、エディを殺したということか。そのジョージは、ヘイゼルが犯人だと思い込んで身代わりになって絞首刑に処せられようとしたわけか。但し、ヘイゼルの方も、ジョージの逮捕に対する抗弁のシーンが無いことからすると、ジョージが自分と結婚するために3人を殺したのではないかと疑ってしまったものと解されます(お互いの誤解。う~ん、原作、こんな複雑な話だった?)。

 細部で突っ込み所はありますが、元が短編だから膨らませるしかないわけであって、その膨らませ方の方向性としては悪くなかったように思います。婚約者から振られて不幸な結婚をした犯人には同情の余地あり? 結局、財産目当てで犯人と共謀した(犯人を脅した)奴が一番悪いということになるね。原作のことは考えないで、これだけで十分に楽しめる作品です。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第19話)/青いゼラニウム」●原題:THE BLUE GERANIUM, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年●制作国:イギリス・アメリカ●演出:デビッド・ムーア●脚本:スチュワート・ハーコート●撮影:ピーター・グリーンハーフ●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「青いゼラニウム」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/シャロン・スモール/トビー・スティーヴンス/ケヴィン・R・マクナリー/ジョアンナ・ペイジ/クローディー・ブレイクリー/クレア・ラッシュブルック/キャロライン・キャッツ/パトリック・バラディ/ ポール・リス/ドナルド・シンデン/デヴィッド・コールダー●日本放送:2012/03/26●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★★)

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原作(バトル警視もの)が面白いだけに、原型を留めない改変ぶりはどうしても楽しめなかった。

チムニーズ館の秘密 dvd.jpg 第18話「チムニーズ館の秘密」02.jpg チムニーズ館の秘密 09.jpg
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第18話「チムニーズ館の秘密」05.jpg 1932年、チムニーズ館階下で開催された舞踏会の曲に合わせて踊っていたメイドのアグネス(ローラ・オトゥール)は侵入者に気付いて止めようとして殴られ、鉄枠に頭を打って死ぬ。それから23年後の1955年、チムニーズ館所有者のクレモント・ケイタラム卿(エドワード・フォックス)は、政府高官ジョージ・ロマックス議員(アダム・ゴッドリィ)から、オーストリアの鉄鉱石の権利を有するルードウィッヒ伯爵の依頼により、チムニーズ館で取引交渉したいとの申し出を受シャーロット・ソルト1.jpgけていた。一方、ケイタラム卿の娘ヴァージニア・レヴェル(シャーロット・ソルト)は、男に誘拐されそうになったところを通りがかりのアンソニー・ケイド(ジョナス・アームストロング)に救われ、犯人はアンソニーを殴って逃走する。ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、従妹の娘に当たるヴァージニアの運転でチアンソニー・ヒギンズ.jpgムニーズ館へ。週末に館に集まって来た人々は、ケイタラム卿の上の娘バンドル(デルヴラ・キルワン)、オーストリアの伯爵ルードウィッヒ(アンソニー・ヒギンズ)、社会活動家ブランケンソープ(ルース・ジョーンズ)など。伯爵がチムニーズ買収の話を持ち出すとバンドルは「売り物じゃない」と反発するが、ケイタラム卿は売買契約を受け入れる。同日の真夜中、護衛が誰かに殴られ、客らは警報で起こされるが、館の秘密の通路から銃声が聞こえ、そこでは伯爵がアンソニー・ケイドの腕の青いゼラニウム.jpg中で死んでいた。アンソニーは容疑者として部屋に監禁され、スコットランド・ヤードから主任警視フィンチ(スティーブン・ディラン)が来て調査を進める。全員から話を聞いた後、フィンチはミス・マープルと秘密の通路を現場検証し、伯爵のポケットから暗号文(楽譜)を発見する。アンソニーはチムニーズ館に夜忍んで来るようにという手紙を受け取っており、夜警を殴り倒して秘密の地下通路に入ったが、23時30分頃に館の煙突から煙が出ているのを目撃したという。バンドルとマープルは楽譜の謎を解こうとする。
第18話「チムニーズ館の秘密」06.jpg フィンチとマープルが召使トレッドウェル(ミシェル・コリンズ)に話を聞くと、1923年の夜会の晩にメイド仲間のアグネスが誰かに殺されたのを目撃したと言い、離れの石棺をフィンチとケイタラム卿が開くと、彼女の白骨死体が発見された。楽譜はバンドルが解読し、当時この館でルードウィッヒ伯爵は秘密の恋人に呼び出されたらしい。侯爵のダイイング・メッセージ「ヴァント」はドイツ語の「壁」の意味だとフィンチとマープルは気付く。夕食時にヴァージニアは、ジョージの助手ビル(マシュー・ホーン)に作らせた館の立体模第18話「チムニーズ館の秘密」01.jpg型で銃撃当夜の人々の位置を示すが、それぞれにアリバイがあるようだった。そんな中、皆の気分が急に悪くなり、夕食を中断してそれぞれ部屋に帰る。食中毒らしいが、トレッドウェルは翌朝亡くなり、残された彼女の昔の手紙がかつて楽団員だったルードウィッヒ伯爵への恋文であったことから、マープルは彼女は毒殺されたと推理する。更にマープルは、タイプライターの文字の特徴から、アンソニーを呼び出した手紙の主はビルで、ヴァージニア誘拐未遂は、南アフリカで事業に失敗した友人の金策していたアンソニーと組んだ狂言だったとの告白を彼から引き出す。アンソニーはチムニーズのダイヤをネタに脅迫されていた。彼に裏切られたヴァージニアはロマックスの求愛を受け入れようと決心する―。

チムニーズ館の秘密 クリスティー文庫.jpg 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第2話(通算第18話)。原作は1925年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Secret of Chimneys)で、クリスティの作品の中で『殺人は容易だ』(1939)、『ゼロ時間へ』(1944)など5作あるバトル警視ものの第1作であるとともに、おしどり探偵トミーとタペンスの『秘密機関』(1922)など8作ある冒険ミステリの内の1作です。

 原作は、バルカン半島のある国を巡って王政派と共和政が争っているという政治背景に加え、ルパンのような怪盗まで出てくる冒険譚ですが、時代設定が30年後にずれているということもあってか、ミス・マープルものにしてしまったということもあってか、大幅にスケールダウンしている印象。リアリティ重視が裏目に出ているのではないかなあ。それにしても改変が甚だしいです。

 原作ではヴァージニアはジョージ・ロマックス議員の従妹なのに、この作品ではケイタラム卿の娘で、バンドルの妹ということになっており、ロマックスからは求婚されています。そうすると、アンソニー、ビルと三つ巴の争奪戦かあ。う~ん、美人ではあるけれど、原エドワード・フォックス.jpg作ほどに社交の場を仕切るような超絶的魅力は無いなあ。また、原作では快男児であるはずの主人公のアンソニー・ケイドも、ここではスティーブン・ディラン.jpgチンケな詐欺師みたいな設定になっているし、率先して謎解きをするはずが、伯爵殺しの容疑者として部屋に監禁され、ヴァージニアに助けを求めるという情けない設定。原作で殺害される賓客は、ヘルツォスロヴァキアの王子ミカエルですが、この作品では、オーストリアの伯爵ルードウィッヒで、王族ではない上にかなりのお年寄。「ジヤッカルの日」のエドワード・フォックス演じるケイタラム卿ばかりが矢鱈その存在感が目立ちましたが、これも原作とは違った意味で俗物だった...。フィンチ警視のスティーブン・ディランも悪くは無いけれど、原作のバトル警視はポアロ、ミス・マープルに次ぐキャラだからなあ。ここではミス・マープルの相手役にならざるを得ない。とは言え、これまで多くの部下の刑事がミス・マープルを最初は小馬鹿にして最後は彼女に鼻を明かされてきたのに対し、最初から協調路線で彼女と推理を遣り取りして、共に事件を解決していく様は、これまでの警部連中より一段レベルが高いと言えるでしょう。さすが、スコットランド・ヤードの主任警視。

 原作にある怪盗キング・ヴィクターも政治的ごろつきも謎の探偵もパリ警視庁の刑事も出てこず、チムニーズ館にあると目される消えたダイヤの謎よりも、男女の愛を巡る個人の(端的に言えば"寝取られ男"の)復讐譚になってしまっています。それによって犯人も置き換えられており、殆ど原作の面影を留めないプロットになっています。

 この作品だけ観れば結構面白いのかもしれませんが、先に原作を読んでしまうと、原作が面白いだけに、これらの改変はどうしても楽しめないものでした。元がノン・シリーズ物であるところへミス・マープルが出てくると、どうしてもミス・マープルの出しゃばり感がつきまといますが、こも映像化作品は特にそれを感じてしまいました。

第18話「チムニーズ館の秘密」04.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/チムニーズ館の秘密」●原題:THE SECRET OF CHIMNEYS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ジョン・ストリックランド●脚本:ポール・ラトマン●原作:アガサ・クリスティ「チムニーズ館の秘密」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/スティシャーロット・ソルト2.jpgーヴン・ディレイン/シャーロット・ソルト/エドワード・フォックス/アダム・ゴドリ/デヴラ・カーワン/マシュー・ホーン/ョナス・アームストロング/ミシェル・コリンズ/ルース・ジョーンズ/アンソニー・ヒギンズ●日本放送:2012/03/27●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★)

シャーロット・ソルト(CHARLOTTE SALT)

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原作はノン・シリーズもの。犯人の意外性が高い原作の特徴を活かしているが、原作の弱点も反映。

蒼ざめた馬 DVD.jpg  THE PALE HORSE AGATHA CHRISTIE`S MARPLE.jpg  ミス・マープル 蒼ざめた馬 title.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5

第17話「蒼ざめた馬」08.jpg 霧深い夜、瀕死のディビス夫人(エリザベス・ライダー)を訪ねたゴーマン神父(ニコラス・パーソンズ)は、夫人から邪悪な計画の犠牲者たちの名前を伝えられ、その名前リストを封筒に入れてミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)宛に投函するが、その直後に何者かに襲われ撲殺される。封書は翌朝マープルの許に届き、新聞で神父の死を知ったマープルは警察に捜査を依頼するが、ルジューン警視(ニール・ピアソン)と監察医のケリガン(ジェイソン・メレルズ)はリストにあまり関心を示さない。故ディビス夫人の宿を訪問したマープルは、ディビス夫人の靴の中から神父のメモと同じ名前の書かれたホテル「蒼ざめた馬」の便箋を見つける。宿の女主人コピンズ夫人(リンダ・バロン)によれば、ディビス夫人は何かに怯えていたと言い、宿泊人で会計士のポール・オズボーン(JJ・フィールド)は、神父撲殺事件当夜に現場付近で目撃した頬に傷のある男のことを語ってくれた。
 ルジューン警視はリストにあった珍しい名前ヘスケス・デュボワ宅に電話をし、資産家の彼女が6ヵ月前に亡くなっていることを知る。電話に出たのは、デュボワの甥の民俗学者マーク・イースターブルック(ジョナサン・ケイク)で、警視の空軍時代の知人だった。マークは最初の妻が事故死して悲嘆にくれていた際に励ましてくれた、名付け親でもある夫人の死の真相を探り始め、警視らも、リストに名のある人達は皆最近死んでいるのではないかと疑い始める。

蒼ざめた馬 1997 3老婆.jpgPauline Collins as Thyrza Grey/Holly Valance as Kanga
第17話「蒼ざめた馬」03.jpg第17話「蒼ざめた馬」04.jpg 一方、ミス・マープルは、ハンプシャーの小村マッチディーピングにある小さなホテル「蒼ざめた馬」を訪れ、経営者のサーザ・グレイ(ポーリーン・コリンズ、受付のシビル・スタンフォーディス(スーザン・リン第17話「蒼ざめた馬」02.jpgチ)、料理人ベラ・エリス(ジェニー・ギャロウェイ)らに挨拶される。「蒼い馬亭」の客は、家事で家が焼けたコッタム大佐(トム・ワード)とその妻カンガ(ホリー・ヴァランス、ポリオの後遺症で車椅子生活で頬に傷のあるヴェナブルズ(ナイジェル・プラナー)。マープルは大佐の家政婦リディア・ハースネット(サラ・アレクサンダー)やマーク・イースターブルック、友人トマシーナ・タッカートンの死を悲しむジンジャー・コリガン(エイミー・マンソン)らと会う。
 翌日、サーザが黒魔術による死についてミス・マープルらに熱っぽく言及している際に、客室からリディアの叫び声が聞こえ、コッタム大佐が寝室で死んでいるのが発見される。解剖の結果、大佐の死は性的興奮剤によるものだった。マープルは毒がスパニッシュ・フライを粉にしたものだと推理、自分が日頃使うクリームの瓶の置き方の違いから殺人者の接近を感じたマープルは、資格を剥奪された弁護士ブラッドリー(ビル・パターソン)を訪ね、彼が死の請負業の金銭授受に関わっていると推理する―。

蒼ざめた馬 アガサ・クリスティ ハヤカワ文庫 2ー.jpgアガサ・クリスティー・コレクション 蒼ざめた馬2.jpg 2010年制作のグラナダ版「ミス・マープル」第5シーズンの第1話(通算第17話)で(本国放映は英国2010年、米国2011年)。原作は、1961年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Pale Horse)、ポアロもマープルも登場しないノン・シリーズもの。映像化作品としては、1997年制作のTV版「アガサ・クリスティ/青ざめた馬」 が先行してあります(VHS販売時のタイトルは「魔女の館殺人事件」)。

 原作では、マーク・イースターブルックがジンジャー・コリガンと協力して事件の真相を探ろうとしますが、ミス・マープルシリーズの一つとして作られたこの作品では、ジュリア・マッケンジー演じるミス・マープルが早くから登場して、マークらや警察に先行して「蒼ざめた馬」に乗り込み、ぐいぐい彼らを先導していきます。そして、最後に、関係者に協力を依頼して、「ヴェナブルズは本当は歩けた」「マークはコリガンと大喧嘩の末に喧嘩別れした」などの芝居を仕組んで、殺人犯をトラップにかける―という、まさにミス・マープルの独壇場。

 ミス・マープルシリーズだからこれでいいんだけど、マーク・イースターブルック(ジョナサン・ケイク)の影がやや薄くなったか。ジンジャー・コリガン(エイミー・マンソン)については、原作では、マークを励まして自ら率先して犯人に対する囮になるという積極派であるのに対し、この映像化作品では、やや線細で受動的な印象。ルックス的にも、コッタム大佐の妻カンガ(ホリー・ヴァランス)や、コッタム大佐と不倫関係にあったリディア・ハースネット(サラ・アレクサンダー)の方が印象に残る感じかな。この二人、何となく感じが似ているけれど、原作には無いキャラであり、そもそも原作では「蒼ざめた馬」は宿屋業はもうやってなかったように思います。黒魔術の儀式がそこで行われ、マークが弁護士ブラッドリーを介してそこへ依頼人を装って乗り込むのは原作と同じ。彼の職業は民族学者になっているけれど、原作では歴史学者。ポール・オズボーンは会計士になっているけれど、原作では薬局店主(因みに、「魔女の館殺人事件」では、マークは彫刻家、オズボーンは医師に改変されていた)。

 結局、黒魔術で人を殺しているわけではなく、ある種犯罪ネットワークであるわけですが、その黒幕は誰かというのが焦点で、ヴェナブルズに容疑がかかるのは原作通りですが、原作では彼は謎の美術品蒐集家で、実は銀行強盗の黒幕でもあったというのに対し、この映像化作品にはそうしたことは全く出てきません。そうしたこともあって、全体的に原作のイメージとちょっと違っている印象ですが、一方で、原作の分かりにくい部分を解説的に表現している箇所もあり、原作を読んでから観た方がいい作品です。

 犯人の意外性の度合いが高い原作の特徴をよく活かしていますが、ブラッドリー弁護士やサーザ・グレイの動機は金銭目的であるとして、彼らの元締めである犯人の動機が今一つ掴めないという原作の弱点もそのまま反映されているような印象でしょうか(結局、"サイコ・キラー"だったということか)。

Pauline Collins.jpg忘れられぬ死(2003年)洋DVD.jpg 「蒼ざめた馬」の女主人サーザ・グレイを演じたポーリーン・コリンズ(Pauline Collins)は、「アガサ・クリスティ/忘られぬ死」 ('03年/英)では、探偵役となって事件を解決する側でした(老夫婦"おしどり探偵"の妻の役。かなり夫役のリヴァー・フォード・デイヴィスをこき使っていた)。

Holly Valance Kiss Kiss.jpg また、コッタム大佐の妻カンガを演じたホリー・ヴァランス (Holly Valance)はオーストラリア出身で、モデル、歌手を経て女優になった人です。かつて、ヒット曲"Kiss Kiss"(2002)で一世を風靡し、また、セクシーなプロモーションビデオで話題になりましたが、いつの間にか演技派女優に転身していたのだなあと。

Holly Valance 5.jpg
ホリー・ヴァランス(Holly Valance)
Holly Valance 2011.jpgHolly Valance1.jpg Holly Valance3.jpg 
  
  

アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5.jpgアガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX5
【収録作品】
 『青いゼラニウム』     脚本:スチュワート・ハーコート、演出:デビッド・ムーア
 『チムニーズ館の秘密』   脚本:ポール・ラトマン、演出:ジョン・ストリックランド
 『蒼ざめた馬』       脚本:ラッセル・ルイス、演出:アンディ・ヘイ
 『鏡は横にひび割れて』   脚本:ケビン・エリオット、演出:トム・シャンクランド

第17話「蒼ざめた馬」01.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第17話)/蒼ざめた馬」●原題:THE PALE HORSE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年(本国放映[英国]2010年/[米国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:アンディ・ヘイ●脚本:ラッセル・ルイス●原作:アガサ・クリスティ「蒼ざめた馬」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/ニール・ピアソン/エイミー・マンソン/ジョナサン・ケイク/ポーリーン・コリンズ/JJ・フィールド/サラ・アレクサンダー/ジェイソン・メレルズ/スーザン・リンチ/ホリー・ヴァランス/リンダ・バロン/ナイジェル・プレイナー/ビル・パターソン/ジェニー・ギャロウェイ/ニコラス・パーソンズ/エリザベス・ライダー/トム・ウォード●日本放送:2012/03/28●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆)

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最後、スゴかった。改変には目くじらを立てずに観ようと決め込めば、充分に楽しめた。

、エヴァンズに頼まなかったのか?.jpg ミス・マープル なぜエヴァンズに頼まなかったのか01.jpg Miss Marple  Why Didn't They Ask Evans02.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4

Miss Marple  Why Didn't They Ask Evans title.jpgWHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer 0.jpg ボビー(ショーン・ビガースタッフ)はゴルフのプレー中に崖の上で瀕死の男を発見する。男は息絶える前に「なぜ、エヴァンズに頼まなかったか?」という言葉を残す。男は事故死とされたが、男の最後の言葉と男が持っていた美女の写真が紛失していることが気になったボビーは、幼馴染みの第16話「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」02.jpg第16話「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」01.jpg令嬢フランキー(ジョージア・モフェット)と母親の友人ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)と共に謎解きを始める。3人は男の持ち物のなかにサベッジ城に印の付いた地図を発見し、ボビーは何者かに命を狙われた矢先で怯えるが、好奇心旺盛なフランキーは単身で城に乗り込み、城の前でクルマ事故を起こしてしまい、サベッジ家の女主人シルヴィア・サヴェィジ(サマンサ・ボンド)の世話になる―。 Georgia Moffett/Sean Biggerstaff

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? クリスティーb.jpg 2009年制作のグラナダ版第4シーズンの第4話(通算第16話)で(本国放映は米国]2009年、英国2011年)、ミス・マープル役はジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie、1941-)で吹替版の声の担当は藤田弓子。原作『なぜエヴァンズに頼まなかったのか』は、1934年の刊行で、ポアロやミス・マープルのようなシリーズ・キャラクターは登場せず、この作品限りのキャラクターが主人公です。

 フランキーが乗り込んだ城では、主人のジャック・サヴェィジは心臓発作で半年前に亡くなっており、女主人シルビア・サヴェィジの外に、毒蛇を飼う病的な青年トム(フレデリー・フォックス)とやや小生意気なその妹ドロシー(ハンナ・マレー)の姉弟、ピアノ教師のロジャー・バッシントン(ラフェ・スポール)がおり、近所には、シルヴィアの主治医アレック・ニコルソン(リック・メイオール)と妻のモイラ(ナタリー・ドーマー)、ジャックのかつての共同経営者で今は庭師のクロード・エヴァンズ(マーク・ウィリアムズ)などが住み、女主人の知己には警視長ピーターズ(ウォーレン・クラーク)も―。

なぜエヴァンズに頼まなかったのか?00.jpg 原作に出てこないミス・マープルがどう事件に絡むのかと思ったら、いきなりフランキーの元家庭教師ということで乗り込んできて(「城」という住いは、いつ誰が来ても滞在する部屋はあるのかと...)、それにボビーがフランキーの運転手に扮してミス・マープルに付いてきて(原作ではこれはフランキーのアイディアとなっている)、淡い恋心を抱く二人が偽の主従関係を演じる中、フランキーはピアノ教師ロジャー・バッシントンに言い寄られ、ボビーはドロシーに追い回されたり、ニコルソン医者の妻モイラと真夜中に思わぬ場面で遭遇したりで、二人の関係の行方はどうなるのかみたいな趣向も。

 犯人はエヴァンズだとかニコルソン医師だとか二人でやり合っているうちに、そのエヴァンズは庭で蛇の毒で殺され、警視長ピーターが捜査に乗り出し、蛇の毒はニコルソン医師から貰ったとのトムの証言をもとに医師を逮捕、ボビーらは医師に監禁されていたモイラを救い出すが―。

 これで一件落着したかに見えますが、この作品の本当の結末はこれからであり、その結末には犯人の過去の怨念が絡んでいてヘビィで、ちょっとおどろおどろしい雰囲気も。原作は、タイトル通り、フーダニット(誰が犯人か)、ホワイダニット(動機は何か)より、ハウダニット(どうやって犯行を成したか)に白眉を見出せる作品ですが、この映像化作品はホワイダニットが結構重いね。

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer2.jpg しかし、それにしても随分と原作と変えちゃったなあ(原作の保守的なファンは許さないだろうね)。原作は、確かに大富豪のジョン・サヴェィジは既に死んでいますが、物語の舞台はバッシントン・フレンチという地元の名家で、こちらの当主ヘンリイ・バッシントン・フレンチは物語の前半まで生きており(彼がモルヒネ中毒)、原作の女主人シルヴィア・サヴェィジに該当するであろうその奥さんシルビア・バッシントン・フレンチはまだ若く(こちらは健全)、ヘンリイ・バッシントンの弟がロジャー・バッシントン・フレンチ。毒蛇を飼う病的な青年も生意気なその妹も登場せず、更には庭師のクロード・エヴァンズも登場することなく、物語の途中で殺されるのはエヴァンズではなく、当主のヘンリイ・バッシントン・フレンチとなっています。
 
 原作では、書き変えられた遺言はジョン・サヴェィジのものとみられ、そこでジョン・サヴェィジの死が終盤怪しくなるわけですが、その点においては、本作でジャック・サヴェィジの死が怪しくなるのと一応は符合するのかも。ただ、犯人の犯行動機は純粋に相続財産狙いで、この映像化作品にあるような、植民地在留時代の父親兄弟を巡る凶行に対する、成人となったその子供たちの復讐―という風にはなっていません(原作では、女は捕まるが、男は海外に逃げおうせる。この点は、原作の方にややもやもやした印象が残る)。

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer 02.jpgWHY DIDN'T THEY ASK EVANS Natalie Dormer.jpgWHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer.jpg
 Natalie DormerWHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer3.jpg
 それにしても、ナタリー・ドーマー(Natalie Dormer)演じるモイラがどんどん美しくなっていく(原作でも、フランキー自身モイラが自分より美しいことを認めているが)。そして、一番美しく見える時が一番怖いNatalie Dormer as Anne Boleyn.jpg時...。最初のうちは、ジョージア・モフェット(Georgia Moffett)演じるフランキーの明るく活発で、突然「城」を訪ねてそれなりに丁重に扱われる英国風お嬢さんぶりが目を引く一方、モイラの方は、初登場時はやつれた感じでしたが、次第に存在感が逆転していき、最後はスゴかった...。ナタリー・ドーマーって、怖い時が一番美しく見える女優なのか(最近は「THE TUDORS〜背徳の王冠〜」に出ている)。

WHY DIDN'T THEY ASK EVANS dormer 4.jpg 改変の激しさには賛否があるかと思いますが、元がミス・マープルものではないこともあってそれはある程度仕方ないとしても、子供向けにも翻訳されている原作に対して、ある意味"人間の業"を描いており、かなりヘビィな仕上がりかも。但し、あのラストの背中のスネーク・タトゥーはあまりにエロチックで、シリーズのトーンからやや外れていたかもしれません(ちょっとやり過ぎ?)。でも、改変には目くじらを立てずに観ようと決め込めば、「こう来ましたか」という感じで充分に楽しめた作品でした。星3つ半の個人評価は、ある程度原作と切り離してのもので(このシリーズに「原作に忠実であること」を求めても詮無いことなのか)、原作との対比で評価すると星3つ。「ダルジール警視」のウォーレン・クラークがピータース警視長役で出てたけれど、濃いなあ、この人。

ジョージア・モフェット(Georgia Moffett)/ナタリー・ドーマー(Natalie Dormer)
Georgia Moffett.jpgNatalie Dormer.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第16話)/なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」●原題:WHY DIDN'T THEY ASK EVANS?, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2009年(本国放映[米国]2009年/[英国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ニコラス・レントン●脚本:パトリック・バーロウ●原作:アガサ・クリスティ「殺人は容易だ」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ショーン・ビガースタッwarren clarke.jpgフ/ジョージア・モフェット/ヘレン・レデラー/サマンサ・ボンド/リック・メイオール/レイフ・スポール/マーク・ウィリアムズ/ウォーレン・クラーク/ハンナ・マレー/フレディー・フォックス/ナタリー・ドーマー/リチャード・ブライアーズ/シューアン・モリス/デビッド・ブキャナン●日本放送:2012/03/21●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆)

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それなりに面白かったけれど、改変の意図がよく分からなかったりする。

魔術の殺人.jpg 第15話「魔術の殺人」1.jpg 第15話「魔術の殺人」3.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4

THEY DO IT WITH MIRRORS title.pngミス・マープル 魔術の殺人01.jpg ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、友人のルース・ヴァン・リドック(ジョーン・コリンズ)から、青少年更正施設を運営するルイス・セロコールド(ブライアン・コックス)と結婚した妹キャリー・ルイーズ(ペネロープ・ウィルトン)のことが心配だと第15話「魔術の殺人」2.jpg聞かされる。キャリーは最初の夫の遺産で暮らしているが、数週間前に屋敷でEmma Griffiths Malin THEY DO IT WITH MIRRORS.jpg火事があった。ルースに調査を依頼されたミス・マープルは、静養を装ってキャリーのもとを訪れる。彼女を駅に出迎えたのは,キャリーの養女で明朗なジーナ・エルスワース(エンマ・グリフィス・マリン)で、アメリカで結婚した夫ウォルター(ウォリー)・ハッド(エリオット・コーワン)と実ミス・マープル 魔術の殺人02.jpg家へ戻っているのだが、義弟(キャリーの二番目の夫の息子)のスティーヴン・魔術の殺人 インディアン.jpgレスタリック(リーアム・ギャリガン)は彼女に気があるようだ。その他に屋敷には、キャリーの実娘ミルドレッド(サラ・スマート)、施設上がりの秘書の青年エドガー・ローソン(トム・ペイン)、家政婦ジョリー・ベレバー(マキシーネ・ピーケ)らがいた。そこへ、ルイスの共同経営者クリスチャン・ガルブランドセン.jpgクリスチャン・ガルブランドセン(ナイジェル・テリー)が尋ねて来るが、彼はキャリーの最初の夫の長男である。ルイスは施設で予定されている演芸会の練習に余念が無く、その夜もインディアンの酋長に扮装して皆を相手に練習していた。そこへエドガーが拳銃を携えてやって来て、ルイスに恨みがあると言い立て、拳銃を発射、偶然やって来たキャリーの二番目の夫で演劇プロデューサーのジョニー・レスタリック(イアン・オジルビー)に取り押さえられる。その騒ぎの最中に、隣室でクリスチャンが刺殺され、カリー警視(アレックス・ジェニングス)が来訪して捜査を始める―。

魔術の殺人 hpm2.jpg 原作は1952年に発表されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第5作で(原題:They Do It with Mirrors)、この映像化作品は2009年制作のグラナダ版のシーズン4(ジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie)主演)の第3話(通算第15話、本国放映は米国]2009年、英国2010年))、演出のアンディ・ウィルソンは、当シリーズでは、第1話「書斎の死体」と第3話「パディントン発4時50分」を手掛けています。

 このシーリズ、シーズン4以降は、ノン・マープル物にミス・マープルを登場させて脚色したりしている作品もあり、それだけ原作からの改変も激しいのですが、この映像化作品は元がマープル物とあって、登場人物も、原作では故人のはずの二番目の夫ジョニー・レスタリックが、(殺害されるところまで含め)原作におけるその長男アレックス(スティーヴンの兄)の役割を果たしていた点を除いては原作と比較的符合しており、シリーズの中では改変が少ない方か?

 いやいや、結構細かい部分でも改変があったかも。ルイスがいきなりインディアンの酋長の恰好で出てきたのにはビックリ。原作では普通に皆が居間にいるところに事件が起きて、別に芝居の練習をしていたわけではなかったはず。原作の肝(キモ)である殺人事件の起きた状況をより分かりよいものにするための「舞台」設定だったのでしょうか。でも、根は明朗なジーナを、「暗~いモンロー」風のインディアンの娘に仕上げる必要はあったかなあ(自らの出生の秘密を知ってしまったということか)。

 キャリー・ルイーズが、原作のひ弱な老女から、ごつい感じのお婆さんになっていたりするなどのキャラクター改変も行われていますが、一応、誰が誰だか分からなくなるようなことはありませんでした。但し、原作からして、キャリー・ルイーズ・セロコールドの今の夫ルイス・セロコールドは彼女3番目のジョーン・コリンズ.jpg夫ということで、前夫の子や養女もいたりして、人物相関の複雑さは相当なもの。キャリーの最初の夫の長男クリスチャン・ガルブランドセンがやけに老けているのがややこしいけれど、原作でも、この継子の方が継母のキャリーより2歳年上となっています。原作を読んでいないと人物関係を追うのがややキツイかも。因みに、原作では、彼女の姉ルース・ヴァン・リドックも3回結婚し、3回離婚して、その度に金持ちになっていった女性という設定です(この役を演じているジョーン・コリンズは実生活で5回結婚している)。

Joan Collins

リーアム・ギャリガン(Liam Garrigan)
ミス・マープル 魔術の殺人03.jpg この映像化シリーズの特徴で、若い男女、とりわけヒロインに相当する女性の恋愛の行方をミステリと同じくらいの比重で扱ったりするものが幾つかある中で、この作品はその典型であり、そうなると、エンマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)演じるジーナにどれぐらい好感が持てるかが、この作品に対する好悪の分かれ目になることもあるかもしれません。彼女は、離れて見ている分にはいいけれど、付き合うとなる(ましてや結婚するとなると)大変そう―という感じかな。

エンマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)
Emma Griffiths Malin0.jpgEmma Griffiths Malin2.jpg 犯人は原作ではエゴイスティックな殺人鬼という印象でしたが、この作品では、配偶者への思いやりから殺人を犯しているような解釈になっていて、原作ではあと2人若者を殺害していますが、この映像化作品では、あと1人、オジさん(ジョニー・レスタリック)を殺すのみ―と、やや犯人寄りの改変?(犯人に共感的に描くことで、その加害性をうやむやにしてしまうというのは、「パディントン発4時50分」などにも見られたこの演出家の傾向か)

 原作からの改変が激しいと嫌気がさす人も多いかと思いますが、このシリーズ、先行するBBCのジョーン・ヒクソン版が原作に忠実に作られているのと差別化するために、「改変の妙を愉しむ」趣向にしているのではないでしょうか。その意味では本作もそれなりに面白かったけれど、例えばジーナが矢鱈暗かったりしたかと思ったら最後は明るかったりで、改変のトーンに一貫性がないようにも思えました。

Emma Griffiths Malin
Emma Griffiths Malin.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第15話)/魔術の殺人」●原題:THEY DO IT WITH MIRRORS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2009年(本国放映[米国]2009年/[英国]2010年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:アンディ・ウィルソン●脚本:ポール・ラトマン●原作:アガサ・クリスティ「魔術の殺人」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ペネロープ・ウィルトン/ブライアン・コックス/エマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)/サラ・スマート/マキシン・ピーク/エリオット・コーワン/リアム・ギャリガン/トム・ペイン/イアン・オギルビー/ナイジェル・テリー/ジョーン・コリンズ/ジョーダン・ロング/アレクセイ・セイル/アレックス・ジェニングス/ショーン・ヒューズ●日本放送:2012/03/22●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★)

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「アガサ・クリスティー協会」公認の改変とはいえ、大枠からしてどうみても改変過剰気味。

殺人は容易だ.jpg 第14話「殺人は容易だ」011.jpg SHERLOCK A STUDY IN PINK.jpg 
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4」「SHERLOCK / シャーロック [DVD]」【収録話数】第1話:「ピンク色の研究」(A Study in Pink)/第2話:「死を呼ぶ暗号」(The Blind Banker)/第3話:「大いなるゲーム」(The Great Game) 

Marple - Murder is Easy  title.jpg 地方の村の教区の牧師が養蜂作業中に毒を吸い込んで死ぬ。ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は列車内で村の老婦人ラヴィニア・ピンカートン(シルヴィア・シムズ)に出会うが、彼女は牧師の毒死も以前に村で起きた老婦人の毒キノコ中毒死も何れも殺人事件だと言い、捜査依頼のためロンドン警察へ行くところだと。彼女は「殺人は容易だ」と連続死を仄めかすが、その直後、乗換駅で何者かにエスカレーターで突き落とされて死亡する。
Marple - Murder is Easy 1.jpg 新聞でその死亡記事を見たミス・マープルは葬儀に参列し、植民地から来た元警官ルーク・フィッツウィリアム(ベネディクト・カンバーバッチ)と知り合ってホテルに間借りし、共に謎解きを始める。ラヴィニアの予言通り、今度はハンブルビー医師(ティム・ブルック・テイラー)が敗血症で死亡するが、その夫人ジェシー(ジェンマ・レッドグレイヴ)は夫の死に疑問を持っていない。

Julia McKenzie/Benedict Cumberbatch

James Lance / Shirley Henderson / Russell Tovey
第14話「殺人は容易だ」06.jpg第14話「殺人は容易だ」02.jpg第14話「殺人は容易だ」07.jpg その娘ローズ(カミラ・アーフウェドソン)、彼女と恋仲でハンブルビーの後継のトーマス医師(ジェイムズ・ランス)、退役軍人ホートン少佐(デヴィッド・ヘイグ)、公立図書館員アボット(ヒューゴ・スピア)、教会のオルガン弾きオノリア(シャーリー・ヘンダーソン)、メイドのエイミー(リンゼイ・マーシャル)といった面々に若い捜査官テレンス・リード(ラッセル・トビー)はマープルの助言をもとに聞き込みを行う―。

 2008年制作のグラナダ版第4シーズン第2話(通算第14話)で(本国放映は2009年)、第3シーズンまでミス・マープル役を務めたジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan、1932‐)が退き、第4シーズン通算第13話からジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie、1941-)がミス・マープルを演じています(吹替版の声の担当は藤田弓子)。

殺人は容易だ[装]上泉秀俊 pm.jpg 原作『殺人は容易だ』は、1939年にクリスティが発表した「バトル警視もの」でミス・マープルは出てきませんが(といってもバトル警視も最後ちょっと出てくるだけで、中心となる探偵役は元警官ルーク)、この映像化作品ではマープルがルークや若い捜査官テレンス・リードと協力して事件を解決します(と言っても、解決するまでにいっぱい人が死ぬわけだが)。

MURDER IS EASY 2008 リディア.jpg オノリアには知的傷害者の弟がいて、昔、泥酔して川に落ちて死亡しており、エイミーは、教会で何かを告解しようとしていた矢先に帽子塗料をセキ止め薬と誤飲して死亡(彼女は妊娠していた)、ホートン少佐は議員選挙に出馬するつもりだったが、過去の買収行為をネタに脅喝されて出馬を取りやめ、それに落胆したかのようには妻リディア(アナ・チャンセラー)が浴室で死亡、インスリンの過剰注射による自殺と思われたが―。牧師、老婦人、医師、メイド、少佐夫人と、ホント次々と人が死ぬなあと。

 ここまで5人死ぬのは原作と同じ。但し、原作で亡くなるのは、老婦人、医師、メイドの外は、飲んだくれの居酒屋亭主ハリーが川に落ちて死に、嫌われ者のいたずら小僧トミーが博物館の窓を拭いているときに墜死、この映像化作品でルークが村に入ってから亡くなる医師、メイドも含め5人とも、ルークが村に入る前に亡くなっており、ルークが村に来てから更に1人死にます。原作の方も人物が錯綜していて、これを更に改変して93分位に詰め込んでいるだけに、テンポはいいけれど人物の相関関係を追うのがたいへんかも。

Margo Stilley(マーゴ・スティリー) in MURDER IS EASY
第14話「殺人は容易だ」03.jpg第14話「殺人は容易だ」08.jpgMarple_Murder_is_easy2.JPG 原作の先入観無しで見ると、ベネディクト・カンバーバッチが演じる元警官が先ず怪しげな雰囲気ですが、しばらくすると今度はアメリカから教会に古文書の拓本を採りに来たというブリジット(マーゴ・スティリー)が怪しげに見えてくるかも(彼女は幼いころ親に棄てられた過去を持つ。その親とは...という話もこの映像化作品の全くのオリジナル。原作では、ブリジットは早くからルークと捜査上の協力関係となる)。

 原作に覚えがある人は、登場人物の造形や殺害方法などの"改変の妙"を楽しめるかも。夫が愛犬家だったのが、妻が愛猫家であることに変わっていたり、交通事故死がエスカレーターでの事故死になっていたり...。

MURDER IS EASY 2008.jpg 但し、こうしたトリビアな改変はさておき、大枠そのものについても「アガサ・クリスティー協会」公認の改変とはいえ、どうみても改変過剰気味で、結局、何と犯人まで改変されていたけれど(完全に別個の犯人当てクイズみたいになっている。原作にこだわりを持つ人には受け容れられないだろう)、原作では犯人はサイコっぽいシリアルキラーという印象でしたが、この作品では、人間の原罪を背負った悲劇的人物という描かれ方をしている印象もあり(これも原作には無い近親相姦の話が絡んでいる)、一方で、ミス・マープルが謎解きと犯人への追及を同時に行うため、クライマックス場面は結構キツイ感じの作りになっています。
Margot Stilley
Margot Stilley.jpgPicture of Margo Stilley.jpg 別の意味で楽しめたのは、'10年にTVシリーズ「SHERLOCK (シャーロック)」の主役に抜擢されることになるベネディクト・カンバーバッチ(一度見たら忘れられない英国俳優)演じるルークと、スタイル抜群のマーゴ(マルゴ)・スティリー(アダルト女優からセレブ女優へ転身?)演じるブリジットの遣り取りで、"将来のシャーロック"は、魅惑的な謎の女ブリジットに惹かれるも、ずっと彼女に翻弄されっぱなしで、でも最後は何となく脈ありの雰囲気で終わる―という、ドロドロした話にしてしまった後の"口直し的ラスト"とも言えますが、事件解決によって明らかになったブリジットの"出自の重さ"を考えると、こんなんでいいのか~という、やっかみめいた感想も抱かざるを得ませんでした(改変も含め、トータルではそれなりに楽しめたが)。

SHERLOCK s1.jpgピンク色の研究.jpg 因みにTVシリーズ「SHERLOCK」は、ドイルの原作でホームズとワトスンが初めて出会う『緋色の研究』を読んだうえでシーズン1第1話「ピンク色の研究」を観ると、今風にアレンジされた"改変の妙"が効いていて、ベネ君の英国俳優らしい雰囲気と併せて、これ、かなり楽しめます。

ピンクの研究5.jpg ワトスンが、軍医として従軍したアフガン戦争で負傷して右足が不自由なうえに、戦争トラウマにより左手に断続的な痙攣があって職業生活に困難をきたし、 物価の高いロンドンで暮らしていくため必要に迫られて下宿をシェアできるルームメイトを探し、そこでホームズと出会うという設定になっていて、まずホームズは初対面のワトスンを一目見て、彼の経歴や現況からからストレスの原因まで全て言い当ててしまう―というのはお約束通りでしょうか。ワトスンがそうしたホームズのことを最初は気味悪く思いながらも、彼を通して次第にトラウマを克服していく一方、やや引き籠り傾向のあるホームズも、ワトソンを通して現実社会との関わりを保っていくという両者の"共生"関係のようなものが、第1話にして分かり易く示唆されていたのは、今思えば、かなりの"巧みの技"だったかも。やはり、目の肥えた視聴者が多い英国だと、ただ改変すればいいということでは済まないのだろうなあ。

ピンク色の研究 dvd.jpgピンク色の研究 04.jpg「SHERLOCK(シャーロック)(第1話)/ピンク色の研究」」●原題:SHERLOCK:A STUDY IN PINK●制作年:2010年●制作国:イギリス●演出:ポール・マクギガン●脚本:スティーブン・モファット/マーク・ゲイティス●出演:ベネディクト・カンバーバッチ/マーティン・フリーマン/ルパート・グレイヴス/ウーナ・スタッブズ●日本放映:2011/08●放映局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★★)
SHERLOCK / シャーロック [DVD]」【収録話数】第1話:「ピンク色の研究」(A Study in Pink)/第2話:「死を呼ぶ暗号」(The Blind Banker)/第3話:「大いなるゲーム」(The Great Game)

Margo Stilley 5.jpgMarple - Murder is Easy 1.5.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第14話)/殺人は容易だ」●原題:MURDER IS EASY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2008年(本国放映2009年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ヘティ・マクドナルド●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ「殺人は容易だ」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ベネディクト・カンバーバッチ/シャーリー・ヘンダーソン/マーゴ(マルゴ)・スティリー/アナ・チャンセラー/ジェンマ・レッドグレイブ/カミラ・アーフウェドソン/デビッド・ヘイグ/ヒューゴ・スピア/ラッセル・トビー/ジェームズ・ランス/ティム・ブルック・テイラー/シルビア・シムズ/リンゼイ・マSHERLOCK (シャーロック) .jpgーシャル●日本SHERLOCK.jpg放送:2012/03/20●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆) Margo Stilley(マーゴ・スティリー)

「SHERLOCK (シャーロック)」SHERLOCK (BBC 2010~) ○日本での放映チャネル:NHK‐BSプレミアム(2011~)

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ジュリア・マッケンジー初登場版は、意外と原作に忠実だった。

ミス・マープル ポケットにライ麦を dvd.jpg 第13話「ポケットにライ麦を」01.jpg 第13話「ポケットにライ麦を」04.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4」      Julia McKenzie/Helen Baxendale

第13話「ポケットにライ麦を」03.jpg第13話「ポケットにライ麦を」05.jpg 朝の投資信託会社内で社長秘書のグロブナー(ラウラ・ハドック)が社長のレックス・フォテスキュー(ケネス・クランハム)にお茶を持って行くと、お茶を飲んだ社長は苦しみ出してじき亡くなる。ニール警視(マシュー・マックファディンとビリングスリィ巡査部長(ポール・ブルーク)の調べにより、自宅での朝の紅茶に毒物のタキシンが入れられたと考えられたが、社長の上着のポケットにライ麦が詰め込まれていたことの意味は解らない。
第13話「ポケットにライ麦を」07.jpg第13話「ポケットにライ麦を」06.jpg フォテスキュー家には、レックスの若い後妻アデール(アンナ・マデリー)、長男のパーシヴァル(ベン・マイルズ)、パーシヴァルの妻で元看護婦のジェニファー(リズ・ホワイト)、娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン家政婦のメアリー・ダヴ(ヘレン・バクセンデール、執事のクランプ(ケン・キャンベル)とその妻で料理人の(ウェンディ・リチャード)、ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)が教育した養護施設出身の小間使いグラディス(ローズ・ハインニー)がいて、アデールにはヴィヴィアン・デュボア(ジョセフ・ビーティー)という若い男の愛人がいた。

第13話「ポケットにライ麦を」5.jpg ちょうど翌日、放蕩のため家を追い出されていたパーシヴァルの弟ランスロット(ルパート・グレイヴズが、父に呼ばれたからと妻パット(ルーシー・コフ)と共にアフリカのケニアから戻ってくる。そのランスが帰還した日に、アデールが飲んだ紅茶に入っていた青酸カリのために亡くなる。そして同じ夜、小間使いのグラデイスが洗濯場で絞殺死体で発見され、鼻を洗濯バサミで挟まれていた。自分が仕込んだグラディスが亡くなったことで、ミス・マープルは、ニール警視とピックフォード巡査部長(ラルフ・リトル)による事件捜査に協力を申し出る。ミス・マープルは、事件の経緯が執事クランプの口ずさんだマザーグースの歌と符合していることに気づき、歌の中に出てくるクロツグミ(ブラックバード)のことで家人に聴いてみるようニール警視に示唆すると、クロツグミの死骸がレックス・フォテスキューの机の引き出しに入れられていた事件が何か月か前にあったことと、アフリカのクロツグミ鉱山を共同経営していたマッケンジーという男がアフリカの地でレックスに置き去りされる形で横死し、彼には妻との間に息子と娘がいたらしいことがわかる。ミス・マープルがサナトリウムいるマッケンジーの妻を訪ねると、息子は戦死し、娘はいないと言うが、ミス・マープルは、娘のルビー・マッケンジーが偽名を使って復讐のためにフォーテスキュー家に潜入していると推理、ニール警視は、しっかり者だがどことなく冷たい感じの家政婦メアリー・ダヴがルビーではないかと疑うが―。

第13話「ポケットにライ麦を」02.jpg 2008年制作のグラナダ版第4シーズン第1話(通算第13話)で(本国放映は2009年)、第3シーズンまでミス・マープル役を務めたジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan、1932‐)が退き、この第4シーズン第1話からジュリア・マッケンジー(Julia McKenzie、1941-)がミス・マープルを演じています(吹替版の声の担当は藤田弓子)。

ポケットにライ麦を ハヤカワ文庫.jpg 原作『ポケットにライ麦を』は1953年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で、グラナダ版の映像化作品は原作の独自の改変が目立つものが多いのですが、このチャールズ・パーマー演出、ケヴィン・エリオット脚本の映像化作品は、原作にほぼ忠実に作られています。

Julia McKenzie

 ミス・マープルはニール警視に、これはクロツグミ事件を利用した犯罪であり、レックス・フォテスキュー殺しはグラデイスがそうとは知らずにマーマレードに毒を入れたことによるもので、そのグラデイスを利用した真犯人がアデールとグラデイスを殺し、但し、グラデイスは歌の順番と異なりアデールより先に殺されていたとの推理を話します。

 ミス・マープルの話を聞いてもニール警視には真犯人が分からないのも原作と同じ。真犯人の名を聞いてビックリ。納得はしたものの、証拠が無いため、立証するのは貴方の仕事ですよ、頭のいい貴方ならできます、とマープルが励ますところでほぼ終わるのも原作通りで、これが"原作に忠実に作られている"として評価の高いジョーン・ヒクソン主演のBBC版('86年)では、最後、犯人を自動車事故死させてしまっていることを考えると、むしろこちらの方が原作に忠実と言えるかもしれません(このシリーズ、演出・脚本のコンビによって、改変度にかなり差がある)。

 原作に対する評価で、犯人がわざわざ証拠を多く残すようなことをするかとの疑問が付されることもありますが、個人的にはマザーグースを実際のプロットに用いた傑作だと思われ(クリスティ作品にマザーグースの引用は多いが、この作品や『そして誰もいなくなった』のようにそれがプロットに完全に組み込まれているものは少ない)、この映像化作品は、「原作を読む代わり」とするには手頃かも。但し、BBC版もそうでしたが、登場人物のイメージが自分が抱いていたものとやや異なりました。

ヘレン・バクセンデール.jpg 家政婦メアリー・ダヴ役のヘレン・バクセンデールは、悪女ぶりがものすごくキマっていたように思います(原作より存在感が大きい)。パーシヴァルの妻で元看護婦のジェニファー(リズ・ホワイト)は、本来は影がある女性ではないかと思われるですが、ヒステリニックかと思ったら落ち込んだりの情緒不安定で、あまり頭も良さそうでなく、むしろ、レックスの実の娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン)の方が魅力的だったかも(原作でも元々影が薄いというのはあるが)。ランスロット(ルパート・グレイヴズ)の妻パット(ルーシー・コフ)も、ちょっと老けた感じだったなあ。あなたはまだ若いんだから...とは言いにくい?

Helen Baxendale

 何よりも、原作の魅力は、嫌な人間ばかりがいる中で最も好人物だと思われた人物が実は―という(ある種、叙述トリックに近いような)点にあるわけですが、それに該当する人物がそう魅力的に描かれておらず、最初から、複数の「犯人であっもおかしくない人物」の内の一人になっているのが難点かな。「眺めのいい部屋」「モーリス」のルパート・グレイヴズは"久しぶり!"という感じだったけれど。

 それでも、原作が個人的には気に入っているものであるだけに、原作に忠実であるは喜ばしいことでした。

ミス・マープルdvd4.jpgアガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX4
ミス・マープル マッケンジー.jpg【収録内容】
全4話収録
 第1巻 『ポケットにライ麦を』
 第2巻 『殺人は容易だ』
 第3巻 『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』
 第4巻 『魔術の殺人』
 主演:ジュリア・マッケンジー(声:藤田弓子)

ミス・マープル マッケンジー2.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第13話)/ポケットにライ麦を」●原題:A POCKETFULL OF RYE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2008年(米国放映2009年7月5日/英国放映2009年9月6日)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:チャールズ・パーマー●脚本:ケヴィン・エリオット●原作:アガサ・クリスティ「ポケットにライ麦を」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/マシュー・マクファディン/ルパート・グレイヴス/ベン・マイルズ/ルーシー・コウ/ヘレン・バクセンデイ/リズ・ホワイト/アンナ・マデリ/ハティ・モラハン/ラルフ・リトル/ケン・キャンベル/ウェンディ・リチャード/ジョセフ・ビーティー/プルネラ・スケイルズ/ローズ・ハイニー/クリス・ラーキン/ケン・クラナム/エドワード・チューダー・ポール/ローラ・ハドック/ティア・コリンズ●日本放送:2012 /03/19●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

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登場人物を端折った分、テンポは良くなった? 気になった改変もあるが、ドラマ的にはまずまず成功。

予告殺人.jpg  アガサ・クリスティー ミス・マープル /予告殺人001.jpg A Murder is Announced' (2005).jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル Vol.4 予告殺人」(DVD)

Agatha Christie's Marple - 'A Murder is Announced' (2005).jpg チッピング・クレグホーンという村の新聞に「殺人のお知らせ」という広告が掲載され、興味をそそられた村人たちは、予告現場の下宿屋リトル・パドックスとへと集まってくる。この下宿屋には、女主人のレティシア(ゾーイ・ワナメイカー)と幼馴染みのドラ(エレーヌ・ペイジ)、はとこの子供パトリック(マシュー・グッド)とジュリア(シエンナ・ギロリー)のシモンズ兄妹と養蜂場で働く女フィリッパ(キーリー・ホーズ)、そしてメイドのヒンチ(フランシス・バーバー)が住んでいた。指定の時刻、突然電灯が消え、強盗が押し入り、銃声が鳴り響く。明かりがついた時、レティシアはケガをし、強盗に入った男は射殺されていた。男が働いていたホテルに宿泊していたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、新聞でこの事件を知る。レティシアは以前、億万長者の秘書をしており、彼の遺産を受け継いだ夫人が亡くなった後に相続人となることになっていた。明日をも知れない状態の夫人よりもレティシアが先に死ねば、ゲドラーの妹の子である双子が相続をすることになるが、双子の行方は分からない―。

予告殺人 ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg 2004年制作のジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られた4話の内の第4話(本国放映は2005年1月、1~3話は2004年12月)。原作『予告殺人』は、1950年発表のクリスティ60歳にしての第50作目の作品。1972年にクリスティ研究家数藤康岸田 今日子ド.jpg雄氏の質問に答えクリスティ自身が挙げた「自作ベスト10」に、ミス・マープルものでは『火曜クラブ』(短篇集)、『動く指』と共に入っています。日本語吹き替えの岸田今日子は、放送4日後の2006年12月17日に他界し、本作が遺作となりました(彼女の茶目っ気があって可愛らしい感じの吹替えをもっと聞きたかった気がする)。

第4話「予告殺人」03.jpg 女主人のレティシアを演じたゾーイ・ワナメイカーはユダヤ系米国人女優ですが、1950年代にハリウハリー・ポッターと賢者の石 フーチ先生.jpgッド・ブラックリストに載ったために英国に渡り、その後長く英国に住んでいたためキングスイングリッシュを話し、ハリー・ポッターシリーズ第1作「ハリー・ポッターと賢者の石」('01年/英)にもフーチ先生役で出演していました。

 犯人が意外だった印象が強く残っている原作でしたが、トリッキーな作品でもあり、また、登場人物もかなり多くて錯綜しているため、映像化する際にどうするのかアガサ・クリスティー ミス・マープル /予告殺人02.jpgなと思ったら、やはり若干登場人物を端折っているみたいです。

 但し、その分テンポが良くなっていて、この原作に関しては、映像化する際にこれはこれでありかなとも思いました。それでも原作を読んでいないと、この"アップテンポ"につていくのは結構キツイかも知れません。因みに、原作に忠実なことで知られるジョーン・ヒクソン主演のBBC版は、この原作の映像化作品(1985年制作の)に関しては3部構成で155分という長さになっています(これでもこのシリーズでいちばん短い方なので、テレビ放映用の短縮版が作られなかった。端折ると話が分からなくなるというのもあったのではないか)。

Keeley Hawes.jpgKeeley Hawes1.jpg 人物構成もさることながら、イースターブルック大佐(ロバート・パフ)が奥さん連れでなく、飲酒癖のために妻に離婚され、過去から逃れるように村に来たことになっているなど(しかも、自分を気遣ってくれる女性に恋したり、その息子とやり合ったり、自ら事件の再現をしてみようと言い出したり、何だか忙しい?)、そうした幾つかのキャラクター改変がされているのがやや気になりました。
 養蜂場で働くフィリッパ役のキーリー・ホーズ(Keely Hawes)も野生児というイメージとはちょっと違ったかな(最初から美人過ぎる?)。しかも、ミス・マープルの友人の娘エイミー(クレア・スキナー)と同性の恋人関係(同性愛者)というアレンジ。
Keeley Hawes(上)/Sienna Guillory(下)

Sienna Guillory.jpg第4話「予告殺人」04.jpg このようにドロドロしている割には、田園風景などを明るく綺麗に撮っているせいか、全体にあまりウェットな感じはしませんでした。

 レティシアのまた従兄妹の妹の方ジュリア・シモンズを演じたシエンナ・ギロリー(Sienna Guillory)なども含め、綺麗どころが何人か出ているというのもあったかも。 

 終わりの方で、メイドのヒンチがなぜレティシアに怒鳴り込んでいったのか分からないという声がありますが、ミス・マープルが犯人に仕掛けた罠であったはずです。その「罠」の範囲が、この映像化作品では分かりにくいかも。

 シリーズ第3話「パディントン発4時50分」と同様、ミス・マープルは原作のように事件の解決の後に謎解きをするのではなく、謎解きと犯人への追及を自らが同時にしていますが、ドラマ的な盛り上がりを考えてのことでしょう。これはこれでまずまず成功しているように思います。BBCのヒクソン版支持者から見ればマープルらしくないということになるのかも(むしろポワロ的)。

第4話「予告殺人」09.jpg ミス・マープルは犯人のことを悪人というよりは気の毒な人と思っているようで、一方で、これは犯人に対する絞首刑の宣告でもあるわけであって、謎解きをするジェラルディン・マクイーワンの目に涙を浮かべたような表情は、彼女の演技の見せ所だったかも(普段はどちらかというと茶目っ気あるミス・マープル像を演じている)。但し、こうしたマープル像もすべて、このシリーズにおける独自解釈の一つということになるかと思います。

 因みに、『パディントン発4時50分』の犯人は2人殺害しているわけですが、原作が発表された1957年に英国で死刑判決を限定する法律が制定されているために、原作では「絞首刑に値する人間がいるとすれば彼だ」という表現によって死刑にならないことが示唆されています。
 
第4話「予告殺人」02.jpg 但し、このジェラルディン・マクイーワン主演のシリーズは、時代設定が1950年代前半を想定しているようで(第1話「書斎の死体」には映画「日の当たる場所」('51年/米)の話が出てきて、第2話「牧師館の殺人」ではミス・マープルの部屋のカレンダーが1951年になっている)、死刑制度は存置されているという前提のもとに作られているようです。「牧師館の殺人」には、犯人が絞首刑になるシーンがあるし、この「予告殺人」においても、「(犯人は)絞首刑になるでしょうね」とミス・マープルに言わせています(自分の秘密を知った人物を3人殺害しているわけだから、現在の日本の量刑相場でみても死刑になる公算は高いのだが、英国の場合、もしも何年か遅い時代設定だったら終身刑だったわけか)。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第4話)/予告殺人」●原題:A MURDER IS ANNOUNCED, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年(本国放映2005年)●制作国:イギリス●演出:ジョン・ストリックランド●製作:マシュー・リード●脚本:スチュワート・ハーコート●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「予告殺人」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/クリスチャン・コウルソン/シェリー・ルンギ/ロバート・パフ/キーリー・ホーズ/ゾーイ・ワナメイカー/クレア・スキナー/フランシス・バーバー/エレーヌ・ペイジ/マシュー・グッド/シエンナ・ギロリー●日本放送:2006/12/13●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

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 プロットがやや難ありだが原作共々面白い。スーパー家政婦を巡る恋の鞘当も楽しみの一つ。

パディントン発4時50分.jpg  『ミス・マープル』 パディントン発4時50分.jpg 4.50 FROM PADDINGTON 01.jpg
ジョン・ハナー/ジェラルディン・マクイーワン/アマンダ・ホールデン
アガサ・クリスティーのミス・マープル Vol.3 パディントン発4時50分」(DVD)

(第3話)/パディントン発4時50分 title.jpg第3話「パディントン発4時50分」02.jpgMiss Marple - 450 From Paddington.jpg ミス・マクギリカディ(パム・フェリス)は、友人のミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に会いに行くために乗ったパディントン発4時50分の列車内で偶然、並走する別のロンドン発列車内で一人の男が女性の首を絞めているのを目撃、恐らく絞殺したに違いないと直感して客室係に通報したが、その列車から死体は見つからなかったとの連絡がある。ミス・マープルに会って彼女の助言で鉄道警察に届けるが、そこでも相手にされない。ミス・マープル4.50 FROM PADDINGTON 02.jpgは、犯人は列車が速度を緩めるカーブで死体を車外に棄てたと推理し、路線で該当する場所に建つブラック・ハンプトンのクラッケンソープ邸ラザフォード・ホールを探るべく、知り合いの才能豊パディントン発4時50分 実況検分.jpgかな美女ルーシー・アイレスバロウ(アマンダ・ホールデン)をクラッケンソープ家の家政婦として送り込む。ルーシーは敷地内の霊廟から女性の遺体を発見、ミス・マープルを自宅に滞在させていた地元警察のトム・キャンベル警部(ジョン・ハンナー)によるクラッケンソープ家の人々への事情聴取が始まった―。

 クラッケンソープ家の当主で今はほぼ寝たきりのルーサー(デビッド・ワーナー)は、家業の製菓事業を継がなかったために父(創業者)の怒りを買い、遺産を孫代に相続させる信託に付されていた。長女のエマ(ニア・キューザック)は、独身を通して父を介護してきたが、主治医のクインパー(グリフ・リース・ジョーンズ)との恋愛が進行中、長男のエドマンドは、フランス女性のマルティーヌと結ばれた上に戦死し、次女も既に死亡、次男アルフレッド(ベン・ダニエルス)は酒飲みで、危ない仕事に手を染めているらしく、三男は事業家のハロルド(チャーリー・クリード・ミルズ)、四男は外国在住の画家セドリック(キアンラン・マクメナミン)。

パディントン発4時50分 05.jpg 兄弟構成などが一部改変されていて、例えば原作では、次男が画家のセドリックで、四男が詐欺師のアルフレッドとなっており、三男の職業は銀行家。このほかに、亡くなった次女の夫で戦争の英雄だったけれども今は一介の保険会社員となっているブライアンが登場し、また、原作では『予告殺人』でマープルとともに事件を解決したロンドン警察の「クラドック警部」に該当する人物が、ミス・マープルが彼の幼時から知るところの地元警察のトム・キャンベル警部となっています。

ルーシー・アイレスバロウ(アマンダ・ホールデン)/トム・キャンベル警部(ジョン・ハナー

パディントン発4時50分 ハヤカワ文庫.jpg 先行するジョーン・ヒクソン版「ミス・マープル」(1984年から1992年にかけてイギリスBBCにより制作)に次ぐ、グラナダTVで2004以降制作された2度目のTVドラマシリーズであり、マープル役のジェラルディン・マキューアン(Geraldine McEwan)は、気品のあったジョーン・ヒクソンに対して、ちょっとお茶目っぽい感じでしょうか(ファーストシーズン第3作である本作の吹き替えは岸田今日子)。この「パディントン発4時50分」の中では、ミス・マープルがダシール・ハメットの『闇の中の女』を読んでいたりもします。

4:50 from Paddington (2004).jpg 原作共々ストーリーとしては面白いのですが、こうして映像で見ると、最後にミス・マープルが仕組んだ「実況検分」(関係者が乗り合わせての走行する列車内での実況見分は原作には無い)において、目撃者が犯行時の犯人の背中しか見ていないのに犯人を断定できるのかという疑念が強まり、更に個人的にはここの点が一番引っ掛かったのですが、再現可能なほどに列車のスピードがいつも同じなのかという疑問も浮かびます。
 
第3話「パディントン発4時50分」03.jpg第3話「パディントン発4時50分」04.jpg 犯人は誰かと気を持たせながらも、結末はややとってつけたような真犯人及び動機ともとれ(元々読者に対する伏線があまり無い)、やはり原作そのものにプロットとしての弱点があることも否めません。それでも傑作ではありますが。

 1957年に発表された原作に対し、この映像化作品の方は、夜の闇を蒸気機関車が行くダイナミックな映像が今風のカメラワークで(但し、列車を2本同時に止めてしまうのはやり過ぎか)、原作で、オクスフォード大学で数学を専攻し主席を通して周囲から将来を期待されるも、好きな家事を極めるために卒業後は家政婦になったとされている32歳の才女ルーシーを演じたアマンダ・ホールデンの現代風Amanda Holden3.jpgAmanda Holden.pngの魅力など、すべて「今風」と割り切って観ればかなり楽しめました(Amanda Holdenは、スーザン・ボイルを世に送った英国の人気オーディション番組「Britain's Got Talent」の審査員でもある)。 


パディントン発4時50分 08.jpg

アマンダ・ホールデン
(Amanda Holden) 

 謙虚且つ聡明、但し、秘めたる好奇心は旺盛なスーパー家政婦。原作では家事・料理における有能さが描かれていますが、この映像化作品では、豹柄のコートを着て真っ赤な高級クラシック・カーで住込先に乗りつけるなど、かなりセレブっぽい印象で、料理しているシーンとかが殆ど無く(皿拭きはしていた)、いきなり家族と一緒の食卓に(BBCのヒクソン版は途中から食卓を共にする)。

パディントン発4時50分6.jpg 原作では、そのルーシーを巡っての「亡くなった次女の夫で今は会社員のブライアン」と「画家である次男セドリック」の恋の鞘当があり、彼女が最後にどちらを選ぶかミス・マープルには見当が付いているものの読者には明かされないということになっていますが(「クラドック警部」も候補か)、この映像化作品では、「次男アルフレッド」のセクハラに遭いつつ、「三男ハロルド」と「四男セドリック」の両方から言い寄られるという展開。ハロルドが本命かと思われたが、彼女が最後に選んだのはやや意外なダークホース...。
ハロルド(チャーリー・クリード・ミルズ)

 こうした恋愛模様も本作の一つの楽しみであり、推理一点張りではないミス・マープルシリーズらしいと言えばそうと言え、しかも、ルーシーが選んだ相手に(結婚するかどうかは別として)一応の結論を出しているようにとれます。第三の選択? これが本作の一番のサプライズだったかも(原作の最後の1行、ミス・マープルがクラドック警部を見遣ったことに呼応しているわけか)。

 因みに、ジョーン・ヒクソン版(1987年/BBC)にはクラドック警部(に該当する人物)は出てこず、原作で読者に判断を委ねたルーシーの選択は、大方の予想であろう二者(ブライアンとセドリック)からの択一になっていて、彼女がブライアンを選んだことが示唆されています(セドリックは最初から横柄なキャラクターとして描かれているため、彼が選ばれないことは自明のこととなっている)。こうした解釈や人物造型の違いを見るのも、映像化作品の楽しみ方かもしれません。

第3話「パディントン発4時50分」01.jpgAmanda Holden2.jpgAmanda Holden1.jpgAmanda Holden at Britain's Got Talent
Britain's Got Talent amanda.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第3話)/パディントン発4時50分」●原題:4.50 FROM PADDINGTON, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/12/19●演出:アンディ・ウィルソン●製作:マシュー・リード●脚本:スティーブン・チャーチェット●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「パディントン発4時50分」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/グリフ・リース・ジョーン/デビッド・ワーナー/ニア・キューザック/ベン・ダニエルス/アマンダ・ホールデン/チャーリー・クリード・マイルズ/シアラン・マクメナミン/パム・フェリス/ジョン・ハナー●日本放送:2006/12/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

■AXNミステリー「あなたが選ぶ!ミス・マープル(全23話) ベストエピソード」(2016年)
1位  シーズン1 第3話「パディントン発4時50分
2位  シーズン3 第4話「復讐の女神」
3位  シーズン4 第1話「ポケットにライ麦を」
3位  シーズン5 第4話「鏡は横にひび割れて」(同数票)

5位  シーズン3 第1話「バートラム・ホテルにて」
6位  シーズン2 第1話「スリーピング・マーダー」
7位  シーズン1 第4話「予告殺人」
8位  シーズン6 第1話「カリブ海の秘密」
9位  シーズン1 第1話「書斎の死体」
10位  シーズン1 第2話「牧師館の殺人」

11位  シーズン4 第4話「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」
12位  シーズン6 第3話「終わりなき夜に生まれつく」
13位  シーズン3 第3話「ゼロ時間へ」
13位  シーズン4 第2話「殺人は容易だ」 (同数票)
15位  シーズン5 第1話「蒼ざめた馬」
16位  シーズン5 第3話「青いゼラニウム」
17位  シーズン2 第3話「親指のうずき」
18位  シーズン2 第2話「動く指」
19位  シーズン3 第2話「無実はさいなむ」
19位  シーズン5 第2話「チムニーズ館の秘密」 (同数票)

21位  シーズン2 第4話「シタフォードの謎」
22位  シーズン4 第3話「魔術の殺人」
23位  シーズン6 第2話「グリーンショウ氏の阿房宮」

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第2話「牧師館の殺人」02.jpg原作に比較的忠実に作られていて、"原作と同じように"楽しめる。

牧師館の殺人dvd.jpg 牧師館の殺人 o3.jpg Marple The Murder at the Vicarage  1.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル Vol.2 牧師館の殺人」(DVD)

Marple The Murder at the Vicarage  2.jpgMURDER AT THE VICARAGE title.jpg ミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)の住むセント・メアリー・ミードのプロズロウ大佐(デレク・ジャコビ)は口煩く嫌味な性格で、村人達に嫌われていた。ある日、教区委員でもある大佐は、会計台帳を確かめるべく牧師館を訪ねるが、その日、彼はMarple The Murder at the Vicarage  3.jpg牧師館の書斎で遺体となって発見された。
 警察が捜査を始めたところ、プロズロウの妻アン(ジャネット・マクティア)との不倫関係にあった画家の画家ロレンス(ジェイソン・フレミング)が自首。ところが、それを知ったアンは「自分が殺した」と言い出す。だがその日、庭で周囲の人々の行動を見ていたMarple The Murder at the Vicarage  5.jpgミス・マープルの証言により、結局ロレンスとアンは無罪放免となる。逆に怪しい行動をしていたのは、レナード牧師の妻のグリゼルダ(レイチェル・スターリング)、プロズロウ家を取材しているデュフォス教授(ハーバート・ロム)とその秘書エレーヌ(エミリー・ブルーニ)、賭博に嵌っている副牧師ホーズ(マーク・ガティス)、プロズロウが密会していた女性ミセス・レスター(ジェーン・アッシャー)等々。果たして真犯人は誰か―。

牧師館の殺人 ハヤカワ文庫.jpg牧師館の殺人01.jpg ジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan)主演の英国グラナダ版で、この年に作られた第1シーズン4話の内の第2話。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1930年に刊行された作品で(原題:The Murder at the Vicarage)、ミス・マープルの長編初登場作品。このグラナダ版の第1話「書斎の死体」の原作が1942年刊行だから、ドラマの制作順が原作の発表順と違っているけれど、この映像化シリーズの方もBBC版同様、全部1950年代ということで統一設定されているようです(この「書斎の死体」は、ミス・マープルの部屋のカレンダーから、1951年の設定であることが窺える)。

Julie Cox(ジュリー・コックス)(若き日のマープル)/マーク・ウォレン(その恋人エインズワース大尉)
Julie Cox.jpgimagesCA6NJW2B.jpg セント・メアリー・ミード村の長閑な自然やミス・マープルの住まいの庭が美しく撮られていて、原作からの改変も比較的少なく(挙動不審の教授と助手のコンビをカットしていない点では、BBC版より原作に忠実?)、こっちを第1話にもってくるべきではなかったのかな。時間に余裕があったのか、原作には無い、若き日のマープル(ジュリー・コックス)と、その恋人の妻子ある男性(マーク・ウォレン)(出征で別れ戦死して不帰の人に)が、彼女の回想シーンの中で登場します。

牧師館の殺人10.jpg ミス・マープルは、偶然、殺人事件の起きた現場付近にいたため(彼女は牧師館の隣に住んでいる)"目撃証言"をしますが、スラック警部(ステフェン・トンプキンソン)から捜査経過を聴くうちに、自分がアリバイ作りに利用されたことに気付く―(この時点までは、マープルより犯人の方がしたたか)。

Marple The Murder at the Vicarage  4.jpg 原作では、先に大佐の殺人事件があって、後からミス・マープルの当時の状況説明があったり、いろんな村人たちが登場してきますが、この映像化作品では、大佐をはじめ村の人々を先にじっくり描いて、原作では終盤にある牧師の説教や副牧師の寄付金横領疑惑も全部前の方にもってきて、更にマープルが現場付近に居合わせた状況も描いて、その後で大佐が死んでいるのが見つかるという順になっているので、観ていて「なかなか殺人事件が起きないなあ」とは思いましたが、これも一つのテレビ的な描き方として悪くないように思いました(変に解説風になっていない。原作は牧師の手記の形をとっている)。

グリゼルダ(レイチェル・スターリング)/レティス(クリスティーナ・コール
Marple The Murder at the Vicarage  6.jpgMURDER AT THE VICARAGE 2004 01.jpg プロズロウ牧師とその若妻グリゼルダは、原作ではやや刺々しい関係でしたが、この作品ではそれほどでも、と言うより、むしろ蜜月状態。彼女も画家ロレンスに肖像を描いてもらっていましたが、プロズロウの娘レティス(クリスティーナ・コール)は水着姿で絵のモデルになっていて、これも原作通り(水着姿のクリスティーナ・コールをしっかり映像化しているのはサービス?)。突然村に来た謎の女性ミセス・レスターの正体も原作と同じです。

グリゼルダ(レイチェル・スターリング)/レティス(クリスティーナ・コール
レイチェル・スターリング.jpgChristina Cole 01.jpg 登場人物も容疑者の数も相変わらず多いけれど、犯人が施した時間トリックが少しややこしいぐらいで、あとはそれほど複雑なプロットでもないし、原作を読んでいなくても、"原作と同じように"楽しめるのではないでしょうか(ミス・マープルがどんな佇まいの家に住んでいるか分かっただけでも収穫)。但し、犯人の絞首刑の映像シーンは要らなかったように思います(何だか変に重くなってしまった)。

Christina Cole
第2話「牧師館の殺人」03.jpgChristina Cole.jpg第2話「牧師館の殺人」01.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」●原題:MURDER AT THE VICARAGE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/12/19●演出:チャールズ・パーマー●製作:マシュー・リード●脚本:スティーヴン・チャーチェット●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「牧師館の殺人」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/デレク・ジャコビ/ジャネット・マクティア/ジェイソン・フレミング/レイチェル・スターリング/ハーバート・ロム/エミリー・ブルーニ/マーク・ガティス/ジェーン・アッシャー/ステフェン・トンプキンソン/クリスティーナ・コール/ハーバート・ロム/マーク・ウォレン●日本放送:2006 /12/11●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

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原作からの改変点とビジュアル面の美しさが、シリーズの愉しみ方のポイントか。

ミス・マープル 書斎の死体 dvd.jpg書斎の死体.jpg 第1話「書斎の死体」3.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル Vol.1 書斎の死体」(DVD)  
ジェラルディン・マクイーワン/ジョアンナ・ラムレイ
Joanna Lumley2.jpg書斎の死体 t.jpg セント・メアリー・ミードにあるバントリー大佐(ジェームズ・フォックス)の屋敷で、ブロンドの若い女性の死体が発見され、同じ頃、観光地のマジェスティック・ホテルでダンス・ホステスをしていたルビー(エマ・ウィリアムス)が失踪したとの情報が入る。ルビーの従姉ジョージーが遺体を確認したところ、殺されたのはルビーであることが判明。バントリー夫人のドリー(ジョアン第1話「書斎の死体」1.jpgナ・ラムレイ)に捜査を依頼されたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、ドリーと共にマジェスティック・ホテルに滞在することになる。捜査に当たるバントリー大佐の友人メルチェット本部長(サイモン・カロウ)と応援のハーパー警視(ジャック・ダヴェンポート)は、最初はマープルが捜査に口を挟むのを迷惑がるが、次第に彼女の推理に頼るようになる。調べてみると、ルビーは大富豪のジェファーソン(イアン・リチャードソン)に気に入られており、多額の信託財産を受け取ることになっていた。養女になる話まで進んでいたという。ルビーが死ぬことで得をするのは、ジェファーソン家の嫁アデレード(タラ・フィッツジェラルド)と娘婿のマーク(ジェイミー・シークストン)だが、どちらもアリバイがあった。ルビーの相手役ダンサーのレイモンド(アダム・ガルシア)や映画製作者バジル(ベン・ミラー)にも容疑がかる。捜査が難航する中、またもや若い女性の死体が発見される―。

ミス・マープル 書斎の死体 001.jpg 2004年制作のジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan)主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシリーズ1全4話の内の第1話。グラナダ版は2013年までにシーズン6・全23話が制作され、ジェラルディン・マクイーワンがマープル役を演じたのは第3シーズン通算第12話まで。日本語版吹き替えは、第4話まで岸田今日子が担当しています(第5話から草笛光子)。
 
書斎の死体 ハヤカワ文庫.jpg 原作は1942年にアガサ・クリスティが発表した、ミス・マープルシリーズの第2長篇ですが(第1長編は『牧師館の殺人』)、この映像化作品では時代設定は、映画「日の当たる場所」('51年/米)の話が出てくることから、そのあたりかと思われ、シリーズを通してそういう時代設定になっているようです。

Joanna Lumleyc5.jpg バントリー大佐を「チャーリーとチョコレート工場」('05年)にも出ていたジェームズ・フォックス、その妻ドリーをボンドガールも演じたことがあるジョアンナ・ラムレイ(Joanna Lumley)、マジェスティック・ホテルに滞在中の資産家老人ジェファーソンを、ミュージカル「マイ・フェア・レJoanna Lumley.jpgディ」で知られるイアン・リチャードソン、ジェファーソンの義理の娘アデレードを、「ウェイキング・ザ・デッド 迷宮事件特捜班」で女性法医学者を演じたタラ・フィッツジェラルド、映画関係の仕事をしているということだったが実は下っぱの大道具係りだったというバジル・ブレイクを、「ミステリー in パラダイス」で警部補役を演じたベン・ミラーと、堅い役者らが脇を固めている印象。

 先行するBBC制作のジョーン・ヒクソン版の「書斎の死体」('84年)が156分の長尺であるのに対し、こちらは95分とコンパクトでテンポはいいですが、人物関係が富豪の口から早口で説明されたりするので、原作を知らないと全体把握はキツイかも。逆に、過去に原作を読んでいて、ちょっと忘れかけている人には丁度いいくらいで、その辺りに照準を合わせているのかも。

Joanna Lumley

 原作では飛行機事故で亡くなったことになっていた富豪の息子・娘を、プロローグでいきなり戦争中に自宅で誕生パーティの最中に被弾死したことに変える必要は無かったのでは。但し、そんなことよりもっと大きな変更点は、犯人の一人が男性から別の女性に変えられてしまっていることで、これにはちょっとビックリしました(しかも、共犯者と同性愛関係? シリーズとしてのオリジナリティを出そうとしたのか)。

 ミス・マープルにくっついて事件に身を乗り出してきて、一方で高級ホテルでの生活もエンジョイするドリーを演じるジョアンナ・ラムレイのファッションや、ホテル内やプールなどの豪華な設備、ダンスホールで毎晩繰り広げられるチャールストンやタンゴなど、お洒落、ゴージャス感、音楽を楽しめます。

第1話「書斎の死体」2.jpg マジェスティック・ホテルはクリスティの生まれ故郷トーキーにあるインペリアル・ホテルがモデルとされていますが、この映像化作品での美しい海岸線の白い崖は、映画「さらば青春の光」のラストシーンに出てきたイーストボーン郊外にあるビーチヘッドの崖ではないかと。

アガサ・クリスティー ミス・マープル vol1.jpg グラナダ版はビジュアル面で明るく綺麗に撮っているなあという印象で、ストーリー改変に不満を抱く人も当然いるだろうけれど、こうしたビジュアルを愉しむのと併せて、原作からの改変点を見つけることも(この作品の場合、"探す"というほどのこともないほど明確な違いがあるわけだが)愉しむようにすれば、映像、ストーリー共にそれなりに愉しめるかも。
アガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 1」 
【収録内容】
全4話収録:第1巻『書斎の死体』/第2巻『牧師館の殺人』/第3巻『パディントン発4時50分』/第4巻『予告殺人』

                              Joanna Lumley in 007
女優のジョアンナ・ラムリー.jpgjoanna lumley 007.png「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第1話)/書斎の死体」●原題:THE BODY IN THE LIBRARY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 1●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/12/12●演出:アンディ・ウィルソン●製作:マシュー・リード●脚本:ケビン・エリオット●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「書斎の死体」●時間:95分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/イアン・リチャードスン/タラ・フィッツジェラルド/ジェイミー・シークストン/ジョアンナ・ラムレイ/ジェームズ・フォックス/ベン・ミラー/メアリー・ストックリー/エマ・ウィリアムス●日本放送:2006/12/07●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

ミス・マープル ジェラルディン・マクイーワン.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル」AGATHA CHRISTIE`S MARPLE (ITV 2004~) ○日本での放映チャネル:NHK‐BS2(2006~)/ミステリチャンネル、AXNミステリー
ミス・マープル:

ジェラルディン・マクイーワン (Geraldine McEwan)(1作目「書斎の死体」~12作目「復讐の女神」まで)
ジュリア・マッケンジー (Julia McKenzie)(13作目「ポケットにライ麦を」~)

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誤訳論争はあるが清水俊二訳の方が好みか。再読でも楽しめる("叙述トリック"探しで?)。

そして誰もいなくなった ポケミス.jpg そして誰もいなくなった ポケット.jpg そして誰もいなくなった ポケット2.jpg そして誰もいなくなった クリスティー文庫 旧.png そして誰もいなくなった 青木訳.jpg
そして誰もいなくなった (1955年) (Hayakawa Pocket Mystery196)』['55年・'75年('01年復刻版)/清水俊二:訳]『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['03年/清水俊二:訳]『そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['10年/青木久恵:訳(装幀:真鍋博[1976年4月刊行のハヤカワ・ミステリ文庫初版カバーを復刻)]
ハヤカワ・ミステリ文庫創刊ラインナップ.jpg
 英国デヴォン州のインディアン島に、年齢も職業も異なる10人の男女が招かれるが、招待状の差出人でこの島の主でもあるU・N・オーエンは姿を現さない。やがてその招待状は虚偽のものであることがわかったが、迎えの船が来そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫).jpgなくなったため10人は島から出ることが出来なくなり、10人は島で孤立状態となる―。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1-1))』[清水俊二:訳]
          
And Then There Were None.jpgAnd Then There Were None2.jpg 1939年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(原題:Ten Little Niggers (米 Ten Little Indians) (改題:And Then There Were None))で、1982年実施の日本クリスティ・ファンクラブ員の投票による「クリスティ・ベストテン」で第1位になっているほか、早川書房主催の作家・評論家・書店員などの識者へのアンケートによる「ミステリが読みたい!」の2010年オールタイムベスト100の第1位、2012年実施の推理作家や推理小説の愛好者ら約500名によるアンケート「週刊文春・東西ミステリーベスト100」でも1位となっており(1976年創刊の「ハヤカワ・ミステリ文庫」の創刊ラインアップでもトップにきている)、クリスティの自選ベストテン(順不同)にも入っていて、クリスティ自身、インタビューで、自分でも最も上手く書けた作品であると思うと言っていたこともあります。

Collins Crime Club(1939)

そして誰もいなくなったcontent.jpgAND THEN THERE WERE NONE .Fontana.jpg この作品がよく読まれる理由の一つとして、10人もの人間が亡くなる話なのに長さ的には他の作品と同じかやや短いくらいで、テンポよく読めるというのもあるのではないでしょうか(しかも、後半にいくほど殺人の間隔が短くなる)。その分、登場人物の性格の描写などは極力簡潔にとどめ、心理描写も他の作品に比べると抑制しているように思います。まあ、あまり"心理描写"してしまうと「叙述トリック」になってしまうからでしょう。

AND THEN THERE WERE NONE .Fontana.1990

 それでも、『アクロイド殺し』のようにストレートにではないですが、「叙述トリック」の部分があり、よく知られている箇所では、生存者が残り6名になった時、残り5名になった時、残り4名になった時にそれぞれの内面心理の描写の羅列があって、お互いが疑心悪鬼になっている様が描かれているのですが(どれが誰の心理描写かは記されていない)、4名になった時はともかく6名と5名の時は、この中に「叙述トリック」があると。但し、それが"ウソ"の心理描写になっていてアンフェアでないかという指摘があります(つまり、そのうちの1つは犯人のものであるから)。

清水俊二3.jpg ところが、これは実は一部に訳者の清水俊二(1906-1988)の誤訳があって、正しく訳せば、例えば残り5名になった時の5人の心理描写の内の問題の1つは、当事者それなりのあることを警戒する心理を描いたと解することができるものであり、クリスティが巧妙に(アンフェアにはならないように)仕掛けた「叙述トリック」に訳者の清水俊二自身が嵌ってしまったとする見方があります(但し、清水俊二訳は誤訳には当たらないという見方もある)。

清水俊二(右は戸田奈津子氏)

そして誰もいなくなった  2.JPG 具体的には、清水俊二訳の1955年・ハヤカワ・ポケット・ミステリ版及び1975年改訂版、並びに1976年ハヤカワ・ミステリ文庫版で、残り5人になったときの各人の心理描写の3人目の中に「怪しいのはあの娘だ...」と訳されている部分がありますが、該当する原文は"The girl..."のみです(後に"I'll watch the girl. Yes, I'll watch the girl..."と続くが)。"The girl..."を「怪しいのはあの娘だ...」と訳してしまうと、この部分の心理描写は実は犯人のものであると思われるので、叙述青木久恵:訳 『そして誰もいなくなったe.pngトリックを通り越して読者をミスリードするものになっているという指摘であり、後の清水俊二訳('03年・クリスティー文庫版)ではこの部分は「娘...」のみに修正されています(この時点で清水俊二は15年前に亡くなっているわけだが)。因みに、2010年に清水俊二訳と入れ替わりにクリスティー文庫に収められた青木久恵氏の訳(表紙はハヤカワ・ミステリ文庫の1976年4月初版の真鍋博のイラストを復刻)では、この部分は「あの娘だな...」となっています。何れにせよ、"娘"のことを「次は自分の命を奪うかもしれない犯人ではないか」と怪しんでいるのではなく、「自分の計画を失敗に終わらせる原因となるのではないか」と警戒を強めているといった解釈に変更されているのが最近の翻訳のようです。

そして誰もいなくなった ジュニア版.jpg 青木久恵氏による新訳はたいへん読み易いのですが(「インディアン島」が「兵隊島」になっているのはポリティカル・コレクト化か)、ちょっと軽い印象も受けます。青木久恵氏は、2007年に同じ早川書房の「クリスティー・ジュニア・ミステリ」の方でこの作品を翻訳していて、時間的な制約があったのかどうかは知りませんが、自身による前の翻訳が"底本"になっているような感じがしました。より現代にマッチした言葉使いを意識したということかもしれませんが、個人的には清水俊二訳の方が(誤訳論争の対象になってはいるものの)どちらかと言えば好みです。初読の際の"???"の状態のまま最後の方のページをめくる興奮というのもあったかと思いますが...。但し、この作品は、再読でも楽しめる("叙述トリック"探しで?)傑作であることには違いないと思います。
そして誰もいなくなった (クリスティー・ジュニア・ミステリ 1)

そして誰もいなくなった 1945 01 00.jpgそして誰もいなくなった 1945 01.jpg この作品は、ルネ・クレール監督の「そして誰もいなくなった」('45年/米)をはじめ、ジョージ・ポロック監督の「姿なき殺人者」('65年/英)、ピーター・コリンソン監督の「そして誰もいなくなった」('74年/伊・仏)、アラン・バーキンショー監督の「サファリ殺人事件」('89年/米)など10回以上映画化されていますが、何れも、小説の方ではなく、クリスティ自身が舞台用に書いた「戯曲」版をベースにしたり、それをまた翻案したりしているそうで、そうした意味では、小説の方はまだ映画化されていないとも言えます(但し、「10人の小さな黒人」('87年/ソ連)だけは、戯曲版をベースにしておらず、原作での設定や展開がほぼ改変無しで採用されているという)。
ルネ・クレール監督「そして誰もいなくなった」('45年/米) ★★★☆

〈主な映画化作品〉
・「そして誰もいなくなった」('45年/米)バリー・フィッツジェラルド、ウォルター・ヒューストン出演。
・「姿なき殺人者」('65年/英)雪山の頂上の館が舞台になり、ロープウェーが停止し孤立という設定に。
・「そして誰もいなくなった」('74年/伊・仏・スペイン・西独)ピーター・コリンソン監督。舞台が砂漠の中のホテルに。オリヴァー・リード、リチャード・アッテンボロー、シャルル・アズナヴール出演。
・「10人の小さな黒人」('87年/ソ連)クリミア半島オーロラ岬に実存する1911年築の洋館を舞台に撮影。
・「サファリ殺人事件」('89年/英)舞台がアフリカの大草原に。キャンプ場のロープウェーのロープが切断され孤立。
・「サボタージュ」('14年/米)アーノルド・シュワルツェネッガー主演。内容や設定などは全くの別物か。

そして誰もいなくなった bbc02.jpgそして誰もいなくなった bbc01.jpg(●2015年制作の英BBC版テレビドラマは、時代が現代に置き換えられていて、10人のうち数人の属性(過去に犯した殺人の方法や動機など)が微妙に改変されているが、ラストは「戯曲」に沿ったこれまでの映画化作品と違って、原作「小説」の通り全員が"いなくなる"ものだった。)

 クリスティが自作を戯曲化したものでは、例えば戯曲「ナイルに死す」にはポワロが登場しないし、戯曲「検察側の証人」ではラストで小説にはないヒネリを加えるなど(ビリー・ワイルダー監督の「情婦」('57年/米)は戯曲に即して作られている)、小説からの改変が見られますが、この『そして誰もいなくなった』では、物語の中でも指摘されているように、"見立て殺人"のベースになっている童謡の歌詞の最後が「首を吊る」と「結婚する」の2通りあり、戯曲では「結婚する」の方を採用しています(改変するにしても歌詞に則っているのは立派)。

 従って、戯曲版は小説と結末が異なり、最後に男女が一組生き残るわけですが、おそらく戯曲が上演される頃には小説の方はよく知られ過ぎたものになっていて、そこで新たな"お楽しみ"を加えたのではないでしょうか(戯曲に比較的忠実に作られているルネ・クレール監督の映画作品についても同じことが言える)。まあ、最後タイトル通り誰もいなくなってしまうというのは、謎解きする人がいなくなって舞台や映画では表現しにくいというのもあるのでしょう。

 小説では、犯人が書き残し瓶に入れて海に流した手記が見つかったことによる後日譚風の謎解きになっているわけで、この犯人というのは、「神に代わって裁きを行う」"超越的"人物(ある種サイコ・シリアルキラー?)ともとれますが、裁きを行うという目的よりも、「誰にも解けない完全犯罪」を成し遂げるという手段そのものが目的化している印象も受け、そうした意味では、異常でありながらも、本格推理作家が創作上目指すところと重なる部分があるかもしれません。

【1955年新書化・1975年改訂(2001年復刻版)[ハヤカワ・ポケットミステリ(清水俊二:訳)]/1976年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(清水俊二:訳)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(清水俊二:訳)]/2010年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(青木久惠:訳)]】


そして誰もいなくなった bbcド.jpg そして誰もいなくなった NHK-BS.jpgそして誰もいなくなった bbc .jpg
& Then There Were None [Blu-ray]」英BBC版テレビドラマ

そして誰もいなくなった第1話1.jpg「アガサ・クリスティー そして誰もいなくなった」(全3回)●原そして誰もいなくなった 第2話.jpg題:& Then There Were None●制作年:2015年●制作国:イギリス●本国放送:2015/12/26~28●演出:そして誰もいなくなった 第3話.jpgクレイグ・ヴィヴェイロス●製作:ダミアン・ティマー/マシュー・リード/サラ・フェそして誰もいなくなった!_.jpgルプス●脚本:サラ・フェルプス●時間:210分●出演:メイヴ・ダーモディ/チャールズ・ダンス/エイダン・ターナー/サム・ニール/Mそして誰もいなくなったaeve-Dermody.jpgトビー・スティーヴンス/ダグラス・ブース/バーン・ゴーマン/ミランダ・リチャードソン/ノア・テイラー/アンナ・マックスウェル・マーティン●日本放送:2016/11/27●放送局:NHK-BSプレミアム(評価:★★★☆)
2016年11月27日、12月4日、12月11日NHK-BSプレミアムで放送

Maeve Dermody(メイヴ・ダーモディ)

And Then There Were None そして誰もいなくなった≪英語のみ≫[PAL-UK]

《読書MEMO》
●2017年ドラマ化 【感想】 原作の本邦初映像化作品であるとのこと(監督は和泉聖治、脚本は長坂秀佳)。登場人物および舞台は現代の日本に置き換えられ、一部の人物の職業や過そして誰もいなくなった ドラマ  03.jpgそして誰もいなくなった sawamura .jpg去に犯した殺人の方法、動機も変更されているが、BBC版と同じく、最後は原作「小説」の通り全員が"いなくなる"。そうなると、上述の通り、謎解きをする人がいなくなり、この問題をクリアするため、最終盤で沢村一樹演じる警視庁捜査一課警部・相国寺竜也が登場、彼がリードして捜査し(この部分はややコミカルに描かれている)、犯人が残した手紙ならぬ映像メッセージに辿りついて事件の全容が明らかになるという流れ。

そして誰もいなくなった ドラマ .jpgそして誰もいなくなった 文庫ドラマタイアップカバー.jpgそして誰もいなくなった 渡瀬_.jpg 2017年3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、エンディングで「このドラマは2016年12月20日から2017年2月13日に掛けて撮影されました。渡瀬恒彦さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます」と流れる。クランクアップの1ヵ月後に亡くなった渡瀬恒彦は、実際に自らが末期がんの身でありながらドラマの中で末期がん患者を演じており、その演技には鬼気迫るものがあった。警部役の沢村一樹の演技をコミカルなものにしたのは、全体として"重く"なり過ぎないようにしたのではないかと思ってしまったほど。同じく和泉聖治監督により2018年には「パディントン発4時50分~寝台特急殺人事件~」、2019年には「アガサ・クリスティ 予告殺人」が制作された。

そして誰もいなくなった ドラマ53.jpg「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」●監督:和泉聖治●脚本:長坂秀佳●プロデューサー:藤本一彦/下山潤/吉田憲一/三宅はるえ●音楽: 吉川清之●原作:アそして誰もいなくなった ドラマ 01.jpgガサ・クリスティ●出演:仲間由紀恵/沢村一樹/向井理/大地真央/柳葉敏郎/藤真利子/荒川良々/國村隼/余貴美子/橋爪功津川雅彦/渡瀬恒彦/ナレーション‐石坂浩二●放映:2017/03/25・26(全2回)●放送局:テレビ朝日

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ノンシリーズものを「おしどり探偵」 初老版風に改変? 原作と比べて一長一短という感じ。

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忘れられぬ死(2003年)洋DVD.jpg 大富豪でサッカーチームのオーナーのジョージ・バートン(ケネス・クラナム)は、チームが勝利した記念に祝賀パーティを開催するが、祝賀会の乾杯で、バートンの妻ローズマリー(レイチェル・シェリー)がグラスに口をつけた途端に倒れて命を落とす。パーティ客にチームの支持者でスポーツ省大臣のスティーヴン・ファラデー(ジェームズ・ウィルビー)とその妻アレクサンドラ(クレア・ホルマン)がいて、スキャンダルを避けたい首相補佐官の命令で、政府の秘密捜査官ジェフリー・リース大佐(オリヴァー・フォード・デイヴィス)とその妻キャサリン(ポーリーン・コリンズ)が捜査を開始することに。リースとキャサリンは、ローズマリーがファラデーと不倫関係にあったこと、さらに中絶をしていたことなどを突き止め、パーティに居合わせたローズマリーの妹アイリス(クロエ・ハウマン)や、姉妹の育ての親であるルシーラ・ドレイク(スーザン・ハンプシャー)、彼女が溺愛する息子のマーク・ドレイク(ジョナサン・ファース)、ジョージの秘書ルース・レシング(リア・ウィリアムズ)らに会い、夫婦間の様子や現場の状況などを聞き出すが、それぞれに容疑があり、真相を掴むことが出来なかった。そんな中、妻の死と不貞に悲しみ怒るとともに、彼女は殺害されたのではないかと疑うジョージは、祝賀パーティを再現することにするが、今度は自身が再現パーティの席上で毒殺される―。

忘られぬ死 ハヤカワ文庫09.jpg 原作は、1945年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:Sparkling Cyanide(泡立つ青酸カリ))、ポアロもマープルも登場しないノン・シリーズもの。1983年に一度「スキャンダル殺人事件」というタイトルで米国でTVドラマ化されていますが、こちらは2003年制作のグラナダTV版です。

 原作はローズマリーの死から1年を経た時点から始まっており、彼女を巡る様々な人々の心理描写が前半部分を占めますが、この映像化作品では、回想シーンとしてではなくリアルタイムで最初のパーティーが開かれており、テレビらしい演出。但し、ローズマリーの誕生会ではなく、サッカーチームが勝った祝賀会になっています。原作のジョージも富豪ですがサッカー成金などではなく、これも現代風の改変と言えます。

 1年後のパーティでも、原作ではジョージがローズマリー役を演じる女優を探していたが結局呼ばなかったことになっているのに対し、この作品では実際に簡単なモデルオーディション(下着審査!)をやって、身代わりをさせいます。

Pauline Collins.jpg 原作で事件の捜査に当たる元陸軍情報部部長のジョニー・レイス大佐が、リース(オリヴァー・フォード・デイヴィス)とキャサリン(ポーリーン・コリンズ)の初老夫婦に置き換わっています。2人は表向きは軍の年金課員と学校教員となっていて、本職は実の娘にさえ秘密にしているという設定ですが、何だかトミーとタペンスの「おしどり探偵」シリーズの"初老版"みたいな感じで(「おしどり探偵」シリーズも最後の「運命の裏木戸」では二人とも75歳になっているのだが)、キャサリンの方が夫のルースの方にあれこれ指示しているコミカルなタッチも似ています(キャサリンの姓はケンドールで、夫婦別姓? それとも離婚した?)。

Pauline Collins

 キャサリンの部下アンディ(ドミニク・クーパー)が、世界中のどこの監視カメラの映像も見られるといった最新のIT技術を駆使して情報集めをしてくれて、キャサリンらにとっては好都合だけれど、その分ややご都合主義な印象も(こうなると、今風と言うより近未来風か)。

Rachel Shelley.jpg 全体としては、冒頭にローズマリー(レイチェル・シェリー)の亡くなるパーティをもってきている分、登場人物の回想で綴る原作よりはテンポは良くなっていますが、原作では、最初のローズマリーの死が自殺なのか他殺なのか今一つはっきりしなかったのに対し、この映像化作品を見るとどうみても他殺という印象で、それでも検死審問で自殺とされてしまうのがやや不自然にも思えました。要するに、誰にも犯行を遂げようがないから(犯人の見当がつかないから)自殺扱いに―ということなのか。

Rachel Shelley

 原作が心理描写が多い割には、事件が起きた際の状況の描写が少なく、この作品はそれを映像化によって丁寧に描写しているように思いました。また、原作では特にルシーラの姉に対する忘れられぬ死(2003年)02.jpg思いや、不倫がばれた青年大臣スティーヴンの焦りなどが丁寧過ぎるぐらい丁寧に描かれている分、読者側からすれば彼らは早くから犯人候補から外れてしまうわけですが、この映像化作品では、物語がさほど進行しないうちは、彼らも"同等に"犯人候補として扱っている印象。カギとなる犯人男女の関係も、原作では早くから示唆されているのに対し、ここでは最後の方になって、監視カメラの密会映像からやっと分かるという、犯人当ての楽しみをより多く残している作りになっているように思いました。

忘れられぬ死(2003年)03.jpg 結局、ルシーラは単身で犯人の家まで行ってしまい、そこで犯人は誰かを知るわけで、そこへ遅ればせに...という結末が、テレビの刑事ドラマの結末みたいで、やや安っぽかったかな。現代風への置き換えはまあまあ上手く味付けされていると思います。原作と比べて一長一短という感じでした。
 
「アガサ・クリスティ/忘られぬ死」」●原題:AGATHA CHRISTIE`S SPARKLING CYANIDE●制作年:2003年●制作国:イギリス●本国放映:2003/10/05●監督:トリストラム・パウエル●製作:スーザン・ハリソン●脚本:ローラ・ラムソン●撮影:ジェームズ・アスピナール●音楽:ジョン・E・キーン●時間:日本放映版96分(完全版189分)●出演:ポーリーン・コリンズ/オリヴァー・フォード・デイヴィス/ケネス・クラナム/ジョナサン・ファース/スーザン・ハンプシャー/クレア・ホルマン/ジェームズ・ウィルビー/リア・ウィリアムズ/レイチェル・シェリー/クロエ・ハウマン●DVD発売:2005/12●発売元:ハピネット・ピクチャーズ(評価:★★★☆)

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細かい改変点は多々あるが、結局、意外と原作に忠実だったのかも。

蒼ざめた馬 dvd.jpg アガサ・クリスティー・コレクション 蒼ざめた馬.jpg 蒼ざめた馬 1997 axn.jpg
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マーク・イースターブルック(コリン・ブキャナン)
蒼ざめた馬マーク コリン・ブキャナン.jpg ゴーマン神父(ジョフリー・ビーヴァーズ)が、臨終間際のデーヴィス夫人(トリシア・ソーンズ)から紙片を渡されたすぐ後に路上で撲殺され、偶然現場に駆け付けた彫刻家のマーク・イースターブルック(コリン・ブキャナン)は、容疑者にされてしまう。レジューン警視(トレヴァー・バイフィールド)はマークが犯人と決め付けるが、コリガン警部補(アンディ・サーキス)は他の犯人を探っている。マークは自らの無実を証明するため、神父の持っていた紙片に書かれた人物の名前の謎を探るべく、女友達ハーミア(ハミオネ・ノリス)の友人、金持ちのティリー(アンナ・リヴィア・ライアン)を訪ねるが、訪問の翌日に彼女は死ぬ。医師オズボーン(ティム・ポッター)は病死としたが、彼女の親友だったケイト・マーサ(ジェイン・アッシュボーン)は、ティリーは何かにおびえていたと言う。村の「蒼ざめた馬」という屋敷に住むチルザ(ジーン・マーシュ)・シビル(ルース・マドック)・ベラ(マギー・シェヴリン)の三老女は、『マクベス』の魔女さながらに悪魔を呼び出す黒魔術を行っているという噂であり、歩けない名画蒐集家ヴェナブルス(マイケル・バイアン)の用心棒リッキー(ブレッティ・ファンシー)は神父殺害事件の夜、マークが見かけた男だった。
ケイト・マーサ(ジェイン・アッシュボーン)
蒼ざめた馬ケイト ジェーン・アッシュボーン.jpg 紙片の名前の主はみな自然死として死んでいることが判明し、しかも遺産は全て1人か2人に贈られていることから、マークは人を呪い殺す請負業があることを察する。弁護士ブラッドリー(レスリー・フィリップス)を通して、蒼ざめた馬の魔女たちが呪術を行うのだが、本当に人を呪い殺すことが可能なのか。マークはケイトと相談し、ケイトを囮にして犯人を導き出す計画を実行する。ティリーの遺産を受け継いだ叔母フロレンス(ルイ・ジェイムソン)も溺死し、娘ポピー(キャサリン・ホルマン)はおびえる。そしてケイトも、友人ドナルド(リチャード・オーキャラハン)の厳重な見張りにも関わらず、消費者動向調査員(ウェンディ・ノッティンガム)やガス会社の点検員の訪問以降、髪の毛が抜けて弱っていく―。

蒼ざめた馬 アガサ・クリスティ ハヤカワ文庫 2ー.jpg 原作は、1961年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:The Pale Horse)、ポアロもマープルも登場しないノン・シリーズもの。この映像化作品は、1997年制作のグラナダTV版です(VHS販売時のタイトルは「魔女の館殺人事件」)。

The Pale Horse 1997 e2.gif 原作でのマーク・イースターブルックはムガール建築の本を執筆中の歴史学者ですが、本作では建築家になっていて、神父の死体の第一発見者ということで、第一容疑者にされてしまいます。その彼の保釈金を払ってくれたのが、原作の女友達ハーミアで、この映像化作品では、ハーミアは大金持ちで、マークはその"ヒモ"的存在になっているなあ。

 原作で、マークと共に事件を探ることになる女友達のジンジャーは、病死したティリーの友達ケイト・マーサに置き代わっていますが、犯人の囮となるのは原作と同じで、マークと新たに知り合った女性との親密度が増すにつれてマークとハーミアの関係が解消されていく点なども原作と同じ。

AGATHA CHRISTIE'S THE PALE HORSE dvd.jpg 原作のマークの旧友で「警察医」のコリガンは「警部補」に置き代わっていて、マークを疑い続けるレジューン警視の下、このまでは自分の出世もおぼつかないと、独自にマークらと接触を図ります(マークとは初対面)。

 原作で、神父殺害現場でヴェナブルスを目撃したと絶対的自信をもって主張する「薬剤師」のオズボーンは、ティリーの死を病死としたオズボーン「医師」に。

 名画蒐集家のヴェナブルスが、車椅子生活を装いながら「実際は歩けた」という話は原作にはありませんが(その分、思いっきり怪しい存在になっているけれど)、結局彼は原作同様、銀行強盗には絡んでいたものの、連続殺人事件には絡んでいなかったということなのでしょう(コリガン警部補は彼を殺人容疑で逮捕してしまうのだが)。

 細かい改変点は多々ありますが、結局、プロット的には意外と原作に忠実だったのかもしれません。最後のマークとジンジャーのために仲間たちが設定したゴーゴー・パーティシーンは楽しいけれども(太縁メガネのコリガン警部補も一緒に踊っている。被疑者と刑事の垣根を越えた同世代共闘がモチーフだったわけか)、振り返ってみて、マークがどこで真犯人に気付いたのかがよく分からなかったなあ。
    
ダルジール警視.jpg蒼ざめた馬 1997 洋dvd.jpg マークを演じたコリン・ブキャナンは、この作品の前年から、BBCのレジナルド・ヒル原作の「ダルジール警視」シリーズに、ウォーレン・クラーク演じるダルジール警視の配下のパスコー刑事役で出ています。

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「アガサ・クリスティ/青ざめた馬(魔女の館殺人事件)」」●原題:AGATHA CHRISTIE`S THE PALE HORSE●制作年:1997年●制作国:イギリス/アメリカ●本国放映:1997/12/23●監督:チャールズ・ビーソン●脚本:アルマ・カレン●撮影:ビトルド・ストック●音楽:コリン・タウンズ●時間:日本放映版102分●出演:コリン・ブキャナン/ジェーン・アッシボーン/レスリー・フィリップス/ハーモインヌ・ノリス/マイケル・バーン/ジーン・マーシュ/アンディ・サーキス/ティム・ポッター●VHS発売:1997/04●発売元:ビデオメーカー(評価:★★★☆)

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概ね原作に忠実だが、元が暗い話だからなあ。

ミス・マープル 魔術の殺人 dvd.jpg ミス・マープル/魔術の殺人 1991 dvd.jpg 魔術の殺人 01.jpg 魔術の殺人 ハヤカワ文庫.bmp
ミス・マープル 第9巻 魔術の殺人 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.10 [DVD]

魔術の殺人 00.jpg ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は女学校時代の友人ルース・ヴァン・ライドック夫人(フェイス・ブルーク)から、ルイス・セラコールド(ジョス・エイクランド)に嫁いだ妹キャロライン(キャリー)・ルイーズ(ジーン・シモンズ)のことが心配なので様子を見に行ってくれるよう頼まれる。ルイスは自邸の敷地内で私営の少年更正施設を運営している。ルイスの秘書のエドガー(ニート・スウェッテンハム)が駅にマープルを迎えに来るが、キャリーの養女ジーナ・ハッド(ホリー・エアド)がマープルを車に乗せて屋敷へ。ジーナは、アメリカ人のウォルター(トッド・ボイス)と結婚しており、キャリーの二番目の夫の次男スティーヴン・レスタリック(ジェイ・ヴィリアーズ)が、施設内で少年同士の喧嘩が起きた際に及び腰で止めようとしなかったのを、ウォルターが止めさせる。エドガーは孤THEY DO IT WITH MIRRORS 01.jpg児で、自分は正当に評価されていないと思い込んでおり、自分の本当の父親はチャーチルだとマープルに真面目に言う。キャリーの最初の夫(故人)の連れ子で、ガルブランドセン財団の管理者であるクリスチャン・ガルブランドセン(ジョン・ボット)が急に屋敷を訪れ、ルイスと何やら話し合っている。ある晩、ルースが持参した女学校時代の16mmフィルムの映写会にエドガーが銃を持って乱入、ルイスとエドガーが書斎に籠ってルイスが書斎で宥めている間に銃声がし、映写会に顔を見せず別の部屋でタイプを打っていたクリスチャンが射殺体で発見される。ロンドン警察からスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッツ)やレイク警部補(イアン・ブリンブル)が乗り込んでくる。映写会の日に帰省したスティーヴンの兄アレックス・レスタリック(クリストファー・ヴィリアーズ)は、弟スティーヴンと共にジーナに気があり、二人ともウォルターの前で平気でジーナに言い寄る。施設の少年が事件当夜何かを目撃したと言う話をスティーヴンから聞いたアレックスは、刑事のふりをして少年から話を聞こうとするが―。

魔術の殺人 hpm2.jpg魔術の殺人 クリスティー文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第11話(本国放映は1991年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1952年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第5作They Do It with Mirrors (米 Murder with Mirrors)。

 このジョーン・ヒクソン主演のテレビシリーズ、概ね原作に忠実ですが、第11話ともなると若干遊びの要素も入れた方がいいと思ったのか、スラック警部が密かに素人手品に凝っていたりし(タイトルの「魔術」に懸けたのか)、一方で、原作にあるルイスの祖母の話(夫殺しの罪で絞首刑になった)などといった暗すぎる話はほぼ割愛されています。ジュリア・マッケンジー主演のグラナダ版('09年)はその逆を突いたのかどうかわかりませんが、この部分を前面に出しています(結果的にどろっとした感じに)。
 
Joan Hickson THEY DO IT WITH MIRRORS 1991.jpg 犯行が行われた際のフィルム上映会も原作には無く、但し、グラナダ版ではルイスが施設内でやる予定の演劇の練習発表会になっていて、ルイスが何とインディアンの酋長の恰好で出てくるので、まだこちらのジョーン・ヒクソン版の改変は穏やかな方だったか。

 犯人の末路は原作と同じですが、原作ではジーナからマープルへの手紙の中で後日譚として語られるのに対し、この映像化作品では、マープルが犯人を突き止めた直後の出来事として描かれており、まあこの辺りは、映像化するならば流れでこうなるのかなあと。

 ヒロインであるジーナの演じられ方が原作のイメージと違ったのと(快活と言うよりあばずれ。好きになれない)、ジーナとウォルターの後日譚が欠落していることもあって(この部分がこの作品の救いとなるはずなのだが)、個人的評価は星3つ(元が暗い話だからなあ)。

スラック警部2.jpg スラック警部がミス・マープルに一言だけあなたに言いたいことがあると言って、何を言うのかと思ったら、ぎこちなく「ありがとう」と。そうか、スラック警部の「手柄」になっているのかと思いつつも、このシーンは悪くなかったです(続く、シリーズ最終話となった第12話「鏡は横にひび割れて」でスラック警部は「警視」に昇進している)。

Miss Marple   They Do It With Mirrors.jpg「ミス・マープル(第11話)/魔術の殺人」●原題:THEY DO IT WITH MIRRORS●制作年:1991年●制作国:イギリス●本国放映:1991/12/29●演出:ノーマン・ストーン●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ジーン・シモンズ/フェイス・ブルーク/ホリー・エアド/ジェイ・ヴィリアーズ/ニート・スウェッテンハム/ジェイ・ヴィリアーズ/ジョン・ボット/クリストファー・ヴィリアーズ/デビッド・ホロビッチ/イアン・ブリンブル/ギリアン・バージ●日本放映:1997/03/14●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

Miss Marple :They Do It With Mirrors
  

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映像化によりカリブ海リゾートのイメージが掴めた。ドナルド・プレザンスの老富豪役も嬉しい。

カリブ海の秘密 dvd1.jpg カリブ海の秘密 dvd2.jpg カリブ海の秘密 01.jpg カリブ海の秘密 011.jpg
ミス・マープル 第4巻 カリブ海の秘密 [DVD]」「ミス・マープル/カリブ海の秘密 [完全版]VOL.5 [DVD]」 
ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)/パルグレイブ少佐(フランク・ミドルマス)/ヴィクトリア(ヴァレリー・ブキャナン)
カリブ海の秘密 1989Joan Hickson.jpgカリブ海の秘密 1989Frank Middlemass.jpgカリブ海の秘密 1989Valerie Buchanan.jpg ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)は、甥のレイモンドに持病の気管支炎の転地療養を勧められ、カリブ海のバルバドス島のホテルに滞在していた。ある日、宿泊客の一人で自慢話好きのパルグレイブ少佐(フランク・ミドルマス)から、2件の妻の自殺に関わった殺人容疑者だという人物の写真を見せられようとした時、彼がマープルの肩越しに誰かを見てそれをやめ、財布に写真をしまってしまうということがあった。その晩に酔っていた少佐は、翌朝自分の部屋で死んでいるのを部屋係のヴィクトリア(ヴァレリー・ブキャナン)に発見される。ヴィクトリアは少佐の部屋で死亡前には無かった不審な錠剤を見つける。
ティム・ケンドール(エイドリアン・ルーキス)/モリー(ソフィー・ウォード)/グレアム医師(T・P・マッケンナ)
カリブ海の秘密 1989Adrian Lukis.jpgカリブ海の秘密 1989Sophie Ward.jpgカリブ海の秘密 1989 T.P. McKenna.jpg ホテルの経営者ティム・ケンドール(エイドリアン・ルーキス)とヴィクトリアから報告を受けたティムの妻モリー(ソフィー・ウォード)は、グレアム医師(T・P・マッケンナ)に相談する。医師は大佐の死は高血圧によるものと判断するが、一応、ネピア総督(ショーガン・シーモア)に依頼してウェストン警部(ジョゼフ・マィデル)に埋葬した死体を再検査させる。
イヴリン(シェイラ・ラスキン)/エドワード(マイケル・フィースト)/ラッキー(スー・ロイド)
カリブ海の秘密 1989 Sheila Ruskin.jpgカリブ海の秘密 1989Michael Feast.jpgカリブ海の秘密 1989Sue Lloyd.jpg マープルはヴィクトリアから、彼女の叔母(イサベラ・ルーカス)が住む村へ招待され、その叔母からSophie Ward & Sheila Ruskin.jpgホテル経営者夫婦の来歴を聞く。ヴィクトリアは、錠剤を本来の持ち主グレッグ(ロバート・スワン)に返す。モリーは一時的に記憶を失うことがある不安を滞在客のイヴリン(シェイラ・ラスキン)に打ち明ける。イヴリンの夫でグレッグに雇われている蝶学者エドワーカリブ海の秘密 1989 Donald Pleasence.jpgド(マイケル・フィースト)は、最初の妻の看護婦で今はグレッグの妻であるラッキー(スー・ロイド)と関係しながらも、妻イヴリンとはとりあえず一緒にいる。カリブ海の秘密 Sue Lloyd .jpgそうした中、モリーが夕食時に、樹の傍で刺殺されているヴィクトリアを発見する。ホテルに滞在していた車椅子の大富豪ジェイソン・ラフィール(ドナルド・プレザンス)は、最初はミス・マープルのことを嫌っていたが、やがて彼女の観察眼の鋭さに気づき、マープルと共に連続殺人事件の推理を始める―。
ジェイソン・ラフィール(ドナルド・プレザンス)

A Caribbean Mystery.jpgカリブ海の秘密 クリスティー文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第10話(本国放映は1989年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第9作(原題:A Caribbean Mystery)。

 ミス・マープルとカリブ海のリゾートという取り合わせが興味深いですが、原作ではリゾート地の描写があまりされておらず、その分、映像的にどう作るかが一つの見所となり、また、作品のイメージをより身近に感じられるものでもありました。
 
 ストーリー的にも、牧師一行を宿泊客から割愛して登場人物を簡素化したり、マープルがヴィクトリアの実家を訪ねたり、或いはウェストン警部がミス・マープルの名を知っていたりとか一部改変はありますが、ほぼ原作に忠実で、宿泊客の2組の夫婦のドロドロな関係もよく描き分けている印象。犯人は、当初マープルも想定していなかった意外な人物ですが、原作ではその伏線があまり無く、最後まで誰が犯人か判らなかったけれど、この映像化作品では、大佐が殺害される夜に、犯人を示唆するシーンが一瞬あります。しかし、その後、宿泊客のそれぞれが不審な行動をはじめ、そちらの方へミスリードされるようになっていて、その"不審な行動"のそれぞれに理由があるという点で、原作の旨さを改めて認識した次第です。

刑事コロンボ 別れのワイン.jpg別れのワイン ラスト.jpg ミス・マープルと共に推理を展開することになる偏屈な金持ちの車椅子老人ラフィールを(この老人とミス・マープルとの当初険悪だった関係が、やがて共闘関係に転じていくところが本作の面白みの一つ)、映画「大脱走」('63年)でのバイプレーヤーぶりが光り、「刑事コロンボ/別れのワイン」('73年)ではシリーズ最高の犯人役を演じたと評されるドナルド・プレザンス(1919-1995)が演じているのが嬉しいです。

カリブ海の秘密 03.jpg 原作に対しては、やはり伏線が無かった分"掟破り"の印象を抱かざるを得ませんでしたが、この映像化作品ではそのヒントを与えているし、プロットが結構粗いところを、キャラクターをきちんと描き分けてドロドロした人物相関を浮かび上がらせることで補っている原作に倣って、この映像化作品も、ドラマ部分が丁寧に描かれているというか、説明的で分かりやすかったです(原作を先に読んでいるということもあるが)。

カリブ海の秘密 01.jpg 個人的には、原作が星3つ半の評価に対して、原作の魅力を忠実に再現しているという点、プラス、映像化によりカリブ海リゾートのイメージが掴めたり、ドナルド・プレザンスとジョーン・ヒクソンの演技競演が見られたりしたことを加味して星4つ。ミス・マープルがヴィクトリアの葬儀に参列するなども原作からの改変ですが、そのことによって「復讐の女神」というキータームの意味が明確化することに繋がっており、ここまできちんと作られてしまうと、後に来る映像化作品は、独自の改変を加え、"改変の妙"を狙ったものにならざるを得ないのかなあと。ストレートで勝負して、このジョーン・ヒクソン版を超えるのは難しいのでは。

A Caribbean Mystery 1989.jpg「ミス・マープル(第10話)/カリブ海の秘密」」●原題:A CARIBBEAN MYSTERY●制作年:1989年●制作国:イギリス●本国放映:1989/12/25●演出:クリストファー・ペティット●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ミドルマス/エイドリアン・ルーキス/ソフィー・ウォード/ドナルド・プレザンス/ロバート・スワン/シェイラ・ラスキン/ショーガン・シーモア/ジョゼフ・マィデル/マイケル・フィースト/スー・ロイド/バーバラ・バーンズ/スティーヴン・ベント/ヴァレリー・ブキャナン/イサベラ・ルーカス●日本放映:1996/04/09●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)

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クラッケンソープ家の兄弟関係などは原作に忠実。スーパー家政婦のイメージも原作に近い。

パディントン発4時50分 dvd.jpg  パディントン発4時50分 1987.jpg  パディントン発4時50分 07.jpg  パディントン発4時50分 クリスティー文庫.jpg
ミス・マープル 第3巻 パディントン発4時50分 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.4 [DVD]

パディントン発4時50分 01.jpg セント・メアリー・ミードへ行くためにパディントン発4時50分の急行列車に乗ったマクギリカティ夫人(モナ・ブルース)は、平行して走る列車を追い越す際に窓越しに女性が絞殺される瞬間を目撃、その話を信じるミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はスラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)に捜査を依頼するが、警察は手掛かりを見つけられず、夫人の勘違いだろうと片づける。そこでミス・マープルは、同じ列車に乗って犯人が死体を遺棄した場所を推察パディントン発4時50分 05.jpgし、フリーのハウスキーパーのルーシー・アイレスバロウ(ジル・ミーガー)に調査を依頼し、付近にあるクラッケンソープ家の住むラザフォード邸に彼女を家政婦として送り込む。屋敷の当主ルーサー(モーリス・デパディントン発4時50分 04.jpgンハム)は、先代の遺言で屋敷や土地を勝手に処分することはできず、遺産は彼の子供らにいくことになっていて、年一回相続権のある人間が集まって会食を開くことも遺言により決まっている。父の世話をしている長女エマ(ジョアンナ・ディヴィッド)のほか、屋敷に集まってきたのは、次男の画家セドリック(ジョン・ハラム)、三パディントン発4時50分 06.jpg男の銀行家ハロルド(バーナード・ブラウン)、四男のディーラーのアルフレッド(ロバート・イースト)、亡くなった次女の夫で子連れの保険会社員ブライアン(ディヴィッド・ビームズ)と息子のアレクサンダー及びその寮友達、そしてクインパー医師(アンドリュー・バート)。見届け人は、弁護士のアーサー・ウィンボーン(ウィル・ティシー)。ルーシーは古い納屋の石棺で女性の死体を見つけ、警察がその身元を探るうちに、今度は事故に見せかけてハロルドが森で殺される―。

パディントン発4時50分 ハヤカワ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第9話(本国放映は1987年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1957年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第7作(原題:4:50 From Paddington)。日本では1996年4月8日にテレビ東京「午後のロードショー」で放映され、1982年から放送が始まった同番組で最初に放映されたテレビシリーズがミス・マープルシリーズですが、そのミス・マープルシリーズの中で一番最初に放映されたのがこのエピソードです(以降、テレビ東京でのシリーズ作の放映が何作か続くが、結局放映されなかったエピソードもある)。

Miss Marple - 450 From Paddington.jpg 2004年に作られたジェラルディン・マキューアン主演のグラナダ版の同原作TVドラマ(左)が、クラッケンソープ家の男兄弟の順番を入れ替えたりしているのに対し、こちらは原作に忠実で、但し、原作でルーシー・アイレスバロウを巡って恋の鞘当をする画家セドリックと次女の夫ブライアンが、原作では結局ルーシーがどちらを選んだか明かしてしないのに対し、この映像化作品ではセドリックが最初から横柄なキャラクターとして描かれているため、彼がどれだけ強引にルーシーに言い寄ろうと、最終的にはルーシーがセドリックを選ぶことはまずないだろという大方の予想がつくようになっています。
David Horovitch
David Horovitch  'Miss Marple' (1987) 1.9.jpgミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分59.jpg その他にも、原作のクラドック警部(原作の『予告殺人』にも登場)ではなく、スラック警部(デヴィッド・ボロヴィッチ)が登場、彼はこのシリーズで第5話「牧師館の殺人」事件でミス・マープルに面目を潰されたこともあってか、シリーズ中ほとんどずっとミス・マープルを疎ましく思っているという設定で、このシリーズの第3話「予告殺人」に登場のスコットランドヤードのダッカム警部(デイヴィッド・ウォラー)が積極的にミス・マープルの意見を参考にする(ミス・マープルは旧知の友?)という描かれ方と対照的であるのも興味深いです(スラック警部もシリーズの最後の方第11話「魔術の殺人」でミス・マープルと和解(?)し、第12話「鏡は横にひび割れて」では「警視」に昇進、クラドック警部にミス・マープルに相談するようアドバイスする)。

 兄弟関係を原作通りにしているため、セドリックが偽悪的に描かれているほかは、各キャラクター造型は大体しっくりくるものがあり、何よりもジル・ミーガー演じるスーパー家政婦ルーシー・アイレスバロウが極めて原作に近い印象で、また、十分に魅力的、二人の男性に言い寄られて困惑する女性らしさも出ていました(グラナダ版で同役を演じたアマンダ・ホールデンは、今風と言うかアメリカ的なドライな感じ)。料理を作るシーンなどが無かったグラナダ版と比べると、ちゃんと料理もするし、最初から家族と同じ食卓につくようなこともありません。

 屋敷の作りなども本格的で、こんな大邸宅が舞台だったのかと。「納屋」と言ってもスケールが違う。ルーシーは広い庭園でゴルフの練習をするなど、家政婦にしてはハイブロウですが、彼女は元々オックスフォードを優秀な成績で卒業した才媛、但し、奉公先に高級クラシックカーで乗り付けたグラナダ版アマンダ・ホールデンのルーシーの過剰なセレブぶりよりは、これもしっくりきました(ゴルフ練習も実は行方不明の死体探しの方便)。

 セドリックの描き方の改変だけでなく、戦争の英雄でありながら今は一保険会社員に甘んじ屈折気味のブライアンが、ルーシーに感化されて前向きに行動するようになり、最後は犯人逮捕劇でヒロイックなアクションを演じるという、自信を回復してルーシーに相応しい男性へと変貌していく過程が織り込まれていることもあったりして、細部においては原作からの改変が幾つか見られますが、全体としては原作にほぼ忠実、原作のプロットや雰囲気を知る上ではぴったりの作品であり、また、原作の持ち味がよく出ているように思いました。

4:50 FROM PADDINGTON 87.jpg「ミス・マープル(第9話)/パディントン発4時50分」」●原題:4:50 FROM PADDINGTON●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:マーティン・フレンド●脚本:T.R.ボウエン●時間:日本放映版110分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/モーリス・デンハム/デヴィッド・ボロヴィッチ/デヴィッド・ビームス/モナ・ブルース/ジル・ミーガー/ジョアンナ・デヴィッド/ アンドリュー・バート/ジョン・ハラン/ローダ・ルイス/バーナード・ブラウン/ロバート・イースト/イアン・ブリンブル/ウィル・ティシー●日本放映:1996/04/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)


●テレビ東京「午後のロードショー」でのシリーズ作放映年月日()内「話数」は本国放映順。「午後のロードショー」放映時のタイトルはいずれも頭に「アガサ・クリスティ」とつき、"短縮版"が放映された。

・1996年4月8日(月)...「ミス・マープル・パディントン発4時50分」(第9話)日本放映版110分(完全版204分)
・1996年4月9日(火)...「ミス・マープル・カリブ海の秘密」(第10話)日本放映版108分(完全版203分)
・1996年4月10日(水)...「ミス・マープル・復讐の女神」(第8話)日本放映版106分(完全版204分)
・1996年5月7日(火)...「ミス・マープル・バートラム・ホテルにて」(第7話)日本放映版108分(完全版205分)
・1996年5月8日(水)...「ミス・マープル・スリーピング・マーダー」(第6話)日本放映版108分(完全版203分)
・1997年3月6日(木)...「ミス・マープル・ポケットにライ麦を」(第4話)日本放映版102分(完全版196分)
・1997年3月7日(金)...「ミス・マープル・牧師館の殺人」(第5話)日本放映版95分(完全版188分)
・1997年3月13日(木)...「ミス・マープル・動く指」(第2話)日本放映版95分(完全版189分)
・1997年3月19日(水)...「ミス・マープル・鏡は横にひび割れて」(第12話)日本放映版93分(完全版204分)
・1997年3月14日(金)...「ミス・マープル・魔術の殺人」(第11話)日本放映版93分(完全版204分)

※ 第1話「書斎の死体」(156分)と第3話「予告殺人」(155分)だけこの時放映されていない(2時間枠の番組に対し、この2作はテレビ放映用の"短縮版"が作られていない)。

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概ね原作に忠実だが、元が過去の事件だからなあ。映像化しにくい原作?

復讐の女神 dvd1.jpg 復讐の女神 dvd.jpg  復讐の女神 主要登場人物.jpg   復讐の女神 ハヤカワ文庫.jpg
ミス・マープル 第7巻 復讐の女神 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.1 [DVD]

missmarple460.jpg 老富豪ラフィ-ル(フランク・ガットリフ)は、秘書(バーバラ・フランチェスキ)にミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)のことを"復讐の女神"だと言っていた。一方ミス・マープルは、妻に追い出された甥のライオネル(ピーター・ティルベリー)を同居させていたが、新聞記事でラフィールの死を知り、カリブ海の島で彼と共に殺人事件を解決したことを思い出した。彼女はラフィールの弁護士ブロードリッブ(ロジャー・ハモンド)とシャスター(パトリック・ゴッドフリー)から、彼が遺言でマープルを「館と庭園の史跡巡り」バス・ツアーに"正義に関心があるならば"と招待していたことを知らされ、礼金は2万ポンドだが調査目的は不明。マープルは、何を解決すべきか分からないながらも故人の期待に応えるべく、ライオネルと共にツアーに参加することに。ツアーがアビー・デューシスに着いた時、旧領主邸からラヴィニア(ヴァレリー・ラッシュ)が、マープルに邸に泊まるよう迎えにを来て、ラフィールの手配であるというこ復讐の女神 03.jpgの招待を彼女は受ける。邸には、彼女の姉クロチルド(マーガレット・ティザック)と妹アンセア(アンナ・クロッパー)がいたが、姉妹は、何年か前にラフィールの息子マイケル(ブルース・ペイン)との婚約後に殺されたヴェリティの親権者だった。マイケルは証拠不十分で釈放され、貧民街で暮らしていた。そんな中、ツアーのメンバーの一人で、かつてヴェリティの教師だったエリザベス・テンプル(ヘレン・チェリーが何者に博物館で石像を落とされて意識不明の重態に。テンプルは、マープルに「あの人たちにヴェリティの真実を聞いて」との言葉を遺して亡くなる。ツアーに参加していたクック(ジェイン・ブッカー)とバロー(アリソン・スキルベック)の女性二人組はマープルを見張っている。同じくツアーメンバーのワンステッド教授(ジョン・ホースリー)は、ラフィールが依頼した犯罪心理学者、これもまたラフィールに呼び寄せられたというブラヴァゾン大執事(ピ-ター・コプリー)は、マイケルとヴェリティは真に愛し合っていたと証言し、ヴェリティは行方不明後半年して水路で顔を潰された死体で発見されたと言う。教授は同時期に行方不明になった少女ノラ・ブレントの母(リズ・フレィサー)に会い、一方マープルは、殺人の動機は"強い愛情"だと断言する―。

復讐の女神 クリスティ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第8話(本国放映は1987年)。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1971年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第11作(原題:Nemesis)で、『カリブ海の秘密』の後日談であり、マープルものでは最後に書かれた長編(この後、続編が予定されていたが、作者の死により未完)。

復讐の女神 1984 01.jpg 『カリブ海の秘密』の「後日談」なのに、このジョーン・ヒクソン版のシリーズでは「カリブ海の秘密」の2年前に作られ放映されていて、そのこと自体が、原作が「続編」と言うより後日談としての「別事件」であることを物語ってはいますが、原作では、ラフィ-ルさんはああ言った、こう言ったという話は結構出てくるんだよなあ(後に作られた「カリブ海の秘密」('89年)では、大富豪ラフィ-ルは、「刑事コロンボ/別れのワイン」('73年)のドナルド・プレザンスが演じている)。

復讐の女神 ラフィ-ルの息子マイケル.jpg ストーリー自体は基本的には原作に忠実ですが、原作では、甥のライオネルがミス・マープルと共にツアーに参加するどころか登場もせず(マープルの単独参加)、エリザベス・テンプルは博物館で石像を落とされて重傷を負うのではなく、野外で岩石を落とされて重体に。また、ラフィ-ルの息子マイケルは、原作では釈放されず収監されているため、貧民窟で貧民救済活動をしているなどといったことはなく、事件解決後に初めて登場する―細かいことを言えばそれ以外にも幾つかありますが、トータルでは概ね原作通りで、このシリーズの基調を外れていません。

 但し、大元(おおもと)の事件が過去のものであるため、それを映像化しないところは原作に忠実ですが(映像化すると"映像のウソ"になってしまうというのもあるが)、その分、やや印象的に弱いような...。原作(マープル物としてはマープルが単身で積極的に謎の解明に関与するという特異な部類?)を大きく下回るものでもないが、原作を超えるものでもないという印象でしょうか。
 2004年以降に作られたグラナダ版のミス・マープルシリーズにおいて、この作品が"純正マープル物"でありながらも今のところ('13年現在)映像化されていないのも、その辺りに理由があるのではないかな。

Miss Marple Nemesis dvd.jpg「ミス・マープル(第8話)/復讐の女神」」●原題:NEMESIS●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:デヴィッド・トッカー●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版106分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン/フランク・ガットリフ/ピーター・ティルバリー/ ブルース・ペイン/ ジェーン・プーカー/ヘレン・チェリー/ジョン・ホースリー/アリソン・スキルベック/ ピーター・コプリー/マーガレット・チザック/ヴァレリー・ラッシュ/ロジャー・ハモンド/パトリック・ゴッドフリー/リズ・フレィサー●日本放映:1996/04/10●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

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原作自体に好き嫌いはあるかと思うが、少なくとも原作の持ち味は出し尽くされていた。

バートラム・ホテルにて dvd01.jpg バートラム・ホテルにて dvd02.jpg  バートラム・ホテルにて 02.jpg  バートラム・ホテルにて ハヤカワポケット.jpg
ミス・マープル 第5巻 バートラム・ホテルにて [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.2 [DVD]

バートラム・ホテルにてJoan Hickson 1987.gifバートラム・ホテルにて 1987Caroline Blakiston.gifバートラム・ホテルにて 01.jpg ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)が、甥のレイモンドの好意でしばらく滞在することになった古風な格式をが売りの「バートラム・ホテル」。そこに偶々、女性冒険家のベス・セジウィック(キャロライン・ブラキストンン)も投宿していた。ミス・マープルはべス・セジウィックが結婚・離婚を繰り返していることを友人のセリナ(ジョーン・グリーンウッド)から聞く。
バートラム・ホテルにて 1987James Cossins.gifバートラム・ホテルにて 1987Helena Michell.gifバートラム・ホテルにて 1987バートラム・ホテルにて 1987.gif 同ホテルには、ラスコム大佐(ジェイムズ・コッシンズ)が姪と称するエルヴィラ・ブレイク(ヘレナ・ミッチェル)と宿泊しているが、実はエルヴィラはべス・セジウィックの娘で、21歳になると莫大な資産を相続することになっていて、大佐は彼女の後見人であった。また彼女は、母親べス・セジウィックの若い愛人でレーサーのラディスラウス(ロバート・レイノルズ)と連絡を取り合っている。
バートラム・ホテルにて 1987George Baker.gifバートラムPreston Lockwood.gif ホテルが大規模な強盗事件と関係があると以前から睨んでいて、ホテルで張り込みを続けているフレッド警部(ジョージ・ベイカー)は、ミス・マープルに警部であることを見抜かれてしまう。そんな中、宿泊客の一人ペニファーザー牧師(プレストン・ロックウッド)が大事な会議の日を間違えて飛行機に乗れずホテルに戻ってきたところを何者かに襲われ、そのまま失踪するという事件が発生した。 
バートラム・ホテルにて 1987 Neville Phillips.gifバートラム・ホテルにて 1987Brian McGrath.gif フレッド警部は失踪事件を捜査する警部に同行し、ホテルの受付係りやボーイ長のヘンリー(ネヴィル・フィリップス)らに聞き込みをするが、強盗事件、失踪事件とも手掛かりが得られずにいた。そこへ、離れたところで交通事故にあったらしく記憶を失っている牧師が戻ってきて、彼は自分の部屋で"鏡"を見たという。そんな中、ベスの元夫でホテルのドアマンのマイケル・ゴーマン(ブライアン・マクダラス)がホテル前で射殺される。銃撃されたエルヴィラを庇って自分が撃たれたらしい。犯罪組織の黒幕は誰か。ゴーマンを射殺したのは誰か―。

バートラム・ホテルにて ハヤカワ文庫.jpgバートラム・ホテルにて クリスティー文庫2ー.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第7話(本国放映は1987年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表された作品(原題:At Bertram's Hotel)。

 この映像化作品のプロローグでは、列車でロンドンのホテルに向かうミス・マープルと、航空機でホテルに向かうベス・セジウィックが交互に出てきますが、これ、ハヤカワ・ミステリ文庫の真鍋博(1932-2000)による表紙イラストのモチーフと同じです(真鍋博の発案の方が先か。重なったのは偶々だと思う)。

バートラム・ホテルにて 03.jpg 内容はほぼ忠実に原作をなぞっており、この作品の主人公は、表向きは由緒正しく、実は犯罪組織の大掛かりな犯罪のための「舞台装置」である「バートラム・ホテル」そのものであると言ってもよく、それだけにそのホテルをどう撮るかというのが一つの大きなポイントになるわけですが、雰囲気がよく出ているなあという印象(ミス・マープルは、あまりに昔のままであることに却って違和感を抱くわけだが)。原作でかなりの分量を割いているAT BERTRAM`S HOTEL 19871.jpgホテル内の描写や、そこで行われるお茶会の模様が、映像だと一発で分かるわけで、そこが映像の強みですが、逆にイメージと違ったりすると大きな引っ掛かりになるわけで、その点に関しては、この映像化作品は一定水準をクリアしているように思いました。

AT BERTRAM`S HOTEL 19872.jpg 更に、エルヴィラがベス・セジウィックの娘であることも原作よりも早くから明かされており、ますますテンポがいいと言うか、娘エルヴィラに冷たく接するベス・セジウィックの真意というのが作品の一つのテーマになっているため、ドンデン返しの結末の伏線として、早い段階に母娘の対面を持ってきたのも悪くないように思いました。

AT BERTRAM`S HOTEL 19874.jpg この作品、前半部分は、ホテルが何らかの秘密を抱えているらしいという、その謎がメインであって、一方、エルヴィラは、自分の相続関係を調べまくっています。原作を知らないで観ると、メイドが牧師の部屋に入っていったところでその死体を見つけるというのが、時間帯的にもそろそろといったタイミングであるように思われることから、「死体発見シーン」的な典型的な効果音につられて、ついそう思い込んでしまうでしょう。原作を知らない人向けの演出だったんだなあ、あれは(バックの音楽とは裏腹に何も起きないわけだが、このメイドも"一味"だったみたい)。行方不明になった牧師が戻ってきて、ミス・マープルが"鏡"を見たという彼の言葉を頼りに実地検分してみせる場面は、"適度に解説的"でいいのではないかなあ。

 そうこうしているうちに、ドアマンが射殺されるという殺人事件が起きるのですが、それは原作同様、やっとこさ終盤近くになってから。但し、終盤に畳み掛けるように事件の全貌を明かす原作に対し、この映像化作品の方は、途中で少しずつコトの経緯を明かしている印象です。

 それでも、フレッド警部(彼自身が"やり手"であるにも関わらず、次第にミス・マープルべったりになっていく様が愉快で、いい味出している)が"犯人"の自供につられ「組織の黒幕」=「射殺犯」と思い込むに対し、ミス・マープルの意外な謎解きがあって充分に楽しめ、エゴイスティックな犯人は、その場においては見逃されてしまった原作とは異なり(原作のままでは一般には後味悪かろうと考えたのか)しっかり逮捕連行されています。

 原作も好き嫌いはあるかと思いますが、少なくとも原作の持ち味は十分に出し尽くされていた映像化作品ではないでしょうか。ここまでしっかり作られると、後から再映像化する側が、原作にヒネリを加えたくなるのは分かります。2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版では原作を大胆に翻案していますが、それはそれで成功しているように思いました。
 
Agatha Christie's Miss Marple 1.jpg「ミス・マープル(第7話)/バートラム・ホテルにて」」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:メアリー・マクマーレイ●脚本:ジル・ハイエン●時間:日本放映版108分(完全版205分)●出演:ジョーン・ヒクソン/キャロライン・ブラキストン/ヘレナ・ミッチェ/ジェームス・コッシンズ/ジョアン・グリーンウッド/ジョージ・ベイカー/ プレストン・ロックウッド/ブライアン・マクダラス/ロバート・レイノルズ●日本放映:1996/05/07●放映局テレビ東京(評価:★★★★)

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原作にほぼ忠実であり、原作同様に推理を堪能できるのではないか。

スリーピング・マーダー dvd00.jpg  スリーピング・マーダー dvd.jpg  スリーピング・マーダー 001.jpg  スリーピング・マーダー クリスティー文庫.jpg
ミス・マープル 第2巻 スリーピング・マーダー [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.3 [DVD]

Sleeping Murder, 1987 002.jpg ニュージーランドで育ったグエンダ・リード(ジェラルディン・アレクサンダー)は、夫ジャイルズ(ジョン・モルダー=ブラウン)と新居を購入したが、屋敷の持ち主に案内される前に寝室の場所が分かったり、庭師に頼んだ階段が既に柳の木の下にあったり、建築家に頼んだ扉が壁の裏側にあったりと、初めてのはずの家の中を隅々まで知っているような感覚を抱く。
スリーピング・マーダーDavid McAlister.gif 夫ジャイルズは、ロンドンに住む従弟のレイモンド・ウェスト(ディヴィッド・マカリスター)夫とその妻に会ってグエンダを紹介、レイモンドの叔母ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)と皆で観劇に行くが、劇中の夫が妻を絞殺する場面で、グエンダは恐怖に駆られ叫び出し、マープルはそれは彼女の過去の記憶のせいだと推理、過去は掘り返さない方がよいと助言しつつも調査したところ、グエンダの父はインドから英国へ帰航中にへレンと会って結婚したが、新妻は駆け落ちしていたことが分かる。
スリーピング・マーダー 1987 13.jpg グエンダがヘレンの情報を求める新聞広告を出すと、ヘレンの兄ジェイムズ・ケネディ医師(フレデリック・トレヴェス)が訪ねて来て、彼の話をもとに父の居たナトリウムを訪ね、父の死が、自分がヘレンを絞殺したという妄想に駆られての自殺だったことを知らされる。ヘレンには誰か他の男がいたらしく、グエンダはヘレンの恋人だった男を探し出し、弁護士ウォルター・フェーン(テレンス・ハーディマン)、退役少佐リチャード・アースキン(ジョン・ベネット)、観光会社経営ジャッキー・アフリック(ケネス・コープ)らと会うが、彼らは皆ヘレンに振られただけのようで、犯行証拠は得られない。
 しかし、元料理人イーディス・パジェット(ジーン・ヘイウッド)から、ヘレンの駆け落ち当夜、メイドのリリー(エリル・メイナード)が、旅行鞄の洋服の不自然さから、駆け落ちは見せかけで本当は旦那様に殺されたんだと言っていたことを聞き、リリーから話を聞こうとするが、リリ-は会いに来る途中で絞殺される。マープルが、屋敷の庭の不自然に植えられた柳の下を警察に依頼して掘らせると、そこにはヘレンの死体が埋まっていた―。

スリーピング・マーダー 1987 22.jpg スリーピング・マーダー 文庫.jpg 1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第6話(本国放映は1987年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、その遺言により没後の1976年に刊行された作品(原題:Sleeping Murder)。

 新居探しを夫婦でするなど原作と一部の違いはありますが(原作ではグエンダが単独で探す)、概ね原作に忠実に作られており、原作が充分に推理を堪能できるものであるだけに有難いなあと。これも、「原作を読んだ気」になりたければ、お薦めの映像化作品。

Sleeping Murder, 1987 003.jpg グエンダを演じるジェラルディン・アレクサンダーは、グラナダ版「スリーピング・マーダー」('06年/英)でグエンダを演じたソフィア・マイルズほどには今風の美女というわけではないけれど、本作においては新妻らしさが出ていて良く、ジョン・モルダー=ブラウン(かつて、マクシミリアン・シェル監督、ツルゲーネフ原作の映画「初恋(ファースト・ラブ)」('70年/西独)やイェジー・スコリモフスキー監督の「早春」('70年/英)に美少年俳優として主演)演じるジャイルズもいいです。すぐに仕事に就かなくてもいいという状況設定であるにしろ、根気強く妻の過去の探求に付き合って、いい旦那さんだなあと(まあ、新婚だからね)。

 ヘレンの元恋人たちの、弁護士がマザコンぽかったり、退役少佐が嫉妬深い妻の元であまり幸せそうでなかったり、観光会社経営者が破れた恋を忘れるかのように仕事と趣味に生きていたりする人物造型などもほぼ原作通りですが、主人公である若く希望に満ちたカップルとの対比で、恋愛や夫婦生活というものの様々な位相を上手く見せているように思いました。

 しいて言えば、犯人役が、出てくるなり怪しいという印象を受けなくもないですが、こっちが犯人だと分って観ているせいもあるのかも。原作同様、犯行動機が最後まで伏されているため、原作を未読の人には、推理の面でも楽しめると思います(DVDジャケットが、ミス・マープルがラストで珍しくアクションをすることを仄めかしていて、やや他のものと雰囲気が異なるなあ)。

Sleeping Murder, 1987 001.jpg「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー」」●原題:SLEEPING MURDER●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:ジョン・デイビス●脚本:ケン・テイラー●時間:日本放映版108分(完全版203分)●出演:ジョーン・ヒクソ/ジェラルディン・アレクサンダー/ジョン・モルダー=ブラウン/フレデリック・トレーヴス/ジーン・アンダーソン/テレンス・ハーディマン/ジョーン・スコット/エイリル・メイナード/ケネス・コープ●日本放映:1996/05/08●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)

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「原作を読んだ気」になりたければ押さえておくべき作品だが、犯行トリックが分かりにくい。

牧師館の殺人 dvd.jpg  牧師館の殺人 dvd2.jpg 牧師館の殺人 t2.jpg    牧師館の殺人 クリスティー文庫 新訳.jpg
ミス・マープル 第10巻 牧師館の殺人 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.8 [DVD]

牧師館の殺人010.jpg セント・メアリ・ミード村の牧師クレメント(ポール・エディントン)の若妻グリセルダ(チェリル・キャンベル)は料理が苦手なメイドに不満を抱いている。そのメイドのマリー(レィチェル・ウィーヴァー)は密猟で刑務所を出たばかりのアーチャー(ジャック・ギャロウェイ)と恋仲で、仕事の方はおざなり。クレメントが牧師館の離れを貸している画家レディング(ジェームス・ヘイゼルダイン)は、プロセロー大佐(ロバート・ラング)の妻アン(ポリー・アダムズ)と恋愛中で、前妻の娘レティス(タラ・マックゴーラン)の水着姿も描いている。副牧師ホゥズ(クリストファー・グッド)は情緒不安定であり、数日前から村に滞在している"謎の女"レストレンジ夫人(ノルマ・ウェスト)を、医師ヘィドック(マイケル・ブラウニング)は親身に思って診察している。そんな中、教会の募金が消えたことに疑いを持ち、帳簿を調べるために牧師館に来ていたプロセロー大佐が書斎で射殺体で見つかり、地元警察のスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッチ)とレイク警部補(イアン・ブリンブル)が捜査に乗り出すが、画家のレディング自首し、誰もが事件は解決と思った。ところが彼にはアリバイがあって犯行不可能とされ、続いて、彼と恋仲にある大佐の妻アンが、自分が夫を殺害したと認めるが、これも筋が通らない―。

牧師館の殺人 マープル.jpg 1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第5話(本国放映は1986年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1930年に刊行されたミス・マープルの長編初登場作品(原題:The Murder at the Vicarage)。ジョーン・ヒクソンはおおよそ80歳だったことになります(後に作られるジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan、1932‐)主演の「グラナダ版」は(「牧師館の殺人」は2004年制作)、マクイーワンは当時72歳ぐらいか)。

 ジョーン・ヒクソン版は、シリーズを通して時代設定を1950年代に統一しているため、この「牧師館の殺人」では、原作の戦前の話が戦後の話に置き換わっていますが(ジェラルディン・マクイーワン版もおそらくそう)、どちらかと言えば原作寄りに衣装や風俗、建物や自動車などを再現している感じで、ストーリー展開も原作に忠実です(但し、原作は牧師の手記の形をとっている)。

牧師館の殺人 01.jpg 例えば、この事件の犯人はわざとミス・マープルの目の前を通って行ったうえで犯行を犯し、彼女に捜査をミスリードする証言をさせるわけですが、事件後に捜査が始まってからの「マープル証言」の中での"振り返り"としてその場面が出てくるのに対し、グラナダ版ではリアルタイムでその場面を映しています。

 このように、BBCのこのシリーズは概ね原作に忠実に作られているため、映像化作品を通して「原作を読んだ気」「読み直した気」になりたければ、本作もやはり押さえておくべき作品でしょうか。

 グラナダ版の「牧師館の殺人」の方も、シリーズの中では改変が少ない方ですが(挙動不審の教授と助手のコンビをカットしていない点では、BBC版より原作に忠実?)、原作に無い人物が出てきたりするので、原作に忠実であることを求める人には好かれないのかも。但し、説明的に作られているという点では、このBBC版「牧師館の殺人」よりも犯行の時間差トリックが分かりよいので、BBC版を観てよく分からない部分があった人が、グラナダ版を観て腑に落ちるというこはありそうな気がします。

 画家がレティスの水着姿を描いていることになっているけれど、レティスの水着姿は映像としては出てこず(グラナダ版ではしっかりビキニ姿になっている)、但し、この作品のレティスそのものがあまり魅力的な女性に感じられず、むしろ、牧師の若妻グリセルダや、実はレティスの実の母親で不治の病にあるというレストレンジ夫人の方が、カメラアップに相応しい容貌かも。

牧師館の殺人 02.jpg これ観ると、スラック警部はミス・マープルとの出会いがしらから「事件のあるところにミス・マープルあり」とウンザリしている様子で、最後の最後までミス・マープルを疎ましく思っている印象を受けます。

 ラスト、メイドは恋人と一緒になれてハッピー、一方、マープルは若妻の妊娠を見抜いて、牧師にとってもハッピーエンドですが、レティスと実の母親である(これもマープルが見抜く)レストレンジ夫人が残り僅かながらも濃密な時間を持つことができたというモチーフが、やや脇に回っている印象も。

 ジョーン・ヒクソンの演技はこの作品でも定評通りで、派手さを抑えたちょっとくすんだトーンのセント・メアリ・ミードの描写も良かったですが、デジタル処理してもこのくすみは消えないのかという印象も。それと、オリジナルはもっと長尺(3時間強)であり、このシリーズのテレビ版は概ね上手く短縮編集されていますが、この作品についてはやはり、途中端折ったような印象を受けました。

 本当は関完全版を観て評価すべきなのでしょうが、この作品はテレビ放映でしか観ておらず、テレビでは今まで短縮版しか放映していないのではないかな。この「牧師館の殺人」について言えば、個人的には、グラナダ版の星4つに対してこのBBCの方は星3つぐらいかなあ、BBC版の評価がグラナダ版を下回るのは自分としては珍しいことだけれど、「短縮版としての評価」になってしまうため、その分BBC版にハンディがあるとも言えるかも。

牧師館の殺人.jpg「ミス・マープル(第5話)/牧師館の殺人」」●原題:THE MURDER AT THE VICARAGE●制作年:1986年●制作国:イギリス●演出:ジュリアン・エイミーズ●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版95分(完全版188分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ポール・エディントン/ロバート・ラング/シェリル・キャンベル/ポリー・アダムス/タラ・マクゴーラン/ジェームス・ヘイゼルダイン/デヴィッド・ホロヴィッチ●日本放映:1997/03/07●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

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美人が出てこないのが故レックスの周辺の暗さを物語っている感じ。原作にほぼ忠実。

ミス・マープル/ポケットにライ麦を dvd.jpg  A Pocketful of Rye title.gif Joan Hickson 1855.gif   ポケットにライ麦を クリスティー文庫2.jpg
ミス・マープル[完全版]VOL.7 [DVD]」 Joan Hickson in Agatha Christie's Miss Marple:A Pocketful of Rye
Rex Fortescue (Timothy West)
ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を timothy west.gif 投資会社社長レックス・フォーテスキュー(ティモシー・ウェスト)が事務所で、秘書のミミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を01.jpgス・グローブナー(スーザン・ギルモア)がお茶を運んだ直後に急死し、その上着のポケット一杯にライ麦が入っていた。ニール警部(トム・ウィルキンソン)とヘイ巡査部長(ジョン・グローヴァー)は数時間前に摂取されたアルカロイド系毒物が死因と鑑識医フレンチ(ルイス・マホニー)から聞き、朝食に毒を盛られたとみて、レックスの自宅であるイチイ邸に行く。
Mary Dove (Selina Cadell)Adele (Stacy Dorning) 
メリー・ダヴ(セリナ・ケイデル).gifStacy Dorning.jpg 家政婦メリー・ダヴ(セリナ・ケイデル)によれば、亡くなったレックスは皆に嫌われていた。若い後妻アディール(スティシー・ドーニング)はヴィヴィアン・デュボア(マーティン・スタンブリッジ)という男と浮気中であり、義理の姉エフィー・ヘンダーソン(ファビア・ドレイク)は階上の自室に籠り切り。邸には長男パーシヴァル(クライブ・メリン)とその妻ジェニファー(レイチェル・ベル)が同居し、他に執事クランプ(フランク・ミルズ)と料理人のクランプ夫人(メレリーナ・ケンドール)、メイドのエレン(ビュー・ダニエルズ)、マープルが躾けを教えたやや愚鈍な小間使いグラディス・マーティン(アネッテ・バッドランド)がいた。
Lance (Peter Davison)
ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を  ランス.jpg レックスにアフリカから呼ばれた次男のランス(ピーター・デビソン)が、貴族出身の未亡人での妻パトリシア(フランセス・ロウ)をホテルに置いて邸へ来た夜、アディールが飲み物で毒殺され、グラディスからの電話を受けたミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)はマザー・グースの「6ペンスの唄」の歌詞を思い出す。彼女はイチイ邸にタクシーで駆けつけるが邸に入れてもらえず、ニール警部にメモを渡すも彼はそのメモを見ない。その夜、グラディスが洗濯物干し場で殺されているのが発見され、鼻には洗濯バサミが。マザー・グースの歌詞に沿えば、"つぐみ"が事件の背景にあるはずだとミス・マープルは警部に助言し、ランスはアフリカの"つぐみ"鉱山のことだろうと言う。レックスは昔その鉱山で鉱山技師のマッケンジーを見捨てて帰国しており、彼の子供がレックスへの恨みから犯行に及んだ可能性も。更には、犯行にあたって、男性と付き合いたいというグラディスの女心を巧みに利用した男がいるらしい―。

ポケットにライ麦を ハヤカワ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第4話(本国放映は1986年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)が1953年に発表したミス・マープルシリーズの長編第6作(原題:A Pocket Full of Rye)であり、マザー・グースの歌詞どおりに殺人が起きる所謂"見立て殺人"です。

 個人的には、原作を読んだ際には、最後の土壇場まで犯人が判らず(ニール警部も同様)、犯人に該当した人物は、『スリーピング・マーダー』の若夫婦や「トミー&タペンス」シリーズの"おしどり探偵"のように事件の真相を探る側に属していると思い込んでしまったために、その意外性が強く印象に残りましたが、それぐらい"好人物"っぽく描かれています(ある意味、"叙述トリック"気味(?)なくらい)。

Patricia Fortescue (Frances Low)
パトリシア(フランセス・ロウ).gif でも、この映像化作品では、ちょっと雰囲気違うなあと。原作を読み犯人が判っていて観ているというのもあったとは思いますが、この犯人、途中でかなりあからさまに怪しげな素振りもみせるし...。

 何よりもイメージが違ったのは、ランスの妻で貴族出身の未亡人パトリシアで、思ったほど美人ではないというか、ハナからこの女性は幸せになれそうな感じではないなあという雰囲気に満ちている...。

Miss Grovenor (Susan Gilmore)/Gladys Martin (Annette Badland)
ミス・グローブナー(スーザン・ギルモア).gifグラディス・マーティン.gif レックスの会社の秘書のミス・グローブナー(スーザン・ギルモア)もそんな美人ではないし、レックスの若い後妻アディールは軽薄そうだし、小間使いグラディスに至っては...。レックスの義姉エフィー・ヘンダーソン(原作ではラムズボトル姓)が一番イメージ通りだったけれど(何だか全てを見透かしている感じ)、これは酸いも甘いも知り尽くしたお婆さんであり、あまり美人が出てこないというのが、故レックスの周辺の暗さを物語っている感じでした。

ポケットにライ麦を 08.jpg 原作は、犯人の手の込んだ遣り口に対して評価が割れるようですが、個人的には面白く読めた作品であり(評価★★★★☆)、プロット的にも精緻だと思われる傑作。その傑作をほぼ忠実になぞっているから(被害者殺害直前の模様を再現シーンで構成しているのは親切)、いろいろ役者のイメージにケチはつけたものの、そう悪い作品にはなりようがないという感じでしょうか。ただ最後だけ、勝手に犯人にカーチェスをやらせて、原作には無い天罰を下してしまったけれど...。

 因みに、ラストシーンのカーチェイス。左右の道路標識(速度制限標識)は'50年代にはまだ無かったタイプのものらしい。

ミス・マープル 第10巻「ポケットにライ麦を.jpgポケットにライ麦を09.jpg「ミス・マープル(第4話)/ポケットにライ麦を」」●原題:A POCKETFULL OF RYE●制作年:1986年●制作国:イギリス●演出:ガイ・スレーター●脚本:T.R.ボウエン●時間:日本放映版102分(完全版196分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ティモシー・ウェスト/ファビア・ドレイク/クライブ・メリン/セリーナ・ケイデル/スティシー・ドーニング/トム・ウィルキンソン/ピーター・デビソン/レイチェル・ベル/スーザン・ギルモア/マーティン・スタンブリッジ/フランセス・ロウ●日本放映:1997/03/06●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)ミス・マープル 第10巻「ポケットにライ麦を」【字幕版】 [VHS]」 (101分)

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原作にたいへん忠実。箇所によっては原作より丁寧に謎解きしている。

A MURDER IS ANNOUNCED 1985.jpg予告殺人 dvd.jpg Miss Marple A Murder Is Announced (1985).jpg 予告殺人 クリスティー文庫.jpg
ミス・マープル[完全版]VOL.12 [DVD]」『予告殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
Miss Marple: A Murder Is Announced(1985)

マープル 予告殺人 レティシア・ブラックロック夫人.jpg 「リトル・パドックスで今晩7時に殺人があります」という広告が地元の新聞に出たことが村の人の間で話題になり、リトル・パドックスの邸の女主人レティシア・ブラックロック夫人(ウルスラ・ハウェルズ)がパーティの準備をするマープル 予告殺人 マーガトロイド.jpg中、好奇心の旺盛な村の住人たち―イースターブルック大佐(ラルフ・マイケル)とその夫人(シルヴィア・シムズ)、スウエッテナム夫人(メリー・ケリッジ)と息子で作家の卵であるエドマンド(マシュー・ソロン)、豚の世話をするヒンチクリフ(パオラ・ディオニソッティ)と気はいいが頭の弱い友人マーガトロイド(ジョーン・シムズ)、ハーモン牧師(ディヴィッド・コリングズ)とその夫人(ヴィヴィエンマープル 予告殺人 ハナ .jpgヌ・ムーア)―らが集まってくる。やがて7時丁度に居間の明かりが突然消えて銃声がし、見知らぬ男が倒れ絶命していた。銃弾はレティシアの耳をかすめたようで、夫人は耳朶から出血し、夫人の友人で同居人のドーラ・バンニー(レニー・アシャーソン)は気が動転し、難民の外人メイドであるハナ(エレーン・アイヴス・キャメロン)は自分の命が狙われているとヒステリニックに喚く。強盗に入って来た男はホテル従業員のルディ(ティム・チャリングトン)だったが、自殺なのか他殺なのかそれとも事故なのか杳として知れない。
マープル 予告殺人 クラドック警部.jpg 捜査はクラドック警部(ジョン・キャッスル)とフレッチャー巡査部長(ケヴィン・ウェイトリー)によって行われ、居間にいた客をはじめ、レティシアの遠戚であるというジュリア(サマンサ・ボンド)とパトリック(サイモン・シェファード)、夫を戦争で亡くしたという、何か秘密を抱えている様子の若い未亡人フィリッパ(ニコラ・キング)らの証言を探っていく。署長の推薦で意見を求められたマープルは、ルディに強盗をやらせた誰かが犯人だと示唆し、ルディの友達だった女給のマーナ(リズ・クロウサー)に重ねて聞くよう助言したところ、ルディは強盗の真似をして誰かから礼金を貰う約束だったことが判明する。事件には、大富豪ゲドラーの遺産が絡んでいるようで、ゲドラーは妻が死んだ場合は、かつ彼の秘書だったレティシアに遺産が行くようになっていた。そして、ドーラ・バンニーが誕生日パーティの後、毒殺死する―。

予告殺人 ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第3話(本国放映は1985年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1950年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第4作(原題:A Murder Is Announced)。「クリスティ自選のベストテン」にも「日本クリスティ・ファンクラブ員の投票によるクリスティ・ベストテン」にもランクインしている作品であり、また、江戸川乱歩は、クリスティ作品の中で「面白かったもの」のべスト8に挙げていて、それらの中でも『アクロイド殺し』と並んでこの作品を高く評価をしていますが、この映像化作品は、「書斎の死体」などと同じく3部構成ドラマになっており、原作にたいへん忠実で、会話なども原作をそのままなぞっている印象です。

 第3部では、ヒンチクリフとマーガトロイドがルディのやらせ強盗事件の独自の謎解きをして他殺説を裏付け(原作より丁寧に謎解きしている)、事件の夜に誰が居間にいなかったか(つまりその人物がルディの背後に廻ったことになる)をマーガトロイドが思い出したところでヒンチクリフが出かけてしまい、マーガトロイドは洗濯物を取り込んでいる最中に何者かに殺されてしまいます。

 そこでミス・マープルは、犯人を炙り出すための大胆な罠を仕掛けますが(彼女には既にこの時点で犯人の確証はあったということになるのだが)、ミス・マープルが犯人に仕掛けた罠がどういうものであったかが、事件解決の後でマープルが協力者に礼を言う場面などを入れることによって、たいへん分かり易くなっていて、このドラマ版、なかなかの優れものではないかなあと。

 クラドック警部が早くにミス・マープルの才能を見抜くところが、第1話「書斎の死体」のスラック警部と対照的。スラック警部は、第11話「魔術の殺人」で、事件を解決したミス・マープルに「ありがとう」とやっとこさ礼を言い、第一線を退いた第12話「鏡は横にひび割れて」でようやっと、クラドック警部とレイク警部補にミス・マープルの協力も得るようアドバイスするようになりますが、クラドック警部は既にこのエピソードの中で早々と、マープルの信奉者へと変身を遂げています。まあ、常識人であるクラドック警部よりも、ミス・マープルに何度も先を越されても対抗心を燃やし続けるスラック警部の方が、ドラマの構成的には面白いわけだけど...(「弁護士ペリー・メイスン」シリーズなどは、負ける方のライバル検事は一貫してハミルトン・バーガーで、最後はいつも苦虫を噛み潰したような顔していた。このシリーズでそれに該当するのがクラック警部)。

主任警部モース2.jpg クラドック警部を補佐するフレッチャー巡査部長役のケヴィン・ウェイトリーは、英ITVの「主任警部モース」シリーズではモースを補佐するルイス部長刑事役でずっと出ており、この時期、掛け持ちして「別の上司」に付いていたことになりますが、キャラクター的に全く同じに見えるのは、立場が同じだからか。

 このエピソードも「書斎の死体」と同じく、90年代にNHKやテレビ東京などで放映されないままビデオ化され、今でもAXNミステリーなどで放映されるのは完全版です(155分という長さは、「書斎の死体」と同じく完全版の中では一番「短い」類であるということもあるのだろうが)。

マープル 予告殺人 レティシア・ブラックロック夫人2.jpg「ミス・マープル(第3話)/予告殺人」」●原題:A MURDER IS ANNOUNCED●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/28●演出:デヴィッド・ジャイルズ●脚本:アラン・プレイター●時間:155分●出演:ジョーン・ヒクソン/シルヴィア・シムズ/パオラ・ダイオニソッティ/ メアリー・ケリッジ/ウルスラ・ハウエルス/ジョン・キャッスル/レネ・アシェーソン/ ジョーン・シムズ/ラルフ・マイケル/ケヴィン・ウォートリー/シルヴィア・シムズ/ジョン・キャッスル/マシュー・ソロン/ディヴィッド・コリングズ/ヴィヴィエンヌ・ムーア/エレーン・アイヴス・キャメロン/ティム・チャリングトン/サマンサ・ボンド●ビデオ発売:1998/01●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

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比較的早くにミス・マープルが登場するのは、いい味での"改変"と言えるのは。

動く指 dvd2.jpg動く指 1985 01.jpg ミス・マープル/動く指 dvd.jpg   動く指 クリスティ文庫.jpg
ミス・マープル[完全版]VOL.9 [DVD]」「ミス・マープル 第8巻 動く指 [DVD]
ジェリー(アンドリュー・ビックネル)/ジョアナ(サビーナ・フランクリン)
動く指 1985 Andrew Bicknell.jpg動く指 1985 Sabina Franklyn.jpg 戦争中の飛行機事故で負傷したジェリー・バートン(アンドリュー・ビックネル)とその妹ジョアナ(サビーナ・フランクリン)は、静養でリムストック村を訪ね、ファーズ荘を借りて一時滞在することになるが、やがて兄に妹を中傷する手紙が届き、どうやら中傷の手紙は村の誰彼問わずに送りつけられている模様である。
ガイ(ジョン・アーナット)/モード(ディリス・ハムレット)
動く指 1985John Arnatt.jpg動く指 19851985Dilys Hamlett.jpg 牧師ガイ(ジョン・アーナット)の妻モード(ディリス・ハムレット)は、手紙の主を探るべくミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)に相談する。そんな中、弁護士エドワード・シミントン(マイケル・カルヴァー)の妻アンジェラ(エリザベス・カウンセル)が青酸カリを飲んで死亡し、遺体の傍には「次男の父親は違う」という中傷の手紙と「もうダメ」というメモがあっため検死審問では自殺とされたが、ミス・マープルはこれは殺人だと直感する。
マープル(ジョーン・ヒクソン)/エドワード・シミントン(マイケル・カルヴァー)
動く指 1985 Joan Hickson.jpg動く指 1985 Michael Culver.jpg ファーズ荘の料理人パートリッジ(ペネロープ・リー)は、以前ファーズ荘で働いていたメイドのベアトリス(ジュリエット・ウェイリー)から、"自殺"事件の日に奇妙なことがあったので聞いて欲しいと言われ会う約束するが、そのベアトリスはシミントン家の衣装部屋で死体で見つかる。
ミーガン(デボラ・アップルビイ)/エルシー・ホランド(イモジェン・ビックフォード・スミス)
動く指 1985 Deborah Appleby.jpg動く指 1985 Imogen Bickford-Smith.jpg 村に勤めるよそ者の医師オーエン・グリフィス(マーティン・フィスク)はジョアナに恋し、その妹エリル(サンドラ・ペイン)はシミントン氏に思いを寄せる一方、ジェリーはシミントン家の厄介娘ミーガン(デボラ・アップルビイ)の秘めた魅力に気づき、ロンドン行きに同行させて彼女を美しく変身させる。ジョアナは2通目の中傷の手紙を受け取り警察に持参、更に、シミントン家の家庭教師エルシー・ホランド(イモジェン・ビックフォード・スミス)にも中傷の手紙が届き、手紙の指紋からグリフィス医師の妹エリルが逮捕されるが、医師は妹が犯人のはずはないと信じる。クロフォード警視(ロジャー・オスティミー)に依頼して、マープルは真犯人を罠にかける賭けに出る―。

動く指hpm.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第2話(本国放映は1985年)。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1943年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第3作(原題:The Moving Finger)で、『牧師館の殺人』(1930)、『書斎の死体』(1942)に次ぐもの。

 原作では、ミス・マープルは、話が全体の4分の3ほど進行して事件が混迷の度を深めた段階でやっと登場し、しかもすぐに引っ込んで、次に登場するラストでは事件を全て解決してしまっているという作りになっているので、クリスティが自作の自選ベストテンに入れている作品でありながらも、読む側としてはやや未消化感が残りましたが、この映像化作品では、そうしないと映像的に持たないというのものあってか比較的早くにミス・マープルが登場し、結構積極的に捜査に関わっており、これはいい意味での"改変"と言えるのでは。あとは概ね原作に忠実ではないでしょうか。

動く指 1985 02.jpg 原作が、田舎町でブラック・メールの飛び交うという陰湿な話のようでありながらそれほど暗くないのは、主人公の兄妹の気の置けない遣り取りと彼らを含む登場人物の恋愛模様を絡めることで毒が中和されているためであり、この映像化作品では、とりわけ妹ジョアナとグリフィス医師、兄ジェリーと二十歳の娘ミーガンとのボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーを丁寧に描くことで、更にその中和度を増している印象です。

THE MOVING FINGER 001.jpg 一方で、プロット的には犯人への手掛かりを原作以上に伏線として見せることはしていないので、最後のミス・マープルの謎解きは、原作同様に"ばたばたっ"という印象を受けざるを得ないかも。でもこれ、事件として振り返るとそう複雑なものではないため、下手にヒントを示すと犯人がすぐに解ってしまうというのもあるのかもしれません。

 第1話「書斎の死体」に続き、イギリスの田舎町ののんびりした感じがよく出ている一方(原作の戦中の話が戦後に置き変わっている)、ヒロインのジョアナを演じたサビーナ・フランクリンは、このシリーズとしては現代風のヒロイン像。但し、これだと村の噂では「化粧の濃い女」になってしまうのか。ナルホドね。家庭教師エルシー役のイモジェン・ビックフォード・スミスも美人でした。

動く指 title1.jpg「ミス・マープル(第2話)/動く指」」●原題:THE MOVING FINGER●制作年:1985年●制作国:イギリス●本国放映:1985/02/21●演出:ロイ・ボールティング●脚本:ジュリア・ジョーンズ●時間:日本放映版95分(完全版189分)●出演:ジョーン・ヒクソン/アンドリュー・ビックネル / サビーナ・フランクリン/ジョン・アーナット/ディリス・ハムレット/マイケル・カルヴァー/エリザベス・カウンセル/ペネロープ・リー/ジュリエット・ウェイリー/マーティン・フィスク/サンドラ・ペイン/デボラ・アップルビイ/イモジェン・ビックフォード・スミス/ロジャー・オスティミー/リチャード・ピアソン/ヒラリー・メイソン●日本放映:1997/03/13●放映局:テレビ東京(評価:★★★★)

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BBC版「第1話」。原作にほぼ忠実。スラック警部の"ご機嫌斜め"ぶりが可笑しい。

ミス・マープル 書斎の死体 vhs.jpg  ミス・マープル 第1巻 書斎の死体 dvd.jpg  ミス・マープル 書斎の死体 000.jpg
ミス・マープル 第1巻「書斎の死体」【字幕版】 [VHS]」/「ミス・マープル 第1巻 書斎の死体 [DVD]」ジョーン・ヒクソン
ミス・マープル 書斎の死体 vhs00.jpg セント・メアリー・ミード村の大佐の邸ゴシントン・ホールの書斎で家政婦が若い女性の死体を発見、バントリー大佐(モーレイ・ワトソン)と妻ドリー(グェン・ワットフォード)に知らせるとともに警察に連絡、ドリーは友人のマープル(ジョーン・ヒクソン)を車で呼び寄せて相談する。事件捜査の方は、大佐の友人メルチェット警察本部長(フレデリック・イエガー)が担当し、スラック警部(デヴィッド・ホロヴィッミス・マープル 書斎の死体 01.jpgチ)、レイク警部補(イアン・ブリンブル)が現場を受け持つことに。マジェスティック・ホテルから行方不明者の捜索願が出されていたが、死体はホテルダンサーのルビー・キーン(サリー・ジェイン・ジャクソン)だという証言が得られる。ルビーは足首を痛めたジョージー(トゥルディー・スタイラー)が代わりに雇った少女で、捜索願を出した大富豪コンウェイ・ジェファーソン(アンドリュー・クルイックシャンク)はルビーを養女にするつもりだったと言う。一方、村の男マルコム(コリン・ヒギンズ)が採石場で燃えた車と焼死体を発見するが...。

ミス・マープル 書斎の死体 00.jpg コンウェイは8年前の航空機事故で家族を失い、自らも車椅子でのホテル住まいであり、遺された義理の娘アデレード(シーラン・マッデン)と息子マーク・ギャスケル(キース・ドリンクル)の世話になっていた。スラック警部はダンサー兼テニスコーチのレイモンド(ジェス・コンラッド)らを事情聴取。一方、黒焦げの車はルビーと最後に踊ったバートレット(アーサー・ボストロム)のものであり、焼死体はリーヴ少佐(スティーブン・チャーチェット)の娘パメラ(アストラ・シェリダン)と思われた。普段素行が良くない映画制作者のベィジル・ブレイク(アンソニー・スメー)が事件の夜に外出しており、彼に強い容疑がかかる。

ミス・マープル 書斎の死体 vhs2.jpg マープルはジェファーソンの友人で警視庁の元警視総監のヘンリー・クリザリング卿(レイモンド・フランシス)に、ルビーを殺した人物はパメラ殺しと同一犯で、第三の殺人を計画していると話し、ヘンリー卿は本部長にマープル同席でパメラの友人の再尋問を依頼、本部長はスラック警部に指示、マープルはパメラの友人フローリー(カレン・シーコーム)から映画のカメラ・テストを受けるためホテルへ行くと言っていたとの証言を得る。彼女はベィジルの女ダィナ・リー(デビー・アーノルド)がベィジルと結婚していることを見抜き、夫の助けになるように忠告するが、直後にスラック警部は、ベィジルの車から見つかった敷物の繊維を物証としてベィジルを逮捕する―。
ミス・マープル[完全版]VOL.6 [DVD]

書斎の死体 クリスティー文庫.jpg 1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第1話(本国放映は1984年)。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1942年に発表されたミス・マープルシリーズの長編第2作(原題:The Body in the Library)。

 原作は傑作ですが、この映像化作品もしっかり作られています。登場人物が錯綜しているためか、挙動不審の教授と助手のコンビの存在が割愛されていたりしますが、でも、これ、元々あまり本筋には関係無かったかも。

ミス・マープル 書斎の死体 04.jpg 原作はプロット的にも「死体入れ替え・時間差」殺人とやや凝っていて複雑。書斎で見つかった死体が検分の結果"処女"だったとか、村の知恵遅れの男マルコムが採石場で比較的早いうちに車と焼死体を発見するが最初は警察に相手にされないとか、村人から疑いの目で見られ始めたバントリー大佐に対して、映画制作者(原作では実は道具係り)のベィジル・ブレイクが「お話したいことがあります」と申し出る場面とかは何れも原作には無く、これみんな、視聴者に対する犯人推理の"助け舟"かと思われます(ベィジル・ブレイクが庭で何かを燃やしているのをマルコムに何を燃やしているのか訊かれ、「うちのばあさんさ」と答えたのは、死体を運んだ際の絨毯を処分していたわけか)。

ミス・マープル 書斎の死体 03.jpg マープル物の長編第2作、BBC版第1作でありながら、元警視総監ヘンリー卿をしてミス・マープルのことを「イギリス一の犯罪学者。メアリー・ミード村の観察から世界を見ている」と言わしめているのは、先行する短編集『火曜クラブ』でミス・マープルの推理力の凄さを知ったことによるものでしょう。デヴィッド・ホロヴィッチ演じるスラック警部は、現場の捜査が忙しい割には進展が無い中で上司からマープルの意見を聴くよう言われて、「ばあさんと引退した警視総監の両方の面倒を見なければならない」とご機嫌斜めなわけです(この"ご機嫌斜め"ぶりが可笑しいのは、サラリーマンにとっては、会社の中でもこうしたことが時にあるからかもしれないからか)。

クラドック警部.jpg ミス・マープルとスラック警部は、原作では、『牧師館の殺人』でスラック警部がミス・マープルに事件解決の先を越されているためマープルに対してライバル心を燃やすという設定ですが、このBBC版は「第1話」であるため当然"初顔合わせ"となり、この後、第5話「牧師館の殺人」だけでなく、第9話「パディントン発4時50分」では原作のクラドック警部に代わって登場するなど、このTVシリーズで重要な位置を占めます。それだけに、この第1話は、スラック警部の、やり手ではあるが、それ以上に自らがやり手であるということへの自負心が強いというキャラクターを重点的に描いているように思いました。

 結局スラック警部は、自らのプライドの高さからマープルのことをなかなか認めようとしないのですが、第11話「魔術の殺人」では、事件を解決したミス・マープルに「ありがとう」としゃちほこばってぎこちない礼を言い、第12話「鏡は横にひび割れて」では、クラドック警部とレイク警部補に捜査を指示する際にマープルの協力も得るよう指示し、自らも積極的にマープルの助言を仰いで捜査を進めるようになるという、こうした両者の関係の変化もこのシリーズの見所です。

 この作品は90年代にテレビ東京やNHKでこのシリーズが放映された際の(何れも短縮版)ラインアップに入っておらず、先にVHSが販売され、その後も地上波では放映されなかったという経緯もあってか、近年AXNミステリーなどで放映される場合も常に完全版で放映されています。

ミス・マープル 完全版 DVD BOX .jpg
ミス・マープル 完全版 DVD BOX 1,2

【BOX1】収録内容

Disc.1『復讐の女神』(Nemesis)
Disc.2『バートラム・ホテルにて』(At Bertram's Hotel)
Disc.3『スリーピング・マーダー』(Sleeping Murder)
Disc.4『パディントン発4時50分』(4.50 from Paddington)
Disc.5『カリブ海の秘密』(A Caribbean Mystery)
Disc.6『書斎の死体』(The Body in the Library)


【BOX2】収録内容

Disc.7『ポケットにライ麦を』(A Pocketful of Rye)
Disc.8『牧師館の殺人』(The Murder at the Vicarage)
Disc.9『動く指』(The Moving Finger)
Disc.10『魔術の殺人』(They Do it with Mirrors)
Disc.11『鏡は横にひび割れて』(The Mirror crack'd from side to side)
Disc.12『予告殺人』(A Murder in Announced)
 
 
    
 
「ミス・マープル(第1話)/書斎の死体」」●原題:THE BODY IN THE LIBRARY●制作年:1984年●制作国:イギリス●演出:シルビオ・ナリッツァーノ●脚本:T・R・ボーウェン●時間:156分●出演:ジョーン・ヒクソン/グエン・ワットフォード/モーリー・ワトソン/フレデリック・イエガー/デヴィッド・ホロヴィッチ/アンソニー・スメー/アンドリュー・クルイックシャンク/シーラン・マッデン/トゥルディー・スタイラー/イアン・ブリンブル●ビデオ発売:1997/05●発売元:日本クラウン(評価:★★★★)

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「おしどり探偵」シリーズのパイロット版? ただし、セリフの一つ一つからして原作に忠実。

アガサ・クリスティ なぜ、エヴァンズに頼まなかったか vhs.jpg  アガサ・クリスティ なぜ、エヴァンズに頼まなかったか dvd.jpg  Why Didn't They Ask Evans dvd.jpg
アガサ・クリスティー・ミステリーズ Vol.3「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」【字幕版】 [VHS]」「おしどり探偵[完全版]VOL.7 [DVD]」「Why Didn't They Ask Evans [DVD] [Import]

Why Didn't They Ask Evans? [1980] [VHS].jpgなぜ、エヴァンズに頼まなかったか.jpg 牧師の息子ボビー・ジョーンズ(ジェームズ・ワーウィック)はトーマス医師(バーナード・マイルズ)とゴルフの最中に、崖から転落した瀕死の男を見つける。男は「なぜエヴァンズに頼まなかったか?」という言葉を口にして息絶える。ボビーが男が持っていた美しい女性の写真を見た後、そこへロジャー・バッシントン・フレンチ(リー・ローソン)と名乗る男が現れ、用事があったボビーは彼に後を任して帰宅する。新聞では、死んだ男はアレックス・プリチャードといい、妹の写真を持っていたと報じられたが、ロジャーが、幼馴染みフランシス(フランキー)・ダーウェント(フランセスカ・アニス)と共に臨んだ検死審問に現れた男の妹を名乗る女性ケイマン夫人(ミッツィ・ロジャーズ)は、写真の女性とは似ても似つかなかった。訝しんだボビーは敢えて彼女の問いに応え、男の死に際の言葉を手紙で伝える。その後、ボビーのもとに南米での好条件の仕事の話が舞い込むが、友人のバッジャー(ロバート・ロングデン)と中古車業を開業したばかりだったためにその誘いを断り、すると今度は何者かにビールにモルヒネを盛られて命を落としかける。

Why Didn't They Ask Evans? [1980] [VHS]

Francesca Annis as Frankie Derwent 02.jpg フランキーは、南米行きの話があったり命を狙われたりしたのは謎の言葉のせいだとし、好奇心旺盛な彼女は、写真をすり替えたと思しきロジャー・バッシントン・フレンチの居る邸の前でジョージ医師(ロウランド・ディヴィズ)と組んで偽装クルマ事故を起こし、邸内に客として入り込む。邸の当主のヘンリー・バッシントン・フレンチ(ジェイムズ・コッシンズ)はロジャーの兄でありモルヒネ中毒者、邸内にはヘンリー夫人のシルヴィア(コニー・ブース)と息子トミーがいて、トミーはフレンチ家に出入りするニコルソン博士(エリック・ポーター)に馴染んでいた。フランキーが崖から落ちた男の新聞切り抜き写真を夫人に見せると、リヴィントン夫妻と一緒に来たカナダ人学者で冒険家のアラン・カーステーアズにそっくりだという。

 ボビーもフランキーの指示で彼女の運転手を装って様子を探るが、夜中にニコルソン博士の診療所の庭でモイラ(マデリーン・スミス)に出くわす。彼女は、シルヴィアとの結婚を図っている夫に殺されると言って助けを求めるが、彼女こそロジャーが見た写真の女性だった。しかし彼女は、エヴァンスのことは知らないと言う。フランキーはボビーをリヴィントン夫人(ジョーン・ヒクソン)の元へ行かせ、アラン・カーステーアズが死んだ億万長者のサヴィッジのことで何かを調べていたらしいことを探る。ボビーは、ニコルソン医師が嫉妬してアラン・カーステーアズを殺したのではないかと疑う。そんな中、フレンチ家の当主ヘンリーが自殺と思われる死を遂げるが、ボビーはニコルソン医師を疑い、医師に監禁されていると思われるモイラの救出に燃える―。

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? クリスティーb.jpg 1980年制作の英国ITV版で、原作はクリスティ1934年発表の『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか』。2009年にも英国グラナダTVで「ミス・マープル」シリーズ(ジュリア・マッケンジー主演)の1作として映像化されていますが、もともとはポアロやミス・マープルのようなシリーズ・キャラクターは登場しない"ノン・シリーズ"ものです。但し、原作が「トミー&タペンス」の"おしどり探偵"シリーズの先駆けとなったように、この作品でボビーとフランキーを演じたフランセスカ・アニス(Francesca Annis)、ジェームズ・ワーウィック(James Warwick)のコンビで、「トミー&タペンス おしどり探偵(二人で探偵を)」(Partners in Crime)としてTVシリーズ化されています。

Francesca Annis as Frankie Derwent.jpg それだけ、ボビー役のジェームズ・ワーウィックとフランキー役のフランセスカ・アニスの演技が好評だったということだと思いますが、特にフランセスカ・アニスは、好奇心旺盛な貴族令嬢フランキーの役が嵌っていて、ファッションや立ち振る舞いにおいて大人の女性の雰囲気を漂わせる一方で(オードリー・ヘプバーンをよりタフにした風)、ボビーとの軽快でコミカルな遣り取りが楽しく、前半部分はボビーを一方的にリードして謎解きを進め、ボビーに次々指示を出す―それが、後半、ボビーがモイラに惹かれているのを察すると、ボビーと共にモイラの救出にあたるもやや複雑な心境になるという、その心の移り変わりが上手く描けていたように思います(フランセスカ・アニスは「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第9話)/バートラム・ホテルにて」('07年)にも出ている)。

 結局、モイラの前にやや盲目的状態となっているボビーに対して、これはおかしいと気づくのは彼女ですが、彼女の発した言葉からボビーも真相に行き着くという、この辺りの展開も含め、セリフの一つ一つからして原作に忠実で、原作ではもう一人の犯人である男は海外に逃げおうせ、手紙で事の真相を告げてくるのに対し、この作品では、犯人がフランキーに言い寄る形で犯行の経緯を告げる点ぐらいが原作との明確な相違点でしょうか。これは映像化作品としての効果を考えてのことでしょう。

Madeline Smith 01.jpgMadeline Smith 12.jpgMadeline Smith 11.jpg モイラ役を演じたマデリーン・スミス(Madeline Smith)は、「ドラキュラ血の味」('70年/英)などのハマー・ホラーに何作か出ていたほか、「007/死ぬのは奴らだ」('73年/英)でジェーン・シーモアらと共にボンド・ガールとしてロジャー・ムーアの相手役も演じている女優です。このモイラ役は、グラナダ版でも、ナタリー・ドーマー(Natalie Dormer)というセクシー女優が演じていますが、このITV版ではセクシーさよりも翳のあるミステリアスな雰囲気の方を重視した演出となっています。

Joan Hickson1980.jpg アラン・カーステーアズの情報を教えるリヴィントン夫人役で登場するジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)(最初の日本オンエア版ではカットされている)は、1984年から1992年にかけて英国で放映されたBBC版ミス・マープルシリーズ全12話でミス・マープルを演じることになるわけですが、この作品の中では顔つきも体型もややふっくらしたお金持ちの貴婦人といった風で、綺麗な服を着て贅を尽くした応接間に居るため、見た目は"ミス・マープル"とは随分差があり、彼女が出ていることを知らずに観ていると見落としてしまうかも。別に謎解きをするわけでもない、単なる話し好きの有閑婆さんという感じですが、それでも演技はやはりあの"ミス・マープル"でした。

どり探偵[完全版]DVD-BOXI.jpg 尚、この作品の翌年に「七つのダイヤル」('81年)がフランセスカ・アニス、ジェームズ・ワーウィックのコンビで作られていて、その後、'83年から'84年にかけて、同コンビで、『秘密機関』と、『おしどり探偵』所収の10短編がTVドラマ版として映像作品化されており(第1話「桃色真珠紛失の謎」、第2話「謎を知ってるチョコレート、第3話「キングで勝負」、第4話「赤い館の謎」、第5話「サニングデールの怪事件」、第6話「大使閣下の靴の謎」、第7話「霧の中の男」、第8話「婚約者失踪の謎」、第9話「鉄壁のアリバイ」、第10話「かくれ造幣局の謎」)、従ってこの「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」と「七つのダイヤル」は、シリーズのパイロット版乃至は番外編という位置づけになっているようです。本シリーズは、夫婦物ではありますが、子供でも楽しめる極めて"健全"な冒険活劇譚となっています(昔、結構楽しみながら観た。今観るとややご都合主義な展開も目立つが...)。
おしどり探偵[完全版]DVD-BOXI
第1話:桃色の真珠紛失の謎/第2話:謎を知ってるチョコレート/第おしどり探偵[完全版]DVD-BOXII.jpg3話:キングで勝負/第4話:赤い館の謎/第5話:サニングデールの怪事件/第6話:大使閣下の靴の謎/第7話:霧の中の男/第8話:婚約者失踪の謎/第9話:鉄壁のアリバイ/第10話:かくれ造幣局の謎

おしどり探偵[完全版]DVD-BOXII

「秘密機関」「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」「七つのダイヤル」

「トミー&タペンス おしどり探偵(二人で探偵を)」AGATHA CHRISTIE`S PARTNERS IN CRIME (ITV 1983~1984) ○日本での放映チャネル:NHK/AXNミステリー

なぜエヴァンズに頼まなかったのか? vhs2.jpg「アガサ・クリスティ/なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」●原題:AGATHA CHRISTIE`S WHY DIDN'T THEY ASK EVANS?●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ハワード・デイヴィス/トニー・ワームビー●脚本:パット・サンダース●撮影:マイク・ハンフリーズ●時間:日本放映版147分(完全版189分)●出演:フランセスカ・アニス/ジェームズ・ワーウィック/ジョン・ギールグッド/バーナード・マイルズ/エリック・ポーター/ジェイムズ・コッシンズ/リー・ローソン/マデリーン・スミス/ロバート・ロンデン/コニー・ブース/リンダ・マーシャル/ジョーン・ヒクソン●日本放映:1981/??/??●放映局:NHK(評価:★★★★) 
Madeline Smith  
Madeline Smith 21.jpgMadeline Smith 04.jpgMadeline Smith 03.jpg007/死ぬのは奴らだ」('73年/英)

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フランス風に味付け。原作の展開を押さえた上で観ると、「改変の妙」が楽しめる。

ABC殺人事件 フレンチ チャンネル2.jpg ABC殺人事件 Les meurtres ABC.jpg 2009年に「France2」で放映 DVD(輸入盤)

ABC殺人事件 フレンチ 警部2.jpg  若い女性が浜辺で殺され、遺体のそばには"ABCバス"の時刻表があった。ラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)と部下のランピオン刑事(マリウス・ コルッチ)が捜査に乗り出すが、ラロジエール警視のもとには実は犯行声明文が届いていた。そして、更なる殺人の予告状が...。一方、殺人が起きるごとに、その地の付近に絹の靴下のセールスをしている男(ニ・ラヴァン)が現れるが、彼は、かつて戦争で負傷し、頭に鉄片が入ったままであるため、強い頭痛に悩まされていた―。

 アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』のフランスのTV版で(2009年にFrance2で放映)、他にも何本かクリスティ作品のフランス版が作られていますが(同時期に4本制作、好評につきもう4本の追加制作が決定)、何れも舞台はフランスであり、名探偵ポワロとヘイスティングス大尉のコンビに代わって、シリーズを通して、フランス警察のラロジエール警視とランピオン刑事の上司・部下コンビが活躍します。

クリスティのフレンチ・ミステリー/ABC殺人事件.jpg ラロジエール警視は、ポアロとはキャラクター造型が幾分異なっており、このフランス版「ABC殺人事件」では、ラロジエール警視の前に"やり手"の警部が現れて彼の地位を脅かし、ランピオン刑事さえも事件解決の糸口を見出せないでいる警視を見捨てて"やり手"の側につこうとしたため、プライドを傷つけられたラロジエール警視の方は荒れまくり、酔って管を巻く―といった、ポアロのキャラだったら考えられないような場面があります。 
 ラロジエールもランピオンも人間臭いと言えば人間臭いのですが、ランピオンが"やり手"刑事に身体まで提供してしまうというのはちょっと...(フランスはイギリスより同性愛者が多いのか)。

 映像上の"掟破り"に近いカットがありますが、原作がそもそも若干アンフェアな要素(叙述トリック)を含んでいるため(それでいて傑作)許せるとして、展開そのものが、原作を微妙に改変したものになっています。

ABC殺人事件 フレンチ 2.jpg では面白くないかと言うと、原作を知っている人には"より面白く"感じられるよう工夫がされており、「ABC鉄道」ではなく「ABCバス」になっているといったトリビアな改変点はさておき、何番目かの殺人の「被害者の弟」が現れて、いよいよ例のドンデン返しかと思いきや、更に予期せぬ展開に―。

 ここまで来るとある種"パロディ"ですが(第4の殺人の被害者が意外というか、ややご都合主義的なところも含め)、話のテンポは軽快で、これまで不幸だった男に幸せがもたらされるというハッピーエンドも用意されており、全体を通して振り返っても、随所にライトな味付けされていたように思います(これがフランス風なのか)。

ABC殺人事件 フレンチ 3.jpg 単独で観ても楽しめますが、原作の展開を押さえた上で観ると、「改変の妙」が楽しめる作品となっています。

「クリスティのフレンチ・ミステリー(第1話)/ABC殺人事件」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/LES MEURTRES ABC●制作年:2008年●本国放映:2009年1月9日●制作国:フランス●監督:エリック・ウォレット●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・ コルッチ/ドニ・ラヴァン/ベランジェール・ボンヴォワザン/ジャン=フランソワ・ガレオ●原作:アガサ・ クリスティ●日本放映:2010/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

クリスティのフレンチ・ミステリー 横長.jpg「クリスティのフレンチ・ミステリー」 Les Petits Meurtres d'Agatha Christie(仏France2 2009~2012)[全11作]○日本での放映チャネル:AXNミステリー(2010~2012)

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ミス・マープルにして見れば難事件では無かった。ロマンス話もあって、雰囲気を楽しむ作品?

動く指 hpm.jpg       動く指 ハヤカワ文庫.png       動く指 クリスティ文庫.jpg
動く指 (1958年) (世界探偵小説全集)』ハヤカワ・ポケット・ミステリ『動く指 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['77年] 『動く指 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['04年] 

動く指 ハーパーコリンズ版.jpg動く指2002.bmp動く指2007.bmp 戦時中の飛行機事故で傷を負って傷痍軍人となったジェリー・バートは、療養のため妹ジョアナとともにリムストックの外れの村のリトル・ファーズ邸に住むことになり、弁護士のディック・シミントンの妻のモナ、医師オーエン・グリフィスの妹のエメ、カルスロップ牧師の妻のデインらと知り合うが、間もなく、悪意と中傷に満ちた匿名の手紙が住民に無差別に届けられるようになり、陰口、噂話、疑心暗鬼が村全体を覆うようになる。
"The Moving Finger" ハーパーコリンズ版(1995/2002/2007)

THE MOVING FINGER Dell (US) rpt.1975.jpgTHE MOVING FINGER .Fontana rpt.1986.jpg そうした中、シミントン弁護士の妻のモナが、手紙が原因の服毒自殺と思われる死を遂げる。シミントン家にはモナと前夫との娘のミーガン・ハンター、現在の夫ディックとの間の2人の子とその家庭教師のエリシー・ホーランド、お手伝いのアグネスとコックのローズが住んでいたが、事件当日はモナ以外全員が外出し、モナ一人の時に匿名の手紙が配達されて来たらしい。自殺現場には「生きていけなくなりました」とのメモがあった。そして今度は、お手伝いのアグネスの行方がわからなくなった。アグネスは行方不明になる少し前に、前の奉公先であるリトル・ファーズ邸のお手伝いパトリッジに相談があると電話していたが、約束の時間に現れず、翌朝シミントン家の階段下物置で死体となって発見される。解決を見ない事件の成り行きに、ミス・マープルに声が掛かる―。 
THE MOVING FINGER .Fontana 1986

THE MOVING FINGER Dell (US) 1975

動く指43.bmp動く指42.bmp 1943年に刊行された(米版は1942年に刊行)アガサ・クリスティのミステリ長編で(原題:The Moving Finger)、ミス・マープルものですが、ミス・マープルが登場するのはかなり後の方になったから。それも、挨拶がてら登場したかと思いきや、次に登場するのはラストで、その時には事件は解決しているけれども、その謎を解いたのはミス・マープルだったというような、「事後的説明」的な作りになっています。

Collins(1943)/Dodd Mead(1942)

 ミス・マープルのファンにすればやや物足りない展開ですが、イギリスの田舎町の人々の暮らしぶりはよく描かれているように思えました(戦時中にしては、結構のんびりしている?)。
 マープルものだからといって、事件が起きた途端に最初から彼女が登場するものばかりではなく、作品によってはこういうのもあります。こうしたバリエーションの豊かさも作者ならではで、これもまた、その力量の証なのでしょう。ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村近辺でばかり事件が起きていても不自然だし、時々"出張"もしているわけです。

The Moving Finger - Pan 55.jpg動く指61.bmp動く指1971.bmp 田舎町でブラック・メールの飛び交うという、暗っぽい話のようでありながらそうでもないのは、主人公のジェリーとジョアナ兄妹の気の置けない遣り取りによってその暗さが中和されていて、その上更にそれぞれの恋愛が絡んでいたりするからでもあり、読み終えてみれば、結構ハートウォーミングな話だとも思えたりしました(この作品は、作者自身のマイベスト10に入っている)。

  Fontana(1961/1971)
Pan Books (1950)

 その分、ミステリとしてはそれほど凝ったものでもなく、村人や地元警察は暗中模索するも、ミス・マープルにしてみればお茶の子さいさいで事件を解決といった感じでしょうか。

 「動く指」というのは、まさにブラック・メールをタイプし、ポストに投函する「指」を意味していますが、この「動く」には、「何か不気味なことを引き起こす」という意味もあるとのこと。これが同時に、編み物をするミス・マープルが、こんがらがった編み物の糸口を見出すかのように事件を解決する、その「指」(手腕)にも懸っているのは、タイトルの妙と言えます。
 
動く指 2.jpg この「動く指」は、ジョーン・ヒクソンがミス・マープルを演じた〈BBC〉のTVシリーズの1作として'85年にドラマ化されていますが、最近では、「シャーロック・ホームズの冒険」や「名探偵ポワロ」で定評のある英国〈グラナダTV〉が「新ミス・マープル」シリーズの1作として'06年ドラマ化しており(マープル役はジェラルンディン・マッキーワン)、更に'09年フランスで、「ABC殺人事件」「無実はさいなむ」「エンドハウスの怪事件」と併せた4作が〈France2〉でドラマ化され、このフランス版は日本でも〈AXNミステリー〉で「クリスティのフレンチ・ミステリー」として今年('10年)9月に放映されました。

動く指 1シーン.jpg 最近のものになればなるほど原作からの改変が著しく、「クリスティのフレンチ・ミステリー」ではポワロやマープルは登場せず、彼らに代わって事件を解決していくのは、ラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)とランピオン刑事(マリ動く指 dvd.jpgウス・ コルッチ)のコンビ、その中でも「動く指」は、アル中の医者に、色情狂のその妹、偽男色家の自称美術品収集家に...といった具合に、キャラクター改変が著しいばかりでなくやや暗い方向に向かっていて、一方で、随所にエスプリやユーモアが効いたりもし(この「暗さ」と「軽妙さ」の取り合わせがフランス風なのか)、また、結構エロチックな場面もあったりして(こういうのを暗示で済まさず、実際に映像化するのがフランス風なのか)、少なくとも一家団欒で鑑賞するような内容にはなっていません(この辺りが、NHKで放映されない理由なのか)。

「クリスティのフレンチ・ミステリー/動く指」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ LA PLUME EMPOISONNEE●制作年:2009年●本国放映:2009年9月11日●制作国:フランス●監督:エリック・ウォレット●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Christophe Alévêque/Laurence Côte/Anaïs Demoustier/Cyrille Thouvenin/Catherine Wilkening/Olivier Rabourdin●原作:アガサ・ クリスティ●日本放映:2010/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)

「ミス・マープル(第2話)/動く指」 (85年/英) ★★★★
動く指 dvd2.jpg 動く指 1985 02.jpg 動く指 1985 01.jpg
                                                                                     
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第6話)/動く指」 (06年/英) ★★★☆
アガサ・クリスティー ミス・マープル/動く指 09.jpg 動く指 02.png 第6話/動く指.png
 

【1958年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1977年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】 

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"禁じ手"にこだわるかどうかは別として、ポアロ推理の真骨頂を堪能できる作品。

アクロイド殺し ハヤカワミステリ.jpg「アクロイド殺し」雄鶏社 1950年刊.jpg 『アクロイド殺し』真鍋 博 表紙.jpg アクロイド殺し クリスティー文庫.jpg
ハヤカワミステリ(1955)/雄鶏社(1950)/ハヤカワミステリ文庫/クリスティー文庫

 村の名士ロジャー・アクロイドが短刀で刺殺されるという事件が起きるが、容疑者であるアクロイドの義子ラルフ・ペイトンは姿をくらまし、事件は迷宮入りの様相を呈す。アクロイドの主治医シェパードはこうした状況を手記にまとめ、事件の謎を解決しようとする一方、アクロイドの義妹セシルの娘で、ラルフの婚約者であるフローラは、村に越して来たばかりの変人がポアロであることを知って、犯人の捜査を依頼する―。

英国初版(1926)/Fontana版(1960)/(1963)/(1983)
The Murder of Roger Ackroyd.jpgアクロイド殺し 英国Fontana版 1960.jpgアクロイド殺し 1963.jpgアクロイド殺し1983.bmp 1926年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説で(原題" The Murder of Roger Ackroyd")、クリスティの6作目の長編で、エルキュール・ポアロ・シリーズでは3作目ですが、シリーズの中でも傑作とされており、個人的にもそう思います。

 この作品の評価で最も議論になるのが、小説の形式そのものにトリックがあることで、これは読者に対しての所謂"禁じ手"ではないかということですが、確かに全く引っ掛かりを覚えないかと言うとそうではないものの、推理小説としての構成が素晴らしいので、やはり高評価に値するように思います。

 多くの主要登場人物のすべてを容疑者とし、実際にそれぞれに被害者殺害の機会があったことを読者にも示しながら、緻密且つ論理的に検証していくとただ1人の犯人に必然的に行きつくという、ポアロ推理の真骨頂を堪能できる作品ではないでしょうか。

 シリーズの前作同様に「一人称小説」でありながら、それが「手記」でもあったというところで、そう言えばそれまであまり追及を受けていない者が...とは思ってはしまうものの、自分のような推理音痴にはこれぐらいがちょうどいい?

 長編でありながらも無駄のない構成で、それでいて、"ミス・マープルの原型"とされるシェパード医師の妻キャロラインの事件への"首突っ込みたがり屋"ぶりが可笑しかったりもしました。この作品の最後の方のポワロはちょっと怖いかも。

アクロイド殺人事件.jpgアクロイド殺人事件02.jpg これ、映像化に際しては、原作がある種の叙述トリックであるため、工夫が必要にあります。デビッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」の第46話(第6シーズン第5話)で2000年にテレビドラマ化されており(製作は1999年。99分の長尺版)、その時もやはり少しアレンジされていました、ただし、トリックそのものは概ね生かされており、まずまずの出来ではなかったかと思います。

アクロイド殺人事件01.jpg 因みに、ドラマでは、ポワロが廃業後、隠居したキングス・アボットの村で野菜園作りなどしていた折に遭遇する事件という設定になっており(ただし、ロンドンのホワイトヘヴン・マンションはまだキープし続けてアクロイド殺人事件48.jpgいる)、本ドラマシリーズ中期の後半といったことでそうした設定になっているのでしょう(原作は、ポワロの長編としては『ゴルフ場殺人事件』の次に書かれた3作目に当たるのだが)。したがって、ジャップ警部が引退したポワロと偶然にも再会を果たし、快哉を叫ぶというシーンもあったりします(因みに、ジャップ警部の本ドラマシリーズ登場回数は、全70話中40回と、ヘイスティングスの43回と僅か3回しか差がない。最初はポワロのことを煙たがっていたジャップ警部だが、これだけポワロに事件を解決してもらえれば、確かに再会を喜び合う関係になってもおかしくない)。

iアクロイド殺人事件03G.jpg「名探偵ポワロ(第46話)/アクロイド殺人事件」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:THE MURDER OF ROGER ACKROYD●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国放映:2000/01●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:99分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ主任警部)/オリヴァー・フォード・デヴィース(シェパード医師)/マルコム・テリス(ロジャー・アクロイド)/セリーナ・キャデル(キャロライン・シェパード)/デイジー・ボウモント(アーシュラ・ボーン)/フローラ・モントゴメリー(フローラ・アクロイド)/ナイジェル・クック(ジェフリー・レイモンド)/ ジェイミー・バンバー(ラルフ・ペイトン)/ロジャー・フロスト(パーカー)/ヴィヴィアン・ハイルブロン(ヴェラ・アクロイド)/グレガー・トラター(デイビス警部)●日本放映:2000/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)

アクロイド殺し クリスティー文庫2.jpg【1955年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(松本恵子:訳『アクロイド殺し』)]/1957年文庫化[角川文庫(松本恵子:訳『アクロイド殺人事件』)/1958年再文庫化・1987年改版[新潮文庫(中村能三:訳『アクロイド殺人事件』)/1959年再文庫化・1975年・2004年改版[創元推理文庫(大久保康雄:訳『アクロイド殺害事件』)/1979年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳『アクロイド殺し』)]/1998年再文庫化[偕成社文庫(茅野美ど里:訳『アクロイド殺人事件』)]/1998年再文庫化[集英社文庫(雨沢泰:訳『アクロイド殺人事件―乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(6)』)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(羽田詩津子:訳『アクロイド殺し』)]/2004年再文庫化[嶋中文庫(河野一郎:訳『アクロイド殺害事件』)]/2005年再文庫化[講談社青い鳥文庫(花上かつみ:訳『アクロイド氏殺害事件』)]】

クリスティー文庫

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ミス・マープルのシリーズの中でも傑作。ラストの哀しい余韻がいい。

鏡は横にひび割れて ハ―パーコリンズ版.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg 鏡は横にひび割れてクリスティー文庫.jpg クリスタル殺人事件 ポスター.jpg 鏡は横にひび割れてdvd.jpg
"The Mirror Crack'd from Side to Side" ハ―パーコリンズ版『鏡は横にひび割れて (1964年) 』『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ・ミステリ文庫)』(カバーイラスト:真鍋博)『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/「クリスタル殺人事件」ポスター/「ミス・マープル 第11巻 鏡は横にひび割れて [DVD]

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964.jpg ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村にある邸宅ゴシントン・ホールに、往年の大女優マリーナ・グレッグが夫ジェースン・ラッドと共に引っ越して来て、その邸宅で盛大なパーティが開かれるが、その最中に招待客の1人で地元の女性ヘザー・パドコックが変死し、死因はカクテルに入っていた薬物によるものだったことが判明する―。

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964

 アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1962年、72歳で発表した作品で(原題"The Mirror Crack'd from Side to Side")、犯人の動機やラストの余韻が忘れ得ない作品、ミス・マープルのシリーズの中でも傑作中の傑作ではないかと思います。

 タイトルの「鏡は横にひび割れて」は、マリーナがパーティでミセス・パドコックと言葉を交わした直後に見せた、凍りついたような謎の表情が、ヴィクトリア朝の詩人テニスンの「シャロット姫」の中で、鏡が横にひび割れ、シャロット姫が、呪いが我が身にふりかかったことを知った時の表情にも思えたところからきています。

 この後にミセス・パドコックは、誰かにぶつかって飲み物をこぼし、代わりにマリーナから渡されたグラスを飲み干して死ぬ、ということで、犯人はもともとマリーナを狙っていたのか、それとも...。

鏡は横にひび割れて 1971.jpg やがて、何らかの秘密を握るジェースンの秘書エラ・ジーリンスキーが毒殺され、第3の殺人事件も起きますが、ストーリーそのものはシンプル(作品が永く印象に残る1つの要因だと思う)、但し、妊娠中の女性が水疱瘡に感染すると胎児に危険を及ぼすという知識はあった方がいいかも。

 最後に犯人は睡眠薬で自殺を遂げますが、本当に自殺だったのか、それとも、犯人のことを想う身内が裁いたのかという謎が残り、ミス・マープルの推論は後者のようですが、哀しいなあ、この結末。マープルもそれ以上のことは追及しないような終わり方です。
       
英国・Fontana版 (1971) (Cover Illustration By Tom Adams)
      
「クリスタル殺人事件」('80年/英)キム・ノヴァク/エリザベス・テーラー
クリスタル殺人事件1.jpgクリスタル殺人事件2.jpg ガイ・ハミルトン監督によって映画化された「クリスタル殺人事件」('80年/英)は、ミス・マープル役がアンジェラ・ランズベリー(これが契機となったのか、後にテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」('84年~'96年)で"ジェシカおばさん"ことミステリー作家ジェシカ・フレッチャーを演じることに)。マリーナがエリザベス・テーラー(1932年生まれ)、秘書のエラがジェラルディン・チャップリン、夫ジェースンがロック・ハドソンと豪華顔ぶれですが、やや原作とは違っているというクリスタル殺人事件3.jpg感じも。原作ではそれほど重きを置かれていない映画女優ローラ・ブルースターをキム・ノヴァク(1933年生まれ)が演じることで、マリーナとローラの確執を前面に出しています。ロンドン警視庁のクラドック警部役がエドワード・フォックスだったり、マリーナが出ている映画の中でちらっと出てくる相手役がピアース・ブロスナン(ノンクレジット)だったりと、役者を観る楽しみはありますが、出演料に費用がかかり過ぎたのか舞台はやや地味で(『白昼の悪魔』を原作とするガイクリスタル殺人事件es.jpg・ハミルトン監督の次回作「地中海殺人事件」('82年)の方がスペインで海外ロケをしている分、舞台に金をかけている)、しかも第三の殺人は省いてしまったりもしています。ラストでマリーナの最期に原作には無いオリジナルのひねり(空のベッド!)を加えていますが、これはまずまず。一方、BBCのテレビ版('92年)も見ましたが、むしろこちらの方が、役者の派手さは無いものの、3時間を超える長さで、且つかなり原作に忠実に作られていて"本格派"のように思いました。
 
TVドラマ「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」 ('92年/英)
The Mirror Crack'd 1992 01.jpgThe Mirror Crack'd 1992 03.jpg 導入部では、例のミス・マープルと近所のおばさんや小間使いとの間の世間話なども織り込まれていて、最初はいつもフツーのおばあさんにしか見えないミス・マープルですが、事件が進展していくと一転して鋭い洞察をみせ、相当早くに犯人の目星をつけてしまったみたいで、後は、残った疑問点を整理していくという感じでしょうか(最大の疑問点は犯行動機、これが事件の謎を解くカギになる)。原作と同じようにエンディングで余韻を残していて、この点でも原作に忠実でした。

The Mirror Crack'd  07.jpgThe Mirror Crack'd 1992 02.jpg テレビ版でもこれまで何人かの女優がミス・マープルを演じていますが、BBCが最初にシリーズ化した際にマ―プルを演じたジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)は好きなタイプで、生前のクリスティ本人から「年を経た暁には、ミス・マープルを演じて欲しい」と言われたという逸話があるそうです(この「鏡は横にひび割れて」は、シリーズ全12話の最後の作品で、ジョーン・ヒクソンはこの時85歳くらいかと思われるが、非常にしっかりしている)。

The Mirror Crack'd 1992 Joan Hickson.jpgThe Mirror Crack'd 1992 スラック警部.jpg この「鏡は横にひび割れて」には、同じテレビシリーズの「第3話/予告殺人」で捜査に当たったクラドック警部(ジョン・キャッスルが、原作に沿って再び登場し(どうやらやり手であるがために逆に出世が遅れているらしい)、いつも登場するスラック警部(デヴィッド・ホロヴィッチ)は「警視」に昇進しています(スラック警視はクラドック警部の有能さを買っている)。

 シリーズを通してミス・マープルに対抗心を抱きながらいつも先を越され、苦虫を噛み潰してきたスラック警部が、「警視」に昇進して自らが直接捜査に当たる必要がなくなった余裕からか、これまでのミス・マープルを無視しようとする姿勢を全面的に改め、クラドック警部にミス・マープルに相談するようアドバイスする場面が個人的には愉快でした(実はクラドック警部はミス・マープルの甥で、彼女の卓抜した推理力については上司に言われるまでもなく知っている)。スラック警部は、ミス・マープルのおかげで昇進できたということでしょうか。そして、本人にもその自覚がある? シリーズ最終話らしいオチでした。

ミス・マープル 鏡は横にひび割れて BBC.jpg 本作はビデオ('98年)にもDVD('02年)にもなっているし、最近ではAXNで観ました(ジョーン・ヒクソンの吹き替えを担当している山岡久乃(1926‐1999)もいい)。ビデオ化される以前にテレビ東京「午後のロードショー」で放映されています('97年)。(いずれも短縮版) 

ミス・マープル 完全版 DVD-BOX.jpg '98年リリースのVHS版では第12話、DVD版は第11話になっていますが、本国での放映年からみると第12話(最終話)。最初に出されたDVDがシリーズ全12話中11話収録(「ポケットにライ麦を」が欠落)だった関係でしょうか?その後出された完全版DVD‐BOX1とBOX2で全12話がフォローされているが最終話ではなく第11話のまま。ビデオ・DVDの収録順は全体を通して本国でのドラマ版制作順と一致していないようです。 「ミス・マープル[完全版]VOL.11 [DVD]

ミス・マープル[完全版]DVD-BOX 2

Disc 7:「ポケットにライ麦を」(A Pocket Full of Rye)
Disc 8:「牧師館の殺人」(The Murder at the Vicarage)
Disc 9:「動く指」(The Moving Finger)
Disc 10:「魔術の殺人」(They Do It with Mirrors)
Disc 11:「鏡は横にひび割れて」(The Mirror Crack'd)
Disc 12:「予告殺人」(A Murder Is Announced)

クリスタル殺人事件 dvd.jpgクリスタル殺人事件4.jpg「クリスタル殺人事件」●原題:The Mirror Crack'd●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ジョナサン・ヘイルズ/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:ジョン・キャメロン●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:105分●出演:アンジェラ・ランズベリー/エリザベス・テイラー/ロック・ハドソン/ジェラルディン・チャップリン/トニー・カーティス/エドワード・フォックス/キム・ノヴァク/チャールズ・グレイ/ピーター・ウッドソープ/ナイジェル・ストック/ピアース・ブロスナン(ノンクレジット)●日本公開:1981/07●配給:東宝東和●(評価★★★)
クリスタル殺人事件 [DVD]

The Mirror Crack'd from Side to Side 1992.jpg「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」●原題:The Mirror Crac'd from Side to Side●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督:ノーマン・ストーン●製作:ジョージ・ガラッシオ●脚本:T・R・ボーウェン●撮影:ジョン・ウォーカー●原作:アガサ・クリスティ●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)/クレア・ブルーム(マリーナ・グレッグ)/バリー・ニューマン(ジェイソン・ラッド)/グエン・ワトフォード(ドリー・バントリー)/ジョン・キャッスル(ダーモット・クラドック警部)/コンスタンチン・グレゴリー(アードウィック・フェン)/グリニス・バーバー(ローラ・ブルースター)/エリザベス・ガーヴィー(エラ・ザイリンスキー) /デヴィッド・ホロヴィッチ(スラック警視)/イアン・ブリンブル(レイク巡査部長) ●日本公開:1997/03/19 (テレビ東京)(評価:★★★★) 
ミス・マープルbbc.jpgミス・マープル jh.jpgミス・マープル bbc.jpg「ミス・マープル」Miss Murple (BBC 1984~1992) ○日本での放映チャネル:テレビ東京/NHK‐BS2/FOXチャンネル

鏡は横にひび割れて dvd.jpg鏡は横にひび割れて 01.jpg 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第20話)/鏡は横にひび割れて」 (10年/英・米) ★★★★

 【1964年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(橋本福夫:訳)]/1977年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(橋本福夫:訳]/2004年再文庫化[早川書房・クリスティー文庫(橋本福夫:訳)]】

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