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岩下志麻主演の2作。一人二役がいい「古都」。酔っ払いシーンが見ものの「暖春」。

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<あの頃映画> 古都 [DVD]
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「談春」
「古都」01.jpg 京都平安神宮の咲いたしだれ桜の下で、佐田千重子(岩下志麻)は幼な友達の水木真一(早川保)に突然「あたしは捨子どしたんえ」と言う。呉服問屋の一人娘として何不自由なく育ったが、自分は店の前の弁柄格子の下に捨てられていたのだと...。とは言え、親娘の愛は細やかだった。父の太吉郎(宮口精二)は名人気質の人で、ひとり嵯峨にこもって下絵に凝っていた。西陣の織屋の息子・大友秀男(長門裕之)は秘かに千重子を慕っており、見事な帯を織り上げて太吉郎を驚かした。ある日千重「古都」02.jpg子は、清滝川に沿って奥へ入った北山杉のある村を訪ねた。そして杉の丸太を磨いている女達の中に自分そっくりの顔を見い出す。夏が来た。祇園祭の谷山に賑う四条通を歩いていた千重子は北山杉の娘・苗子(岩下志麻、二役)に出会った。娘は「あんた姉さんや」と声をふるわせた。千重子と苗子は双子の姉妹だった。しかし父も母もすでにこの世にはいない、と告げると苗子は身分の違うことを思い雑踏に姿を消した。「古都」03.jpgその苗子を見た秀男が千重子と間違えて、帯を織らせてくれと頼む。一方自分の数奇な運命に沈む千重子は、四条大橋の上で真一に声をかけられ兄の竜助(吉田輝雄)を紹介された。8月の末、千重子は苗子を訪ねた。俄か「古都」05s.jpg雨の中で抱きあった二人の身体の中に姉妹の実感がひしひしと迫ってきた。秋が訪れる頃、秀男は千重子に約束した帯を苗子のもとに届け、時代祭の日に再会した苗子に結婚を申し込む。しかし、苗子は秀男が自分の中に千重子の面影を求めていることを知っていた。冬のある日、以前から千重子を愛していた竜助が太吉郎を訪ねて求婚し、翌日から経営の思わしくない店を手伝い始めた。その夜、苗子が泊りに来た。二階に並べた床の中で千重子は言う。「二人はどっちの幻でもあらしまへん、好きやったら結婚おしやす。私も結婚します」と―。

『古都』新潮文庫.jpg「古都」スチル.jpg 中村登(1913-1981/67歳没)監督の1963(昭和38)年公開作で、川端康成の同名小説を忠実に映画化した文芸ロマンス。原作は川端康成が「朝日新聞」に1961(昭和36)年10月から翌1962(昭和37年)年1月まで107回にわたって連載したもので、1962年6月新潮社刊。京都各地の名所や史蹟、年中行事が盛り込まれた作品で、国内より海外での評価が高く、ノーベル文学賞の授賞対象作とされる作品です。(1968(昭和43)年、川端康成は日本人として初めてノーベル文学賞を受賞する。しかしその当時、受賞対象の作品名は発表されず、50年間非公開となっていた。ようやく2016(平成28)年に受賞作品が公開され、スウェーデンアカデミーは、受賞対象は「古都」(The Old Capital)であり、「まさに傑作と呼ぶにふさわしい」と絶賛した。(2017.1.4 日本経済新聞))

「古都」川端康成.jpg「古都」二役.jpg 映画化に際し、原作者の川端康成が撮影現場に足を運び、指導監修を手掛けており、その結果、静謐で繊細、情緒的な川端の世界を忠実に再現した作品になっています。映画の方も四季折々の美しい風景や京都の伝統を背景に、当時21歳の岩下志麻が二人の姉妹の二役を好演し、彼女の一人二役は自然かつ美しいと思いました。原作(読んだのはかなり前だが)の良さを(おそらく)損なっておらず、中村登監督の職人的な技量が感じられます。この作品は第36回米国「アカデミー賞外国語映画賞」にノミネートされています(後に1980年に市川崑監督、山口百恵主演で、2016年には Yuki Saito監督、松雪泰子主演でリメイク作品が撮られている)。

「古都」vhs.png 実は双子の姉妹だった千重子と苗子の生い立ちを比べると、千重子は呉服問屋の一人娘として何不自由なく育てられたお嬢さんで、一方の苗子は早くから北山杉の木場(製材所)における労働力として勤しみ苦労してきたはずなのに、二人が出会ってからずっと苗子の方が千重子に対して何か済まないような気持ちは抱いているのは、最初は身分差を感じて苗子が自分を卑下しているのかなと思ったりしましたが(確かに最初自ら千重子に会わないようにしたのはそのためだったが)、根っこのところでは、実親に捨てられたのが千重子の方で、実親の元に残されたのが自分だったからということだったのだなあ。

「古都」06w.jpg しっかり者の苗子に対して、お嬢さん育ちでおっとり気味の千重子でしたが、竜助(吉田輝雄)に店の番頭(田中春男)が不正を働いているのではと指摘され、少し変化が見られます。そして最後はしっかり番頭を問い詰めますが、この時の岩下志麻はちょっと「極妻」っぽかった、と言うか、それに繋がる雰囲気があり(当時まだ22)、「お嬢さん」と「強い女」の両方を演じられるところが、岩下志麻の強みと言うか、魅力だと思いました(一人二役だが、三役演じているみたい)。


「暖春」p.jpg 京都東山南禅寺に小料理屋「小笹」を出す佐々木せい(森光子)には、24歳になる娘・千鶴(岩下志麻)がいた。せいは、日頃親しくする西陣の織元・梅垣のぼん(長門裕之)との縁談を望んでいたが、千鶴は何か吹っ切れぬものを感じていた。そんな時、かつてせいが祇園の舞妓だった頃、せいのファンであった山口信吉(山形勲)が小笹を訪れた。大学教授だという山口を、格好の脱出先とみた千鶴は、母親の愚知を無視して、山口に連れられ上京した。途中、千鶴を連れて箱根に立寄った山口は、千鶴の亡父らと京大三人組と呼ばれた実業家の緒方(有島一郎)を紹介した。そこで緒方の秘書・長谷川一郎(川崎敬三)に紹介された千鶴は、洗錬された長谷川に好感を持つ。その晩千鶴のお酌で、学生時代に返った二人は、せいが千鶴の父と結婚した時に、既にせいのお腹の中には千鶴がおり、三人の内の誰の子供か判らないと冗談まじりに話した。その話は千鶴に秘かな母への不審を抱かせた。上京した千鶴は、山口や緒方の家に泊り、銀座で長谷川と飲み明かし、ますます長谷川に魅かれていった。ある日、結婚して上京している親友・金子三枝子(桑野みゆき)を訪れた千鶴は、ちょうど遊びに来ていたOLでかつての級友・長嶋節子(倍賞千恵子)に会って懐しい一日を過した。二人が自分の生活の範囲で、楽しく暮らしているのを知った千鶴は急に長谷川に会いたくなり、電話をしたが、長谷川にはすでに同棲している恋人・京子(宗方奈美)がいることを知り、千鶴はすっかり失望した。また緒方の浮気を目撃した千鶴は、東京でのめまぐるしい生活から、京都が懐しく思い出された。せいの心臓病発作で急拠京都へ帰った千鶴は、梅垣のぼんが店をきりもりする姿に、急に親しみを感じた。その夜、ぼんと結婚を決意した千鶴は、せいから出生の秘密を確かめると、初めて母娘の情愛が交流するのを感じた。大安吉日、千鶴は美しい花嫁姿でせいの前に立った―。

「暖春」01.jpg 中村登監督の1965年作で、里見弴と小津安二郎の原作を中村登が脚色・監督した青春もの。撮影は「夜の片鱗」の成島東一郎。岩下志麻が、嫁入り前の娘の心の揺らぎを演じており、中村登版「秋刀魚の味」('62年/松竹)といったところでしょうか

 里見弴と小津安二郎の原作だと、後期の小津作品の「嫁に行く・行かない」と似たような話にどうしてもなってしまうのだなあ。ヒロイン・千鶴の父親とその友人たちも、小津映画が「東大三人組」ならばこちらは「京大三人組」で状況設定がよく似ています。「秋刀魚の味」は笠智衆・中村伸郎・北竜二がかつて中学の同級だったという設定でしたが、こちらはヒロインの父親はすでに亡くなっていて、後の二人は山形勲と有島一郎です。

 森光子演じる千鶴の母親は元・祇園の芸妓で、千鶴を妊娠した頃「三人組」のいずれとも行き来があったらしく、千鶴は自分の本当の父親は誰なのか知りたく思い、結構彼女としては思い切った行動に出たりしますが、最後は「誰だっていいじゃない」ということでした。

「暖春」022.jpg 当時24歳の岩下志麻がキュートに酔っ払ってるシーンは見もの。考えてみれば岩下志麻は銀座生まれの吉祥寺育ちで、東京っ子の彼女が、京言葉をこなしてお御転婆な京娘を演じているわけで、やはりこの頃から演技力がありました。

倍賞千恵子/桑野みゆき/岩下志麻
 
 
 

岩下志麻(呉服問屋丸太屋の一人娘・佐田千重子(北山杉の村娘・苗子と一人二役))/長門裕之(帯織職人の息子・大友秀男)
「古都」p.jpg「古都」岩下 長門.jpg「古都」●制作年:1963年●監督・脚色:中村登●製作:桑田良太郎●脚本:権藤利英●撮影:成島東一郎●音楽:武満徹●原作:川端康成●時間:106 分●出演:岩下志麻/宮口精二「古都」sb.jpg/中村芳子/吉田輝雄/柳永二郎/長門裕之/環三千世/東野英治郎/浪花千栄子/田中春男/千之赫子●公開:1963/01●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-06-27)(評価:★★★★)
「古都」スチル2.jpg「古都」岩下・宮口.jpg 岩下志麻/宮口精二(呉服問屋丸太屋の主人・佐田太吉郎)
 
 
 
「暖春」●英題:SPRINGTIME●制作年:1965 年●監督・脚色:中村登●製作:佐々木孟●撮影:成島東一郎●音楽:山本直純●原作:里見弴/小津安二郎●時間:93分●出演:森光子/岩下志麻/山形勲/三宅邦子/太田博之/有島一郎/乙羽信子/早川保/桑野みゆき/倍賞千恵子/川崎敬三/宗方奈美/長門裕之/三ツ矢歌子/呉恵美子/岸洋子/志賀真津子●公開:1965 /12●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-08-19)(評価:★★★)

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源氏鶏太原作。今で言えば池井戸潤。予定調和の勧善懲悪劇だが面白い。

「青年の椅子」1962年.jpg 「青年の椅子」も.jpg 「青年の椅子」m1.jpg
青年の椅子 [VHS]」石原裕次郎/芦川いづみ

「青年の椅子」出演者.jpg ここ鬼怒川温泉では、日東電機工業のお得意様招待の新年宴会が盛大に行われていた。芸者衆がずらりと居並ぶ前で、ハッピ姿でサービスにつとめる社員たち。舞台で踊り終った大取引先の畑田商会社長・畑田元十郎(東野英治郎)は、同じく大取引先の矢部商会社長の令嬢・美沙子(水谷良重)の隣に腰を据えた。酒癖の悪い畑田は、やがて美沙子にからみ出す。困った彼女は、傍に控えていた日東電機社員・高坂(石原裕次郎)に助けを求めた。最初は躊躇したものの、畑田の「青年の椅子」芦川.jpg態度をみかねた高坂は、思わず畑田を投げ飛ばしてしまう。腐った高坂はビール手に風呂場へ降りて行った。そこで畑田と出会った彼は、畑田から意外なことを聞く。営業部長の湯浅(宇野重吉)を失脚させて社を食い物にしようとする陰謀があるというのだ。「青年の椅子」宇野.jpg先刻の事は水に流して仲直りした二人は、湯浅を守ることを誓い合う。一方、タイピストの十三子(芦川いづみ)と美沙子は高坂に好意を持っていた。面白くないのは十三子に婚約を破棄された営業部員の大崎(藤村有弘)と、美沙子につきまとう矢部商会の専務・田崎(高橋昌也)で、二人は何とかして高坂を馘にしようと企む。さらに田崎は、日東電機総務部長の菱山(滝沢修)と組んで、日東電機を食いものにしようとしていた。菱山一派は行動を開始し、菱山は湯浅に彼の部下の悪事を暴き責任をとるように迫る。辞職しようとする湯浅を引き留めた高坂は、畑田の力を借り巻き返しを開始し、美沙子を慕う矢部商会の木瀬(山田吾一)も高坂に協力を申し込む―。

青年の椅子 [VHS]
「青年の椅子」vh.jpg 1962年4月公開の西河克己(1918-2010)監督作で、原作は源氏鶏太(1912-1985)の1961年6月刊行の同名小説。何だか、今の時代の真山仁か池井戸潤の企業小説みたいです。どちらかと言うと池井戸潤かな。予定調和の勧善懲悪劇ですが面白いです(いつの時代も、こうした分かりやすい企業小説や企業ドラマへの需要はあるということか)。

 田崎が情婦にバーを経営させているという情報を掴んだ高坂がそこへ乗り込むと、菱山、田崎、大崎の面々がたむろしていた。その帰り高坂は愚連隊に襲われる。菱山らの陰謀は紛れもないところとなった。高坂や美沙子らに迫られた田崎は、全てが菱山の企んだことと白状する。高坂は菱山に対峙し、皆の前で彼の陰謀を明かす。菱山と田崎はクビになり、高坂は十三子に結婚を申し込むのだった―。

「青年の椅子」m2.jpg「青年の椅子」p.jpg やはり、ヒーロー裕次郎の特徴は喧嘩が強いこと。愚連隊なんか蹴散らして返り討ちにしてしまいます。それと、何事にも無感情になりがちな今の社会と違って(当時でも言いにくいことは言えない雰囲気はあったと思うが)、素直に感情を吐露する姿も心地よいです。まあ、東野英治郎演じるお得意先の社長の非礼にたまらず相手を投げ飛ばしてしまうも、そのことで却ってその社長との絆が深まるというのは出来すぎた話ですが、そこはコメディということで...。

 宇野重吉が演じる営業部長の湯浅と、滝沢修が演じる総務部長の菱山が、常務(芦田伸介)を挟んで対峙するシーンは、劇団民藝の共同代表同士で見応えがあり、こうした場面が映画を"絞める"ことになっていると思いました。二人の共演は多いけれど(滝沢と宇野は「剛の滝沢、柔の宇野」と称された)、こうしたまともにぶつかり合うシーンはあまりないのではないかと思います。

91石原裕次郎 『青年の椅子』.jpg「青年の椅子」●制作年:1962年●監督:西河克己●製作:水の江滝子(企画)●脚本:松浦健郎●撮影:岩佐一泉●音楽:池田正義(主題歌:石原裕次郎「ふるさと慕情」)●原作:源氏鶏太●時間:93分●出演:石原裕次郎/芦川いづ「青年の椅子」01.jpgみ/芦田伸介/水谷良重/藤村有弘/山田吾一/高橋昌也/谷村昌彦/青木富夫/矢頭健男/小川虎之助/大森義夫/三崎千恵子/宮城千賀子/東野英治郎/滝沢修/宇野重吉●公開:1962/04●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-06)(評価:★★★☆)


石原裕次郎シアター DVDコレクション 75号 『青年の椅子』 [分冊百科]

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裕次郎の日活青春映画の中ではやや異色なのは、芦川いづみの役どころのせい?

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あした晴れるか [DVD]」石原裕次郎/芦川いづみ
「あした晴れるか」000.jpg「あした晴れるか」m3.jpg 秋葉原のヤッチャバ(青果市場)に勤める三杉耕平(石原裕次郎)は写真大学卒で、本職はカメラマン。彼はある日、桜フィルムの宣伝部長・宇野(西村晃)から「東京探検」というテーマで仕事を依頼される。そして耕平の面倒をみる担当として、宣伝部員・矢巻みはる(芦川いづみ)を付けられた。みはるは才女で、耕平にとっては全くの苦手タイプだった。その上バー"ホブーブ"のホステス・セツ子(中原早苗「あした晴れるか」m2.jpgも耕平を追いかけ回し、苦手が二人になる。その夜、宇野に連れていかれたバーで、みはるが愚連隊に因縁をつけられるが、偶然通りがかったみはるの従弟・昌一(杉山俊o0420017915048971131.jpg夫)によって救われる。翌朝、耕平は目を覚まして仰天する。みはるの家に泊ってしまったのだ。みはるには、しのぶ(渡辺美佐子)という美しい姉がいた。しのぶは、美容学研究家の洒落男・下田(庄司永建)に求愛されていた。やがて、耕平の仕事が本格的に始まる。深川の不動尊、佃島の渡船場、旧赤線地帯、野犬抑留場―みはるは一日中耕平の傍に付きながら、彼に惹かれていくのを感じた。ふとしたことから耕平はセツ子の父親・清作(東野英治郎)と知り合う。清作は昔ヤクザだったが今は堅気の生活をしている。しかし六年前に清作がビッコにした人斬り根津(安部徹)という男が清作を探していた。ある日、根津に探し出された清作を、危機一髪、耕平が駆けつけて救ける―。

『あした晴れるか』.jpg '60年10月公開の中平康(1926-1978)監督作で、原作は菊村到(1925-1999)の新聞連載小説。'60年に東京新聞に268回に渡って連載されたものです。『あした晴れるか』('60年/光文社)として同年刊行されていますが、同じ年に映画化もされたことになります。菊村到は、「不法所持」で'57(昭和32)年・第3回「文學界新人賞」、「硫黄島」で'57(昭和32)年上期・第37回「芥川賞」を受賞していますが、個人的イメージとしては西村寿行(1930-2010)とかに近い印象。ビジネス小説も書いていたのかあ(しかもユーモア小説!まあ、ヤクザは出てくるが)。
あした晴れるか―長編小説 (1960年) -』 

o0420017915048875203.jpg「あした晴れるか」 芦川.jpg 全体としては、裕次郎のモテ男はつらいといったお話ですが、テンポが良くて楽しめるのと、どちらかというと可憐な女性の役が多い芦川いずみが、眼鏡をかけたキャリアウーマン風の女性を演じているところが変わったところでしょうか(実は周囲に馬鹿にされないための伊達メガネだったのだが)。

「あした晴れるか」m1.jpg 芦川いずみ演じる矢巻みはるは、中原早苗が演じる元気なホステス・セツ子と、裕次郎が演じる耕平を巡って張り合うし、渡辺美佐子が演じる矢巻みはるの姉しのぶも、政略的な婚約を断ち切り、最後、独り窓に向かって「昨日風吹き、今日雨吹り、明日晴れるか」と落書きし(これがタイトルの由来)、その瞳は耕平にじっと向けられていて―。

 最後は耕平の次々と発表した「東京探検」作品展は人気を呼び、大当りに気を良くした宇野(西村晃)は、この次の企画として「アフリカ探検」を耕平に用意してあると言うのだが、みはる、セツ子に加えて昌一までもが助手として同行することを希望し、さて一体誰が耕平についてアフリカに行くのか...。
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「あした晴れるか」c1.jpg 芦川いづみの大きな黒眼鏡の役どころのせいもあってか、彼女の出演作品としても、裕次郎の日活青春映画としてもやや異色ですが、肩が凝らずに楽しめるコメディでした。

 最後のヤクザとの乱闘シーンで、裕次郎がメロンを手に、「卸しでも300円する」と言っていますが、時代は1960年なのでかなりの高級品のはず。マスクメロンは、まだ庶民にとっては高嶺の花でした。これを投げつけるシーンには、当時批判があったのではなかったかなあ(因みに、この映画の鑑賞券(前売り券)には、「総天然色 主演:石原裕次郎 芦川いづみ」とあり、価格は「100円」とあった)。
『あした晴れるか』 (c).jpg「あした晴れるか」石原裕次郎/芦川いづみ

「あした晴れるか」 c2.jpg.gif「あした晴れるか」09.jpg「あした晴れるか」●制作年:1960年●監督:中平康●脚本:池田一朗/中平康●撮影:岩佐一泉●音楽:黛敏郎●原作:菊村到●時間:90分●出演:石原裕次郎/芦川いづみ/渡辺美佐子/杉山俊夫/信欣三/嵯峨善兵/高野由美/中原早苗/安部徹/草薙幸二郎/藤村有弘/庄司永建 o0420017915049307194.jpg/殿山泰司/宮城千賀子/西村晃/東野英治郎/三島雅夫●公開:1960/10●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-06)(評価:★★★☆)
      
殿山泰司(中年サラリーマン・植松伊之助。チンピラに絡まれるが耕平に助けられ、共に飲み屋で意気投合する。家庭では女房の尻に敷かれている)
  
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東野英治郎(セツ子の父親・梶原清作。今は花屋だが、かつては博打打ちで、根津(安部徹)が清作の親分を刺したため清作が根津を刺し、そのため根津から恨まれている)

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安部徹(人斬り根津。6年前に清作がビッコにしたヤクザで、最近出所して恨みを晴らすために清作を探している)
  
 
 
 
 
   
●菊村到原作
硫黄島」('59年)/「けものの眠り」('60年)
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俺は死なないぜ」('61年)/「夕陽の丘」('64年)
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浦粕(浦安)で暮らす人々の悲喜こもごも。原作を巧みに再構成した新藤兼人脚本。

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青べか物語 [DVD]」森繁久彌/左幸子/フランキー堺/池内淳子
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 東京都と千葉県の境を流れる江戸川の河口に、貝と海苔と釣場で有名な浦粕集落がある。ある日、「先生」と呼ばれる三文文士(森繁久彌)がやって来て、当分の住いを、片足が不自由な妻(乙羽信子)と暮らす増さん(山茶花究)の家の二階に決める。着て早々、先生は見知らぬ老人・芳爺(東野英治郎)から、青べか舟を売りつけられる。先生が観察するに、この地では他人の女房と寝るぐらいのことは珍しくなく、動物的本能が公然と罷り通っている大変なところだった。町にはごったく屋という小料理屋が多い。その中の一軒「澄川」に威勢のいいおせい(左幸子)、おきん(紅美恵子)、おかつ(富永美沙子)の3人が働いている。「澄川」の真ん前に「みその」洋品雑貨店があり、息子・五郎(フランキー堺)の花嫁(中村メイコ)は里帰りしたまま戻ってこない。べか舟を先生に売りつけた芳爺、消防署長わに久(加藤武)、天ぷら屋の勘六(桂小金治)あさ子(原悦子)夫婦などが五郎は不能らしいと噂をふりまいた。だが、孤独な生活を楽しんでいる老人もいる。廃船になった蒸気船に寝泊りしている老船長(左卜全)がそれだ。彼はいまだに若い頃の恋人(桜井浩子)を想い浮かべることによってのみ生き甲斐を感じているかのようである。飲み屋の連中の騒ぎ、バクチ場で血相変えて喚く連中、様々な人間模様に興味を感じながらも、煩わしさを避けて先生は青べか舟で釣りに出掛ける。五郎には母親(千石規子)が新しい花嫁(池内淳子)を連れてきて、今度は不能だなどと陰口も叩かれず、幸福な生活に入れるらしい。そんな先生に思いがけない事件が起きる。ごったく屋のおせいが先生に惚れたのだ。言い寄られた先生は眼を白黒。失恋のおせいは、腹いせに偽装心中を図る。とんでもない騒ぎに巻き込まれた先生は、様々な思いを抱きながらも浦粕集落から逃げ出すことにした―。

 1962(昭和37)年公開の川島雄三監督作品。個人的には劇場(神保町シアター)で観ましたが、昨年['21年]やっとDVD化された作品であり、これまでなかなか観る機会が無かった作品です。

青べか物語1.jpg 原作は山本周五郎が1960(昭和35)年1月から12月にかけて「文藝春秋」に連載したもので、この年、作者は57歳。ただし、実際に作者が浦安(作中では原作・映画とも"浦粕"となっている)に住んだのは、1924(大正15)年からの3年間、23歳から26歳までの間のことで、町の人から「先生」と呼ばれているけれど、実はまだ20代の若さだったのです。

 映画では設定を、浦安付近の埋め立てがまさに始まらんとする直前(浦安市の海面埋め立てが始まったのは1964(昭和39)年)、つまり映画撮影時の"現在('62年)"に置き換えているようにも見えますが(冒頭にそう思わせる浦安の'62年当時の風景シーンがあり、そのままドラマ部分に入っていく。警察官も戦後のそれの恰好をしている)、一方で、描かれている物語の中身や背景はとても戦後とは思われず、昭和初期といった感じなのはそのためでしょう(母親に売り飛ばされた娘の話などがあったりする)。永らくDVD化(ビデオ化)されなかったのは、地元の人に浦安とその周辺の描き方に根強い反発や忌避感があったためだとのことですが、それは、このアナクロニズムによるものではないでしょうか。

「青べか物語」12.jpg 原作は33篇のエピソードからなる「浦粕」とそこに暮らす人々のいわば"点描"ですが、映画ではそこから幾つかのエピソードを拾い上げて膨らませ、特にフランキー堺が演じる五郎の結婚騒動が中心にきているため、哀しい話もあるけれども、全体的には喜劇色が強くなっているように思いました。それでも、原作を巧みに再構成し(脚本は新藤兼人)、「浦粕」で暮らす人々の悲喜交交(こもごも)をよく描いた作品だと思います。

「青べか物語」11.jpg 森繁久彌は主人公の語り手の立場で、珍しく受け身的な演技でしたが、これはこれでぴったりでした。最後、逃げ出すかのように「浦粕」を去るのも原作と同じです。左卜全演じる「船長」が、退職後、廃船に住んでいまだに若いころの恋人(桜井浩子)を思い出しているというのも切なかったです。

「青べか物語」13.jpg 名優揃いですが、その魅力を引き出す川島雄三の演出はさすが。先に述べたように、時代が戦後なのか昭和初期なのかよくわからないのが残念で(戦後だとすればかなりアナクロということになる)星半分マイナス。でも、もうこうした映画は撮れないだろうという思いで(加えて、久しく待望されたDVD化を祝して)星半分オマケして、最終的に星3つ半というところでしょうか。

 
「青べか物語」14.jpg「青べか物語」●制作年:1962年●監督:川島雄三●製作:佐藤一郎/椎野英之●脚本:新藤兼人●撮影:岡崎宏三●音楽:池野成●原作:山本周五郎●時間:101分●出演:森繁久彌/東野英治郎/南弘子/丹阿弥谷津子/左幸子/紅美恵子/富永美沙子/都家かつ江/フランキー堺/千石規子/中村メイコ/池内淳子/加藤武/中村是好/桂小金治/市原悦子/山茶花究/乙羽信子/園井啓介/左卜全/井川比佐志/東野英心/小池朝雄/名古屋章●公開:1962/06●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(22-11-10)(評価:★★★☆)

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今村「重喜劇」の代表作。大島渚の「太陽の墓場」と似た雰囲気を感じた。

「豚と軍艦」横1.jpg
日活100周年邦画クラシックス GREATシリーズ 豚と軍艦 HDリマスター版 [DVD]」長門裕之/吉村実子
「豚と軍艦」14.jpg 水兵相手のキャバレーが立ち並ぶ町の中心地ドブ板通り。周囲の活気をよそに。当局の取締りで根こそぎやられてしまったモグリ売春ハウスの連中、日森(三島雅夫)一家は青息吐息の状態。そこで一家は、豚肉の払底から大量の豚の飼育を考えついた。ハワイからきた崎山(山内明)が基地の残飯を提供するという耳よりな話もある。ゆすり、たかり、押し売りからスト破りまでやってのけて金をつくり、彼らの"日米畜産協会"もメドがつき始めた。そんな時、流れやくざの春駒(加原武門)がタカリに来た。応待に出た若頭で胃病もちの鉄次(丹波哲郎)の目が光る。叩き起されたチンピラの欣太(長門裕之)は春駒の死体を沖合まで捨てに行かされた。「欣太、万一の場合には代人に立つんだ。くせえ飯を食ってくりゃすぐ兄貴分だ」という星野(大坂志郎)の言葉に、単純な欣太はすぐその気になった。彼は恋人の春子(吉村実子)と暮したい気持でいっぱいなのだ。春子の家は、姉の弘美(中原早苗)のオンリー生活で左団扇だったが、彼女はこの町の醜さを憎悪し、欣太に地道に生きようと言っては喧嘩になった。ある夜、吐血して病院に担ぎこまれた鉄次がそのまま入院となり、日森一家の屋台骨はグラグラになる。会計係の星野が有り金を持って消え、崎山も前金を搾り取るとハワイに逃げてしまった。酷い胃癌で余命三日という診断結果を受けた鉄次は、自殺する勇気もなく、殺し屋のワン(城所英夫)に自分を殺してくれとすがりつく。だがこれは間違いで、鉄次は単なる胃潰瘍だった。鉄次は、間違いを喜ぶよりもワンに殺される恐怖に再び血を吐く。欣太と激しく口喧嘩をした春子は町に飛び出し、酔った水兵に嬲りものにされる。日森一家は組長の日森と、軍治(小沢昭一)・大八(加藤武)とに分裂、両者とも勝手に豚を売りとばそうと企み、軍治たちは夜にまぎれての運搬を欣太に命じた。欣太は豚を積み込む寸前に先回りした日森らに捕まってしまう。豚を乗せ走り出す日森のトラック群。それを追う軍治らのトラック。六分四分で手を打とうという日森だったが、欣太はもう騙されないと小型機関銃をぶっ放す。ドブ板通りには何百頭という豚の大群が溢れる―。

「豚と軍艦」poster.jpg「豚と軍艦」ny1.jpg 今村昌平監督の1961年公開作で、今村「重喜劇」の代表作とされる作品であり、1961年度・第14回「ブルーリボン賞(作品賞)」受賞作。マーティン・スコセッシ監督がこの映画を学生時代に観て「衝撃を受けた」と語っているという話は有名です。そう思うと確かに〈ピカレスクもの〉としては「グッドフェローズ」('90年/米)などに通じるところもあるし、一方、長門裕之(競演の南田洋子とはこの年に結婚)と吉村実子(今村昌平にスカウトされての映画初出演。「にっぽん昆虫記」にも出ている)のカップルはまさに「どぶの中の青春」という感じで(つまり〈青春もの〉でもある)、2012年に日活創立100周年記念として過去の日活映画を上映した「日活映画 100年の青春」企画でも、上映作品のラインアップにこの作品がありました。

「豚と軍艦」6.jpg 基本的にコメディですが普通のコメディと少し違い、「重喜劇」は単に重いのではなく、軽快な喜劇の逆であるということ、つまり「鈍重な喜劇」だということだそうです。豚を巡るブラックユーモアは、そのまま戦後日本の状況的な寓意になっていて、「米軍基地から出る残飯でやくざが豚を飼い、大儲けをたくらむ」という簡単なプロットから、戦後世界の中で軍艦(軍事的身分)を保持できなかった日本人が、豚(寄生的な家畜)として生きる姿を描いているともとれます。
  
小沢昭一/加藤武/長門裕之/丹波哲郎/大坂志郎
「豚と軍艦」ierba.jpg 神経を逆撫でするギャグが頻出し、丸焼きにした豚の肉片から人の入れ歯が見つかり、ヤクザの一人(加藤武)が殺害したお尋ね者の死体を土に埋めずに豚の餌の中に混ぜ込んだと言うと、鉄次(丹波哲郎)ら一同が嘔吐するといった場面と「豚と軍艦」丹波哲郎 j.jpgか、また、鉄次が、末期ガンで三日と持たないと伝えられ、発作的に鉄道自殺を企てるも直前で思い止まり、列車をやり過ごした直後にしがみついていたのが生命保険の看板だったとか―(だいたい強面な役が多い丹波哲郎が、ここではドスを効かせながらも喜劇的な部分をかなり担っているのが興味深く、この点も「重喜劇」故か?)。

 個人的には、前年公開の大島渚監督の「太陽の墓場」('60年/松竹)と似た雰囲気を感じました。「太陽の墓場」は大阪(西成地区か)が舞台で、主人公のチンピラ役は川津祐介で、愚連隊の会長役は長門裕之の弟・津川雅彦でした。皆が殺し合って、最後に残ったのは炎加世子演じるヒロインでしたが、この「豚と軍艦」でも、ラストの狂騒の中、警官に撃たれた欣太は路地裏でひっそり命を落とし、数日後、一人になった春子は未来を見据えて堂々と家を出ていきます。どちらの映画の女性も強い―。誰か、「太陽の墓場」と「豚と軍艦」を比較して論じている人はいないのかなあ。

「豚と軍艦」yokosuka.jpg 何年か前に横須賀に行って横須賀本港と、海上自衛隊の司令部がある長浦港をめぐり、日米の艦船を見学するクルージングツアーに参加しました。艦船の中にイージス艦2隻が泊まっていましたが、2隻で計約5000億円するそうな。新国立競技場の 建設「豚と軍艦」m.jpg費用が約1600億円だから、1隻の費用だけで新国立競技場の建設費を上回ることになります。ほかに「豚と軍艦」cb.jpgも猿島や三笠公園、海軍カレーの店などに行ったりし、「どぶ板通り商店街」も行ったはずですが、なぜかあまり印象に残らなかったです(観光スポット化して小ざっぱりしすぎていた?)。

「豚と軍艦」●制作年:1961年●監督:今村昌平●製作:大塚和●脚本:山内久「豚と軍艦」ny2.jpg●撮影:姫田真佐久●音楽:黛敏郎●時間:108 分●出演:長門裕之/吉村実子/三島雅夫/丹波哲郎/大坂志郎/加藤武/小沢昭一/南田洋子/佐藤英夫/東野英治郎/山内明/中原早苗/菅井きん/加原武門/青木富夫/西村晃/ 初井言栄/高原駿雄/神戸瓢介/矢頭健男/殿山泰司/城所英夫/武智豊子/河上信夫/玉村駿太郎/中川一二三/福田文子/奈良岡朋子●公開:1961/01●配給:日活●最初に観た場所(再見):シネマブルースタジオ(22-06-14)(評価:★★★★)

吉村実子/長門裕之

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「豚と軍艦」奈良岡.jpg 奈良岡朋子(ホテル「チェリィ」の女将)

Yokosuka Dobuita Street(© 2022 TripAdvisor LLC Todos los derechos reservados.)
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メロドラマ in 阿蘇谷。高峰秀子と仲代達矢が競演。田村正和の本格デビュー作でもある。

永遠の人 1961.jpg 永遠の人 木下 01.jpg 永遠の人 木下 02.jpg
木下惠介生誕100年「永遠の人」 [DVD]」高峰秀子/仲代達矢/佐田啓二

「永遠の人」1.jpg◇第一章 昭和7年、上海事変の頃、阿蘇谷の大地主・小清水平左衛門(永田靖)の小作人・草二郎(加藤嘉)の娘・さだ子(高峰秀子)には川南隆(佐田啓二)という親兄弟も許した恋人がいた。隆と、平左衛門の息子・平兵衛(仲代達矢)は共に戦争に行っていたが、平兵衛は足に負傷、除隊となって帰郷する。平兵衛の歓迎会の数日後、平兵衛はさだ子を犯す。さだ子は川に身を投げるが、隆の兄・力造(野々村潔)に助けられる。やがて隆が凱旋、事情を知った彼は、さだ子と村を出奔しようと決心するが、当日になって幸せになってくれと置手紙を残し行方をくらます。

「永遠の人」13.jpg◇第二章 昭和19年。さだ子は平兵衛と結婚、栄一、守人、直子の三人の子をもうけていた。太平洋戦争も末期、隆も力造も応召していた。隆はすでに結婚、妻の友子(乙羽信子)は幼い息子・豊と力造の家にいたが、平兵衛の申し出で小清水家に手伝いにいくことになる。隆を忘れないさだ子に苦しめられる平兵衛と、さだ子の面影を追う隆に傷つけられた友子。ある日、平兵衛は友子に挑み、さだ子は"ケダモノ"と面罵する。騒ぎの中、長い間病床に伏していた平左衛門が死去、翌日、友子は暇をとり郷里へ帰る。

「永遠の人」tamura.jpg◇第三章 昭和24年。隆は胸を冒されて帰郷。一方、さだ子が平兵衛に犯された時に姙った栄一(田村正和)は高校生になっていたが、ある日、自分の出生の秘密を知り、阿蘇火口に投身自殺する。さだ子と平兵衛は一層憎み合うようになる。

◇第四章 昭和35年。二十歳になる直子(藤由紀子)と25歳になる隆の息子・豊(石浜朗)は愛し合っていたが家の事情で結婚できない。さだ子は二人を大阪へ逃がしてやった。これを知って怒る平兵衛。そこへ巡査(東野英治郎)がきて、東京の大学に入っている次男の守人(戸塚雅哉)が安保反対デモに参加、逮捕状が出ていると報せに来る。その後へ守人から電話。さだ子は草千里まできた守人に会い金を渡して彼の逃走を助ける。草千里へ行く途中、さだ子はまた友子と会い、息子と会いたいという友子に大阪の居場所を教える。

◇第五章 昭和36年。隆は死の床についていた。直子と豊も生れたばかりの子を連れて駆けつける。さだ子も来た。隆は死の間際に、平兵衛を苦しめていたのは自分であり、謝ってくれとさだ子に告げるた。さだ子は隆を安らかに送るため平兵衛を呼んでこようとするが―。

「永遠の人」tamura2.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1961(昭和36)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。1962年に米国の第34回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品でもあります。前年「旗本愚連隊」にて顔見せ出演した田村正和は、この作品が本格的デビューとなりました。

仲代達矢/田村正和/高峰秀子

 「ザ・メロドラマ in 阿蘇谷」という感じ。さだ子(高峰秀子)、隆(佐田啓二)、平兵衛(仲代達矢)は三角関係で、さだ子にとっての「永遠の人」は隆であり、そのためさだ子と平兵衛は憎しみ合っていて、それを演じる高峰秀子と仲代達矢が演技合戦がスゴイです(高峰秀子は'61年・第12回「芸術選奨(演技)」受賞)。

「永遠の人」12.jpg ラスト、平兵衛はさだ子の頼みを最初はきかなかったけれども、やがて頑なだった彼の心も砕けます。ただ、これで30年間も憎み、苦しんできた二人にようやく平和が訪れたという、所謂メロドラマ的筋書きなのでしようが、高峰秀子と仲代達矢のそれまでの憎しみ合う演技がスゴ過ぎて、結末がやや安易に思えてしまうほどでした。

 なぜかBGMがフラメンコギターなのですが、これが各シーンに合っていて、フラメンコ調のギターはメロドラマと相性がいいのかも。フラメンコ調のギターを活かした映画と言えば今井正監督の「小林多喜二」('74年)がありましたが、あれもなぜフラメンコギターなのかと思いながらも、しばらくすると違和感がなくなりました。個人的には、この映画で再び同じような経験をしたことになります。

「永遠の人」あそ.jpg.png「永遠の人」●制作年:1961年●監督・脚本:木下惠介●製作:月森仙之助/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●時間:107分●出演:高峰秀子/佐田啓二/仲代達矢/加藤嘉/野々村潔/永田靖/浜田寅彦/乙羽信子/田村正和/戸塚雅哉/藤由紀子/石濱朗/東野英治郎●公開:1961/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-20)(評価:★★★★)
「永遠の人」p.jpg.png.jpg

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今村昌平に「リアリズムで撮る手は残っているな」と思わせた作品。

「楢山節考」木下p.jpg「楢山節考」木下1958.jpg「楢山節考」木下1958 1.jpg
木下惠介生誕100年 「楢山節考」 [DVD]

「楢山節考」kinosiya.jpg 70歳になると楢山参り(姥捨)を行わなければならない山奥の村に住む、69歳になる「おりん」とその息子が軸となるストーリー。したがって、基本的には今村昌平監督の「楢山節考」('83年/東映)と同じストーリーの枠組みですが、見せ方はかなり異なります。

「楢山節考」木下1958 2.jpg オープニングは定式幕に「東西、東西、このところご覧にいれますルは本朝姥捨ての伝説より、楢山節考、楢山節考...」という黒子の口上で始まり、幕が開きます。ラストの現代の風景を除いてオール・セットで撮影されていて、場面転換では振落し(背景が描かれている書割の布を瞬時で落として次の場面を見せること)や、引道具(建物などの大道具の底に車輪をつけて、前後・左右に移動させる装置)などといった歌舞伎の舞台の早替わりの手法が使われ、長唄や浄瑠璃などの音楽を全編にわたって使い、歌舞伎の様式美を取り入れた作品となっています。
        
「楢山節考」木下1958 3.jpg 今村昌平は深沢七郎の原作を読んだ時から「楢山節考」を映画化したいと考えていたところ、木下惠介監督が撮ることが決まりがっくりしたとのこと。ところが、木下惠介が前述のとおり歌舞伎の様式美を取り入れた作品として撮ったため、「まだリアリズムで撮る手は残っているな」と思ったそうです。結局、今村昌平は木下惠介版の四半世紀後に「楢山節考」('83年/東映)を撮り、これに第36回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞という"オマケ"までつきました。大本命だった大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」を下してグランプリに輝いたことについて、岩波ホール総支配人の高野悦子は、「大島さんはいい作品で当然、今村さんは新しい人だから、フランス人にはショッキングな発見だったんでしょう」と述べています。

 木下惠介版は、1958年度のキネマ旬報ベストテン第1位になったほか、毎日映画コンクール日本映画大賞などを受賞し、同年度のヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品され、評論家時代のフランソワ・トリュフォーが絶賛したとされています。2012年に木下惠介生誕100年を記念してデジタルリマスター版が作られ、同年のカンヌ国際映画祭クラシック部門で上映されていますが(日本映画としては小津安二郎、宮崎駿、鈴木清順の監督作に続く選出)、先に木下惠介版を観ている審査員がいれば、今村昌平版の時は木下惠介版との相対評価になったのかなあ。

「楢山節考」tanaka.jpg 木下惠介版で老女を演じた田中絹代(1909-1977/67歳没) は当時48歳で、70歳の女性を演じるにあたり自分の差し歯4本を外して役作りしましたが、今村昌平版で老女を演じた坂本スミ子(1936-2021/84歳没)は当時46歳で、前歯を短く削り歯が抜けたように見せる演出をして役作りしています(差し歯はしてなかったということか)。坂本スミ子は、カンヌ映画祭へ出品に消極的だった今村昌平を、プロデューサーと一緒に説得して出品させた経緯があり、それがパルム・ドール受賞に繋がったわけです。

田中絹代(当時48歳)
      
『名画座面白館』赤塚.jpg『名画座面白館』022.jpg 先に読んだ『赤塚不二夫の名画座面白館』('89年/講談社)で赤塚不二夫は木下惠介版を舞台仕立てにしたところが見事であると絶賛し、今村昌平版の土俗的リアリズムは自分は「買わないのだ」と断言していましたが、個人的にはそれぞれに良さがあると思います。同じ原作の映画を観たという感じがあまりないのですが、共に観る側との相性を選ぶ作品であるようにも思います。やや優柔不断かもしれませんが、個人的評価は両方とも★★★☆です)。
      
「楢山節考」●制作年:1958年●監督・脚本:木下惠介●製作:小梶正治●撮影:楠田浩之●音楽:杵屋六左衛門/野沢松之輔●原作:深沢七郎●時間:98分●出演:田中絹代/高橋貞二/望月優子/三代目市川團子(二代目市川猿翁)/宮口精二/伊藤雄之助/東野英治郎/三津田健/小笠原慶子/織田政雄/西村晃/鬼笑介/高木信夫/小林十九二/末永功/本橋和子/吉田兵次●公開:1958/06●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-09-03)(評価:★★★☆)
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「楢山節考」●.jpg

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女優のためにラストをドラマチックに改変?これはこれでよい。でも、やはり原作の方が上。

秋津温泉d.jpg 秋津温泉11.jpg 秋津温泉12.jpg 秋津温泉 集英社.jpg
あの頃映画 「秋津温泉」[DVD]」岡田茉莉子/長門裕之 藤原審爾『秋津温泉 (集英社文庫)』(カバー・関野準一郎)
秋津温泉p.jpg秋津温泉3.jpg 太平洋戦争中、生きる気力を無くした青年・河本周作(長門裕之)は死に場所を求めてふらりと秋津温泉にくる。結核に冒されている河本は、温泉で倒れたところを、温泉宿の女将の娘・新子(岡田茉莉子)の介護によって元気を取り戻す。そして、終戦。玉音放送を聞いて涙する純粋な新子に心打たれた河本は、やがて生きる力をとり戻していく。互いに心惹かれる二人だったが、女将が河本を追い出してしまったために、河本は街に戻る。秋津温泉01.jpg数年後、秋津に再び現れた河本だが、酒に溺れて女にだらしない、堕落してしまった河本に、新子は苛立ちを覚える。そこで、河本が結婚したことを知った新子は、苦しい河本への思いを捨てきれないまま、河本を送り出す。その後、東京に行くことになった河本は再び秋津を訪れる。一途なまでに河本を思う新子、そして、優柔不断でだらしない河本は再び都会へ。さらに四たび秋津を訪れる河本、そのときには旅館を廃業した新子だったが、河本は新子との肉体の情欲にだけ溺れる。新子は、河本に一緒に死んでくれと言う―。

岡田茉莉子 吉田喜重1.jpg岡田茉莉子 吉田喜重2.jpg 1962(昭和37)年公開の吉田喜重(1933-2022/89歳没)監督作で、岡田茉莉子が「映画出演百本記念作品」として自らプロデュースし、初めて吉田喜重とコンビを組んで作り上げた作品(1962年キネマ旬報ベストテン第10位)。岡田茉莉子はこの映画の後で引退しようと考えたが、吉田喜重に「あなたは青春を映画に全て捧げて、もったいないかと思いませんか」と言われて引き留められたとのこと。そして、翌1963年に二人は結婚しています。

 映画は、温泉宿の娘・新子(岡田茉莉子)と宿泊客の青年・河本周作(長門裕之)との戦後17年、時代に流されてゆく男と、変わらぬ真情を抱きつつ裏切られる女の姿を描いており、原作小説のモデルとなった岡山の奥津温泉でのロケ、雪や桜などの風光美と、岡田茉莉子演じる女性の切なさ哀しさが重なり合う佳作です(岡田茉莉子は第17回「毎日映画コンクール女優主演賞」受賞)。
     
秋津温泉 (1949年)』    
秋津温泉 新潮社.jpg 原作『秋津温泉』は、藤原審爾(1921-1984/63歳没)が戦争中21歳の時に岡山での執筆を始め、戦災で吉備津に移り、戦後倉敷市で書き上げ、1947(昭和22)年12月に『人間小説集 別冊』1集として鎌倉文庫から刊行されて1947年上半期・第21回「直木賞」候補となり(授賞に至らなかったのは、川端康成系の"純文学"と受け止められたためのようだ)、1948年9月に講談社より刊行、さらに加筆版が 1949(昭和24)年12月に新潮社より刊行されています。

 原作は全5章。第1章「花風月雲」は、辺鄙な山奥にある静かな秋津の街に、17歳の〈私〉が未亡人である伯母に連れられてやって来るところから始まり、宿である秋鹿園で湯治客同士の交流があって、そこで直子という同じ年の女性と知り合って、〈私〉にとってはその直子さんの振る舞いは忘れられないものとなる―。

 第2章「春夢深浅」では、3年ぶりに秋鹿園にやってきた〈私〉は肺カタルになり帰郷。再び秋鹿園で療養するが、そこで旅館の娘・お新さんから「戦争が始まったのよ!」と知らされ、秋鹿園が軍医の宿舎として徴用されることになり、お新さんが送別会を催してくれて、その夜、酔ったお新さんに〈私〉は頬を寄せる―。

『秋津温泉』図2.jpg 第3章「流水行雲」では、〈私〉は5年ぶりに秋津を訪れるが、その時には"木綿のような、苦労するに向く"女・晴枝と同棲し。1歳の子もあり、秋鹿園を新装して、"熟れた美しさ"をもつ女将となった新子と再会、ある夜は浴室で"切迫した時間のなかで、私は燃えだしそうな体をもてあます"ことになり、お新さんの燃える情愛の中に入って」いくも、秋津の気配が醸す自然空間の巨大な時間の中で、情愛の虚しさ、自然から逃れられない人間の虚しさを覚える―。

 第4章「煩悩去来」では、8年後、小説家になった私が、子供を連れた直子さんと再会、一方。お新さんとの5年の歳月の間に揺れた情愛も、結局、妻子ある身では、そのどちらとも一緒に暮らすことは叶わぬ夢であり、それdふぇもまだ〈私〉は"煩悩の深み"から抜け出せず、愛欲の念を抑えることなく神を怖れぬ冒涜の上に生きようとするが、最後には愛欲苦からくる罪の深さを認識する―。

 第5章「密夜夢幻」では、お新さんが青洞寺の息子と結婚するのを祝福せねば秋津に向かうと。踊りの稽古をしていたお新さんは湯殿に案内してくれ、〈私〉の服を畳む。お新さんは「あなたが亡くなったからといって、あたしも死ねるかしら?」と、話の主の幻のように言い、その夜〈私〉はお新さんの純白の裸身を抱く―(原作あらすじは新潮文庫の小松伸六(1914-2006)の解説のに拠った)。

秋津温泉7.jpg 映画は、原作の第1章が丸々描かれていないので、主人公の河本が死に場所を求めて秋津温泉に行くというのがやや唐突な印象がありますが、その後のお新さんとの関係は、ほぼ原作に沿ったものになっているように思いました(河本が敗戦時に秋津にいて、その際のお新さんの涙を流す様子を見たというのは映画のオリジナルだが)。

秋津温泉 岡田茉莉子.jpg 映画は、岡田茉莉子演じるお新さんを美しく撮っていますが、原作の方はもう少し肉感的なところもあるような印象。それにしても、自分を裏切って妻子持ちになりながらも愛欲断ち切れず秋津にやってくる長門裕之演じる"ダメ男"の河本 (当初、配役を芥川比呂志でクランクイン、途中で芥川が病気で降板し、急きょ長門裕之を代役に立てて撮り直したとのことだが、長門裕之に向いている役だと思う)をなぜお新さんは諦め切れないのか。成瀬巳喜男監督(原作:林 芙美子)の「浮雲」(1955年/東宝)で森雅之演じる"ダメ男"を諦め切れない、高峰秀子演じる女性を想起しました(森雅之演じる"ダメ男"の虚無と、長門裕之演じる"ダメ男"の虚無は似ているが、前者の方が深かったか)。

秋津温泉 last.jpg 最も原作と違っているのはラストで、最後、河本と別れたあとに、思いつめた新子は手首を剃刀で切ります。それが、桜吹雪の中で抒情的に描かれていますが、原作では、寺の次男との結婚を控えた新子が「あたしはこれでいいのよ、これで倖せだわ」と話すところで終わっており、手首を切る場面はありません。脚本も吉田喜重なので、吉田喜重がこの作品のプロデュースした岡田茉莉子のために、ドラマチックな、悲劇的で美しい結末を用意したことは間違いないですが、映画としては、これはこれでよいとも思います。佳作であると思います。でも、やっぱり原作の方が上でしょうか。

藤原審爾の世界.jpg秋津温泉4.jpg「秋津温泉」●制作年:1962年●監督・脚本:吉田喜重●製作:白井昌夫●撮影:成島東一郎●音楽:林光●原作:藤原審爾●時間:112分●出演:岡田茉莉子/長門裕之/山村聡/宇野重吉/東野英治郎/小夜福子/日高澄子/吉田輝雄/芳村真理/桜むつ子/高橋とよ/清川虹子/殿山泰司/中村雅子/神山繁/小池朝雄/名古屋章/秋津温泉02.jpg下元勉/西村晃/草薙幸二郎/田口計/鶴丸睦彦/穂積隆信/辻伊万里/千之赫子/吉川満子/夏川かほる●公開:1962/06●配給:松竹●最初に観た場所(再見):神保町シアター(21-11-12)(評価:★★★★)
吉田輝雄(新聞記者)
「秋津温泉」吉田.jpg
宇野重吉(松宮謙吉)・山村聡(三上)・長門裕之(河本周作)・芳村真理(陽子)
秋津温泉10.jpg

「秋津温泉」ps.jpg

秋津温泉vhs.jpg

【1962年文庫化[角川文庫]/1978年再文庫化[集英社文庫]】

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夫婦の危機と再生。昭和サラリーマンの悲哀。小津にはこういう映画をもっと撮って欲しかった。

「早春」dvd.jpg 早春 (ラーメン.jpg 早春 dvd.jpg 早春 淡島千景 池部良.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「早春」」岸恵子・池部良「早春 デジタル修復版 [DVD]」池部良・淡島千景  

早春 1956 通勤.jpg 杉山正二(池部良)は蒲田から丸ビルの会杜「東亜耐火煉瓦」に電車通勤するサラリーマンで、結婚後8年の妻昌子(淡島千景)とは、子供を疫痢で失って以来互いにしっくりいかないものを感じている。毎朝同じ電車に乗り合わせることから親しくなった通勤仲間に、青木(高橋貞二)、辻(諸角啓二郎)、野村(田中春男)たち、それに「キンギョ」という綽名の金子千代(岸惠子)がいて、正二は退社後は男仲間で麻雀にふけるのが日課のようになっていた。昌子は毎日の単調を紛らわすため、荏原中早春 1956.jpg延の実家に帰り、小さなおでん屋をやっている母のしげ(浦邊粂子)に愚痴をこぼしていた。杉山は、通勤仲間で日曜に江ノ島へハイキングに出かけたのを機に千代と急接近し、千代の誘惑に屈して一夜を共にしてしまう。それが他の仲間早春 (1956年の映画)awasihima.jpgに知れて、千代は仲間に吊し上げられ、その辛さを杉山の胸に縋って訴えるが、杉山はそれを持て余す。一方、夫と千代の秘密を見破った昌子は家を出る。その日、杉山は会社の同僚で前夜に見舞ったばかりの三浦(増田順二)の早春 池部良 笠智衆 山村聰.jpg死を聞かされ、サラリーマン人生に心から希望を託していた男だっただけに、その死は杉山に暗い影を落とす。仕事面でも家庭生活でも杉山はこの機会に立ち直りたいと思い、丁度話に出た岡山県三石の工場への転勤内示を受諾し、千代との関係を清算して田舎へ行くのもいいかもしれないと考える。一方、昌子は家を出て以来、旧友の婦人記者の富永栄(中北千枝子)のアパートに同居して、杉山からの電話にさえ出ようとしない。杉山は三石の工場に単身で赴任する途中に大津に寄り、仲人の小野寺(笠智衆)を訪ね助言を得る。山に囲まれた侘しい三石に着任して幾日目かの夕方、杉山が工場から下宿に帰ると―。

早春 1956 .jpg 小津安二郎監督の1956年監督作で、当時の若者向けに撮ったと言われているそうです。サラリーマンとして自宅と会社を往復するだけの生活だった杉山(池部良)が、ちょっとしたきっかけから通勤仲間の千代(岸恵子)と関係を持ってしまう、などといったことは今でもありそうですが、密会を重ねるうちに、二人の関係が社内で噂となり、(社内不倫ではないのに)同期社員らに詰問されてしまうというのは、昭和的かもしれません(今の若者はプライバシー問題を気にしてそこまでおせっかい焼かないのでは)。そもそも、通勤仲間でハイキングに行ったのが契機になったというのにも昭和的なものを感じます。

早春 岸恵子 池部良.jpg

 この映画には、もう一人、戦後のニュータイプの女性が出てきて、それは、昌子が家を出てそのアパートに駆け込んだ旧友の婦人記者(中北千枝子)で、夫に早く死なれて一人住まいを余儀なくされながらも、経済的には自立している女性です。基本的には"伝統的"な家庭女性と思われる昌子も、彼女のバイタリティに感化されてか、家を出てもそう暗くならず、杉山からの電話も出ようとしません。

 これらに比べると、杉山の方は、前夜に見舞ったばかりの会社の同僚に死なれるなどして、そこへ妻に出奔されて終始暗い感じ。更にそこへ、会社からの地方への転勤の打診といった具合に、内憂外患の状況に。もともと、大恋愛で結婚したらしい夫婦ですが、昌子が何年か前に産んだ子が死産だったこともあり、夫婦仲が淡泊になっていたところに、杉山の不倫問題があって(千代に「奥さん、怖い?」と訊かれて「ああ、怖い」と答えているのに不倫してしまった)、これはまさに離婚の危機と言えるでしょう。

 でも、家庭のことを考えながら、仕事のことも考えなければならないのがサラリーマン。杉山は今の会社で出世コースなのか、ゴルフをやる総務部長(中村伸郎)から声をかけられる存在です。一方、違った生き方をする人物もいて、それが会社の先輩で仲人もやってもらった小野寺(笠智衆)と同期の阿合(山村聰)で早春 山村聡.jpg早春 東野英治郎2.jpg、彼は会社を辞めて今は喫茶店・バーを経営していて(常連客に定年間際の東野英治郎!)、要するに「脱サラ」したのだと思われますが、会社一筋とは違った男の生き方もこの映画では見せています。

山村聰(杉山のかつての上司・阿合豊)/東野英治郎(阿合の店の客・服部東吉)/[下右]中村伸郎(杉山の会社の総務部長)

早春 1956 中村.jpg 興味深く観ることが出来ました。不倫を扱っていますが、最後はハッピーエンドというか「雨降って地固まる」と言えるのでは(そう言えば、「風の中の牝雞」('48年)も「お茶漬の味」('52年)も「雨降って地固まる)」的映画だった)。娘が嫁にいくかいかないかといった話よりは起伏があり、小津にはこういう作品をもっと撮って欲しかった気もします。興味深く観ることが出来た理由の一つとして、当時のサラリーマン事情がよく分かる映画だったということがあります。杉山の勤務する会社が丸ビルにあるということは、当時で言えば一流会社なのでしょう。杉山に転勤の内示が出てからほどなくして、複数名の労働組合の幹部が杉山のところへ来て「(転勤命令を)受けるかどうかよく考えて」とアドバ早春 池部良 笠智衆.jpgイスするというのにも時代を感じました(内示の段階で組合に知らされているのか?)。仲人をしてもらった人に人生相談するというのもある意味昭和的かも。

笠智衆(杉山の仲人・小野寺) 

 描写がしっかりしている小津映画を観るということは、「昭和」という時代を確認することにもなると思いますが、後期の作品は、家庭内のことはよく描かれているものの、会社のことは、この人たち(主に重役たち)仕事しているの? みたいな印象もあります。そうした中で、この作品は、昭和のサラリーマン悲哀物語とも言え(もちろん今のサラリーマンに通じるところもある)、小津映画の中ではちょっと面白い位置にあるように思います。

杉村春子(杉山家の隣人・田村たま子)   三井弘次・加東大介(杉山の戦友)
早春 杉村春子.jpg 早春 加東大介 三井弘次.jpg
宮口精二(たま子の夫・精一郎)      中村伸郎(総務部長)
早春宮口精二.jpg 早春 中村伸郎.jpg
岸惠子(「キンギョ」こと金子千代)
早春 岸恵子.jpg早春 (1956年の映画).jpg「早春」●制作年:1956年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎 ●撮影:‎厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:144分●出演:池部良/淡島千景/浦辺粂子/田浦正巳/宮口精二/杉村春子/岸惠子/高橋貞二/藤乃高子/笠智衆/山村聰/三宅邦子/織田順二/長岡輝子/東野英治郎/中北千枝子/加賀不二男/田中春男/糸川和広/長谷部朋香/諸角啓二郎/荻いく子/山本和子/中村伸郎/永井達郎/三井弘次/加東大介/菅原通済/村瀬禅/杉田弘子/山田好一/川口のぶ/竹田法一/島村俊雄/谷崎純/長谷部朋香/末永功/南郷佑児/佐々木恒子/千村洋子/佐原康/稲川善一/鬼笑介/今井健太郎/松野日出夫/峰久子/鈴木康之/叶多賀子/井上正彦/千葉晃/山本多美/太田千恵子/中山淳二●公開:1956/01●配給:松竹(評価:★★★★)

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「雁」の位置づけが原作と違った。原作に現代的な解釈を織り込んだのではないか。

vhs 雁1.jpg雁 (1953) [DVD].jpg「雁」('53年/大映)高峰秀子.jpg
日本映画傑作全集 「雁」[VHS]」「雁 (1953) [DVD]

 下谷練塀町の裏長屋に住む善吉(田中栄三)、お玉(高峰秀子)の親娘は、子供相手の飴細工を売って、侘しく暮らしていた。お玉は妻子ある男とも知らず一緒になり、騙された過去があった。今度は呉服商だという末造(東野英治郎)の世話を受けるvhs 雁2.jpgことになったが、それは嘘で末造は大学の小使いから成り上った高利貸しでお常(浦辺粂子)という世話女房もいる男だった。お玉は大学裏の無縁坂の小さな妾宅に囲われた。末造に欺か雁 1953 東野.jpgれたことを知って口惜しく思ったが、ようやく平穏な日々にありついた父親の姿をみると、せっかくの決心も揺らいだ。その頃、毎日無緑坂を散歩する医科大学生達がいた。偶然その中の一人・岡田(芥川比呂志)を知ったお玉は、いつ豊田四郎 「雁」芥川.jpgか激しい思慕の情を募らせていった。末造が留守をした冬の或る日、お玉は今日こそ岡田に言葉をかけようと決心をしたが、岡田は試験にパスしてドイツへ留学する事になり、丁度その日送別会が催される事になっていた。お玉は岡田の友人・木村(宇野重吉)に知らされて駈けつけたが、岡田に会う事が出来なかった。それとなく感ずいた末造はお玉に厭味を浴びせた。お玉は黙って家を出た。不忍の池の畔でもの思いにたたずむお玉の傍を、馬車の音が近づいてきて、その中に岡田の顔が一瞬見えたかと思うと風のよう通り過ぎて行った―。

「雁」1953.jpg 森鷗外の「」を原作とする1953年の豊田四郎監督作で、高峰秀子、芥川比呂志主演。豊田四郎監督の永井荷風原作「濹東綺譚」('60年)も山本富士子の相手役は芥川比呂志でした。豊田四郎監督は、この2作品の間に、有島武郎原作の「或る女」('54年)、織田作之助原作の「夫婦善哉」('55年)、谷崎潤一郎原作の「猫と庄造と二人のをんな」('56年)、川端康成原作の「雪国」('57年)、井伏鱒二原作の「駅前旅館」('58年)、志賀直哉原作の「暗夜行路」('59年)など毎年精力的に文芸作品を撮っています。また、この「雁」は、池広一夫監督、若尾文子、山本學主演で1966年にも映画化されています。

雁 高峰秀子.jpg 原作は、「僕」が35年前の出来事を振り返る形になっていて、原作の「僕」は映画での岡田の友人・木村に該当しますが、原作には木村という名は出てきません(因みに若尾文子版でも木村になっている)。また、原作でのお玉の年齢は数えで19歳くらいのようですが、それを実年齢で当時29歳の高峰秀子が演じています(ただし、若尾文子が演じた時は32歳だった)。芥川比呂志もこの時33歳だったので、学生というにはやや年齢が行き過ぎている印象も受けます。

雁 1953 1.gif 物語は、原作が主に「(物語の語り手でもある)僕」の視点から展開されるのに対し、映画は高峰秀子が演じるお玉の視点からの展開が中心であり、特に前半は9割以上がそうであって、お玉が善吉にほとんど騙されるような形でその"囲い者"になり、周囲の差別と偏見の下、肩身の狭い思いで暮らす様が丁寧に描かれています。お玉が芥川比呂志演じる岡田と知り合う契機となる「蛇事件」は真ん中ぐらいでしょうか。そこからお玉が岡田への想いを募らせていくのは原作と同じです。

 原作との大きな間違いは、宇野重吉演じる原作の「僕」こと木村が、原作では岡田とお玉が相識であったことを当時知らなかったことになっているのに、映画ではそれを知っていて、岡田の恋愛アドバイザー的な立場にいることで(岡田が医学生であるのに対し、木村は文系の学生ということになっているが、演じる宇野重吉が当時39歳くらいなので、相当老けた学生に見える(笑))、ただし、木村の岡田への助言は、「二人は住む世界が違いすぎる」といった現実的なものとなっています。一方で、岡田の送別会の夜、夜道でお玉と出会った木村は、岡田がもうすぐ来るので一緒に岡田を待ちますか、とお玉を誘う優しさを見せます。

 しかし、お玉は一緒に岡田を見送りましようと言う木村には応じず、遠くからその出発を見届けるにとどまります。ラストシーンで、岡田が去った後一人佇むお玉の脇で、池から一羽の鴈が飛び立ちますが、これは去っていく岡田を象徴しているようにも思えますが、原作では雁は、岡田が逃がそうと思って投げた石に当たって死ぬことからお玉の悲運を象徴しているともとれるものとなっています。そうなると、映画における雁は、将来におけるお玉の転身を象徴しているようにも思えます。

豊田四郎 「雁」 takamine.jpg豊田四郎 「雁」es.jpg 個人的には、原作を読んだ時、正直あまりに古風な話だなあと思ったりもしましたが、豊田四郎監督は映画において、高峰秀子という女優の意志的なキャラクターをベースに、現代的な解釈を織り込んだのではないかという気がしています。原作に手を加えてダメにしてしまう監督は多いですが、本作は、原作の情緒風情、主人公の切ない思いなどを生かしたうえでの改変であり、これはこれで悪くなかったように思います。

vhs 雁 阿部一族.jpg豊田四郎「雁」1953.jpg「雁」●制作年:1953年●監督:豊田四郎●企画:平尾郁次/黒岩健而●脚本:成澤昌茂●撮影:三浦光雄●音楽:團伊玖磨●原作:森鷗外「雁」●時間:87分●出演:高峰秀子/田中栄三/小田切みき/浜路真千子/東野英治郎/浦辺粂子/芥川比呂志/宇野重吉/三宅邦子/飯田蝶子/山田禅二/直木彰/宮田悦子/若水葉子●公開:1953/09●配給:大映(評価:★★★☆)

高峰秀子/飯田蝶子

高峰秀子を演出する豊田四郎監督
「雁」1953年.jpg

成沢昌茂.jpg成澤昌茂(1925-2021/96歳没)作品
《監督作品》
1962年 「裸体」(永井荷風原作) にんじんくらぶ・松竹
1966年 「四畳半物語 娼婦しの」(永井荷風原作)三田佳子 露口茂 田村高広 東映
1967年 「花札渡世」(脚本)東映
1969年 「妾二十一人 ど助平一代」(小幡欣治原作)三木のり平 佐久間良子 森光子 中村玉緒 東映
1968年 「雪夫人絵図」(舟橋聖一原作)佐久間良子 山形勲 浜木綿子 丹波哲郎 東映

《脚本作品》
1949年 「恋狼火」(洲多競監督) 新演伎座
1950年 「東海道は兇状旅」(久松静児監督、秘田余四郎原作) 大映
1950年 「午前零時の出獄」(小石栄一監督、島田一男原作) 大映
1950年 「ごろつき船」(菊島隆三と共同)森一生監督、大仏次郎原作 大河内伝次郎  大映
1951年 「宮城広場」(久松静児監督、川口松太郎原作)森雅之 大映
1951年 「牝犬」 (木村恵吾監督)京マチ子 大映
1951年 「飛騨の小天狗」(小石栄一監督) 大映
1951年 「馬喰一代」(中山正男原作、木村恵吾監督)三船敏郎、京マチ子 大映
1952年 「浅草紅団」(川端康成原作、久松静児監督)京マチ子 乙羽信子 根上淳  大映
1952年 「丹下左膳」(林不忘原作、松田定次監督)阪東妻三郎 淡島千景 松竹
1952年 「港へ来た男」(梶野悳三原作、本多猪四郎監督)三船敏郎  東宝
1953年 「南十字星は偽らず」(山崎アイン原作、田中重雄監督)高峰三枝子  新東宝
1953年 「雁」(森鷗外原作、豊田四郎監督)高峰秀子、芥川比呂志  大映
1953年 「浅草物語」(川端康成原作、島耕二監督)山本富士子  大映
1954年 「第二の接吻」(菊池寛原作、清水宏・長谷部慶治監督) 滝村プロ
1954年 「鼠小僧色ざんげ」 月夜桜(山岡荘八原作、冬島泰三監督)坂東鶴之助(中村富十郎) 新東宝
1954年 「伝七捕物帳人肌千両(野村胡堂 城昌幸 佐々木杜太郎 陣出達朗 土師清二原作、松田定次監督)高田浩吉 松竹
1954年 「花のいのちを」(菊田一夫原作、田中重雄監督)菅原謙二 大映
1954年 「噂の女」(依田義賢と共同)溝口監督 田中絹代、大谷友右衛門(中村雀右衛門) 大映
1955年 「明治一代女」(川口松太郎原作、伊藤大輔監督)木暮実千代  新東宝
1955年 「花のゆくえ」(阿木翁助原作、森永健次郎監督)津島恵子 日活
1955年 「新・平家物語」(依田と共同、溝口監督)大映
1955年 「若き日の千葉周作」(山岡荘八原作、酒井辰雄監督)中村賀津雄  松竹
1956年 「新平家物語 義仲をめぐる三人の女」(衣笠貞之助監督)長谷川一夫、京マチ子  大映
1956年 「赤線地帯」 溝口監督 大映
1956年 「惚れるな弥ン八」(棟田博原作、村山三男監督)菅原謙二 大映
1956年 「あこがれの練習船」(野村浩将監督)川口浩 大映
1957年 「いとはん物語」(北条秀司原作、伊藤大輔監督)京マチ子 大映
1958年 「風と女と旅鴉」(加藤泰監督)中村錦之助  東映
1959年 「美男城」(柴田錬三郎原作、佐々木康監督)中村錦之助 東映
1959年 「手さぐりの青春」(壺井栄原作、川頭義郎監督)鰐淵晴子 松竹
1959年 「浪花の恋の物語」(近松門左衛門原作、内田吐夢監督)中村錦之助 有馬稲子 東映
1959年 「火の壁」(船山馨原作、岩間鶴夫監督)高千穂ひづる 松竹
1960年 「親鸞」(吉川英治原作、田坂具隆監督)中村錦之助 東映
1960年 「つばくろ道中」(河野寿一監督)中村賀津雄 東映
1960年 「狐剣は折れず 月影一刀流」(柴田錬三郎原作、佐々木康監督)鶴田浩二  東映
1961年 「宮本武蔵」(吉川英治原作、内田吐夢監督)中村錦之助 東映
1961年 「母と娘」(小糸のぶ原作、川頭義郎監督)鰐淵晴子 松竹
1961年 「江戸っ子繁昌記」(マキノ雅弘監督)中村錦之助 東映
1961年 「はだかっ子」(近藤健原作、田坂監督)有馬稲子 ニュー東映
1961年 「小さな花の物語」(壺井栄原作、川頭義郎監督) 松竹
1962年 「お吟さま」(今東光原作、田中絹代監督)有馬稲子、仲代達矢 にんじんくらぶ
1963年 「虹をつかむ踊子」(原作)田畠恒男監督 松竹
1963年 「関の弥太ッぺ」(長谷川伸原作、山下耕作監督) 東映
1964年 「おんなの渦と淵と流れ」(榛葉英治原作、中平康監督)仲谷昇 日活
1965年 「ひも」(関川秀雄監督)梅宮辰夫、緑魔子 東映
1965年 「いろ」(村山新治監督)梅宮、緑魔子 東映
1965年 「赤い谷間の決斗」(関川周原作、舛田利雄監督)石原裕次郎 日活
1966年 「雁」(森鴎外原作、池広一夫監督)若尾文子、山本學 大映
1967年 「シンガポールの夜は更けて」(原作、市川泰一監督)橋幸夫 松竹
1967年 「柳ヶ瀬ブルース」(村山新治監督)梅宮辰夫 東映東京
1968年 「怪談残酷物語」(柴田錬三郎原作、長谷和夫監督) 松竹
1968年 「黒蜥蜴」(江戸川乱歩原作、三島由紀夫劇化)丸山明宏、木村功 松竹
1968年 「夜の歌謡シリーズ 命かれても」 東映東京
1968年 「大奥絵巻」(山下耕作監督)佐久間良子、田村高廣 東映京都
1969年 「夜の歌謡シリーズ 港町ブルース」(鷹森立一監督) 東映東京
1969年 「夜の歌謡シリーズ 悪党ブルース」(鷹森立一監督)東映東京
1969年 「夜をひらく 女の市場」(江崎実生監督)小林旭 日活
1973年 「夜の歌謡シリーズ 女のみち」(山口和彦監督)東映東京
1973年 「夜の歌謡シリーズ なみだ恋」(斎藤武市監督)東映東京
1974年 「夜の演歌 しのび恋」(降旗康男監督) 東映東京

《テレビドラマ》
1962年「善魔」岸田國士原作 菅貫太郎、内藤武敏、瑳峨三智子
1964年「古都」NHK 川端康成原作 小林千登勢、中村鴈治郎(2代)、萬代峰子
1964年「若き日の信長」大仏次郎原作 市川猿之助(2代猿翁)、森雅之
1965年「香華」有吉佐和子原作 山田五十鈴
1967年「華岡青洲の妻」有吉佐和子原作 南田洋子、岡田英次、水谷八重子(初代)
1967年「残菊物語」村松梢風原作 市川門之助、柳永二郎、池内淳子
1968年「皇女和の宮」川口松太郎原作 佐久間良子、平幹二朗
1969年「一の糸」有吉佐和子原作 佐久間良子、佐藤慶
1970年「プレイガール」

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この「時代色」「地方色」をリメイクは超えられない。子役の演出も。

二十四の瞳 ポスター.jpg二十四の瞳 dvd.jpg 二十四の瞳 01.jpg 二十四の瞳 岩波.jpg
二十四の瞳 デジタルリマスター 2007 [DVD]」『二十四の瞳 (岩波文庫)

二十四の瞳01a.jpg 1928(昭和3)年、大石久子(高峰秀子)は新任教師として、瀬戸内海小豆島の分校へ赴任する。1年生の磯吉、吉次、竹一、ミサ子、松江、早苗、小ツル、コトエなど12人が初めて教壇に立つ久子には愛らしく思え、田舎の古い慣習に苦労しながらも、良い先生になろうとする。ある日、久子は子供二十四の瞳 02.jpgのいたずらで落とし穴に落ちて負傷し、長期間学校を休んでしまうが、先生に会いたい一心の子供たちは2里の道程を歩いて見舞いに来てくれ、皆で海辺で記念写真を撮る。しかし、自転車に乗れない久子は、住まい近くの本校へ転任することに。1933(昭和8)年、5年生になって子供たちは本校へ通うようになり、久子は結婚していた。子供たちにも人生の荒波が押しよせ、大工の娘・松江は母親が急死し、奉公に出される。久子は修学旅行先の金比羅で偶然に松江を二十四の瞳 03.jpg見かけることになる。軍国主義の影が教室を覆い始めたことに嫌気さした久子は、子供たちの卒業とともに教壇を去る。8年後の1941(昭和16)年、戦争が本格化し、教え子の男子5人と久子の夫は戦争に出征、漁師の娘コトエは大阪へ奉公に出るが、肺病になり物置で寝たきりになる。1945(昭和20)年、久子の夫は戦死し、かつての教え子も、竹一ら3人が戦死、ミサ子は結婚し、早苗は教師に、小ツルは産婆に、二十四の瞳 er9.jpgそしてコトエは肺病でひっそりと死んだ。久子には既に子が3人あったが、2歳の末っ娘は空腹に耐えかねた末に木になる柿の実を採ろうとして転落死する。翌1946(昭和21)年、久子は再び岬の分教場に教師として就任する。児童の中には、松江やミサ子の子供もいた。一夜、ミサ子、早苗、松江、マスノ、磯吉、吉次が久子を囲んで歓迎会を開いてくれ、磯吉は両目の視力を失っていた。かつての教え子たちは久子に自転車をプレゼントする。数日後、岬の道には元気に自転車のペダルを踏む久子の姿があった―。

二十四の瞳s.jpg 木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1954(昭和29)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第1位(2位も同監督の「女の園」('54年/松竹))、「毎日映画コンクール」日本映画大賞、「ブルーリボン賞」作品賞、1954年度「ゴールデングローブ賞」外国語映画賞受賞作。文藝春秋刊『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)第7位。壺井栄(1899-1967/享年67)の原作『二十四の瞳』は第二次世界大戦の終結から7年後の1952(昭和27)年に発表されていて(原作は瀬戸内海に浮かぶ島を舞台としているが、その島の名前は一度も出てこない。但し、小豆島は作者の出身地である)、映画は原作発表の翌年春から撮影が始まり、翌々年に公開されたということになります。

 個人的には1962年のリバイバル時の木下監督自ら再編集等に携わった「ワイド(ビスタビジョン)版」(時間143分、画面の上下がトリミングされている)を親に連れられて劇場で観ているはずですが殆ど記憶がなく、その後学生時代に観て、さらに2007年にデジタルリマスター化されたものを最近劇場で観ました(時間156分)。

 あるこの映画紹介の中にはメロドラマとの表現もありましたが、泣ける映画であり、実際多くの中高年がこの作品を観て、映画を観て泣けた時代を思い出すというのを聞いたこともあります(この作品が今まで観た映画の中で一番泣けた映画であるという人も少なくない)。自分の場合は、学生時代に観た時は、原作よりも生徒たちを"純"な存在として描いていることに若干抵抗があったのですが、今はそうでもないかも。三島由紀夫.jpgあの三島由紀夫は、最も好きな日本の映画監督に木下惠介監督を挙げていますが、「二十四の瞳」に関しては、「間がどうも古いね。泣かせる間がちゃんとできている。(中略)絶対、泣かなくなっちゃう、腹が立ってきてね」と雑誌の読者座談会で発言しており(同じ理由でビットリオ・デ・シーカの「自転車泥棒」('48年/伊)なども嫌いだったらしい)、「泣かせる」演出に嫌悪感があったようです(川内由紀人『三島由紀夫、左手に映画』('12年/河出書房新社))。自分も40代くらいまではあまり好きでなかったし、テレビなどでやっているとチャンネルを変えたりしていたように思いますが、今は年齢と共に素直に(?)"泣ける"ようになったのかも(やっぱり劇場で観る方がいい)。

二十四の瞳10.jpg リメイクされたりもしていますが(映画では田中裕子版('87年)が、テレビドラマでは黒木瞳版('05年)、松下奈緒版('13年)などがある)、戦後10年以内に作られたこの作品が持つ独特の時代的、地方的な雰囲気があり(風光明媚な瀬戸内の風景や、素朴な人々の暮らしぶりといった背景)、それより後の映像化作品でこの作品を超えるのは難しいように思います(同じことが同監督の3年後のカラー作品「喜びも悲しみも幾歳月」('57年/松竹)についても言える。両作品とも季節の違いはあるが波止場で人々が出征兵士を見送るシーンがあり、それがまるで記録映像を観ているように見える)。勿論、「時代色」「地方色」だけでなく、木下惠介監督の演出のきめ細かさも光っているように思います。

二十四の瞳ges.jpg 先に書いたように、物語には1928(昭和3)年、1933(昭和8)年、1941(昭和16)年、そして1945(昭和20)年から1946(昭和21)年という、大まかに言って4つのシークエンスがあり(こうした構成も「喜びも悲しみも幾歳月」に似ている)、この間に子供たちはそれぞれ6歳(小学校1年生)、10歳(小学校5年生)、18歳、22歳と成長し、大石先生も20代から40代になるわけですが、20代から40代の大石先生を巧みに演じ分けている高峰秀子もさることながら、子役たちも子供から大人になるまでが自然に繋がっているという感じです。

二十四の瞳es.jpg 特に、6歳(小学校1年生)と10歳(小学校5年生)の配役は、全国からよく似た兄弟、姉妹を募集し、3600組7200人の子供たちの中から、12組24人が選ばれたとのことで(大人になってからの役者も、その子供たちとよく似た役者を選んだ)、観ていて「あの子が成長してこうなったのだな」などとと分かり、顔立ちや目元まで似ていたりすると結「二十四の瞳」井川.jpg構はっとさせられます。でも、兄弟、姉妹を顔が似てるかどうかを基準に選んだということは、それをどう演出するかは、木下惠介監督には相当な自信があったのではないでしょうか。実際、子役たちから巧まざる上手さを引き出しているように思いました。「泣ける」背景には、こうした戦略的かつ細やかな技巧の積み重ねがあり、それが、声高ではないのに反戦映画としての訴求力があることに繋がっているのだと改めて思われ、評価「◎」としました。

井川邦子(松江)

木下忠司.jpg次郎物語%E3%80%80t.jpg 音楽の木下忠司(きのした・ちゅうじ、1916-2018)は木下惠介監督の弟で、この「二十四の瞳」をはじめ、「女の園」('54年/松竹)、「野菊の如き君なりき」('55年/松竹)、「喜びも悲しみも幾歳月」('57年/松竹)など兄・木下恵介が監督した映画の音楽を数多く手掛けていますが、今年['18年]4月に102歳で亡くなっています。木下作品以外では、「白蛇伝」('58年/東映)、「安寿と厨子王丸」('61年/東映)といったアニメ映画や、「点と線」('58年/東映)、「黄色い風土」('61年/ニュー東映)、更水戸黄門 ああ人生に涙あり.jpgには、「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」('66年/大映)や「トラック野郎シリーズ」(東映、全10作中、8作を担当)なども手掛けています。NHKのテレビドラマ「次郎物語」('66-'68年)のペギー葉山が歌っていたテーマ曲の作曲者でもありますが、テレビドラマのテーマ曲と言えば、この人が作曲した中では何と言っても「水戸黄門」の主題歌「あゝ人生に涙あり」が一番よく知られているでしょうか。

二十四の瞳312.jpg「二十四の瞳」●制作年:1954年●監督・脚本:木下惠介●製作:桑田良太郎●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:壺井栄●時間:156分●出演:高峰秀子(大石久子)/天本英世(大石久子の夫)/夏川静江(久子の母)/笠智衆(分教場の男先生)/浦辺粂子(男先生の妻)/明石潮(校長先生)/高橋豊子(小林先生)/小林十九二(松江の父)/草香田鶴子(松江の母)/清川虹子(よろずやのおかみ)/高原駿雄(加部小ツルの父)/浪花千栄子(飯屋のかみさん)/田村高廣(岡田磯吉)/三浦礼(竹下竹一)/渡辺四郎(竹下竹一(本校時代))/戸井田康国(徳田吉次)/大槻義一(森岡正)清水龍雄(相沢仁太)/月丘夢路(香川マスノ)/篠原都代子(西口ミサ子)/井川邦子(川本松江)/小林トシ子(山石早苗)/永井美子(片桐コトエ)●公開:1954/09●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(18-05-08)(評価:★★★★☆)
二十四の瞳の銅像(小豆島町)          笠智衆(分教場の男先生)/浦辺粂子(男先生の妻)
二十四の瞳の銅像.jpg二十四の瞳 笠智衆 浦辺粂子.gif浦辺粂子.jpg
         
       


   
 
          
     
    
天本英世(大石久子の夫)                 田村高廣(岡田磯吉)
二十四の瞳 天本英夫.jpg天本英世.jpg二十四の瞳 田村高廣.jpg田村高廣 .jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
                                                                                                                       
映画「二十四の瞳」田中裕子版('87年/松竹)
二十四の瞳  田中裕子 (1).jpg 二十四の瞳  田中裕子.jpg
テレビドラマ「二十四の瞳」黒木瞳版('05年/日本テレビ)/松下奈緒版('13年/テレビ朝日)
二十四の瞳 黒木瞳.jpg 二十四の瞳 松下奈緒.jpg

水戸黄門 東野英治郎版.jpg水戸黄門 op.jpg「水戸黄門(1-13)(東野英治郎版)」)●監督:内出好吉/田坂勝彦/船床定男/山内鉄也ほか●製作総指揮:松下幸之助●製作:松下正治/丹羽正治●脚本:宮川一郎/窪田篤人/三好伍郎/鈴木則文/飛鳥ひろし/吉田哲郎/梅谷卓司/浅井昭三郎/津田幸夫/中島貞夫/伊上勝/鈴木生朗/鎌田房夫/田坂勝彦/葉村彰子/加藤泰/稲垣俊ほか●音楽:木下忠司●出演:東野英治郎/杉良太郎/横内正/露口茂/弓恵子/岩井友見/中谷一郎/高橋元太郎/伊藤栄子/村井国夫/大原麗子/菅貫太郎/里見浩太朗/成田三樹夫/大和田伸也/三浦浩一/山口いづみ●放映:1969/08~1983/04(全381回)●放送局:TBS

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説明不足にはケチをつけたくなるが、大友柳太朗を楽しめる分、DVD化する価値はある?

酒と女と槍002.jpg酒と女と槍 vhs.jpg 酒と女と槍 title.jpg
酒と女と槍【ワイド版】 [VHS]」大友柳太朗

 秀吉(東野英治郎)の怒りにふれた関白秀次(黒川弥太郎)は高野で切腹、半月後には秀次の妻妾38人が三条河原で斬られ、伏見城大手門の前にこんな建札が立つ。「われらこと、故関白殿下諫争の臣として数年酒と女と槍 20花園ひろみ (2).jpgまかりあり候ところ、此の度不慮の儀これあり候ところ、われら職分怠たりの為と申訳なく存じ候。さるによって来る二十八日未の刻を期して切腹仕可」。建札の主は"槍の蔵人"の異名をもつ富田蔵人高定(大友柳太朗)。高定は死ぬまでの数日を心おきなく過すため、豪商・堺屋宗四郎(十朱久雄)の別荘に身を寄せ、贔屓の女歌舞伎太夫・左近(淡島千景)と妥女(花園ひろみ)を呼ぶ。建札を見て高定の心を知った妥女は一人残るが、一夜明けた朝「殿様は女というものの心がお分酒と女と槍 10大友柳太郎 (3).jpgりではございません」という言葉を残して迎えに来た左近と去る。千本松原には多くの見物人が集まったが、高定は乱酔のた酒と女と槍 40大友柳太郎 (4).jpgめ切腹の定刻を過ごし、介錯人(南方英二)に合図したところで秀吉の使者に切腹を止められる。高定は西山の村里に妥女と住むことになる。慶長3年(1598)、秀吉が亡くなる。兄の知信(原健策)は高定に再び切腹を迫るが、高定は兄を追い返し、仕官を勧めて訪れる前田利長(片岡千恵蔵)の家臣・内藤茂十郎(徳大寺伸)の言にも取り合わない。秀吉の死により家康(小沢栄太郎)の野望は高まり、関ケ原で豊臣徳川両家が興亡を賭け対峙する。今度は酒と女と槍 50大友柳太郎 (2).jpg高定の庵に利長本人が訪れて再度仕官を促す。高定に忘れ去ったはずの酒と女と槍 60花園ひろみ.jpg侍魂を呼び起したのは槍だった。子供が生れるとすがりつく妥女を残して、高定は利長の後を追うが、これは同時に左近との約束も破ることであった。関ケ原の本陣で、家康の本営に呼ばれた高定の酒と女と槍 70大友柳太郎 (5).jpg前に突き出されたのは、三成(山形勲)に内通したという兄・知信の首だった。利長のとりなしで陣営に帰った高定に、左近が迫る。女の一念酒と女と槍 90大友柳太郎 (7).jpgをこれで計れと高定を斬りつけ、返す刃でわが胸に懐剣を突き立てる。知信、左近の土饅頭を前に夜を明かした高定。家康の本陣から三成の陣へ。高定の目にはもう敵も味方も生も死もなかった―。

 「飢餓海峡」('65年/東映)で知られる内田吐夢監督の1960年公開作で、原作は海音寺潮五郎の「酒と女と槍と」(『かぶき大名―歴史小説傑作集〈2〉』('03年/文春文庫)などに所収)であり、文庫でおおよそ35ページの短編です。文庫解説の磯貝勝太郎(1935-2016)によれば、海音寺潮五郎は『野史』(嘉永4年、1851)に略述された高定に関する記述に拠ってこの短編を書いており、高定が秀次切腹事件の後、殉死しようと京都の千本松原を死に場所に定めるも、死装束で大勢の群衆や友人等と別れの杯を重ねていくうちに泥酔して切腹を果たせぬまま昏倒、それを秀吉に咎められ、濫りに殉死を試みた者は三族を誅すとの命令が出されため、自ら京都西山に幽居したというのは史実のようです。その後、前田利長がその将才を惜しんで1万石で召し抱え、関ヶ原の戦いでは、侍大将として東軍の前田勢の先陣を務めて加賀国に侵攻、西軍の山口宗永・弘定親子が籠城する大聖寺城を攻めて戦死していますが、その闘いぶりが功を奏して敵城は陥落しています。

 海音寺潮五郎はこれに妥女との逸話の潤色を加えた以外はほぼ史実通りに書いており、最後は前田利長が高定の見事な先陣ぶりと武士らしい最期を称え、自分の眼に狂いは無く、「臆病者に一万石くれるなぞ阿呆の骨頂」と言っていた者は「高定の死体にわびを言えい!」と涙声で怒鳴るところで終わっています。先の磯貝勝太郎によれば、前田家の連中は高定を手助けせず、わざと見殺しにしたようですが、それでも高定は前田利長に忠誠を尽くしたことになります。

 ところが映画では、ラストで大友柳太朗が演じる高定は、まず家康の本陣を襲って家康の心胆を寒からしめ、今度は馬首を翻して三成の陣に馳け登ってこれをこれを突き崩すという動きをみせています。主の前田利長は東軍・家康側についていますから、本来は家康を襲うというのはおかしいのですが、この辺りは、兄を家康に殺された憤りを表しているのでしょうか。

 これまでも高定は、切腹しようとしたら「もし切腹すれば親類・縁者を処罰する」との突然の上意があり、つい先刻まで切腹を迫っていた富田一族が一転して逆に「富田の家のためだ」とこれを制止するという事態のあまりの馬鹿馬鹿しさに高笑いする他はなかったのですが、秀吉が死んだら今度はまた一族が切腹を迫ってきて、もう武家社会の名誉だとか面子だとかにほとほと愛想が尽きたのかも。そうした武家社会に対する抵抗ならば、臆病者の汚名を晴らせないままでも、愛妻と庵暮らしをするのも抵抗の一形態だったようにも思いますが、やはり、戦場で能力を発揮する者は戦場に出たがるのでしょうか(利長が「男を捨てた者が槍を持っているのは妙だ」と指摘し、高定が鉈で槍を斬ろうとするが果たせないというのは原作と同じ)。でも一旦戦場に出たら、あくまで利長の臣下であって、そこを単なる自己顕示したり私憤を晴らしたりする場にしてしまってはマズイのでは。

酒と女と槍 30淡島千景.jpg 秀次の愛妾の中に家康の密偵として送り込まれた左近(淡島千景)の実の妹がいて、誰が密偵か分からない秀吉側は、秀次切腹後、冷酷な三成の進言により(山形勲かあ)妻妾38人全員を処刑しますが、同じく冷酷な家康の方も(小沢栄太郎かあ)そのことを特に何とも思わない―そうしたことに対する左近の怒りと悲しみというのも説明不足でしょうか。妥女と高定を張り合って、自ら降りて後見人的立場に引き下がっただけみたいな描かれ方をしています。

酒と女と槍 80大友柳太郎 (6).jpg このようにいろいろケチはつけたくなりますが、豪放磊落な高定を演じる大友柳太朗を楽しめ、ラストの(滅茶苦茶な)戦場シーンも、馬上で槍を振り回すその豪快さは見所と言えるでしょう。しかも、馬を急旋回させながらそれをやっているからすごいです。これだけでもDVD化する価値はあると思うけれど、現在['16年]のところまだされていません。

 因みに、事の発端となった関白秀次の切腹については、秀次に関する千人斬りなどの暴君論(所謂「殺生関白説」)や秀吉に対する「謀反説」は後から作られたものであり、秀次は秀吉の政治的戦略に翻弄された犠牲者であり、死後も秀吉の引き立て役として歴史上否定され続けてきたが、実は城下繁栄や学問・芸術振興における功績があり、思慮・分別と文化的素養を備えた人物だったという説が近年有力のようです(小和田哲男氏など)。今年['16年]の大河ドラマ「真田丸」では、2013年に国学院真田丸 秀次 .jpg真田丸 秀次 切腹.jpg関白秀次の切腹0_.jpg大の矢部健太郎准教授(当時)が発表した「秀吉は秀次を高野山へ追放しただけだったが、意図に反し秀次が自ら腹を切った」という新説を採用していました(新しいもの好きの三谷幸喜氏?)。
「真田丸」新納慎也(豊臣秀次)/第28話「受難」より/矢部健太郎『関白秀次の切腹』(2016)

東野英治郎(豊臣秀吉)        小沢栄太郎(徳川家康)
『酒と女と槍』。秀吉が東野英治郎.jpg 『酒と女と槍』家康が小沢栄太郎.jpg

酒と女と槍_0.jpg「酒と女と槍」●制作年:1960年●監督:内田吐夢●製作:大川博●脚本:井出雅人●撮影:鷲尾元也●音楽:小杉太一郎●原作:海音寺潮五郎「酒と女と槍と」●時間:99分●出演:大友柳太朗/淡島千景/花園ひろみ/黒川弥酒と女と槍003.jpg太郎/山形勲/東野英治郎/原健策/須賀不二夫/織田政雄/徳大寺伸/小沢栄太郎/片岡栄二郎/高松錦之助/松浦築枝/赤木春恵/水野浩/有馬宏治/十朱久雄/香川良介/楠本健二/浅野光男/舟橋圭子/近江雄二郎/大崎史郎/尾上華丈/石南方英二.jpg丸勝也/村居京之輔/南方英二(後のチャンバラトリオ)/泉春子/片岡千恵蔵●公開:1960/05●配給:東映(評価:★★★☆)

大友柳太朗(1912-1985/享年73、自死)

 
真田丸 title.jpg真田丸  dvd.jpg「真田丸」●演出:木村隆文/吉川邦夫/田中正/小林大児/土井祥平/渡辺哲也●制作:屋敷陽太郎/吉川邦夫●脚本:三谷幸喜●音楽:服部隆之●出演:堺雅人/大泉洋/草刈正雄/長澤まさみ/木村佳乃/平岳大/中原丈雄/藤井隆/迫田孝也/高木渉/高嶋政伸/遠藤憲一/榎木孝明/温水洋一/吉田鋼太郎/草笛光子/高畑淳子/内野聖陽/黒木華/藤本隆宏/斉藤由貴/寺島進/西村雅彦/段田安則/藤岡弘、/近藤正臣/小日向文世/鈴木京香/竹内結子/新納慎也/哀川翔●放映:2016/01~12(全50回)●放送局:NHK

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高倉健の作品の中ではちょっと変わった味がある? この映画のお蔭で黒澤映画に出られなかった。

居酒屋兆治 poster.jpg居酒屋兆治 dvd.jpg
居酒屋兆治 昭和58年.jpg
居酒屋兆治 [DVD]高倉健伊丹十三/細野晴臣
題字:山藤章二
居酒屋兆治 2.jpg 函館で居酒屋「兆治」を営む藤野英治(高倉健)は、輝くような青春を送り、挫折と再生を経て現在に至っている。かつての恋人で、今は資産家と一緒になった「さよ」(大原麗子)の転落を耳にするが、現在の妻・茂子(加藤登紀子)との生活の中で何もできない自分と、振り払えない思いに挟まれていく。周囲の人間はそんな彼に同情し苛立ち、さざなみのような波紋が周囲に広がる。「煮えきらねえ野郎だな。てめえんとこの煮込みと同じだ」と学校の先輩の河原(伊丹十三)に挑発されても頭を下げるだけの英治。そんな夫を見ながら茂子は、人が人を思うことは誰にも止められないと呟いていた―。

居酒屋兆治 31.jpg 今月['14年11月]10日に亡くなった高倉健(1931-2014/享年83)の52歳の時の出演作。文春文庫ビジュアル版の『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年)に監督・男優・女優の各ベスト10のコーナーがあって、男優ベスト10は、1位・坂東妻三郎、2位・高倉健、3位・笠智衆、4位・三船敏郎、5位・三國連太郎、6位・森雅之、7位・志村喬、8位・石原裕次郎、9位・市川雷蔵、10位・緒形拳となっており、この中で存命していたのは高倉健のみだっただけに、その死は尚更に寂しく思えます。'12年の菊池寛賞の受賞式を欠席したのはともかく、'13年の文化勲章受賞式に出席したのを見て逆にもしかしてちょっとヤバいのかなと思ったけれど...。

居酒屋兆治 41.jpg この作品は最初に観た時は、大原麗子(当時37歳)のあまりの暗さに引いてしまいましたが(「網走番外地 北海篇」('65年)などで見せた勝気で明るい女性キャラとは真逆)、改めて観直してみるとそう悪くも感じないのは自分の年齢のせいか。その大原麗子(1946-2009/享年62)も亡くなってしまったわけですが、河原役の伊丹十三(1933-97/享年64)、居酒屋の親爺で英治の師匠役の東野英治郎(1907-94/享年86)、「兆治」の常連客役の池部良(1918-2010/享年92)(高倉健とは「昭和残侠居酒屋兆治 大滝秀治.jpg伝」シリーズ('65-'72年)以来、正確には「君よ憤怒の河を渉れ」('76年)、「冬の華」('78年)、「駅STATION」('81年)に続く共演)、英治が元いた会社の専務役の佐藤慶(1928-2010/享年81)、小学校長役の大滝秀治(1925-2012/享年87)など、'84年にテアトル新宿で初めてこの作品を観てから亡くなった人が随分いるなあと。高倉健、伊丹十三、池部良のスリーショットなんて、観ていてしみじみしてしまいます。

居酒屋兆治 山藤.jpg居酒屋兆治 11.jpg 俳優だけでなく、原作者の山口瞳(1926-1995/享年68)や、この映画の題字を担当した山藤章二(共に右写真中央)、ミュージシャンの細野晴臣なども出演していて(水色のランニング姿。カメオ出演というより役者として出ている。'82年から'83年にかけてYMOの活動休止期があり、それを機に坂本龍一が「戦場のメリークリスマス」('83年)、高橋幸宏が「だいじょうぶマイ・フレンド」('83年)、「天国にいちばん近い島」('84年)などに出演したりした)、皆で楽しく作っている作品という印象もあり、女性陣も、ちあきなおみ加藤登紀子といった役者が本業ではない人が活き活きと演技しています。
ポスター・題字:山藤章二

 高倉健はこの「居酒屋兆治」への出演準備をしていた矢先に黒澤明監督から「」('85年/東宝)への架空の人物「鉄修理(くろがねしゅり)」の役での出演を打診されていますが、「でも僕が『乱』に出ちゃうと、『居酒屋兆治』がいつ撮影できるかわからなくなる。僕がとても悪くて、計算高い奴になると追い込まれて、僕は黒澤さんのところへ謝りに行きました」と述懐しています。黒澤明は自ら高倉宅へ足繁く黒澤明2.jpg4回も通って、「困ったよ、高倉君。僕の中で鉄(くろがね)の役がこんなに膨らんでいるんですよ。僕が降旗康男君のところへ謝りに行きます」と口説いたけれども、高倉健は「いや、それをされたら降旗監督が困ると思いますから。二つを天秤にかけたら誰が考えたって、世界の黒澤作品を選ぶでしょうが僕には出来ない。本当に申し訳ない」と断ったため、黒澤明から「あなたは難しい」と言われたそうです(結局、鉄修理は井川比佐志が演じることになった。高倉健はその後、偶然「乱」のロケ地を通る機会があり、「畜生、やっていればな」と後悔の念があったとも語っている。但し、高倉健の後期の黒澤作品に対する評価はイマイチのようだ)。

居酒屋兆治 71.jpg 今観ると、高倉健の降旗監督に寄せる信頼が、この作品のアットホームな雰囲気を醸しているのかもしれないという気もします。高倉健と田中邦衛がやり合う場面で、田中那衛のオーバーアクションに高倉健が噴き出したように見えるシーンがあって、最初に観た時はそれがものすごく引っかかったのですが(普通はNGではないかと)、そうした雰囲気の中で撮られた作品だと思うとさほど気にはならず、高倉健の出演作の中ではちょっと変わった味があると思えるようにもなってきました。
  
  
   高倉健・ちあきなおみ  /  高倉健・東野英治郎  /  伊丹十三・細野晴臣
居酒屋兆冶 ちあき.jpg 居酒屋兆冶 東野.jpg 居酒屋兆冶 細野.jpg
  高倉健・田中邦衛    /    田中邦衛・大滝秀治
田中邦衛 「居酒屋兆治」2.jpg田中邦衛 「居酒屋兆治」.jpg

チャン・イーモウ監督と高倉健さん.jpg    高倉健 訃報.png
チャン・イーモウ監督と高倉健(2005年東京国際映画祭)[毎日新聞]/2013年文化勲章受章

池部 良 居酒屋兆治1.jpg池部 良 居酒屋兆治2.jpg「居酒屋兆治」●制作年:1983年●監督:降旗康男●製作:田中プロモーション●脚本:大野靖子●撮影:木村大作●音楽:井上堯之(主題歌「時代おくれの酒場」 歌:高倉健/作詞・作曲:加藤登紀子)●時間:125分●原作:山口瞳「居酒屋兆治」●出演:高倉健/大原麗子/加藤登紀子/伊丹十三/田中邦衛/小林稔侍/左とん平/池部良/ちあきなおみ/東野英治郎/佐藤慶/平田満/河原さぶ/小松政夫/美里英二/あき竹城/大滝秀治/石野真子/山谷初男/細野晴臣/三谷昇/石山雄大/武田鉄矢/好井ひとみ/伊佐山ひろ子/板東英二/山藤章二/山口瞳●公開:1983/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル新宿(84-02-12)(評価:★★★☆)●併映:「魚影の群れ」(相米慎二)

大原麗子メモリー ずっと好きでいて」('10年/講談社)
大原麗子メモリー ずっと好きでいて200_.jpg 大原麗子メモリー ずっと好きでいてWL.jpg 大原麗子メモリー ずっと好きでいて1L.jpg
「居酒屋兆治」05.jpg

《読書MEMO》
●ロングインタビュー(時事ドットコム 2012年)より
 「降旗監督の「居酒屋兆治」の準備が進んでいたとき、黒澤さんの「乱」に(鉄修理=くろがね・しゅり=役で)出演できるという話があった。でも、僕が「乱」に出ちゃうと「居酒屋兆治」がいつ撮影できるか分からなくなる...。とても僕が悪くて、計算高いやつになるという風に追い込まれて、僕は黒澤さんのところへ謝りに行きました。
 あの時、黒澤さんは僕の家に4回いらして、「困ったよ、高倉君。僕の中で鉄(くろがね)の役がこんなに膨らんでいるんですよ。僕が降旗君のところへ謝りに行きます」とまで言ってくれた。でも、僕は「いや、それをされたら降旗さんが困ると思いますから。二つをてんびんに掛けたら、誰が考えたって世界の黒澤作品を選ぶのが当然でしょうが、僕にはできない。本当に申し訳ない」と謝った。黒澤さんには「あなたは難しい」って言われましたね。
 その後、「乱」のロケ地を偶然通ったことがあって、「畜生、やっていればな」と思いましたよ。
 ただ、黒澤監督の晩年の作品には、良いものがないと思うんですよね。僕は、監督が(作品の常連だった)三船敏郎さんと別れたのが大きい気がする。志村喬さんもそうだったけれど、三船さんは(黒澤作品の)エンジンの大きな出力だったのでしょう。二人が抜けたことで、その出力がどーんと落ちた。怖いですよね。映画は絶対に一人ではできないんですよ。」

「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2955】 黒澤 明 「八月の狂詩曲
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黒澤映画における最後の「白黒映画作品」「三船出演作品」「泥臭いヒューマニズム作品」。

赤ひげ ちらし.jpgAkahige(1965).jpg赤ひげ dvd.jpg  赤ひげ診療譚 (新潮文庫).jpg 
Akahige(1965)赤ひげ【期間限定プライス版】 [DVD]」『赤ひげ診療譚 (新潮文庫)』(表紙イラスト:安野光雅)

赤ひげ0.jpg 長崎で和蘭陀医学を学んだ青年・保本登(加山雄三)は、医師見習いとして小石川養生所に住み込むことになる。養生所の貧乏臭さとひげを生やし無骨な所長・赤ひげこと新出去定(三船敏郎)に好感を持てない保本は養生所の禁を犯して破門されることさえ望んでいた。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさを知り、また彼を頼る貧乏な人々の姿に次第に心を動かされていく―。

三船敏郎/加山雄三

 黒澤明監督の1965年公開作品で、山本周五郎による原作『赤ひげ診療譚』(1958(昭和33)年発表)が所謂「赤ひげ診療所」で青年医師・保本登が体験するエピソード集(全8話の診療譚)という連作構成になっているため、映画の方も、それぞれ関連を持ちながらも概ね5話からなるオムニバスとなっています。原作の冒頭3話「狂女赤ひげ 加山雄三 東野英治郎.jpgの話」「駆込み訴え」「むじな長屋」に対応するのが映画での第1話から第3話に該当する「狂女おゆみ」「老人六助とその娘おくに」「佐八とおなか」の話で、但し、映画における続く第4話「おとよ」の話は、原作の第5話「徒労に賭ける」と設定は似てなくはないものの人物像や展開は原作と異なり、この部分はドストエフスキー『虐げられた人びと』の少女ネリーを巡る話をもとにした映画オリジナルの設定です。また、映画における第5話に当たる「長次」は、第6の診療譚「鶯ばか」の中の一少年の話を膨らませて改変した映画のオリジナルになっています。

赤ひげ9.jpg それら5話を挟むようにして、冒頭に、登が「赤ひげ診療所」に来て、保本と入れ替わりで診療所を去っていく津川玄三(江原達怡)に案内されて、診療所の凄まじい実態を突きつけられ、赤ひげこと新出医師に対して沸き起こった反発心を同僚の杉半太夫(土屋嘉男)に吐露する様と、ラストに、登とかつての登の許嫁であったちぐさ(藤山陽子)の妹であるまさえ(内藤洋子)との結婚内祝い並びに、登が診療所に留まることを赤ひげに懇願する場面がきています。
土屋嘉男/加山雄三/三船敏郎

赤ひげ01.jpg 以前観た時は、オムニバス系形式であるうえに、登の冒頭とラストの大きな変化も物語的に見れば予定調和と言えば予定調和でもあるために、ストーリー的にインパクトが弱かったような気がして、おそらく黒澤作品の中で相対評価したのでしょうが、◎ではなく○の評価でした。しかし今回観直してみて、3時間を飽きさせずに見せる要因として、話がオムニバス形式になっているのが効いているのではないかと思いました。また、昔観た時に、ちょっと話が出来過ぎているなあと思った部分も、今観ると、カタルシス効果という面でヒューマン・ドラマの王道を行っているし(しかも完成されたモノクロ映像美の雄弁さ)、この作品は、黒澤映画における最後の「白黒映画作品」「三船敏郎出演作品」「泥臭いヒューマニズム作品」とされているそうですが、"泥臭い"というのは確かに当たっているなあと思う一方で、黒澤にとって赤ひげのような人物を演じ切れる三船敏郎という役者の存在は大きかったなあと思いました(三船敏郎はこの作品で「用心棒」('61年/松竹)に続いて2度目のヴェネツィア国際映画祭主演男優賞受賞。三船敏郎は同映画祭で歴代唯一の日本人男優賞受賞者)。

 黒澤明監督はこの作品に対し「日本映画の危機が叫ばれているが、それを救うものは映画を創る人々の情熱と誠実以外にはない。私は、赤ひげ 香川.jpgこの『赤ひげ』という作品の中にスタッフ全員の力をギリギリまで絞り出してもらう。そして映画の可能性をギリギリまで追ってみる」という熱意で臨み、そのため結局完成までに2年もかかってしまったということですが、それだけに、三船敏郎ばかりでなく、各エピソードの役者の熱演には光るものがあります。

香川京子
赤ひげ03.jpg まず、「狂女おゆみ」の話の座敷牢に隔離された美しく若い狂女を演じた香川京子。告白話をしながら登に迫るインフォマニア(色情狂)ぶりは、"蟷螂女"の怖さを滲ませて秀逸でしたが、小津安二郎の「東京物語」('53年/松竹)で尾道の実家を守る次女を、溝口健二の「山椒大夫」('54年/大映)で弟思いの安寿を演じ、黒澤作品「天国と地獄」('63年/東宝)では三船演じる権藤専務の妻を演じたばかりだった彼女にしては珍しい役柄だったのではないでしょうか。

 続く「老人六助とその娘おくに」の話の診療所で死んだ六助(藤原釜足)の娘・おくにを演じた根岸明美の、父親の不幸を語る10分近い長ゼリフも凄赤ひげ 根岸明美 .jpgかったと思います(原作ではおくには既に北町奉行所に囚われていて、赤ひげは藤沢周平の「獄医・立花登」的な立場で会いに行くのだが、映画では診療所内で彼女の告白がある)。おくにを演じた根岸明美は、このシーンは本番で一発で黒澤明監督のOKを引き出したというからますますスゴイことです(ラッシュを観て、その時の苦心を思い出して居たたまれなくなり席を外したという)。

赤ひげ05.jpg 「佐八とおなか」の話は、山崎努演じる「むじな長屋」の佐八(長屋で"いい人"として慕われている)が臨終に際して自分がなぜ皆のために尽くしてきたか、それが実はかつて大火で生き別れた赤ひげ 山﨑2.jpg女房・おなか(桑野みゆき)に対する罪滅ぼしであったことを臨終の床で語るもので、この部分だけ回想シーン使われていますが、考えてみればこれもまた告白譚でした。山崎努は、「天国と地獄」の次に出た黒澤作品がこの「赤ひげ」の"臨終男"だったことになりますが、「天国と地獄」の誘拐犯役で日本中の嫌われ者になってしまったと黒澤監督にぼやいたら、「それは気の毒をした」と黒澤監督が山崎努を"超"善人役に配したという裏話があります。

「赤ひげ」5.jpg 第4話「おとよ」の話は、赤ひげが、娼家の女主人(杉村春子)の元から、二木てる赤ひげ 二木.jpg演じる少女おとよを治療かたがた"足抜け"させるもので、ここで赤ひげは娼家の用心棒をしている地廻りのヤクザらと大立ち回りを演じますが(ここだけアクション映画になっている!)、この二木てるみのデビユーは黒澤明監督の「七人の侍」('54年/東宝)で当時3歳。個人的にはこの名を知った頃には既に名子役として知られていましたが、名子役と言われた由縁は、この第4話「おとよ」と次の「長次」を観ればよく判ります。

赤ひげ07.jpg その映画内での第5話にあたる「長次」では、貧しい家に生まれ育ち、一家無理心中に巻き込まれる赤ひげ 頭師.jpg男の子・長次を頭師佳孝が演じていますが、二木てるみと頭師佳孝とが出逢う子役2人だけの会話で綴られる6分間のカットは、撮影現場で見ている人が涙ぐむほどの名演で、黒澤明監督も百点満点だと絶賛したそうです。個人的には、おとよが井戸に向かって長次の名を呼び、死の淵をさまよう彼を呼び戻そうとする場面は、黒澤作品全体の中でも最も"泣ける"場面であるように思います(原作では長次は死んでしまうが...)。

赤ひげ その3.jpg この作品、原作者の山本周五郎さえも「原作以上」と絶賛したそうで、原作も傑作ながら(原作では「おくめ殺し」というのが結構ミステリっぽくて面白かった)、「おとよ」は原作を大きく変えているし、「長次」に至っては全くのオリジナルですが、原作から改変しているのに原作者が「原作以上」と褒めているというのが黒澤明のスゴイところではないかと(その前に3話、ほぼ忠実に原作を再現しているというのはあるが)。
内藤洋子(まさえ)/加山雄三(保本登)/田中絹代(登の母)

赤ひげ 笠智衆.jpg ラストの登とまさとの結婚内祝いの場面で、登の母親役の田中絹代に加えて父親役で笠智衆が出てきますが、これは黒澤が先輩監督である小津安二郎と溝口健二に敬意を表して、それぞれの監督作の看板役者をキャスティングしたとのことで(田中絹代は溝口映画だけではなく小津映画にも多く出ているが)、このことからも、黒澤がこの作品にどれだけ入れ込んだかが窺い知れるように思いました。
笠智衆(登の父)/三船敏郎(媒酌人の「赤ひげ」こと新出去定)/内藤洋子(まさえ)/風見章子(まさえの母)

akahige 赤ひげ.jpg

加山雄三(保本登)/杉村春子(娼家「櫻屋」の女主人・きん)
赤ひげ 杉村春子.jpg「赤ひげ」●制作年:1965年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:井手雅人/小国英雄/菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一/斎藤孝雄●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「赤ひげ診療譚」●時間:185分●出演:三船敏郎/加山雄三/山崎努/団令子/桑野みゆき/香川京子/江原達怡/二木てるみ/根岸明美/頭師佳孝/土屋嘉男/東野英治郎/志村喬/笠智衆/杉村春子/田中絹代/柳永二郎/三井弘次/西村晃/千葉信男/藤原釜足/三津田健/藤山陽子/内藤洋子/七尾伶子/辻伊万里/野村昭子/三戸部スエ/菅井長次(頭師佳孝)2.jpg長次(頭師佳孝).jpgきん/荒木道子/左卜全/渡辺篤/小川安三/佐田豊/沢村いき雄/本間文子/出雲八重子/中村美代子/風見章子/常田富士男●公開:1965/04●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-09-04)(評価:★★★★☆)
二木てるみ(おとよ)/頭師佳孝(長次)
赤ひげ 根岸明美 2.jpg(阿部嘉典『「映画を愛した二人」黒沢明 三船敏郎』(1996/01 報知新聞社)より)

赤ひげ診療譚 (1962年) (ロマン・ブックス)』『赤ひげ診療譚 (新潮文庫)』『赤ひげ診療譚 (時代小説文庫)
赤ひげ診療譚 (1962年) (ロマン・ブックス).jpg 赤ひげ診療譚 (新潮文庫)2.jpg 赤ひげ診療譚 (時代小説文庫).jpg

『赤ひげ診療譚』...【1959年単行本[文藝春秋新社]/1962年ロマンブックス[講談社]/1964年文庫化・2019年新装版[新潮文庫]/2008年再文庫化[時代小説文庫]】

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「醉いどれ天使」「静かなる決闘」「野良犬」で順位づけに迷う。

野良犬 1949 ポスター1.jpgNora inu(1949).jpg野良犬 1949 dvd.jpg 野良犬 1949 0.jpg
「野良犬」ポスター/Nora inu(1949) /「野良犬<普及版> [DVD]」三船敏郎/志村喬

Nora-inu  (野良犬), 1949.jpg 警視庁捜査一課の新米刑事・村上(三船敏郎)は、帰宅途上のバス中、上着ポケットに入れたコルト拳銃を掏られたことに気づき、男が走り出したのを見つけ追かけるが見失う。野良犬1.jpgお銀(岸輝子)翌日、中島係長(清水元)に報告、スリ係で女スリの名が浮上、お銀を執拗に追って、闇で拳銃を扱う仲介屋を探せとのヒントを彼女から貰う。下町の盛り場で銃の取引場所を聞き出して、仲介屋の女(千石槻子)を逮捕するが、銃を渡した相手は元締めの本多(山本礼三郎)でないと判らないという。盗まれた銃によって殺人事件が起きており、所轄警察の刑事・佐藤(志村喬)と野良犬 千石.jpg組むことになった村上は、本多が野球好きと聞き、佐藤と共に球場で本多を探し出して逮捕、拳銃を借りた男の名が遊佐(木村功)だと判り、今度は遊佐を探すことに。大ベテラン刑事の佐藤は、村上に捜査の手順、取調べの方法などを指導する。村上野良犬 1949 い.pngらは遊佐の実家(姉の家)を訪ねるが遊佐は不在で、遊佐の友人のヤクザから遊佐の情婦でダンサーの並木ハルミ(淡路恵子)のことを聞き彼女にも会うが、彼女は遊佐の居場所を言わない。そうした中、次の強盗殺人事件が起きる。村上は遊佐が情婦の所へ行くと睨みハルミ宅を訪問、一方の佐藤は、ハルミの部屋のマッチ箱から、村上の銃を借りて一人でホテルに行き遊佐の居所を突き止めるが、その凶弾で倒れる。自責の念にかられる村上に対し、ハルミも遂に遊佐との待ち合わせ場所と時間を自白する。村上は丸腰のまま指定の駅に急行、遊佐を見つけ出し、逃げる彼を追い詰める。遊佐の銃で手を撃たれるが、格闘の末に遊佐を逮捕する。村上は佐藤を病院に見舞うが、逆に佐藤は村上を励ます―。 三船敏郎 [Toshiro Mifune]/千石規子 [Noriko Sengoku]

菊島隆三.jpg 黒澤明監督の1949(昭和24)年作品で(製作は「新東宝・映画芸術協会」)、黒澤がこの頃初めて知った菊島隆三(1914-1989)と意気投合し、ジョルジュ・シムノンばりの犯罪映画を作ろうとして企画したのが本作。ジョルジュ・シムノンは「メグレ警部」シリーズで知られる作家で、後のパトリス・ルコント監督の「仕立て屋の恋」 ('89年/仏)の原作者でもあります。

野良犬 三船.jpg 序盤の、村上が仲間のアドバイスを受けながら、犯人の手掛かりを求めて東京中を歩き回るシーン、まず女スリの行方を追って下町を歩き回り、次にその女スリの示唆で、拳銃密売ルートの手掛かりを求めて復員服で闇市を歩き回るのですが、このシーンが、戦後間もない東京の姿を炙り出していて圧巻です。

noraimu1.jpg 次に来る、後楽園球場で本多を捜すシーンもいいです。プロ野球はまだ2リーグ制に移行する前であり、巨人と南海が戦っていて、「赤バット」の川上がタイムリーヒットを打ったりしています。試合中に本多の居場所が判り、但し、5万人の観客の真っ只中で銃を持っている可能性のある相手と渡り合うわけにはいかないので、ではどうすればよいか、試合終了までに考えなければならない、そこで思いついたのが...(まあ、単純と言えば単純な方法だったが)。

野良犬 楽屋2.jpg 村上・佐藤が屋上で話す場面の空を広く撮ったカメラ割りや、ダンサー達の楽屋の半裸の女体が画面一杯に犇(ひし)めいてムンムンした雰囲気の漂うシーンのなど、カメラにおける工夫が随所に見られ、どのシーンも印象に残ります。

 ラスト近くの村上が駆けつけた駅(田舎駅の風情だが現在の「大泉学園駅」か)の待ち合わせ客の中から遊佐を割り出すシーンのカメラワークも緊迫感がありましたが、やや疑問に思ったのは、村上が遊佐の顔を知らないで彼を追っていることで、これは彼が初犯であるためでしょうか(写真くらい手に入らなかったのか)。

Akira Kurosawa, "Stray Dog" (1949)

野良犬 1949 ラスト.jpgnorainu2.jpg ラストの野原での(当時の練馬大泉は殆ど湿原状態だった?)村上と遊佐の格闘シーンも迫力がありましたが、「醉いどれ天使」('48年/東宝)で、哀しいシーンに「カッコウ・ワルツ」を流すという用いられ方をした"映像と音楽の対位法"が、ここでは両者が初めて対峙するシーン(近隣の窓辺からピアノの音が流れてくる)と、取っ組み合いの決着がついた場面(先生に引率された児童らが童謡を歌いながら行く)で用いられています(音楽は早坂文雄)。

野良犬 1949.jpg 遊佐の実家の貧しさは(やはり写真は無理か。東野英治郎が桶屋の親父役を演じている)、犯罪と貧困の相関関係を示唆しているようにも思えましたが、犯人に感情移入してしまいそうになる三船敏郎演じる村上に対し、志村喬演じる佐藤が、「一匹の狼のために、傷付いた多数の羊を忘れるな。俺は単純に奴らを憎む。悪い奴は悪いのだ」「何もかも世の中のせいにして、悪いことをする奴は、もっと悪い」と諭し、ラストでも、「外を見ろ。今日もあの屋根の下で何人かの善良な人間が遊佐のような奴の餌食になっている。遊佐やハルミへの情はわかるが自然に忘れるよ」と―。志村喬って結構、黒澤映画の中で主題を要約して語っている(「静かなる決闘」('49年)然り)。

野良犬 1949 淡路2.jpg小林信彦.jpg 作家の小林信彦氏が、黒澤映画の中では「七人の侍」「天国と地獄」がベストで、もう一本を「野良犬」にするか「醉いどれ天使」にするかいつも迷うといったことを言っていましたが、個人的は、1940年代後半(昭和20年代前半)の黒澤作品では「醉いどれ天使」「野良犬」に加えて「静かなる決闘」も甲乙付け難く、観直すたびに順位付けが微妙に変わりそうです(今回は何れも星4つで揃えたが、揃えるならば、全部星5つにするという手もあっていい。そうなると日本映画のマイベストテンの殆どが黒澤作品で占められることになってしまいそうなのだが)。

淡路恵子(当時16歳)

野良犬 1949 淡路22.jpg 「静かなる決闘」の原作、菊田一夫の舞台「堕胎医」に主演し、それを観た黒澤明監督から映画出演を勧められた千秋実(1917-1999)の映スリー・パールズ-10.jpg画デビュー作ですが(クラブの従業員役)、今年['14年]1月に亡くなった淡路恵子(1933-2014)の映画デビュー作でもあり、印象としては淡路恵子の印象の方が圧倒的に強烈です。松竹歌劇団に入団前の松竹音楽舞踊学校(宝塚音楽学校のようなものか)の在校生の時に黒澤明監督のこの作品に抜擢起用され(当時16歳)、本作出演の翌年にSKDに入団し、「君の名は」('53年/松竹)出演までは専らSKDの舞台で、草笛光子、深草笙子とのユニット「スリー・パールズ」として活躍しましたが、16歳のこの時すでに、ダンスはお手のものといった感じでしょうか。

SKD・スリー・パールズ(左から草笛光子、深草笙子、右が淡路。1952年10月)
    

noraimu 52.jpg野良犬 1949  ポスター0.jpg「野良犬」●制作年:1949年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:122分●出演:三船敏郎/志村喬/木村功/清水元/河村黎吉/井田綾子(淡路恵子)/三好栄子/千石規子/木村 功 野良犬.jpg本間文子/飯田蝶子/東野英治郎/永田靖/松本克平/岸輝子/千秋実/山本礼三郎/伊豆肇/清水将夫/高堂國典/伊藤雄之助●公開:1949/10●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-12-18)(評価:★★★★) 木村 功(当時26歳)

「野良犬」スチール.jpg 伊藤雄之助(当時30歳)

「野良犬」の演技打ち合わせ風景 黒澤明・三船敏郎・志村喬・千石規子
「野良犬」の演技打ち合わせ.jpg

「野良犬」スチール写真/淡路恵子逝去記事(東京新聞/2014年1月12日朝刊)
野良犬 スチール1.jpg東京新聞 2014年1月12日 淡路恵子訃報記事.jpg淡路恵子 1.jpg淡路恵子.jpg淡路恵子2.jpg                            
凛として、ひとり.jpg淡路恵子『凛として、ひとり
1933年東京生まれ。1948年に松竹歌劇団の養成学校である松竹音楽舞踊学校に4期生として入学。
1949年、入団前の学校生の時に黒澤明監督に抜擢され本名の井田綾子で新東宝映画『野良犬』に映画デビュー。
1950年、松竹歌劇団に入団。草笛光子、深草笙子と組んでスリーパールズにも抜擢され歌に踊りに大活躍した。
1957年に出演した『太夫さんより・女体は哀しく』と『下町』の演技でブルーリボン賞の助演女優賞を受賞。
1960年代には東宝の"駅前シリーズ"や"社長シリーズ"のレギュラー出演など数多くの映画に出演した。
2014年1月11日17時24分、食道がんのため東京都港区の病院で死去。                                                                                                         
         

                                                                                 
黒澤明作品ベスト17(個人サイト)
   1『野良犬』
   2『七人の侍』
   3『隠し砦の三悪人』
   4『酔いどれ天使』
   5『天国と地獄』
   6『赤ひげ』
   7『椿三十郎』
   8『用心棒』
   9『生きる』
   10『どん底』
   11『わが青春に悔なし』
   12『どですかでん』
   13『羅生門』
   14『醜聞』
   15『虎の尾を踏む男達』
   16『姿三四郎』
   17『蜘蛛巣城』

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「●野田 高梧 脚本作品」の インデックッスへ「●厚田 雄春 撮影作品」の インデックッスへ「●斎藤 高順 音楽作品」の インデックッスへ「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ 「●岩下 志麻 出演作品」の インデックッスへ「●杉村 春子 出演作品」の インデックッスへ 「●佐田 啓二 出演作品」の インデックッスへ「●東野 英治郎 出演作品」の インデックッスへ 「●中村 伸郎 出演作品」の インデックッスへ 「●加東 大介 出演作品」の インデックッスへ「●岸田 今日子 出演作品」の インデックッスへ「●岡田 茉莉子 出演作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(杉村春子)○あの頃映画 松竹DVDコレクション

「晩秋」に似た終わり方。テーマも同じく「娘を嫁にやった男親の悲哀と孤独」。

秋刀魚の味 チラシ.jpg秋刀魚の味 dvd.jpg 秋刀魚の味 ブルーレイ.jpgあの頃映画 秋刀魚の味 [DVD]」「「秋刀魚の味」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]」 

秋刀魚の味 宴席.jpg 初老のサラリーマン平山周平(笠智衆)は、秋刀魚の味 岩下.jpg妻を亡くして以来、24歳になる長女・路子(岩下志麻)と次男・和夫(三上真一郎)の三人暮らしで、路子に家事を任せきって生活している。そのことに後ろめたさを感じつつ、まだ嫁にやるには早い思いたい周平に、同僚の河合(中村伸郎)が路子の縁談を持ちかける。最初は乗り気でない周平だったが、河合のしつこい説得と、一人娘の婚期を遅れさせ後悔する恩師の姿を見るにつれ、ついに路子へ縁談話をするが、急な話に路子は当惑する―。

Sanma no aji (1962) 1.jpg秋刀魚の味1カット.jpg 小津安二郎監督の1962(昭和37)年作品で、同監督の遺作となった作品。原作は「秋日和」('60年)と同じ里見弴。タイトルの「秋刀魚の味」は佐藤春夫の詩「秋刀魚の歌」から引いており、映画の中には"秋刀魚"は出てきません(海外では"Autumn Afternoon"のタイトルで公開)。「秋日和」に受付嬢役で出てた岩下志麻が小津映画初主演(作中に小林正樹監督・仲代達矢主演の松竹映画「切腹」('62年9月公開)のポスターが見られるカットがあるが、岩下志麻はこの作品にも出演している)。

秋刀魚の味s.jpg 前半部分は、周平、河合、堀江(北竜二)らかつての中学の同級生たちが恩師の漢文教師で、通称"瓢箪"先生(東野英治郎)を招いて同窓会をした話が主軸になっています。その席で"瓢箪"はかつての教師の威厳も無く酔っぱらってしまいます(この元教師、鱧(はも)を食べたのは初めてか?この映画で出てくる料理魚は鱧だけで、先に述べた通りサンマは出てこない)。

 秋刀魚の味 東野.jpg 東野英治郎って「東京物語」以来、小津映画で酔っ払いの役が多いなあ(実際にはあまり飲めなかったようだが。一方、中村伸郎は酒好きで、笠智衆は完全な下戸だった)。笠智衆が実年齢58歳で57歳の周平を演じているのに対し、東野英治郎は実年齢55歳で17歳上の72歳の老け役です。"瓢箪"を家まで送ると独身の娘(杉村春子)が悲憤の表情でそれを迎える(杉村春子(1906年生まれ)は実年齢56歳で東野英治郎(1907年生まれ)演じる元教師の48歳の娘を演じている)―"瓢箪"は、今は独身の娘が経営するラーメン屋の親父になっていたわけ秋刀魚の味 杉村.jpg秋刀魚の味 燕来軒.jpgで、後日周平がその店を訪ねた際にもその侘しさが何とも言えず、"瓢箪"が周平の会社へ礼に来た際に河合と共に料理屋へ誘うと「あんたは幸せだ、私は寂しい、娘を便利に使って結局嫁に行きそびれた」とこぼす始末。それを聞き河合は「お前も"瓢箪"になるぞ。路子さんを早く嫁にやれ」と周平に忠告する―といった出来事が、後半の伏線となっています。

秋刀魚の味 佐田・岡田.jpg 周平の長男・幸一(佐田啓二)は妻・秋子(岡田茉莉子)が団地住まいをしていますが、夫は大企業に勤めているものの、共稼ぎの妻の方が帰りが遅い時は夫が自分で夕飯を作るところが、当時としては目新しかったといいます。幸一が以前から欲しかったゴルフクラブを会社の同僚(吉田輝雄)から買うために周平から金を借りると、それを秋子にさらわれてしまったため不満が募るといった具合に、共稼ぎのせいか妻の発言権が強く、最終的には秋子は月賦で買うことを認めますが、その代わり自分もハンドバッグを買うと言います。雰囲気的に、この作品で小津監督は、夫婦生活、結婚生活というものをあまり明るいものとしては描いていない印象を受けます(因みに佐田啓二はこの映画に出演した2年足らずの後に自動車事故で亡くなっている(享年37))。

秋刀魚の味 岩下志麻 花嫁姿.jpg 路子の縁談の話は周囲が色々動き過ぎてあっちへ行ったりこっちへ行ったりしますが、最後に路子は結婚を決意し、河合が紹秋刀魚の味 笠 ラスト.jpg介した医師の元へ嫁ぐことに―。路子の花嫁姿に接し、平山は「うーん、綺麗だ。しっかりおやり、幸せにな」と言葉をかけ、式の後は亡き妻に似たマダム(岸田今日子)がいるバーへ行き独りで飲みながら軍艦マーチを聴く。ラスト、周平は自宅で「うーん、一人ぽっちか」と呟き、台所へ行くと急須から茶を注いで飲む―。

秋刀魚の味 笠1.jpg がっくりしてはいるが泣いてはいないという(笠智衆は映画において泣く演技を拒否した)、「晩秋」に似た終わり方でした(テーマも同じく「娘を嫁にやった男親の悲哀と孤独」であるし)。会社のオフィスの撮り方や宴席、料理屋の撮り方なども、同じセットを使ったのではないかと思われるくらい似ていて、しかも俳優陣も重なるため、やや印象が弱かった感じも(ヒロイン・路子役の岩下志麻は、「秋日和」で会社の受付嬢というチョイ役だった)。路子の花嫁姿はあっても結婚式の場面が無いのも「晩秋」と同じで、これは路子の結婚生活が必ずしも幸せなものとはならないことを暗示しているとの説もありますが、個人的には何とも言えません。

Sanma no aji (1962).jpg 小津安二郎監督のカラー作品は、「彼岸花」('58年)、「お早よう」('59年)、「浮草」('59年)、「秋日和」('60年)、「小早川家の秋」('61年)とこの「秋刀魚の味」の6作品があり、戦後のということで多くの人に観られているということもあってか、何れの作品も小津作品のファン投票サイトや個人のサイトなどでベストテンにランクインすることが多いのです。

 実際、2003年にNHK-BS2で「生誕100年小津安二郎特集」を放映した際の視聴者投票による「小津映画ベスト10」では、①「東京物語」②「晩春」③「麦秋」④「生れてはみたけれど」⑤「浮草」⑥「彼岸花」⑦「秋刀魚の味」⑧「秋日和」⑨「早春」⑩「淑女は何を忘れたか」の順でした。これ、自分の中でのランキングと近い部分もあれば違っている部分もあるのですが、この並び順が別の一般または個人のサイトなどを見ると「お早よう」がランクインしていたりして、微妙に違っていたりするのが面白いです。

 因みにIMDbの評価は「8.3」。海外でも高い評価を得ている作品と言えます。
Sanma no aji(1962)

(●2019年に劇場でデジタルリマスター版で再見した。実は一番最初に20代で観たときの評価は星3つだったが、観直すたびに良く思えてきて、星4つの評価に改めた。昔は2本立てや3本立てで観て、娘が嫁に行く行かないの話が続いてやや辟易したが、今こうやって久ぶりに1本落ち着いて観ると悪くない。映画自体も、初めて観たのが作られてから20年後で、今またそこから37年も経ったのかと、何か感慨深い。小津作品を観るということは、自分の中にある「昭和」を確認することなのかもしれない。)

秋刀魚の味 杉村春子.jpg 杉村春子(娘) 秋刀魚の味 東野英治郎.jpg 東野英治郎(父)

中村伸郎2.jpg秋刀魚の味 加東.jpg「秋刀魚の味」●制作年:1962年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:113分●出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡佐田 秋刀魚.png笠智衆 秋刀魚の味.png田茉莉子/中村伸郎/東野英治郎/北竜二/杉村春子/加東大介/吉田輝雄/三宅邦子/高橋とよ/牧紀子/三上真一郎/環三千世/岸田今日子/浅茅しのぶ/須賀不二男/菅原通済(特別出演)/緒方安雄(特別出演)●公開:1962/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)●2回目(デジタルリマスター版):神保町シアター(13-12-23)Sanma no aji (1962) 岸田今日子.jpg秋刀魚の味 吉田輝雄.jpg三上真一郎 秋刀魚の味.jpg●3回目(デジタルリマスター版):北千住・シネマブルースタジオ(19-06-11)(評価:★★★★)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「彼岸花」(小津安二郎)
[上]佐田啓二(右端)/東野英治郎(左端)
[下]岸田今日子/吉田輝雄/三上真一郎(1940-2018(77歳没)

菅原通済(左端)/緒方安雄(右から3人目)   菅原通済(実業家・フィクサー・売春対策審議会会長)
秋刀魚の味 菅原通済.jpg 菅原通済ド.jpg 菅原通済.jpg

緒方安雄(小児科医・緒方洪庵の曾孫・天皇家担当医)
緒方安雄2.jpg緒方安雄.jpg

●"The Tofu Maker | The Films of Yasujiro Ozu/The six final films of Yasujiro Ozu"
1958年 彼岸花
1959年 お早よう
1959年 浮草
1960年 秋日和
1961年 小早川家の秋
1962年 秋刀魚の味

Music from the 2008 film Departures, 'Okuribito - Ending' written by Joe Hisaishi.

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ラストの会話がくすりと笑える。昭和のノスタルジーを感じさせる作品。

小津 安二郎 「お早う」tirasi.jpg 小津 安二郎 「お早う」dvd2.jpg 小津 安二郎 「お早う」dvd.jpgあの頃映画 松竹DVDコレクション 「お早よう」」(2013) 「「お早よう」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]」(2014)

 郊外の住宅地に長屋のように複数の家族が隣り合って暮らしている。林家の息子実(設楽幸嗣)と勇(島津雅彦)はテレビが欲しいと父・啓太郎(笠智衆)、母・民子(三宅邦子)の両親にねだるが、聞き入れてもらえない。男のくせに余計な口数が多いと啓太郎に叱られた子供たちは、要求を聞き入れてもらえるまで口を利かないというストライキを始める―。

 小津安二郎監督の第50作目にあたる作品(カラー第2作)で、初期作品「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」('32年)でも子供たちのストライキがあったことを思い出させます。「生れてはみたけれど」は子供の視点で始まって大人の視点に行き、最後は両者を統合するような感じで、その間に、大人の悲哀感と、それをうっすら感じる子供の成長のようなものがありましたが、こちらは専ら子供の視線であり、さほど悲哀感は無く、からっとしたコメディとなっています。

小津 安二郎 「お早う」父怒る.jpg 林家の子供たちは、先にテレビを自宅に入れている隣の丸山家にテレビを見に行きますが、1959(昭和34)年頃はそういうことがあちこちであったのだろなあと(因みに、テレビ画面の大相撲中継に出てくる栃錦は既に全盛期を過ぎていたが、昭和34年年3月場所で千秋楽に若乃花を破り「奇跡」と言われた復活優勝を遂げている)。

小津 安二郎 「お早う」テレビが来た.jpg 当時55歳の笠智衆が46歳の父親の役を演じていて、実年齢よりかなり若い役作りになっていますが、49歳の時に70歳の役を演じた「東京物語」('53年)で、息子の嫁を演じた三宅邦子と今度は夫婦役というのがやや強引な感じも。当時52歳の東野英治郎演じる啓太郎の「先輩」富沢が55歳で定年退職した後、何とか再就職が決まったのが家電セールスマンの仕事で、啓太郎は先輩へのご祝儀にテレビを買う―それが子供の要求を叶えることになるというほのぼのとした結末。つい先日まで、飲み屋で啓太郎と富沢がテレビを巡って大宅壮一の「一億総白痴化」論に便乗していたことからすると皮肉な結末とも言える?

小津 安二郎 「お早う」佐田・久我.jpg 民子の妹・節子(久我美子)は、勤めていた会社が潰れて失業中で近所の子供たちに英語を教えている福井平一郎(佐田啓二)の元へせっせと翻訳の仕事を届ける―というこの2人の仄かな恋愛感情がサイドストーリーの1つとしてあり、平一郎は林家の子供が口数が多いことを叱られて「大人だってコンチワ、オハヨウ、イイオテンキデスネ、余計なこと言ってるじゃないか」と反論したという話を節子から聞いて興味を抱き、そうした一見無駄であるような言葉が世の中の潤滑油になっているんだろうけれど、子供にはまだ解らないのだろうなあと節子に解説してみせる―その様子を、節子が帰った後に、同居の姉で自動車のセールスをしている加代子(沢村貞子)に、あなただって節子さんに肝腎なことは言わないで余計な話ばかりしているとたしなめられます。

お早よう ラスト.jpg その平一郎がラストで駅のホームで節子と偶然出会って、またしても挨拶と天気の話を繰り返しているのがくすりと笑えます。但し、2人の間に言葉が途切れて間があったと思ったら、平一郎が「あの雲は面白い形をしていますね」とか言い始めたのは、おいおい大丈夫かという感じも。まあ、優しい節子が相手だからともかく、普通だったら「見切られ時」ではないかという気もしなくはありませんでした。

小津 安二郎 「お早う」 佐田啓二.jpg 佐田啓二は当時32歳、5年後に自動車事故で亡くなっており(享年37歳)、一瞬、息子・中井貴一に似ているかなと思わせる部分がありますが、息子の方はもう50歳を超えているのだなあ。長屋風住宅街のロケ地は現在の多摩川緑地付近でしょうか。テレビ有りの丸山家の主人を演じているのは大泉滉、近所に鉛筆やゴム紐などを売り歩く押売りに殿山泰司など、懐かしい面々も。

Ohayô(1959).jpg 結局、「ウチはまだまだ」とか何やかや言いながらも、この後かなり短い年数の間にテレビは日本中の家庭に普及したわけで(昭和34年時点の普及率25%以下だったのに対し、昭和37年には約80%に)、近所の家にテレビを見いくというというようなことがあったのは限られた期間の現象ではなかったのかと思われます。どうってことない作品ですが、映像の隅々に昭和のノスタルジーを感じさせる作品です。

 
Ohayô(1959)
Two boys begin a silence strike to press their parents into buying them a television set.


 
小津 安二郎 「お早う」昭和.jpg小津 安二郎 「お早う」昭和2.jpg

 お早よう 杉村春子2.jpg お早よう 杉村春子.jpg 杉村春子 お早よう 東野英治郎.jpg 東野英治郎  

小津 安二郎 「お早う」笠・三宅・久我.jpg小津 お早う 大泉.jpg「お早よう」●制作年:1959年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:黛敏郎●時間:94分●出演:佐田小津 お早う 殿山.jpg啓二/久我美子笠智衆三宅邦子(左写真)/設楽幸嗣/島津雅彦/高橋とよ/杉村春子/沢村貞お早よう 小津 恋人たち.jpg子/東野英治郎/長岡輝子/三好栄子/田中春男/大泉滉(中)/泉京子/殿山泰司(右)/佐竹明夫/諸角啓二郎/桜むつ子/千村洋子/須賀不二男●公開:1959/05●配給:松竹●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-05)●2回目(デジタルリマスター版):神保町シアター(13-12-09)(評価:★★★☆)併映(1回目):「淑女は何を忘れたか」(小津安二郎)
大泉滉・泉京子夫婦の家の室内にあるポスターはルイ・マル「恋人たち」('59年4月日本公開)のもの

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「老成」とは子供への心理的依存を断つことか。義理の関係の方が美しく描かれているのが興味深い。
東京物語 小津 チラシ2.jpg東京物語 小津 dvd.jpg 東京物語 紀子のアパート.jpg   
「東京物語」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター 【初回限定版】 [Blu-ray]」(2013)
「東京物語」チラシ

 尾道に暮らす平山周吉(笠智衆)とその妻のとみ(東山千栄子)は20年ぶりに東京に出掛け、成人した子供たちの家を訪ねるが、長男の幸一(山村聰)も長女の志げ(杉村春子)も仕事が忙しくて両親にかまってやれない。寂しい思いをする2人を慰めたのが、東京物語 小津 ラスト.jpg戦死した次男の妻の紀子(原節子)であり、彼女は仕事を休んで、2人を東京の観光名所に連れて行く。周吉ととみは、子供たちからはあまり温かく接してもらえなかったが、それでも満足した様子を見せて尾道へ帰る。しかし、その数日後に、とみが危篤状態であるとの電報が子供たちの元に届く。子供たちが尾道の実家に到着した翌日未明に、とみは死去する。とみの葬儀が終わった後、志げは次女の京子(香川香子)に形見の品をよこすよう催促する。その上、紀子以外の子供たちは、葬儀が終わるとそそくさと帰ってしまい、京子は憤慨するが、紀子は義兄姉を庇って若い京子を諭す。紀子が東京に帰る前に、周吉は上京した際の紀子の優しさに感謝を表す。がらんとした部屋で周吉は独り静かな尾道の海を眺めるのだった―。

Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012年版.jpg 小津安二郎監督の代表作とされ、日本映画を代表する傑作とされていますが、世界的な評価も高く、2012年には、英国映画協会発行の「サイト・アンド・サウンド」誌が発表した、世界の映画監督358人が投票で決める最も優れた映画に選ばれています(同誌は小津監督が同作品で「その技術を完璧の域に高め、家族と時間と喪失に関する非常に普遍的な映画をつくり上げた」と評価した)。最初に観た当時は、そんなにスゴイ作品なのかなという印象東京物語11.JPGもありましたが、何回か観ていくうちに、自分の中でも評価が高くなってきた感じで、世評に影響されたというよりも、年齢のせいかなあ(若い人でもこの作品を絶賛する人は多いが)。

左から山村聡、三宅邦子、笠智衆、原節子、杉村春子、東山千栄子

 老年と壮年、地方と大都会、大家族と核家族、ゆったりと流れる時間と慌ただしく流れる時間―といった様々な対立項の位相の中で幾度となく論じられてきた作品ですが、小津自身は「親と子の成長を通して日本の家族制度がどう崩壊するかを描いてみた」と述懐しています。

甘えの周辺292.JPG土居健郎.png 個人的には、『甘えの構造』('71年/弘文堂)で知られた精神科医・土居健郎(1920-2009)が『「甘え」の周辺』('83年/弘文堂)でこの作品について書いていた論考がしっくりきました("論考"と言うより"感想"に近いもので、そう難しいことを言っているわけではないが)。
 土居健郎はその本の「老人と心の健康」という章で、「ある映画から」としてこの作品のストーリーを丁寧に紹介したうえで、「子どもは成長するときに、親と同一化する」(親を見習って成長する)が、「老人になると、どうも逆になるらしい」とし、今度は老人が子供に同一化することで、「この世におさらばする前に、子どもを通してもういっぺん人生をおさらいするのである」としています。その上で、この映画の場合、忙しそうにしている長男夫婦を見ると、それを見て両親たちは、自分たちが来て嬉しいことは嬉しいのだろうが、一方で邪魔になっていることも分かる―但し、自分たちも若い頃は同じだったではないかという思いがあるからこそ、両親たちはそれを責めないのではないかと。

東京物語 熱海.jpg 長女(杉村春子)の勧めで熱海に行って、旅館の部屋が麻雀部屋の真下で寝付かれなかったなど散々な目に遭って帰ってきたけれど、お金を出したのは子供達なので文句も言えず、逆に早く帰って来たことで文句を言われる始末だが、「宿無しになってしもうたなあ」とか言いながらも、それぞれ友達(十朱久雄・東野英治郎)の所と次男の未亡人(原節子)のアパートへと行く―。

 「人間欲を言えばきりがないからのう」と周吉(笠智衆)は言っていますが、両親が子供たちに失望させられたのは確かであるとしても、そこで子供たちは自分達とは異なる別の人格や生活を持った一個人であることを認識したことで、老夫婦も成長していると筆者(土居)は捉えているようです。

東京物語 小津 アパート.jpg この点について土居健郎は、映画評論家・佐藤忠男氏の「小津安二郎は、大人になることは、親に対して他人になっていくことである、と言おうとしているようだ」との指摘を非常に鋭いものとして評価しています(因みに、佐藤忠男の『完本・小津安二郎の芸術』(朝日文庫)は、小津映画に見られる「甘え」をしばしば指摘している。『小津安二郎の芸術』の単行本(朝日新聞社)の初版は1971年の刊行であり、これは『甘えの構造』の初版と同じ年である)。

 その上で筆者(土居)は、老人は老いて子供に依存的にならざるを得ない状況になる場合があるが、経済的に依存することがあっても心理的な依存からは離れていくべきであって、それが「老成・老熟」ということではないかとしています。

 一方で、この映画では、実の親子の関係と比べ、老夫婦と次男の未亡人(原節子)との関係は美しく描かれており、義理同士の関係の方が実の親子の関係より遥かに良い関係として描かれていることがこの作品の興味深い特徴かと思われます。

 この点について土居健郎は、義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがあるとしています(土居は、グリム童話の「シンデレラ物語」の、姉妹の中で唯一心根の優しい娘シンデレラが"継子"であったことを指摘している)。

東京物語 小津 笠・原.jpg この映画で笠智衆は実年齢49歳にして70歳の平山周吉を演じたわけですが、その「老成」を演じ切っているのは見事。原節子演じる東京物語 小津 原号泣.jpg紀子がラスト近くで自分の複雑な思いを周吉に打ち明けて号泣する場面は名シーンとされていますが、紀子の全てを受け止める周吉の態度との相互作用からくる場面状況としての美しさと言えるのでは。

 「義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがある」と土居健郎に言われてみれば、原節子はうっ伏して号泣するのではなく、こみ上げるものを抑えるような感じで泣いていて、この"節度"がこの作品の美しさを象徴していると言えるのかもしれません。

原節子、号泣す.jpg「東京物語」と小津安二郎―なぜ世界はベスト1に選んだのか.jpg『東京物語』原節子、香川京子.gif 2013年が小津安二郎の生誕100周年だったため、梶村啓二 著 『「東京物語」と小津安二郎』('13年/平凡社新書)など何冊か関連本が刊行されていて、この機会に映画と併せて読んでみるのもいいのではないかと思います(今年['14年]6月に刊行された末延芳晴 著 『原節子、号泣す』('14年/集英社新書)は、新書ながら深い分析がされていたように思う)

原節子/香川京子

東京物語21.jpg

Tôkyô monogatari(1953)
Tôkyô monogatari (1953).jpg An old couple visit their children and grandchildren in the city; but the children have little time for them.
         
      
      
Poster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank.jpgPoster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank (1 January - 28 February 2010)
(「BFIサウスバンク」は2007年まではナショナル・フィルム・シアター(National Film Theatre)の名称で知られていたイギリス映画教会(British Film Institute)が運営するロンドンの映画館)

杉村春子(周吉の長女・金子志げ)/中村伸郎(志げの夫・庫造) 笠智衆(平山周吉)/東野英治郎(周吉の旧友・沼田三平)
東京物語 笠・東野.jpg東京物語 0.jpg「東京物語」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:136分●出演:笠智衆/東山千榮子/原節子/香川京子/三宅邦子/杉村春子中村伸郎山村聰/大坂志郎/十朱久雄/東野英治郎/長岡輝子/高橋豊子/桜むつ子/村瀬禪/安部徹/三谷幸子/毛利充宏/阿南純子/水木涼子/戸川美子/糸川東京物語 10.jpg山村聰 杉村春子「東京物語」.jpg和広●公開:1953/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★★☆)●2回目(デジタルリマスター版):神保町シアター(13-12-07)●併映(1回目):「彼岸花」(小津安二郎)/「秋刀魚の味」(小津安二郎)

山村聰(周吉の長男・平山幸一)/杉村春子(周吉の長女・金子志げ)
音楽:斎藤高順

三鷹オスカー.jpg三鷹オスカー  (2).jpg三鷹オスカー ー.jpg三鷹オスカー 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。


  
 
●"Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)の上位100作品
[姉妹版:同誌映画批評家によるオールタイム・ベスト50 (The Top 50 Greatest Films of All Time)(2012年版)
Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012.jpg 1位:『東京物語』"Tokyo Story"(1953/日) 監督:小津安二郎
 2位:『2001年宇宙の旅』"2001: A Space Odyssey"(1968/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック
 2位:『市民ケーン』"Citizen Kane"(1941/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 4位:『8 1/2』"8 1/2"(1963/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 5位:『タクシー・ドライバー』"Taxi Driver"(1976/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 6位:『地獄の黙示録』"Apocalypse Now"(1979/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『ゴッドファーザー』"The Godfather"(1972/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『めまい』"Vertigo"(1958/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 9位:『鏡』"Mirror"(1974/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 10位:『自転車泥棒』"Bicycle Thieves"(1948/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
 11位:『勝手にしやがれ』"Breathless"(1960/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 12位:『レイジング・ブル』"Raging Bull"(1980/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 13位:『仮面/ペルソナ』"Persona"(1966/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 13位:『大人は判ってくれない』"The 400 Blows"(1959/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 13位:『アンドレイ・ルブリョフ』"Andrei Rublev"(1966/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 16位:『ファニーとアレクサンデル』"Fanny and Alexander"(1984/スウェーデン)監督:イングマール・ベルイマン
 17位:『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日) 監督:黒澤明
 18位:『羅生門』"Rashomon"(1950/日) 監督:黒澤明
 19位:『バリー・リンドン』"Barry Lyndon"(1975/英・米) 監督:スタンリー・キューブリック
 19位:『奇跡』"Ordet"(1955/ベルギー・デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 21位:『バルタザールどこへ行く』"Au hasard Balthazar"(1966/仏・スウェーデン) 監督:ロベール・ブレッソン
 22位:『モダン・タイムス』"Modern Times"(1936/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 22位:『アタラント号』"L'Atalante"(1934/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 22位:『サンライズ』"Sunrise: A Song of Two Humans"(1927/米) 監督:F・W・ムルナウ
 22位:『ゲームの規則』"La Règle du jeu"(1939/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 26位:『黒い罠』"Touch Of Evil"(1958/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 26位:『狩人の夜』"The Night of the Hunter"(1955/米) 監督:チャールズ・ロートン
 26位:『アルジェの戦い』"The Battle of Algiers"(1966/伊・アルジェリア) 監督:ジッロ・ポンテコルヴォ
 26位:『道』"La Strada"(1954/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『ストーカー』"Stalker"(1979/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 30位:『街の灯』"City Lights"(1931/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 30位:『情事』"L'avventura"(1960/伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 30位:『フェリーニのアマルコルド』"Amarcord"(1973/伊・仏) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『奇跡の丘』"The Gospel According to St Matthew"(1964/伊・仏) 監督:ピエロ・パオロ・パゾリーニ
 30位:『ゴッドファーザー PartⅡ』"The Godfather Part II"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 30位:『炎628』"Come And See"(1985/ソ連) 監督:エレム・クリモフ
 37位:『クローズ・アップ』"Close-Up"(1990/イラン) 監督:アッバス・キアロスタミ
 37位:『お熱いのがお好き』"Some Like It Hot"(1959/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 37位:『甘い生活』"La dolce vita"(1960/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 37位:『裁かるゝジャンヌ』"The Passion of Joan of Arc"(1927/仏)  監督:カール・ドライヤー
 37位:『プレイタイム』"Play Time"(1967/仏) 監督:ジャック・タチ
 37位:『抵抗(レジスタンス)/死刑囚の手記より』"A Man Escaped"(1956/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 37位:『ビリディアナ』"Viridiana"(1961/西・メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 44位:『ウエスタン』"Once Upon a Time in the West"(1968/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 44位:『軽蔑』"Le Mépris"(1963/仏・伊・米) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 44位:『アパートの鍵貸します』"The Apartment"(1960/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 44位:『狼の時刻』"Hour of the Wolf"(1968/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 48位:『カッコーの巣の上で』"One Flew Over the Cuckoo's Nest"(1975/米) 監督:ミロス・フォアマン
 48位:『捜索者』"The Searchers"(1956/米) 監督:ジョン・フォード
 48位:『サイコ』"Psycho"(1960/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『カメラを持った男』"Man with a Movie Camera"(1929/ソ連) 監督:ジガ・ヴェルトフ
 48位:『SHOAH』"Shoah"(1985/仏) 監督:クロード・ランズマン
 48位:『アラビアのロレンス』"Lawrence Of Arabia"(1962/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 48位:『太陽はひとりぼっち』"L'eclisse"(1962/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 48位:『スリ』"Pickpocket"(1959/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 48位:『大地のうた』"Pather Panchali"(1955/印) 監督:サタジット・レイ
 48位:『裏窓』"Rear Window"(1954/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『グッドフェローズ』"Goodfellas"(1990/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 59位:『欲望』"Blow Up"(1966/英) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 59位:『暗殺の森』"The Conformist"(1970/伊・仏・西独) 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 59位:『アギーレ 神の怒り』"Aguirre, Wrath of God"(1972/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
 59位:『ガートルード』"Gertrud"(1964/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 59位:『こわれゆく女』"A Woman Under the Influence"(1974/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 59位:『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』"The Good, the Bad and the Ugly"(1966/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 59位:『ブルー・ベルベット』"Blue Velvet"(1986/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 59位:『大いなる幻影』"La Grande Illusion"(1937/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 67位:『地獄の逃避行』"Badlands"(1973/米) 監督:テレンス・マリック
 67位:『ブレードランナー』"Blade Runner"(1982/米) 監督:リドリー・スコット
 67位:『サンセット大通り』"Sunset Blvd."(1950/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 67位:『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日) 監督:溝口健二
 67位:『雨に唄えば』"Singin'in the Rain"(1951/米) 監督:スタンリー・ドーネン & ジーン・ケリー
 67位:『花様年華』"In the Mood for Love"(2000/香港) 監督:ウォン・カーウァイ
 67位:『イタリア旅行』"Journey to Italy"(1954/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 67位:『女と男のいる舗道』"Vivre sa vie"(1962/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 75位:『第七の封印』"The Seventh Seal"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 75位:『隠された記憶』"Hidden"(2004/仏・オーストリア・伊・独) 監督:ミヒャエル・ハネケ
 75位:『戦艦ポチョムキン』"Battleship Potemkin"(1925/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
 75位:『M』"M"(1931/独) 監督:フリッツ・ラング
 75位:『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』"There Will Be Blood"(2007/米) 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
 75位:『シャイニング』"The Shining"(1980/英) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『キートンの大列車追跡』"The General"(1926/米) 監督:バスター・キートン & クライド・ブラックマン
 75位:『マルホランド・ドライブ』"Mulholland Dr."(2001/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 75位:『時計じかけのオレンジ』"A Clockwork Orange"(1971/米) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『不安と魂』"Fear Eats the Soul"(1974/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 75位:『ケス』"Kes"(1969/英) 監督:ケン・ローチ
 75位:『ハズバンズ』"Husbands"(1975/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 75位:『ワイルドバンチ』"The Wild Bunch"(1969/米) 監督:サム・ペキンパー
 75位:『ソドムの市』"Salo, or The 120 Days of Sodom"(1975/伊・仏) 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
 75位:『JAWS/ジョーズ』"Jaws"(1975/米) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
 75位:『忘れられた人々』"Los Olvidados"(1950/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『気狂いピエロ』"Pierrot le fou"(1965/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 91位:『アンダルシアの犬』"Un chien andalou"(1928/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『チャイナタウン』"Chinatown"(1974/米) 監督:ロマン・ポランスキー
 91位:『ママと娼婦』"La Maman et la putain"(1973/仏) 監督:ジャン・ユスターシュ
 91位:『美しき仕事』"Beau Travail"(1998/仏) 監督:クレール・ドゥニ
 91位:『オープニング・ナイト』"Opening Night"(1977/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 91位:『黄金狂時代』"The Gold Rush"(1925/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 91位:『新学期・操行ゼロ』"Zero de Conduite"(1933/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 91位:『ディア・ハンター』"The Deer Hunter"(1977/米) 監督:マイケル・チミノ
 91位:『ラルジャン』"L' argent"(1983/仏・スイス) 監督:ロベール・ブレッソン

「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2191】 黒澤 明 「赤ひげ
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優れたカメラ効果を生んでいるシーンが多くあり、特にロケシーンは貴重な映像の連続。

天国と地獄 vhs.jpg 2天国と地獄 dvd .jpg 天国と地獄 dvd.jpg
天国と地獄 [VHS]」「天国と地獄 [監督:黒澤明][三船敏郎] [レンタル落ち]」「天国と地獄<普及版> [DVD]
Tengoku to jigoku(1963)
天国と地獄 ポスター.jpg天国と地獄 チラシ.jpgTengoku to jigoku(1963).jpg 製靴会社ナショナル・シューズの常務・権藤金吾(三船敏郎)の元に、「子供を攫った」という男からの電話が入る。そこに息子の純(江木俊夫)が現れ、いたずらと思っていると、住み込み運転手である青木(佐田豊)の息子・進一がいない。誘拐犯は子供を間違えたのだが、そのまま身代金3千万円を権藤に要求したのだった。妻(香川京子)や青木は身代金の支払いを権藤に懇願するが、権藤にはそれができない事情があった。権藤は密かに自社株を買占め、近く開かれる株主総会で経営の実権を手に入れようと計画を進めていた。翌日までに大阪へ5千万円送金しなければ必要としている株が揃わず、地位も財産も、すべて失うことになる。権藤は誘拐犯の要求を無視しようとするが、その逡巡を見透かした秘書(三橋達也)に裏切られたため、一転、身代金を払うことを決意する。3千万円を入れた鞄を持って、犯人が指定した特急こだまに乗り込む。が、同乗した刑事が見たところ車内に子供はいない。すると電話がかかり、犯人から「酒匂川の鉄橋が過ぎたところで、身代金が入ったカバンを窓から投げ落とせ」と指示される。特急の窓は開かないと刑事が驚くも、洗面所の窓が、犯人の指定した鞄の厚み7センチだけ開くのだった。権藤は指示に従い、その後進一は無事に解放されたものの、身代金は奪われ犯人も逃走してしまう。非凡な知能犯の真の目的は―。

中村伸郎・伊藤雄之助・田崎潤・三船敏郎(手前)/三船敏郎・香川京子
天国と地獄 中村伸郎 .jpg天国と地獄 香川京子.jpg 今観てもつくづく凄い映画だと思います。前半部分の権藤邸での息詰まる舞台演劇のような緊張感と(製靴会社買収攻防の持株数の話はエド・マクべインの原作に基づいている)、後半の犯人と警察及び権藤との攻防のダイナミックな展開の対比がいいです天国と地獄  01.jpg。主演の三船敏郎もいいけれど、戸倉警部役の日本版FBIのような仲代達矢もいい。この映画の仲代達矢は、前半部分では観客の視線を代弁しているような面もあり、演出構成の巧さというのもあるかと思いますが、「用心棒」('61年)での役柄よりも個人的には好みです。そして、犯人・竹内銀次郎を演じる当時は新人であった山崎努もいいです。

天国と地獄12.jpg 更に脇役陣として、戸倉警部の上司に志村喬と藤田進、刑事に木村功や加藤武、名古屋章、土屋嘉男がいて、新聞記者には千秋実、三井浩次、北村和夫がいて、権藤の社内の敵に伊藤雄之助、田崎潤、中村伸郎、工場の靴職人に東野英次郎、ゴミ焼却炉の作業員に藤原釜足、麻薬街には菅井きんといった具合に、細かい処でベテランが出ていて、しかもその内のかなりを黒澤組の常連が固めていたことが窺えます。

天国と地獄  11.jpgこだま 151系電車.jpg 「特急こだま号」の車内での撮影は、実際と同じ12両編成の特急こだま号が借り切られ、他の列車の運行の妨げにならないよう特別ダイヤで運行させていますが、限られた時間内で(当時は東京―大阪間6時間ぐらい。新幹線だったらもっとキツかっただろなあ)、しかも車中だけでなく、酒匂川での身代金の受け渡しシーンなど殆ど撮り直しがきかない条件の中、よく撮ったものだなあと。役者や撮影スタッフの緊張感がそのまま画面に表れていて、それが、緊迫した臨場感を生んでいるように思います。

天国と地獄 煙突.jpg 煙突から赤い煙が上がるシーンなども衝撃的でした。モノクロ画面に合成着色するというこの手法は、「椿三十郎」('62年)で椿の花だけカラーで映すというアイデアが実行出来なかったのをこの作品で実現したものだそうで、「踊る大捜査線 THE MOVIE」('98年)でもオマージュとして引用されました。その他にも、カメラのアングルやカメラワークなどで優れた効果を生んでいるシーンが多くあり、この作品を改めて観ると、最近の邦画はもっと先人の知恵を活かして工夫した方がいいのではないかと思ったりもします。

天国と地獄  03.jpg 山崎努演じる犯人・竹内銀次郎が歩き回る横浜の街中や店の様子も、「生きる」(52年)で志村喬が伊藤雄之助に引っ張り回されて徘徊する歓楽街の様と同様にシズル感があり、雰囲気は出ていたように思います。一方で、昭和38年頃でまだこんなアヘン窟みたいな所があったの?と思わせなくもないですが、当時の週刊誌記事(下)によると、横浜に"ハマの麻薬地帯"と呼ばれる地域が実際にあったようです。

天国と地獄  01.jpg この映画、最初に観た時の個人的評価は5つ星が満点として星3つ半という、どういうわけかそう高くないものHigh and Low(Tengoku to Jigoku).jpgになっていて、おそらく、ラストの権藤と竹内の面会シーンが自分の中で解題出来なかったのが評価のマイナス要因だったのではないかと思いますが、今観ると、自分なりに分かる気がします。
 竹内は権藤の苦しんでいる様を確認したくて彼に面会を求めたけれど、権藤は持ち前の叩き上げ精神で既に新たな一歩を踏み出していたわけで、竹内もそこまでは権藤という人物を把握していなかったわけかと。権藤は、なぜ竹内が自分を憎むのかさえ理解できず、この面会は完全に竹内の空振りで終わっています(そのことが同時に竹内の精神的瓦解に繋がる)。
天国と地獄  04.jpg 黒澤明がこの作品を撮った動機の一つに、児童誘拐犯罪の刑罰の軽さに対する憤りもあったと言われていますが、黒澤監督はここでは竹内を(死刑に対する彼の怯えも含め)容赦なく無残極まりない「敗者」として描いており、ピカレスクロマンとは一線を画しているように思いました。

天国と地獄  13.jpg天国と地獄  14.jpg この映画は'63年3月1日の公開であり、今年('13年)オリンピックの東京での2度目の開催(2020年)が決まりましたが、前の東京オリンピック('64年)の前年の公開ということになります(新幹線は未だ開通していない)。そ~かあ、今年でこの作品が公開されてから丁度50年になるのかあと。今観ると、とりわけロケシーンは貴重な映像の連続のように思え、時間の経過と共に価値が増してくる作品かもしれません。半世紀と言う年月の経過に一つの節目というものを感じますが、公開50年目に当たるこの1年間、地上波ではどの局でも放映されなかったようです(現実に誘拐事件が発生していることとの関係(配慮)もあるのか)。

佐田豊.jpg 権藤邸の運転手・青木がここまで責任を感じて自ら犯人の犯行拠点を探ろうとするものかという印象も最初に観た時はありましたが、見直してみて、時代背景というよりは、権藤を裏切る会社幹部との対比での描かれ方だったように思いました。その運転手役の佐田豊は1911年生まれで、2010年時点で健在であることが確認されているとのことです。今(2013年12月)現在も存命中であれば102歳になっており、かつての東宝専属俳優の中でも最長老の人物ということになります。
     
「サンデー毎日」1962(昭和37)年
ハマの麻薬地帯.jpg

天国と地獄63.jpg 天国と地獄107.jpg
山崎努/菅井きん(麻薬中毒患者)
菅井きん 天国と地獄.jpg 菅井きん.jpg 菅井きん(1926-2018/享年92

天国と地獄  02.jpg天国と地獄  15.jpg「天国と地獄」●制作年:1963年●監督:黒澤明●制作:東宝/黒澤プロダクション●脚本:黒澤明/菊島隆三/久板栄二郎/小国英雄●撮影:斎藤孝雄/中井朝一●音楽:佐藤志村 喬 in 天国と地獄.jpg東野英治郎 in 天国と地獄.jpg西村 晃 天国と地獄 - 債権者.jpg勝●原作:エド・マクベイン「キングの身代金」●時間:143分●出演:三船敏郎/仲代達矢/山崎努/香川京子/佐田豊/三橋達也/木村功/志村喬/石山健二郎/伊藤江木俊夫.jpg雄之助/中村伸郎/田崎潤/名古屋章/藤田進/田口精一/千秋実/土天国と地獄64.jpg屋嘉男/三井浩次/北村和夫/東野英次郎/藤原釜足/菅井きん/江木俊夫/島津雅彦/山茶花究/浜村純/西村晃/沢村いき雄/大滝秀治(ノンクレジット)●公開:1963/03●配大滝秀治 天国と地獄.jpg給:東宝●最初に観た場所:池袋・文芸地下(80-07-03)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(11-01-22)(評池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg価:★★★★★)●併映(1回目):「三十六人の乗客」(杉江敏男)
池袋・文芸地下 1955(昭和30)年12月27日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館。
        
《読書MEMO》
小林久三.jpg小林久三(推理作家,1935-2006)の推す推理・サスペンス映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
①天国と地獄('63年、黒澤明)
②飢餓海峡('64年、内田吐夢)
③砂の器('74年、野村芳太郎)
④新幹線大爆破('75年、佐藤純彌)
⑤黒い画集・あるサラリーマンの証言('60年、堀川弘道)
⑥張込み('57年、野村芳太郎)
⑦犬神家の一族('76年、市川昆)
⑧天城超え('83年、三村晴彦)
⑨黒の試走車('62年、増村保造)
⑩赤いハンカチ('64年、舛田利雄)

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娯楽性を徹底的に追求した作品。「七人の侍」同様、劇場または大画面テレビで観たい。

用心棒 パンフ.jpg用心棒 ポスター1.jpg用心棒 dvd.jpg 用心棒03.jpg
用心棒<普及版> [DVD]」三船敏郎/加東大介/仲代達矢

「用心棒」パンフレット/ポスター        

用心棒  大.jpg 空風吹き荒ぶ上州・馬目の宿場町は、2つのやくざ勢力の対立によって墓場のように静まり返っていたが、そこへ流離の浪人(三船敏郎)が現れ、居酒屋の亭主の権爺(東野英治郎)から村を荒んだ状況にしている元凶である抗争話を聞きつけ、桑畑三十郎と名乗って両方の勢力に用心棒として売り込みつつ、巧みに相討ちを仕組んでいく。しかし、そこに伊達な雰囲気を漂わせた丑寅の弟、新田(しんでん)の卯之助(仲代達矢)が最新の短銃を手に帰郷して―。

 黒澤明(1910-1998)が映画の娯楽性を徹底的に追求した作品で、三船敏郎もいいし、宮川一夫のカメラもいいです。脚本が、ダシール・ハメットの『血の収穫』を参考にしていることはよく知られており、黒澤明本人が「『血の収穫』だけじゃなくて、本当はクレジットにきちんと名前を出さないといけないぐらいハメット(のアイデア)を使っている」と語っています。

 因みに『血の収穫』は、探偵社支局員の「私」(作中に名前が出てこない)が、ギャングの縄張り抗争で殺人の修羅場と化した町を、町の中の4つの対抗勢力を2対2に分断して抗争させ、更に残った2つを1対1に分断して争わせることで、たった一人で町を浄化してしまうというもので、この「用心棒」もコンセプトは同じで、今風に言えば、グループダイナミクスを利用してレバレッジ効果を得ることで、不可能を可能にしてしまう―といったところでしょうか。

用心棒01.jpg 馬目の名主(なぬし)絹問屋主人の多左衛門(藤原釜足)が肩入れしている女郎屋の清兵衛(河津清三郎)がこの町のやくざの親分で、清兵衛が倅の与一郎(太刀川寛)に縄張りを譲用心棒 志村喬.jpgろうとしたため、一の子分の新田の丑寅(山茶花究)が怒って袂を分かち、それを次の名主の座を狙う造酒屋の徳右兵衛(志村喬)が後押しするという構図になっていて、表向きは「多左衛門vs. 丑寅」のやくざ抗争ですが、それ用心棒 志村喬2.jpgぞれバックに絹問屋と造酒屋が付いているということになり、『赤い収穫』ほど設定は複雑ではないものの、一応枠組みを早めに理解しておいた方が楽しめます(東野英治郎演じる権爺が手短に話してはいるが)。

 両勢力が三十郎を自陣の用心棒にしたいがために、そのことを利用した三十郎の策に翻弄される中、卯之助は唯一人三十郎に疑いを抱き、その計画を見破って、三十郎を袋叩きにし、半殺しにするまでに追い詰めていきます。

 満身創痍の三十郎が権爺の助けで念仏堂に身を隠して怪我を癒す間にも、卯寅方は清兵衛一家に殴り込みをかけて皆殺しにしてしまうなど事態は進展し、三十郎の方は念仏堂で、一見所在なさげに、舞う枯葉に包丁を投げつけている―。

用心棒 ワイド.jpg でも、この包丁投げ、残る丑寅方を潰すには、卯之助さえ封じ込めれば後は何とかなり、但し、短銃を肌身離さず持っている彼を倒すには、こっちも飛び道具でいくしかないという三十郎の読みだったわけで(練習してたのかあ)、権爺が丑寅方に囚われたことを知った三十郎が単身で丑寅方へ乗り込み、「1対大勢」の決闘で三十郎が先ずやったことは―。
    
羅生門綱五郎1.jpg 役者陣が豊富と言うか、丑寅の子分役でジェリー藤尾とか、清兵衛の子分役で天本英世とか、百姓の小倅役で夏木陽介とかも出ていたんだなあと。印象に残っている脇役は、丑寅の子分・閂(かんぬき)を演じた台湾出身の元力士新高山(1940年花籠部屋に入門)こと羅生門綱五郎かな。2メートルを超える大男で三十郎を軽く投げ飛ばしてしまいますが、セリフもちゃんとあって、しっかり演技もしています。

羅生門綱五郎2.png この映画を非公式に(東宝の許諾無しに)リメイクした作品では、クリント・イーストウッドの出世作「荒野の用心棒」('64年/伊)があり(東宝は「荒野の用心棒」の製作側を訴え、勝訴している)、東宝の許諾を得てリメイクしたものには、ブルース・ウィリス主演の「ラストマン・スタンディング」('96年/米)がありますが、「ラストマン・スタンディング」にも大男が出てたなあ。

Yôjinbô (1961)_.jpgYôjinbô(1961).jpg 黒澤明にはかつて助監督時代に山本周五郎の「日日平安」を脚本化しましたが、原作通りの脆弱な人物像の主人公として描いたために映画会社に採用されず、それが、この映画「用心棒」('61年4月公開)が大ヒットして映画会社から続編に近いものを要請されて、オクラ入りになっていた脚本を桑畑三十郎のイメージに合わせて剣豪時代劇風に脚色し直したものが「椿三十郎」('62年1月公開)です。
Yôjinbô(1961)

用心棒02.jpg どちらも傑作ですが、個人的には、最初にビデオで観てしまった「椿三十郎」よりも、名画座ながらも一応は劇場で観た「用心棒」の方がインパクトあったかなあ。「七人の侍」('54年)と同じく本来は劇場で観たい映画ですが、どちらもあまり劇場でのリヴァイバルにはかからない。ただ、最近は大画面テレビもが普及しているし、せっかく大画面テレビがウチにあるなら、こういう作品こそ観るべきではないかなと。作家・吉村昭は、完成度、面白さでこの作品をベストワンに挙げています(2位が「七人の侍」)。[『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)より]

東野英治郎(居酒屋の権爺)・三船敏郎(桑畑三十郎)・渡辺篤(棺桶屋)/[中央手前]藤田進(用心棒本間先生)・[右]山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)
用心棒-yojimbo4.png 用心棒 f.jpg
加藤武(無宿者・瘤八)・加東大介(新田の亥之吉)・西村晃(無宿者・熊)/藤原釜足(名主左多衛門(ラストで発狂する))
「用心棒」62.jpg 藤原釜足 用心棒.jpg

三船敏郎v.jpg三船敏郎(1961年、「用心棒」で日本人初のベネチア国際映画祭男優賞に選ばれる)

用心棒 vhs.jpg「用心棒」●制作年:1961年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:黒澤明/菊島隆三●撮影:宮川一夫●音楽:佐藤勝●剣道指導:杉野嘉男●時間:110分●出演:三船敏郎(桑畑三十郎)/仲代達矢(新田の卯之助)/東野英治郎(居酒屋の権爺)/河津清三郎(馬目の清兵衛)/山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)/太刀川寛(清兵衛の倅与一郎)/志村喬(造酒屋徳右衛門)藤原釜足(名主左多衛門)/夏木陽介(百姓の小倅)/山茶花究(新田の丑寅)/加東大介(新田の亥之吉)黒澤 明 「用心棒」3.jpg/渡辺篤(桶屋)/土屋嘉男(百姓小平)/司葉子(小平の女房ぬい)/沢村いき雄(番屋の半助)/西村晃(無宿者・熊)/加藤武(無宿者・瘤八)/用心棒 有楽座.jpg藤田進(用心棒・本間先生)/中谷一郎(斬られる凶状持)/堺左千夫(八州周りの足軽)/谷晃(丑寅の子分・亀)/羅生門綱五郎(丑寅の子分・閂(かんぬき)/ジェリー藤尾(丑寅の子分・賽の目の六)/清水元(清兵衛の子分・孫太郎)/佐田豊(清兵衛の子分・孫吉)/天本英世(清兵衛の子分・弥八)/大木正司(清兵衛の子分・助十)●劇場公開:1961/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場パール座(81-03-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-12-25)(評価★★★★★ 
「用心棒」公開時(1961年・有楽座)
 
高田馬場パール座入口(写真共有サイト「フォト蔵」)①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス ③高田馬場パール座 ④早稲田松竹
高田馬場パール座2.jpg高田馬場パール座 地図.pngパール座.jpgパール座1.jpg高田馬場パール座(高田馬場駅西口、早稲田通り・スーパー西友地下) 1951(昭和26) 年封切館としてオープン。1963(昭和38)年の西友ストアー開店後、同店の地下へ。1989(平成元)年6月30日閉館。
 
  

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アニメ技術そのものはいいのだが、カタルシス不全を起こしそうな結末。

安寿と厨子王丸 dvd.jpg  安寿と厨子王丸 面子0.jpg 安寿と厨子王丸 面子1.jpg 厨子王丸2.jpg 安寿と厨子王丸 面子4.jpg 安寿と厨子王丸 面子5.jpg  山椒大夫・高瀬舟.jpg
安寿と厨子王丸 [DVD]」/「安寿と厨子王丸」面子(メンコ)シリーズ/『山椒大夫・高瀬舟 他四編 (岩波文庫)

山椒大夫.jpg安寿と厨子王丸 vhs.jpg田中澄江.jpg 森鷗外の「山椒大夫」を原作とした溝口健二監督の映画化作品「山椒大夫」('54年/大映)はよく知られていますが、同じく森鷗外の作を原作として、溝口作品の7年後に田中澄江(1908-2000/享年91)の脚本のもと)としてアニメ化されていて、オープニングに東映の「創立十周年記念」とあります。

高畑 勲.jpg 声の出演が、安寿が佐久間良子、厨子王(成人後)が北大路欣也、母が山田五十鈴、山椒太夫が東野英治郎、その長男が平幹二朗という錚々たる布陣であり(厨子王の少年時代担当の「住田知仁」は後年の風間杜夫、「わんぱく王子の大蛇退治」('63年/東映)でも主人公の声を担当)、実際に人が演技した映像をなぞってアニメ化するという手法がとられていて、アニメーション自体も美しい出来栄えであるには違いないと思います(若き日の高畑勲(1953-2018/82歳没)が演出助手として携わっている)。

安寿と厨子王丸1.jpg 安寿と厨子王のお供の動物キャラが出てくるのは子供向けアレンジですが、山椒大夫の2人の息子の内、弟の三郎が安寿に想いを寄せるという恋愛話も挿入されていたりします。

 安寿が焼き鏝を顔に当てられそうになるところを三郎が救うので、当然のことながら、やけどが菩提像の加護で癒えるという、鷗外の原作にあるはずの場面は無く、映像化しようとすると、やはりヒロインについては忌避される場面なのでしょうか(ましてや子供向けであるし)。

 安寿が入水自殺を遂げるのは鷗外の原作通りですが(オリジナルの説話「さんせい太夫」では刑死または拷問死なのだが)、成人した厨子王が都で化け物退治をするなどのオリジナル・エピソードがあり、何よりも原作と異なるのは、安寿を供養するため出家した三郎の願いで厨子王が山椒大夫親子を許してしまうという点で、やや拍子抜けしてしまいそうなまでの厨子王の寛容さ。

 しかも、ラストの母子再会でも、溝口作品同様に母の眼は「明かない」という...、アニメーション技術そのものはいいのだけれど、何だかカタルシス不全を起こしそうな結末とも言えるかと。

安寿と厨子王丸 面子7.jpg安寿と厨子王丸 面子6.jpg安寿と厨子王丸 面子8.jpg安寿と厨子王丸 面子10.png 子供向けということもあったと思いますが(当時の面子(メンコ)にもなっているぐらいだから、それなりに多くの子供が観たのではないか)、山椒大夫が処刑を免れたのは、権力を握った者が旧敵を罰するという構図に反発した当時の東映労組の(言わば"大人たちの")意向も反映されているようです(2019年度前期NHK連続テレビ小説でアニメーターの奥山玲子をモデルにした「なつぞら」(広瀬すず主演)に出わんぱく牛若丸 なつぞら1.jpgわんぱく牛若丸 なつぞら2.jpgてくる「東洋動画」で作られるアニメ映画「わんぱく牛若丸」は、この東映長編カラーアニメ第4作「安寿と厨子王丸」と第2作「少年猿飛佐助」('59年)、第6作「わんぱく王子の大蛇退治」('63年)あたりをハイブリッドしたものと思われる)

佐久間良子2.jpg風間杜夫2.jpg北大路欣也.jpg「安寿と厨子王丸」●制作年:1961年●監督(演出):藪下泰司●製作:大川博●脚本:田中澄江●演出:藪下泰司/芹川有吾●演出助手:高畑勲●撮影:大塚晴郷/中村一雄/東喬明●音楽:木下忠司/鏑木創●原作:森鷗外「山椒大夫」●時間:83分●声の出演:佐久間良子/住田知仁(風間杜夫)/北大路欣也/山田五十鈴/東野英治郎/平幹二朗/宇佐美淳也/水木襄/山村聡/松島トモ子/三島雅夫/花沢徳衛●公開:1961/07●配給:東映(評価:★★★)
東野英治郎(山椒太夫)/平幹二朗(山椒太夫の長男・次郎)/山田五十鈴(安寿・厨子王丸の母・八汐)
東野英治郎.jpg安寿と厨子王丸 1.jpg平幹二朗.jpg安寿と厨子王丸 長男・次郎.jpg山田五十鈴.jpg八汐(山田五十鈴) 3.jpg

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シリーズ中では充実した内容。回答者のコメントが楽しい。中上級編の注目は「十三人の刺客」。

大アンケートによる日本映画ベスト150 0_.jpg 七人の侍 志村喬.jpg  洋・邦名画ベスト1501.JPG
大アンケートによる日本映画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』/「七人の侍」/『洋・邦名画ベスト150〈中・上級篇〉』 (表紙イラスト:共に安西水丸

 『大アンケートによる日本映画ベスト150』は、同じ「文春文庫ビジュアル版」の『大アンケートによる洋画ベスト150』('88年)の続編で、この映画シリーズはこの後、

大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150  .jpg ◆『大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150』 〔'90年〕
 ◆『洋画・邦画ラブシーンベスト150』 〔'90年〕
 ◆『大アンケートによるミステリー・サスペンス洋画ベスト150』 〔'91年〕
 ◆『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』 〔'91年〕
 ◆『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』 〔'92年〕
 ◆『大アンケートによる男優ベスト150』 〔'93年〕
 ◆『戦後生まれが選ぶ洋画ベスト100』 〔'95年〕

映画イヤーブック1994.jpgと続いています。これらの内の何冊かは、'90年代に毎年刊行されていた現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』と共に愛読・活用させてもらいました。角川文庫にも『日本映画ベスト200』('90年)などのアンケート・シリーズがありますが、「ビジュアル版」と謳っている文春文庫のシリーズの方が、掲載されているスチール、ポートレート、ポスターの量と質で、角川文庫のものを上回っています。

Shichinin no samurai(1954).jpg七人の侍 パンフ.jpg7samurai.jpg 本書『邦画ベスト150』には、赤瀬川順・長部日出雄・藤子不二雄A氏らの座談会や、映画通が選んだジャンル別のマイベスト、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」といった興味深い企画もありますが、メインの「ベスト150」は、1位が「七人の侍」で、以井上ひさしs.jpg下「東京物語」「生きる」「羅生門」「浮雲」と続く"まともな"ラインアップとなっています。また、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」も、第1位が「七人の侍」で、あと「天国と地獄」「生きる」と黒澤作品が続きます(因みに「七人の侍」は、1954年度「キネマ旬報ベストテン」第3位だったが、本書の10年後発表の「キネマ旬報オールタイムベスト・ベスト100日本映画編(1999年版)」では第1位(下段参照))
Shichinin no samurai(1954)  「七人の侍」('63年/東宝)

七人の侍 1954.jpg「七人の侍」.jpg 「七人の侍」の「1位」には、個人的にもほぼ異論を挟む余地が無いという気がします。先にジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」('60年/米)を観てオリジナルであるこの作品も早く観たいと思っていたですが、観るのなら絶対に劇場でと思い、リヴァイバル上映を待ちに待って、結局'90年代にニュープリント、リニューアル・サウンドの完全オリジナル版が15年ぶりに公開されたのを機にやっと観ました。渋谷のロードショーシアターへ、休日の昼間ではおそらく行列に並ぶことになるだろうと思い、冬の日の朝一番なら多少すいているかもしれないと思って観にいったら、観客多数のため上映館が急遽変更されていて、渋谷の街中(まちなか)を走った思い出があります。

『七人の侍』(1954) .jpg 「荒野の七人」もいい映画ではあるものの、やはりオリジナルは遥かにそれを凌ぐレベルの作品だったことを実感しました。アクション映画としても傑作ですが、脚本面でも思想性という面でも優れた作品だと思い七人の侍n.jpgます(2018年10月29日、英BBCが最も偉大な外国語映画100本を発表、世界43の国と地域の映画評論家209人が挙げたベストテンをポイント別に集計して順位が付けられているそうで、その第1位に「七人の侍」が選ばれた[当ページ再下段参照])
三船敏郎(菊千代)/土屋嘉男(利吉)

 因みに、本書における(同じくアンケートによる)「男優ベスト10」「女優ベスト10」は次の通りとなっています。
 男優ベスト10:1位・坂東妻三郎、2位・高倉健、3位・笠智衆、4位・三船敏郎、5位・三國連太郎、6位・森雅之、7位・志村喬、8位・石原裕次郎、9位・市川雷蔵、10位・緒形拳
 女優ベスト10:1位・原節子、2位・吉永小百合、3位・高峰秀子、4位・田中絹代、5位・岩下志麻、6位・京マチ子、7位・山田五十鈴、8位・若尾文子、9位・岸恵子、10位・藤純子

阪東妻三郎3.jpg(ウィキペデイアの「坂東妻三郎」の項に、「1989年(平成元年)に文春文庫ビジュアル版として『大アンケートによる日本映画ベスト150』という一書が刊行されたが、文中372人が選んだ「個人編男優ベストテン」の一位は阪妻だった。死後35年余りを経て、なおこの結果だった」とある。)

        
日本映画 洋・邦名画ベストベスト150.JPG 姉妹書である『洋画ベスト150』もそうですが、映画通と言われる特定の映画にこだわりを持った人々からアンケートをとったとしても、それらを全部を集計してしまうと、一般の映画ファンのアンケート結果とそう変わらないものになるという印象を受けます。そこで、「人目にふれにくい傑作」にテーマを絞った『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』が企画されたのは「むべなるかな」という感じがします。

Jûsan-nin no shikaku (1963)「十三人の刺客」
Jûsan-nin no shikaku (1963).jpg十三人の刺客.jpg 『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』の方では、「日本映画ベスト44」の1位が工藤栄一(1929‐2000)監督の「十三人の刺客」、「外国映画ベスト109」の1位は「マダムと泥棒」となっていて、「七人の侍」は前述の通り個人的にも大傑作だと思いますが、「七人の侍」がこれほど賞賛されるならば「十三人の刺客」ももっと注目されるべきであるし、ヒッチコック(個人的は好きな監督)の作品に人気が集まるならば、「マダムと泥棒」も見て!という印象は確か受けます。

十三人の刺客 1963ド.jpg十三人の刺客 1963 片岡 内田.jpg 「十三人の刺客」は、将軍の弟である明石藩主というのが実は異常性格気味の暴君で、事情を知らない将軍が彼を老中に抜擢する話が持ち上がったために、筆頭老中が暴君排除を決意し、暗殺の密命を旗本島田新左衛門に下すというもの。
片岡千恵蔵(島田新左衛門)/内田良平(鬼頭半兵衛)

「十三人の刺客」 ('63年/東映)
十三人の刺客s.jpg十三人の刺客dvd.jpg 片岡千恵蔵演ずる島田新左衛門が集めた刺客は12人で、参勤交代の道中の藩主を襲うが、対する明石藩士は53名。この、2勢力の武士が、何か2匹の生き物のように画面狭しと動き回って、時代劇というよりまさにアクション映画。そうした点では「七人の侍」と見比べると、また違った味があります(脚本の「池上金男」は今年['07年]5月に亡くなった、後に『四十七人の刺客』で新田次郎文学賞を受賞する池宮彰一郎(1923-2007/享年83)。音楽は「ゴジラ」の伊福部昭!)。
十三人の刺客 [DVD]

十三人の刺客 工藤栄一.jpg 本書にもあるように、アクション映画は、シチュエーションを単純にしてディテールに凝ったほうが面白いと言うその典型で、ラストの30分にわたるリアルな決戦シーンとそこに至るまでの作戦の積み重ねは、「早すぎた傑作」と呼ばれるにふさわしく、公開当時はあまり評価されなかったとのこと。大体、時代物に疎く、かなり後になってビデオで観たのですが、劇場で観たかったです(オールド・プリントで、ちょっと画面が暗い。DVDの方はどうなのだろうか(2019年にNHK-BSプレミアムで放映されたものを観たが、クリアな画像だった)

木村 功(岡本勝四郎)・土屋嘉男(利吉)・志村 喬(島田勘兵衛) /宮口精二(久蔵)/加東大介(七郎次)
「七人の侍」 志村喬 土屋嘉男 木村功.jpg宮口精二 七人の侍2.jpg七人の侍 加東大介.jpg「七人の侍」●制作年:1963年●監督:黒澤明●製作:本木莊二郎●脚本:黒澤明/橋本忍/小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:207分●出演: 志村喬/三船敏郎/木村功/稲葉義男七人の侍 仲代達矢ekisutora .jpg加東大介/千秋実/宮口精二/藤原釜足/津島恵子/土屋嘉男/小杉義男/左卜全/高堂国典/東野英治郎/島崎雪子/山形勲/渡辺篤/千石規子/堺左千夫/千葉一郎/本間文子/安芸津広/多々良七人の侍f23.jpg純/小川虎之/熊谷二良/上田吉二郎/谷晃/中島春雄/(以下、エキストラ出演)仲代達矢(右写真)/宇津井健/加藤武●公開:1954/04●配給:東宝 ●最初に観た場所:渋谷東宝(渋東シネタワー4)(91-12-01)(評価:★★★★★
東野英治郎(百姓の子供を人質にとって小屋に立て籠った盗人)
千秋 実(林田平八)/稲葉義男(片山五郎兵衛)/山形 勲(鉄扇の浪人―腕は立つが七人には加わらない)
林田平八(千秋 実).jpg 片山五郎兵衛(稲葉義男).jpg 鉄扇の浪人(山形 勲).jpg

Shibutoh_Cine_Tower.JPG渋東シネタワービル(シネタワー1・2・3・4)

渋東シネタワー 1991(平成3)年7月6日、「渋谷東宝会館」を「渋東シネタワー」と改称し、4スTOHOCINEMAS_Shibuya.JPGクリーンに増設して再オープン。シネタワー1(606席)、シネタワー2(790席)、シネタワー3(342席)、シネタワー4(248席)。2011(平成23)年、上層TOHOシネマズ渋谷 .jpg階にあったシネタワー1と2を閉鎖・改装し、同年7月15日、TOHOシネマズ渋谷スクリーン1・2・3・4がオープン。次いで下層階のシネタワー3・4を改装し、同年11月30日にTOHOシネマズ渋谷スクリーン5・6がオープン。


片岡千恵蔵 in「十三人の刺客」
十三人の刺客 片岡.jpg十三人の刺客 嵐.jpg十三人の刺客 西村.jpg「十三人の刺客」●制作年:1963年●監督:工藤栄一●製作:東映京都撮影所●脚本:池上金男●撮影:鈴木重平●音楽:伊福部昭●時間:125分●出演:片岡千恵蔵/里見浩太朗/嵐寛寿郎/阿部九州男/加賀邦男/汐路章/春日俊二/片岡栄二郎/和崎俊哉/西村晃/内田良平/山城十三人の刺客 里見.jpg新伍/丹波哲郎/月形龍之介/菅貫太郎/水島道太郎/沢村精四郎/丘さとみ/藤純子/河原崎長一郎/三島ゆり子/十三人の刺客 丹波.jpg月形龍之介.jpg「十三人の刺客」藤.jpg高松錦之助/神木真寿雄●公開:1963/12●配給:東映(評価:★★★★☆)
丹波哲郎/月形龍之介/藤純子(当時17歳)


●キネマ旬報オールタイムベスト・ベスト100日本映画編(1999年版)
1七人の侍 黒澤明

2浮雲 成瀬巳喜男
3飢餓海峡 内田吐夢
3東京物語 小津安二郎
5幕末太陽伝 川島雄三
5羅生門 黒澤明
7赤い殺意 今村昌平
8仁義なき戦い 深作欣二
8二十四の瞳 木下恵介
10雨月物語 溝口健二
11生きる 黒澤明
11西鶴一代女 溝口健二
13真空地帯 山本薩夫
13切腹 小林正樹
13太陽を盗んだ男 長谷川和彦
13となりのトトロ 宮崎駿
13泥の河 小栗康平
18人情紙風船 山中貞雄
18無法松の一生 稲垣浩
18用心棒 黒澤明
21蒲田行進曲 深作欣二
21少年 大島渚
21月はどっちに出ている 崔洋一
21麦秋 小津安二郎
21復讐するは我にあり 今村昌平
26家族ゲーム 森田芳光
26砂の器 野村芳太郎
26青春残酷物語 大島渚
26人間の条件 小林正樹
26また逢う日まで 今井正
31一条さゆり 濡れた欲情 神代辰巳
31キューポラのある街 浦山桐郎
31けんかえれじい 鈴木清順
31幸せの黄色いハンカチ 山田洋次
31Shall we ダンス? 周防正行
31にっぽん昆虫記 今村昌平
31夫婦善哉 豊田四郎
38愛を乞うひと 平山秀幸
38赫い髪の女 神代辰巳
38遠雷 根岸吉太郎
38仁義の墓場 深作欣二
38ソナチネ 北野武
38天国と地獄 黒澤明
38日本のいちばん長い日 岡本喜八
38日本の夜と霧 大島渚
38野良犬 黒澤明
38ゆきゆきて、神軍 原一男
38竜二 川島透
49安城家の舞踏会 吉村公三郎
49おとうと 市川崑
49隠し砦の三悪人 黒澤明
49十三人の刺客 工藤栄一
49近松物語 溝口健二
49もののけ姫 宮崎駿
55青い山脈 今井正
55神々の深き欲望 今村昌平
55キッズ・リターン 北野武
55櫻の園 中原俊
55青春の殺人者 長谷川和彦
55台風クラブ 相米慎二
55丹下左膳余話・百万両の壷 山中貞雄
55天使のはらわた 赤い教室 曾根中生
55楢山節考 木下恵介
55野菊のごとき君なりき 木下恵介
55宮本武蔵 五部作 内田吐夢
55竜馬暗殺 黒木和雄
67赤線地帯 溝口健二
67赤ひげ 黒澤明
67駅・STATION 降旗康男
67恋人たちは濡れた 神代辰巳
67サード 東陽一
67細雪 市川崑
67三里塚 辺田部落 小川紳介
67青春の蹉跌 神代辰巳
67日本の悲劇 木下恵介
67の・ようなもの 森田芳光
67裸の島 新藤兼人
67張り込み 野村芳太郎
67乱れ雲 成瀬巳喜男
67約束 斎藤耕一
67野獣の死すべし 村川透
82愛のコリーダ 大島渚
82赤ちょうちん 藤田敏八
82赤西蠣太 伊丹万作
82悪魔の手鞠唄 市川崑
82稲妻 成瀬巳喜男
82鴛鴦歌合戦 マキノ正博
82お葬式 伊丹十三
82影武者 黒澤明
82火宅の人 深作欣二
82カルメン故郷に帰る 木下恵介
82きけわだつみの声 関川秀雄
82CURE 黒沢清
82沓掛時次郎 遊侠一匹 加藤泰
82蜘蛛巣城 黒澤明
82狂った果実 中平康
82午後の遺言状 新藤兼人
82秋刀魚の味 小津安二郎
82次郎長三国志 マキノ雅弘
82新宿泥棒日記 大島渚
82砂の女 勅使河原宏
82素晴らしき日曜日 黒澤明
82戦場のメリークリスマス 大島渚
82Wの悲劇 澤井信一郎
82忠次旅日記・全三部 伊藤大輔
82ツィゴイネルワイゼン 鈴木清順
82椿三十郎 黒澤明
82東海道四谷怪談 中川信夫
82どついたるねん 阪本順治
82肉弾 岡本喜八
82日本春歌考 大島渚
82人間蒸発 今村昌平
82八月の濡れた砂 藤田敏八
82笛吹川 木下恵介
82豚と軍艦 今村昌平
82真昼の暗黒 今井正
82めし 成瀬巳喜男
82酔いどれ天使 黒澤明
82私が棄てた女 浦山桐郎


●英BBC・最も偉大な外国語映画100本(2018年)
日本映画の順位と全体の順位

1. 七人の侍       (黒澤明 1954)
3. 東京物語       (小津安二郎 1953)
4. 羅生門        (黒澤明 1950)
37. 千と千尋の神隠し (宮崎駿 2001)
53. 晩春       (小津安二郎 1949)
61. 山椒大夫     (溝口健二 1954)
68. 雨月物語     (溝口健二 1953)
72. 生きる      (黒澤明 1952)
79. 乱        (黒澤明 1985)
88. 残菊物語     (溝口健二 1939)
95. 浮雲       (成瀬巳喜男 1955)
 
1. Seven Samurai (Akira Kurosawa, 1954) 七人の侍
2. Bicycle Thieves (Vittorio de Sica, 1948) 自転車泥棒
3. Tokyo Story (Yasujiro Ozu, 1953) 東京物語
4. Rashomon (Akira Kurosawa, 1950) 羅生門
5. The Rules of the Game (Jean Renoir, 1939) ゲームの規則
6. Persona (Ingmar Bergman, 1966) 仮面/ペルソナ
7. 8 1/2 (Federico Fellini, 1963) 8 1/2
8. The 400 Blows (Francois Truffaut, 1959) 大人は判ってくれない
9. In the Mood for Love (Wong Kar-wai, 2000) 花様年華
10. La Dolce Vita (Federico Fellini, 1960) 甘い生活
11. Breathless (Jean-Luc Godard, 1960) 勝手にしやがれ
12. Farewell My Concubine (Chen Kaige, 1993) さらば、わが愛/覇王別姫
13. M (Fritz Lang, 1931) M
14. Jeanne Dielman, 23 Commerce Quay, 1080 Brussels (Chantal Akerman, 1975) ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン
15. Pather Panchali (Satyajit Ray, 1955) 大地のうた
16. Metropolis (Fritz Lang, 1927) メトロポリス
17. Aguirre, the Wrath of God (Werner Herzog, 1972) アギーレ/神の怒り
18. A City of Sadness (Hou Hsiao-hsien, 1989) 悲情城市
19. The Battle of Algiers (Gillo Pontecorvo, 1966) アルジェの戦い
20. The Mirror (Andrei Tarkovsky, 1974) 鏡
21. A Separation (Asghar Farhadi, 2011) 別離
22. Pan's Labyrinth (Guillermo del Toro, 2006) パンズ・ラビリンス
23. The Passion of Joan of Arc (Carl Theodor Dreyer, 1928) 裁かるるジャンヌ
24. Battleship Potemkin (Sergei M Eisenstein, 1925) 戦艦ポチョムキン
25. Yi Yi (Edward Yang, 2000) ヤンヤン 夏の想い出
26. Cinema Paradiso (Giuseppe Tornatore, 1988) ニュー・シネマ・パラダイス
27. The Spirit of the Beehive (Victor Erice, 1973) ミツバチのささやき
28. Fanny and Alexander (Ingmar Bergman, 1982) ファニーとアレクサンデル
29. Oldboy (Park Chan-wook, 2003) オールド・ボーイ
30. The Seventh Seal (Ingmar Bergman, 1957) 第七の封印
31. The Lives of Others (Florian Henckel von Donnersmarck, 2006) 善き人のためのソナタ
32. All About My Mother (Pedro Almodovar, 1999) オール・アバウト・マイ・マザー
33. Playtime (Jacques Tati, 1967) プレイタイム
34. Wings of Desire (Wim Wenders, 1987) ベルリン・天使の詩
35. The Leopard (Luchino Visconti, 1963) 山猫
36. La Grande Illusion (Jean Renoir, 1937) 大いなる幻影
37. Spirited Away (Hayao Miyazaki, 2001) 千と千尋の神隠し
38. A Brighter Summer Day (Edward Yang, 1991) 牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件
39. Close-Up (Abbas Kiarostami, 1990) クローズ・アップ
40. Andrei Rublev (Andrei Tarkovsky, 1966) アンドレイ・ルブリョフ
41. To Live (Zhang Yimou, 1994) 活きる
42. City of God (Fernando Meirelles, Katia Lund, 2002) シティ・オブ・ゴッド
43. Beau Travail (Claire Denis, 1999) 美しき仕事
44. Cleo from 5 to 7 (Agnes Varda, 1962) 5時から7時までのクレオ
45. L'Avventura (Michelangelo Antonioni, 1960) 情事
46. Children of Paradise (Marcel Carne, 1945) 天井桟敷の人々
47. 4 Months, 3 Weeks and 2 Days (Cristian Mungiu, 2007) 4ヶ月、3週と2日
48. Viridiana (Luis Bunuel, 1961) ビリディアナ
49. Stalker (Andrei Tarkovsky, 1979) ストーカー
50. L'Atalante (Jean Vigo, 1934) アタラント号
51. The Umbrellas of Cherbourg (Jacques Demy, 1964) シェルブールの雨傘
52. Au Hasard Balthazar (Robert Bresson, 1966) バルタザールどこへ行く
53. Late Spring (Yasujiro Ozu, 1949) 晩春
54. Eat Drink Man Woman (Ang Lee, 1994) 恋人たちの食卓
55. Jules and Jim (Francois Truffaut, 1962) 突然炎のごとく
56. Chungking Express (Wong Kar-wai, 1994) 恋する惑星
57. Solaris (Andrei Tarkovsky, 1972) 惑星ソラリス
58. The Earrings of Madame de... (Max Ophuls, 1953) たそがれの女心
59. Come and See (Elem Klimov, 1985) 炎628
60. Contempt (Jean-Luc Godard, 1963) 軽蔑
61. Sansho the Bailiff (Kenji Mizoguchi, 1954) 山椒大夫
62. Touki Bouki (Djibril Diop Mambety, 1973) トゥキ・ブゥキ/ハイエナの旅
63. Spring in a Small Town (Fei Mu, 1948) 田舎町の春
64. Three Colours: Blue (Krzysztof Kieslowski, 1993) トリコロール/青の愛
65. Ordet (Carl Theodor Dreyer, 1955) 奇跡
66. Ali: Fear Eats the Soul (Rainer Werner Fassbinder, 1973) 不安は魂を食いつくす
67. The Exterminating Angel (Luis Bunuel, 1962) 皆殺しの天使
68. Ugetsu (Kenji Mizoguchi, 1953) 雨月物語
69. Amour (Michael Haneke, 2012) 愛、アムール
70. L'Eclisse (Michelangelo Antonioni, 1962) 太陽はひとりぼっち
71. Happy Together (Wong Kar-wai, 1997) ブエノスアイレス
72. Ikiru (Akira Kurosawa, 1952) 生きる
73. Man with a Movie Camera (Dziga Vertov, 1929) これがロシヤだ(別題:カメラを持った男)
74. Pierrot Le Fou (Jean-Luc Godard, 1965) 気狂いピエロ
75. Belle de Jour (Luis Bunuel, 1967) 昼顔
76. Y Tu Mama Tambien (Alfonso Cuaron, 2001) 天国の口、終りの楽園。
77. The Conformist (Bernardo Bertolucci, 1970) 暗殺の森
78. Crouching Tiger, Hidden Dragon (Ang Lee, 2000) グリーン・デスティニー
79. Ran (Akira Kurosawa, 1985) 乱
80. The Young and the Damned (Luis Bunuel, 1950) 忘れられた人々
81. Celine and Julie go Boating (Jacques Rivette, 1974) セリーヌとジュリーは舟でゆく
82. Amelie (Jean-Pierre Jeunet, 2001) アメリ
83. La Strada (Federico Fellini, 1954) 道
84. The Discreet Charm of the Bourgeoisie (Luis Bunuel, 1972) ブルジョワジーの秘かな愉しみ
85. Umberto D (Vittorio de Sica, 1952) ウンベルト・D
86. La Jetee (Chris Marker, 1962) ラ・ジュテ
87. The Nights of Cabiria (Federico Fellini, 1957) カビリアの夜
88. The Story of the Last Chrysanthemum (Kenji Mizoguchi, 1939) 残菊物語
89. Wild Strawberries (Ingmar Bergman, 1957) 野いちご
90. Hiroshima Mon Amour (Alain Resnais, 1959) 二十四時間の情事
91. Rififi (Jules Dassin, 1955) 男の争い
92. Scenes from a Marriage (Ingmar Bergman, 1973) ある結婚の風景
93. Raise the Red Lantern (Zhang Yimou, 1991) 紅夢
94. Where Is the Friend's Home? (Abbas Kiarostami, 1987) 友だちのうちはどこ?
95. Floating Clouds (Mikio Naruse, 1955) 浮雲
96. Shoah (Claude Lanzmann, 1985) ショア
97. Taste of Cherry (Abbas Kiarostami, 1997) 桜桃の味
98. In the Heat of the Sun (Jiang Wen, 1994) 太陽の少年
99. Ashes and Diamonds (Andrzej Wajda, 1958) 灰とダイヤモンド
100. Landscape in the Mist (Theo Angelopoulos, 1988) 霧の中の風景

(The 100 greatest foreign-language films)

《読書MEMO》
個人的に特に良かった日本映画49本['22年]
良かった映画49.jpg

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迷宮「玉の井」を三重構造で描くことで、作品自体を迷宮化している。

ぼく東綺譚.jpg 濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)_.jpg 東綺譚.jpg 「墨東綺譚」の挿画(木村荘八).jpg
ぼく東綺譚 (新潮文庫)』『濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)』『墨東綺譚 (角川文庫)』朝日新聞連載の『濹東綺譚』の挿画(木村荘八)/[下]『濹東綺譚』昭和12年初版(装幀:永井荷風/挿画:木村荘八)
『濹東綺譚』1937 2.jpg濹東綺譚(ぼくとうきだん) 永井荷風.jpg 1937(昭和12)年に発表された永井荷風(1879‐1959)58歳の頃の作品で(朝日新聞連載)、向島玉の井の私娼街に取材に行った58歳の作家〈わたくし〉大江匡と、26歳の娼婦・お雪の出会いから別れまでの短い期間の出来事を描いています。

『濹東綺譚』.JPG永井 荷風.gif 昭和初期の下町情緒たっぷりで、浅草から向島まで散策する主人公を(よく歩く!)、地図で追いながら読むのもいいですが、「吉原」ではなく「玉の井」だから「濹東」なのだと理解しつつも、「玉の井」と名のつくものが地図上から殆ど抹消されているためわかりにくいかも知れません。でも、土地勘が無くとも、流麗な筆致の描写を通して、梅雨から秋にかけての江戸名残りの季節風物が堪能できます。

 〈わたくし〉は、種田という男を主人公に玉の井を舞台にした小説を書いているところという設定なっていて、その小説が劇中劇のような形で進行していき、では〈わたくし〉=〈作者(荷風)〉かと言うと必ずしもそうではなく、時に〈わたくし〉が小説論を述べたかと思うと、今度は〈作者〉が小説論的注釈をしたりと、〈作者(荷風)〉―〈わたくし(大江)〉―〈書きかけ小説の主人公(種田)〉という三重構造になっており、加えて、文末に「作者贅言(ぜいげん)」というエッセイ風の文章(「贅言」の「贅」は贅肉の贅であり、要するに作者の無駄口という意味なのだが、辛辣な社会批評となっている)が付いているからややこしいと言えばややこしいかもしれません(「〈わたくし(大江)」としたが、大江が驟雨がきっかけで偶然お雪と知り合ったという設定にコメントしている「わたくし」は明らかに永井荷風自身ではないか)。

「濹東綺譚」.jpg濹東綺譚 映画49.jpg 1960年に豊田四郎(「夫婦善哉」('55年))監督、山本富士子(「彼岸花」('58年))、芥川比呂志(「」('53年))主演で映画化されていますが、「濹東綺譚」を軸に「失踪」と「荷風日記」を組合せて八住利雄が脚色しています。〈大江〉濹東綺譚 豊田四郎監督.jpgが〈種田〉とほぼ同一化されていて(主人公は種田)、種田はお雪の求婚に対して返事を曖昧にし、やがて「女優魂」.jpgそうこうしているうちにお雪は病気になって死を待つばかりとなります。お雪のキャラクターが明るいものになっているため、結末が却って切ないものとなっています。白黒映画で玉の井のセットがよくできていて、途中に芥川比呂志による原作の朗読が入り、ラストでは〈荷風〉と思しき人物が玉の井を散策(徘徊?)しています。この(荷風〉と思しき人は、主人公・種田の行く芳造(宮口精二)のおでん屋にもいました。しいて言えば、これが原作における〈大江〉乃至〈作者(荷風)〉に当たるということでしょうか。」(●2023年、15年ぶりに神保町シアター「女優魂」特集で再見。観ていて辛いストーリーだが、山本富士子が演じるお雪はやはりいい。改めてこれは山本富士子の映画だと思った。)
中村芝鶴(N散人(永井荷風らしき人物))
00「濹東綺譚」kahu.jpg
豊田四郎監督「濹東綺譚」(1960)芥川比呂志/山本富士子/中村伸郎        岸田今日子/山本富士子
「濹東綺譚」岸田.jpg01濹東綺譚 1960  .jpg
東野英治郎/新珠三千代
02濹東綺譚 1960 1.jpg

新藤兼人監督「濹東綺譚」(1992)津川雅彦/墨田ユキ
映画濹東綺譚.jpg04映画濹東綺譚 (2).jpg 更に1992年に新藤兼人監督、墨田ユキ、津川雅彦出演で映画化されていますが、こちらは未見。やはり、〈作者〉-〈大江〉-〈種田〉のややこしい三重構造を映像化するのは無理と考えたのか、津川雅彦演じる主人公が〈荷風〉そのものになっているようで、〈荷風〉はお雪と結婚の約束をするが、東京大空襲で生き別れになる―といった結末のようです。

 荷風は外国語学校除籍という学歴しか無かったものの慶應義塾大学の教授を務めたりして、素養的にはインテリですが、この小説では衒学的記述は少なく、むしろ「玉の井」をラビラント(迷宮)として描くと同時に小説の構成も迷宮的にしているというアナロジイに、独特のインテリジェンスを感じます。

 高級官僚の子に生まれながらドロップアウトし、外遊先でも娼館に通ったというのも面白いですが、この"色街小説"は日華事変の年に新聞連載しているわけで、私小説批判で知られた中村光夫も、一見単なる私小説にも見えるこの作品を、「時勢の勢いに対する痛烈な批判者の立場を終始くずさぬ作者の姿勢が、圧政のなかで口を封じられた知識階級の読者に、一脈の清涼感を与えた」と評価しています。「作者贅言」では、そうした全体主義的ムードを批判する反骨精神とともに、「玉の井」への〈江戸風情〉的愛着と急変する「銀座」界隈への文化的失望が直接的に表わされています。

京成白髭線 玉ノ井駅.jpg京成白髭線 玉ノ井駅s.jpg 作品中に、前年廃止された京成白髭線の玉ノ井駅の記述がありますが、「玉の井」も今はほとんどその痕跡がありません。また、荷風が中年期を過ごした麻布の家(『断腸亭日乗』に出てくる「偏奇偏奇館.jpg館」)も、現在の地下鉄「六本木一丁目」駅前の「泉ガーデンタワー」裏手に当たり、当然のことながら家跡どころか当時の街の面影もまったくありません(一応、こじんまりとした石碑はある)。

濹東綺譚 岩波文庫 挿画16.jpg濹東綺譚 岩波文庫 挿画6.jpg 因みに、この作品は個人的には今回「新潮文庫」版で読み返しましたが、木村荘八の挿画が50葉以上掲載されている「岩波文庫」版が改版されて読み易くなったので、そちらがお奨めです。

挿画:木村荘八


濹東綺譚on.jpg濹東綺譚 映画49.jpg濹東綺譚 映画 1960 00.jpg濹東綺譚 00.jpg濹東綺譚 映画 1960ド.jpg「濹東綺譚」●制作年:1960年●監督:豊田四郎●製作:佐藤一郎●脚本:八住利雄●撮影:玉井正夫●音楽:團伊玖磨●原作:永井荷風「濹東綺譚」「失踪」「荷風日記」●時間:120分●出演:山本富士子/芥川比呂志/新珠三千代/織田新太郎/東野英治郎/乙羽信子/織田政雄/若宮忠三郎/三戸部スエ/戸川暁子/宮口精二/賀原夏子/松村達雄/淡路恵子/高友子/日高澄子/原知佐子/岸田今日子/塩沢くるみ/長岡輝子/北城真記子/中村伸郎/須永康夫/田辺元/田中志幸/中原成男/名古屋章/守田比呂也/加藤寿八/黒岩竜彦/瀬良明/中村芝鶴●公開:1960/08●配給:東宝●最初に観た場所(再見):神保町シアター(08-08-30)●2回目:神保町シアター(23-02-17)(評価:★★★★)

豊田四郎と東宝文芸映画.jpg神保町シアター.jpg神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン
   
   
     
   
 
 
 
 
 
 
    
(下)新珠三千代/芥川比呂志 
『墨東綺譚』スチル02.jpg 『墨東綺譚』スチル01.jpg 『墨東綺譚』スチル03.jpg
  
新藤兼人監督「濹東綺譚」(1992)墨田ユキ・津川雅彦
濹東綺譚_11.jpg  

山本富士子:渡辺邦男監督「忠臣蔵」(1958)/小津安二郎監督「彼岸花」(1958)/豊田四郎監督「濹東綺譚」(1960)/市川昆監督「黒い十人の女」(1961)/市川昆監督「私は二歳」(1962)
山本富士子『忠臣蔵(1958).jpg 彼岸花 映画 浪花.jpg 濹東綺譚 映画 1960 01.jpg 黒い十人の女 山本富士子.jpg 私は二歳 映画 .jpg
『濹東綺譚』['47年/岩波文庫]/['50年/六興出版]
「濹東綺譚」・永井荷風著(岩波文庫).jpg 永井荷風『墨東綺譚』1950年.jpg 

濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫) 200_.jpg墨東綺譚 (角川文庫)0_.jpgぼく東綺譚 新潮文庫.jpg 【1947年文庫化・1991年改版[岩波文庫]/1951年再文庫化・1978年改版[新潮文庫]/1959年再文庫化・1992年改版[角川文庫]/1977年再文庫化[旺文社文庫(『濹東綺譚・ひかげの花』)]/1991年・2001年復刻版[岩波書店]/2009年再文庫化年改版[角川文庫]】
ぼく東綺譚 (新潮文庫)』(新カバー版)
墨東綺譚 (角川文庫)』(新解説・新装版)
濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)』(木村荘八挿画入り)

《読書MEMO》
●「濹東綺譚」...1937(昭和12)年発表

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医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせた傑作。もとは財前の勝利で終わる話だった。
白い巨塔 1965.jpg 白い巨塔 1.jpg 白い巨塔 2.jpg 白い巨塔 3.jpg kyotou2.jpg 白い巨塔 1シーン.jpg
白い巨塔 (1965年)』 『新潮文庫「白い巨塔 全5巻セット」』  映画「白い巨塔 [DVD]」['66年]
映画「白い巨塔」('66年/大映) 田宮二郎・田村高廣
映画「白い巨塔」('66年/大映).jpg この作品は何度かテレビドラマ化ざれ、佐藤慶('67年/テレビ朝日系/全26回)、田宮二郎('78年/フジテレビ系/全31回)、村上弘明(90年/テレビ朝日系/全2回)などが主役の財前五郎を演じています。更に最近では、'03年にフジテレビ系で唐沢寿明主演のもの(全21回)がありましたが、断トツの視聴率だったのは記憶に新しいところ(唐沢寿明版の最終回の視聴率32.1%で、'78年の田宮二郎版の最終回31.4%を上回る数字だった)。
                   
白い巨塔 66.jpg銀座シネパトス.jpg しかしながら個人的には、やっぱりテレビ版よりは、原作を読む前に観た山本薩夫(1910-1983)監督による映画化作品(田宮二郎主演)が鮮烈な印象として残っており、また観たいと思っていたら、'04年にニュープリント版が銀座シネパトス(東銀座・三原橋の地下にあるこの映画館は、しばしば昔の貴重な作品を上映する。2013年3月31日閉館)で公開されたため、約20年ぶりに劇場で観ることができました。これも全て今回の唐沢寿明版のヒットのお蔭でしょうか。

映画 「白い巨塔」('66年/モノクロ)

白い巨塔」(テレビ 1978.jpg田宮二郎自殺.jpg田宮二郎.jpg 田宮二郎(1935-1978/享年43)は、31歳の時にこの小説と巡り会って主人公・財前五郎に惚れ込み、作者の山崎豊子氏に懇願してその役を得たとのこと。その演技が原作者に認められ、それがテレビでも財前医師を演じることに繋がっていますが、テレビドラマの方も好評を博し、撮影終盤の頃、ドラマでの愛人役の太地喜和子(1943‐1992/享年48)との対談が週刊誌に掲載されていた記憶があります。それがまさか、ヘミングウェイと同じ方法でライフル自殺するとは思わなかった...。クイズ番組「タイム・ショック」の司会とかもやっていたのに(司会者は自殺しないなどという法則はないのだが)。

テレビドラマ版 「白い巨塔」('78~'79年/カラー)
 田宮二郎は30代前半の頃から躁うつ病を発症したらしく、テレビ版の撮影当初は躁状態で自らロケ地を探したりも田宮二郎 .jpgしていたそうです。それが終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのはテレビドラマの全収録が終わった日でした(実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて「俺はマフィアに命を狙われている」とか、あり得ない妄想を抱くようになっていた)。当時週刊誌で見た大地喜和子とのにこやかな対談は、実際に行われたものなのだろうか。

『続・白い巨塔』('69年/新潮社 )/『白い巨塔(全)』('94年/新潮社改版版)/映画「白い巨塔」('66年/大映)
白い巨塔 ラスト.jpg続白い巨塔.jpg白い巨塔1994.jpg
 もともとの『白い巨塔』('65年/新潮社)は、'63年から'65年にかけて「サンデー毎日」に連載されたもので、熾烈な教授選挙戦を征して教授になった財前五郎が、権力者の後ろ盾のもとに、彼の医療ミスを告発する里見医師らを駆逐するところで終わっています。映画('66年)も教授選をクライマックスに、主人公の財前が第一外科教授に昇進するまでを描いていて、原作・映画ともに、医学界の権威主義に対する強烈な風刺や批判となっていますが、権力志向の強い男のピカレスク・ロマンとしてもみることができます。しかしながら、こうした「悪が勝つ」終わり方に世間から批判があり、そのため『続・白い巨塔』('69年)が書かかれたということです('94年新装版では、正・続が2段組全1冊に収められている)。

白い巨塔 新潮文庫.jpg 文庫の方は、当初は正(上下2巻)・続に分かれていましたが、'93年の改定で「続」も含め『白い巨塔』として全3巻になり、更に'02年の改定で全5巻になっています(「続」という概念がある時期から消されているともとれる)。最近のテレビドラマもそれに準拠し、財前が亡くなるところまで撮り切っていますが、文庫で読むときは、もともとは今ある全5巻のうち、第3巻までで終わる話だったことを意識してみるのも良いのではないでしょうか。

 因みに、いくつかあるテレビ版で、原作の正編に相当する部分のみで終わっているのは、「続」が書かれる前にドラマ化された佐藤慶版('67年/テレビ朝日系/全26回)のみです。田宮二郎の主演のものも、テレビ版の方は唐沢寿明版と同じく、主人公が癌で亡くなるところまで撮っています。田宮二郎テレビ版では、田宮二郎自身が台本に自分で書いた遺書を挿入し、末期がんのがん患者になり切ったとのこと、ストレッチャーに乗る遺体役での演技をラッシュで確認して、本人は満足していたそうです(その場面が放送される前に自殺したわけだが)。

白い巨塔 .jpgkyotou1.jpg この小説は、続編も含め、単純な勧善懲悪物語にしていないところがこの著者の凄いところです。財前はむしろ、周囲に翻弄されるあやつり人形のような存在で(苦学生上がりで医師になったのに、才能を上司に認められないというのは辛いだろうなあ)、彼をとりまく人々の中に、医学界の権力構造の図式を鮮やかに浮かびあがらせている(読んでると、権力を持たなければ何も出来ないではないかという気にさえさせられる)一方、個々に「白い巨塔」小沢.jpgは、権力に憧れる気持ちと真実を追究し正義を全うしようという気持ちが入り混じっているような"普通の人"も多く出てきて、この辺りがこの小説の充実したリアリティに繋がっていると思います。 

山崎豊子(1924-2013
山崎豊子.png白い巨塔 東野.jpg白い巨塔 加藤嘉.jpg「白い巨塔」●制作年:1966年●製作:永田雅一(大映)●監督:山本薩夫●脚本:橋本忍●音楽:池野成●原作:山崎白い巨塔 船越 英二.jpg白い巨塔 滝沢修.jpg豊子●時間:150分●出演:田宮二郎/東野英治郎小沢栄太郎小川真由美/岸輝子/加藤嘉田村高廣船越英ニ滝沢修藤村志保/下条正巳/石山健二郎/加藤武/里見明凡太朗/鈴木瑞穂/清水将夫/下條正巳/須賀不二男/早白い巨塔 小川真由美.jpg白い巨塔 藤村志保  .jpg川雄三/高原駿雄/杉田康/夏木章/潮万太郎/北原義郎/長谷川待子/瀧花久子/平井岐代子/村田扶実子/竹村洋介/小山内淳/伊東光一/南方伸夫/河原侃二/山根圭一郎/浜世津子/白井玲子/天池仁美/岡崎夏子/赤沢未知子/福原真理子●劇場公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山甦れ!東急名画座3.jpg甦れ!東急名画座1.jpg東急文化会館.jpg東急名画座 1.jpg本薩夫監督追悼特集) (83-12-05)●2回目:銀座シネパトス (04-05-02) (評価★★★★)
東急名画座 (東急文化会館6F、1956年12月1日オープン、1986年〜渋谷東急2) 2003(平成15)年6月30日閉館

銀座シネパトス.jpg銀座東映.jpg銀座シネパトス.jpg銀座シネパトス 1952(昭和27)年、ニュース映画の専門館「テアトルニュース」開館、1954(昭和29)年「銀座東映」開館、1967(昭和42)年10月3日「テアトルニュース」跡地に「銀座地球座」開館、1968(昭和43)年9銀座シネパトスs.jpg月1日「銀座東映」跡地に「銀座名画座」開館、1988(昭和63)年7月1日「銀座地球座」→「銀座シネパトス1」、「銀座名画座」→「銀座シネパトス2」「銀座シネパトス3」に改装。2013(平成25)年3月31日閉館

  
白い巨塔」(テレビ 1978.jpgテレビドラマ 白い巨塔 田宮二郎  dvd.jpg白い巨塔 ドラマ 1.jpg「白い巨塔」(テレビ・田宮二郎版)●演出:小林俊一●制作:小林俊一●脚本:鈴木尚之●音楽:渡辺岳夫●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:田宮二郎/生田悦子/太地白い巨塔 大滝秀治2.jpgTV版「白い巨塔」中村伸郎.jpg喜和子/島田陽子/藤村志保/上村香子/高橋長英/中村伸郎/小沢栄太郎/河原崎長一郎/山本學/金子信雄/清水章吾/大滝秀治佐分利信加藤嘉/渡辺文雄/戸浦六宏/関川慎二/東恵美子/中村玉緒/井上孝雄/小松方正/西村晃/曽我廼家明蝶/渡辺文雄/米倉斉加年/岡田英次/中北千枝子/児玉清/北村和夫/小林昭二●放映:1978/06~1979/01(全31回)●放送局:フジテレビ
白い巨塔 佐分利 信.jpg白い巨塔 (1978年のテレビドラマ) 大河内 加藤.jpg白い巨塔 戸浦六宏.jpg中村伸郎(浪速大学医学部第一外科教授→近畿労災病院院長・東貞蔵)/大滝秀治(大阪地方裁判所裁判長)/佐分利信(東都大学医学部第一外科教授教授・船尾悟)/加藤嘉(浪速大学医学部病理学教授・大河内清作)/戸浦六宏(浪速大学医学部産婦人科教授・葉山優夫)/小沢栄太郎(浪速大学医学部第一内科教授、浪速大学医学部長・鵜飼雅一)/渡辺文雄(真鍋外科病院院長・真鍋貫治)/岡田英次(里見清一(里見脩二の兄、洛北大学医学部第二内科講師→開業医))
「白い巨塔」小沢渡辺.jpg「白い巨塔」岡田.jpg『白い巨塔_1331.jpeg
    
白い巨塔 ドラマ 2003.jpg「白い巨塔」ドラマ  .jpg「白い巨塔」(テレビ・唐沢寿明版)●演出:西谷弘/河野圭太/村上正典/岩田和行●制作:大多亮●脚本:井上由美子●音楽:加古隆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:唐沢寿明/江口洋介/西田敏行/佐々木蔵之介/上川隆也/伊藤英明/及川光博/石坂浩二/伊武雅刀/黒木瞳/矢田亜希子/水野真紀/高畑淳子/沢村一樹/片岡孝太郎/若村麻由美●放映:2003/10~2004/03(全21回)●放送局:フジテレビ

 【1965年単行本・1969年続編・1973年改訂・1994年新装版[新潮社]/1978年文庫化(上・下・続)・1993年改訂(全3巻)・2002年再改定(全5巻)[新潮文庫]】

《読書MEMO》
白い巨塔 岡田准一版.jpg白い巨塔 2019.jpg●2019年再ドラマ化【感想】'78年の田宮二郎版の全31回、'03年の唐沢寿明版の全21回に対して今回の岡田准一版は全5回とドラマ版としては短く、盛り上がる間もなくあっという間に終わってしまった感じで、岡田准一は大役を演じ切れてない印象を持った。最終回の視聴率が15.2%というのはそう悪い数字ではないが、この原作ならば本来はもっと高い数字になって然るべきで、やはり内容的に...。田宮二郎版の31.4%、唐沢寿明版の32.1%と比べると平凡な数字に終わったのもむべなるかなと。

白い巨塔 キャスト.jpg白い巨塔 2019  01.jpg「白い巨塔(テレビ・岡田准一版)~テレビ朝日開局60周年記念5夜連続ドラマスペシャル」●監督:鶴橋康夫/常廣丈太●脚本:羽原大介/本村拓哉/小円真●音楽/兼松衆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:岡田准一/松山ケンイチ/寺尾聰/小林薫/松重豊/岸部一徳/沢尻エリカ/椎名桔平/夏帆/飯豊まりえ/斎藤工/向井康「白い巨塔」小林.jpg白い巨塔 ドラマ 小林薫.jpg「白い巨塔」岸部.jpg二/岸本加世子/柳葉敏郎/満島真之介/八嶋智人/山崎育三郎/高島礼子/市川実日子/美村里江/市毛良枝/小林稔侍●放映:2019/05/22-26(全5回)●放送局:テレビ朝日
小林稔侍(浪速大学医学部名誉教授・滝村恭輔)/小林薫(財前の義父・財前産婦人科医院院長・財前又一)/岸部一徳(浪速大学医学部病理学科教授・次期第一外科教授選選考委員会委員長・大河内恒夫)
 

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