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「2時間ドラマ」みたいな感じの話。ヤングアダルト・ミステリー?

東野 圭吾 『夢幻花』 .jpg夢幻花(むげんばな).jpg夢幻花(むげんばな)』(2013/04 PHP研究所)装丁:川上成夫

 2013(平成25)年度・第26回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 大阪の大学院生の蒼太は、父の三回忌で江東区木場の実家に帰っていた。兄の要介は、父の三回忌よりも仕事を優先して出かけてしまっていた。蒼太は、その要介を訪ねて来た秋山梨乃と知り合う。職業を偽ってまで梨乃に接近し、ブログから「黄色い花」の写真を直ちに削除するようにと忠告した要介の真意は何なのか? 梨乃の祖父・周治が殺害された事件に、謎の「黄色い花」が少なからず関係していると考えた蒼太と梨乃は、二人で「黄色い花」の謎と事件の解明に向けて行動を起こす。一方、西荻窪署の早瀬亮介は、息子・裕太の窮地を救ってくれた正義感の強い老人・秋山周治が、所轄の殺人事件の被害者だと知って驚く。手掛かりが少なくとも絶対に迷宮入りにはさせないと、犯人逮捕に向けて一人捜索を続けていた―(「ウィキペディア」より)。

 2002年から2004年までPHP研究所刊行の月刊誌「歴史街道」に連載された後、約10年を経て2013年にPHP研究所から単行本刊行と、この作者の作品にしては発表から単行本化までの期間が長いです。そのため、科学情報が古くなるなどし、お蔵入りは避けたいとしてストーリーに大幅に手を入れるなどしたそうですが、発表誌がマイナーなこともあるでしょうが、読んでみて連載時にさほど話題にならなかったのが分かるような気もする作品でした(近年「脱法ハーブ事件」などが報道されていることを思うと、時代に先行していた面もあった?)。

 話が「2時間ドラマ」もみたいな感じだったかな。これくらいのプロットなら、この作者であればさらさら書けてしまうのではないでしょうか。「黄色い朝顔」というモチーフや人物構成などはやや凝っているものの、珍しいとされる「黄色い朝顔」が同時に"夢幻花"でもあったというのはややご都合主義的であるし、何よりも殺人事件のその誘因となった動機がしょぼいし(シャブ欲しさ)、殺人そのものが全く突発的な「無計画殺人」であるというのもねえ(推理不可能)。

黄花イポメア.jpg 大学生が主人公で、同年代の女性との出会いが会って...と、どちらかというとヤングアダルト・ミステリーといった感じでしょうか。「歴史街道」の読者層とあまり重ならない気もしますが、当時から「歴男」「歴女」って相当数いた?

 因みに、「黄色い朝顔」は一般的な日本の朝顔と同じイポメア種に「黄花イポメア」があり、西洋朝顔にも黄花を咲かせるものがあるようです。

我が家の朝顔
「ベランダ園芸と変化朝顔」(By 花メダカさん)

渡辺 淳一.jpg それにしても、10年前の小説を書き直した作品が「柴田錬三郎賞」かあ。新人賞ではないから別に構わないのですが、人気作家という意味で東野氏は、選考委員と変わらないかそれ以上では(選考委員:浅田次郎・伊集院静・長部日出雄・津本陽・林真理子・渡辺淳一)。

 作者が5回も「直木賞」の稿補になりながら落選した(6回目で受賞)、その何度も落選させた張本人とも言われている渡辺淳一氏あたりが今回も反対しそうな気がしたけれど...。その渡辺淳一氏も先月['14年4月]亡くなり、これが選考委員としての最後の仕事となりました。

 渡辺氏の直木賞選考委員としての仕事の方は、'14年1月の第150回選考会を欠席しており(おそらく前立腺がん末期にあったと思われる)、この回から新たに選考委員になった東野氏が渡辺氏と直木賞選考委員会で同席するという状況は結局実現することのないものとなりました。 

【2016年文庫化[PHP文芸文庫]】

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さらっと読めてくすっと笑える様々な「夫婦の位相」。ややもの足りない?

奥田 英朗 『家日和』単行本.jpg家日和』 奥田 英朗 『家日和』 文庫.jpg奥田 英朗 『家日和』2.jpg家日和 (集英社文庫)

 2007(平成19)年度・第20回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 初めてのインターネットオークションで落札者から「非常に良い」の評価を受けた喜びから、家にある不用品を次々出品し始め、ついには夫の私物を許可なく出品し始めてしまう主婦を描く「サニーデイ」、会社が倒産しどうしようかと迷う間もなく妻が前の職場に復帰し、専業主夫となった夫の奮闘振りを描く「ここが青山」、妻との別居が決まり、がらんどうと化した部屋を心おきなく自分の趣味に合わせて模様替えする「家においでよ」、内職斡旋会社の担当者が、冴えない中年男から柑橘系の香水を付けた若者に代わり、淫夢を見るようになった主婦を描く「グレープフルーツ・モンスター」、夫が勝手に転職を決める度に、将来への危機感からか仕事の質が格段に上がるイラストレーターを描く「夫とカーテン」、ロハスにハマった妻やその仲間を揶揄するユーモア小説を書いてしまったことを後悔する作家を描く「妻と玄米御飯」の6編を収録。

 この作者の作品はユーモア小説からシリアスなサスペンスまで幅広いですが、これはどちらかと言うとユーモア系に近いといった感じでしょうか。『空中ブランコ』のようなキツい感じのユーモアではなく、その分、オチは弱いけれど、向田邦子の家庭小説の男性版のような印象も受けました。大笑いさせられるというより、くすっと笑える感じでした。

 個人的には、「ここが青山」の何となく自分には「主夫」が向いているのかなと主人公が最後に感じるのが面白かったし、「夫とカーテン」も、妻のイラストの質が夫の仕事の危機的状況と比例して高まり、危機が去ると落ちてしまったというのが面白かったです。「サニーデイ」に象徴されるように、何かをきっかけに日常に変化が生じて、最初はその変化の渦にどんどんハマっていくものの、どこかで踏みとどまるという"マトモな"主人公が多かったかな。そんな中、作品のトーンとしては、「グレープフルーツ・モンスター」がやや他の作品と違った、ドロっと雰囲気だったかな。この淫夢を見る主人公も、現実に不倫するとかはしないわけですが。

 全体としては、さらっと読めた様々な「夫婦の位相」という感じで、上手いなあと思わせる一方で、向田邦子ほどドロっとしたものもなく、ややもの足りなさも感じられました。

<font color=gray>【2010年文庫化[集英社文庫]】

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偶然巡り合った人と青春のある時期を共有したことの重みを感じさせてくれる話。

横道世之介.jpg 『横道世之介』['09 年]

 2010(平成22)年度・第23回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 80年代、長崎から東京へ出てきた来た18歳の横道世之介は、大学に入って偶然できた仲間が縁でサンバサークルに入ってしまい、先輩から紹介されて新宿のホテルでアルバイト、同級生についていった自動車教習所で彼女ができる―、名前通り横道にふらふら逸れながらも、少しずつ成長して行く世之介の1年を描いた青春小説。

 上京学生の物語ということで、夏目漱石の『三四郎』を想起させる面もありますが、漱石の頃の東大生と現代ののフツーの大学生では、その稀少度において月とスッポンの違いがあると思われ、実際、学生の世之介自身にそんな青雲の志といった大仰な気負いは感じられません。

 世之介の性格はどちらかというと不器用な方で、素直で純朴、思慮深く行動するタイプでは無く、気持ちだけは前向きなのですが、実際にはむしろ周囲に流されていることの方が多いという、平凡といえば平凡な男子(草食系?)、それが、読み進むにつれて、じわーっといいキャラ感を出していくように思えました。

 その世之介の学生生活1年目に、彼と偶然に接触があった人物達の、約20年後の、40代を目前にした現在の暮らしぶりが物語の中に挿入されていて、大方がごく平凡な社会人になっていますが、その誰もが、世之介のことを懐かしく、また愛しく思い出しています。

 世之介が20年後の今、そうした旧知の人々からある意味"ヒーロー視"されているのには、ある出来事が関係していますが、世之介ならそうした行動をとってもおかしくないと人々に思わせ、そんな世之介と青春の一時期を過ごせたことに感謝の念を起こさせるような、そんな慕われ方です。

 毎日新聞の夕刊に連載されたものですが、朝日新聞の夕刊に連載された『悪人』とはうって変わって、「青春小説」としてのプロセスはコミカルで明るく、個人的には、祥子ちゃんのお嬢さんキャラが大いに楽しめました(20年後に、この祥子ちゃんが国連職員としてアフリカ難民キャンプで仕事しているのと、千春さんという世之介を魅了した年上の女性がDJになっているのが、やや毛色の変わった進路か)。

 漫画チックとも思える遣り取りもありますが、物語が浮いた感じにならないのは、登場人物の行動に一定のリアリティがあると共に、当時の風俗がよく描かれているためではないかと。
 世之介が入った大学入った年は1987(昭和62)年と思われ、『サラダ記念日』がベストセラーとなり、「ラストエンペラー」「ハチ公物語」といった映画が公開され、大韓航空機事件が起きています(株式や土地価格が騰貴して「バブル」という言葉が流行ったのも、「ボディコン」という言葉が生まれたのもこの年)。

 こういう若者風俗を描いたらこの作家はピカイチですが、それが、過剰にならない程度に織り込まれているのがいいです。
 エンタテインメント性を保ちつつ、偶然巡り合った人と青春のある時期を共有したことの、人生における潜在的な重みを感じさせてくれるお話でした。

【2012年文庫化[文春文庫]】
横道世之介 映画 01.jpg横道世之介 映画 02.jpg「横道世之介」2013年映画化(沖田修一:監督/高良健吾・吉高由里子:主演)

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面白く読めることは読めるが、"オヤジ泣かせ"のテクニックのあざとさがミエミエではないかと...。
浅田次郎 『壬生義士伝 (上)』.bmp 壬生義士伝  2.jpg  壬生義士伝 上.jpg 壬生義士伝 下.jpg  壬生義士伝m2.jpg
壬生義士伝〈上〉〈下〉』(題字:榊莫山)/文春文庫(上・下) 2003年映画化(松竹/監督: 滝田洋二郎)

 2000(平成12)年度・第13回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 貧しさゆえ盛岡の南部藩を脱藩し、壬生浪(みぶろ)と蔑称された新撰組隊士となった吉村貫一郎は、鳥羽伏見の戦に破れ、傷だらけのまま大坂・南部藩蔵屋敷にたどり着き、妻子のいる故郷盛岡への帰還を望むが、大坂屋敷の差配で貫一郎のかつての幼馴染である大野次郎右衛門は、彼に今すぐに腹を切るよう命じる―。

 明治維新からから半世紀を経た頃、記者らしき人物が貫一郎ゆかりの人たちを訪ねて回り、貫一郎をめぐる彼らの思い出話を聞き書きするという"取材記"スタイルをベースに、今まさに切腹に追い込まれた貫一郎の南部弁の独白が挿入されているという構成。

 そうした回想スタイルが最初はまどろっこしいけれど、極度の倹約のため守銭奴と蔑まれた貫一郎が、実は"人斬り貫一"と怖れられる剣の使い手であったというこのギャップがアクセントになっており、新撰組の近藤、土方、沖田といった隊士たちの作者なりの描き方も興味深く、どんどんハマっていく感じ。
 中でも中盤の、新撰組随一の剣豪として知られた斎藤一の、自身と貫一郎をめぐる回想が、剣豪小説として面白く読めました(斎藤一の竜馬暗殺説にはビックリ)。

 しかし個人的に良かったのは中盤までで、なぜ旧友の大野が貫一郎に切腹を命じたのかという謎で一応は後半に引っぱっていくものの、その答えはまあ大方予想がつくものであり、また何よりも、貫一郎の南部弁の独白がベタで、これが"浅田調"なのだろうけれども、泣ける前に少し白けてしまいました。
 後に五稜郭に馳せ参じた貫一郎の息子の生き方も、果たしてこれが父の望むところだったか、疑問を抱いてしまいます。

 この小説は、普段は時代小説を読まない人にも多く読まれた一方で、時代小説ファンの間でも評価が高いようですが、"オヤジ泣かせ"のテクニックのあざとさがミエミエではないかと...。

 「もう一つの武士道」って言っても、結局はフツーの家族愛のことになってしまっているような気がしました(その"フツー"さが普遍性となって読者に受けるのかも)。

 史実では吉村貫一郎は鳥羽伏見の戦で行方不明になっていて、うまいところに虚構の糸口を見つけたなあという感じはしますが、子母澤寛『新選組物語-新選組三部作』(「隊士絶命記」)を参照していることは本人も認めており、そうすると、この聞き書きの主の職業は新聞記者ということなのだろうか(子母澤寛は新聞記者として新選組ゆかりの人たちを取材してまわり、昭和3年に「新選組三部作」の第1部『新選組始末記』を書いている)。

 '03年に滝田洋二郎監督によって映画化されましたが(貫一郎役は中井貴一)、この監督、比較的原作に忠実に作るタイプなのか、主人公の語りが冗長になった感は否めませんでした。
 これは、原作を読んでクドイと思った自分の感性の問題で(中井貴一は日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞受賞)、映画化される前の'02年に、テレビ東京の「新春ワイド10時間ドラマ」として放映されているのですが(貫一郎役は渡辺謙)、こちらも概ね好評だったようです。
 好きな人は好きなのだろうし、正月なので腰を落ち着けて観るというのもあるんだろうなあ。

2003年映画化(松竹/監督: 滝田洋二郎)
壬生義士伝(DVD).jpg壬生義士伝m.jpg「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)

 【2002年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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