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東京オリンピックポスターのグラフィックデザイナーは、ただならぬ文筆家でもあった。

亀倉雄策の直言飛行0.jpg亀倉雄策の直言飛行 新装版.jpg 亀倉雄策の直言飛行00.jpg 亀倉雄策.jpg
亀倉雄策の直言飛行』亀倉雄策(1915-1997/82歳没)

亀倉雄策の直言飛行4c.jpg亀倉雄策の直言飛行1.jpg 日本のデザイン界を創ったとも言われるグラフィックデザイナーで、1964年東京オリンピックのポスターや、日本電信電話(NTT)のマークなどで知られる亀倉雄策(1915-1997/82歳没)によるエッセイ集で、1991年に刊行されたものを、2012年に新装版で復刊したものです。
亀倉雄策の直言飛行』['91年]

 A、B、C、Dの4章から成り、最初の「A」は何と追悼文集ですが、写真家・土門拳、彫刻家・イサム・ノグチ、装幀家・原弘、建築家・前川國夫、画家・有元利夫、詩人・草野心平といった錚々たる人々への追悼文を通して、それらの人々との交友が浮き彫りにされ、面白く読める分、亡くなった人への哀惜の気持ちがじわっと伝わってきます。この追悼文を読むだけでも、著者が、著名なデザイナーであったばかりでなく、ただならぬ文筆家でもあったことが窺えます。

 「B」は作家論で、カッサンドル、サヴィニャック、ウォーホル、ドーフスマンから丹下健三、瀧口修造、いわさきちひろ、永井一正、原田泰治、佐藤晃一まで、内外の作家を論じています。これも読ませますが、著者自身は、「どうせデザイン屋風情が書いたものですから、ボキャブラリーが貧しいんですね」と述べており、随分と謙虚です(全然そんなことはない)。

 「C」は、日本と西洋の文化について各所で論じたもので、前振りでいきなり「かなり憤慨している」とあるように、全体を通して、日本人の美意識の後退を嘆き、また、業界の風潮に対する批判が込められたものとなっています。

 最後の「D」は、タイトルにもなっている、モリサワという写真会社のPR誌「たて組ヨコ組」に連載した「直言飛行」というエッセイで、著者がインタビューに応え、その速記録を著者自身が筆入れしたものですが、1回につき二百字詰原稿用紙で40枚以上書き、4日くらいは潰したそうで、なかなかの労作のようです。

 内容は、引く続きデザイン業界の風潮に対する批判であったりしますが、この章がいちばん言いたいことを言っている感じで、面白かったです。黒澤明の「夢」などを真っ向から批判している一方で、そんな尖がった話ばかりでなく、生活雑感をユーモラスに描いていたりもし、肩の凝らないエッセイとなっています。

亀倉雄策の直言飛行4.jpg亀倉雄策の直言飛行2.jpg また、「直言飛行」連載時に毎回掲載された著者の似顔絵がカラー再録されていて、描いているのは下谷二助、安西水丸、秋山育、灘本唯人、木田安彦、古川倬、山口はるみ、空山基、そして最後が和田誠です。それらの似顔絵を、連載の最終回で著者自身が論評したりしていますが、東京オリンピックのポスターをパロディ化した和田誠のものを、「驚いたねえ」と絶賛しています。それが、この本の表紙になっているわけで、なぜ亀倉雄策に本なのに和田誠の表紙なのかと思ったら、そういうことだったのか。でも、確かに和田誠、上手いと言うか、着想がスゴイなあと思います。

1964 東京オリンピックポスター デザイン:亀倉雄策
1964 東京オリンピック 亀倉雄策.jpg
 

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子ども向けだが、時に大人向けの含意もあって大人もそこそこ楽める(和田誠の絵とセットで)。

きまぐれロボット250.jpg「きまぐれロボット」kadokawa bunjko.jpg「博士とロボット」
きまぐれロボット (角川文庫 緑 303-3)』(旧カバー版(イラスト:和田 誠))
Iきまぐれロボット 3.jpg 金持ちのエヌ氏は博士から、これが私の作った最も優秀なロボットですとの説明を受け、そのロボットを買って、離れ島の別荘で1カ月休むことにした。ロボットは料理やあとかたづけ、部屋のそうじ、古時計の修理までしてくれて、面白い話も次々喋ってくれた。しかし、2日ほどするとロボットは故障し、逃げだしたり、エヌ氏を追いかけたりして、毎日何かしら事件を起こす。1カ月が経ち、島に迎えの船が来て都会に戻ったエヌ氏は、博士に文句を言うが、博士は「それせいいのです」と落ち着いて答えた―。(「きまぐれロボット」)

 エフ博士はロケットに乗って、宇宙の旅を続けていた。文明の遅れている住民の住む星を見つけると、そこに着陸し、いろいろ指導するのが目的だった。大変な仕事だが、博士が自分で作ったロボットをひとり連れていて、博士は力が強く何でもできるロボットにいろいろ命令して仕事をさせていた、ロボットは、地面を耕し、種をまき、川ふちに水車をつくり、おかげで住民たちの生活はよくなった。勉強することを知り、文明も順調に育っているので、博士はこの星を去ることにした。出発の日、住民たちは口々にお礼を言い、感謝の気持ちを込めて像を作ったという。博士もやりがいを感じ「喜んで拝見しましょう」と言って像を見に行くが、そこにあったのはエフ博士の像ではなく―。(「博士とロボット」)

『気まぐれロボット』['66年/理論社](31編所収)    「地球のみなさん」
「きまぐれロボット」理論社.jpg 作者のショートショート36編を所収。谷川俊太郎氏の文庫解説によれば、収められた作品の大部分は、はじめ朝日新聞の連載のために書かれ、「花とひみつ」以下の5編を除く31編が同じ『きまぐれロボット』のタイトルの下、和田誠の挿絵入りで、子どものための本として刊行されたことがあるとのことです。これは児童向け出版を手掛ける理論社版の『気まぐれロボット』('67年)のことで、この理論社版は、愛蔵版として'99年に復刻されています。

まぐれロボット 映画.jpgきまぐれロボット 映画.jpgレッツゴー三匹のじゅん.jpg 表題作の「きまぐれロボット」は、映像作家の辻川幸一郎氏が'04年に映像化しており(モノクロ・40分)、「エヌ氏」を浅野忠信、「博士」をレッツゴー三匹の"じゅん"こと逢坂じゅんが演じているとのことですが、個人的には未見です(レッツゴー三匹は2014年に"じゅん"が、2018年に"長作"が亡くなり、昨年['20年]ついに"正児"も亡くなってしまった)。

 全体に発明家の博士やロボットが出てくる話が多く、作者自身が〈馴れない童話を書く〉と述べているように、このシリーズは確かに子ども向けではありました。しかしながら、同時に大人でもそこそこ楽しんで読めるのがこの人の作品の特徴であり、そのことは谷川俊太郎氏も指摘していました。「きまぐれロボット」などは、博士やロボットが出てくるのと同時に、大人向けの含意もあったように思われ、それらの要素を満たす典型と言えます。

和田誠 2.jpg20120128 週刊文春.jpg もう一つ、この作品シリーズは、は和田誠(1936-2019)が表紙だけでなく、挿画も担当していて、和田誠の絵とともに楽しめるというメリットもあるかと思います。星新一が亡くなったのは1997(平成9)年12月30日で、71歳でした。「週刊文春」の表紙イラストを担当していた和田誠は、すぐに追悼の絵を描こうと思ったものの、あまりに親しくしていたため亡くなった実感が湧かず、葬儀に参列した後になって、やっぱり描かねばという気持ちになったことです。

 その和田誠も2019年10月7日に83歳で亡くなり、「週刊文春」は、2017年7月以降現在('21年2月)に至るまで、過去に表紙を飾った和田誠の絵を再び表紙にするアンコール企画を継続していますが、今年['21年]の1月28日号に、その星新一追悼イラスト〈夜空のムコウ〉が再登場しました(巻末「表紙はうたう」に「1998年2月5日号より」とある)。

 絵は星をモチーフにしたもので、「星新一」の「星」に夜空の「星」を懸けたのでしょうか。真ん中にある赤い星が〈火星模様〉であることから、ここでの「星」は「惑星」を表していると思われます。これを描いた和田誠も「星」になってしまったのかと思うと、ちょっとしんみりさせられます。

きまぐれロボット2.jpg【1972年文庫化・2006年新装版[角川文庫]/2014年文庫化[角川つばさ文庫]】

きまぐれロボット (角川文庫)』2006年新装版

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誰が誰を選んでいるかも興味深いが、やはり、和田誠の絵が一番楽しめる。意外と知られていない傑作集。
3人がいっぱい②_5436.JPG3人がいっぱい  1・2 - コピー.jpg 和田誠 2.jpg
3人がいっぱい 2 (新潮文庫 わ 3-2)』和田 誠(1936-2019)

 雑誌「小説新潮」の1976(昭和51)年7月号から1979(昭和54)年12月号までに掲載されたコラムを文庫化したもので、同誌の1973(昭和48)3人がいっぱい②_5437.JPG年1月号から1976(昭和51)年6月号に掲載のコラムを文庫化した『3人がいっぱい➀』の続編です。

3人がいっぱい②図7.png コラムの趣旨は、「今月の3人」として、毎月異なる選者にテーマを決めてそのテーマに沿った3人の有名人を挙げて文書を書いてもらい、その3人の似顔絵を和田誠が描くというものです(最初の1年間は和田誠自身が似顔絵だけでなく、人選と文書も担当していた)。

3人がいっぱい②_5438.JPG 冒頭の1976(昭和51)年の1月には、黒柳徹子が「私より早口の三人」として、森英恵(美しい早口)、淀川長治(楽しい早口)、沢村貞子(立派な早口)を、2は、寺山修司が「競馬の先輩」として、古山高麗雄(最終レースの古さん)、織田作之助(一の目のオダサク)などを挙げています(織田作之助って随分前に亡くなっているけれど、真面目男がふとした契機から競馬に嵌ることになる「競馬」という傑作短編がある)。9月は渡辺淳一が、「手術してみたい三人」として、ちあきなおみ。浅丘ルリ子、浅茅陽子を挙げています。

3人がいっぱい②_5444.JPG 1977(昭和52)年に入ると、9月に筒井康隆が「三人の破壊者」として、タモリ(言語破壊者)、矢野顕子(フィーリング破壊者)、山下洋輔(ピアノ破壊者)を挙げていたりし、1978(昭和53)年には、本書の解説も書いている作家の阿佐田哲也が「文武百般の大先輩」として、五味廣祐、柴田錬三郎、寺内大吉を挙げていますが、この場合の"武"は賭け事なのでしょう。

3人がいっぱい②_5439.JPG  1979(昭和54)年では、作詞家の阿久悠が「目の光る三人」として倉本聰、浅井慎平、王貞治を挙げています。また、作家の小林信彦が、「笑いの求道者たち」として、森繁久弥、渥美清、萩本欽一を挙げています。

 選者も含め亡くなっている人も多いですが、息長く活躍している人も多いなあと。『3人がいっぱい➀』の方でも感じましたが、誰が誰を選んでどのようなことを書いているかも興味深いですが、やはり絵が一番楽しめるでしょうか。昨年['19年]亡くなった和田誠の、本書は意外と知られていない傑作イラスト集と言えるかもしれません。

3人がいっぱい②7.jpg

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人選や文章も楽しめるが、やはり一番は和田誠の描く似顔絵。

3人がいっぱい➀_5429.JPG3人がいっぱい  1・.jpg3人がいっぱい➀ amazon.jpg
3人がいっぱい 1 (新潮文庫 わ 3-1)

 雑誌「小説新潮」の1973(昭和48)年1月号から1976(昭和51)年6月号までに掲載されたコラムを文庫化したもので、単行本化を経てはおらず、和田誠(1936-2019)の名前で出た本としては新潮文庫初登場でした。

3人がいっぱい➀_5430.JPG コラムの趣旨は、「今月の3人」として、毎月テーマを決めてそのテーマに沿った3人の有名人に登場してもらい、その3人の似顔絵を和田誠が描くというもので、当初は和田誠自身がテーマを決めて「今月の3人」を選び、その3人についてイラストを前景として余白に文章も書くというものでしたが、このスタイルは1973年12月号で終わり、1974年からは「続・今月の3人」として、人選と文章を毎月異なる著名人が担当し、和田誠はイラストを担当するものとなっています。

 この形になったお陰で長続きできたのか、1975年から1976年6月号までは「新・今月の3人」として連載は続き、それが本書に収めれられているわけですが(42組13人がいっぱい➀_5431.JPG26人)、連載は「今月の3人」にタイトルを戻して1976年7月号から1979年(昭和54)年12月号まで続き、後半部分(42組126人)は『3人がいっぱい②』として同じく文庫化されています。

 まず、シンプルな線で本人の特徴を上手く写しとった絵に目が行き、次にどのような切り口で誰を選んだのかが面白く、それで文章も読むといった感じでしょうか。まず、和田誠自身がテーマ決めと人選をしていた1973(昭和48)年は、1月は「多忙」と題して、笹沢佐保氏、愛川欽也氏、赤塚不二夫氏が取り上げられていて、当時の売れっ子ぶりが窺えます。8月は「お寺」と題して、、丹羽文雄氏、植木等氏、篠山紀信氏が取り上げられていますが、3人とも実家がお寺だったのだなあ(1973年だけ画中の名前に男性は「氏」、女性は「さん」がついている)。

3人がいっぱい➀_5432.JPG 1974(昭和49)年以降は、選者のトップバッターは文庫解説も書いている吉行淳之介で、「ノム・ウツ・カウ」と題して、"ノム"で山口瞳、"ウツ"で生島治郎、" カウ"で川上宗薫を選んでいて、川上宗薫は巨大なイヌを飼っているとのこと(笑)。同年6月は、選者がSF作家の小3人がいっぱい➀_5433.JPG松左京で、「SF三大図絵」と題して、星新一、筒井康隆、半村良を選んでいます。8月は、漫画家の東海林さだおが「三人をハゲます会」と題して、"角"として稲垣足穂、"丸"として田中小実昌、"三角"として殿山泰司を選んでいます。形状で区分しているところがさすがに漫画3人がいっぱい➀_5434.JPG家(笑)。それをイラスト化しているのは和田誠ですが。

 1975(昭和50)年に入ると、その田中小実昌が8月の選者となって、「三大ボイン歌手」と題して、中山千夏、戸川昌子、3人がいっぱい➀_5435.JPG淡谷のリ子を取り上げたりしていますが、こうしてみると、亡くなった人も多いですが、存命で現役の人も結構いるなあという印象です。そうした人はものすごく職歴や芸歴が長いことになりますが、それだけ早くに世に出たということなのでしょう。芸能人で言えば黒柳徹子然り、美輪明宏然り、作家で言えば佐藤愛子然り、大江健三郎然り(庄司薫みたいに書かなくなってしまった作家もいるが)。

 結構、選ばれた人が今度は選ぶ側に回っていたりして、まあ、人選や文章も楽しめますが、やはり一番は和田誠の描く似顔絵でしょうか。解説の吉行淳之介(この人も選ぶ側であったり選ばれる側であったりする)は、和田誠の描く似顔絵を山藤章二(この人も選ぶ側であったり選ばれる側であったりする)のそれと比較して「淡泊」としていますが、そういう表現の仕方もあるのかもしれません。

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多くの作家との相性の良さ。「装丁のコツ」は「初校ゲラをよく読むこと」と。

Book Covers in Wadaland 和田誠 装丁集.jpgBook Covers in Wadaland 和田誠 装丁集 474.jpg 和田誠 2.jpg
Book Covers in Wadaland 和田誠 装丁集』 和田 誠(1936-2019)

2Book Covers in Wadaland.jpg 昨年['19年]10月に亡くなったイラストレーター和田誠(1936-2019)の装丁集で、2014年刊行。それまでの20年間に装丁を手がけた書籍・文庫を中心としたデザイン作をフルカラーで716点収録し、正方形サイズの上製本に収めたもので、著者の200冊目の著作にあたるとのことです。因みに、書籍・文庫本はすべて、著者自身が手元に保存している原本や色校紙を撮影・スキャンしたものだそうです。

 著者・和田誠は、多摩美術大学図案(現・デザイン)科卒業後、1959(昭和34)年に、今も銀座にある広告制作プロダクションのライトパブリシティにデザイナーとして入社し、1968(昭和43)年に退社、フリーになっていますが、本書によれば、最初に装丁を手掛けたのは、1961年の寺山修司・湯川れい子編『ジャズをたのしむ本』で、これは寺山修司が学生時代からの友人であったため、著者を指名してくれたのではないかと述べています。

 その後、もともと絵本を作りたいといった願望があったものの依頼してくれる出版社がなかったため、私家版で作ることにし、絵本には「お話」が必要だがそれは誰かに描いてもらうしかなく、そこで、星新一や谷川俊太郎など知り合ったばかりの作家に依頼して、1963年から65年まで3年間に7冊の私家版絵本を関背させたとのと。やっぱり仕事は待ってるだけじゃこない。しかも、在職中にそこまでやっているから、たいしたものです。

1Book Covers in Wadaland.jpgBook Covers in Wadaland_7926.JPG 独立してからも谷川俊太郎との共作を多く手掛け、70年代には、1972年に遠藤周作の『ぐうたら人間学』の装丁をしたことからその作品を多く手掛けたとのこと。自身は、自分が装丁する作家を思い浮かべると「星新一さん、丸谷才一さん、阿川佐和子さんが主な3人である」と述べています。

 他のイラストレーターも、例えばこの作家ならこのイラストレーターというお決まりの組み合わせがあったりしますが、和田誠の場合、そうしたコアな関係の作家の数が抜きん出て多いように思います。谷川俊太郎や星新一、丸谷才一、阿川佐和子に限らず、村上春樹、三谷幸喜、井上ひさし、ジェイムズ・ジョイスなどもそうでしょう。

 著者は、「装丁のコツ」を人に訊かれ、「初校ゲラをよく読むことです」と答えていたそうで、この辺りにも、これだけ多くの作家と相性が合う理由があるように思いました。保存版として手元に置いておきたい1冊です。

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刺殺体を巡る7人の"探偵"。パロディ精神と映画愛が密度濃く詰まっている。

殺人 MURDER 0.jpg 殺人 MURDER①.jpg 和田 誠 氏2.jpg 和田 誠  去年マリエンバートで dvd 2009_.jpg
「殺人 MURDER!」 (1964)           「去年マリエンバートで HDニューマスター版 [DVD]

殺人 Murder.jpg メイドがノックして入った部屋で刺殺体を発見し、大声で叫ぶ。この場面が7回繰り返され、回ごとに「MURDER!」というそれぞれ違ったタイトルロゴの後、様々な探偵が登場し、独自の方法で犯人を突き止め、逮捕に至る(逮捕殺人 MURDER①ホームズ.jpgされるのは常に同じ人物)。1人目は、ハンチングキャップ.を被りパイプを咥え、現場の遺留物や足跡など残された手掛かりの組み合わせから犯人を推理する探偵。2人目は、巻き口髭を生やし、肘掛椅子で葉巻を燻らせな殺人 MURDER② ポワロ.pngがら新聞記事を読み、創造力だけで事件を解決してみせる探偵。3人目は、ソフト帽を被って両手はいつもコートのポケットの中で、メイドへの質問を手始めに鉄道や船殺人 MURDER③サム・スペード.jpgを使って地道な聞き込みを行い、更にはバーに行って聞き込みをしてカクテルを飲んだり、飛行機に乗ったりして捜査を続け、犯人を見つける探偵。4人目からは、"探偵"という枠を超えた人物が登場し、トップハット殺人 MURDER④.pngを被った19世紀風の男が刺殺体を調べていると、死体が突然目を見開いて吸血鬼となって甦るも、男はニンニクと十字架でこれを退散させるという殺人 MURDER⑤007.pngオカルト・ホラー調。5人目は、007(ジェームズ・ボンド)風で、映画でよく知られている銃口をモチーフしたオープニングのパロディあり、美女との出会いや危険なア殺人 MURDER⑥科学者.pngクションありで、事件を解決して最後は美女とベッドイン。6人目は、SF映画のパロディ風で、科学者風の男が登場し、コンピュータにデータを打殺人 MURDER⑦.pngち込んで犯人を割り出す。本当の犯人はどうやら人間の躰を借りた宇宙人だったらしく、犯人の首がパカッと開いて、そこから空飛ぶ円盤へと帰って行く。最後7人目は、アートシアター風で、冒頭のタイトル及び刺殺体発見場面から最後まで全編モノクロ。映画「去年マリエンバートで」のパロディになっていて、探偵かと思われた男は、最後犯人探しはどうでもよくなっていて、出会った女と共に闇に消えていく。このパートだけ、犯人逮捕の場面はなく、ラストは「END」ではなく「FIN」で終わる―。
第1回「アニメーション・フェスティバル」('64年)チラシ
第1回「アニメーション・フェスティバル」.jpg 1964年秋、草月会館ホールで行われた第1回「アニメーション・フェスティバル」で上映するため、主催の「アニメーション三人の会」(久里洋二、柳原良平、真鍋博)から依頼されて和田誠が制作した16ミリのアニメーションで、音楽は八木正生(1932-1991)が担当し、時間が無い中で作られたというこの作品は、毎日映画コンクール・第3回「大藤信郎賞」を受賞しています(受賞理由では音楽も高く評価されている)。

 「アニメーション三人の会」が設立された'60年の段階では、柳原良平の「アンクルトリス」のCMを除きそれまで本格的なアニメーション制作の経験のなかった3人ですが、「三人の会」の活動は、日本の自主制作アニメーション界全体の活性化と次代の人材育成に繋がったほか(「三人の会」のメンバー作品のみの上映会は'60年、'61年、'63年の3回行なわれ、それが第4回以降「アニメーション・フェスティバル」となった)、「アニメーション・フェスティバル」を通じて、横尾忠則や宇野亜喜良など他の分野の芸術家がアニメーション制作を行なう契機にもなっています。

去年マリエンバートで 01.jpg この「殺人 MURDER!」は9分という長さの軽く楽しめる作品ですが、'64年という制作年で、しかも、「アニメーション三人の会」からの依頼で作った自主制作映画であったにしては、質的レベルはかなり高いように思います。『倫敦巴里』('77年/話の特集)に見去年マリエンバートで dvd 2016_.jpgられるパロディ精神が、この頃から横溢していたことを物語っていると共に、作者の"映画愛"が密度濃く詰まっている感じがし、'64年5月に日本で公開されたアラン・レネ監督の「去年マリエンバートで」('61年/仏)などがパロディ素材として使われていることに作者の慧眼を感じます(既にヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞してはいたが、後に映画史上もっとも難解な作品の一つと評されることになった)。
去年マリエンバートで [DVD]

去年マリエンバートで 03.jpg去年マリエンバートで   es.jpg 「去年マリエンバートで」は、脚本のアラン・ロブ=グリエ(1922-2008)自身の言によれば、黒澤明監督の「羅生門」('50年/大映)に触発れて作られた作品であり、つまりは芥川龍之介の「藪の中」を下敷きにした作品の一つと言えますが、"誰もあらすじを説明することができない映画"としても有名(?)でしょうか。何回観ても理解不能であり(そこが良くてまた観てしまう人もいると思うが)、この「殺人 MURDER!」の中での使われ方は、ややその辺りのアイロニーが込められているように思いました(和田誠は山田宏一との共著『たかが映画じゃないか』('78年/文藝春秋)で、フランス映画通の山田宏一へのコンプレックスをユーモラスに吐露している)。

殺人 MURDER図1.jpg 「殺人 MURDER!」の1人目と2人目の探偵はシャーロック・ホームズとエルキュール・ポアロがモデルであるのがすぐに分かるけれど、3殺人 MURDER②2.jpg人目は、前のエントリーで取り上げた『マルタの鷹』の探偵か。だとすれば、彼が飲むカクテルはマンハッタンということになるかもしれませんが、あの探偵、船や飛行機に乗ったりしたっけ。一方の捕まる犯人の方は、常に"久里洋二"風の男であるのが可笑しいです(そこだけ日本風)。フェスティバルでの上映では、最後の「去年マリエンバートで」篇が最も好評だったそうです(みんな「あの映画は(高踏的で?)無理に解らなくてもよい」と何となく安心した?)。

真鍋博「潜水艦カシオペア」('64年)(原画)/手塚治虫「人魚」('64年)
真鍋博「潜水艦カシオペア」1.jpg手塚治虫「人魚」.jpg なお、この第1回「アニメーション・フェスティバル」には、先に述べたように、主催者である久里洋二、柳原良平、真鍋博の作品のほかに横尾忠則や宇野亜喜良、さらには手塚治虫の作品なども出品されていますが、この和田誠の「殺人 MURDER!」以外では、真鍋博の「潜水艦カシオペア」、手塚治虫の「人魚」、横尾忠則の「アンソロジーNo.1」「KISS KISS KISS」などを観ました。真鍋博「潜水艦カシオペア」は、SF作家の都筑道夫が原作の"戦争が嫌いな潜水艦"を主人公に据えた寓話的短編で、米ソ冷戦の影響を受けつつも真鍋博らしいなあという印象(但し、ラストはアンハッピーエンド)。手塚治虫「人魚」は、空想を禁じられている架空の国が舞台で、ひとりの少年が助けた魚が人魚に変身してしまい、これはよからぬ空想の産物だとして少年は逮捕され、強制的に空想する力を奪い取られてゆくという管理社会の怖さとそこからの脱出を描いた作品。8分の短編にテリー・ギリアム監督のSF映画「未来世紀ブラジル」('85年/英)張りのテーマを込めてしまうところはさすがに手塚治虫といった横尾忠則「アンソロジーNo.1」1.jpg感じ。横尾忠則「アンソロジーNo.1」は、実験映画というよりは画像コラージュに近い作品。星、古城、太陽、木、鳥、女の顔、演奏、涙、指差す形、ピストル、決闘、死(死神、霊柩車、十字架)という風に、いくつかのイメージを集め、ポスターや本の表紙、自らが描いたイラストなどから切り取った静止画がほとんどで(一部動画もあり)、60年代という時代における"横尾忠則"を感じる作品とでもいうべきでした。これらの中ではやはり、和田誠の「殺人 MURDER!」と手塚治虫の「人魚」が頭一つ抜きん出ているでしょうか。更に言えば、和田誠が一番でした(何度観ても飽きない)。

和田 誠 「<殺人 MURDER!>」('64年)

横尾忠則「アンソロジーNo.1」('64年)

「殺人 MURDER!」●制作年:1964年●監督・製作:和田誠●撮影:古川肇郁/林政道●音楽:八木正生●時間:9分●公開:1964/09●配給:草月アートセンター(自主制作)(評価:★★★★☆)

去年マリエンバートで  チラシ.jpg去年マリエンバートでes.jpg「去年マリエンバートで」●原題:L'ANNEE DERNIERE A MARIENBAT●制作年:1961年●制作国:フランス・イタリア●監督:アラン・レネ●製作:ピエール・クーロー/レイモン・フロマン●脚本:アラン・ロブ=グリエ●撮影:サッシャ・ヴィエルニ●音楽:フランシス・セイリグ●時間:94分●出演:デルフィー去年マリエンバートで ce.jpgヌ・セイリグ/ ジョルジュ・アルベルタッツィ(ジョルジョ・アルベルタッツィ)/ サッシャ・ピトエフ/(淑女たち)フランソワーズ・ベルタン/ルーチェ・ガルシア=ヴィレ/エレナ・コルネル/フランソワーズ・スピラ/カ去年マリエンバートで 記事をクリップする_3.jpgリン・トゥーシュ=ミトラー/(紳士たち)ピエール・バルボー/ヴィルヘルム・フォン・デーク/ジャン・ラニエ/ジェラール・ロラン/ダビデ・モンテムーリ/ジル・ケアン/ガブリエル・ヴェルナー/アルフレッド・ヒッチコック●日本公開:1964/05●配給:東和●最初に観た場所:カトル・ド・シネマ上映会(81-05-23)(評価★★★?)●併映:「アンダルシアの犬」(ルイス・ブニュエル)

真鍋博「潜水艦カシオペア」title.png真鍋博「潜水艦カシオペア」2.jpg「潜水艦カシオペア」●制作年:1964年●監督・製作:真鍋博●協力:都築道夫/杉山正美/富澤幸男/岡田三八雄/染谷博/村瀬信夫/大野松雄/植田俊郎/池田亜都敦夫/片岡邦男/矢野譲/山内雅人●原作:都築道夫●時間:5分●公開:1964/09●配給:草月アートセンター(自主制作)(評価:★★★☆)

手塚治虫「人魚」title.jpg手塚治虫「人魚」2.jpg「人魚」●制作年:1964年●原案・構成・演出・作画:手塚治虫●製作:富岡厚司(虫プロのプロデューサー)●原画:山本繁●動画:沼本清海●撮影:佐倉紀行●音楽:冨田勲(ドビュッシー「牧神の午後の前奏曲」より)●時間:8分●公開:1964/09●配給:草月アートセンター(自主制作)(評価:★★★★)
           
アンソロジーNo.1 横尾忠則ド.jpg横尾忠則「アンソロジーNo.1 title.png横尾忠則「アンソロジーNo.1」2.jpg「アンソロジーNo.1」●制作年:1964年●監督・製作:横尾忠則●時間:7分●公開:1964/09●配給:草月アートセンター(自主制作)(評価:★★★☆)   
        

第1回「アニメーション・フェスティバル」('64年)チラシ
第1回「アニメーション・フェスティバル」2.jpg
《読書MEMO》
森卓也.jpg森卓也(映画評論家)の推すアニメーションベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○難破ス物語第一篇・猿ヶ島('30年、正岡憲三)
くもとちゅうりっぷ('43年、正岡憲三)
○上の空博士('44年、原案・横山隆一、演出:前田一・浅野恵)
○ある街角の物語('62年、製作構成:手塚治虫、演出:山本暎一・坂本雄作)
殺人 MURDER('64年、和田誠)
○長靴をはいた猫('69年、矢吹公郎)
ルパン三世・カリオストロの城('79年、宮崎駿)
うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー('84年、押井守)
○天空の城ラピュタ('86年、宮崎駿)
となりのトトロ('88年、宮崎駿)

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「●わ 和田 誠」の インデックッスへ

好きな映画の話になると止まらないという感じの和田誠氏。マニアックぶりに圧倒される。

たかが映画じゃないか 単行本.jpgたかが映画じゃないか 単行本7.jpg  たかが映画じゃないか 文春文庫.jpg
たかが映画じゃないか (1978年)』『たかが映画じゃないか (文春文庫 (385‐1))

 映画評論家の山田宏一氏がホストになって、友人でイラストレーターの和田誠氏に映画について語ってもらうという企画で、タイトルは、アルフレッド・ヒッチコック監督が、将来"傑作"と呼ばれるようになる作品に出ることにこだわるイングリッド・バーグマンに言ったという、「イングリッド、たかが映画じゃないか」という言葉からとっています。

 対談は、和田誠氏の「キネマ旬報」での「お楽しみはこれからだ」の連載が一段落した際に行われたもので、それまでの連載は『お楽しみはこれからだ』('75年/文藝春秋)、『お楽しみはこれからだ PART2』('76年/文藝春秋)として単行本化されましたが、本書も、'78年にほぼ同じ体裁で単行本化されました。一段落していた連載を再開し、最終的には「PART7」までいった「お楽しみはこれからだ」は、和田誠氏の意向により文庫化されていませんが、こちらは文庫化されています('85年/文春文庫)。

 山田宏一氏が1938年生まれ、和田誠氏が1936年生まれと年齢も近いことからか、和田氏も「俺」言葉で話し、終始リラックスし、また終始"熱い"感じでもあります。冒頭、「スター・ウォーズ」('77年)や「未知との遭遇」('77年)の話がありますが、それぞれ日本での公開がこの対談の年('78年)ですから、つい最近観たばっかりという感じで話していて、山田宏一氏も、「未知との遭遇」の博士役が何故フランソワ・トリュフォーなのかとかを熱く語っています。

 この1冊だけで560本もの映画に触れているとのことで、もう少し若い人との対談だと、昔の映画のことは多少控えめに紹介する程度だったりする和田誠氏ですが、本書では、自分の好きな映画の話になるともう止まらないという感じです。「ジョルソン物語」('46年)、「虹を掴む男」('47年)、「天国への階段」('46年)あたりになると、話の中で名シーンを逐一再現してみせ、どこがポイントかという解説までついて、結果としてもの凄くマニアックになっています。「お楽しみはこれからだ」で、細かいセリフをよく覚えているものだと感心させられましたが、当然のことながら、映像的シチュエーションと全部セットになって脳裏に焼きついているのだと改めて思いました。

 画面が切り替わる際にどういった種類のワイプを用いたかまで覚えているのだからスゴイ。マニアックぶりに圧倒されてやや毒気に当てられた印象さえありましたが(自分が観ていない映画の話が結構あったということもある)、そうした中で、メル・ブルックス監督の「ヤング・フランケンシュタイン」('74年)を「粋だった」と評価しているのが個人的には嬉しかったです。そして、ここでも、字幕に表れなかったセリフのパロディの趣旨を解説してみせています。

 ジェーン・フォンダは和田誠氏のお気に入りの女優の一人なのだなあ。「バーバレラ」('62年)のことを、「スター・ウォーズ」をもっときれいで、しかもセクシーなところでやっているとは、凄い高評価! 山田宏一氏も、「いまリバイバルすればいいのにな」と言っていますが、実際にリバイバルされたのは、この対談が行われた15年後の1993年でした。勿論、「バーバレラ」のようなカルト的作品だけではなくて、「ひとりぼっちの青春」('69年)も良かったと和田氏は言っています(山田氏も、ジェーン・フォンダは「あれでカムバックしたわけだ」と言っている)。個人的も好きな作品なので、これもまた嬉しく思いました。

YOUNG FRANKENSTEN.jpgヤング・フランケンシュタイン.gif「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)ヤング・フランケンシュタイン HDリマスター版 [DVD]

バーバレラ [DVD].jpgBARBARELLA.jpg「バーバレラ」●原題:BARBARELLA●制作年:1968年●制作国:イタリア/フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ジャン=クロード・フォレ/クロード・ブリュレ/クレメント・ウッド/テリー・サザーン/ロジェ・ヴァディム/ヴィットーリオ・ボニチェッリ/ブライアン・デガス/テューダー・ゲイツ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:チャールズ・フォックス●原作:ジャン=クロード・フォレスト 「バーバレラ」●時間:98分●出演:ジェーン・フォンダ/ジョン・フィリップ・ロー/アニタ・パレンバーグ/ミロ・オーシャ●日本公開:1968/10●発売元:パラマウント(評価★★★) 「バーバレラ [DVD]

ひとりぼっちの青春1.png「ひとりぼっちの青春」●原題:THEY SHOOT HOURSES,DON'T THEY?●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・グリーン●原作:ホレース・マッコイ 「彼らは廃馬を撃つ」●時ひとりぼっちの青春.jpg間:133分●出演:ジェーン・フォンダ/マイケル・サラザン/スザンナ・ヨーク/ギグ・ヤング●日本公開:1970/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17) (評価★★★★☆)●併映:「草原の輝き」(エリア・カザン)/「ジョンとメリー」(ピーター・イェイツ)
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【1985年文庫化[文春文庫]】

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A級、B級問わず映画を語る楽しくて充実した内容の鼎談。瀬戸川氏への哀悼の意が感じられる。

今日も映画日和 単行本2.jpg今日も映画日和 単行本.jpg  今日も映画日和 文庫.jpg
今日も映画日和』['99年] 『今日も映画日和 (文春文庫)』['02年]

 心から映画を愛する3人が、SF、法廷劇、スポーツものなど、12のテーマに沿って語り尽くした楽しい鼎談集です。「カピタン」1997年7月号から1998年6月号にかけて連載された際にページの都合で割愛された部分も、きちんと再録したロング・バージョンであるとのことで、脚注・写真も充実しています(文庫版は脚注のみ、写真無し)。

 単行本の刊行は、鼎談者の一人・瀬戸川猛資(1948 -1999/享年50)がその年の3月に肝臓がんで亡くなっていて氏の存命中に刊行を間に合わせられなかったのですが、脚注では話中に出てきた映画の情報の他に、川本三郎氏、和田誠氏が自らの発言内容に独自に補足するばかりでなく、瀬戸川氏の発言に関係するコメントを瀬戸川氏の著書の中から引用するなどしており、両人のこの鼎談集への思い入れと、瀬戸川氏への哀悼の意が感じられます。

 和田氏が1936年生まれ、川本氏が1944年生まれ、瀬戸川氏が1948年生まれで、和田氏によれば、川本氏は昭和の庶民を描く日本映画や映画のファッションに強く、瀬戸川氏はミステリに強いというようにお互いの守備範囲があるようですが、一方で、映画を、A級とかB級とか関係なく、分け隔てなく観てきたという点で共通するとのことで、それは本書を読めばよく分かります。

 取り上げているテーマは、まず「映画館」から始まって、SF、夏休み(ボーイズライフ)、サラリー★激しい季節(1959)2.jpgマン、野球、クリスマス、酒場、スポーツ、法廷、良妻・悪妻、あの町この町、大スターと続きますが、それらをモチーフとした映画がぽんぽん出てきて、もう誰が話しているのかあまり区別がつかないくらいです。

おもいでの夏 dvd.bmp 3人が若い頃に観た映画の話がかなりあって、「夏休み(ボーイズライフ)」のところで、川本三郎氏が、「激しい季節」('59年/伊)のエレオノラ・ロッシ・ドラゴがオッパイを見せていたのにショックを受けたとかあったりして、当時のアメリカ映画とイタリア映画の倫理コードの違いもあるのだろうなあ。「おもいでの夏」('71年/米)を瀬戸川氏はともかく和田氏も観ておらず(新しすぎるのか?)、川本氏の講釈を受けるという展開は意外でした。
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ガンホーdvd.jpg 「サラリーマン」の章のところで、瀬戸川氏がアメリカでヒットしたのに日本では未公開だった「ガン・ホー」('86年/米)について取り上げると、川本氏が「日本の企業をバカにしたやつですね」と言ったのに対し、「全然バカにしていないですよ。あの通りなんだから」と応えているのが興味深いです。アメリカ地方都市の日本資本の自動車会社("アッサン自動車"。漢字で「圧惨自動車」と表記する)の工場を舞台に、日米自動車経済摩擦を描いた作品ですが、アメリカ側のキャストに後に「バットマン」に出演することになるマイケル・キートンや、演技達者のジョン・タトゥーロまで出ているけれど、ケディ・ワタナベ演じる日本側主人公も好人物に描かれていて、最後、日系の自動車会社側の重役の山村聡が出てきて貫禄で問題を解決し、日米の企業人のカルチャーギャップを解消しているから、軽いノリの映画ではありますが、日本人をバカにした映画とまでは言えないでしょう。日本の企業経営を皮肉ったシーンガン・ホー1986 03.pngガン・ホー1986 01.jpgがあり、これを日本人をバカにしていると観客がとれば日本では受けないとして配給会社が配給を見送ったようですが、ちょっと世に出るのが早すぎたでしょうか。監督は後に「アポロ13」('95年)や「ダ・ヴィンチ・コード」('06年)を監督することになるロン・ハワードです(観た時の評価は星3つだが、グローバル人材がどうのこうの言われる今日において観直すと面白いかも―という観点から星半分プラス)。

黒い画集 あるサラリーマンの証言[1].jpg サラリーマン映画では、「失楽園」も川本氏しか観てなかったなあ。その川本氏が堀川弘通監督の「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝、原作:松本清張)を傑作としていますが、当時の方が今よりも不倫に対する風当たりは強かったというのが川本氏の見方のようです。確かに小林桂樹、電話で不倫相手の原知佐子に向かって「はい、承りました」ってやっていたけれど。また、瀬戸川氏が、ワイルダーってアメリカ映画の中で異色なくらい会社を舞台にした作品が多いと指摘していますが(和田誠氏でなく瀬戸川氏が指摘しているのが興味深い)、「アパートの鍵貸します」は勿論のこと、「麗しのサブリナ」('54年/米)なども、確かに言われてみればそうだなあと。

アパートの鍵貸します2.jpg 「アパートの鍵貸します」('60年/米)は、アカデミー賞の作品賞、監督賞など5部門受賞した作品で、和田誠氏が『お楽しみはこれからだ』シリーズなどで何度も取り上げている作品でもあります。出世の足掛かりにと、上役の情事のためにせっせと自分のアパートを貸している会社員バドことC・C・バクスター(ジャック・レモン)でしたが、人事部長のJ・D・シェルドレイク(アパートの鍵貸します3.jpgフレッド・マクマレイ)が自分の部屋に連れ込んで来たのが、何と自身の意中の人であるエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)だったというよく知られたApâto no kagi kashimasu (1960).jpgストーリーで、宮仕えのサラリーマンの哀愁を描く中で、ラストの急転は実に爽やかでした(こうした急展開は「麗しのサブリナ」などでも見られるが、こちらの方が洒落ている)。テニス・ラケットでパスタをすくったり、マテーニのオリーブを1つずつ時計のように並べたり、小道具をさりげなく使ったシーンにも旨さを感じられ、そもそも役者陣で下手な人は誰も出ていないような演出の見事さ。その中でもやはり、ジャック・レモンの演技が光ったし、シャーリー・マクレーンも良かったです(シャーリー・マクレーンはこの作品でヴェネツィア国際映画祭女優賞を獲得)。
Apâto no kagi kashimasu (1960)

野良犬 野球場.jpg 「野球」のところで、黒澤明の「野良犬」('49年/東宝)で後楽園球場が出てきて巨人の川上や青田がちゃんとプレーしているのが良かったと和田氏が言った野良犬 ビール.bmpのに対し、あの試合は巨人対南海線で、日本シリーズではなく1リーグ制の時の試合だと川本氏が指摘しているのがマニアックです。志村喬が野球監督を演じた「男ありて」('55年/東宝)を取り上げると、川本氏が「素晴らしい映画」だとすかさずフォローするのが嬉しいです。

「野良犬」の話は、続く「酒場」のところでも出てきて、川本氏が、志村喬が部下の三船敏郎を自分の家に連小津安二郎 秋刀魚の味 トリスバー.jpgれてきて飲ませるビールは"配給"だったとか(そう言えば、今日はたまたまビールが手に入ったようなことを志村喬が言ってたっけ)、一方、小津安二郎はサントリーと提携してい秋刀魚の味 東野2.jpgて、「秋刀魚の味」('62年/松竹)では、恩師の東野英治郎を教え子の笠智衆や中村伸郎たちが招待するシーンで、わざわざサントリー・オールドを映して「おいしいね、小津安二郎 秋刀魚の味 サッポロビール.jpgこのウィスキーは」と言わせているとか、岸田今日子がやっている店がトリスバーだとか。なるほどで。それでいて、冒頭の川崎球場の照明塔のシーンでサッポロビールとあるから、川本氏が言うように両方から金もらっていたのか(因みに、サントリーがビール事業に再進出したのは1963(昭和38)年で、この映画が公開された翌年)。小津映画では酒好きの中村伸郎のために、飲むシーンは実際に酒を飲ませ、肴もウニだったりしたというからスゴイね。笠智衆は下戸だったけれど、東野英治郎は本当に酔っぱらっていたわけかあ。

女競輪王00.jpg A級、B級問わずと言うことで、黒澤や小津といった巨匠ばかりでなく、前田葉子主演の「女競輪王」('56年/新東宝)なんて作品なんかも取り上げているのが何だか嬉しいです。

 鼎談の持ち味が出ていただけに、もう1冊分ぐらいやって欲しかった企画であり、瀬戸川氏の逝去が惜しまれます。

                   
Estate Violenta.jpgヴァレリオ・ズルリーニ★激しい季節(1959).jpg「激しい季節」●原題:ESTATE VIOLENTA●制作年:1959年●制作国:イタリア●監督:ヴァレリオ・ズルリーニ●製作:シルヴィオ・クレメンテッリ●脚本:ヴァレリオ・ズルリーニ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/ジョルジョ・プロスペリ●撮影:ティノ・サントーニ●音楽:マリオ・ナシンベーネ●時間:93分●出演:ジャン・ルイ・トランティニャン/エレオノラ・ロッシ・ドラゴ/ジャクリーヌ・ササール/ラフ・マッティオーリ/フェデリカ・ランキ/リラ・ブリナン●日本公開:1960/04●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(84-11-17)(評価:★★★★)

ガン・ホー1986 04.jpgガン・ホー1986 02.jpg「ガン・ホー」●原題:GUNG HO●制作年:1986年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:デボラ・ブラム/トニー・ガンツ●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ドナルド・ピーターマン●音楽:トーマス・ニューマン●時間:111分●出演:マイケル・キートン/ゲディ・ワタナベ/ミミ・ロジャースガン・ホー02.jpgガン・ホー01.jpg/山村聰/クリント・ハワード/サブ・シモノ/ロドニー・カゲヤマ/ジョン・タトゥーロ/バスター・ハーシャイザー/リック・オーヴァートン●日本公開:(劇場未公開)VHS日本発売:1987/11●発売元:パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン(評価:★★★☆)     
証言2.bmp黒い画集 あるサラリーマンの証言.gif証言0.bmp「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健/西村晃/、平田昭彦●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)
黒い画集 あるサラリーマンの証言 [DVD]
                    「アパートの鍵貸します [DVD]
アパートの鍵貸します8.jpgアパートの鍵貸しますdvd.jpgアパートの鍵貸します1.bmp 「アパートの鍵貸します」●原題:THE APARTMENT●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:ビリー・ワイルダー●脚本:ビリー・ワイルダー/I・A・Lアパートの鍵貸します4.jpg・ダイアモンド●撮影:ジョセフ・ラシェル●音楽:アドルフ・ドイッチ●時間:120分●出演:ジャック・レモン/シャーリー・マクレーン/フレッド・マクマレイ/レイ・ウォルストン/ジャック・クラスチェン/デイビット・ホワイト/ホープ・ホリデイ/デイビット・ルイス/ジョアン・ショウリイ/エディ・アダムス/ナオミ・スティーブンス●日本公開:1960/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:銀座文化2(86-06-13) (評価:★★★★)
「銀座文化1・銀座文化2」「銀座文化/シネスイッチ銀座」
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpgシネスイッチ銀座.jpg銀座文化2 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」
                       
野良犬 1949  ポスター0.jpg野良犬 1949 0.jpg「野良犬」●制作年:1949年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時間:122分●出演:三船敏郎/志村喬/木村功/清水元/河村黎吉/淡路恵子/三好栄子/千石規子/本間文子/飯田蝶子/東野英治郎/永田靖/松本克平/岸輝子/千秋実/山本礼三郎●公開:1949/10●配給:東宝(評価:★★★★)

秋刀魚の味 チラシ.jpg秋刀魚の味 加東.jpg「秋刀魚の味」●制作年:1962年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:113分●出演:笠智衆/岩下志麻/佐田啓二/岡田茉莉子/中村伸郎/東野英治郎/北竜二/杉村春子/加東大介/吉田輝雄/三宅邦子/高橋とよ/牧紀子/環三千世/岸田今日子/浅茅しのぶ/須賀不二男/菅原通済●公開:1962/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★☆)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「彼岸花」(小津安二郎)

【2002年文庫化[文春文庫]】

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セリフの拾い方、連想ゲームのようにつないでいく手法の巧みさ&イラストも楽しめる優れもの。

お楽しみはこれからだ part3.jpg
  料理長殿、ご用心 p1.jpg 料理長シェフ殿、ご用心 02.jpg
料理長(シェフ)殿、ご用心 [DVD]」 Jacqueline Bisset
お楽しみはこれからだ〈part 3〉―映画の名セリフ (1980年)

  「PART2のあとがきに、PART3を作る予定はない、と書いたのだけれど、こうしてPART3が出来てしまった。「キネマ旬報」で連載を再開し、もう一冊分続けたというわけである。(中略)一つだけ新趣向を加えた。項目から次の項目への橋渡しを、シリトリのようにつないでゆく、というもので、いくらかこじつけもないではないが、どうやら最後の項目が最初に戻る形で輪のようにつながった。反省は、アメリカ映画に片寄り過ぎた点である。」 (あとがきより)

 和田誠(1936年生まれ)氏のシリーズ第3冊目で、あとがきに以上あるように、PART2で打ち止めの予定が「キネマ旬報」で連載を再開したために出来上がったもの(結局、その後も間歇的に連載し、シリーズは1995年単行本刊行の第7巻(PART7)までの累計ページ数は1,757ページに及ぶことになります。
 PART2で邦画も取り上げていましたが、PART3では洋画だけに戻しています。PART2で、洋画が多くなる理由として字幕で見たセリフの方が記憶に残っているからとありました。

 このシリーズ、あとがきは、読者からあった"誤り"の指摘に基づく訂正でほぼ費やされることが多いのですが、PART3のあとがきで、「七人の侍」で「勝ったのは百姓たちだ。俺たちではない」と書いたことに読者から「俺」ではなく「わし」と言ったはずだとの指摘があったという話に続いて、「ほとんど記憶だけで書いているので、一字一句正確にしなければならないとなると、ちょっとつらい。外国映画だとどっちみち翻訳になるから、意味さえ取り違えなければいいと思うが、日本映画はもともと日本語だから、意訳というわけにもいかず、つい敬遠することになる」とありました。ナルホドね。これも洋画が多くなる理由か。それにしても、連載しているのが「キネ旬」だから、読者も映画通が多かったりして、結構プレッシャーだろうなあ。実際には、どうしてあの映画のあのセリフをとりあげないのかといった手紙が多く、中には語気鋭いものもあったそうです。

 確かに今回はアメリカ映画に偏った分、マニアックになった感じもありますが、一方で「麗しのサブリナ」みたいな著者のお気に入りは、PART1に続いて再登場したりもしています。でも。こんな面白いセリフがあったのだなあという内容でした。

 年代的には、30年代終わりから始まって、40年代、50年代、60年代と割合均等で、70年代も、70年代終盤だけでも「さすらいの航海」('77年)、「アニー・ホール」('77年)、「ブリンクス」('78年)、「アルカトラズからの脱出」('79年)、「グッバイ・ガール」('77年)、「おかしな泥棒ディック&ジェーン」('77年)、「ジュリア」('77年)、「カリフォルニア・スイート」('78年)、「帰郷」('78年)、「遠すぎた橋」('77年)、「世界が燃えつきる日」('77年)、「リトル・モー」('77年)、「天国から来たチャンピオン」('78年)、「オー!ゴッド('77年)、「料理長(シェフ)殿、ご用心」('78年)、「リトル・ロマンス」('78年)、「ナイル殺人事件」('78年)、「チャイナ・シンドローム」('79年)、「愛と喝采の日々」('77年)、「マンハッタン」('79年)、「パワープレイ」('78年)など結構数多く取り上げています。このあたりは、連載時にほぼリアルタイムに近いかたちで公開されたものではないでしょうか(70年代は特に後半の方が多くなっている)。

Jacqueline Bisset Who Is Killing the Great Chefs.jpg1978 WHO IS KILLING THE GREAT CHEFS of EUROPE  PROMO MOVIE PHOT.jpg ジャクリーン・ビセットがジョージ・シーガルと共演した「料理長(シェフ)殿、ご用心」('78年)なんて、何てことはない映画だけれどよくできていたのでは(監督は4年後に「ランボー」('82年)を撮るテッド・コチェフ)。懐かしいなあ。著者が書いているように、ちょっと洒落たスリラーで、ヨーロッパの一流シェフが次々と、それぞれの得意の料理法に因んだ方法で殺されていくというもの。ジャクリーン・ビセットの役は所謂パティシエですが、まあ当時の自分自身の理解としてはデザート専門のコックという感じ(著者も本書で「コック」と書いている。パティシエなんて言葉は当時日本では聞かなかった)。サスペンスですがユーモアがあって、ちょっとエロチックでもあるというもの(勿論ビセットが)。個人的には、本書が刊行される少し前くらいに名画座で観ましたが、「クリスチーヌの性愛記」('72年、ジャクリーン・ビセットが19才のストリッパー役で主演した作品)と「セント・アイブス」('76年、チャールズ・ブロンソン主演)の3本立て「ジャクリーン・ビセット特集」でした(そう言えばこの頃「大空港」('70年)にも機長の不倫相手の客室乗務員役で出ていた。70年代のセクシーアイコンの1人と言えるか)。

音楽:ヘンリー・マンシーニ
  
ヒッチコック サイコ 予告編.jpg あと、個人的な収穫は、「サイコ」('60年)のところで、著者が予告編を観ていないことを非常に残念がっていて、ヒチコックがお喋りするだけのものでありながら、予告編史上に残る傑作と観た人は皆言っていたそうですが、そうした予告編があることを本書で初めて知ったのがまさに拾い物でした。これ、今はネット動画で観ることが可能であったりもします(アップされては消されたりもしているが)。

「サイコ」予告編

 1995年単行本刊行でこのシリーズが終わったというのは、DVDなどの普及などで便利になり過ぎて、セリフを追いやすくなったために、個人的な記憶の意義が相対的に軽くなったというのもあるのではないかなあ。誰もが検証可能だからといって、洋画のセリフまで一字一句正確を期さねばならなくなったら、そちらの方に時間をとられて、連載がしづらいというのもあるのでは?

 でも、セリフの拾い方にしても、こうした「新しい」映画や「古い」映画を織り交ぜて、しりとりか連想ゲームのようにつないでいく手法にしても、その技は著者ならではの巧みさがあり、しかも、イラストも楽しめるという、今読んでも優れものの映画エッセイであると思います。

料理長殿、ご用心 v1.jpg料理長殿、ご用心 』.jpg「料理長(シェフ)殿、ご用心」●原題:SOMEONE IS KILLING THE GREAT CHEFS OF EUROPE●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コチェフ●脚本:ピーター・ストーン●撮影:ジョン・オルコット●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:アイヴァン・ライアンズ/ナン・ライ料理長シェフ殿、ご用心 03.pngアンズ●時間:112分●出演:ジャクリーン・ビセット/ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ/ジャン=ピエール・カッセル/フィリップ・ノワレ/ジャン・ロシュフォール/ルイージ・プロイェッティ/ステファノ・サッタ・フロレス●日本公開:1979/05●配給:日本料理長(シェフ)殿、ご用心 ロバート・モーレイ.jpgJacqueline Bisset THE GRASSHOPPER.jpgヘラルド映画●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(80-02-18)(評価:★★★☆)●併映「セント・アイブス」(J・リー・トンプソン)/「クリスチーヌの性愛記」(アロイス・ブルマー)
ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ(全米映画批評家協会賞「助演男優賞」・ロサンゼルス映画批評家協会賞「助演男優賞」受賞)/ジャクリーン・ビセット  Jacqueline Bisset in "The Grasshopper"(クリスチーヌの性愛記)

五反田TOEIシネマ 2.jpg五反田TOEIシネマ79.jpg五反田TOEIシネマ.jpg五反田TOEIシネマ 3.jpg五反田TOEIシネマ/五反田東映(写真:跡地=右岸)「五反田東映」をを分割して1977(昭和52)年12月3日オープン、1990(平成2)年9月30日「五反田TOEIシネマ」閉館(1995年3月21日「五反田東映」閉館)

サイコ dvd.jpgPSYCHO2.jpg「サイコ」●原題:PSYCHO●制作年:1960年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●音楽:バーナード・ハーマン●原作:ロバート・ブロック「気ちがい(サイコ)」●時間:108分●出演:アンソニー・パーキンス/ジャネット・リー/ベラ・マイルズ/マーチン・バルサン/ジャン・ギャヴィン●日本公開:1960/09●配給:パラマウント●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(97-09-19) (評価★★★★)

「七年目の浮気」
お楽しみはこれからだ part3 七年目の浮気.jpg

【2022年愛蔵版】

「●わ 和田 誠」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【640】 和田 誠 『倫敦巴里
「●映画」の インデックッスへ 「●山田 洋次 監督作品」の インデックッスへ 「●「芸術選奨(監督)」受賞作」の インデックッスへ(山田洋次) 「●「芸術選奨(演技)」受賞作」の インデックッスへ(渥美清)「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ 「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ 「●倍賞 千恵子 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (~80年代)」の インデックッスへ(「泣いてたまるか」) 「●木下忠司 音楽作品」の インデックッスへ(「泣いてたまるか」)「●山本 直純 音楽作品」の インデックッスへ(「男はつらいよ」) 

PART2で区切りをつけるつもりで書いていたと思われるだけに、密度濃く、充実している。

お楽しみはこれからだ Part2 映画の名セリフ.jpg 男はつらいよ 第一作 dvd2.jpg  和田 誠 氏.jpg 和田 誠
「男はつらいよ」(1969)渥美清/倍賞千恵子/光本幸子             
お楽しみはこれからだ〈Part2〉―映画の名セリフ (1976年)』 「男はつらいよ〈シリーズ第1作〉 [DVD]

 1973年から「キネマ旬報」に連載されたイラストレーターの和田誠(1936年生まれ)氏による映画エッセイシリーズのPART2で単行本刊行は1976(昭和51)年。PART1との違いは、日本映画がいくらか入っていることと、古い映画から当時の新作まで年代的に幅が拡がっていることです。このシリーズ、著者が許可を出さないためなのか文庫化されていませんが、一方で、当時の映画のロードショー料金を上回らない価格設定にするため、表紙は単色でしかも新刊時から帯無しというシンプルなスタイルになっています。このシンプルさにも、多くの装丁を手掛ける著者の美意識が表れているのかも。但し、例えば表紙にトリュフォーの「アメリカの夜」をもってきていますが、本文の形式を倣いながらも(この作品は本文でも取り上げいている)、表紙用に文も絵も新たに書き(描き)起こすなど、手抜きはしていません。

 日本映画は、冒頭から「幕末太陽伝」('57年)、「夫婦善哉」('55年)、「けんかえれじい」('66年)、「総長賭博」('68年)、「日本沈没」('73年)ときて、途中、「生きる」('52年)をはじめとする一連の黒澤明監督作や、中村翫右衛門らが出演したオムニバス映画「怪談」('64年)、片岡千恵蔵主演の「七つの顔の男だぜ」('60年)、更には高倉健主演の「網走番外地」('65年)やその他任侠映画まで様々取り上げていますが、それでもトータルでは洋画の方が多くなっています。

 新作も幾つか入れたといっても数的にはそれほどでもなく、圧倒的に著者が昔観た古い映画の話が多く、次いで、テレビや映画祭の特集で最近観た、かつて観ることが出来なかった昔の作品などがくる感じでしょうか。有名な作品と併せてややマニアックな作品もとり上げていて、よく観ているなあと思う一方で、その記憶力には驚かされます。

さらば友よ (お楽しみはこれからだ─和田誠─より.jpg このシリーズは、映画の中の名セリフを取り上げて、リレー方式というか連想方式的に一定サイクル話を繋いでいっていますが(それと、勿論のことだが、イラストとの組み合わせ)、著者によれば、日本映画の方がセリフに関する記憶が少なく、洋画においてスパーインポーズで読んだものの方が記憶に残っているとのことです(そういうものかもしれないなあ)。

 ここまでで「キネマ旬報」連載の60回分がひとまず落着し、あとがきで著者はまた書かせてもらう機会があるかもしれないといったことを書いていますが、結局、間を置きながらも20年以上にわたって連載は続き、単行本はPART7まで刊行されました。いずれの巻も映画ファンには読み応えがありますが、特にPART2までは、当初はそこで区切りをつけるつもりで書いていたと思われるだけに、密度が濃くて充実しているように思います。
「さらば友よ」(1968)

 久しぶりに読み返してああそうか、ナルホドなと思った点を、外国映画主体のこのシリーズの中では少数派である日本映画から2つ。

椿三十郎 三船 仲代.jpg 1つは、「椿三十郎」('62年)のラストの三船敏郎、仲代達矢の決闘シーンで、近距離で一瞬にして勝負がつく斬り合いは、著者自身、当時"新機軸"だと思ったそうですが、山中丹下左膳 百万両の壺 dvd.jpg貞雄の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年)で、すでに大河内伝次郎の丹下左膳がヤクザ風の男を斬る場面で使われていたことを、著者はフィルムセンターで観て知ったとのことです。ああ、そうだったかなあ。「百萬兩の壺」の丹下左膳って、それまでの丹下左膳像と違ってコミカルな印象が強くて、剣豪のイメージが相対的に抑えられていたような気がしましたが、コミカルであろうと強いことに変わりはないんだよね、丹下左膳は。但し、あの"噴血"はやはり黒澤ならではの見せ方ではないかな。
丹下左膳餘話 百萬両の壺 [DVD] COS-032

『男はつらいよ』森川信、渥美清、三崎千恵子、倍賞千恵子ら.jpg もう1つは、「男はつらいよ」('69年)で、この作品はTVが先で映画が後ですが、著者はTVは観ていたけれど映画化されてこれほどの人気シリーズになるとは思っていなかったとのことで、作者らもそうだったのでないかとしている点です。その証拠として、TV版のあらゆる要素が(総まとめ的に)ぶちこまれていて、妹のさくらが結婚してしまうのもその現れで、シリーズ化が先に決まっていれば、さくらの見合いを寅が邪魔するなど、第2作以降にさくらの結婚は持ち越されていたのではないかとしており、ナルホドなあと思いました。

「男はつらいよ」(1969)森川信、渥美清、三崎千恵子、倍賞千恵子ら

光本幸子さん .jpg その代りのお楽しみとして、毎回違った"マドンナ"が登場するパターンになったということなのでしょう。初代マドンナは昨年['13年]食道癌で亡くなった光本幸子でした。また、著者が矛盾を指摘する「俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ」という主題歌の歌詞はもともとTV版用に作られたものですが、映画版の第2作からは別の歌詞に差し替えられています。
光本幸子(1943-2013)

男はつらいよ 志村・笠1.jpg 第1作は、黒澤明監督映画の重鎮俳優・志村喬(諏訪飈一郎役)が出演し、さくらの披露宴のシーンで小津映画の重要俳優・笠智衆(御前様役)と同じ画面に収まっているというのが珍しいかもしれません(黒澤監督の「赤ひげ」('65年/東宝)にも2人共が出演しているが、それぞれ違った場面での登場となっている)。

男はつらいよ 〈シリーズ第1作〉.jpg 第1作がヒットして、山田洋次監督が松竹渥美清の泣いてたまるか 男はつらい0.jpgから3作撮ったところで好きな映画作りをしてもいいと言われて撮ったのが「家族」('70年)ですが、「家族」の構想は山田監督の中で製作の5年前からあったそうです。一方の「男はつらいよ」は、山田洋次監督が渥美清に最初に出会った時に「この役者は天才だ」と思ったそうで、おそらく、毎回脚本家が変わり、渥美清も毎回違う役柄で出演した連続テレビドラマ「渥美清の泣いてたまるか」('66‐'68年/TBS[全53話])(渥美清主演のほかに、青島幸男、中村嘉津雄主演の「泣いてたまるか」がそれぞれ14話と13話作られた)が二人の出会いではないかと思われますが、そこから急に構想が芽生えてきたのではないかと勝手に推測しています。「渥美清の泣いてたまるか」の最終回は山田洋次監督が脚本担当で、タイトルは「男はつらい」でした。やがて、これが独立した連続TVドラマ「男はつらいよ」('68‐'69年/フジテレビ[全26回])になったという流れでしょうか。
渥美清の泣いてたまるかVOL.20 [DVD]


お楽しみはこれからだPART2 223.jpg 「天井桟敷の人々」(1945)のところで、初めて観たのが高校1年の時で、その良さを理解できなかったように思うというのは正直か(その後何度か観て、少しずつ判ってきたとのこと)。山田宏一(1938年生まれ)氏が中学時代にこの映画を観てフランス語を習う決心をした話を引き合いに、著者は「バチスト(ジャン=ルイ・バロー)とガランス(アルレッティ)のベッドシーンで、カメラが窓の方にパンしてしまうのを不服に思ったのが初めて観たときの印象だから、ずいぶんと差がついてしまった」と書いているのがユーモラスです。個人的にも名作だと思いますが、3時間超の内容は結構「大河メロドラマ」的な要素もあったように思います。

「天井桟敷の人々」(1945)

 『お楽しみはこれからだ』―時々読み返してみるのも悪くないシリーズです。

「椿三十郎」.jpg椿三十.bmp「椿三十郎」●制作年:1962年●製作:東宝・黒澤プロダクション●監督・脚本:黒澤明●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「日日平安」●時間:96分●出演:三船敏郎/仲代達矢/司葉子/加山雄三/小林桂樹/田中邦衛/山茶花究/加東大介/河津清三郎/山田五十鈴/東野英治郎/入江たか子/志村喬/藤原釜足/夏木陽介/清水将夫 /伊藤雄之助/久保明/太刀川寛/土屋嘉男/団令子/平田昭彦●劇場公開:1962/01●配給:東宝 (評価★★★★☆)椿三十郎 [監督:黒澤明] [三船敏郎/仲代達矢] [レンタル落ち]

『丹下左膳余話 百萬両の壺』のDVD版のジャケット.jpg丹下左膳 百万両の壺 02.jpg「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」●制作年:1935年●監督:山中貞雄●脚本:三村伸太郎●潤色:三神三太郎●撮影:安本淳●音楽:西梧郎●原作:林不忘●時間:92分●出演:大河内傳次郎/喜代三/沢村国太郎/山本礼三郎/鬼頭善一郎/阪東勝太郎/磯川勝彦/清川荘司/高勢実乗/鳥羽陽之助/宗春太郎/花井蘭子/伊村理江子/達美心子/深水藤子●公開:1935/06●配給:日活(評価:★★★★☆)丹下左膳餘話 百萬兩の壺 [DVD]
                          
シリーズ第1作「男はつらいよ」三崎千恵子.jpg「男はつらいよ 〈シリーズ第1作〉」●制作年:1969年●監督・原作:山田洋次●脚本:山田シリーズ第1作「男はつらいよ」渥美清.jpg洋次/森崎東●製作:上村力●撮影:高羽哲夫●音楽:山本直純●時間:91分●出演:渥美清/倍賞千恵子/光本幸子/笠智衆/志村喬(特別出演)/森川信/前田吟/津坂匡章/佐藤蛾次郎/関敬六「男はつらいよ」志村喬.jpg男はつらいよ 第一作 dvd.png三崎千恵子/太宰久雄/近江俊輔/広川太一郎/石島戻太郎/志賀真津子/津路清子/村上記代/石井愃一/市山達己/北竜介/川島照満/水木涼子/谷よしの/●公開:1969/08●配給:松竹(評価:★★★★)

第1作 男はつらいよ HDリマスター版 [DVD]

●キネマ旬報 映画評論家による男はつらいよランキング
2006年1月上旬号のキネマ旬報より、映画評論家・著名人41人による男はつらいよのベストテン。
順位  作数    作品名        マドンナ
1位   1作   男はつらいよ        光本幸子
2位  15作  男はつらいよ 寅次郎相合い傘   浅丘ルリ子
3位   17作  男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け   太地喜和子
4位  11作  男はつらいよ 寅次郎忘れな草   浅丘ルリ子
5位   2作   続・男はつらいよ     佐藤オリエ
6位   5作   男はつらいよ 望郷篇      長山藍子
7位   38作  男はつらいよ 知床慕情      竹下景子
8位   25作  男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花  浅丘ルリ子
9位   9作   男はつらいよ 柴又慕情      吉永小百合
10位  32作   男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎    竹下景子
10位  48作   男はつらいよ 寅次郎紅の花     浅丘ルリ子

光本幸子 in「男はつらいよ〈第1作〉」('69年/松竹)/「必殺仕事人・激突!」('91-'92年/テレビ朝日系)
第1作 男はつらいよ 光本幸子.jpg 必殺仕事人・激突.jpg

泣いてたまるか1.jpg渥美清の泣いてたまるか 男はつらい2.jpg「泣いてたまるか」●制作:国際放映/松竹テレビ室/TBS●脚本:野村芳太郎/橋田壽賀子/早坂暁/家城巳代治/山田洋次/清水邦夫/泣いてたまるかe.jpg青島幸男/橋本忍/金城哲夫/小林久三/山中恒/深作欣二/木下惠介/山田太一/井出雅人/佐藤純彌/森崎東/桜井康裕/山根優一郎/鈴木尚之/掛札昌裕/光畑碩郎/高岡尚平/関沢新一/大川久男/渡邊祐介/大石隆一/大原清秀/高岡尚平/北野夏生/山内泰雄/入江昭夫/乙武英樹/灘千造/家城秀男/稲垣俊/大川タケシ/秋山透/内田栄一●演出:高橋繁男/山際永三/松野宏軌/中川晴之助/森崎東/今井正/深作欣二/降旗康男/福田純/円谷一/佐藤純彌/降旗康男/望月優子/山際永三/佐伯孚治/下村堯二/渡邊祐介/真船禎/松林宗恵/家城巳代治/飯島敏宏/瀬川昌治/神谷吉彦/枝川弘/平松弘至/小山幹夫/吉野安雄/大槻義一/鈴木英夫/井上博/香月敏郎●音楽:木下忠司(主題歌「泣いてたまるか」(作詞:良池まもる、作曲:木下忠司、歌:渥美清(渥美清主演の時))●出演(主人公):渥美清/青島幸男/中村賀津雄●放映:1966/04~1968/03(全80回)●放送局:TBS
   
天井桟敷の人々1.jpg天井桟敷.jpg天井桟敷の人々 ポスター.jpg「天井桟敷の人々」●原題:LES ENFANTS DU PARADIS●制作年:1945年●制作国:フランス●監督:マルセル・カルネ●製作:フレッド・オラン●脚本:ジャック・プレヴェール●撮影:ロジェ・ユベール/マルク・フォサール●音楽:モーリス・ティリエ/ジョセフ・コズマ●時間:190分●出演:アルレッティ/ジャン=ルイ・バロー/ピエール・ブラッスール/マルセル・エラン/ルイ・サルー/マリア・カザレス/ピエール・ルノワール●日本公開:1952/02●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★★★)●併映:「ネオ・ファンタジア」(ブルーノ・ボセット)

【2022年愛蔵版】

「●現代日本の児童文学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【652】 灰谷 健次郎 『兎の眼
「●か行の現代日本の作家」の インデックッスへ 「●わ 和田 誠」の インデックッスへ 「○現代日本の児童文学・日本の絵本 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (~80年代)」の インデックッスへ(「空中都市008」「銀河少年隊」「宇宙人ピピ」)「●冨田 勲 音楽作品」の インデックッスへ(「空中都市008」「銀河少年隊」「宇宙人ピピ」)「●て 手塚 治虫」の インデックッスへ(「銀河少年隊」)

「懐かしい未来図」。実際にはまだ未来図のままだが、少しずつ実現出来ている部分も。

空中都市008青い鳥文庫.jpg空中都市008 アオゾラ市のものがたり 1.jpg空中都市008 アオゾラ市のものがたり 2.jpg  完全読本 さよなら小松左京.jpg 
『空中都市008―アオゾラ市のものがたり』(1969/02 講談社)[装丁・挿絵:和田 誠
空中都市008 アオゾラ市のものがたり (講談社青い鳥文庫)』『完全読本 さよなら小松左京
空中都市008―アオゾラ市のものがたり 和田誠.jpg 空中都市008に引っ越してきた、ホシオくんとツキコちゃん。ここはいままで住んでいた街とはいろんなことがちがうみたい。アンドロイドのメイドさんがいたり、ふしぎなものがいっぱい......じつはこのお話、1968年に作者が想像した未来社会、21世紀の物語なのです。さあ、今と同じようで少しちがう、もうひとつの21世紀へ出かけてみましょう!(「青い鳥文庫」より)。

 1968(昭和43)年に「月刊PTA」(産経新聞発行)に「あおぞら市のものがたり」というタイトルで連載され、1969年に単行本刊行された際に「空中都市008」がタイトルとなった小松左京(1931-2011)のSF児童文学で、2003年版「青い鳥文庫」の作者まえがきで、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が小学田中 耕一 記者会見2.jpg空中都市008―アオゾラ市のものがたり.jpg生の頃この作品の愛読者だったことを知って感激したとあります(オリジナルは入手困難だが、「青い鳥文庫」版も和田誠氏の挿画を完全収録しているのがありがたい)。

 作品の中で主人公たちが月に行く場面がありますが、この作品が書かれた当時は米ソが宇宙進出競争をしていて、この作品の発表の翌年1969(昭和44)年にアメリカがアポロ11号で人類を月に送り込んでいます。この作品では月には既に都市があって、月で生まれ育った「月っ子」たちがいることになっています。

スケッチブック.jpg このように、この作品に出てくる様々な未来像は、21世紀になっている現在からみてもまだ先の「未来像」のままであるものが多くありますが、方向性として全然違っているというものは少ないように思われ、そこはさすが科学情報に精通していた作者ならではと思われます。子どもの頃に思い描いていたという意味で、「懐かしい未来図」という言葉を思い出してしまいますが、あの時の"未来図"が本当ならば今頃スゴイことになっている? (人々はエア・カーや動く歩道で移動しているとか...)。実際にはそれほど変っていないかなあ。但し、少しずつ実現出来ている部分も一部あるなあと思いました。

スケッチブック

「ぼくら」1969年7月号付録.jpg 例えば、ホシオたちの家族が移り住んだ空中都市は、「50かいだてアパートの36かい」ということになっていますが、今ならそういうところに住んでいる人はいるなあと(但し、ホシオたちの場合は「可動キャビン」方式で家ごと引っ越してきたのだが)。

 「ファクシミリ・ニュース」というのは今で言えばインターネットによるニュース配信であり、1000人乗れるという「ジャンボ・ジェット」もそれに近いところまでいっているし、「エアクッション・カー」という車輪を使わない鉄道は、今で言うリニアモーター・カーでしょうか。

「ぼくら」1969年7月号付録

 道路の「標識システム」は今で言うカーナビゲーションに近いかも。「電子脳」(今で言う「コンピュータ」)が故障して、都市の交通システムが麻痺してしまうという話は、例えばシステムの不具合で金融機関のATMが仕えなくなったといった近年の出来事を思い出させ、クルマが使えないので人々が皆、久しぶりに自転車に乗ってみたらこれが意外と良かったというのも、エコ・ブームや健康ブームを想起させます。

 この物語はNHKで連続人形劇としてテレビドラマ化され、月曜から金曜の18:05-18:20の放送時間帯で1年間にわたり空中都市008 グラフNHK.jpg放映されました(「空中都市008」1969年4月-1970年4月、全230回)。ひ番組の絵葉書.jpgと続きの話は原則として1週間単位で終わったため、原作のエピソード以外に多数の書き下ろしがあります。「チロリン村とくるみの木」(1956年-1964年、全812回)「ひょっこりひょうたん島」(1964年-1969年、全1,224回)に続くNHKの平日夕方の人形劇シリーズ第3弾でしたが、技術的にはよく出来ていたように思います。ただ、人形やセットに費用がかかり過ぎたのと、指向としては「サンダーバード」(1965年-1966年)などを目指したため人形がリアルになり過ぎて「ひょっこりひょうたん島」のキャラのような可愛さが足りず、視聴率が伸び悩んだということもあって1年足らず(全230回)で放送終了となりました(次番組「ネコジャラ市の11人」(1970年-1973年、全668回)と比べても放送回数はかなり少なかったことになる)。
番組の絵葉書

銀河少年隊 title.jpg銀河少年隊01.jpg 因みに、「空中都市008」は人形美術及び操作を糸あやつり人形の竹田人形座が担当しましたが、同じ竹田人形座による人形美術及び操作の担当でこれに先行するものにとして、NHKの日曜の17:45-18:00の15分の時間帯(後に木曜の18:00-18:25の25分の時間帯に変更)で、「銀河少年隊」(1963年4月-1965年4月、全92回)がありました(さらにその前に「宇宙船シリカ」(1960年9月-1962年3月、全227回)というのもあった)。「銀河少年隊」は人形芝居と銀河少年隊 sono.jpg手塚治虫2.jpgアニメーションを合成したもので、原作は手塚治虫(因みに「宇宙船シリカ」の原作は星新一)。太陽のエネルギーが急速に衰え、地球を含めた太陽系の惑星は極寒に襲われ、数年後には太陽系の全生物が死滅してしまうという危機を救うために、花島六平少年率いる銀河少年隊が活躍するというもの。アニメ部分は虫プロの作品を多く手がけてきた若林一郎が脚色をして、スケールの大きい物語となって④冨田 勲.jpgおり、金星人の美少女アーリアも登場、宇宙服や宇宙船の操縦席など小道具もよくできていたように思いますが、竹田喜之助(1923-1979)って相当な"凝り性"だった? 音楽は「銀河少年隊」「空中都市008」とも富田勲(1932-2016)が担当しています(「宇宙船シリカ」も富田勲)。

地球になった男 (新潮文庫 こ 8-1)
『地球になった男.jpg小松 左京(0.jpg 「空中都市008」原作者の小松左京は「空中都市008」放送終了時の頃は、日本万国博覧会のサブ・テーマ委員、テーマ館サブ・プロデューサー(チーフ・プロデューサーは岡本太郎)として1970年の日本万博開催の準備に追われており、放送終了を残念がる暇も無かったのではないかな。『地球になった男』('71年/新潮文庫)などの短編集の刊行もあり、'73年には『日本沈没』(カッパ・ノベルズ)で日本推理作家協会賞を受賞するなどした一方で、テレビなどにもよく出ていましたが、この人、この頃が一番太っていて、すごくパワフルな印象がありました。
  
中山千夏(1970)/初音ミク(2010)        iPad 版「空中都市008」音楽(唄:初音ミクvs中山千夏)
空中都市008 アプリ版 .jpg中山千夏(1970).jpg初音ミク.jpg この作品は2010年にiPad専用のオーディオビジュアルノベルとしてApp Storeで配信され、作中の登場人物の台詞が声優によって読み上げられるほか、物語の進行に合わせたBGMが再生され、かつてのNHKの放送で番組主題歌を歌った中山千夏が初音ミクとコラボして誕生したテーマソングや、小松氏のボイスコメントなども収録されているそうですが、「まさ小松左京マガジン 第46巻_.jpg小松左京マガジン47.pngか本がこんなことになっちまうとは、私自身がSF作家のくせに思いもよりませんでした」とのコメントを寄せた小松左京氏は、その翌年2011年の7月に肺炎のため80歳で亡くなっています(健康時にはタバコを1日3箱吸うヘビースモーカーだった)。

 「小松左京マガジン」が没後もしばらく刊行され続けていたことなどからみても、小松左京やその作品には当時も今も根強いファンがいるものと思われます。

小松左京マガジン 第46巻」(2012.09)/「小松左京マガジン〈第47巻〉」(2012.12)

宇宙人ピピ.jpg 因みに、小松左京原作で「空中都市008」より以前にテレビ番組になったものには「宇宙人ピピ」(1965年4月-1966年3月、全52回)があります。宇宙人"ピピ"と彼を取り巻く地球人との騒動を描いたコメディドラマで、ピピ宇宙人ピピ シングル .jpgはアニメーション、円盤は写真で描かれていて、日本で最初の実写とアニメの画面合成によるテレビドラマシリーズです(小松左京が大阪から原稿を送り週1回の放送を1人でこなすのは困難だったことから、脚本は平井和正との合作となっている)。"ピピ"の声は中村メイコで、主題歌の作曲は「銀河少年隊」('63年)、「空中都市008」('69年)と同じく冨田勲(1932-2016)でした。NHKのアーカイブで観たら、形式はコメディなのですが、中身は子どもの塾の問題とか扱っていて、結構シリアスだった?

空中都市008(中山千夏).jpg「空中都市008」●脚本:高垣葵●音楽:冨田勲(主題歌:中山千夏)●人形美術及び操作:竹田人形座●原作:小松左京●出演(声):里見京子/若空中都市008 [DVD].jpg山弦蔵/太田淑子/平井道子/山崎唯/藤村有弘/松島トモ子/熊倉一雄/古今亭志ん朝/松島みのり/大山のぶ代●放映:1969/04~1970/04(全230回)●放送局:NHK NHK人形劇クロニクルシリーズVol.3 竹田人形座の世界~空中都市008~ [DVD]

 空中都市0083.jpg


銀河少年隊 02.jpg「銀河少年隊」●脚本:若林一郎●音楽:冨田勲●人形製作:竹田喜之助(竹田人形座)●アニメーション:虫プロダクション●原作:手塚治虫●出演(声):安藤哲(ロップ[第1部])/白坂道子(ロップ[第2部以降])/若山弦蔵(花島博士[第1部])/天地総子(ポイポイ[第1部])/永井一郎(ダー[第1部]、テックス刑事[第2部])/安田まり子/相模武/太田淑子/高見理沙/木下喜久子/滝口順平/牟田悌三(語り[第1部])●放映:1963/04~1965/01(全92回)●放送局:NHK

宇宙人ピピ   .jpg宇宙人ピピ 00.jpg「宇宙人ピピ」●脚本:小松左京/平井和正●音楽:冨田勲(主題歌:中村メイコ)●人形製作:竹田人形座●原作:小松左京●出演(声):中村メイコ/安中滋/北条文栄/福山きよ子/梶哲也/安田洋子/小林淳一/大山尚雄/黒木憲三/酒井久美子/峰恵研/蔭山昌夫/加藤順一/乾進/中島浩二/若柳東穂/大山のぶ代/小泉博●放映:1965/04~1966/03(全52回)●放送局:NHK
宇宙人ピピ38話

【1969年単行本[講談社]/1981年文庫化[角川文庫]/2003年再文庫化[講談社・青い鳥文庫]】
  

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20年以上続いたシリーズの記念すべき単行本第1冊。著者はビリー・ワイルダーがお好き?

お楽しみはこれからだ  1 - コピー.jpg和田 誠 氏.jpg 和田 誠 氏 麗しのサブリナ bl.jpg 麗しのサブリナ 3.jpg 
お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ』「麗しのサブリナ [Blu-ray]」Humphrey Bogart, Audrey Hepburn, William Holden

 本書は、「キネマ旬報」に1973(昭和48)年から連載されたもので、単行本で全7冊あるシリーズの第1作目です。サブタイトルにあるように、映画の名セリフを素材に映画批評と言うよりエッセイ風に書いていますが、それにイラストを組み合わせるスタイルになっています。

 和田誠(1936年生まれ)氏は古い映画を非常によく観ていて(まあ、単行本初版が1975年であるため、それより以前の映画の話しか出てこないわけだが)、しかも、ビデオもそう普及していない時代に、よくセリフを記憶しているものだなあと感心させられます。

 一部シナリオに頼ったりしているそうですが殆ど自分の記憶頼みで、従って連載中に映画通の読者や評論家から誤りを指摘されることもあったとのことですが、単行本化に際して間違っているところは修正したとのこと。それにしてもやっぱりスゴイ記憶力だなあと。故・淀川長治なども尋常でない記憶力だったようですが、本当に映画が好きで、何回も観ているのでしょう。

 自分があまり面白いと思わなかった映画は、その理由も含め正直に書いているのもいいです。一方、この人の一番好きな監督は、表紙に「サンセット大通り」('50年)がきていることから、やはりビリー・ワイルダーでしょうか(自分も個人的に高く評価している監督なのだが)。しかしながら、この本で最も多く登場する作品は「カサブランカ」('43年)で、やはりあの作品は名セリフの宝庫だということなのでしょう。

麗しのサブリナ tirashi.png ボギーことハンフリー・ボガートが出演したビリー・ワイルダー作品では「麗しのサブリナ」('54年)があり、ここではボガートの「ぼくをみてください。神経痛の大学生だ」というセリフを取り上げていますが、堅物の兄ボガートが、遊び人の弟ウィリアム・ホールデンから女の子オードリー・ヘプバーンを引き離すために自分が代わりにデートする、その際に無理矢理若作りしている自分のことを自嘲気味に父親に言うセリフです。

麗しのサブリナ b&h.jpg この作品は、ボガートがコメディタッチの演技を見せ(しかもラストは女の子を追いかけるために飛んでいく)、三島由紀夫.jpgそれが彼にあまりに似合っていないのではないかということで、一般の評価はそう高くないように思いますが、本書では、三島由紀夫がこのセリフを言うボガートを評して、「これ以上の適役はなかろう」と当時の「スクリーン」誌に書いていることを取り上げ、「こんな文章を読むと、とてもあのような死に方をする人とは思えないのだ」と書いているが印象深かったです(和田氏がこの文章を書いている時は、三島の自決からまだ3年と経っていない)。

麗しのサブリナ32.jpg 「麗しのサブリナ」は、サミュエル・テイラーの舞台劇を映画化したもので、「ローマの休日」に続くヘプバーン主演第2作。運転手の娘が何故ジバンシィを着ているのかというのはあるけれ麗しのサブリナ02.jpgど(ジバンシィがヘプバーンのドレスを最初にデザインしたのがこの作品だが、ジバンシィはヘプバーンと顔を合わせるまで、自分が衣裳を担当する女優はキャサリン・ヘプバーンだと思っていた)、モノクロのせいか、ヘプバーンの美しさ、可憐さという点では「ローマの休日」と並んで一番の作品ではないかと思います。でも、ビリー・ワイルダーの演出も結構しっかりしていて、そこがまた見所だったのかも(因みに、ボガートは撮影中、ヘプバーンの演技の未熟さにややウンザリさせられていたという話もある(エドワード・ルケィア『ハリウッド・スキャンダル』より))。

 久しぶりの読み直しで、いろいろなことを思い出させてくれる本―と言うより、殆ど忘れてしまっていたなあという感じで実質的には初読に近かった? こういう本って、手元に置いておいて、時々ぱらぱらめくって楽しむのがいいのでしょう。ただ、回ごとの繋がりが良いせいもあって、読み始めると止まらなくなるという面もあります。

 一冊に連載30回分が纏められているそうで、連載1回につき8ページ(「キネ旬」誌上では4ページ)というのは結構きつかったのではないでしょうか。因みに第7巻(PART7)までの累計ページ数は1,757ページで、その第7巻は1995年刊行されていますから、第1巻である本書の刊行から20年、連載としては22年続いたことになりますが、連載を終える際に和田氏は、これでもう映画を観なくなってしまうのではと自分で心配したというから、連載が新たに映画を観たり古い映画を観直したりする動機づけになっていた面はあるのでしょう。

SABRINA 1954 08.jpg麗しのサブリナ dvd.jpg「麗しのサブリナ」●原題:SUBRINA●制作年:1954年●制作国:アメリカ●監督・製作:ビリー・ワイルダー●脚本:ビリー・ワイルダー/ サミュエル・テイラー/アーネスト・レーマン●撮影:チャールズ・ラング・Jr●音楽:フレデリック・ホランダー●原作:サミュエル・テイラー●時間:113分●出演:オードリー・ヘプバーン/ハンフリー・ボガート/ウィリアム・ホールデン/ジョン・ウィリアムズ/マーサ・ハイヤー/ジョーン・ヴォーンズ/ウォルター・ホールデン●日本公開:1954/09●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター (85-04-27)(評価:★★★★)●併映「失われた週末」(ビリー・ワイルダー)
麗しのサブリナ [DVD]

お楽しみはこれからだ  vol1.jpg

【2022年愛蔵版】

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安西氏が急逝した今となっては貴重なコラボ。文庫化されて入手し易く気軽に読めるのが有難い。

『青豆とうふ』.jpg青豆とうふ.jpg 青豆とうふ 文庫.jpg 安西 水丸.jpg   『パートナーズ』[08年].jpg
青豆とうふ』['03年] 『青豆とうふ (新潮文庫)』['11年]安西 水丸(1942-2014.3.19/享年71)『パートナーズ』['08年]

 今年('14年)3月19日に脳出血のため71歳で亡くなったイラストレーターの安西水丸(1942年生まれ)氏と、同じくイラストレーターの和田誠(1936年生まれ)氏のリレーエッセイで、安西氏が文章を書くときは和田氏がイラストを描き、和田氏が文章を書くときは安西氏がイラストを描くという、この二人ならではのコラボレーションです。

チャペック「ロボット」2.jpg イラストレーターが二人寄れば同じことは出来そうにも思えますが、やはりそこはこの二人ならではと言うか、最初が「ハゲの話」で始まって、最後も「ハゲの話」で終わっていて、共にショーン・コネリーの話になっているという循環構造を成しているのも洒落ていますが、チャペックの「ロボット」から美空ひばり、キングコング、市原悦子、寺山修司、怪奇的体験、ジェイムズ・スチュアート、IVYファッション、映画で観た景色...と、とにかく文章や話題のつなぎ方が上手いなあと思います。

村上春樹 09.jpg 二人の文章の上手さは、あとがきの村上春樹氏も絶賛していますが、この本のタイトルは、安西氏が村上氏にタイトルをどうしょうか相談した時に二人が中華料理店で食べていたのが「青豆とうふ」だったというところから村上氏が「青豆とうふ」と名付けたということで、こうした"軽さ"と言うか"ユルさ"もいいなあと思いました。

 但し、ユルい話も結構多い中で、こと映画の話になると二人ともかなりマニアックになるのが面白いです。和田氏が高校時代にジェイムズ・スチュアートに絵入りのファンレターを出したら返事が来たというのなどは、その典型でしょうか。

 読んでいるうちに、今どちらが文章を書いていてどちらがイラストを描いているのか判らなくなるくらい、二人の文章と絵が次第に似てくると言うか、溶け込んでくるのですが、これ、計算してやっているとすればスゴイなあと。

 しいて言えば、安西氏が和田氏を描くことは少なく、描いてもあまり真正面から捉えないのに対し、和田氏は安西氏の正面から見た無精髭のある顔を描いていて、それでふと今和田氏が文章を書いているんだなとか思い出したりするのですが、この辺りは業界の先輩・後輩の関係とか影響しているのかなあ。

 この二人はその後、『パートナーズ』('08年/文藝春秋)でもコラボしており、こちらは「ライバルともだち」と「ことわざバトル」の二分冊になっていますが、例えば「ことわざバトル」の場合は、二人で諺を選び、それぞれについて文章担当を決めた上でイラストは半分ずつ受け持つという試みをしていて(一枚の紙に、先に描く方が左側に描き、描き終ったところで絵を交換し、空いている右側に絵を描く)、これを見ても二人の絵は似ているなあという気がします。

 どちらかと言うと、安西氏の方が和田氏の画風を意識してトーンを揃えていうような気がするのですが、他の作品におけるそれぞれの画風を十分にチェックしたわけではないので何とも言えません。

 ただ、安西氏が急逝して、こうしたコラボの機会が将来に渡って望めなくなったことは残念であり、寂しく思います。今となっては貴重なコラボですが、文庫化もされて入手し易く気軽に読めるのが有難いです。

寺山修司 by 安西 水丸/和田 誠
青豆豆腐_0406.JPG青豆豆腐_0407.JPG
【2011年文庫化[新潮文庫]】

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"ブザー"にしないで「ノックの音が」としたことで、古びずに済んでいる。

『ノックの音が』毎日新聞社(65).jpgノックの音が昭和40年初版 星新一毎日新聞社.jpgノックの音が 講談社文庫.jpg ノックの音が 新潮文庫.jpg 星新一.jpg 星 新一
ノックの音が (1965年)』['65年/毎日新聞社(装幀・挿絵:村上 豊)]/『ノックの音が (講談社文庫)』['72年(カバー:村上 豊)]/『ノックの音が (新潮文庫)』['85年/新潮文庫(カバー:真鍋 博)]

 星新一(1926‐1997)の「ノックの音が」で始まる15のショートショート集で、'65(昭和40)年に毎日新聞社から単行本が刊行され、'71年に講談社・ロマン・ブックス、'72年の講談社文庫版、'85年には新潮文庫版が刊行されています。

ようこそ地球さん.jpgおせっかいな神々.jpgエヌ氏の遊園地.jpgボッコちゃん.jpg 以前読んだ星新一作品としては、『ようこそ地球さん』('61年・新潮社/'72年・新潮文庫)、『おせっかいな神々』('65年・新潮社/'79年・新潮文庫)、『エヌ氏の遊園地』('66年・三一新書/'71年・講談社文庫/'85年・新潮文庫)、『ボッコちゃん』('71年・新潮文庫)などがあようこそ地球さん 新潮文庫.jpgおせっかいな神々 新潮文庫.jpgエヌ氏の遊園地 新潮文庫.jpgりますが、新潮文庫だけでなく講談社文庫や角川文庫(『きまぐれロボット』など)にも初期作品集が収められていました。

上段:『ようこそ地球さん―ショート・ショート28選 (1961年)』『おせっかいな神々 (1965年)』『エヌ氏の遊園地』['71年/講談社文庫]/『ボッコちゃん』['71年/新潮文庫(旧カバー版)](イラスト:真鍋 博/ヒサクニヒコ) 下段:『ようこそ地球さん (新潮文庫)』『おせっかいな神々 (新潮文庫)』『エヌ氏の遊園地 (新潮文庫)』(何れも新カバー版(イラスト:真鍋 博))

きまぐれロボット250.jpg 風俗描写を"禁忌的"と言っていいまでに排し、「時代に影響されない」寓話的な世界を展開した作風が知られていますが、このショートショート集などはまさに今読んでも"現代"の物語として通用するものであり、そのことを実証しているように思います。

きまぐれロボット (角川文庫 緑 303-3)』(旧カバー版(イラスト:和田 誠

 更に、登場人物がやはり作者ならではの乾いた感じのキャラクターばかりで、自らが課した「ノックの音が」で始まるというルールに沿って、いきなり部屋に美女が現われたりするなど、大人のイマジネーションを掻き立てるようなシチュエーションもありながら、いやらしさやウエット感が全然ないのも、星新一作品の特徴をよく示しています。
       
ボッコちゃん (新潮文庫)』(イラスト:真鍋 博)  
ボッコちゃんdc.jpg星 新一02.jpg 「時代に影響されない」ということについては、新潮文庫の後書き('85年新潮文庫版)で作者自身が、「現在ならブザーの方が適切な場合もあるのではないだろうか」としつつも(ノックだとあまりにクラシックな感じがするということか?)、「ノックだと、良くも悪しくも、人間的な何かがある」「ブザーだと、電線的なるものが中間にあって、人間性が薄れてしまう」と書いていますが、'85年当時は玄関などで呼び出すとすればブザーが主流だったのでしょうか。今ならばむしろブザーではなく「チャイムの音が」ということになるのでしょう。

ノックの音が 講談社ロマンブックス.jpg ブザーにしないで「ノックの音が」とすることで、却って「作品は風俗の部分から、まず古びていくのである」との轍を踏まずに済んでいるように思いました。

講談社ロマンブックス『ノックの音が』['71年2月/装幀:和田 誠

星新一のおすすめ名作ショートショート15選(個人サイト)
1.『ノックの音が』
nokkunootoga.jpg2.『悪魔のいる天国』
3.『午後の恐竜』
4.『ようこそ地球さん』
5.『妄想銀行』
6.『おせっかいな神々』
7.『妖精配給会社』
8.『マイ国家』
9.『白い服の男』
10.『かぼちゃの馬車』
11.『おのぞみの結末』
12.『ごたごた気流』
13.『ちぐはぐな部品』
14.『エヌ氏の遊園地』
15.『ボッコちゃん』
(あくまで15選であり、15選内のランキングではない)


 【1965年単行本(新書版)[毎日新聞社]/1971年ノベルズ版[講談社ロマンブックス]/1972年文庫化[講談社文庫]/1985年文庫化[新潮文庫]】

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パロディ満載、イラストも文章も楽しめ、特に、戯作「雪国」では文才が光る。

倫敦巴里2.jpg倫敦巴里1.jpg倫敦巴里 (1977年)』話の特集 倫敦巴里2.jpg

I倫敦巴里4.jpg 著者が「話の特集」('66年創刊)に'66(昭和41)年から'77(昭和52)年にかけて発表した様々なパロディを一冊の本にしたものです('77年の刊行)。パロディとしてのイラストも文章も何れも理屈抜きで楽しく、特に文章パロディのセンスには舌を巻きます。

 冒頭の「暮しの手帳」のパロディ「殺しの手帳」には有名ミステリの多くのトリックが参照されていて、どの作品だったか思い出すのが楽しく(全部わかれば相当のミステリ通、と著者自身が述べています)、また、イソップの「兎と亀」の寓話を、ジョン・フォード、市川昆から黒沢明、フェリーニまで20人以上の内外の監督の作風に合わせて脚色してみせていて、こちらも、どの作品から引いているかというマニアックな楽しみ方ができます(本人弁によると、マニアックの度が過ぎないようにするのが難しいとか)。

倫敦巴里3.jpg その他にも、様々なパロディのオンパレードですが、何と言っても圧巻なのは、'70年から'77年の間5回に分けて掲載された、川端康成('68年ノーベル文学書受賞)の「雪国」の冒頭部分を、多くの文筆家らの作風に合わせて偽作したもの。

 とり上げられているのは、庄司薫、野坂昭如、植草甚一、星新一、淀川長治、伊丹十三、笹沢左保、永六輔、大薮春彦、五木寛之、井上ひさし、長新太、山口瞳、北杜夫、落合恵子、池波正太郎、大江健三郎、土屋耕一、つげ義春、筒井康隆、川上宗薫、田辺聖子、東海林さだお、殿山泰司、大橋歩、半村良、司馬遼太郎、村上龍、つかこうへい、横溝正史、浅井慎平、宇能鴻一郎、谷川俊太郎の総勢32名で、イラストが本業の著者の文才が光っていて、これは「あなたのライフワークですか」と人から聞かれたこともあったというぐらいの凝りよう。

 これだけでもこの本の価値は高いような気がし、初版本ではないけれど、所有していることを少し自慢したくなるような本。著者は'94(平成6)年に第42回「菊池寛」賞を受賞しており、この賞は挿画家(画家・漫画家・イラストレーターを含む)では過去に、横山泰三、岩田専太郎、近藤日出造、山藤章二、加藤芳郎、中一弥らが受賞、著者より後では、東海林さだお、風間完らが受賞しています。

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伝わる時代の雰囲気、キャラクターやイカサマ対決の面白さ。

麻雀放浪記1.bmp 麻雀放浪記2.bmp 麻雀放浪記3.bmp 麻雀放浪記.bmp 麻雀放浪記.jpg 阿佐田哲也.jpg
 『麻雀放浪記』 (全4巻)/『麻雀放浪記』 角川文庫(全4巻) (表紙イラスト:黒鉄ヒロシ)/阿佐田哲也

麻雀放浪記  .jpg '69年に「週刊大衆」で連載が始まった阿佐田哲也(1929‐1989/享年60)のギャンブル小説ですが、「青春編」「風雲編」「激闘編」「番外編」と続き、彼の代表作となりました。この作品のヒットのお陰で、当時倒産の危機にあった双葉社は経営が持ち直して新社屋を建てたというから、昭和40年代って麻雀ブームだったんだなあと、改めて思いました。

 しかしこの小説で描かれているのは昭和40年代ではなく、終戦後まもなくの時代。上野のドヤ街をはじめ、その時代の情景やそこに生きた人々の息吹が、麻雀という勝負事を通して、圧倒的シズル感をもって伝わってきます。さすが、後に「色川武大」の本名で直木賞をとることだけはある筆力!

 ギャンブル小説なのでほとんど全編ヤクザな世界を描いたものなのですが、同時に、(明らかに阿佐田哲也がモデルであるところの)〈坊や哲〉の子どもから大人への成長物語にもなっていまダブル役満(小四喜・字一色).jpgす。坊や哲以外にも、ドサ健、上州虎、出目徳といった魅力的なキャラが多く登場し、随所で紹介されるイカサマ技も面白かったです。最初から、お互いにイカサマで最高の手で上がるこ32000 (○ 人和)IMG_3960.JPGとしか考えていない麻雀とか、自分の情婦から果ては自宅の権利書まで賭けて、何と死人が出ても続けている麻雀って、「ちょっとスゴ過ぎ」という感じでした(個人的には、麻雀ゲームで「ダブル役満」とか「人和」は上がった経験はあるが、この小説の登場人物が狙う最高の手「天和」で上がる確率は、まともにやった場合およそ33万分の1で、毎日半荘5回ずつ打ったとしても61年に一度しか和了できない計算になるそうだ。因みに天和は、役満の複合を認めるルールで親なら96000点、子なら64000点で、点数的にはダブル役満と同じ)。

麻雀.bmp麻雀放浪記2.jpg麻雀放浪記3.jpg イラストレーターの和田誠氏の監督により'84年に映画化されましたが、配役がまずまずハマっていて、白黒で撮影したのも成功していたと思います(和田誠氏の初監督作品とよく言われるが、和田氏は60年代に「殺人 MURDER!」('64年)という短篇アニメーション映画を自主制作・監督している)。
映画「麻雀放浪記」('84年/東映)(映画パンフ :和田誠

高品格.jpg 〈ドサ健〉の鹿賀丈史も悪くなかったのですが、〈出目徳〉の高品格が特に良かったです(麻雀をしていて九蓮宝燈を和了ったまま死んでしまうのはこの〈出目徳〉)。「大都会」などのドラマに刑事役で多く出演した俳優で、俳優になる前はプロボクサーを目指していたらしいですが、味のあるバイプレーヤーでした(1984年・第6回「ヨコハマ映画祭」作品賞受賞作)。

『麻雀放浪記』(1984)2.jpg『麻雀放浪記』(1984).jpg「麻雀放浪記」●制作年:1984年●製作:角川春樹事務所●監督:和田誠●脚本:和田誠/澤井信一郎●撮影:安藤庄平●原作:阿佐田哲也(色川武麻雀放浪記06.jpg大)●時間:109分●出演麻雀放浪記49.jpg:真田広之/鹿賀丈史/高品格/加藤健一/名古屋章/大竹しのぶ/加賀まりこ/内藤陳/天本英世/笹野高史/篠原勝之/城春樹/佐川二郎/村添豊徳/木村修/鹿内孝/山田光一/逗子とんぼ/宮城健太郎●劇場公開:1984/10●配給:東映(評価★★★★)

加賀まりこ(オックスクラブのママ・八代ゆき)/加藤健一(女衒の達)
麻雀放浪記 kaga.jpg麻雀放浪記 加藤.jpg麻雀放浪記1 青春篇.jpg
麻雀放浪記 1 青春篇 (1) (文春文庫)』['07年]

田中小実昌・色川武大(阿佐田哲也)・殿山泰司
田中小実昌 色川武大 殿山泰司 .jpg田中小実昌(1925-2000/74歳没)
色川武大(1929-1989.4.10/60歳没)
殿山泰司(1915-1989.4.30/73歳没)

【1979年文庫化[角川文庫(全4巻)]/2007年再文庫化[文春文庫(全4巻)]】

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