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組織及びそこに属する人間の生々しい縮図、終盤の畳み掛けるような展開で一気に読ませる。

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 2012 (平成24) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2013 (平成25) 年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位。2014 (平26) 年「ミステリが読みたい!」(国内編)第2位。雑誌「ダ・ヴィンチ」の2013年上半期「BOOK OF THE YEAR」一般小説ランキング部門1位。2013年・第10回「本屋大賞」第2位。

 D県警の広報が記者クラブと加害者の匿名問題で対立する中、昭和64年に起きたD県警史上最悪の重要未解決事件「翔子ちゃん誘拐殺人事件」通称「64(ロクヨン)」の時効が迫り、警察庁長官による視察が1週間後に行われることが決定するが、長官視察を巡って刑事部と警務部は対立状態に突入、一方、事件の遺族は長官慰問を拒んでいる。刑事部と警務部の鉄のカーテンの狭間に落ちた広報官・三上義信は己の真を問われる―。

 著者7年ぶりの長編は、デビュー作品集『陰の季節』から連なる「D県警」もので、今回の主人公は、D県警広報官三上義信46歳。若い頃1年だけ広報室にいて、あとはずっと刑事部で働き、捜査二課で実績を築いてきたのが、20年ぶりに広報に出戻り勤務になっているという設定です。

 おおよそ650ページの長編ですが、一気に読ませる筆力はさすがです。前半から中盤にかけては、広報と記者クラブの対立と併せて、D県警内の刑事部と警務部は組織としての権力抗争、自らの出世や地位保全を狙って画策に走る個々人、飛び交う怪文書情報、といった具合で、本人たちにとっては大事なんだろうけれど、外部から見れば所詮コップの中の戦争ではないかと思えなくもないものの、ついつい引き込まれてしまうのは、企業組織などに属したことがある身には、そこに組織及びそこに属する人間の生々しい縮図が見て取れるためでしょう。

 終盤から一気に事件の展開は加速し、それまで引っ張ってきた分、この"畳み掛け"感は効いている感じ。但し、カタルシス効果という面で、どうなんだろうか、この結末は。主人公の娘が行方不明になっているという状況も、完全に宙に浮いたままの終わり方になっているし。でも、丁度10年前に、同じく「週刊文春ミステリー ベスト10」と「このミステリーがすごい」で共に1位になった『半落ち』よりは面白かったように思います。

 当初、版元のサイトでのあらすじ紹介で、物語の終盤にならないと判明しないことが最初の1、2行の内に書かかれていて、これはミステリのあらすじ紹介としてはマズイよなあと思ったけれど、後で削ったようです。

【2015年文庫化[文春文庫(上・下)]】

NHK土曜ドラマ「64(ロクヨン)」['15年(全5回)]主演:ピエール瀧(テレビ初主演)(2015)/映画「64(ロクヨン)」(前編・後編)主演:佐藤浩市(2016)
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個人的には、「真相」「他人の家」「18番ホール」の順で良かった。

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真相』(2003/05 双葉社)『真相 (双葉文庫)』「横山秀夫サスペンス・真相」['05年/TBS]小林稔侍/中田喜子

 「真相」「18番ホール」「不眠」「花輪の海」「他人の家」の5編を収録していますが、「警察モノ」というイメージが強い著者としては、登場人物が税理士から前科者までバラエティに富んでいて、その部分では幅を感じました。

 一方で、過去に傷を持つ主人公たちのキャラクター設定が似ていて、そう言えばリレー方式で主人公が代わる『半落ち』('02年・講談社)の登場人物も、皆何となくキャラクターが似ていたなあと。 その古傷が、ある日突然、或いはじわ〜っと裂けてくるという展開までも、それれぞれの話が似ていますが、この点は、敢えてそういうプロットで統一した連載だったのかもしれません。

 個人的には、「真相」「他人の家」「18番ホール」の順で良かったです。「真相」は、息子を殺した犯人が10年ぶりに捕まって新事実が浮かび上がる話で、主人公のやるせない気持ちがよく描けていると思いました。2005年に小林稔侍主演でドラマ化され、「被害者風」を吹かす主人公にはあまり感情移入できないのですが、まあ、それは、結末で変わってきます。

 「他人の家」は、前科のある男の、大家にそのことが知れることから始まる苦悩を描いたもので、めぐり巡って犯罪同士がカチ合うようなプロットが面白かったです。「18番ホール」も「他人の家」同様、現実に起こりうる可能性よりも、筋立ての妙でしょうか。著者は、松本清張賞を受賞してデビューした作家ですが、清張の短篇にもこうした趣向のものがあったような気がします。

 この2編は、新聞やマスコミの「言論の暴力」や「情報の垂れ流し」問題にも触れていて、元新聞記者の著者ならでの視点を感じます。村長選挙に立候補することになった男の話「18番ホール」は、男が猜疑心の渦にハマっていく様がうまく描かれていたけれど、ラストはやや寓話的過ぎる印象も。

横山秀夫サスペンス「真相」.jpg「横山秀夫サスペンス・真相」●監督:榎戸耕史●プロデューサー:杉本明千世●脚本:加藤正人徹●原作:横山秀夫●時間:95分●出演:小林稔侍/中田喜子/岩崎加根子/酒井彩名/伊澤健/高橋長英/デビッド伊東/矢島健一●放映:2005/05/02(全1回)●放送局:TBS

 
   
 【2006年文庫化[双葉社文庫]】

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手続き上の瑕疵と作品の価値。直木賞選考委員会の曖昧な態度。

半落ち.jpg 横山秀夫 半落ち.jpg半落ち』['02年] 半落ち2.jpg半落ち (講談社文庫)』['05年]

 2002 (平成14) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2003 (平成15) 年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位。

 妻を殺し自首した警察官。彼はなぜ殺したのか、そして彼はなぜ死ななかったのか。殺害から自首までの2日間、彼はどこで何をしていたのか―。

 刑事、検事、記者、弁護士、判事、刑務官と6人の話をリレー方式で繋いでいく方式にズズッと引き込まれましたが、人物造詣が何れも似ているため、後半少しだれました。極端に言えば、バトンを渡した人とバトンを受け取った人が職業が違うだけで、人物像はほぼ同じなのです。しかし、作品の良し悪しに対する個人的な評価と世間の評価とのギャップとは別に、直木賞の選考には煮え切らないものを感じました。

 選考では、11名の委員中、肯定2、中立2、否定7。北方謙三氏が指摘した"手続き上の問題"を直接の否定理由に挙げた人はいません。ただし、林真理子氏や阿刀田高氏のように2次的理由として挙げた人や津本陽氏のように肯定派でありながら強く推すことをしなかった人もいます。全体としては、北方謙三氏の「関係団体に問い合わせたら、主人公の警部の動きには現実性がない(受刑者には骨髄提供が許可されていない)ことがわかった」という報告に引っ張られた気がしないでもないですが、真相はよく分かりません。

 結局、この点に北方謙三氏以上にこだわったのは林真理子氏で、この作品が、「事実誤認」があるにも関わらず、既に他の複数の賞を受賞していることまで批判しています。

 北方謙三氏が問い合わせた関係団体は、過去に最高裁で死刑相当として高裁差し戻し審中の被告が骨髄提供を申し出た際に、「勾留一時停止を認める重大な理由」にはならないとして検察が却下したことがあったというたった1度の事例を以ってそのように回答したらしく、この場合、被告はドナー登録も未だしておらず、小説のケースとは異なります。

 状況に応じて「勾留一時停止を認める重大な理由」に該当するかどうかが判断されるならば、小説のようなケースは過去に無い訳で、そうした状況になってみないとわからないということであり、ハナからダメと言い切れるものでもないようです。鬼の首を取ったように手続き上の瑕疵(「事実誤認」)を強調した林真理子氏ですが、自分自身で、小説の前提状況ではどうかということを関係団体に問い合わせるということはしていないようです。

 表向きはフィクションにおける手続き上の瑕疵は、必ずしも作品の価値を貶めるものではないという立場(と推察される)をとりながら、委員会としてそのことを明言しない(結果、林真理子氏のような「事実誤認」と言い切る発言の一人歩きもあって、その瑕疵のため落選したと世間に思われている)のは、選考委員会が個人の集まりに過ぎないということか。「他の委員から指摘があって...」「そういうことを言う委員もいて...」という発言がそれを物語っています。直木賞との"絶縁"宣言をしたという(この言葉自体は少し変な気もするが、ノミネートされても辞退するということか)、作者の気持ちも理解できないではないです。

映画「半落ち」e.jpg映画「半落ち」.jpg映画「半落ち」(2003年/東映)
監督:佐々部清
出演:寺尾聰/原田美枝子/柴田恭兵

 【2005年文庫化[講談社文庫]】

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