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「文字がそんなに詰まっているわけではないのに、味わえる密度は高い」という感じ。

あ・うん 向田邦子 装丁・中川一政.jpg 『あ・うん (1981年)』(装丁・中川一政)あ・うん2.jpg 『あ・うん (文春文庫)』〔83年〕 
ドラマ人間模様「あ・うん」(NHK/'80.3.9〜3.30、全4回)
ドラマ人間模様「あ・うん」('80.3.9~3.30).jpgあ・うん obi.jpg 中小企業の社長で男気があり遊びも派手な門倉と、社命で転勤を繰り返す普通のぱっとしないサラリーマン水田という2人の男の友情に、水田の妻たみに対する門倉のプラトニックな想いが絡む、奇妙な三角関係の話です。

 何度かTVドラマ化され映画化もされているので、この状況設定はよく知られているのではないでしょうか。'00年にTBSの新春ドラマで久世光彦演出のもと小林薫主演で放映されましたが、個人的には、作者自身が脚本も手掛けた'80年のフランキー堺・杉浦直樹主演のNHKのもの方がいいと思いました('89年の映画化作品では高倉健・坂東英二が主演)。

 以前に読んで、会話主体のムダの無い文章で人物像や状況を浮き彫りにしていくうまさに感心させられましたが、小説よりドラマの方が先だったことを思うと、なるほどという感じもしました。と言うことは、優れた「脚本」であるということになるのでしょうか? しかし、読み返してみて、やはり「小説として」良くできていると思いました。著者は小説に関しては「遅筆」だったそうですが、単純稚拙な言い方をすれば、「文字がそんなに詰まっているわけではないのに、味わえる密度は高い」小説です。

 かなりドロドロしたものを孕んだ作品のように思え、門倉や水田という人物に対しても無条件で好きになれるわけではないのですが、ほんわかしたユーモアが随所に効いているせいか、読み進むうちにだんだん登場人物に愛着が出てくるから不思議です。たみに叱られているときが門倉にとっての至福のときである、などというのはユーモアの中にも作者の鋭い人間観察眼が窺えます。

 水田・門倉の男2人の「こまいぬ」のような関係が印象に残りますが、水田の娘さと子の初恋や父初太郎の山師ぶりなどを通して、戦局に向かう時代背景や戦前の三世代同居の家族像というものも描いているかと思います。

 さと子の成長物語でもあり、最後の方で水田も強くなる。しかし、強がるばかりに2人の男の友情は...、とちゃんとクライマックスのあるエンタテイメントに仕上げていて、この先2人の男がどうなるかも暗示されている話だったのだなあ。

あ・うん フランキー 杉浦.jpgあ・うん NHK.jpg「あ・うん」●演出:深町幸男/渡辺丈太●制作:土居原作郎●脚本:向田邦子●音楽(効果):大八木健治/岩田紀良●出演:フランキー堺/杉浦直樹/吉村実子/岸田今日子/岸本加世子/池波志乃●放映:1980/03(全4回)●放送局:NHK

 【1983年文庫化・2003年改訂[文春文庫]/1991年再文庫化(シナリオ版)[新潮文庫]/2009年再文庫化(シナリオ版)[岩波現代文庫]】

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少ない紙数で鋭く描き切る筆力。かなり"ブラック"なものもある。

思い出トランプ2.jpg思い出トランプ.jpg   男どき女どき.jpg  向田邦子2.jpg 向田邦子(1929‐1981)
思い出トランプ』新潮文庫 〔83年〕『男どき女どき (新潮文庫)』(表紙カット:風間 完)
『思い出トランプ (1980年)』
思い出トランプ tannkoubon.jpg 1980(昭和55)年上半期・第83回「直木賞」受賞作の「かわうそ」「犬小屋」「花の名前」を含む向田邦子(1929‐1981)の短編集。

 雑誌連載中に直木賞を受賞した3作を含むこの「思い出トランプ」所収の13篇や、航空機事故のため絶筆となった「男どき女どき(おどきめどき)」の4編(新潮文庫『男どき女どき』に所収)は、昭和という時代の家族や家庭への郷愁を感じさせる一方で、日常生活にふと姿を現す、封印したはずの過去の思い出や後ろめたさのようなものが、うまく描かれています。

 かなり"ブラック"なものもあり、冒頭の「かわうそ」もその1つだと思います。

 定年後、家に自分の居場所のないような気分でいる夫に対して、生活場面や人付き合いにおいてどこか生き生きとしてくる妻。夫は最近に脳卒中で倒れたことがあり、発作の再発を恐れているが、そうした夫から見ると、生活上のイベントに奔走する妻が、獲物をコレクションするという"かわうそ"に、その風貌も習性も似て見えてくる。そしてある日、気付く。自分の病気という不幸さえも、妻から見れば...。

 『男どき女どき』の冒頭の「鮒」もいいです。

 42歳のサラリーマンで、妻と娘と息子のいる家庭人たる主人公の自宅の台所に、ある日突然何者かが一匹の鮒が入った盥を置いていくが、それは、以前は週一で通うほどに付き合っていたが今は別れた35歳の愛人女性と、まだ付き合っていた時分に飼うことにした鮒だった。息子は、家でその鮒を飼うと言って譲らない―。

 主人公が鮒に向かって、愛人と鮒に名付けた「鮒吉」という名前で呼びかけた時、後ろに妻がいたというのが、結末から振り返ると、あたかもミステリの伏線のようでもあり、これもちょっと怖いなあ

 今まで見えなかった夫婦や家族の位相のようなものが、あるとき突然に姿を現す―。
 こうしたヒヤッとした感じに読者を陥れる人間心理への通暁ぶりといい、人生のテーマを少ない紙数で鋭く描き切る筆力といい、脱帽させられます。

 直木賞受賞のとき選考委員だった山口瞳は、「選者よりうまい候補者に出会うのは驚きであり、かつ、いささか困ることでもある」と絶賛したそうです。

 【1983年文庫化[新潮文庫]】

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