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「笑いの効用」について、三者三様に語る。ちょっと、パンチ不足?

笑いの力.jpg笑いの力』岩波書店['05年]人間性の心理学.jpg 宮城音弥『人間性の心理学』〔'68年/岩波新書〕

 '04年に小樽で開催された「絵本・児童文学研究センター」主催の文化セミナー「笑い」の記録集で、河合隼雄氏の「児童文化のなかの笑い」、養老孟司氏の「脳と笑い」、筒井康隆氏の「文学と笑い」の3つの講演と、3氏に女優で落語家の三林京子氏が加わったシンポジウム「笑いの力」が収録されています。

 冒頭で河合氏が、児童文学を通して、笑いによるストレスの解除や心に与える余裕について語ると、養老氏が、明治以降の目標へ向かって「追いつけ、追い越せ」という風潮が、現代人が「笑いの力」を失っている原因に繋がっていると語り、併せて「一神教」の考え方を批判、このあたりは『バカの壁』('03年)の論旨の延長線上という感じで、筒井氏は、アンブローズ・ビアスなどを引いて、批判精神(サタイア)と笑いの関係について述べています。

 「笑い」について真面目に語ると結構つまらなくなりがちですが、そこはツワモノの3人で何れもまあまあ面白く、それでも、錚錚たる面子のわりにはややパンチ不足(?)と言った方が妥当かも。 トップバッターの河合氏が「これから話すことは笑えない」と言いながらも、河合・養老両氏の話が結構笑いをとっていたことを、ラストの筒井氏がわざわざ指摘しているのが、やや、互いの"褒め合戦"になっているきらいも。

『人間性の心理学』.JPG 人はなぜ笑うのか、宮城音弥の『人間性の心理学』('68年/岩波新書)によると、エネルギー発散説(スペンサー)、優越感情説(ホッブス)、矛盾認知説(デュモン)から純粋知性説(ベルグソン)、抑圧解放説(フロイト)まで昔から諸説あるようですが(この本、喜怒哀楽などの様々な感情を心理学的に分析していて、なかなか面白い。但し、学説は多いけれど、どれが真実か分かっていないことが多いようだ)、河合氏、養老氏の話の中には、それぞれこれらの説に近いものがありました(ただし、本書はむしろ笑いの「原因」より「効用」の方に比重が置かれていると思われる)。

 好みにもよりますが、個人的には養老氏の話が講演においても鼎談においても一番面白く、それが人の「死」にまつわる話だったりするのですが、こうした話をさらっとしてみせることができるのは、職業柄、多くの死者と接してきたことも関係しているかも。

桂枝雀.jpg その養老氏が、面白いと買っているのが、桂枝雀の落語の枕の創作部分で、TVドラマ「ふたりっ子」で桂枝雀と共演した三林京子も桂枝雀と同じ米朝門下ですが、彼女の話から、桂枝雀の芸というのが考え抜かれたものであることが窺えました。桂枝雀は'99年に自死していますが(うつ病だったと言われている)、「笑い」と「死」の距離は意外と近い?

宮城 音弥 『』『精神分析入門』『神秘の世界』『心理学入門[第二版]』『人間性の心理学
宮城音弥 岩波.jpg

《読書MEMO》
養老氏の話―
●(元旦に遺体を病院からエレベーターで搬出しようとしたら婦長さんが来て)「元旦に死人が病院から出ていっちゃ困る」って言うんですよ。それでまた、四階まで戻されちゃいました。「どうすりゃいいんですか」って言ったら、「非常階段から降りてください」と言うんです。それで、運転手さんとこんど、外側についている非常階段を、長い棺をもって降りる。「これじゃ死体が増えちゃうよ」って言って。
●私の父親が死んだときに、お通夜のときですけれども、顔があまりにも白いから、死に化粧をしてやったほうがいいんじゃないかということになったんです。まず白粉をつけようとしたら、弟たちが持ってきた白粉を、顔の上にバッとひっくり返してしまった...
●心臓マッサージが主流になる前は長い針で心臓にじかにアドレナリンを注入していたんですね。病院でそれをやったお医者さんが結局だめで引き上げていったら、後ろから看病していた家族の方が追っかけてきて、「先生、最後に長い針で刺したのは、あれは止めを刺したんでしょうか」

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ノイローゼの入門書としてオーソドックス。

ノイローゼ2861.JPGノイローゼ.jpg ノイローゼ (1964年) (講談社現代新書0_.jpg 宮城音弥.jpg 宮城音弥
ノイローゼ (講談社現代新書 336)』〔'73年・新訂版〕/『ノイローゼ (1964年) (講談社現代新書)』〔'64年・旧版〕

 1964年刊行の『ノイローゼ』の新訂版。著者の宮城音弥(1908‐2005/享年97)は、ノイローゼを、「心の病気」のうち、脳に目に見える障害がなく、また人格も侵されていないもので、精神的原因でおこるものとしています。本書内のノイローゼと神経病(脳神経の病気)・精神病(人格の病気)・精神病質(性格の病気)との関係図はわかりやすいものでした。

0702003.gif ノイローゼの種類を神経衰弱(疲労蓄積による)・ヒステリー(病気への逃避・性欲抑制など)・精神衰弱(強迫観念・恐怖症・不安神経症など)の3つに区分し(この区分は現在もほぼ変わらないと思いますが)、症例と併せわかりやすく解説しています。 

 著者によれば、ノイローゼの症状はすべての精神病にもあるとのこと、つまり分裂病(統合失調症)やうつ病にも同じ症状があると。そうであるならば、実際の診断場面での難しさを感じないわけにはいきません。

 本書そのものは全体を通して平易に書かれていて、かつ精神病との違いやその療法にまで触れた包括的内容なので、メンタルヘルス等に関心のある方の入門書としては良いかと思います。

《読書MEMO》
●ノイローゼ...「心の病気」の内で、脳に目に見える障害がなく、また、人格が侵されていないもので、精神的原因によっておこってきたもの-神経病(脳神経の病気)・精神病(人格の病気)・精神病質(性格の病気)との関係図参照(30p)
●ノイローゼの種類...
・神経衰弱(疲労蓄積による)
・ヒステリー(病気による逃避など・性欲抑圧)
・精神衰弱(強迫観念・恐怖症・不安神経症)
●ノイローゼの症状は全ての精神病にある(129p)...分裂病>躁うつ病>ノイローゼ

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心理学の権威が超能力を「科学」した先駆的書物。

神秘の世界979.JPG神秘の世界2.jpg     『超能力の世界』.png 超能力の世界.jpg
神秘の世界―超心理学入門 (1961年)』『超能力の世界』岩波新書〔'85年〕

 宮城音弥(1908-2005/享年97)による本書『超能力の世界』は'85年の出版ですが、'61年に同じ岩波新書から出た『神秘の世界』の24年ぶりの改訂版です(内容は同じであるため復刻版と言っていい)。著者は、臨床心理学者であり精神医学者でもあった人で、心理学の入門書も多く書いていますが、この本は初版当時から「超心理学入門」と謳っていて、一般心理学とは一線を画しています。

 著者が心理学の権威だったからこそこうしたテーマで書けるのであって、仮に普通クラスの学者が当時こうした内容で本を書けば、学界から孤立したのではないでしょうか。但しこの本は、〈スピリチュアリズム〉とも一線を画しているため、霊魂不滅論者の期待に沿うものではありません。

 超能力をESP、遠隔操作、予知に分け、過去の超常現象の報告例の科学的信憑性を検証し、サギ師の事例(無意識的サギを含め)や、死後の生存(憑依や死者との交信事例)にも触れています。

 多くの超常現象の報告も興味深いですが、著者の統計的手法などを用いた科学的・論理的分析は、「科学する」とはどういうことかをそのまま示しています。そして、何らかの特別な能力の存在を認めなければ説明がつかない"有意な"結果の報告も多くなされています。

宮城音弥 霊―死後、あたなはどうなるか.jpg 著者自身にとってもこうした事例は生涯における関心の対象であり続けたようで、'91年には『霊―死後、あたなはどうなるか』(青春出版社)を著しています。

 この中では、岩波新書の冒頭でも取り上げた、顕著なESP能力を発揮したハイパー夫人のケース(有名な心理学者のウィリアム・ジェームズも、実験にを施してその超常的な能力を確信するに至った)を再び詳しく取り上げたり(著者自身も、夫人には何らかの遠感能力があったという立場)、臨死体験を分析したり(丁度この頃、立花隆氏の、後に刊行される『臨死体験』('94年/文藝春秋)のベースとなるレポート記事が雑誌などに発表され始めていた)、予知能力や「前世体験」と言われるののを解説したりしていますが、何れも「霊」の存在は認めがたいが「超能力」の存在は認めざるを得ないといいう立場です。

 著者は、超心理学とスピリチュアリズム(心霊論)を峻別する一方、宗教(乃至は宗教的なもの)を否定しているわけではありません。但し、超心理学の「学問」としての研究が進めば、人間は「霊」についての考え方を改めざるを得なくなるだろうという考えを示しています。

ハイパー夫人.jpgパイパー夫人 (レオノーラ・パイパー)
 Leonora Piper (1857-1950)ニューハンプシャー州生まれ。
 さまざまな霊現象を起こし「万能の霊能者」と呼ばれた。

 SPR(英国心霊現象研究協会)の不正霊媒摘発係として、「SPRの審問官」と呼ばれたリチャード・ホジソン(Richard Hodgson、1855-1905)(ケンブリッジ大学教授)は、ASPR(米国心霊現象研究協会)の活動推進のためにアメリカに派遣され、ボストン在住の霊媒ハイパー夫人に会い、不正霊媒摘発係として調査を始めることになった。

 ハイパー夫人は、千里眼、テレパシー能力、透視能力、霊言など、あらゆる霊現象を起こす万能の霊能者として知られていたが、極端に懐疑的だったホジソンの調査は、厳格を極めた。ハイパー夫人の日常生活の細部に至るまで調査しただけでなく、探偵を雇って尾行させ、降霊会のための情報収集をしていないかどうかを監視させたりまでしたという。そして、秘密漏洩防止のために、降霊会に参加する人の名前はすべてSmithに変えて統一したり、新聞を読むのを禁止したりして、徹底的に不正を行えない状況にして調査を行ったが、ハイパー夫人には、全く不正が見つからなかった。ホジソンは、どうしても自分の手では不正の証拠を掴めないため、ハイパー夫人をイギリスに送って、イギリスの本部でも徹底的に調査を行ったが、それでも不正を見つけることができなかった。
 イギリスでの調査の後、ハイパー夫人はアメリカに戻り、再びホジソンによる調査が始まったが、不正の証拠が見つからないものの、ホジソンは懐疑的な気持ちが消えていなかった。

 しかし、ホジソンの友人のジョージ・ペラムが事故死をして、ペラムの霊が現れるようになってから、彼の態度は変わった。ハイパー夫人の降霊会にペラムの友人を匿名で複数参加させて会話の内容を確認したり、面識のない人も混ぜてみたり、いろいろと試した結果、ホジソンは「人間は死後も霊として存在している」ということを確信するに至ったという。そして晩年には、彼自身にも霊能が発現し、パイパー夫人の指導霊達が、彼の元に降りてくるようになり、霊と会話ができるようになったという。
 ホジソンは生前に、「自分が死んだらパイパー夫人を通してメッセージを送る」と言ったとされ、死後8日目に、パイパー夫人を通じて霊界からメッセージを送ってくるようになったという。

(Richard Hodgson, "A Record of Observation of Certain Phenomena of Trance"(1892)を参照)

宮城 音弥 『』『精神分析入門』『神秘の世界』『心理学入門[第二版]』『人間性の心理学
宮城音弥 岩波.jpg

《読書MEMO》
●超常現象の種類...テレパシー/遠隔認知または透視(ESP)/遠隔操作(サイコキネシス)/予知(2p)
●精神の一部分が人格から分離したときに、心霊現象のような現象が起こるとすれば、霊魂を仮定しなくとも、無意識によってこの現象の解釈は可能(181p)
●超心理学は深層心理学とスピリテュアリズム(心霊論)の間に位置する(210p)

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喫煙者にとってのタバコの心理的効用を多角的に検討している。

タバコ―愛煙・嫌煙.jpg  『タバコ―愛煙・嫌煙』 講談社現代新書 〔'83年〕  cigar.jpg

タバコ2865.JPG 本書出版の頃には既にタバコの健康に与える害は強調され、嫌煙運動は広まりつつありましたが、敢えて著者は、ストレス解消や作業能率向上などの、喫煙者にとってのタバコの効用を検討することも必要ではないかとし、タバコが人間の心理や行動に及ぼす影響を多面的に分析・考察しています。

 反応時間テストで、喫煙者がタバコを吸うと心理的緊張力が高まり、非喫煙者を上回る好成績を上げるそうですが、喫煙者と非喫煙者は同一人物ではないので、この辺りに実験そのものの難しさがあることも、著者は素直に認めています(それでも、タバコが長期記憶を良くするが短期記憶には影響がないといった実験結果は興味深い)。

 一方でタバコには心理的緊張力を解く効果もありますが、深層心理を表面化させ、詩人や作家の創造活動に繋がるケースがあるのではないかという考察は面白いです(フロイトは、医師に禁煙を命じられていた間は「知的関心が大幅に減少した」とボヤいていた)。

 コロンブスが米大陸から持ち帰ったタバコは、流布されて長い期間「薬」とされていたなどという歴史から、喫煙習慣と性格の相関、女性の場合は女子大の学生の方が共学よりも喫煙率が高いなど、性格・社会・文化心理学な観点まで、とりあげている範囲は広く、ニコチンの生理学的な影響やガンと喫煙の相関についてもしっかり言及しています(1日に吸う本数もさることながら、"吸い方"の影響が大きいことがわかる)。

 読み物としても楽しいですが(喫煙者ならば妙に安心できる?)、マスメディアが「タバコ=悪」という単一論調である今日において、「分煙」という現実的方法を探る際に一読してみるのもいいのでは。

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フロイトは限度を越えて「了解」しているという考えは受け入れやすいものだった。

夢 2855.JPG宮城 音弥 『夢.jpg  夢 宮城音弥.jpg 
夢 (1953年) (岩波新書〈第139〉)』/『夢 (1972年)』岩波新書

 心理学の権威で多くの啓蒙書を残したこの本の著者・宮城音弥(1908-2005/享年97)。この人の学生時代の卒論は「睡眠」をテーマにしたものだったそうで、「夢」というのは著者の早期からの関心事だったようです。本書では、人はなぜ夢を見るのか、夢の心理とはどんなものか。そうした問題を、フロイトなどの諸理論を引きながら考察し、わかりやすく解説しています。

夢 (1953年)2.jpgalexanders dream.jpg 実験的に夢を製造することはできるのか、夢の中で創作は可能なのか、夢の無い睡眠というのはあるのか、盲目の人はどんな夢を見るのか、といった多くの人が興味を抱くだろう疑問にも答えようとしています。個人的には、夢における時間感覚について、崖から墜落した人などがよく体験する"パノラマ視現象"などとの類似を指摘している点などが興味深かったです。

Alexander's Dream by Mati Klarwein (1980)

 夢には我々の了解できない面があるものの、精神分析によって心理的原因を求めていけば、結局はかなりの部分その意味を了解できるのではないか、という著者の考えはオーソドックスなものです。ただし、その「了解」には限度があるとも著者は述べています。

 夢はすべて「過去の願望の変装したもの」であるというフロイトは、限度を越えて「了解」しているのであって、意味の無いものにムリに意味をつけようとしているという著者のフロイト批判は、読者には受け入れられやすいものではないかと思います。

宮城 音弥 『』『精神分析入門』『神秘の世界』『心理学入門[第二版]』『人間性の心理学
宮城音弥 岩波.jpg

《読書MEMO》
●フロイトとユングの夢分析の違い...「ミネルヴァがジュピターの頭から生まれた」
 フロイト:「性器から出生」の社会的抑圧に対する「転移」、
 ユング:知恵が神神から由来したことを示す象徴
 (ユングは夢を「前向きな解釈」と「後ろ向きな解釈」に分類した-夢を見る者の目的を示すことを強調)(61p)

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「知能指数の極めて高い人=天才」ではないことを教えてくれる本。

天才.jpg天才』岩波新書 〔'67年〕 ミケランジェロ.jpg ベートーベン.jpg ゲーテ.bmp ドストエフスキー.jpg マルクス.jpg

 「天才」とは何かを指摘した本で、ミケランジェロからベートーベン、ゲーテ、ドストエフスキー、マルクスまで数多くの天才をとりあげ、彼らを心理・精神医学的に分析していて興味深く読めます。

 著者によれば、知能指数の極めて高い人が「天才」なのではなく、それは「能才」と呼ぶべきもので、「天才」には創造的能力が無ければならないということです。しかし、「天才」の多くは知能指数が高かった(つまり「能才」の素質を兼ねていた)と推定されるようです。

 また、著者によれば、「天才」は、成功し世に認められなければ「天才」とは呼ばれないとのことです。ですから「天才」は、〈時代の要請〉との相性が合った人たちとも言えるのではないでしょうか。 

 ところが、「天才」の多くには心理学的に異常な面があり(その異常性が創造性に結びつくと著者は考えている)、「能才」に比べて社会的適応性が無かったか、あるいはそれを犠牲にした人物がほとんどを占めているとのことです。従って、後世に認められたとしても、本人が生きている間は不遇だったりするケースが多いのです。

 著者の主張は、「天才」は正常な精神の持ち主ではない、というアリストテレスの「天才病理説」に帰結します。従って、「天才」は教育で創られるものでもない、ということになります。

Raffaello.jpg 興味深いのは、ラファエロのように、推定知能指数が110程度の「天才」もいることで、「天才」の1割は"正常"(?)だったという研究もあり、彼もその1人ということになるようです。ラファエロは14歳ですでに画家として有名でしたが、画風や仕事ぶりは職人(または親方)タイプだったそうです。「天才」グループに紛れ込んだ"偉大なる職人"とでも言うべきでしょうか。

 ウィキペディアによれば、ラファエロは建築家としても異例なほどに大規模な工房を経営しており、37歳という若さで死去したとは考えられないほどに多数の作品を制作したとのことで、彼の業績には、親方としての才能(リーダーシップ)による面もかなりあるのではないでしょうか。

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オーソドックスな入門書。精神分析は「了解心理学」であるという説明は"しっくり"くる。

精神分析入門2978.JPG精神分析入門.jpg  psy04ph1.jpg 宮城 音弥 (1908-2005/享年97)
精神分析入門』 岩波新書 〔'59年〕

精神分析入門/宮城音弥.jpg '05年に97歳で逝去した心理学者・宮城音弥氏の著作。初版が1959年という古い本ですが、精神分析の入門書としてはオーソドックスな内容だと思います。

 本書によれば精神分析とは、心理学とくに深層心理学としての「精神分析」を指す場合と、フロイト学説としての「精神分析」を指す場合があるとのこと。本書では前者に沿って、精神分析を深層心理学の観点から説き起こし、引き続き、人格心理学、性心理学、異常心理学、臨床心理学など広い観点から解説しています。そして最後に、フロイトの理論や、以後の、ユング、アドラー、新フロイト派の理論を紹介しています。ただし本文を読めば、精神分析という精神療法がフロイトによって完成されたことには違いなく、フロイトは、その方法を通して、様々な学説を発表したのだということがわかります。

 精神分析における「抑圧」「合理化」「同一視」「昇華」といったタームは、無意識を解析するさまざまな手掛かりを我々に与えてくれます。しかし、これって「科学」なのだろうかという疑問が付きまといます。この疑問に対し、本書で用いられている精神分析は「了解心理学」であるという説明は"しっくり"くるものでした。つまり、観察者と被観察者の間の了解(共感)のもとに成り立つ心理学であって、一般の自然科学の方法とは異なると。パーソナリティを研究する場合に、自然科学の方法ではその一部の解明にしか役立たないということでしょう。ただし、そうなると、どんどん思念的なっていくのは避けられないように思います。

 フロイトは当初、「精神の構造」というものを、意識(自分自身で意識しているもの)・前意識(思い出そうとすれば思い出せるもの)・無意識(意志の力では思い出すことのできぬもの)に分けていましたが、これらは単に精神構造の種類を示したものにすぎず、フロイトは精神の図式を「より固定たもの」にしたかった、例えば抑圧する精神(パーソナリティ)の部分の問題にしたかった―人間が良心的にふるまうとき、その良心のありかを語ろうとした―そこで出てきたのが「自我」「超自我」「イド」というものだったのだなあということがよく分かりました。

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宮城 音弥 『』『精神分析入門』『神秘の世界』『心理学入門[第二版]』『人間性の心理学
宮城音弥 岩波.jpg

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