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シリーズ第3弾にしてパワーアップ? 作者のシリーズへの愛着が感じられる。

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まほろ駅前狂騒曲』(2013/10 文藝春秋)『まほろ駅前多田便利軒』(2006/03 文藝春秋) 「まほろ駅前狂騒曲」2014年映画化(監督:大森立嗣/主演:瑛太・松田龍平)

 多田便利軒に行天が転がり込み、居候を始めて早3年が経とうとしていた。そして多田は、ついに禁断の依頼(子供の預かり)を引き受けることに。それに対して行天の反応は―。

 作者の直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』('06年/文藝春秋)の第2弾『まほろ駅前番外地』('09年/文藝春秋)に続くシリーズ第3弾ですが、シリーズ物はシリーズが続いていくにつれてパワーダウンしていく傾向があるのに対し、このシリーズはここにきてパワーアップしている感じで、作者自身もこのシリーズに殊の外に愛着を抱いているのではないかと思わせるものでした。

 当初のコマ切れの話の連なりから、ここにきて大きなうねりのようなストーリー展開になっていて、相変わらず横中バスの間引き運転疑惑の追及に燃える岡さん(憎めないキャラだなあ)が、何故か、怪しげな無農薬野菜の販売組織の秘密を暴こうとする多田便利軒の多田・行天らの意向に沿った行動をとるようになるといった、ややご都合主義ともとれる話の展開もありましたが、まあ、面白かったからいいか。大きなストーリーになっている分、盛り上がりも十分でした。

 今回は、行天が主役といった感じで、その秘められた過去が徐々に明かされますが、飄々とした感じの男が、実は重い過去をしょっているという設定が何とも言えません(行天は怖いものを問われ「記憶」と答える)。預かった子供は実は仰天と別れた妻との間の実子であるわけですが、最初はその娘に恐怖を抱き、距離を置こうとして「あれ」呼ばわりしていた彼が、次第に親としての親愛の情を見せるようになり、終盤は「はる」と名前で呼ぶようになる展開は絶妙です。最後は実際に身を挺して娘を守ろうとして...(多田の方は多田の方で、バツイチ男&寡婦のキャリアウーマンの恋愛話があり、これはこれで楽しませてくれたが、行天に比べると今回はややインパクトが弱いか)。

 第1弾『まほろ駅前多田便利軒』が瑛太・松田龍平主演で映画化されたのに対し、第2弾『まほろ駅前番外地』はTVドラマ化でした。そして、この第3弾『まほろ駅前狂騒曲』は今年('14年)秋に映画化作品が公開予定です。但し、個人的には、これまでの映像化作品は観ていません。作中の「多田・行天」と配役の「瑛太・松田龍平」にギャップを感じ、映像化されたものに引っ張られるのが嫌だからというのがその理由です。シリーズが完結するまでは、映像化作品の方は観ないでおこうと勝手に決め込んでいます(それでも観てしまうかもしれないが)。

【2017年文庫化[文春文庫]】

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力のある作家がしっかり取材して書いた作品。素直に上手だなあと思った。

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舟を編む』(2011/09 光文社) 「舟を編む」2013年映画化(監督:石井裕也/主演:松田龍平・宮﨑あおい・オダギリジョー)

 2012(平成24)年・第9回「本屋大賞」第1位作品。

 大手出版社・玄武書房の営業部に勤務する馬締(まじめ)は、営業部では変人としてお荷物扱いだったが、辞書編集一筋の荒木に後任として見込まれ辞書編集部に異動、言葉の捉え方における鋭い天性を発揮し、新しい辞書『大渡海』の編纂にのめり込んでいく。定年後嘱託として勤務する荒木や日本語研究に人生を捧げる老学者の松本先生、チャラいが外回りに才能を発揮する西岡、ファッション誌編集部から異動してきたキャリア系の岸辺―問題山積の辞書編集部において、馬締をはじめとするこれらの人々の努力により『大渡海』は完成の日の目を見ることができるのか―。

舟を編む00.jpg 素直に上手いなあと思いました。『まほろ駅前多田便利軒』('06年/文藝春秋)で直木賞を受賞した際に(29歳での直木賞受賞は、平岩弓枝(27歳)、山田詠美(27歳)に続く歴代3位の若さ)、選評で平岩弓枝氏が「この作者の年齢の時、私はとてもこれだけの作品は書けなかった」と一番褒めていたけれど、そこからまた進化した感じ。

 特に、前半の真締と西岡の関係がいい。『まほろ駅前多田便利軒』もそうだけど、男同士の関係を描いて巧み(直木賞選考の際に阿刀田高氏は、作者は男性だと思っていたらしい)。コミカルだけど、『まほろ駅前多田便利軒』に比べると、ギャグ調はむしろ抑え気味ではないかと。

 前半は馬締の香具矢に対する恋物語もあって青春小説のようにもなっていて、前半と後半で十数年の時を置くことで、後半が前半の後日譚のようにもなっている。それでいてダラダラ長くなく、気楽に読めるエンタテインメントに仕上がっているし、前半部では西岡を、後半部では岸辺の眼を通して、真締を主として「見られる側」の存在として描いているのも成功していると思いました。

 辞書が編まれるように、馬締、香具矢、荒木、松本先生、西岡、岸辺といった登場人物の人生が編まれていく―今時、全ての辞書がこうした編纂のされ方をしているのかという疑問も残りましたが、普通は小説の主人公にはならないような人たちに着眼したこと自体が一つの成功要因。そのうえで、もともと力のある作家がしっかり取材して書いた作品とみていいのではないでしょうか。

映画「舟を編む」1.jpg映画「舟を編む」2.jpg(●2013年に石井裕也監督、松田龍平主演で映画化され、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞をはじめ6部門の最優秀賞を受賞、石井裕也監督は芸術選奨新人賞も受賞したほか、主演の松田龍平をはじめとするキャストやスタッフも多くの個人賞を得た。原作では年代を特定していないが、映画では松田龍平演じる主人公・馬締が辞書編集部に配転になったのが1995年で、原作で後日譚として扱われている部分が船を編む_n.jpg舟を編むeb.jpg舟を編む2d.jpgその12年後となっている。細部での改変はあるが、全体としては原作のストーリーを比較的忠実に追っている感じで、松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、黒木華といった若手の俳優陣も頑張っているが、加藤剛、小林薫、伊佐山ひろ子、八千草薫といったベテランが脇を固めているのが大きく、特に、加藤剛の「先生」は印象的だった。そもそも、原作が、その後数多く世に出た"お仕事系"小説のどれと比べても優れているため、原作の良さに助けられている部分もあるが、少なくとも原作の持ち味を損なわずに活かしているという点で良かったと思う。)


舟を編む 映画.jpg舟を編む_l.jpg「舟を編む」●制作年:2013年●監督:石井裕也●プロデューサー:土井智生/五箇公貴/池田史嗣/岩浪泰幸●脚本:渡辺謙作●撮影:藤澤順一●音楽:渡邊崇●時間:133分●出演:松田龍平/宮﨑あおい/オダギリジョー/黒木華/渡辺美佐子/池脇千鶴/鶴見辰吾/伊佐山ひろ子/八千草薫/小林薫/加藤剛/宇野祥平/森岡龍/又吉直樹/斎藤嘉樹/波岡一喜/麻生久美子●公開:2013/04●配給:松竹=アスミック・エース(評価:★★★★)
 
【2015年文庫化[光文社文庫]】

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面白かった。コミカルなトーンと登場人物の心の闇の兼ね合いが計算され尽くされている。

まほろ駅前.JPG   まほろ駅前多田便利軒.jpg       「まほろ駅前多田便利軒」より.jpg 本書より
まほろ駅前多田便利軒』 (2006/03 文藝春秋)

 2006(平成18)年上半期・第135回「直木賞」受賞作。

 東京のはずれに位置する"まほろ市"の駅前で便利屋を営む多田啓介は、正月の仕事帰りにバス停で、高校の同級生で極端に無口で変人だった行天春彦に出会い、その行天が多田のところに住みついて多田の便利屋稼業を手伝うようになってから、さまざまな事件に巻き込まれるようになる―。

 29歳での直木賞受賞は、平岩弓枝(27歳)、山田詠美(27歳)に続く歴代3位の若さだそうですが、直木賞の選評では、平岩氏が「この作者の年齢の時、私はとてもこれだけの作品は書けなかった」と一番褒めていたように思います。

 便利屋というのがハードボイルド小説における探偵事務所みたいな位置づけになっていて、ペットの世話や塾の送り迎えなどの雑事請負を通して窺える今時の世情や人と人との繋がりをうまく物語として取り込んでるところに惹き込まれ、多田と行天のやりとりなどもひたすら面白いのですが、一方で、章の扉ごとにある劇画調の挿画に感化されるまでもなく、コミック的な面白さに流れているという印象も抱きました(つまりリアリティがない。いちいち、既視感のある漫画の1カットが頭に浮かぶ)。

 しかし、ギャグ的な面白さだけで成り立っているわけでなく、読み進むにつれて、なかなか愛嬌がある居候男・行天の心の闇のようなものがちらちら見えてきて、このコミカルなトーンの中で、その辺りの重い部分をどう落とし込むのか、多田と行天の関係がどうなるか、といった点で結構最後までぐいぐい引っぱられました。

まほろ駅前多田便利軒 文春文庫.jpg 平岩氏ではないですが、なぜ、こんなに器用に書けるのかホント不思議。計算され尽くされていると言っていい。
 少女コミックの影響を受けているは間違いないと一般の読者なら誰もが思うところですが、直木賞選考委員の作家先生たちがどの程度そのことを思ったか(阿刀田高氏は作者は男性だと思っていたらしい)。 
                               
まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)』 ['09年]

 【2009年文庫化[文春文庫]】

まほろ駅前多田便利軒 映画.jpg 映画「まほろ駅前多田便利軒」(2011年)
 監督:大森立嗣 主演:瑛太/松田龍平

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