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変わった作品が多かった。個人的には、1番「考える人」(井上靖)、2番「誤訳」(松本清張)。
『名短篇、ここにあり』.jpg『名短篇、ここにあり』(ちくま文庫).jpg 北村薫 宮部みゆき.jpg
名短篇、ここにあり (ちくま文庫)』北村薫 氏/宮部みゆき 氏

 北村薫・宮部みゆき両氏の編による「名短編」セレクト集の第一弾(この後、第二弾『名短篇、さらにあり』('08年)から第六弾『教えたくなる名短篇』('14年)まで続く)。ここでは、半村良、黒井千次、小松左京、城山三郎、吉村昭、吉行淳之介、山口瞳、多岐川恭、戸坂康二、松本清張、井上靖、円地文子の短篇12編を収録しています。

となりの宇宙人 SF短篇集.jpg 「となりの宇宙人」(半村良)... 宇宙船が難破して、近所に落っこってきたが―。後の展開はほとんど落語の世界。宇宙人も「宙さん」とか呼ばれたりして(笑)。宮部みゆき氏が、SFの大家が「こんなメタメタなSFを小説新潮に書いてらしたとは」と驚いた作品。ただ、本書刊行の前年に河出文庫からこの作品を表題作とする短篇集が出ているので、意外と知っている人は知っている作品なのかも。
となりの宇宙人 SF短篇集 1』['75年/徳間書店]

 「冷たい仕事」(黒井千次)... 冷蔵庫の冷凍器の霜取りに格闘する男たち―。あの霜がごそっととれた瞬間の快感が甦ってきますが、その達成感を男同士で共有するところが、本質的にサラリーマン小説なのだろなあ。

 「むかしばなし」(小松左京)... 学生が村の年寄りを語り部にして聞いた70年前の話が、実は自分が姉を殺してその肉を味噌煮に入れてその夫に喰わせたという展開に―。「かちかち山」の翻案だったのかあ。

 「隠し芸の男」(城山三郎)... 宴会の隠し芸に執念を燃やす新任課長。昔はこういう中間管理職がいたかもなあ。このタイプ、そこから上には出世しない(笑)。黒井千次と同じくサラリーマン小説。

『少女架刑』2.jpg 「少女架刑」(吉村昭)...肺炎で亡くなり、金銭目的で病院に献体された貧しい家の少女の遺体がどう扱われるかを、少女の意識が死後も在り続けるという設定のもと、少女の視点で描かれているというシュールな作品。「隠れた名作」と言うより、かなり有名な作品で、個人的にも既読

 「あしたの夕刊」(吉行淳之介)... 林不忘の小説に明日の夕刊が今日届くというものがあって、それと同じことが作家である村木にも起きる―。吉行淳之介がこんな星新一みたいな作品を書いていたとは。でも、実際に昔は、夕刊の日付は翌日になっていたというモチーフは、この年代の作家にしか書けないか(翌日の朝刊の速報版的位置づけは今も変わっていないが)。

 「穴―考える人たち」(山口瞳)... 偏軒はイーストのために穴を掘り続ける。そこへ、ドストエフスキイやコーガンが通りかかる―。吉永小百合とか岡田茉莉子とかも出てきて、安部公房の作品みたいにシュールだった。『考える人たち』('82年/文春文庫)の1編。

 「網」(多岐川恭)... ある男の殺害を試みる男の話。その方法は、標的が自宅のプールで泳いでいるところを〈投網〉を被せて溺死させようというものだった―。他にいくらでも方法があるのにね。一度その考え方に固執したら、そこから逃れられない人間の性? 巻末の両編者の対談にもあるように、極悪非道な強腰で成り上がった実業家・鯉淵丈夫は過去買った恨みも数知れず、肚に据えかねた7人が彼を亡き者にしようと秘策を凝らすが悉く失敗するという、連作『的の男』('00年/創元推理文庫)の1篇。

 「少年探偵」(戸坂康二)... ちょっとした身の回りの事件を解決する「少年探偵足立君」。正月早々、寺本さんの家の金印が消えた―。軽い推理落ち。名探偵コナンの奔りみたいな感じか。江戸川乱歩とかも少年探偵ものを書いているし、そうした一つの系にある作品と言えるかも。

 「誤訳」(松本清張)... 稀少言語国の作家がノーベル賞級の賞を貰って、本人が賞金を全部寄付すると言ったのは、実は日本人翻訳家兼通訳の誤訳だったことが判るが、本当にそうだったのか―。面白かった。いかにも本当の話のように書いているのが松本清張らしい。短篇集『隠花の飾り』('82年/新潮文庫)に収められている作品。

 「考える人」(井上靖)... 作家である私は、東北地方への木乃伊(ミイラ)探訪の旅に行く(タイトルは、ある木乃伊がロダンに彫刻の姿勢に似ていることから)。木乃伊になった聖人は、本当に木乃伊になりたかったのか―。これも面白かった。即身仏になるのを先延ばしするために、荒地を開墾したり、洞窟を掘ったりしたのかもね。短篇集『満月』('59年/角川文庫)に収められている作品。

 「鬼」(円地文子)... 女は自分の望みを何でもかなえられるが、それが幸せと直結しない。実は、彼女の母親が娘を手放したくない、娘が女として自分以上の幸せを掴むのは面白くないと思っていた―。人間の心に潜む鬼を描いている。そう言えば円地文子には、古典「春雨物語」に材を得た「二世の縁 拾遺」という作品があって、それを鈴木清順が「恐怖劇場アンバランス」の第1話で「木乃伊(ミイラ)の恋」('70年制作)として映像化しているのを、「考える人」と"即身仏"繋がりで思い出した。

 名作・傑作と言うより変わった作品が多かったように思いますが、この作家がこんな作品を書いているのだなあという新たな発見がありました。既読だった「少女架刑」(吉村昭)を除くと、特に良かったのは最後の3作。1番、2番、3番と順位をつけるならば、1番は「考える人」(井上靖)、2番はショートショートクラスの短さですが「誤訳」(松本清張)、3番は「鬼」(円地文子)となります。1番、2番は共に二重丸つけたいところですが、どちらも作者または語り手の推論で終わっている点がやや弱かったでしょうか。

 最後の「鬼」(円地文子)は、作家で同じく優れた読者家である小川洋子氏が、最近「母との関係に悩む娘」の話が度々話題に上るが、「円地さんは時代をかなり先取りしていたのかもしれませんね」と推していました(そういう読み方もあったのか)。

 これが最後にきているということは、選者らもこの「鬼」が一押しなのかと思いましたが(個人的にはやや苦手なタイプの作品でもあるが)、巻末の対談にやや"昭和的"との評がありました。両氏のネット上での対談(シリーズ全体の中からベスト12篇を選ぶ作業をしている)を読んだりしてみると、宮部みゆき氏などは「鬼」も推していますが、「となりの宇宙人」(半村良)も推していて、やはり冒頭にくるだけのことはあるのでしょう。

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読後感は悪くないが、時代考証が前面に出すぎ?

鷺と雪1.jpg鷺と雪2.jpg 『鷺と雪』  (2009/04 文藝春秋)

 2009(平成21)年上半期・第141回「直木賞」受賞作。

 女子学習院に通う士族令嬢・花村英子とお抱え女性運転手・別宮みつ子〈ベッキーさん〉が活躍するシリーズの、『街の灯』『玻璃の天』 に続く第3弾・完結篇で、帝都に不穏な足音が忍び寄る昭和初期の時代、良家の令嬢の目に時代はどう映るのかを、ルンペン、ブッポウソウ、ドッペルゲンガーなどといった日常と非日常の狭間にある事象を通して、ミステリー風に描いた連作(「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」を収録)。

 昭和初期の上流家庭の生活を叙情的な筆致で丁寧に描くとともに、そこに"日常生活の謎"を織り込み、ライト感覚の推理小説仕立てにしていて、ちょっと小奇麗に作りすぎている感じもしますが、「不在の父」「獅子と地下鉄」と、読後感は悪くありませんでした(「鷺と雪」は、「推理」の部分よりもシリーズの「完結篇」としての位置づけの方が大きいように思える)。

 また、当時の時事・風俗・流行に関することが数多く文中に描かれていて、文学的な話題もふんだんに盛り込まれているのが楽しめましたが、ここまで頻繁にそうした話が出てくると、作者が一生懸命、史料や当時の新聞を手繰っているのが眼に浮かんでしまうような気も。

 そのことが却って、主人公そのものを、昭和初期に生きた女性ではなく、こっちの世界にいる女性であるように思わせ、そう思った途端に、今一つ入り込めず、加えて巻末に参考図書をずらり並べて、どの部分が史実でどの部分が虚構かまで補足して書いているのは、ややサービス過剰のような気もしました(日本史とか文学の勉強にはなり、楽しめもしたが、その分、作為が表面化した?)。

 これは、直木賞選考委員に対する「ここまで時代考証した」というアピールでもあるのか。それに対する功労賞的受賞とまでは言いいませんが(今までに一定数の固定ファンいるというのは実績と看做されるのだろう)、この作品が6回目の候補作でした。
 選考委員の宮部みゆき氏は「別宮は〈未来の英子〉なのです」と言っている。ふ〜ん、そういう読み方もあるのかあ。

週刊 昭和タイムズ 053号 『昭和10年』(1935年).jpg ブッポウソウの鳴き声と思われたものが実はコノハズクだったということが判明した話などは、知っている人は知っている、それなりに有名な話なのですが(「昭和タイムズ(53号・昭和10年)」という最近の雑誌にも出ていて、作中のラジオ中継番組が出ている東京朝日新聞の番組表が掲載されている)、2.26事件の数ヶ月前のことで、その組み合わせの妙から素材として取り上げたのかなあ。

月刊 昭和タイムズ 053号 『昭和10年』(1935年)

 【2011年文庫化[文春文庫]】
 

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作品のトーンの不統一が気になった。 読み進むほどスラップスティック調になっていく...。

盤上の敵.jpg 『盤上の敵』単行本['99年] 盤上の敵 ノベルズ.jpg 講談社ノベルズ 盤上の敵 文庫.png 講談社文庫

 我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされていることがわかった末永純一は、妻を救出すべく奔走するが、自宅が警察とワイドショーのカメラに包囲され「公然の密室」化していることから、彼は警察を出し抜いて犯人の石割と直接交渉することを図る―。

 「人間の悪意」をテーマにした作者の新境地を拓いた作品とされているようですが、体裁はタイトルからも察せられる通りの本格推理で、確かに"息もつかせぬ"展開ではあるものの、結末がやや安易で、本格推理にありがちなリアリティの喪失が感じられました。

 それと気になったのは、作品のトーンが安定していないように思われた点で、ずっとハードボイルドっぽくいくのかと思ったら部分的にブラック・コメディ調になったりし、加えて、伏線となるべき幾つかの話が結末に向けて必ずしも収斂せず、むしろバラけている面もあって、総体的にみて、読み進めば進むほどスラップスティック調になっていくような...(筒井康隆か?)。

 でも、作者は重々しく物語を締め括っていて、従来の作者のファンにも大方の受けは良かったようで、週刊文春「ミステリーベスト10」の'99年度の7位、宝島社「このミステリーがすごい!」の'00年の8位にランクインしており、何だか自分だけ取り残されたような気がしました(波に乗れなかったということか)。

 作者は、この時点で2度ほど直木賞候補になっていますが、個人的には、この人、直木賞は獲れないのではとも思ったりしたら、結局6回目のノミネート作『鷺と雪』('09年/文藝春秋)で受賞ということになりました。

 【2001年新書版[講談社ノベルズ]/2002年文庫化[講談社文庫]】

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