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超一流の企業は強い文化を持ち、シンボリック・マネジャーとは文化の有能な管理者であると。

シンボリック・マネジャー1.jpgシンボリック・マネジャー3.jpg シンボリック・マネジャー2.jpg 
シンボリック・マネジャー (新潮文庫 テ 9-1)』['87年]/『シンボリック・マネジャー (同時代ライブラリー 326)』['97年]
シンボリック・マネジャー』['83年]
シンボリック・マネジャー s.jpg ハーバード大教授のテレンス・ディールと、マッキンゼイ社の経営コンサルタントのアラン・ケネディーによるベストセラー&ロングセラー本です(原題:Corporate Cultures,1982)。本書において著者らは、アメリカの有力企業80社を綿密に調査した結果、常に生き残る企業には経営の合理性を超えた何かがあるとして、「企業文化」という新しい観点から経営と管理の本質を人間性に即して説いています(日本語版訳者は城山三郎)。

 第1部「企業を支える文化」では、第1章「強い文化―持続的成功の推進力」において、超一流の企業は強い文化を持っており、それを維持することが企業を持続的に成功させるうえで重要であるとしています。そして、文化を維持するには、文化の基盤となる確固たる理念、文化の体現者である英雄、文化を形に表した儀礼・儀式、文化を伝達するコミュニケーション・ネットワークなどが必要とされるとしています。

 第2章「理念―企業の性格を決定するもの」では、企業の基本的な性格と、他とは異なる態度を決定するのは企業の価値理念であり、企業の価値理念は会社のあらゆる側面を支配するとし、また、強い文化には危険性や落とし穴もあるとしています。

 第3章「英雄―あの人のようになりたい」では、価値理念を文化の魂とすれば、英雄はこれらの価値理念を体現して組織の力を示す、強い文化の中心人物であるとしています。そして、英雄には生まれながらの英雄もいるがそれは稀有な存在であって、アメリカで最も成功している会社のいくつかでは、英雄の必要性を固く信じて、定期的に英雄を作り出しているとしています。また、英雄的資質とはカリスマ的才能のことではないとも言っています。

 第4章「儀礼と儀式―組織内の人間の行動原理」では、強い文化の会社は、企業生活における儀礼と儀式を作り出し、英雄はそれを効果的に演出するとして、管理上の儀礼や表彰の儀式、文化的なイベントの必要性を説いています。

 第5章「伝達―非公式の人間関係が情報を運ぶ」では、強い文化には強力なネットワークが存在し、なぜなら、それを通じて、組織の基本的な信念が強められるからだとしています。また、文化ネットなワーク内の役割として、語り役、聖職者、耳打ち役、うわさ屋、秘書、スパイ、秘密結社などを挙げ、文化ネットワークを動かす管理者は、組織のあらゆる階層の人々と絶えず接触し、こうした非公式の人間関係が運んでくる情報も含め、自分たちが尊重する価値を強化するために活用するとしています。

 第2部「企業を動かす文化」では、会社はどのようにすれば強い価値理念を企業環境に合わせて調整し、成功を持続できるかを論じています。第1章「企業の種族―会社には四つの型がある」では、会社には、逞しく男っぽい文化、よく働きよく遊ぶ文化、会社を賭ける文化、手続きの文化の四つのタイプがあるとして、それぞれの文化における英雄、儀式と儀礼、強みと弱みを解説しています。

 第2章「診断―あなたの会社をどう考えるか」では、こうした文化を診断するための技法を紹介し、文化の診断によって、管理者は文化の現在位置とその強弱を知ることができるとしています。

 第3章「象徴的管理者(シンボリック・マネジャー)―いま最も求められる人材」では、強い文化の会社では、管理者が率先して文化を維持・形成するとして、彼らを「シンボリック・マネジャー(象徴的管理者)」と呼んでいます。そして、シンボリック・マネジャーは、これまで有能とされてきた、分析能力に優れた合理的管理者とどう違うのか解説し、言行一致の体現者であるシンボリック・マネジャーの方が合理的管理者より重要であるとしています。文化の有能な管理者こそがシンボリック・マネジャーであり、そうあるためには、勇気と、文化の価値理念を貫き通す覚悟が必要だとしています。

 第4章「改革―組織の根底の部分」では、文化を管理すること以上に文化を変えることは難しく、改革には危険が伴うが、ときには改革が必要であるとし、では改革を管理するにはどうすればよいかを説いています。そして文化の改革は、改革成功に有効な基本的文化事業(英雄、価値理念、儀礼など)を、改革を試みる管理者が敏感に捉えることができるかにかかっているとしています。

 第5章「未来の企業―外的変化に適応できる会社の条件」では、科学技術の発達により、将来の組織はどのようになり、その中で中間管理者やコンピュータはどのような役割を担うようになるか、また、それによってどのよな組織革命が起き、組織の文化はどのように変化するかを予測していますが、ここにおいても、将来有望なのは強い文化の会社であり、強い文化は環境に対応できるばかりでなく、さまざまな状況の変化に適応することができるとしています。

 本書の背景には、1980年代初頭に米国で米国企業の生産性の伸びの低下が目立つようになり、一方、当時の日本は米国と比べ従業員がずっと企業に一体感を持っているように見えたため、日本の経営を見習えと主張する本も多く出版される中で、米国でも成功モデルと見なされる企業は同様の特色を有しているということが分かり、そこで著者らが注目したのが「企業文化」の重要性ということだった―という流れがあるかと思います。

 とは言え、今読んでも、言っていることに古さを感じさせないです。企業が継続的に成功できるような環境つまり「文化」とは、額縁に入った社是、社訓によってもたらされるものではなく、「文化」を社内に作り出す、経営理念の体現者たるシンボリック・マネジャーによって作られるものだと(となると誰をマネジャーにするかが重要になってくる)改めて感じ入った次第です。

【1987年文庫化[新潮文庫]/1997年ライブラリー化[岩波同時代ライブラリー]】

《読書MEMO》
●目次
第1部 企業を支える文化
 Ⅰ 強い文化―持続的成功の推進力
 Ⅱ 理念―企業の性格を決定するもの
 Ⅲ 英雄―あの人のようになりたい
 Ⅳ 儀礼と儀式―組織内の人間の行動原理
 Ⅴ 伝達―非公式の人間関係が情報を運ぶ
第2部 企業を動かす文化
 Ⅰ 企業の種族―会社には四つの型がある
 Ⅱ 診断―あなたの会社をどう考えるか
 Ⅲ 象徴的管理者(シンボリック・マネジャー)―いま最も求められる人材
 Ⅳ 改革―組織の根底の部分
 Ⅴ 未来の企業―外的変化に適応できる会社の条件

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新しいアイデアを生み出すには、新しい流儀で考えること。

頭にガツンと一撃 2.jpg頭にガツンと一撃.jpg 『頭にガツンと一撃』 ('90年/新潮文庫) Awhackonthesideofthehead.jpg "Whack on the Side of the Head"
頭にガツンと一撃』('84年/新潮社)

 知識は新しいアイデアを作り出す素材であるが、知識だけで創造的になれるわけではなく、知識がただ眠っているのは、新しい流儀で考えようとしないからだ―と、著者のロジャー・フォン・イークは述べています。

 創造的思考とは何かを示す例で、グーテンベルグが、「ブドウ絞り器」と「硬貨打印器」の機能を組み合わせるというアイデアから、印刷技術を生み出したという話が紹介されていますが、こうした着想は、このモノはこれだけの為に使うのだというような思い込みからいったん離れる必要があるということです。

A Whack on the Side of the Head.gif 頭のこわばりをほぐすには、禅における"喝"ではないが、一度頭の横をガツンとやられる必要があり(原題は"A Whack: on the Side of the Head")、あのエジソンも、電信技術の改良発明をしたものの、電信事業が大手企業に独占されたことを知り、「頭にガツン」とやられて、それで電球、発電機、蓄音機など他分野の発明に乗り出し、成功をおさめたとのこと。

 そこで以下、頭のこわばりをほぐし、創造的に考えるということはどういうことなのかを、設問や事例で示していますが、最初に「次の5つの図形から、他のすべてと性格の異なるものを選べ」という設問があり、これが、どれもが正解になり得ることを示していて、のっけから、おおっという感じで、「物事の正解は一つだけではない」ということを端的に示しています。

 以下、全部で10か条、頭のこわばりをほぐす方法を示していて、紹介されている事例を読むだけでも楽しい本ですが...。

 一度決めたことはなかなか変えられないということの事例で、タイプライターの「QWERTY配列」が、タイプライター・メーカーの技術者が、速く打ちすぎるとキーがからむため、「速く打てなくしたらどうだろう? そうすれば、キーもそれほどからむまい」と考え、キーボードの配列を意図的に非能率的なものにしたものが今でも残っているのだという話があり(80p)、これは話としては面白いけれども、事実とは言えないとの指摘もあるらしいです。

 このように、所々に例証や論理の強引はありますが、大体、ビジネスアイデア・コンサルタントって昔からこんな感じでしょう。こうした発想は、プランナーやクリエイターの素養にも繋がる部分があるかと思います。

 役に立つかどうかは読む人次第かもしれませんが(本来ならば意外と読み手を選ぶ本?)、単に読み物としても楽しいため、誰が読んでも一応損はないと思います(読んで時間を無駄にしたということはないと思うのだが、やはり読み手次第?)。

 故・城山三郎自身が本書を読んで「ガツンと一撃くらって」自ら翻訳に乗り出したというだけのことはあります。とりわけプランナーやクリエイターを目指す人にはお奨めです。
 あらゆる仕事でこうした柔軟な発想は求められると考えれば、新入社員や内定者の課題図書としてはいいかも。そうした対象者に限れば★★★★です(実際、広告業界で本書を内定者の課題図書に選んでいる会社がある)。

頭脳を鍛える練習帳.jpg川島 隆太.jpg '05年に『脳を鍛える大人の計算ドリル』『脳を鍛える大人の音読ドリル』の川島隆太氏の訳で『頭脳を鍛える練習帳―もっと"柔軟な頭"をつくる!』(三笠書房)として改訳版が出ましたが、先に城山訳が刊行されていることに言及していないとのことで、それはいかがなものか(先んじて本書に着眼した故・城山三郎に対し失礼ではないか)。

頭脳を鍛える練習帳―もっと"柔軟な頭"をつくる!

 【1990年文庫化[新潮文庫]/2005年改訳[『頭脳を鍛える練習帳―もっと"柔軟な頭"をつくる!』]】

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

《読書MEMO》
●頭のこわばりをほぐす10か条
1)物事の正解は一つだけではない
2)何も論理的でなくてもいい
3)ルールを無視しょう
4)現実的に考えようとするな
5)曖昧のままにしておこう
6)間違えてもいい
7)遊び心は軽薄ではない
8)「それは私の専門外だ」というな
9)馬鹿なことを考えよう
10)「創造力」は誰でも持っている

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著名人のエピソードを軸とした読みやすいエッセイ。とりあげられている人物がバラエティに富む。
打たれ強く生きる.jpg 『打たれ強く生きる (新潮文庫)』〔'89年〕 静かなタフネス10の人生.jpg 『静かなタフネス10の人生』 新潮文庫

打たれ強く生きる 単行本_.jpg 『打たれ強く生きる』 ('85年/日本経済新聞社)は、財界人などの著名人の素顔や言動から窺えるその人間性や考え方などを中心に、著者が日常において感じたことなども含めてエッセイ風に綴ったもので、ベースとなっているのは'83(昭和58)年の日経流通新聞での連載。1篇3ページずつにまとまっており、読みやすいせいもあって、今まで何度か読み返しました。
静かなタフネス4.JPG 城山氏は財界トップへのインタビューなども本にしていますが(『静かなタフネス10の人生』('86年/文藝春秋))、本書『打たれ強く生きる』でも、渋沢栄一とか城山氏の好みの経営者にまつわるエピソードが多いものの(本田宗一郎や土光敏夫などはまだ本書刊行時は存命中で、著者は直接に親交があった)、財界人に限らず、歴史上の人物(毛利元就・山中鹿之助など)から、作家や演出家(和田勉・浅利慶太など)、さらには芸人・芸能人(桂枝雀・レオナルド熊など)まで取り上げていて、より作家的視点を感じるとともに、話のネタの広さに感心します。

聞き書き 静かなタフネス10の人生

 "山種証券"の山崎種二氏の「大きな耳を持て」という話や、"花王石鹸"の丸田芳郎の「会社の仕事以外に勉強するように」「文学や芸術に触れろ」という話はいい話ですが、ちょっとストレートすぎる感じも。

 むしろ、地方から家出同然で上京した村上龍に、父親が近況を伝える手紙を送り続けたという(その数7年間で2千通に及び、これに対して村上龍は一度も返信しなかったという)話などが、読み直して新鮮な面白さを感じました。

桂枝雀.jpg 表題の「打たれ強く生きる」については、作家・渡辺淳一が、医師としての死生観を通じて得た「死を思えば少々の挫折など何でもない」という「打たれ強さの秘密」という話の中で出てきます。
 更にその前に紹介されている落語家・桂枝雀の「ぼちぼちが一番でんな」という話も印象的でしたが、彼自身は、自分が気質的に考え込んでしまうタイプだということがよくわかっていたのでは。 

 【1989年文庫化[新潮文庫]】

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