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自分はこの本のあまりいい読者ではなかったかも。
『雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール』['10年/ダイヤモンド社]
「"やや中古"本に光を」シリーズ第2弾(エントリー№2271)。本書は'10年の刊行で、以来そこそこ売れていたようですが、'13年になってNHKの朝の番組などで取り上げられて多くの注目を集め、一気に版を重ねるスピードが増したようです。自分の手元にあるのは家人が買ったものですが、2013年5月第18刷版で、帯には「28万部突破」とあります。
「鍛えないと損するョ!"雑談力"」NHK「さきドリ」2013年3月24日放送
「雑談」に目をつけたニッチ戦略の巧みさと「雑談力」としたネーミングの妙が功を奏したのでしょうか。ネーミングの方は著者によるものか編集サイドでつけたものか分かりませんし、「○○力」というタイトルの本を著者は既に結構たくさん出しているけれども(「力」が著者のトレードマークになっている感じもする)、「雑談」をテーマにこれだけ書けるのは著者ならではなのかも。因みに、大学教授である著者の専門分野の1つがコミュニケーション論だそうです。
NHKの番組では、企業などで研修に取り入れるところも出てきているといった紹介もありましたが、実際に地方の銀行で、窓口業務担当者の利用客対応の研修に使ったり、雑談力研修を開催している社団法人もあるようです。インターネットで調べると、その他にも、歯科クリニックで受付嬢にこの本を贈ったという歯医者さんの話がブログにあったりし、また、「雑談力」の向上を請け負う研修会社がいつの間にか誕生していたりもするようです。
本書の中身はどうかというと、まず冒頭に「雑談のルール」として、①雑談は「中身のない話」であることに意味がある、②雑談は「あいさつ+α」が基本、③雑談に「結論」はいらない、④雑談は、サクッと切り上げるもの、⑤訓練すれば誰でもうまくなる、と5つに纏められているのが分かり易いです。
ただ、その先、それほど深いことが書いてあるかと言うと、そうでもないような気がしました。殆ど自己啓発書的な感じで、ここに書かれていることに目から鱗が落ちる思いをして痛く共感するか、意外と目新しさが無いなあと思うかは、もう「個人の好み」乃至は「その人と本書の相性」の問題だと思いますが、個人的には、やっている人は既にそうしているだろうし、出来ない人は本書を読んでも出来ないだろうなあという気がしてしまいました。
では、自分が「雑談力」が高いかというと、全然そんなことはないわけで、自分は「出来ない人」の部類だろうなあ。こうした本から教訓を汲み取らないからいつまでも進歩しないのかな? でも、全然何も得られる点が無かったということでもなく、「目の前の相手の、『見えているところ』を褒める」というのなどはナルホドなあと思いました(但し、『コメント力』('04年/筑摩書房)などで既に、承認欲求の充足に絡めて「褒める」ということを著者は強調済みであるわけだが)。
国分太一がその例で出てきて、人をさりげなく褒めるのが上手いとのこと(著者はネクタイの柄を褒められたそうな)。更に、終わりの方でももう1回出てきて、前に会った時の雑談の内容をよく覚えているとして絶賛しています(国分太一に学ぶ「覚えている能力」)。
本書にあるテクニックの1つ「芸能ネタにすり替える」を使うわけではないですが、ニホンモニターの調べでの2014年のタレント番組出演本数ランキングは国分太一が第1位で、国分太一は「初の年間王者を奪取!」だそうです(2位:設楽統(バナナマン)、3位:有吉弘行)。タレントと営業マンは、自分のキャラクターを売っているという点で重なるかもしれず、目の前の相手を褒めるというのは、次の仕事に繋がる秘策となり得るのかもしれません。
何だか世知辛い気もしますが(この人の本の特徴は「プラグマティックな問題構成」にあると指摘する人もいるが、その指摘は的を射ているように思う)、著者自身は、雑談は話すことで人は救われ、聞いてもらうことで人は癒されるものであり、「雑談力」とは、社会に出てすぐに役立つ最強のスキルであり「生きる力」に繋がるものであるとしています。本書に関して言えば、自分自身はこの本のあまりいい読者ではなかったかも。まあ、自分がわざわざ光を当てなくとも、十分に光が当たった中古本ではありますが。