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数奇な人の一生を見るよう。本当に船好きだった作者だからこその作品。

ばいかる丸 (ポニー・ブックス).jpg ばいかる丸 (ポニー・ブックス)3.jpg ばいかる丸  1965.jpg
ばいかる丸 (ポニー・ブックス)』['17年/復刻版]  『ばいかる丸 (ポニー・ブックス)』['65年]

「ポニー・ブックス(復刻版)」.jpg イラストレーター、デザイナーで、アンクルトリスの生みの親で、船の画家でもある柳原良平(1931-2015/享年84)が、「ばいかる丸」という実在の船の半生を絵本形式で描いたもの。1965年に岩崎書店より「ポニーブックス」(60年代に漫画家、イラストレーターが絵とストーリーの両方を手がけたことで話題になった絵本シリーズ)として刊行され、半世紀以上の月日を経て、2017年に復刻版として刊行されました。

ばいかる丸 (ポニー・ブックス)1.jpg 1921年(大正10年)に大阪商船の客船として生まれた「ばいかる丸」は、大連航路の人気戦でしたが、やがて大阪商船にも新しい船が多く出来たため、東亜海運という別会社に売られ、商人を満州に運ぶ船になります。ところが1937(昭和12)年に日中戦争ばいかる丸 (ポニー・ブックス)2.jpgが始まって黒塗りの病院船となり、1941(昭和16)年の太平洋戦争開戦で白塗りの国際赤十字の病院船になります。戦局が悪化すると病院船であるのに兵士を運ぼうとしましたが、1945(昭和20)年5月、大分県姫島沖で機雷に触れて船体に大穴が開き、そのまま戦争が終わってしまいます。応急処理後は瀬戸内海の笠戸島沖に係留されていましたが、やがて大阪湾で船員学校の学生の寄宿舎替わりとなり、さらに1949(昭和24)年、極洋捕鯨に買い取られ、捕鯨船に改造されます。しかし、やがて捕鯨船ももっと大型のものが多く造られたため、肉を運ぶ冷凍船に改造され、名前も「極星丸」に改名されて「今」に至っているとのことです。

ばいかる丸 (ポニー・ブックス3.jpeg こうした1隻の船の歩みを、船を主人公にして「ワタシ」という1人称で淡々と語っていますが(淡々と語られているわりには、かつて栄華を誇った「ばいかる号」が、より大きな船が現れて役割の上で隅へ追いやられるのは何となく哀しかったりする)、絵の訴求力はやはりさすがだなあと思うとともに、まるで数奇な人の一生を見るようだなあとも思いました。

 本書の初版の刊行が1965年で、作者34歳頃の作品と思われますが、1959年にサントリーを退社した後は、船や港をテーマにした作品や文章を数多く発表しており、また、漫画家として1962年3月から1966年6月まで、4コマ漫画『今日も一日』を読売新聞夕刊に連載。1968年、至誠堂より『柳原良平 船の本』を刊行しており、その少し前の作品と言うことになります。

 初版の刊行は、大阪商船と三井船舶が合併して新会社の大阪商船三井船舶株式会社(後の商船三井)になった頃ですが、復刻版の刊行を機に、版元の岩崎書店のスタッフが商船三井を訪ね、「ばいかる丸」のその後を訊いています(岩崎書店のブログ「「ばいかる丸」のその後を想う~柳原良平さんを偲んで」)。しかし、今いる社員もその辺りは手がかりが無いためよく分からなくて、廃船となり鉄屑として再利用されたのではないか、でも、他の船の一部になっている形を変えてどこかを航海していると思います!とのことです。

 そもそも船会社の方から作者にこの船をモデルに絵本を描いてほしいと依頼したこともなかったようで、本当に船好きだった作者だからこそ、自ら「ばいかる丸」という船が連航路、病院船、寄宿舎、捕鯨母船、冷凍船と改造されていく過程をここまで調べ上げて、精緻な絵とともに完成させたものと思われます。商船三井の方々も、船の所有が大阪商船から東亜海運に変わったとき、(当然、旗印は違っているが)船のデザインが変わっているところまで描き分けている点に感心されていたようです。

大阪商船に所属していた「ばいかる丸」         所属が東亜海運に変わった後。煙突の印が異なっている。
ばいかる丸 (ポニー・ブックス)68.jpg ばいかる丸 (ポニー・ブックス)681.jpg

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装丁、絵本、漫画、アニメ、グッズやオリジナル作品を収め、保存版として貴重なムック版。

柳原良平の仕事.jpg 柳原良平の仕事 TVCM.jpg  柳原良平の装丁.jpg
柳原良平の仕事 (玄光社mook)』['15年](29.9 x 21 x 1 cm)『柳原良平の装丁』['03年]
柳原良平(1931-2015)
柳原良平.jpg 2015年8月に84歳で亡くなった、イラストレーター、デザイナーで、船の画家でもあり、アンクルトリスの生みの親でもある柳原良平(1931-2015)の仕事集。このムック版が初めての本格的仕事集とのことですが、上記に加え、漫画家、文筆家としても知られたように、仕事の範囲がかなり広範に及び、また晩年まで活動していたため、本人が亡くなってやっとこうしたものが刊行されるということになるのでしょう。装丁、絵本、漫画にアニメーション、さらにはグッズやオリジナル作品まで、900点以上を図版に収めています。

トリスを飲んでハワイへ行こう!TVCM.jpgトリスを飲んでハワイへ行こう!.jpg柳原良平の仕事 アンクルトリス.jpg まず最初に、アンクルトリス誕生の初期の作品を紹介しています。柳原良平はよく知られているように、サントリーの前身「寿屋」の社員だったわけですが、50年代の終わりから60年代にかけて、広告の変遷を通してアンクルトリスのキャラクターが確立されていく過程が見えて、なかなか興味深いです。

アニメーション3人の会.jpg でも、1959年にはもうテレビコマーシャルになっているのだなあ。1960年に、久里洋二、真鍋博と「アニメーション3人の会」を結成していますが、その時点でアニメーション経験があったのは柳原良平だけで、「寿屋」に所属していたというのは大きかったと思います(「3人の会」上映会は'60年、'61年、'63年の3回行なわれ、'64年の第4回からは一般公募と海外からの招待作品も含めて上映する「アニメーション・フェスティバル」へと発展し(-1966)、日本の自主制作アニメーション界全体の活性化と次代を担う人材の育成につながったほか、和田誠、横尾忠則、宇野亜喜良など他の分野で活躍していたアーティストがアニメーション制作を行なう契機となり、虫プロダクションを設立したばかりの手塚治虫も実験的な短編を制作して参加した)。

柳原良平の仕事 新社会人広告.png 1978年から約20年続いた山口瞳(1926-1995)との新社会人を激励する新聞広告(全国紙の4月1日朝刊に掲載)も懐かしいです。広告代理店に入社して、4月1日の入社式が終わった後の研修で、講師である役員から「読んだか」と訊かれ、即答できず皆ぼーっとしていたら怒鳴られたのを覚えています(広告業界の者にとって必見の広告。ましてや自身が訴求ターゲットである新社会人であることからして、これを読まずに会社に来るなんてトンデモナイということか)。

 仕事全体としては、装丁を手掛けた書籍が300冊以上に及び、挿画や新聞連載漫画、絵本の製作などもあり、絵本では『かお かお どんなかお』などベストセラーもあります(絵本、思っていたより結構多かった)。本書に収められているものでは、新聞連載漫画などは興味深く(サラリーマン漫画などを描いている)、また珍しいのではないでしょうか。初期作品の図版なども貴重であり、オリジナルの絵画(船の絵)もあります。

柳原良平の装丁ード.jpg 全体を通してみると、やはり装丁の仕事が最も多いという印象で、全体的な仕事集としてはこのムックが初とのことですが、装丁集としては以前に『柳原良平の装丁』('03年/DANぼ)が出され柳原良平の装丁 山口.jpgており、柳原良平は当時72歳でしたが、それまでに装丁を手掛けた約300冊の内、50年代~2003年までの200冊以上の装丁を収録しています。

 一番多いのは、「寿屋」宣伝部で共に広告制作を担当した山口瞳の本であり、まあ、「山口瞳の本と言えば柳原良平の表紙」というイメージになるでしょうか。遠藤周作や八切止夫、開高健(山口瞳と同じく「寿屋」の同僚)、筒井康隆や阿川弘之、北杜夫の本も手掛けています。それでも結構絞り込んでいる感じ新入社員諸君 角川.jpgもしますが、では、装丁を手掛けた作家とは付き合いがあるのかというと、八切止夫や筒井康隆の本は何冊も手掛けているのに、作家本人には会ったことがないと述べているのが意外でした(最期まで会うことはなかったのだろうか?)。

 どちらも楽しめますが、『柳原良平の仕事』の方がムック版で判型が大きく、それだけ多くの内容を取り込んでいるという感じでしょうか。保存版として貴重です。

《読書MEMO》
●「3人の会」第2回上映会(1961年12月)チラシ(デザイン:和田誠)
3人の会 2-1.jpg

3人の会2-2.jpg

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