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作りすぎていないのがいい。復刊版で登場人物の四半世紀後の「今」が書き下ろされた。

お引越し ひこ・田中 復刊.jpgお引越し ひこ・田中 旧.jpg お引越し ひこ・田中 文庫.jpg お引越し ひこ・田中 文庫新.jpg  心が叫びたがってるんだ。DVD_.jpg
お引越し (Best choice)』『お引越し (講談社文庫)』『《新装版》お引越し (講談社文庫)』「心が叫びたがってるんだ。 [DVD]
お引越し (福音館創作童話シリーズ)』(2013)(装画:奈良美智)

 1991(平成3)年・第1回「椋鳩十児童文学賞」受賞作。

 今日とうさんが引越しをした。かあさん泣いた。とうさんもお引越しの日泣いてた。大人が泣いたら、子どもは泣けない。3人だった家がこれから、かあさんと私、2人になる。2人が別れるには私のせいやないって、とうさんもかあさんも言うたけど、私のせいやないのに私に関係ある。あんまりや。両親の離婚を突然知った11歳のレンコ(漆場漣子)。彼女の悩みは深まっていく―。

お引越し-111.JPG 1990年刊行の第1回「椋鳩十児童文学賞」受賞作ですが、むしろ相米慎二(1948‐2001/享年53)監督の映画「お引越し」('93年)の原作として知られているかもしれません。「椋鳩十児童文学賞」は鹿児島市が市制100周年を記念して設けた児童文学の新人賞で、第2回が森絵都氏のデビュー作『リズム』に授与されたりしていますが、第24回の2014年をもって終了しています。

映画「お引越し」('93年)

お引越し dvd.jpg 映画「お引越し」と比べると、原作は映画のようにレンコが理科室でボヤを起こしたり、自分でチケットやホテルを予約して家族の琵琶湖行きを実行したりするといった事件や展開などはなく、ごく普通の小学生のごく普通の生活が、両親が離婚状態になって変わっていく、そうした日常の中で、11歳の少女の心模様がどう揺れ、母親や父親との関係性がどう変化し、少女自身がどう成長していったかを、少女の主観を通して生き生きと描いています(文章にリズムがある)。従って、映画も良かったですが、原作は作りすぎていない分、これはまた読者に訴えかけるものがあり、(「映画の力」に対する)「文学の力」というものを感じました。

お引越し (HDリマスター版) [DVD]

 1990年の刊行後、1995年に文庫化され、2013年の復刊に際し、2013年現在の「登場人物たちの今」を描いた挿話が書き下ろされ、巻末に付されています。その前に、1990年の「あと話」というのがあって、中学生になったレンコのボーイフレンドのミノル(大木実)、友達のサリー(橘理佐)の"今"が2人の言葉で語られていましたが、「忘れたころのあと話」と題された今回の書き下ろし部分では、おおよそ四半世紀後の36歳になった大木実の今、橘理佐の今、更にはレンコこと漆場漣子の今が、それぞれ自らの言葉で語られています。時間の流れを経て主人公たちが大人になっている現在の様が語られるというのはなかなか興味深く(月日の経つのは早いなあ)、作者のこの作品に対する愛着のようなものも感じました。

干刈 あがた 『ウホッホ探険隊』.jpg かつて、離婚に踏み切ろうとしている主人公の女性と、そのことを自分たちなりに受け止めようとしている小学生の長男・次男とのやりとりを通して、当時としては新しいタイプと言える家族の形を模索した、干刈あがた(1943‐1992/享年49)の『ウホッホ探険隊』('84年/福武書店)とい猛スピードで母は 単行本.jpgう芥川賞候補にもなった作品がありましたが、作品のモチーフとして両親が離婚している、或いは離婚状態にあるといった設定を持ってくることは、今や児童文学に限らず文学の世界においても珍しいことではなくなっているようです(長嶋有の芥川賞受賞作『猛スピードで母は』('02年/文藝春秋)もそうだった。やはり、子どもは母親と一緒に暮らすことになるのが多いようだが)。

 最近はアニメの世界でも、長井龍雪監督の「心が叫びたがってるんだ。」('15年)という作品がありました(この度「実写」映画化され、本日[2017年7月22日]公開)。主人公の少女が小学生の頃、憧れていた山の上のお城(ラブホテル)から、父親と見知らぬ女性(浮気相手)が車で出てくるところを目撃、「お城から出てくる王子様とお姫様」だと思い込み、それを母親に話したことにより両親の離婚を招いてしまい、家を去る父親から「全部お前のせいじゃないか」と言われ、ショックを受けた少女は口をきけなくなり、高校2年生になった今も、「話すと腹痛が起きる」という、トラウマを抱えているという設定でした。

心が叫びたがってるんだ。 .jpg 小学生の時のトラウマを高校生になっても引き摺っているわけですが(PTSDと言えるか。但し、離婚は主人公のせいとは言えず、父親が間違っているのは明白ではないか)、それにしても主人公がいろんな局面でそれを引っ張りすぎている印象もあり、これだと周りの方が疲れてしまうのではないかなあ。時にはちょっと突き放した方が、お互いにとって良かったりもするのではないでしょうか。ジュニア向けの作品ですが、個人的にはあまりいいとは思いませんでした(『お引越し』の11歳の小学生レンコの方がずっと逞しいと言えるか)。

お引越し  0s.jpgお引越し  5.png「お引越し」●制作年:1993年●監督:相米慎二●脚本:奥寺佐渡子/小此木聡●撮影:栗田豊通●音楽:三枝成彰●原作:ひこ・田中「お引越し」●時間:124分●出演:中井貴一/田畑智子/桜田淳子/須藤真里子/田中太郎/茂山逸平/森秀人/千原しのぶ/笑福亭鶴瓶/青木秋美(現:遠野なぎこ)●公開:1993/03●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(17-07-19)(評価:★★★★)
【2563】 相米 慎二 「お引越し」(1993/03 ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画=アルゴプロジェクト) ★★★★

心が叫びたがってるんだ。00.jpg心が叫びたがってるんだ。DVDS160_.jpg「心が叫びたがってるんだ。」●制作年:2015年●監督:長井龍雪●製作:斎藤俊輔●脚本:岡田麿里●撮影:森山博幸●音楽:ミト/横山克(主題歌:乃木坂46「今、話したい誰かがいる」)●原作:超平和バスターズ(長井龍雪・岡田麿里・田中将賀)●時間:119分●声の出演:水瀬いのり/内山昂輝/雨宮天/細谷佳正/藤原啓治/吉田羊●公開:2015/09●配給:アニプレックス●最初に観た場所:シネマサンシャイン池袋(15-09-21)(評価★★★)

【1990年単行本[福武書店]/1995年文庫化・2008年新装版[講談社文庫]/2013年単行本新装復刊版]】

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現在もこれからも続く問題を扱っている。アイヌ差別表現問題については文脈の中で検証すべき。

宿題ひきうけ株式会社 古田足日 旧版.jpg宿題ひきうけ株式会社 古田足日 新版.jpg 宿題ひきうけ株式会社 理論社名作の愛蔵版 旧版.jpg 宿題ひきうけ株式会社 理論社名作の愛蔵版 古田.jpg
『宿題ひきうけ株式会社』[旧版]/『新版 宿題ひきうけ株式会社』/『宿題ひきうけ株式会社』[フォア文庫旧版]/『新版 宿題ひきうけ株式会社 (フォア文庫)』[フォア文庫新版]

 サクラがおか団地の村山タケシ宅に集まった5年生のヨシヒロ、アキコ、ミツエ、サブローは、宿題を効率的に肩代わりして金を稼ぐ「宿題ひきうけ株式会社」を設立して数百円の収入を得るが、クラス内で起きた「地球儀事件」によって会社の存在を担任教師に知られ解散する―(第1章「宿題ひきうけ株式会社」)。6年生になったタケシたちは、新担任の三宮先生が語った「花忍者」という物語を契機に、宿題や入学試験の持つ「やばん」さ=「人間を大切にしない」ありように気づき、未来の試験と宿題がどうあるべきか考え始める―(第2章「むかしと今と未来」)。新聞部員として活動するタケシらは、「ひとりの成績がよくなればひとりの成績が悪くなる」構造を持ち子どもたちを競争させる学校教育のあり方が、人間を選抜し振り古田足日.jpg落としていくピラミッド型の会社組織につながっていることに気づく。子どもたちは日本国憲法の勉強会を始め、「試験・宿題なくそう組合」を立ち上げて活動し始める―(第3章「進め ぼくらの海賊旗」)。

 今年['14年]6月に亡くなった古田足日(ふるた・たるひ、1927-2014/享年86)の作品で、初出は雑誌「教育研究」。挿絵は連載時から久米宏一が担当し、連載終了後、理論社の小宮山量平に促され、一部手を加えて1966(昭和41)年2月単行本化され、'67(昭和42)年・第7回日本児童文学者協会賞を受賞し、作者の代表作となりました。

古田足日(ふるた・たるひ、1927-2014/享年86)

 この作品が愛蔵版や文庫版も出されて広く長く読まれた理由は、子どもたちが宿題代行会社を自分たちで作るという発想がユニークで面白く、また、そうした子供たちが活き活きと描かれているとともに、ストーリー展開が一定のリアリティを保っていることがあったのではないでしょうか。個人的には自分も、課題図書の中から本書を選んで読書感想文を書いた一人です。

 今読み直すと、高度動経済成長下で過熱化する受験競争の問題のみならず、同時代に起こった電電公社の人員削減問題を取り上げるなど、構造不況・リストラなど当時の社会・経済問題を色濃く反映していることが窺えます。子どもを中心とする事件とともに、アキコの兄が勤めるヤマト電機が行った強制的な人員の配置転換と、それに抵抗する労働組合の活動などが並行して描かれています(考えてみれば子どもたちも、第1章では「株式会社」を作ったのに、第3章では「労働組合」を作るという構図になっている)。第2章にある「やばん」さ=「人間を大切にしない」というテーマを通して、宿題・試験の持つ問題が、資本主義の競争社会といった社会構造が引き起こす問題とパラレルな関係にあることを伝えているように思います。子ども時代に読んだ時は、そこまでは意識しなかったように思いますが、時代を反映しながらも、ある意味、現在もこれからも続いていくのであろう問題を扱っているとも言えます。

 この物語は'96年には後半を大幅に改稿した新版が刊行されていて、これは旧版に引用された宇野浩二「春をつげる鳥」(1926年発表)と関連して、アイヌ民族差別に該当する記述があったことが原因となっていますが、その経緯は新版のあとがきに詳しく書かれています(旧版にあとがきは無く、一方で新版のあとがきは殆どこの問題のことで費やされている)。それによると、第2章で引用された宇野浩二の「春をつげる鳥」自体にアイヌ民族差別にあたる記述があったということで、新版では物語を差し替えるとともに、「やばん」ということについてもっと掘り下げて書いています。

 結果的に新版の方はややクドくなった印象もありますが、旧版に民族差別にあたる表現があったのだから仕方がないのかも(直接的に差別していると言うより、差別的イメージを助長する恐れがあるといった印象なのだが)。そもそも、30年以上も経ってどうしてその問題が指摘されたのかというのはありますが、作者が「春をつげる鳥」がアイヌ民族を差別した作品であることを全面的に認め、更に、自身の引用の仕方や独自の表現にまで率直に、且つ徹底的に自己批判しているので、やはり新版を「決定版」とすべきなのでしょう(北海道にいないはずのイノシシを持ち出したのは差別というより勉強不足だったという気もするが、こうしたこともアイヌ民族の自然観に対する自らの無知として総括している)。

 「春をつげる鳥」がアイヌ側からみて差別的作品であることへの気づきが遅れた原因としては、その指摘は作者自身が'95年に北海道ウタリ協会の人から電話を受けたことに端を発するのですが、その時点で作者が調べてみても、(作者自身が予想した通り)そうした観点での指摘はどの文学事典や解説にも無かったということによるかと思います。作者は、こうした見方は、宇野浩二研究を深めるためにも必要な観点であるとしていましたが、版元は、旧版の回収を書店や図書館に求めたそうです。但し、図書館などでは旧版・新版ともに置いているところが多いようです。旧版が無いと、どこが「差別」なのか分からないよね。そこだけ捉えるのではなく、文脈の中で検証することが大事なのではないでしょうか。

【1966年単行本[理論社(絵:久米宏一)]/1977年文庫化[講談社文庫]/1979年再文庫化[フォア文庫(画:久米宏一)]/1996年9月新版[理論社『新版 宿題ひきうけ株式会社』(絵:久米宏一)]/1996年11月文庫化[フォア文庫『新版 宿題ひきうけ株式会社』(画:久米宏一)]/2001年[理論社(新・名作の愛蔵版)『新版 宿題ひきうけ株式会社』(イラスト:長野ヒデ子)]/2004年再文庫化[フォア文庫愛蔵版『新版 宿題ひきうけ株式会社』(画:久米宏一)]】

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数学関係者の働きかけにより復刊された児童文学の名著。物語としても面白い。

算法少女 文庫.jpg算法少女 (ちくま学芸文庫)』['06年] 算法少女 1973.jpg算法少女 (1973年)』  
算法少女 元.jpg
 1973(昭和48)年10月刊行、1974(昭和49)年度・第21回「産経児童出版文化賞」受賞作。

 父・千葉桃三から算法の手ほどきを受けていた町娘のあきは、寺に算額を奉納しようとしていた旗本子弟・水野三之助一団に出遭うが、掲額された算額の誤りに気づいてついそれを指摘してしまい、関流宗統・藤田貞資の直弟子であることを日頃から鼻にかけていた三之助の怒りを買う。その場は穏便に引き下がろうとしたあきだったが、執拗な三之助の追及に対し逆に三之助を論破してしまい、そのことが評判となって算法家としても知られる久留米藩主・有馬頼徸から姫君の教育係として召抱えたいとの申し入れがあり、それを阻止しようとする藤田貞資の画策により、関流を学ぶもう1人の"算法少女"と算術対決をさせられることになる―。

 児童文学者である著者は、子供の頃に父親から江戸時代に女性が書いた和算書があるという話を聞いて、国会図書館でその『算法少女』(1775年刊行)という古書と出会ってこの物語の想を得たということですが、単に和算に優れた少女の話というだけでなく、史実を織り交ぜながらも、藩政に絡む色々な謎めいた人物が登場して、物語としても面白かったです(小学校高学年以上向けと思われるが、大人でも充分楽しめる)。

 あきと彼女に和算を教わる子供達を通して、江戸時代の庶民の生活の中での算術の需要というのもよく伝わってきたし、あきの父で学者肌の貧乏医者・千葉桃三と、世事に長けた俳人であきの才能を世に知らしめようと尽力する谷素外の取り合わせも面白く、最後に谷素外の意外な正体(?)も明かされる...。
 もともと、古書『算法少女』の著者「壺中隠者」と「平氏(章子の印)」とは誰なのか長らく不明だったようですが(あとがきは谷素外)、研究者により、「壺中隠者」とは医師・千葉桃三だということが判明したとのこと(その娘が章子)。

算法少女.jpg 「ちくま学芸文庫版あとがき」によれば、本書の出版から十数年を経て増刷が打ち切られた時、「本も商品ですから」と著者は増刷を諦めてかけていたのが「復刊ドットコム」に登録され、その後も多くの数学関係者の働きかけがあって30年ぶりの復刊に至ったとのこと。
 本書の中には代数問題だけでなく幾何問題も出てきて、「学芸文庫」に入っているのは、「児童文学」と言うより「数学(科学)」という分類になっているためのようですが、箕田源二郎の数多い挿画までも余さず復刻されていて、実際にどういう道具を使ってそうした問題を解くのかなどが分かるのが良かったです。

 【2006年文庫化[ちくま学芸文庫]】

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ワイド・シークエンスで伝わってくるモンゴルの平原の広大な景観。

スーホの白い馬2.jpg 『スーホの白い馬―モンゴル民話 (日本傑作絵本シリーズ)

馬頭琴.jpg 1967(昭和42)年刊行で、元になっているのはモンゴル民話。
 貧しいけれどもよく働く羊飼いの少年スーホは、ある日、地面に倒れもがいていた白い子馬を拾って家に連れて帰ってくる。スーホの世話したかいがあって、やがて子馬は立派に成長し、スーホは、殿様が開く競馬大会にこの白い馬と参加して見事優勝するが―。

 モンゴルの楽器・馬頭琴の由来になっている話であるとのことですが、この絵本のお陰で、ご当地のモンゴルよりも日本での方がよく知られている物語になりました。
子供の頃に読んでやけに悲しかった思い出がありますが、国語の教科書に出ていたらしいです(もう、その辺りの記憶はないが)。

 赤羽末吉(1910-1990)の絵がいい。この人、'80年に日本人で初めて「国際アンデルセン賞」の「画家賞」('66年開設)を受賞していて、その後に日本人でこの「画家賞」を受賞したのは、今のところ安野光雅氏('84年受賞)しかいません('08年現在)。

 絵本のサイズが24cm×32cmで、絵が全部見開きなので、幅60cm以上のワイドなシークエンスになり、これがモンゴルの平原の広大な景観などをよく伝えていますが、演劇の舞台絵の画家でもあったことを考えると、確かに、奥行きや照明効果的なものもうまく採り入れているなあと改めて感心させられます。

 ストーリーはシンプルですが、名作童話というのは意外とそういうものかも。
 作家の椎名誠氏がどこかで推薦していましたが、この作品をモチーフに「白い馬-NARAN-」('95年)という映画も撮っているぐらいですから、その思い入れは相当のものなのでしょう。でも、わかる気がするなあ。椎名氏なら嬉々として現地ロケやりそう。

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自閉症児の視点で、その認知の世界を解き明かすヒューマン物語。

夜中に犬に起こった奇妙な事件.jpg 『夜中に犬に起こった奇妙な事件』〔'03年〕  夜中に犬に起こった奇妙な事件2.jpg 〔'07年新装版〕

Mark Haddon.jpg 2003年にイギリスで刊行されるや話題を呼び(原題は"The Curious Incident of the Dog in the Night-Time")、世界中で1千万部ぐらい売れたそうですが、日本ではじわじわとブームが来た感じの本です(2004年・第51回「産経児童出版文化賞」の「大賞」受賞作)。

Mark Haddon

 物語の主人公・15歳の少年クリストファーは、自閉症(アスペルガー症候群)の障害を生まれながら持っていて、数学や物理では天才的な能力を発揮するものの、人の表情を読み取ったりコミュニケーションすることが苦手で、養護学校に通っています。この物語は、彼が、夜中に起きた「近所の飼い犬の刺殺事件」の謎を解くために書き始めたミステリという形で進行していきます。                                             

 そのミステリに引き込まれて読んでいるうちに、自閉症児のモノの認知の仕方や考え方、ヒトとのコミュニケーションのとり方などが少しずつわかってくるようになっていて、作者のうまさに感心しました(相当の才能と体験が無ければ書けない)。クリストファーは落ち着かない気持ちになると、頭の中で高等数学の問題などを考えて気持ちを落ち着かせたりするため、数学や宇宙物理学の話がときおり出てきますが、読者にとっても気分転換になるくらいの配置で、それらもまた楽しめます。

 彼は必ずしも恵まれた環境にいるのではなく、むしろ崩壊した家庭にいて、大人たちのエゴに板ばさみになっているのですが、彼が自分なりに成長して様は、読後にヒューマンな印象を与え、クリストファーとは、「キリストを運ぶ者」という意であるという文中の言葉が思い出されます。クリストファー自身は、自分は自分以外の何者でもないという理由で、この意味づけを認めていませんが...。

The Curious Incident of the Dog in the Night-Time.jpg イギリスでは当初、児童書として出版され、なかなか好評だったため、それを大人向けに改版したものが本書らしいでです。翻訳者は『アルジャーノンに花束を』('78年/早川書房)の小尾芙佐さんですが、語り手の視点の置き方や語り口という点ではすごく似ている作品です。「アルジャーノン」はネズミの名前ですが、この本にもトビーというネズミが出てきます。

 ただし本書には、自閉症(アスペルガー症候群)という「障害」とその「可能性」を知るためのテキストとして読めるという大きな利点があるかと思います。彼らのすべてが、同じようにこうした障害や能力を持つと思い込むのは、それはそれで、また危険だとは思いますが。

【2007年単行本新装版〔早川書房〕/2016年文庫化[ハヤカワepi文庫]】

《読書MEMO》
英国舞台「The Curious Incident of the Dog in the Night-Time」(New Theatre Oxford)/国内舞台「夜中に犬に起こった奇妙な事件」2014年4月4-20日 世田谷パブリックシアター/4月24-29日 シアターBRAVA!(森田剛主演)
The Curious Incident of the Dog in the Night-Time_full.jpg夜中に犬に起こった奇妙な事件4.jpg

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女性教師と子どもたちの交流。傑作だからこそ批判の対象になる。

兎の眼1.jpg 『兎の眼』(灰谷健次郎).jpg 兎の眼2.jpg  灰谷健次郎.jpg 灰谷健次郎(1934‐2006/享年72)
兎の眼 (理論社の大長編シリーズ)』〔'74年(イラスト・長谷川知子)〕『兎の眼 (新潮文庫)』〔'84年〕『兎の眼 (フォア文庫愛蔵版)』〔'04年(イラスト・長新太)〕

 1974(昭和49)年1月刊行、1975(昭和50)年度・第8回「日本児童文学者協会新人賞」受賞作。

 '06年11月に72歳で亡くなった児童文学作家・灰谷健次郎(はいたに・けんじろう)は、大阪の教育大学を卒業後17年間勤めた小学校教諭を退職してアジア各地を放浪したのちに、'74年にこの作品で児童文壇にデビューしました。

 この作品は、新任女性教師の小谷先生と、その学校の生徒である塵芥処理所の子どもたちとの交流を描いたもので、'74(昭和49)年に理論社から刊行されましたが、この本ぐらい児童文学界で批評や議論の対象となった本は、他には数少ないのではないかと思われます。

 この小説に対し、描かれている人物像が善悪パターン化されているのではないかとの批判もありますが、小谷先生自身が、夫との関係に問題を抱えるなど、旧来の物語にある天使のように完璧な教師としては描かれていないことからみても、必ずしもその批判は当たらないのではと思います。
 そうすると今度は、児童文学にそうした夫との別れ話のようなことを持ち出すのはどうかという批判もあって、大人も子ども読む本というものの難しさを感じます。

 自閉症でハエの飼育に固執する鉄三に対し、小谷先生やその生徒が理解を示すことで彼が自分を取り戻すプロセスには感動しました。
 自閉症児は特定の事象に固執する傾向がありますが、その固執するものに対し誰かが共感を示すことが自閉症児に欠けているとされる〈社会性〉の習得・強化に良い影響を与えるというのは、ごく近年の自閉症研究の成果のはずで、30年以上前に書かれたこの物語では、そのことがすでにしっかり織り込まれているのは驚きと言えます。
 ただ、鉄三が感謝状が貰えるような話にまでもっていく必要も無かったのでは...。ちょっとやりすぎ。

 賞賛も批判もありますが、児童文学の領域を拡げた1冊であることに間違いないと思います。

 【1974年単行本・1978年(理論社の大長編シリーズ )・1987年・1996年改版・2004年文庫愛蔵版〔理論社〕/1984年文庫化[新潮文庫]/1998年再文庫化[角川文庫]】 

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戦時を生き抜いた少年の成長物語。"導師"的存在の〈佐脇老人〉が味がある。

ぼんぼん.jpg          ぼんぼん1.jpg 『ぼんぼん第1部』 今江祥智.jpg 今江祥智 氏(略歴下記)
ぼんぼん (理論社の大長編シリーズ―ぼんぼん)

 1973(昭和48)年1月刊行、1974(昭和49)年度・第14回「日本児童文学者協会賞」受賞作で、太平洋戦争とその後の時代を生き抜いた少年とその家族を描いた著者の自伝的作品の第1部であり、本書では戦争直前から終戦までを辿っています。

 主人公の小学校4年生の洋は、タイトル通り、関西の比較的裕福な家庭の子ですが、戦争直前に父親を病気で失うなどの辛い体験もします。
 戦時下における家族や学校生活の日常が柔らかい関西弁の会話で描かれていて、小学生の目で見た〈戦争〉というものが、オヤツなどの生活面の変化や、兄や学校の先生など大人たちの態度の変化を通して、子どもならではの感性に沿ってよく描かれています。

 父のいない母子を助けるのが、家族に恩義があるという佐脇さんという元ヤクザの老人で、この人が洋の良き導き手になりますが、気骨ある反戦老人でありながら、思春期の入り口にある洋に様々な手ほどきをしたりして、なかなか味があります。
 全体を通して洋の成長物語として読める本書の中では、この〈佐脇老人〉の"導師"的存在が大きな比重を占めているように思えます(この物語は第4部まで続編があり、第4部では洋は成人して教師になっています)。

わが街角 早乙女.jpg 以前に読んだ同じ戦争児童文学というべきものに、早乙女勝元氏の『わが街角』('73年/新潮社(全5巻)、'86年/新潮文庫(上・中・下)、'05年/草の根出版会〔『小説東京大空襲(第1巻・第2巻-わが街角(上・下)』)があり、こちらは東京の下町を舞台にした早乙女氏の自伝的大河小説で(ボリューム的には中高生~大人向けか)、作者が1945年3月に12歳で経験した「東京大空襲」が物語のクライマックスになっていますが、『ぼんぼん』の方は、その3日後の「大阪空襲」が物語の頂点になっています。
わが街角〈下〉 (新潮文庫)

 因みに、早乙女勝元氏も今江祥智氏も、同じ1932(昭和7)年生まれです。

【1973年単行本・1982年改版〔『ぼんぼん第1部』―理論社の大長編シリ-ズ〕・1995年単行本〔理論社〕/1987年文庫化[新潮文庫]/2010年再文庫化[岩波少年文庫]】

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今江 祥智(いまえ・よしとも):
1932年大阪市に生まれる。同志社大学文学部卒業。童話や小説をはじめ、翻訳や評論の仕事も多い。'91年までの作品は「今江祥智の本」全37巻と「今江祥智童話館」全17巻(理論社)にまとめられているほか、「マイ・ディア・シンサク」(新潮社)「そらまめうでてさてそこで」(文渓堂)「日なたぼっこねこ」(理論社)「まんじゅうざむらい」(解放出版社)「帽子の運命」(原生林)翻訳「パプーリとフェデリコ三部作」(バンサン、ブックローン)四部作をまとめた「ぽんぽん全1冊」(理論社)評論集「幸福の擁護」(みすず書房)などがある。野間児童文学賞、路傍の石文学賞、小学館児童出版文化賞などを受賞。

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