「●あ行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2463】 石田 民三 「将軍を狙う女」
「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●妻夫木 聡 出演作品」の インデックッスへ 「●柄本 明 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●ひ 平野 啓一郎」の インデックッスへ
安藤サクラの演技力が冒頭部分を牽引。原作へのこだわりが感じられて良かった。
「ある男」窪田正孝・安藤サクラ/眞島秀和・妻夫木聡/清野菜名
弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者・谷口里枝(安藤サクラ)から、亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身元調査をして欲しいという奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経験後に子どもを連れて故郷へ帰り、やがて出会った大祐と再婚、新たに生まれた子どもと4人で幸せな家庭を築いていたが、大祐は不慮の事故で帰らぬ人となった。ところが、長年疎遠になっていた大祐の兄・恭一(眞島秀和)が、遺影に写っているのは大祐ではないと話したことから、愛したはずの夫が全くの別人だったことが判明したのだ。城戸はその男「X」の正体を追う中で様々な人物と出会い、驚くべき真実に近づいていく―。
2022年度・第47回「報知映画賞」作品賞受賞作。原作は、芥川賞作家・平野啓一郎の、第70回「読売文学賞」受賞作である『ある男』('18年/文藝春秋)で、文芸作品であると同時に、"ある男"の謎の過去を追う物語であり、ミステリーとまでは言えないですが、エンターテインメント性も備わった作品です。
妻夫木聡/安藤サクラ/窪田正孝/清野菜名
原作は、里枝の再婚相手である大祐が亡くなって里恵が未亡人となったところから話が始まりますが、映画の方は、里枝と大祐の出会いから始まり、二人が慎ましやかながらも幸せな家庭生活を送っていた中、大祐が森林伐採の仕事中に倒木の下敷きになって亡くなるまでが冒頭に描かれています。この部分を安藤サクラが圧倒的な演技力で引っ張っていて、これがこの作品の中盤から後半へ向けてのいい"助走"になっているように思いました。
以下、ネタバレになりますが、猟奇殺人犯の父を持つことXは、成長するにつれ、父に生き写しになる自分を嫌悪し、自分から父を剥ぎ取りたい一心で、ボクシングに打ち込み、さらに、殺人犯の子という烙印から逃れるために、戸籍を替えて、最後には「谷口大祐」となって里枝のもとに辿り着き、やっと幸福に満ちた家族との日々を手に入れたということになります。
夫が何か人に言えない過去を抱えていたら、犯罪者だったらと、その不安で苦しんだ里枝も、最後は城戸弁護士の調査により、夫が忌まわしい血から逃れたい一心でここに辿り着いた、信じていた通りの心優しい人だったことを知り、母子で安堵するというのがこの作品の結末であり、普通のミステリの結末とはまた違った味わいがあります。
ラストシーン近くで、弁護士の城戸(妻夫木聡)が妻・香織(真木よう子)の浮気に気づくというのは原作では仄めかされていた程度だったでしょうか。それに続くように、ラストでは、一人で飲むバーでふと気まぐれにXになりすまして、温泉旅館の実家を飛び出して自分の人生を歩んでいるなどと、隣の客にうそぶいて見せます。
原作では、作家とおぼしき語り手である男が、バーで出会って親密になった弁護士から聞いた話がこの物語であるという構造になっていて、谷口の過去を自分の過去のように話して一時的に他人なった気分を味わうのは、この作家と思しき語り手です(映画だけ観て、城戸が谷口と戸籍交換したのかと思った人もいたようだが、原作を読んだ側からは、それはあり得ない発想ということになる)。また、妻の浮気の方は原作も最後の方に出てきますが、作家が谷口になりすましてみるのは、初期段階にあったエピソードです。順番を変えたことで、これはこれで、Xの人生にどこか共感を覚えた城戸が、彼にバトンを渡されたような意味合いが出ています。
このように、入れ子構造を1つ分(作家の分)外してはいますが、冒頭のルネ・マグリットの絵画「エドワード・ジェームズの肖像」に、それを眺める城戸自身が加わることで"複製男"が3人になるのは、「城戸→X→本物の谷口大祐」という構造のメタファーであると分かり、インテリジェンスが感じられました。どこまで観る側に伝わったか(特に原作を読んでいない人に対して)というのはありますが、原作へのこだわりがあって、個人的には良かったように思います(評価は原作と同じく★★★★)
「ある男」●制作年:2022年●監督:石川慶●製作:田渕みのり/秋田周平●脚本:向井康介●撮影:近藤龍人●音楽:Cicada●原作:平野啓一郎●時間:121分●出演:妻夫木聡/安藤サクラ/窪田正孝/清野菜名/眞島秀和/小籔千豊/坂元愛登/山口美也子/きたろう/カトウシンスケ/河合優実/でんでん/仲野太賀/真木よう子/柄本明●公開:2022/11●配給:松竹●最初に観た場所:TOHOシネマズ錦糸町オリナス(22-12-18)(評価:★★★★)
柄本明(戸籍交換ブローカー・小見浦憲男)
「TOHOシネマズ 錦糸町オリナス」座席数・スクリーンサイズ
SCREEN1 172 3.9×9.2m
SCREEN2 450 6.4×15.2m
SCREEN3 159 3.6×8.7m
SCREEN4 223 4.4×10.5m
SCREEN5 114 3.6×8.6m
SCREEN6 114 3.6×8.6m
SCREEN7 112 3.4×8.3m
SCREEN8 113 3.6×8.6m
8スクリーン 1,457
2022年12月18日 錦糸町オリナス(右の建物)
《読書MEMO》
●2023(令和5)年・第46回日本アカデミー賞(2023年3月10日発表)
最優秀作品賞 「ある男」(石川慶)
最優秀アニメーション作品賞 「THE FIRST SLAM DUNK」(井上雄彦)
最優秀監督賞 石川慶 -「ある男」
最優秀脚本賞 向井康介 - 「ある男」
最優秀主演男優賞 妻夫木聡 -「ある男」
最優秀主演女優賞 岸井ゆきの -「ケイコ 目を澄ませて」
最優秀助演男優賞 窪田正孝 -「ある男」
最優秀助演女優賞 安藤サクラ -「ある男」
映画「ある男」が最多8冠/第46回日本アカデミー賞
作品賞や監督賞など最多8部門で最優秀賞を受賞し喜ぶ「ある男」の出演者ら。前列左2人目から清野菜名さん、安藤サクラさん、窪田正孝さん、妻夫木聡さん、石川慶監督ら=10日午後、東京都内のホテル(代表撮影)