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3時間43分の大作だが討ち入りシーン抜き。前半は忠義とは何かを問う論争劇、終盤は女性映画。

元禄忠臣蔵 前後編[VHS].jpg元禄忠臣蔵1941・42.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 元禄忠臣藏(前篇・後篇)<2枚組>」河原崎長十郎(大石内蔵助)/高峰三枝子
元禄忠臣蔵 前後編(全2巻セット)[VHS]
元禄忠臣蔵 松の廊下.jpg 浅野内匠頭(五代目嵐芳三郎)は江戸城・松の廊下で吉良上野介(三桝萬豐)に斬りつけたかどにより切腹を命じられる。さらに浅野が藩主を務める赤穂藩はお家取り潰しとなってしまう。赤穂藩では国を守るために戦うか、あるいは主君に殉じて切腹をするか、意見が真っ二つに分かれた。家老の大石内蔵助(四代目河原崎長十郎)は、幕府に城を明け渡すことにする。上野介を討つため、内蔵助は主君の妻である瑶泉院に別れを告げる。その他の赤穂浪士も家族と別れ、続々と大石のもとに集まった。討ち入りを終え吉良の首を討ち取った大石は、泉岳寺にある浅野の墓を訪れる。その後、大石ら浪士たちに切腹の命が下る―。

元禄忠臣蔵 前編・後編 0.jpg 1941年12月に前編が公開され、翌年2月に後篇が公開された溝口健二監督による3時間43分の大型時代劇。劇作家の真山青果(1878-1948)による新歌舞伎派の演目「元禄忠臣蔵」を、原健一郎と依田義賢が共同で脚色し、厳密な時代考証、実物大の松の廊下をはじめとする美術、ワンシーンワンカットの実験的手法を用いた流麗なカメラワークなどによって、それまでの「忠臣蔵もの」とは全く異なる作品に仕上げています。映画はいきなり江戸城内松の廊下で浅野内匠頭(嵐芳三郎)が吉良上野介(三桝萬豐)に斬かかる場面から始まります(まるで御所のようなセットのスケールの大きさ!)。事件後、上野介が沙汰無しで、内匠頭が切腹との御下知を伝える使者に対し、多門伝八郎(小杉勇)が、内匠頭が斬りつけようとした時に、吉良が損得のために脇差に手をかけなかったことを、侍として風上にも置けない人物だと批判しています(これは明らかに創作だろうなあ)。
 
元禄忠臣蔵 前編・後編6.jpg また、内蔵助(河原崎長十郎)を幼馴染みの井関徳兵衛(板東春之助)が訪ね、一緒に籠城に加えてくれと申し出る話があります。内蔵助は思うところがあってその申し出を拒絶し、家臣たちに対し開城を宣言します。その夜、内蔵助は帰宅途中で息子と共に自害した徳兵衛を見つけ、徳兵衛の死に際に、内蔵助はその本心を打ち明けます。

 さらに、上野介の首を取ろうとしない内蔵助に業を煮やし、富森助右衛門(中村翫右衛門)が上野介が徳川家の「御浜御殿」を訪れた際に討とうとするエピソードがあります。助右衛門が能装束(「義経記」の義経の姿)の男を上野介だと思って襲うものの、実はそれは後に六代将軍・家宣となる綱豊(市川右太衛門)で、綱豊は内蔵助の心中を察するよう助右衛門を諭します。そして、また、能舞台へと戻り、義経記の続きを舞います(カッコ良すぎ(笑)。上野介はその能を観る客の側だった。でも、がっちりした綱豊と爺さんの上野介を見間違えるかなあ)。実は、この作品は討ち入りの場面がないので、このシーンが本作の最大の立ち回りシーンになります(歌舞伎「元禄忠臣蔵」でも、この「御浜御殿綱豊卿」の場面は一番の見せ場のようだ)。

元禄忠臣蔵 前編・後編4.jpg 内蔵助は浅野家再興が正式に潰えると、時機到来とばかりに吉良邸に乗り込む準備をして、浅野内匠頭の未亡人・瑶泉院(三浦光子)に別れの挨拶に行きますが、外部に情報が漏れるのを怖れ、瑶泉院に本心を打ち明けられず、彼女の怒りを買ってしまう。密偵に悟られないよう、自分の詠んだ歌と称し、服差包みを瑶泉院に仕えるお喜代(山路ふみ子)に渡して去る。昼間の内蔵助の態度が気に掛かり眠れずにいた瑶泉院が服差包みを開けると中に連判状が―と、この「南部坂雪の別れ」は通常の「忠臣蔵もの」と同じですが、すぐそこに吉良への討ち入り成功の知らせが届き、画面は、討ち入りを果たして、泉岳寺の亡き主君の墓へ報告に向かう内蔵助ら義士一行に切り替わるといった流れです。

「元禄繚乱」('99年/NHK)主演:中村勘九郎
「元禄繚乱」1.jpg「元禄繚乱  99.jpg 討ち入り後、まだ45分くらい映画は続き、内蔵助が義士らが潔く切腹したのを見届けるところまでいきますが('99年のNHKの大河「元禄繚乱」(原作:船橋聖一/脚本:中島丈博)も中村勘九郎(五代目)演じる内蔵助が義士らの切腹を見届けるまでをやっていたなあ)、その間に最も時間を割いているエピソードが、磯貝十郎左衛門(五代目河原崎國太郎)とその許嫁おみの(高峰三枝子)の悲恋物語です。十郎左衛門への想いから吉良邸の情報を十郎左衛門に提供したおみのは、討ち入り後に蟄居を命じられている十郎左衛門に、その気持ち元禄忠臣蔵 前編・後編01.jpgが本心なのか吉良邸の情報が欲しかっただけなのかを確かめるため会おうと、身の回りを世話をする小姓に擬して接近しますが、内蔵助に女だと見抜かれます(高峰三枝子は誰が見ても女性(笑))。それでも、十郎左衛門の懐におみのの琴の爪が忍ばせてあることを知った彼女は喜び、これから切腹の場に向かおうとする十郎左衛門と最期の面会を果たします(こんなことが可能とは思えないが、ここはお話)。

元禄忠臣蔵 前編・後編10.jpg 討ち入りの場面がなく、セリフも堅苦しくてあまり人気のある作品ではないですが、前半は忠とは何か?義とは何か? 武士とは何か? をとことん問う価値観の「論争劇」的な展開であり、内蔵助が、浅野大学頭を立ててのお家再興願いが叶えば、仇討ちの大義がなくなることに苦悩する場面があったりします。一方、討ち入りシーンが無いまま迎えた終盤は、高峰三枝子演じるおみのにフォーカスした、溝口健二お得意の「女性映画」であったように思いました。

 この「論争劇」の側面と「女性映画」の部分が撮りたくて、溝口はこの映画を撮ったとの話もありますが(そう言えば「山椒大夫」('54年)も終盤は森鷗外の原作にはまったく無い政治劇になっていた)、そうだとすれば、討ち入りシーンは単なるアクションシーンということになるから、割愛してもいいという道理なのでしょうか。そこのところは個人的にはよく分かりませんが、溝口ファンなら一度は観ておきたい作品かと思います。

「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」('16年~'17年/NHK)主演:武井咲
忠臣蔵の恋2.jpg忠臣蔵の恋1.jpg また、この磯貝十郎左衛門と女性の悲恋物語は、諸田玲子が『四十八人目の忠臣』('11年/毎日新聞社)として小説に描いており、NHKの「土曜時代劇」枠で「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」('16年~'17年・全四十八人目の忠臣.jpg20回)としてドラマ化されています。「おみの」に該当する女性「きよ」は武井咲が演じましたが、「きよ」はこの映画で市川右太衛門が演じた後の6代将軍・徳川家宣の側室になり、7代将軍・徳川家継の生母・月光院となるという話になっています。すごく飛躍した設定だなあと思いますが、月光院の家宣の側室時代の名は「喜世(きよ)」であったとのことで、ただし、浅野家に関わった事実はないようです。『四十八人目の忠臣』では、浅野家と想い人であった礒貝十郎左衛門の仇討として徳川家将軍の生母となったという、ある種の復讐物語にしたのではないでしょうか。さらに、家宣の寵愛を得たきよは、男児(後の徳川家継)を産んだ褒美として、赤穂浅野家の再興と島流しとなっていた遺児たちの恩赦を願うという話で、つまり"48人目の忠臣"とは「きよ」こそがその人だということになります。小説は2012年(平成24)年度・第1回「歴史時代作家クラブ賞」の「作品賞」を受賞しています。

四十八人目の忠臣 (集英社文庫)
 
「元禄繚乱」991.jpg「元禄繚乱」●脚本:中島丈博●演出:大原誠 ほか●音楽:(オープニング)池辺晋一郎●原作:舟橋聖一『新・忠臣蔵』●出演:中村勘九郎/(以下五十音順)安達祐実/阿部寛/井川比佐志/石坂浩二/柄本明/大竹しのぶ/菅原文太/鈴木保奈美/京マチ子/滝沢秀明/滝田栄/宅麻伸/堤真一/中村梅之助/夏木マリ/萩原健一/東山紀之/松平健/宮沢りえ/村上弘明/吉田栄作(ナレーター)国井雅比古●放映:1999/01~12(全49回)●放送局:NHK

5代目中村勘九郎(大石内蔵助)/東山紀之(浅野内匠頭)/山口崇(大野九郎兵衛)/柄本明(進藤源四郎)・寺田農(奥野将監)
「元禄繚乱」東山ほか.jpg 「元禄繚乱」菅原.jpg菅原文太(肥後国熊本藩藩主・細川越中守綱利(内蔵介らがお預けとなった細川家の当主))
「元禄繚乱」00.jpg

宮崎あおい(矢頭さよ).jpg 宮崎あおい[左](赤穂浪士・矢頭右衛門七の妹・さよ)[当時14歳]

忠臣蔵の恋0.jpg忠臣蔵の恋4.jpg「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」●脚本:吉田紀子/塩田千種●演出:伊勢田雅也/清水一彦/黛りんたろう●音楽:吉俣良●原作:諸田玲子『四十八人目の忠臣』●出演:武井咲/福士誠治/中尾明慶/今井翼/田中麗奈/佐藤隆太/石丸幹二/大東駿介/皆川猿時/新納慎也/陽月華/辻萬長/笹野高史/平田満/伊武雅刀/三田佳子(ナレーター)石澤典夫●放映:2016/09~217/02(全20回)●放送局:NHK      
   
市川莚司(加東大介)/市川右太衛門/中村翫右衛門(右)/高峰三枝子
元禄忠臣蔵 前編・後編 12.jpg「元禄忠臣蔵 前編・後編」●英題:The 47 Ronin●制作年:1941・42年●監督:溝口健二●製作総指揮・総監督:白井信太郎●脚本:原健一郎/依田義賢●撮影:杉山公平●音楽:深井史郎●原作:真山青果●時間:(前編)111分/(後編)112分●出演:(前進座)四代目河原崎長十郎/三代目中村翫右衛門/四代目中村鶴蔵/五代目河原崎國太郎/坂東調右衛門/助高屋助蔵/六代目瀬川菊之丞/市川笑太郎/橘小三郎/市川莚司(加東大介)/市川菊之助/中村進五郎/山崎進蔵/市川扇升/市川章次/市川岩五郎/坂東銀次郎/生島喜五郎/山本貞子/(松竹京都)海江田譲二/坪井哲/風間宗六/和田宗右衛門/竹内容一/征木欣之助/梅田菊蔵/大川六郎/村時三郎/大河内龍/松永博/大原英子/岡田和子/(第一協団)河津清三郎/浅田健三/(フリー)三桝萬豐/島田敬一/(新興キネマ)市川右太衛門/加藤精一/荒木忍/梅村蓉子/山路ふみ子/(松竹大船「元禄忠臣蔵 前編・後編」ph03.jpg)高峰三枝子/三浦光子/(その他)五代目嵐芳三郎/山岸しづ江/四代目中村梅之助/三井康子/市川進三郎/坂東春之助/中村公三郎/坂東みのる/六代目嵐德三郎/筒井德二郎/川浪良太郎/大内弘/羅門光三郎/京町みち代/小杉勇/清水将夫/山路義人/玉島愛造/南光明/井上晴夫/大友富右衛門/賀川清/粂譲/澤村千代太郎/嵐敏夫/市川勝一郎/滝見すが子●公開:(前編)1941/12/(後編)1942/02●配給:松竹(評価:★★★★)

  
河原崎長十郎(大石内蔵助)
 

   
人情紙風船」('37年) 河原崎長十郎/中村翫右衛門/市川莚司(加東大介)
「人情紙風船」河原崎 中村.jpg「人情紙風船>」加東 .jpg

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「1シーン1カット」を多用した完璧な恋愛・人情ドラマ。途絶えていたのをスクリーンに復活させた「船乗り込み」。
「残菊物語」1939 p.jpg02『残菊物語』.jpg05『残菊物語』.jpg残菊物語02.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 残菊物語」花柳章太郎/森赫子
あの頃映画 松竹DVDコレクション 残菊物語 デジタル修復版」['16年]

残菊物語03.jpg 尾上菊之助(花柳章太郎)は養子ながら歌舞伎の名門、五代目菊五郎(河原崎権十郎)の後継者として苦労なく育ったが、それだけに上辷りな人気に酔っていた。この思い上った菊之助の芸を真実こもった言葉でたしなめたのは弟・幸三の若い乳母お徳(森赫子)であった。菊之助はお徳の偽りない言葉に感激、残菊物語04.jpg芝居にも身を入れるようになったが同時に二人の間には恋心が茅ばえた。だが明治の封建的な気風の中、菊五郎夫妻はお徳を解雇する。激昂した菊之助はお徳の行方を突止め二人は結ばれたが、菊之助は勘当される。菊之助は大阪劇壇の大御所・尾上多見蔵(尾上多見太郎)の許へ走り、そこで芸道に励むが、その頼る多見蔵に死なれ、地方廻りの小劇団に身を落さねばならなかった。長旅にお徳は胸を病み、苦難の日が続いた。菊之助の将来を案じた残菊物語09.jpgお徳は菊之助の親友・福助(高田浩吉)に菊之助の復帰を懇願、菊之助は勇躍、桧舞台に立ったが、その陰にはお徳が身を退くという犠牲が払われていた。菊五郎一行に加わり芸名上った菊之助の大阪初下りの日、お徳は菊之助と借りた按摩・元俊(志賀廼家辨慶)の襤褸屋の二階で重病の床に臥していた。その夜、知らせを聞いた菊之助に菊五郎は初めて、「女房に逢って来てやれ」と言い、菊之助はお徳にようやっと養父の許しが出たことを伝える。お徳は喜びつつも、晴れの船乗り込みに主役の貴方がいないのではと言い、菊之助は再び戻って船乗り込みに臨む―。

 1938(昭和13)年公開の溝口健二監督作で、溝口作品の中で、ほぼ全てが現存する数少ない戦前作品(146分中143分現存)です。1939年の「キネマ旬報ベスト・テン」の第2位作品で、溝口作品の中でも評価されている戦前の映画であり、1953年に長谷川一夫・淡島千景主演で、1963年に二代目市川猿之助・岡田茉莉子主演でリメイクされています。また、世界的にも、2015年度カンヌ国際映画祭クラシック部門でデジタル修復版が上映されるなどしています。

「残菊物語」1939es.jpg 実話を基にしているとのことで、さらに溝口演出の特徴である「1シーン1カット」を多用していることもあり、明治初期の歌舞伎界の舞台裏ドキュメン「残菊物語」1939.jpgタリーを観ているみたいな感じもします(もちろん当時の歌舞伎の表舞台も興味深い)。そうした技法を駆使すながらも、完璧な恋愛・人情ドラマとして成り立っており、これは村松梢風(1889-1961/71歳没、作家・エッセイストの村松友視の祖父)の原作がよく出来ているということではないでしょうか。リメイク版もほぼ同じストーリーであるというのは、いじるところが無いということではないかと思います。

淀川長治2.jpg 淀川長治はこの作品を、黒澤明の「羅生門」、小津安二郎の「戸田家の兄妹」と共に、自身の邦画ベスト3に本作品を挙げていたこともありました(「キネマ旬報」1979年11月下旬号)。個人的には、「人情物語」としてみると、小津安二郎監督の「浮草物語」('34年/松竹)と並んでベストになります。

zanngiku 花柳章太郎.jpg 尾上菊之助を演じた花柳章太郎(1894-1965/享年70)は、歌舞伎と新劇の間にあった「新派」の人気女形であった人で、それがこの映画では、専門の女形ではなく立役の(これまた専門ではない)歌舞伎役者を演じるということで大変な苦労があったようですが、この作品で二枚目としての新境地を開いたとのことです。晩年には新派からは元師匠の喜多村緑郎に次ぐ二人目の人間国宝に認定、文化功労者にも選定されています。また、「歌行燈」「鶴亀」「蛍」「大つごもり」などその代表作である10の芝居は「花柳十種」として選定されています(1961年「菊池寛賞」、 1962年度「朝日文化賞」(朝日賞)受賞)。

残菊物語 スイカ.jpg 多才な人で、着物衣装にも詳しく(専門の本を出している)、食通としても有名で(特に海苔、蕎麦、天ぷら、鮨、秋刀魚、つけ合せでべったら漬を好んだ)、中でも、本職以外の才能として際立っているのはエッセイストとしての才能であり、多くのエッセイ本を残しています。

 そうした花柳章太郎の経歴の中で、一つのターニングポイントとなった作品であると思って観るのもいいし、「1シーン1カット」の流れるような画面構成に着眼して観るのも愉しめるかと思います(菊之助がスイカを切るシーンが良かった。スイカを切るのはまだ撮り直しがきくが、リテイクがきかないようなシーンもいくつかあった)。

「残菊物語」1939 4.jpg船乗り込み.jpg そう言えば、ラストの「船乗り込み」ですが、当時(明治初期)は京都や江戸から役者や一座が大坂へ到着する際に行われていた儀式でしたが、1924(大正13)年に途絶えたのが、1979(昭和54)年に大阪道頓堀・朝日座で第一回公演「五月大歌舞伎」が開催されるにあたり、十七代目中村勘三郎が、歌舞伎公演を一般市民にPRするため55年ぶりに復活させています。今でこそ「七月大歌舞伎」公演前の恒例行事、また大阪の初夏の風物詩として広く知れ渡っていますが、この映画が作られた時は、途絶えてから10数年経っていたことになり、溝口がそれをスクリーン上で復活させたということになります。

「残菊物語」1939ド.jpg「残菊物語(殘菊物語)」●制作年:1939年●監督:溝口健二●製作総指揮・総監督:白井信太郎●脚本:依田義賢●撮影:三木滋人/藤洋三●音楽:深井史郎●原作:村松梢風●時間:100分●出演:花柳章太郎/高田浩吉/川浪良太郎/高松錦之助/葉山純之輔/尾上多見太郎/結城一朗/南光明/天野刃一/井上晴夫/廣田昂/富本民平/保瀬英二郎/伏見信子/花岡菊子/白河富士子/最上米子/中川芳江/西久代/鏡淳子/大和久乃/田川晴子/柴田篤子/秋元富美子/国春美津枝/白妙公子/(劇団より)河原崎権十郎/森赫子/花柳喜章/志賀廼家辨慶/柳戸はる子/松下誠/島章/中川秀夫/花田博/春本喜好/橘一嘉/(大船より)磯野秋雄/(新興より)嵐徳三郎/梅村蓉子●公開:1939/10●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(21-08-17)(評価:★★★★☆

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江戸時代の人って、今われわれがこの映画を観るような感じで浄瑠璃を愉しんだのではないかと思わせる作品。
近松物語1poster.jpg近松物語 dvd.jpg 近松物語 00chikamatsu.jpg
近松物語 4K デジタル修復版 Blu-ray」香川京子(おさん)/長谷川一夫(茂兵衛)

近松物語chikamatsu1.jpg 京烏丸四条の大経師内匠は、宮中の経巻表装を職とし、町人ながら名字帯刀も許されていて、傍ら毎年の暦の刊行権を持ちその収入も大きかった。当代の以春(進藤英太郎)はその地位格式財力を鼻にかけて傲岸不遜の振舞が多かった。その二度目の若い妻おさん(香川京子)は、外見幸福そうだったが何とか物足らぬ気持で日を送っていた。おさんの兄・道喜(田中春男)は借金の利子の支払いに困ってその始末をおさんに泣きつく。金銭に関しては厳しい以春に断わられ、止むなくおさんは手代・茂兵衛(長谷川一夫)に相談、彼は内証で主人の印判を用い、取引先から暫く借りておこうとしたが、それが主手代の助右衛門(小沢栄太郎)に見つかる。彼は潔く以春に詫びるが、以春の厳しい追及近松物語 05.jpgにもおさんのことは口に出さない。ところがかねがね茂兵衛に思いを寄せていた女中のお玉(南田洋子)が心中立に罪を買って出る。以前からお玉を口説いていた以春の怒りは倍加して、茂兵衛を空屋に檻禁する。お玉はおさんに以春が夜になると屋根伝いに寝所へ通ってくることを打明ける。憤慨近松物語 04.jpgしたおさんは、一策を案じて、その夜お玉と寝所を取り替えて寝る。ところがその夜その部屋にやって来たのは茂兵衛だった。彼はお玉へ一言礼を言いに来たのだが、思いがけずそこにおさんを見出し、しかも運悪く助右衛門に見つけられて不義密通だと騒がれる。遂に二人はそこを逃げ出す。琵琶湖畔で茂兵衛はおさんに思慕を打明けて二人は強く結ばれ、以後役人の手を逃れつつも愛情を深めていく―。

近松物語5.jpg 1954年公開の溝口健二監督作で、近松門左衛門作の「大経師昔暦」を川口松太郎が劇化(オール読物所載「おさん茂兵衛」)し、それをもとに依田義賢が脚色したもの。近松門左衛門作は30年以上前に起きた京都四条烏丸の大経師の妻おさんが手代の茂兵衛と不義に陥り処刑された事件をベースに(この事件は井原西鶴も「好色五人女」で近松に先駆けて元ネタにしている)、処刑された男女の三十三回忌に合わせてその事件の顛末を世話浄瑠璃に仕立てたとのことですが、観ていて、江戸時代の人って、今われわれがこの映画を観るような感じで浄瑠璃を愉しんだのだろうなあと思わせる作品です。
進藤英太郎(大経師以春)/南田洋子(お玉)

近松物語6-4.jpg 一方で、映画は原作から改変されている部分もあり(川口松太郎によるものと思われるが)、近松の「大経師昔暦」では、茂兵衛がお玉の親切に報いるために、かねてから自分を慕っていたお玉の気持ちに応えようとお玉の寝所に忍び込み、その時、お玉の代わりに控えていたおさんは、以春が忍んできたと思い込み、暗闇のなかでそのまま茂兵衛と実際に交情を交わしてしまい、これが二人の結びつく契機となったことになっています。それを映画では、その場で交情に至らなかったものの以春にその関係を疑われ、不義の濡れ衣を被せられたように改変近松物語 kagawa.jpgされていてます。こうして二人が逃避行に至るまでがテンポ良く描かれ、更に、二人のプラトニックな関係を中盤以降に引っ張る作りとなって、その分観る者の感情移入を促すし、香川京子という女優のイメージとも合致していて良かったのではないかと思います(これが当初予定されていた小暮実千代や京マチ子だとまた違った展開になったのか?)。

香川京子(おさん)

 茂兵衛役の長谷川一夫は、大映社長・永田雅一の強い要請での起用でしたが、スター嫌いだった溝口健二監督は、貧しい育ちで"素朴な"手代・茂兵衛を構想していたのに、長谷川一夫が徹頭徹尾"洗練された"演技姿勢を崩さなかったため、作品全体に対して不満を抱いていたとのことです。個人的には、歌舞伎役者時代に女形で鳴らした長谷川一夫だけに、手代という受け身的な立場の人間の仕草をさらっと演じているのは流石だと思いました。

近松物語 00.jpg 「西鶴一代女」('52年/新東宝)で1952年・第13回ヴェネツィア国際映画祭の「国際賞」を受賞し、それに続いて翌年、翌々年と「雨月物語」('53年/大映)、「山椒大夫」('54年/大映)で共に「銀獅子賞」受賞と3年連続でヴェネツィア国際映画祭での受賞を果たしていた溝口健二監督ですが、この作品は1955年・第8回カンヌ映画祭に出品されたものの、賞の選からは漏れています。賞を獲れなかった原因は、一説には、直前に大映社長の永田雅一が日本経済新聞の対談で「パリが大嫌い」「フランス人は真心がない、舌先三寸で世界を牛耳ってやろうと思っている」とフランスの悪口を延々と述べたことがカンヌ映画祭組織委員会に伝わり、委員の激怒を招いたためとされています。当時の溝口健二監督の海外での高い評価からすると、そのままの勢いでカンヌでの受賞があっても不思議ではなく、また(溝口健二監督自身はどう思っているかは別として)作品のレベルからしても、永田雅一の軽率な発言がなければ結果は違っていたかもしれません(この作品は日本では、溝口健二監督が1954年に芸術選奨を受賞した際の対象作品となっている)。

近松物語10.jpg 最後にはおさんと茂兵衛は捕らえられ、磔となる前の市中引き回しで、二人は馬上に背中合わせに縛られ、大経師屋の前を通りますが、その様を見た大経師屋の奉公人が、「おさんさんのあんな明るいお顔は見たことがない。茂兵衛さんも晴れ晴れとした顔色で、ほんまにこれから死なはんのやろか・...」と言います。しかし、実際にはおさんは晴れ晴れとした表情をしているものの、茂兵衛はどことなく浮かない顔をしていると言っていいのでは。これは愛する人と共に処刑されることを恋の成就と見做しているおさんにとって、市中引き回しは心中の「道行」を皆に見てもらっているようなものでどこか晴れがましさがあり、一方の茂兵衛にとっては、自らを犠牲にしてもおさんの命だけは助けようとしたのにこのような結果になってしまったことへの慙愧の念があるためではないかと思います。セリフと演技が整合していないとも言えますが、長谷川一夫の演技の方が"正解"でしょうか? この辺りにも、溝口健二監督と長谷川一夫の考え方の違いが表れたのかなとも思ってしまいました。でも、「雨月物語」と並ぶ溝口健二監督の傑作だと思います。

小沢栄太郎(主手代の助右衛門)/進藤英太郎(大経師以春)
近松物語 小沢栄太郎 進藤.jpg

近松物語_9.jpg「近松物語」●制作年:1954年●監督:溝口健二●製作:永田雅一●脚本:依田義賢●撮影:宮川一夫●音楽:早坂文雄●原作:近松門左衛門●劇化:川口松太郎●時間:102分●出演:茂兵衛:長谷川一夫/香川京子/南田洋子/進藤英太郎/小沢栄太郎/菅井一郎/田中春男/石黒達也/浪花千栄子/十朱久雄/荒木忍/東良之助/葛木香一/水野浩/天野一郎/橘公子/金剛麗子/小松みどり/小林加奈枝/仲上小夜子/小柳圭子/伊達三郎/石原須磨男/横山文彦/藤川準/玉置一恵●公開:1954/11●配給:大映(評価:★★★★☆)

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ある面で原作を超え(カメラ)、ある面で原作とは別物に(ストーリー)。
Sanshô dayû (1954) .jpg 山椒大夫.jpg山椒大夫 dvd.jpg 山椒大夫 映画1.jpg
Sanshô dayû (1954) /「山椒大夫」ポスター/「山椒大夫 [DVD]」(左から浪花千栄子・津川雅彦・田中絹代)
山椒大夫 4K デジタル修復版 Blu-ray
山椒大夫_.jpg香川京子の安寿1.bmp ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した溝口健二監督の「山椒大夫」('54年/大映)は、宮川一夫のカメラワークが素晴らしく、海へゆっくりとパンしていくラストシーンは、後年ジャン・リュック・ゴダール監督が「気狂いピエロ」のラストで再現したことでも有名ですが、香川京子が演じる安寿の入水シーンでは、画面の手前にかかる笹に"墨汁"を塗ってコントラストを出したりもしたとか(宮川一夫は「七人の侍」でも"墨汁"の雨を降らせた。この人、「無法松の一生」の頃から色々な創意工夫をしている)。これらの場面についての鷗外の記述があまりに簡潔であるため、映像でそれを補って余りあるものとなっています。

山椒大夫 映画2.jpg 但し、一応は鷗外作を「原作」としているものの改変部分も多くあり、まず目立つのが、姉の安寿と弟の厨子王の"姉弟"が"兄妹"に逆転していて、厨子王(花柳喜章、少年時代は津川雅彦)が兄、安寿(香川京子)が妹、となっている点で、これは、花柳喜章、香川京子という配役が先に決まっていたためにこうなったとか。

香川京子の安寿2.bmp 奴隷として売られてかれこれ10年、美少年だった安寿は肉体労働に明け暮れ半ば自暴自棄の単なるダメ男になっていて、そうした兄・厨子王の様変わりに密かに心を痛める健気な妹・安寿-それがある日突然に兄が逃亡を思い立ったら、妹に兄さんだけ逃げて...と言われる―。安寿は自らを犠牲にして、後の厨子王を支える守り本尊となったわけで、こうした設定からも、妹より姉の方がやはり良かったのでは(第一、妹を置いて逃亡する兄...というのも如何なものか)。
香川京子 in「山椒大夫」(1954)

山椒大夫 鴎外原作.jpg 更に原作には、焼きゴテで拷問された安寿の顔のやけどが、仏像の加護でみるみる傷が癒えるという場面がありますが映画には無く、またラストは、厨子王が盲目となった母親と再会した際に、守り本尊を額に押し付けると目が開くというものですが、映画では母親の眼は明かなかったように見え、意図的に霊験譚的なものを排しているように思えます(あの「雨月物語」を撮った監督にして)。

少年時代の厨子王(津川雅彦)
山椒大夫 津川雅彦.jpg 一方で、安寿と厨子王の父親・平正氏が、朝廷の意に反して困窮する農民を救おうとして筑紫国へ左遷されたことや、両親の"教育方針"など、「原作」には無い部分はしっかり描かれていて、後半は厨子王の出世に至る経緯や「奴隷解放」的施策も描かれていますが("上からの改革"であることには違いない)、この辺りはうんと膨らませていて、完全に一本の"政治時代劇"になってしまっています(いかにも「元禄忠臣蔵」('41‐'42年/松竹)を撮った溝口らしい。ここまで改変していても、「原作:森鴎外」と謳っているところは律儀なのか図太いのか?)。結果として、全体としても社会風刺的色合いが強くなっていますが、悪く言えば"通俗時代劇"風で、花柳喜章を筆頭に演技も"現代劇"風で平安時代とは思えず、テーマ的にも、果たして1950年代の日本で、「山椒大夫」という説話をベースとした作品の映画化において、こうした観点からの社会風刺が必要だったのか、やや疑問にも思いました。

山椒大夫4.jpg ラストが母子再会で終わるのは原作通りで、ベースとしては母子モノでありながらも、リアリズム乃至"娯楽性"の追求が、結果として土着民話的な説話色の強い原作を、勧善懲悪的な話に変えてしまった感もしなくもなく、「原作」とは別物とみた方が妥当かも(宮川一夫のカメラで星半個から1個プラス)。

「山椒大夫」(花柳喜章、田中絹代)

香川京子.jpg 因みに、安寿役の香川香子にとっては、同年公開の溝口健二監督作品「近松物語」('54年/大映)の1つ前の出演作品となります。映画会社と専属契約を結んだ俳優は他社の作品には出られないという「五社協定」が1953年に締結されましたが、彼女はその前年にフリーとなっていたため、小津安二郎監督の「東京物語」('53年/松竹)、黒澤明監督の「悪い奴ほどよく眠る」('60年/東宝)、「天国と地獄」('63年/東宝)など、各映画会社それぞれの黄金期の巨匠らの作品に出演することになりました。黒澤作品において、三船敏郎との共演回数が最も多かった女優(9回)でもあります。

山椒大夫 vhs.jpg「山椒大夫」●制作年:1954年●製作:永田雅一●監督:溝口健二●脚本:八尋不二/依田義賢●撮影:宮川一夫●音楽:早坂文雄●原作:森鷗外「山椒大夫」●時間:124分●出演:田中絹代/花柳喜章/加藤雅彦(津川雅彦)/香川京子/榎並啓子/進藤英太郎/河野秋武/菅井一郎/見明凡太郎/浪花千栄子/毛利菊江/三津田健/清水将夫/香川良介/橘公子/相馬幸子/小園蓉子/小柴幹治/荒木忍/大美輝子/金剛麗子/南部彰三/伊達三郎●公開:1954/03●配給:大映(評価:★★★☆)
山椒太夫 [VHS]

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「幽玄美女」と「糟糠の妻」。ラストは主人公が真実を知ったところで終わった方が余韻が出た?

雨月物語.jpg雨月物語 ps.jpg 雨月物語 dvd.jpg 雨月物語2.jpg
「雨月物語」ポスター/「雨月物語 [DVD]」京マチ子/森雅之

雨月物語 田中絹代.jpg 戦国時代(天正11年)の琵琶湖周辺の地。陶器が良い儲けになることを知った貧農の源十郎(森雅之)は、妻・宮木(田中絹代)と子、更に実妹・阿浜(水戸光子)とその夫・藤兵衛(小沢栄)を連れて、焼き上がった陶器を長浜まで運ぼうとするが、海賊が出ることを知り、源十郎は自分の妻子だけ家に帰す。長浜に辿り着いた3人は、順調に陶器を売り捌いて大儲けするが、武士「雨月物語」 (1953 大映).jpgとなって立身出世する野心を捨て切れない藤兵衛は武具を買い求めに行き、藤兵衛の妻は夫を捜す間に狼藉者らに犯されてしまう。一方の源十郎は、臈たけた若狭(京マチ子)という元御姫様と出会い、陶器を届けに行った姫の邸で彼女と契りを交わしてしまった揚句、その邸で焼き物を作っては売りに行くという生活を始めてしまう。何年か後、藤兵衛は戦の武勲が認められ、出世した自分の姿を見せに村へ子分を引き連れ戻ろうとする途中、子分達を慰労しようと女郎部屋に立ち寄り、そこで零落し遊女となった妻と出会う。恨み事を言う妻に藤兵衛はひたすら謝るのみ。源十郎の方は、行商の途中で僧侶に死霊に憑かれていると言われて、姫の正体が亡霊であることを知り、やっとの思いで故郷の村に戻る。そこには妻・宮木が優しく待ち受けていたのだが―。

京マチ子 雨月物語.jpg 溝口健二の「雨月物語」('53年/大映)は、1953年のヴェネツィア映画祭サン・マルコ銀獅子賞をはじめ数々の賞に輝いた作品で、この年のヴェネツィア国際映画祭は金獅子賞が"該当無し"だったので、実質的には出品作中トップ評価だったことになります。

京マチ子 雨月物語.jpg 原作は、1776年に発表された上田秋成の「雨月物語」の中の「浅芽が宿」「蛇性の淫」で、2つの話を糾える縄の如くに仕上げた脚本は巧みであり(「蛇性の淫」は本来、中国の古典的説話「白蛇伝」や、能の「道成寺」の由来である"安珍・清姫伝説"と重なる)、更にモーパッサンの短篇「勲章」もモチーフとして織り込まれていたりして、相当に原作を翻案しているようですが、森鷗外の原作を膨らませ過ぎている感のある「山椒大夫」('54年/大映)ほど気にはならなかったです。「原作」と言われているものを実際に読んでいると、それにこだわってしまうのかも。但し、時代設定が近世初期なので(「山椒大夫」は中世)、セリフの言い回しが多少現代風であっても許せてしまうというのもあるかもしれません。

雨月物語 田中絹代2.jpg雨月物語1.jpg 原作自体が優れているわけですが、原作を分かり易く翻案したエンタテインメントとして充実していて、一方で、ジャン=リュック・ゴダールをして「涙が出てくる」と言わしめたほどの霧立ち込める湖に舟を漕ぎだす場面の美しさや、映画史に残るとされる京マチ子の彼岸の妖艶ぶりなど、随所で幽玄美を醸して古典的雰囲気を保持しているのは、宮川一夫のカメラワークによるところが大きいのでしょう(溝口監督からの注文は「絵巻物を撮るように」とのことだったそうだが、それに応えている)。

森雅之 雨月物語.bmp 京マチ子の現実離れした「幽玄美の妖女」と田中絹代や水戸光子の土臭い「糟糠の妻」(結局、男達の野望は叶わないため、最終的にはこの表現は的確でないのだが)の異質の両者のコントラストが良く、それを繋ぐ森雅之(作家・有島武郎の長男)の演技も活き活きしていていいのですが、ラストは、妻・宮木(この時だけ顔のライティングが「姫」と同じ)の真実を源十郎が知ったところで終わった方が、余韻が出たような気もします。

Ugetsu monogatari(1953).jpg雨月物語|.jpg ラストの宮木の母性的なナレーション(田中絹代)も心に滲みて悪くはないですが、その他にも藤兵衛夫婦の「テレビ時代劇のエピローグ」風のやり取りなどもあって、やや解説的と言うか、「幸せの青い鳥は...」的な人生訓風になった感じもします。でも、やはり傑作だと思います。

Ugetsu monogatari(1953)

 因みに、メキシコの作家カルロス・フエンテスが、この溝口の「雨月物語」に想を得て、「アウラ」という作品を書いていますが、これも傑作です。

京マチ子とソフィア・ローレンD.jpg 京マチ子とソフィア・ローレン.jpg 京マチ子とソフィア・ローレン(1955年・ヴェネチア)

小沢栄(栄太郎)(藤兵衛)/水戸光子(藤兵衛の妻・阿浜) 森雅之(源十郎)/京マチ子(若狭)
雨月 小沢栄太郎、水戸光子.jpg 雨月 森雅之、京マチ子.jpg
田中絹代(源十郎の妻・宮木)
雨月物語 田中絹代8.jpg「雨月物語」●制作年:1953年●製作:永田雅一●監督:溝口健二●脚本:川口松太郎/依田義賢●撮影:宮川雨月物語 dvd.gif一夫●音楽:早坂文雄●原作:上田秋生「雨月物語」●時間:96分●出演:森雅之/田中絹代京マチ子/水戸光子/小沢栄(栄太郎)/青山京マチ子.jpg杉作/羅門光三郎/香川良介/上田吉二郎/毛利菊枝/南部彰三/光岡龍三郎/天野一郎/尾上栄五郎/伊達三郎/小柳圭子/大美輝子/金剛麗子/横山文彦/玉置一恵/沢村市三郎●公開:1953/03●配給:大映(評価:★★★★☆)

京マチ子(1959年)[共同通信]

《読書MEMO》
●マーティン・スコセッシ監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●2001年宇宙の旅(スタンリー・キューブリック)
 ●8 1/2(フェデリコ・フェリーニ)
 ●灰とダイヤモンド(アンジェイ・ワイダ)
 ●市民ケーン(オーソン・ウェルズ)
 ●山猫(ルキノ・ヴィスコンティ)
 ●戦火のかなた(ロベルト・ロッセリーニ)
 ●赤い靴(マイケル・パウエル & エメリック・プレスバーガー)
 ●河(ジャン・ルノワール)
 ●シシリーの黒い霧(フランチェスコ・ロージ)
 ●捜索者(ジョン・フォード)
 ●雨月物語(溝口健二)
 ●めまい(アルフレッド・ヒッチコック)

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社会的偏見と人間のエゴイズムをシンプルに凝縮。岩波文庫版(特に旧版)は挿絵が豊富。

脂肪の塊 モーパッサン 岩波2 (1).jpg2『脂肪の塊』.jpg 脂肪の塊 モーパッサン 岩波1.jpg マリヤのお雪 1935.jpg 駅馬車 dvd.jpg
脂肪の塊 (1957年) (岩波文庫)』水野 亮:訳 『脂肪のかたまり (岩波文庫)』高山鉄男:訳 「マリアのお雪」(主演:山田五十鈴(当時18歳))VHS 「駅馬車(デジタルリマスター版) [DVD]」[下]"Boule de Suif" (仏・2000年)
脂肪の塊 モーパッサン 岩波4.jpgboule de suif poche (仏・2000年).jpg プロシア占領下の北仏ルーアンからの脱出行を図る馬車に乗り合わせたのは、互いに見知らぬブルジョア階級の夫婦3組、修道女2人、民主主義者の男1人、そして「脂肪の塊」と綽名される娼婦が1人―。大雪で移動に時間を要し、腹が減った彼らは、娼婦が自分の弁当を一同に快く分け与えたおかげで飢えを凌ぐことが出来、一旦は、普段は軽蔑している彼女に親和的態度を見せる。しかし途中の町宿で、占領者であるプロシアの士官が娼婦との関係が持てるまでは彼らの出発を許可しないと言っていると知ると、愛国心ゆえ嫌がる娼婦を無理矢理説き伏せ,士官の相手をさせようとする。そして再び出発の時、皆のために泣く泣く士官の相手をした娼婦を迎えた彼らの態度は、汚れた女を見るように冷たく、娼婦は憤慨し悲嘆にくれる―。

Maupassant  Boule de suif.jpgBoule_de_Suif.jpg 1880年にギ・ド・モーパッサン(1850-1893)が30歳で発表した彼の出世作であり、馬車に乗り合わせた少数の人々が繰り広げるシンプルな出来事の中に、社会的偏見と人間のエゴイズムを凝縮させた、風刺文学の傑作と言えます(皮肉屋モーパッサンの面目躍如といった感じか)。

 それにしてもひどいね、このブルジョア達は。自分達が無事にフランス軍の所に行くことこそ愛国主義に適うことであるとして娼婦を説得したのに、娼婦の犠牲によって足止めが解かれた途端にその行為を「非愛国的」として非難しているわけで、これぐらい分かりやすい"身勝手"ぶりは無く、娼婦の立場を考えれば"残酷"と言っていいくらい(「民主主義者」(注:水野亮訳)のコルニュデのみ沈鬱な様子を見せているのが救いか)。

五木寛之00jpg.jpg 普仏戦争(1870‐71)の戦時下という状況設定ですが、そう言えば五木寛之氏のエッセイにも、五木氏自らが子供の頃に朝鮮で体験した、(占領側に女性を人身御供として差し出すという)同じようなエピソードがありました。但し、この作品のブルジョワ達が、ある種、閉ざされたグループ内での"ノリ"で行動しているように見える点は、わざわざ戦争や階級差別を持ちださなくとも、現代の学校のいじめ問題などにも通じるところがあって、怖いように思えました。

「絵のある」岩波文庫への招待.jpg 作品中、娼婦の呼び名は「ブール・ド・シュイフ(Boule de Suif)」で通されていますが、「脂肪の塊」というのは直訳であり、実際は「おデブちゃん」といったところでしょうか。以前、講談社文庫(新庄嘉章:訳『脂肪の塊・テリエ観』)で読んで、今回、岩波文庫の旧版(水野亮:訳・昭和32年改版版)で再読しましたが、岩波文庫は挿絵入りで、それを見ると、実際丸々太って描かれています。その他にも90ページそこそこの中に挿絵(1930年代のもの)が15点ぐらいあり、状況がイメージしやすくなっています(ブール・ド・シュイフが持っていた弁当がどのようなものであったかとかまで分かってしまう)。

 岩波文庫(の特に旧版)は挿絵が多くて楽しめるものが海外文学、日本文学ともに何点かあり、これもその1冊と言えるでしょう(新版にすべて移植されているとは限らないみたい。岩波文庫の新版『脂肪のかたまり』には挿画あり)。岩波文庫の挿絵に注目した坂崎重盛氏の『「絵のある」岩波文庫への招待』('11年/芸術新聞社)の表紙にも、この「ブール・ド・シュイフ」が中央やや右下に描かれています(文庫の挿絵と比べ反転しているが、表紙の絵は山本容子氏の版画)。

「絵のある」岩波文庫への招待
フランス映画 "Boule de suif" (1945)     ソ連映画 "Pyshka" (1934)
Boule de suif (1945).jpgPyshka (1934).jpg この作品は、旧ソ連(Pyshka (1934))とフランス(Boule de suif (1945))でそれぞれ映画化されていますが(ソ連版はミハイル・ロンム監督、ガリーナ・セルゲーエワ主演、フランス版はクリスチャン=ジャック監督、ミシュリーヌ・プレール主演)、何れも日本ではOyuki the Virgin 1935.jpgなかなか観られないようです(フランス版は輸入版DVD有り)。また、この作品をモチーフに舞台を日本に置き換えた溝口健二(1898-1956)監督の「マリアのお雪 (1935)」(出演:山田五十鈴(当時18歳))という作品もあります。

マリヤのお雪 1935.jpgマリアのお雪 (1935)title.jpg モーパッサンの「脂肪の塊」を川口松太郎(1899-1985)が翻案したもので、西南戦争のさなか、町を出るため名士を乗せた馬車には酌婦の山田五十鈴演じるお雪や原駒子演じるおきんたちも乗り合わせていたが、身分の卑しい彼女らと同席することを士族一家や豪商夫婦は嫌がり「けがらわしいから馬車から降りろ」となじる、そんな折、悪路のために馬車は転倒・大破して立ち往生、一行は身動きとれなくなって官軍により全員足止めを喰らい、そこでお雪が宥和策として官軍将校への人身御供的な立場に―とこの辺りまでは原作に近いですが、ここマリアのお雪 (1935).jpgからなんと、官軍の将校・朝倉晋吾(夏川大二郎)とお雪は惚れ合ってしまい、一方、お雪の代わりに自ら"人身御供"を申し出たおきんは女のメンツを潰された形に川口 松太郎.jpgなり、朝倉を憎みながらも実は彼女もまた朝倉に恋心を抱くという、恋愛・三角関係ドラマになっています。川口松太郎は第1回「直木賞」受賞作家ですが、「愛染かつら」の川口松太郎だから恋愛メロドラマになってしまうのでしょうか(因みに川口松太郎と溝口健二とは小学校時代の同級生で、川口松太郎は溝口監督の「雨月物語」('53年/大映)の脚本なども書いている)。
川口松太郎

駅馬車 dvd.jpg駅馬車 Stagecoach 1939 2.jpg 因みに、ジョン・フォード監督の「駅馬車」('39年/米)は、、1937年発表のアーネスト・ヘイコックスの短編小説「ローズバーグ行き駅馬車」(ハヤカワ文庫『駅馬車』/井上一夫訳)ですが、後にジョン・フォード監督は「この映画の発想源はギ・ド・モーパッサンの小説『脂肪の塊』だ」と語っています(主役のジョン・ウェインは当時ほとんど無名だった)。映画「駅馬車」の大まかなあらすじは、トント発ニューメキシコ州のローズバーグ行駅馬車に様々な身分の乗客が乗り合わせ、その中には婦人会から追い出された娼婦ダラス(クレア・トレヴァー)もいて他の乗客から蔑視される一方、途中から、父と兄を殺され敵討ちのため脱獄したリンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)が乗車し、駅馬車は最初の停車場に到着、ジェロ駅馬車 Stagecoach 03.jpgニモがアパッチ族を率いて襲撃に来ると言う情報があったため護衛の騎兵隊の到着を待つものの、騎兵隊は一向に姿を見せず、このままま進むかトントに戻るか乗客の間で合議した結果、このまま目的地ローズバーグへ進むこととなって、ローズバーグ近くまで襲撃に遭わずに来て、これで無事到着出来ると安堵した矢先、アパッチ族が放った一本の矢が乗客の胸に突き刺さる―というもの。以降、有名なアクションシーンが展開され、さらにリンゴ・キッドの敵討ちの話へと続きますが(このリンゴ・キッドにはジョニー・リンゴというモデルになった実在の人物がいて、3人の無法者に兄を殺され、たった3発の銃弾で兄の敵を討ったという逸話がある)、映画の前半から中盤部分は駅馬車の車内で展開される、差し詰め「移動舞台劇」といった感じでしょうか。その点で確かに「脂肪の塊」と似ています。

駅馬車 Stagecoach 1939 1.jpg 小説「脂肪の塊」での乗り合わせた乗客は、ワイン問屋を経営する夫妻、工場経営者の上流階級夫妻、伯爵とその夫人、二人の修道女と民主党員、それに娼婦エリザベート・ルーセの合わせて10人、一方の映画「駅馬車」の乗客は、当初、娼婦ダラスのほかに騎兵隊夫人、保安官、飲んだくれの医師、酒商人、賭博淀川長治 駅馬車.png屋の計6人で、途中、銀行の金を横領した銀行家が加わり、最後にリンゴ・キッドが乗り込むので合わせて8人ということになります。「脂肪の塊」より2人少ないですが、「脂肪の塊」の方は夫婦連れなども含まれていることから「6組10人」とも言え、「脂肪の塊」では、当時のフランスを象徴する階級を乗り合わさせ、「駅馬車」では当時のアメリカ西部を象徴する代表的な層を乗り合わさせていると言われていますが、「脂肪の塊」の方がブルジョア層の中で娼婦が孤立する図式が強いでしょうか。「駅馬車」は、淀川長治がユナイテッド・アーティスツ日本支社の宣伝部勤務になって最初に担当した作品であり、「駅馬車」という邦題を考えたのも淀川長治淀川長治2.jpgです(右の広告のデザインも淀川長治)。雑誌「キネマ旬報」発表の「映画人が選ぶオールタイムベスト100・外国映画編」で、1999年(キネ旬創刊80周年記念)第7位、2009年(キネ旬創刊90周年記念)第10位と高ランクを維持して日本でも評価されている一方、米国では、70年代ぐらいから騎兵隊 vs.インディアン的な映画はインディアン軽視だとされ制作されなくなり、この「駅馬車」もインディアンに対する差別的な描写があるとして上映・放送は難しくなっているそうです(傑作だけれどもポリティカル・コレクトネス上の問題があるということか)。

img1021マリヤのお雪.jpg山田五十鈴(当時18歳)

img1021マリヤのお雪 - コピー.jpgマリヤのお雪B4.jpgマリヤのお雪 yamadaisuzu.jpg「マリアのお雪」●制作年:1935年●監督:溝口健二●脚色:高島達之助●撮影:三木稔●音楽:高木孝一●原作:川口松太郎「乗合馬車」(原案:モーパッサン「脂肪の塊」)●時間:80分●出演:山田五十鈴/原駒子/夏川大二郎/中野英治/歌川絹枝/大泉慶治/根岸東一郎/滝沢静子/小泉嘉輔/鳥居正/芝田新/梅村蓉子●公開:1935/05●配給:松竹キネマ(評価:★★★)
        
       
駅馬車 Stagecoach 02.jpg「駅馬車」●原題:STAGECOACH●制作年:1939年●制作国:アメリカ●監督・製作:ジョン・フォード●脚本:ダドリー・ニコルズ●撮影:バート・グレノン/レイ・ビンガー●音楽:ボリス・モロース●原作:アーネスト・ヘイコックス「ローズバーグ行き駅馬車」●時間:99分●出演:ジョン・ウェイン/クレア・トレヴァー/トーマス・ミッチェル/ジョージ・バンクロフト/アンディ・ディバイン/ルイーズ・プラッ/ジョン・キャラダイン/ドナルド・ミーク/バートン・チャーチル/トム・タイラー/ティム・ホルト●日本公開:1940/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-12-28)(評価★★★★)●併映:「シェーン」(ジョージ・スティーブンス)

脂肪のかたまり_7834.JPG脂肪の塊・テリエ館.jpg【1938年文庫化・1957年改版[岩波文庫(『脂肪の塊』(水野亮:訳)]/1951年再文庫化[新潮文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(青柳瑞穂:訳))]/1954年再文庫化[角川文庫(『脂肪の塊―他二編』(丸山熊雄:訳))]/1955年再文庫化[河出文庫(『脂肪の塊』( 田辺貞之助:訳))]/1971年再文庫化[講談社文庫(『脂肪の塊・テリエ館』(新庄嘉章:訳))]/2004年再文庫化[岩波文庫(『脂肪のかたまり』(高山 鉄男:訳)]/2016年再文庫化[光文社古典新訳文庫(『脂肪の塊/ロンドリ姉妹―モーパッサン傑作選』(太田浩一:訳)]】

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